東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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24 零れ落ちる炎

クロー オン!

 

 

『はぁ!』

 

「ふんッ!」

 

 

 半透明の鉤爪と、巨大な大剣がぶつかり合い、音が反響する。火花が散り、消えると同時に再び武器が衝突しあう。

 アナザーフォーゼは空中にて大剣の攻撃を捌いていた。大剣が【クローモジュール】とぶつかり合った瞬間に体をねじらせ回転させる。そしてまた攻撃を繰り返すと言った方法で、空中回転を維持し、上空と言う少し有利な場所を取っていた。

 上空を取れば有利になる理由、それは上空から狙えば、敵の体の全体像が見え、体の動きを把握することができ、攻撃のある程度の予測を可能とするからだ。

 現に、アナザーフォーゼはその方法で大剣の大振りな攻撃を捌いている。

 

 だが、相手の方もただ者ではなかった。

 敵の使用している大剣は、刀身だけでも約2mほど。それほど大きな武器は使用者が限られる。使用者もそのくらいの身長がある故か、使用が可能なのだろう。

 そして、剣撃(けんげき)の速度もかなりのものだ。

 隊長格の男はこれほど大きな大剣を、通常サイズの片手剣を振るっているような速度で振るっているのだ。その筋力は異常であることが確認できる。

 大剣と言う一撃必殺系の武器をこれほど多様に使用できるなど、普通の者ではない。

 

 

「どうした化け物!その程度か!?」

 

『こんなの、小手調べ程度だ!』

 

 

エアロ オン!

 

 

 アナザーフォーゼの左足に半透明の【エアロモジュール】が装備される。

 それと同時に周りの大気を大量吸引・凝縮し、一斉に放出する。

 

 

「むぅッ!?」

 

 

 男は突然の強風に驚きながらも、足腰に力を入れ、踏ん張る。

 大剣を地面に刺して固定すると言う方法もあるが、その隙に急所()を攻撃されてしまえば元も子もない。それ故に、己の力で耐えるしかないのだ。

 だが、男は次の瞬間目の間の化け物の行動を目にして驚愕した。

 

 

『ふッ!』

 

 

 アナザーフォーゼは風の反作用の力を利用し、その場から離脱したのだ。

 「逃げる気か…!」と男は激怒の声を上げようとしたその瞬間、男の目の前に大量の矢が降って来た。

 その光景に男は驚きながらも、違う方向を見ると別の隊長格の男が弓を上空に向けて構えていた。

 

 

「遊ぶな、我ら【ヘプタ・プラネーテス】が、穢れた地上人が化けた程度の化け物に遅れを取るな」

 

「ふざけるな!この程度の相手、私一人で問題ない!」

 

『ヘプタ・プラネーテス?』

 

 

 突如謎の単語が出てきたことに困惑するアナザーフォーゼ。

 何かの単語だろうか?それが何を意味するのか、それが分かれば相手のことを少しは理解できるかもしれない。

 それに、『我ら』と言う単語を使っていた時点で、それが何らかの『組織』名であることは確かだ。

 すぐにでもその意味を調べたいが、今は戦闘中だ。いまするべきことではない。

 

 

ガトリング オン!

 

 

 左足に半透明の【ガトリングモジュール】を装備し、連続で銃弾を放つ。

 乱雑に撃ったために、焦点が絞られず、目標は多数にわたった。

 

 

「ぼ、防gyゴブッ!」

 

「か、回避しベビッ!!」

 

「あぁああ!!」

 

 

 兵士たちの悲鳴が響く。

 回避や防御手段がないのか、前方の兵士たちが一瞬にして肉片と化す。

 だが、後方の兵士たちはなにやら機材を準備していたようで、それが半透明の膜を作って銃弾を防いでいた。どうやら、前方の兵士たちが肉壁の役割をしていたことで、設置の時間を稼げたのだろう。

 

 

「――――」

 

「クソっ!化け物風情が…!」

 

「まぁ兵士たちがいくら死のうが、私たちはどうでもよいことなのですがね」

 

「さっさとあの穢れた化け物をぶっつぶすぞ!」

 

 

 四人の隊長格の男は、全員無事だ。だが、死んだ兵士たちのことをなんとも思っていない当たり、人間性が伺える。

 そして豊姫だ。彼女は能力を用いて弾丸から逃れたらしい。アナザーフォーゼは彼女の能力を知っているため、彼女の能力の厄介さを理解している。

 一番恐れているのは、彼女が能力を使用することだが、今の流れでそう言った動きはしていない。

 彼女を警戒しながら、目の前の敵を倒すことに専念する。

 

 

ジャイアントフット オン!

