「こ、答えるって、何を―――」
「僕たちがする質問に、だよ」
竹林の中、影が三つ。
全身を黒で統一した服を着ている男、【クロ】。
その真逆で全身を白で統一した男、【シロ】。
足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪、紅い瞳、頭にはヨレヨレのうさ耳があり、女子高生のツーピース制服を着用している少女、【レイセン】。
彼女は今お尻と掌を地面につけて、腰を抜かしていた。
目の前の凶悪な存在に、恐怖しているからだ。
「それじゃあ質問するよ。【蓬莱山輝夜】と【八意永琳】。この名前に、聞き覚えはあるよね?」
「―――――」
シロの質問に、レイセンの顔が一瞬強張る。大方、「何故彼女たちの名を知っているのか」とでも思っているのだろう。
「沈黙は肯定と考えよう。では次に、君が、『月の兎』である君がどうして地上にいるのか、これについても教えてもらおう」
この質問は、クロならずシロもわかり切っているはずだ。
なにせ、
もっと違う、別の理由があった。
「―――地上が月を侵略しようと、戦争が起こるって噂が、月で出回って……。それで、怖くなって…」
「『アポロ計画』、か」
レイセンがその言葉を放つごとに、言葉や体に恐怖が刻まれていくのを感じた。
『地上の侵略』――。これが差すのは、クロの言った『アポロ計画』のことだ。
『アポロ計画』とは、
「―――それで、逃げたところで宛てはあったの?」
「なかったら、実行していません……」
「で、それが蓬莱人輝夜と八意永琳ってことだよね?」
「――――――」
「で、なんであの二人がいないのかな?」
「―――り、せん」
「―――――」
「わかりま、せん……。どこを探しても、いなくて……」
この言葉に続いて、レイセンはポロポロと言葉をこぼしながら事の顛末を話し始めた。
『アポロ計画』を『地上の侵略』と勘違いした月。その噂が広がり始め、戦争をするのではないかと噂されるまでになった。
戦争が怖くなったレイセンは、月を逃亡。幻想郷に迷い込んだはいいものの、行く当てもなくただただ彷徨っていたところを、【因幡てゐ】に拾われ、現在は雑用としてこの迷いの竹林に住んでいるらしい。
よくよく考えれば、『原作』では彼女は【蓬莱山輝夜】に拾われている。
その拾ってくれるはずの人物がいなければ、残りはその場所に住んでいる者だけ。つまりは消去法でてゐしかいなかったということだ。
それに、家屋が廃屋になっていた理由も今思えば【蓬莱山輝夜】がいないために腐食が進んでいっていたのだ。
それに―――
「藤原妹紅が、何故断末魔の代わりに『輝夜』と呼んだのか、なんとなく分かった気がするな…」
彼女は本来、復讐対象だった輝夜を
だが、それがなくなったため、『復讐』をすることができないためにあそこまで荒れ、復讐することができなかった悔しさから、『輝夜』と叫んだのだろう。
だが、それも過ぎたことだ。あまり気にしないことにした。
「――それで、蓬莱山輝夜と八意永琳は結局どこにいるんだ?」
「それは、私が知りたいくらいです。地上に逃亡したとお聞きしたのに、一度も会ったことがなく―――」
この世界が零夜が干渉する以前が
だが、いないとなると確実に『逃亡』時になにかあったに違いない。
「ふむ……。八意永琳と蓬莱山輝夜。この二人がいないのは、随分と予想外の出来事だったね」
「――ていうか、なんで今来たのに事情を大体把握してんだよ」
シロは到着と同時に状況を即座に理解しレイセンをパラドクスの攻撃から守った。
それは、シロが状況を理解していたと言う他ない。
だが、シロが来たのは今。事情を把握することなど不可能のはずだ。
「忘れたかい?僕の能力」
「あぁ、
「そうそう。情報ならいち早く
少し話した程度で、二人は再びレイセンの方に顔を向け、レイセンは「ヒッ」と小さな悲鳴を上げる。
「とにかく、僕たちの知っている歴史とは、異なっていると言うことだね」
「れ、歴史…?」
「お前、ちょっと黙ってろ」
「すみません!」
二人の語っている内容が理解できないレイセンはその疑問を思わず口に出してしまったが、クロの威圧と殺意によって口を紡ぐレイセン。
「とりあえず、もうここに用はねぇ。帰るぞ」
