「―――んー……空気が薄い」
「―――――」
「そう、でも息吸えるわよ?」
「それは僕が空気の結界を張ってるからね」
彼ら
理由は単純。【蓬莱山輝夜】と【八意永琳】の居所を知るためだ。
何故、こうなったのかと言うと―――
* * * * * * * *
「おい、どうしてそうなった?」
「え?」
時間は遡り、零夜宅。
二人の意見違いに、首を傾げるルーミアと、にらみ合う零夜とシロ。
「いや、もう潜伏しながら移動とか、面倒臭いからさ、もう派手にドカーンって」
「お前はバカなのか?」
これは流石に零夜の意見に部がある。
『月』。どこは東方projectの世界において、とてつもなく危険な場所である。
どのくらい危険かと言えば、アリがゾウに戦いを挑むくらい危険で無謀だ。月とはそのくらい強者が多いのだ。
事実、『原作』でもあそこでは実質的最強スキル『主人公補正』すら効かない相手だっているのだ。そんな場所に無策で突撃するとは、バカの所業でしかない。
シロのこの発言も、自分が圧倒的強者であるが故の発言だ。
確かにシロなら、謎の能力を用いて圧倒的力によるゴリ押しを可能とするだろう。だが、それでも不安要素は大量にある。
「お前は強すぎるからそんなこと言えるんだ。月には不安要素が多すぎる」
「そこら辺は大丈夫」
「なにが大丈夫だ。あっちには神の力を使うヤツだっているんだぞ」
月には、神の力を使う者が存在する。
神の力はその比ではなく、とてつもない力の持ち主だ。神と言うのは基本的に何かを司っている。その何かを司る神の力を使い放題の存在が、月にいるのだ。油断しないワケがない。
それに、その月を取りまとめる存在も神だ。闘いとなれば、面倒くさいだけだ。
「神相手でもお前の能力なら問題ないかもしれないが、俺はどうする。神を相手にするなら、それ相応のリスクが存在するライダーにならないと、話にならない」
「大丈夫だよ。僕も、君も、神相手なら問題ない」
「その自信はどっから―――「とにかく、問題ないから」
その時のシロは笑っていた。いや、肝心の顔は隠れていて見ることはできないが、それでも笑っているように、零夜には見えていた。
だが、神を相手に自分と零夜は大丈夫だと、その自信は一体どこから湧いてくるのか、零夜にはわからず困惑していた。
神とは、大抵何かを司っている。そして『月』にはその何かを司る神の力をいくらでも使用することのできる存在がいるのだ。
それに、その『月』を収めている神も、強力な力の持ち主だ。この戦いは一筋縄ではいかないことは分かり切っていることだ。
第一、できれば戦いたくないと言うのが零夜の意見だ。わざわざそんな強力な力を持つ存在と連続で戦えば、体力消耗は必須。そんな今後に響くことをするほど、バカではない。
ただ、シロの謎の能力を用いれば、簡単に事を運べるだろうが、そんな他人の力で活路を見出すほど零夜は落ちぶれてはいない。と、いうより、できれば他人の力は借りたくないと言うのが、彼の意見だ。
「神の力は強力なんだ。できれば戦わずに事を進めたい」
「おや、負け惜しみかい?」
「違う。俺の能力とライダーの力は別物だ。途中で体力尽きました、なんてことなったら洒落にならないからな」
シロから挑発じみた言葉を受けるが、零夜はそれをすらりと受け流す。
「まぁ確かにそうだね」
「だったら、潜伏しながら言ったほうが「でも駄目だ」は?」
「悪いけどさ、この作戦じゃないといけない理由があるんだ」
「は、なんだよそれ?」
「―――ちょっと、月でトりたいものがあってね」
「取りたいもの?」
シロの言葉に、零夜は首を傾げる。
シロが欲しいものとはなんだろうか?頭で考えるが、やはり想像がつかない。
「まぁここは僕の我儘を聞いてはくれないだろうか?大丈夫、ちゃんと対策くらいはしてあるからさ」
「―――分かった。だが、俺は極力戦闘は避けるからな。俺はまだ死ぬわけにはいかねぇからな。目的もまだ途中だしな」
「君が臆病風に吹かれてるのか、そうでないかは知らないけど、頭の片隅くらいには入れておくよ」
「―――――」