 

 

 右足に半透明の【ジャイアントフットモジュール】を装備し、地面に叩きつけると、大剣の男の上空に巨大な半透明のジャイアントフットが現れ、男を踏み潰そうと落ちてくる。

 

 

「ふんッ!」

 

 

 男は自身の頭を守るように大剣を持ち上げ、押し寄せてくる攻撃から身を守る。

 男が踏ん張ると同時に、男の立っている地面にヒビが入り、割れる。

 

 

「がぁあああああ!!」

 

「情けないにほどがある!」

 

 

 隊長格の一人が軽くジャンプすると突如、水のように体が液状化し空中を(ただよ)いながら男をその身で包みこみジャイアントフットの攻撃から逃れた。

 

 

『―――』

 

「これだからお前はダメなんだ。今回の作戦は共同だと言われているだろう」

 

「だが―――ッ!」

 

「【プロクス】。いい加減にしなさい」

 

 

 冷徹で、冷淡な声が響く。

 その声の主は、【綿月豊姫】――否、『トヨヒメ』だ。彼女は口元を扇子で隠しているが、一番冷たいのその目。どこまでも冷めて、(さげす)んだ目だ。

 その目に、委縮する大剣男―――名は『プロクス』。プロクスはトヨヒメの『叱り』によって、完全に萎えていた。この中(月の軍団)で、この中で圧倒的強者は、トヨヒメのみ。

 下の者が上の者に従うのは当然のことだが、今の場合では完全な力による支配のように見える。

 

 

「あなたが強いことは私も知っているわ。だけどね、今回はチームで戦うように言われてるわよね?あなたの独断が、許されるとでも思っているのかしら?」

 

「め、滅相な!そ、そんなことは…!」

 

「だったら黙って私の命に従いなさい。プロクス。あなたは他の三人と一緒にあの地上人を倒しなさい」

 

「ははッ!!」

 

 

 プロクスはトヨヒメの命に従い、アナザーフォーゼから一時離れ他の二人と合流する。

 そして、各々がそれぞれの武器を構える。

 プロクスは大剣を。

 水となった男は片手剣――レイピアを。

 もう一人の男は三又の槍を。

 最後の一人は弓を所持していた。

 

 

『余興は終わったか?』

 

「ほざけ。余興などではないわ」

 

『あっそ。じゃあさっさとかかってこいよ』

 

「そうさせてもらおう。そして、名乗ろう。我は『火』のプロクス!」

 

「私は『水』の『ヒュドール』!」

 

「私は『海』の『タラッタ』!」

 

「俺は『木』の『デンドロン』!」

 

 

「「「「我ら『ヘプタ・プラネーテス』の四人が、お前を滅ぼす!!」」」」

 

 

『やってみろ!!』

 

 

 『ヘプタ・プラネーテス』と、アナザーフォーゼの激闘が、今、繰り広げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

 

 『水』の『ヒュドール』と名乗った男が、その肩書のごとく腕を水と変化させてそれを先端の尖ったレイピアに包み込み、、アナザーフォーゼへと突き出す。

 アナザーフォーゼはそれを体を逸らして避け、拳を叩き込むが、ヒュドールの体が水と化し、その攻撃が避けられ――すり抜ける。

 

 

『ちッ!』

 

 

 ヒュドールの能力は、自身を水にすると見て考えた方が良いだろう。

 ヒュドールの能力は、ウィザードの『リキッド』や『バイオライダー』と言ったライダーの能力と酷似している。

 体を液状と化して一切の物理攻撃を完全無視する手段。これ以上に厄介なことがあるだろうかと言うほど面倒くさいのだ。

 

 

『ッ!』

 

 

 突如、背中の方に悪寒を感じたアナザーフォーゼは後ろを振り向き―――

 

 

シールド オン!