「(え、帰ってくれるの?よかった~!でも、なんで誰も来てくれなかったんだろう…まぁ今となってはどうでもいいか!)」
レイセンは、二人が帰ると聞いて、心の中で安堵した。
彼女の唯一の心残りは誰も援軍に来なかったことだが、最早それはどうでもよかった。
帰ってくれるに越したことはなかったから。
「あぁそうだね。―――でも、その前に」
シロは顔をレイセンに向け、自らの手をレイセンの頭上に乗っける。
「―――へ?」
「君の持ってる
「――グギッ!!?」
突如、レイセンの頭に激痛が走る。
自らの記憶を、弄繰り回されるような感覚に陥る。脳を凌辱される。そんな不快感が、一斉にレイセンの頭を襲ったのだ。
やがて、その痛みに耐えられなくなったレイセンは崩れ落ちた。
「――なにをした?」
「情報をコピった」
シロは平然にそう言うが、それができない――と言うより、そんなことが普通はできないために、クロは「は?」と呆けた言葉を出した。
シロが言ったことをそのまま言えば「レイセンの頭の中の情報をコピーした」と言うことになる。
レイセンに激痛が走ったかのように見えた、と言うより実際走っていたのはシロが情報を引っ張りだして知識に干渉していた影響だったのかと、納得する。
他人がどのようになっても、無意味な死を遂げなければ、彼は基本的にどうでもいいため、彼はこれ以上なにも言わなかった。
「――なにを複写したんだ?」
「それも含めて、帰ってから話そう。ちょっと、暴れすぎちゃったからね」
「―――?」
「ほら、行くよ」
シロが手を振ると、それと同時にオーロラカーテンが表れ、二人を飲み込み、姿を消していった。
* * * * * * * * *
「お帰り!―――って、そいつもいるの?」
「ちょっと、「そいつ」呼ばわりは酷いなぁ、ルーミアちゃん」
ミラーワールド。
二人が家に帰ると、ルーミアが出迎えてくれた。が、シロを見た途端不機嫌になる。
シロは先ほどの声とは違った男性の声へと変化していた。
声が変わると印象も大分変わるが、彼の場合いつもの服が全身白なので、すぐにわかるのだ。だが、変わったら毎回対応に困るので、それもルーミアが彼を嫌っている理由の一つでもある。
要するに、扱いずらいのだ。
「また声変わってるし……いくつ種類があるのよ」
「僕の声のバリエーションは軽く100を超えるよ?」
「あーはいはい。そんなことより、お帰り零夜!」
シロに対する冷徹な対応とはうって変わり、零夜に対しては温厚かつ色気のある声で帰りを迎えるルーミア。このギャップに、クロ――零夜は困惑するが、「そう言えばもうこれに関しては考えないようにしてるんだった」と考えを切り捨てる。
彼がここまで考えているということは、こういったことが今まで何度もあったのだろう。
「あぁ。とりあえず、お茶」
「分かった!」
ルーミアは満面の笑みで台所へと向かって行く。
「―――僕さ、なにか彼女に嫌われるようなことしたかな?いつも思うんだけど」
「知るか。強いて言うなら
「やっぱりか……」
廊下を歩きながら、台所へと到着し、椅子に座りながら雑談する。
少しすると、ルーミアがお茶を持ってやってきた。
「はい、お茶」
「ありがとう」
「ありがとうね」
二人はお茶を受け取り、それを一斉に飲み干す。
湯呑を置いた二人は、お互いを見つめ合う。
「――で、これからどうするんだ?」
そう、本題に入るのだ。
元々の目的では、『永夜異変』を奪う。ただ単純なことだった。
だが、いくら待っても起きないために、しびれを切らしてこちらから伺ってみたら、まさかの不在。
「彼女の脳から搾り取った情報と、彼女が言った情報に、相違はなかった。間違いなく【蓬莱山輝夜】と【八意永琳】。この二人は『地上』でも『月』でも存在が『逃亡』以降確認できなかった」
「八意永琳の強さは折り紙付きだ。そう簡単にやられるはずがない」
「だからこそ、そこにイレギュラーの介入が存在したはずだ」
「イレギュラーって、あの
話に割り込んできたルーミアは、あの忌々しい
彼女にとっては思い出したくもない存在だが、あれと同類が自分たちと同じ地面を
ちなみに、同類と聞けば零夜も自然的に対象に入ることになるため、彼女の中での『同類』とはあくまで
「まぁそうだね。大抵のヤツは、本能に忠実に行動しているだろう」