* * * * * * * *
そして、現在。
三人は月にいた。
「――――」
「どうしたんだい、クロ。何か不満なことでも?」
「本当に大丈夫、零y―――クロ。どこか具合でも悪いの?」
「悪いもどうもこうもねぇよ……」
今の零夜は、二人から見ても機嫌が悪そうだった。
二人からの心配を受けた今でも、零夜の異常は止まらなかった。
そして、大声で叫んだ。
「なんでルーミアがいるんだよ!?」
そう、何故か『月』にルーミアも同行していたのだ。
彼女の立場は一応『捕虜』だ。だが、それなのになぜか、何故かここにいるのだ。疑問に思わない方が可笑しい。
「―――君が寝ている間に決まった」
「それを俺が許すワケねぇだろ!!」
シロの軽々しい発言に、零夜は怒りシロの胸倉を掴む。
「まぁまぁこれにはちゃんとした理由があるんだって」
「理由だと?」
「彼女には、雑魚狩りをしてもらおうと思っているんだ。つまりは
「――――理屈は分かった。だが、何故それを俺に言わなかった?」
ルーミアを捕虜として捕らえたのは、零夜だ。
つまりは彼女の移動権限は彼にある。だが、そんな彼に何も言わずに勝手に決めたことに、零夜は怒っているのだ。
「君に言ったら確実に止めに入る。この作戦を確実に成功させるためには、彼女が陽動に入ってくれれば、作戦の成功率は格段に上がる」
「―――――」
「分かってくれないかな?」
「―――――」
「零夜」
突如、ルーミアから声を掛けられ、そちらの方を向く零夜。
「お願い。絶対、邪魔にはならないから」
「そういう問題じゃ――――………あぁークソ!連れてきちまったのはしょうがねぇ!ただし、絶対に邪魔すんじゃねぇぞ!」
「―――分かったわ。任せて」
ルーミアの決意を聞き、仕方ない、とシロの胸倉から手を放す。
実際、連れてきてしまった以上、帰らすのは面倒だ。
連れてこられた時点で、この事案は可決するしかなかったのだ。
「―――それで、どうするんだ?」
「簡単だよ。まずはあちら側に、僕たちの存在を気づかせる」
そう言い、シロは虚空から一つの剣を取り出した。
その刃は銀色の輝き、刀身と持ち手の中心―――紫色のエンブレムが禍々しく輝いていた。
「なんだ、その剣は?」
「僕専用の『聖剣』さ。とある世界のものを複製&改造したんだよ」
「『聖剣』っつーより、『魔剣』に見えるんだな」
「はは、それは言わないでくれたまえ。さて、と……」
シロはその『聖剣』を天へ掲げると、同時に紫色の波動が、星空全体に広がる。
「―――何をした?」
「今に分かるよ」
紫色の波動が広がっていったその数秒後、猛々しいほどの大音量が、月に響いた。
おそらくは、警報の
「本当に俺達の存在が知れ渡ったな…。なんかの攻撃か?」
「別に、ただ単に『穢れ』を蔓延させただけさ」
『穢れ』。『穢れ』とは、『生きること』と『死ぬこと』である。つまりは『寿命』。
その『寿命』を持つことを、『穢れている状態』とされている。
月人は、『月』は『
『浄土』は穢れのない土地と言う意味であり、『穢土』は穢れている土地と言う意味である。
そして、今シロはその『穢れ』を故意的に蔓延させたのだ。
月の民は、『穢れ』を
あの大音量こそが、そのセンサーが『穢れ』に反応したのだろう。
「やっぱ、それ『聖剣』じゃなくて『魔剣』だろ」
「言わないでくれよ。――――以外と早い到着だったね」
三人の目の前には、大量の兵士たち。
兵士たちの鎧は統一されており、中華風の鎧を身に着け、腰には巾着のようなものを所持している。そして、武器は主に刀身が輝いている剣、槍がほとんどで、ちらほらと『銃』を所持している兵士たちもいる。
「水準は、この世界からすればまぁまぁ高い方だね。『本来の歴史』でも、月の都の技術は現代を超えている」
「現代の技術よる上なのは、ライダーの力だって同じだ。俺は突っ走るが、お前らは?」
「私は予定通り、ここで雑魚どもの相手をしているわ」
「それじゃあ、クロ。ルーミアちゃんの力、解放してくれないかな?」
「―――――分かった」