 

 

 左腕に半透明の【シールドモジュール】を装備し、背後の悪寒の原因を退ける。

 シールドモジュールにカンカンッ、と独特な金属音が響く。

 そのなにかが地面に落ち、それを見るとそれの正体は矢だった。

 

 

「くそッ」

 

 

 矢を放ったのは、『木』の『デンドロン』と名乗った男だった。

 と言うか、弓矢を所持し使用しているのは彼しかいないので、考えるまでもなかったが。

 

 

『弓矢……なんで弓矢を使ってんだ?』

 

 

 それに、何故銃などが存在している月で弓を使用しているのかが不思議なところだ。

 が、人にはそれぞれのスタイルが存在するため、とやかく言うつもりはない。

 それに、見た目はただの原始的な矢だとしても、なんらかの能力が付与されていると考える以上、当たるのは愚策だ。

 

 

チェーンソー オン!

 

 

 右足に半透明の【チェーンソーモジュール】を装備し、ジャンプする。空中回転して、最後の一人――『海』の『タラッタ』だ。

 タラッタに向けてチェーンソーモジュールを振り回す。タラッタは装備している三又の槍でそれを受けとめる。

 そこでチェーンソーの刃を回して、槍を断ち斬ろうとするが、傷一つ付かなかった。

 

 

「そんな装備で、俺の武器を破壊できると思うなよ!」

 

 

 瞬間、タラッタから大量の水が発生し、アナザーフォーゼを飲み込んでうねっていく。

 タラッタは自身が出した水に乗り、まるでサーフボードに乗っているかのように爽快に波を滑っていく。

 

 

「波は俺の遊び場!なければ作るまで!!」

 

 

 そのまま槍をアナザーフォーゼに突き、アナザーフォーゼは水の中で悶える。 

 波の勢いが合わさった貫通攻撃は強力だ。いくら変身しているとはいえ無傷では済まなかった。

 

 

『だったら…!』

 

 

スクリュー オン!

 

 

 左足に半透明の【スクリューモジュール】を装備し、荒れる水中を波に従って移動する。

 ここで逆らえば、体にダメージがいくために、あえて従う。身体が不自由になるよりはマシだった。

 

 

「移動したところで無駄だ!ヒュドール!!」

 

『なにッ!?』

 

 

 タラッタがヒュドールの名を呼ぶと、突如アナザーフォーゼの体に痛みが走る。

 なにが起きたと考えたが、すぐにその理由は分かった。今攻撃してきているのはヒュドールだ。

 ヒュドールは体を液状化する能力者だ。この荒れる水の中に侵入して、体を自由自在に変形して攻撃してきているのだ。

 

 

エレキ オン!

 

 

 半透明の【エレキモジュール】を装備し、水中の中で電撃を発動させる。

 

 

「うわぁ!!」

 

 

 水に電気が通り、水中からヒュドールが排出された。

 今の攻撃は、エレキモジュールによって水に電気を流して、水となっていたヒュドールに直接攻撃をしたのだ。

 だが、今の攻撃は牽制程度にしかならないため、あまり意味はなかった。

 

 

『(一気にここから抜け出す!)』

 

 

 スクリューモジュールのエネルギーをフル回転させてスクリューの回転速度を最大まで上げる。

 

 

ボード オン!