「そして、今回もそれに当てはまる。シロ。、情報の整理を」
「任された」
シロは一呼吸おいて、整理した情報を話し始める。
「まず、本来いるはずの【蓬莱山輝夜】と【八意永琳】。この二人がいないと言う異常事態が起きた」
「そしてその原因はおそらくイレギュラーと見て間違いない」
「そこで、連れ去られたであろう場所の候補は二つ。一つは地上。だけど、僕もいろいろと探ってみたけど、そういった場所は見当たらなかった。だからこそ、彼女らは月にいると仮定する」
いつの間にかシロは粗方地上は調べ終えたそうだ。だが、二人がいないとなると、残りの候補は『月』のみ。
「ここでまた新たな可能性が二つ出てくるけど、その内の一つは確実にあり得ない。ちなみに、その可能性とは地上に追放される前に攫われたということ。だけど、【因幡てゐ】が『かぐや姫』の存在を知っている以上、それはありえない」
「そうだ、ルーミア。お前はこの時代でも生きてただろ?何か知らないか?」
零夜がルーミアに問いただす。確かにルーミアは原初の妖怪の一人。今の時代も生きているのだから、『かぐや姫』のことを知っていたとしてもおかしくはない。
「ごめん…。私、昔のことはそんなに覚えていなくて…」
「まぁ、それなら仕方ないよね」
「あんたは黙ってなさい」
「酷ッ!慰めたのに……」
ルーミアは零夜に対しては女性らしく可憐な作法で話したりするが、シロに至っては毒舌だ。
ルーミアはその調子で話を続ける。
彼女が過去のことを覚えていないのは、当時
「ま、こっちの線はダメだってこった」
「そう、だからこそだよ。動かなきゃダメなんだ」
シロの言葉に、零夜は全面的に同意する。
零夜はシロ本人は気に食わないが、こういった局面にはちゃんとした、その場に合った対応をするところは、実に人間的だ。
「―――それで、シロ。お前のオーロラカーテンなら、どこにでも行けるか?」
「お任せあれ。僕ならどこにでも行けるからね」
シロは零夜とは違い、オーロラカーテンを使用してどこにでも行ける。どのくらい使えるかと言えば『仮面ライダージオウ テレビ本編のディケイド』くらいと言えばわかりやすいだろう。
そのくらいの精度でシロはオーロラカーテンを使用できるため、こういった時に役に立つのだ。
「で、問題は、だ。今すぐにでも原因があるであろう『過去』に行くか、できる限り過去の情報を得るために『現代の月』に行くか、どちらがいいと思う?」
「そんなの、もちろん『月』一択だよ」
これには、零夜もシロも考えが一致していた。
もしここまま過去に言ってしまえば、過去になにがあったのか分からず仕舞いのままで情報が不足した状態で『過去』と言う領域に挑まなくてはいけない羽目になる。
だが、今は『現代』だ。準備の支度はいくらでもできる。そのためにまず、『現代』での情報収集。
『過去』は過ぎた出来事だ。その『過去』で何が起こったのか『今』知ることができれば、『過去』での行動の対策も立てやすくなる。
二人の中で、次に行く場所が『月』だと決まったときだった。
ここでひと段落つき、零夜は唐突にあることを思い出す。
「そうだ、シロ」
「なんだい?」
「俺のこと、『クロ』って呼んでたけど、あれはなんなんだ?」
レイセンを守った際、零夜のことをシロはクロと呼んだ。
何故ああ言った呼び方をしたのか、零夜は気になった。
「あぁ。人里で、そんな呼び方がされているからね」
「人里で?」
「なんでも、黒服の【究極の闇】と、白服の【究極の闇】がいるから、区別をつけるためだってさ」
「黒ウォズと白ウォズみたいだな」
「黒ウォズ?白ウォズ?」
「ルーミアちゃんは知らなくていいよ」
クロと呼んだ意味は、区別のためだったらしい。
零夜も零夜で、区別をつけるためだとしたら、そういったものなら別に構わない。これからは互いのことをそう呼ぶことになりそうだと、頭の中にそうよぎる。
「――――さて、雑談は終わりにして、決まりだな」
「決まりだね」
二人は同時に立ち上がり、同じタイミングで言葉を続けた。
「「それじゃあ早速―――」」
零夜「月に行くためにまずは策動するか」
シロ「派手に月を襲撃しようか!」
ルーミア「―――――」
「「「―――――ん?」」」
感想お願いします。
零夜の家でのシロの声 イメージCV【三木眞一郎】