零夜はルーミアの力を解放することを渋ることなく、すんなりとルーミアの力を解放した。
それと同時に、ルーミアの体が闇に包まれる。
「―――全盛期、とは言えないわね」
「解放したと言っても一部だけだ」
「ケチだねぇ。君も」
「全開に解放したら封印が無意味になるだろ。本当に危険なときしか全開放するつもりはねぇ」
「まぁ、私もそれで大丈夫よ」
「まあいいか。それじゃあ僕もクロと同じく突入するよ」
それと同時に、零夜の後ろにオーロラカーテンが出現する。
一定の範囲を通過すると、そこから一機のバイクが出現する。
全身が黒、赤、黄金の三色で統一され、頭部にクワガタを模した二本の角が装備されている。
このバイクの名は、【ビートチェイサー3000】。歴代ライダーの中でも、最強の防御力を誇っており、出せる速度も普通の比ではない。
最強のバイクと言っても過言ではないバイクを、零夜は所持していた。
零夜はビートチェイサー3000にまたがり、エンジンをつける。
「それじゃあ、任せたぞルーミア」
「任せといて」
「それじゃあ、行こうか」
「地上の民よ!武器を捨てて手を上げろ!そうすれば八割殺しで勘弁して―――グハァ!」
隊長格であろう人物が、何かを言いかけたが、その瞬間に零夜の乗るビートチェイサーが通過し、隊長の男を吹き飛ばす。
その後ろに居た兵士たちをも掻き分け、零夜は前へ前へと進んでいった。
「で、シロ、あんたは―――って、すでにいないし」
ルーミアが隣にいたはずのシロへ語り掛けるが、すでにシロはその場にいなかった。
おそらくは零夜とともにあの兵士たちの中を駆け抜けたのだろう。
「全く、二人して仕事が早いわね」
「く、クソ!総員!地上の民を追「させるワケないでしょ!」」
ルーミアは自身の能力で闇の剣を作りだし、薙ぎ払らった。闇の力により抉られた地面を見る。ルーミアが月の兵士たちの眼を見ると、その目は二種類。闘志に燃え盛る眼と怯える眼。この二つの眼があった。
この時点で、勇敢な者と、臆病者、この二種類の人間に分けられたのだ。
「貴方達の足止めは、私の役目。私と遊んでいなさい」
「クソがッ!穢れた存在めが!私たちの邪魔をするなど片腹痛いわ!皆の者、あの者を無力化せよ!我ら月の民を侮辱した罪、その身に刻み込んでやるわ!!」
「「「「「うぉおおおおお!!!!」」」」」
隊長格の言葉により、士気が上がったのか、兵士たちは一斉にルーミアへと突撃した。
士気者としての能力でもあるのだろうか?怯えていた者たちが、一斉に闘志に震え上った。ならば、ルーミアが狙うはただ一人、隊長格の男のみ。
一対多数。普通の目から見れば絶望的な状況の中、ルーミアはシロから言われた言葉を思い出していた。
『殺しちゃってもいいよ』
シロから受けた、一言。
この一言が、ルーミアの容赦の一切をなくしたのだ。嫌っている相手に指図されるのは少し癪だが、それでも、彼のためになるのなら―――
「来なさい!皆殺しにしてやるわ!!」
* * * * * * * *
月の地面を、一台のバイクが疾走する。
「―――シロは、問題ないとして、ルーミアは問題ないか?」
目的地へと走る最中に、そんなことを口走る。
彼女はシロが勝手に連れてきたとは言え、一応は『捕虜』と言う立場だ。何かあったら面目が立たない。
だが、闘いが始まってしまった以上、どうこう言っても仕方がない。
このまま成り行きが良くなるまで、動くしかないのだ。
「もうちょいスピード上げるか!」
ノロノロとしている暇はない。できれば一刻も早く月の都へと向かわなければならない。
零夜としては考えて行動したかったが、もうこうなってしまった以上、力によるごり押しが一番よかったりするのだ。
さっきだって、スピードによる強行突破で難なく切り抜けたのだ。
できれば、このまま何事もなければいいのだが―――
「ッ!!」
―――やはり、そう簡単にはいかせてくれないようだ。
突如、零夜の目の前の地面が抉れながら、風のようなものが向かってきているのが認識できた。
それを避けるために自身の目の前にオーロラカーテンを発生させ、攻撃範囲外へと移動する。
そのまま地面は風とともに抉れていき、零夜が走っていたところにすぐさま到達していた。
あと一秒、行動が遅れていたら、塵一つ残っていなかっただろう。
「止まりなさい、地上の民」
目の前にいたのは、可憐な声の美女。
腰ほどもある長さの亜麻色の髪と金色の瞳。服装は長袖で襟の広い白いシャツのようなものの上に、左肩側だけ肩紐のある、青いサロペットスカートのような物を着ている女性が、片手に『扇』を持って佇んでいた。
そして、その後ろには大量の制服とヘルメットを着用した、うさ耳の少女たちが、武装をしていた。
さらに零夜には、この少女たちの『種族』に見覚えがあった。
あの特徴的な頭のうさ耳は、間違いなく、【レイセン】と同じ種族、『玉兎』だった。
「通行止めか。―――一度しか言わねぇ、そこを通せば命だけは助けてやる」
「それはこちらの台詞よ。素粒子レベルで浄化されたくなかったら、すぐに死になさい」
彼女は、零夜の殺気混じりの脅迫まがいの忠告を、またさらに高圧的に返した。
「同じ意味の言葉しか発することができないのか?お姫様?」
「―――穢れた罪人ごときが…!」
金髪の美女は、顔を顰めて
零夜の挑発に、後ろの玉兎たちも癪に触ったのか、一斉に零夜に向けて剣銃を向ける。
「総員、あの地上人を殺しなさい!」
彼女の命令により、一斉に光の光線が、零夜へと向かって行き、直撃する。
衝撃により砂埃が舞い、前が見えない状態だ。
「さて、『穢れ』を浄化しないと――」
『なにを、浄化するって?』
「ッ!?」
砂埃の中から、声が聞こえた。
だが、その声は先ほどの男の声とは違う、また別の声だった。
砂埃が晴れていき、『ソレ』は姿を現した。
白と黒の体色に、体に描かれた彫刻のような複雑なモールド。特徴的な頭の尖り。流星の形をした複眼。下半身のラインが、赤く染まっている。
右肩にはFOURZEと英語が、左肩には2011の数字が刻まれている『化け物』。
その『化け物』を見た玉兎たちは、震え上る。
先ほどまでは普通の人間だったものが、一瞬にして異形の『化け物』へと変化したのだ。驚愕しない方が可笑しい。
「フッ。そんな『怪物』のような姿になるなんて、地上の民はしばらく見ないうちに、とても醜い存在になったのね」
『すべてがそうだ、って言う訳じゃねぇ。俺が特別なだけだ』
「そんなことは関係ないわ。要は単純。あなたを始末すればいいだけの話―――」
『出来るかな?―――せっかくだから名乗っておこう。俺の
「『紛い物』…。いい響きじゃない。気に入ったわ。地上の民も、所詮月の民の『紛い物』。見た目などが同じだけであって、本質は天と地ほど違う。面白いわね」
『――――』
「特別に、私も名を名乗ってあげる。私の名前は【
彼女―――綿月豊姫は手に持った扇を閉じ、その扇子でアナザーフォーゼを指した。
その顔は先ほどと変わらずの、見下げ、見下している眼だった。
『―――――』
アナザーフォーゼは知っていた。月の民の『傲慢』な姿勢のことを。
『穢れ』ていると言う理由のみで、地上に蔓延る生命を、侮辱するその考えを、知っていた。
不愉快だ。この一言しか出てこない。
『気に入らない、その目。お前の、お前等のすべてが不服だ、不満だ、不快だ、不愉快だ。―――決めた。お前の五感、すべてを黙らせる』
「戯言もいいところね。まずは小手調べと行こうかしら。行きなさい、私の可愛い
豊姫の命令に従い、玉兎たちが一斉にアナザーフォーゼへと突撃する。
一人の玉兎が銃口の先についている刃をアナザーフォーゼに突き立てる。
アナザーフォーゼはその刃をそのまま自らの拳でへし折り、もう片方の手でその玉兎の腹を殴る。
「うぐ…ッ!」
腹を殴られた玉兎の疼きが小さく響く中でも、他の玉兎たちの攻撃は止まない。
それどころが、倒れた玉兎を踏みながら前進していた。
『―――?』
その光景に、アナザーフォーゼは不信感と不快感を抱いた。
玉兎は仲間意識も確か強かったはずだ。同じ階級故に、意気投合することだってあるはず。
今倒した玉兎は、特別周りから嫌われているのだろうか?
だが、そんな疑問もアナザーフォーゼの次の行動で掻き消えた。
アナザーフォーゼが腰のベルトのようなものを操作すると、アナザーフォーゼの左足に半透明のホッピングと、右手に鎖付き棘鉄球の【モジュール】が装備される。
ホッピングのバネの跳躍力で空高く飛び、空中回転と同時に右手を回し、棘鉄球を地面を抉りながらぶん回す。
「うわぁー!!」
「逃げ――!」
「助けt――!」
回転と同時の攻撃。
この凶悪な攻撃に玉兎たちから阿鼻叫喚が響く。
この攻撃でさまざまな怪我をしている玉兎たちが目視できる。手や足など、四肢の一部を失ったもの、一部に足らず二か所以上失ったもの、体の大部分が抉れたものなど、大けがをしている者が多数いた。
―――それだというのに。
「攻撃を続けなさい!」
豊姫の指示が入り、玉兎たちが怪我をした玉兎たちを無視してアナザーフォーゼへと光線を発射する。
体を逸らしながら攻撃を避ける中、アナザーフォーゼは考えた。
『こういうことかよ、不信感と不快感はそういう意味か!』
目の前の事実に憤怒し、アナザーフォーゼは半透明の【メディカルモジュール】と【ペンモジュール】を起動させ、メディカルの力で怪我をした玉兎に『コズミックエナジー』が凝縮した薬品を注射器ごと投げる。
それがすべて大怪我をした玉兎たちに当たり、中の液体がすべて玉兎たちに吸収されていくと同時に、怪我をしたところがジワリジワリと治癒していくのを、その目で確認した後――。
『おらッ!』
右足のペンモジュールを振り回し、怪我をした玉兎たちを中心に特殊インクをまき散らす。
この特殊インクは何かに付着した瞬間に硬質化する性能を持っている。このインクをまき散らすことによって、玉兎の無力化に成功する。
所々無傷の玉兎も巻き込まれているが、それは良い意味で結果オーライだ。
アナザーフォーゼは地面に着地したのち、その禍々しい複眼で豊姫を捉える。
『てめぇ…。玉兎たちを本物の奴隷のように扱ってやがるな…』
「それが、どうしたと言うのかしら?」
豊姫の肯定の言葉が静かに響く。
確かに、玉兎たちは月では奴隷階級だ。だが、労働内容はほんの軽いものに過ぎないと『設定』に書かれている。事実、それをアナザーフォーゼ―――零夜は知っていた。
だが、現実はどうだろうか?玉兎たちが怪我をした玉兎を物理的に踏みにじっていたのもこれで納得がいった。
月の民は、玉兎を本物の奴隷のように扱っていた。
奴隷はモノだ。物だからこそ、いくら怪我をしようが関係なかったのか。そして、それを仲間の玉兎に強要していたのだ。
「玉兎は所詮、奴隷に過ぎないの。だから、私たちがどのように使っても問題ないでしょう?」
『――――』
――違う。
彼女は、綿月豊姫じゃない。いくらなんでも、零夜の知っている豊姫とは違いすぎる。
彼女は豊姫じゃない。―――『トヨヒメ』だ。
「さて、もうお話はいいかしら?玉兎たち、なにをグズグズしてるの!さっさと行きなさい!」
トヨヒメの脅しとも受け取れる指揮に玉兎たちは怯えながらも了承する。
再び、光線を連続でアナザーフォーゼに撃ち込んできた。
顔を伏せ、攻撃に当たりながらも、そのまま突き立ったままのアナザーフォーゼ。
―――そして、伏せていた顔を、上げた。
『――――まずは全体的に無力化させるか』
右腕に半透明の【ロケットモジュール】を装備し、右腕を突き出すことによってロケットを砲弾のように撃ち込んだ。
着弾地点で大爆発を起こし、玉兎たちが宙に舞う。
半透明の【マジックハンドモジュール】を起動させ、宙を舞った玉兎たちが手放した剣銃を一斉に掴み取る。
奪った武器を一斉に自分の方へ持っていき、自身の上空にてばら撒く。
ばら撒いた後、半透明の【ハンドモジュール】を起動させ、モジュールが自動で動き地面に落ちようとしている多数の武器に向かって行く。
一つ、また一つと移動し、やがてその動作が止まった。
武器が地面に落ちると同時に、バラバラになった。別こ壊れたところなどない。それどころが、ネジの一本一本が綺麗に外されていた。
ハンドモジュール。このモジュールは精密な動作を可能とし、精密機械などの分解などに適しているモジュールだった。
『これで、お前たちの攻撃手段はなくなった』
そう言いながら、地面にばら撒かれた武器の部品を踏み潰す。
武器さえなくなれば、玉兎たちの攻撃手段はなくなる。これで、玉兎たちはなにもできない。
「―――使えないわね」
そんな中、トヨヒメの侮蔑の声が聞こえた。
それはとても人に向けるようなものではない、侮辱の目だった。その目を見た玉兎たちは、心の底から怯えているように見えた。
一体、なにがどうしてこうなったのか、アナザーフォーゼには理解できなかった。
「まぁいいわ。あなたたちには期待していないもの。それに、時間稼ぎくらいの役目は果たしたことは褒めるに値してあげるわ」
『―――時間稼ぎ?』
アナザーフォーゼがその言葉に困惑すると同時に、トヨヒメが手を挙げた。
「――来なさい、兵士たち!」
トヨヒメの叫びとともに、彼女の後ろから無数の兵士たちが出現する。
まるで、瞬間移動をしてきたかのように一瞬の出来事だった。
兵士たちは零夜たちが最初に出会ったときと同じ中華風の格好をしており、それぞれがそれぞれの武器を構えていた。
そして、中でも別格だと思えるものが数人。おそらくは隊長格の月人だろう。
「使えない玉兎の代わりに、彼らがあなたの相手をするわ」
「豊姫様。報告で聞いております。あの穢れた化け物風情を討ち取ればよいのですね?」
大剣を持った一人の隊長格の男が、トヨヒメにそう問いかける。
相変わらず、月の民らしい傲慢な発言だ。だが、アナザーフォーゼは本物の『化け物』。否定できる要素など一切ないので、特にアナザーフォーゼはなにも言わなかった。
「えぇ、そうよ。玉兎たちは使えなかったけど、あなたたちなら、特に問題はないわよね?」
「はい。玉兎などと言う『奴隷』ごときと我らは天と地ほどの差があるゆえ。無礼を承知で言えば、あんな下膳の輩と一緒にされては、我々も―――」
「分かった。もう大丈夫よ。玉兎が役立たずなのは知れたことだから。でも、言葉より結果で示してもらった方が早いわ。【
玉兎のダメ出し祭とも言えるだろうか。トヨヒメと隊長格の男は玉兎たちをとことん侮辱しまくっている。
それを聞いている玉兎たちは、何も言わない。否、何も言えないの方が正しいだろう。
なにせ、圧倒的な差があるのだから。
『―――――』
それを見て、アナザーフォーゼも怒りを露わにしていた。
言葉に表すのなら、『理不尽』に対する怒りだ。その怒りを、攻撃にのせ―――
二対の銃口が、地面に直撃する。
その一撃だけでは飽き足らず、次々に攻撃が放たれる。兵の列に直撃し、悲鳴が上がる中、隊長格の月人たちはスンとした顔でそれを完全にスルーしていた。
攻撃の一部が、トヨヒメに向かうも、近くにいた男が前に立ちはだかる。
「『
背中の大剣を引き抜き、地面に突き刺すと同時に、目の前が炎に包まれる。
エネルギー弾が炎の中に突入すると同時に、燃焼していくのが目視できた。
どうやら、あの男の能力は炎を操る能力なのだろう。
「おのれ化け物風情が!我らが姫を狙うとは、何たる悪質な所業!皆の者、あの化け物風情を討ち取るぞ!」
男の叫びに共鳴し、兵士たちが叫ぶ。
それを見たアナザーフォーゼは―――。
『てめぇら、まとめてぶちのめす!!』
猛々しく叫び、まっすぐ疾走すると同時に、月の兵士たちも突撃する。
今にて、『零夜』対『月』の戦いが、本格的に始まった瞬間だった。
* * * * * * * * *
「―――――――」
月の都の、どこか。
そこには、二人の女性が、頭の上に手を上げた状態で分厚い手錠をさせられ、拘束されていた。
「―――誰か、助、けて…」
そして女性は、かすれた声で、誰かもわからない不特定の人物に、助けを求めた。
感想お願いします。