 

 

 水中を抜け出たアナザーフォーゼはそのまま半透明の【ボードモジュール】を装備し、波をタラッタと同じ要領で滑る。

 そのまま波そのものから抜け出し、空を飛ぶと同時に半透明の【ロケットモジュール】を装備してそれを一人の男に放った。

 行き先は―――

 

 

「――――」

 

 

 デンドロンだ。

 デンドロンの装備は弓矢。ロケットに対抗できるとはとても思えない。

 だが、デンドロンは弓の弦を引き、矢を放とうとしている。

 

 

「――――」

 

 

 無言のまま、デンドロンの弓が放たれる。

 矢はそのまま真っ直ぐ、ロケットへと向かって行き、直撃。

 矢とロケット、どちらが勝つかは明白だ。そのまま、ロケットがデンドロンを直撃―――。

 

 

「ふっ」

 

『なに!?』

 

 

――することはなかった。

 矢はロケットを軽々と貫通し、そのままアナザーフォーゼを襲う。

 アナザーフォーゼはそれを避けようと動くが―――

 

 

「はぁ!!」

 

『ガァッ!!』

 

 

 後ろから鈍い音と共に、アナザーフォーゼは上昇した分落下する。

 あの声は、プロクスだ。プロクスが後ろからアナザーフォーゼを攻撃したのだ。

 そのまま矢が、アナザーフォーゼに直撃した。

 

 

『ウグッ…!』

 

 

「よしっ!当たったぞ!」

 

「あとは楽勝だな!」

 

 

 デンドロンとタラッタの愉快そうな声が響く。

 矢に当たっただけでなんだと言うのだ。少し痛い程度で、他にはなにもない。

 

 

『うッ…!?』

 

 

 突如、アナザーフォーゼの意識が飛びそうになる。

 持ち前の精神力で意識が飛ぶのを耐え、体が倒れるのを足を踏み出して留める。

 心地の良い感覚が、アナザーフォーゼを襲う。これは、『眠気』だ。

 突如襲った眠気が、アナザーフォーゼを夢の世界へと誘おうとしているのだ。

 

 

『な、にを…?』

 

「俺の矢には、とある『実』から採取された汁を塗ってある。それが、心地よい眠りへと誘ってくれるんだよ」

 

 

 デンドロンの説明に、今の状況に説明がついた。

 この眠気の正体はその実から取れる汁だ。

 なんとも心地よい眠気に、なんども堕ちそうになり、何度も抗う。

 ここで眠ってしまえば、『死』は確定。耐えるしかなかった。

 

 そして、何故デンドロンが『弓矢』を使っているのかも説明がついた。

 『弓矢』など原子的で、『銃』を使えばいいのになぜわざわざ弓矢を使ったのか、その理由は毒を仕込むためだった。

 よく見るとこの矢、羽以外は先の方もすべて木材で造られており、鉄などが一切使われていない。

 木材は液体が良く定着するために、あえて弓矢を使用していたのだ。 

 あのとき、もっと考えておけばと後悔する。

 

 

「兵士ども、撃てぇ!!」

 

 

 ここで、今まで傍観していた兵士たちが動いた。

 全員が銃を構え、銃口から光線を放つ。光線がアナザーフォーゼを直撃し、徐々にダメージを蓄積していく。

 何か行動しようと思っても、眠気によって判断能力が鈍っていくために、行動することができなかった。

 

 

「プロクス!!」

 

「分かっている!!」

 

 

 プロクスが自身の大剣に炎を纏わせ、アナザーフォーゼに向かって振るう。

 身動きが取れなかったアナザーフォーゼは大剣に直撃し、ボキボキと嫌な音を響かせながら吹っ飛んでいく。

 転び転んで、大分離された地点でようやく勢いが収まる。

 

 

『クソっ!!』

 

 

メディカル オン!

 

 

 半透明のメディカルモジュールを装備し、薬を注入する。

 零夜としての能力を使用してボロボロになった骨を繋いで、そこから徐々に骨が治っていくのが分かる。

 眠気も少しずつだが治ってきている。このまま時間さえ経てば―――

 

 

「次はこれだぁ!!」

 

「喰らいやがれ!」

 

 

 ヒュドールとタラッタの声が聞えると同時に、二人の武器がアナザーフォーゼを吹き飛ばす。

 かすれた瞳の目の前には、すぐそこに二人がいたのだ。

 一体、どうやってここに?動いているようには見えなかった。まるで一瞬でそこに現れたような―――

 

 

「―――――」

 

 

 そうか。そうだ。そうじゃないか。

 『瞬間移動』だ。『ワタツキノトヨヒメ』だ。

 彼女がいることをこの数分ですっかり忘れていた。彼女の能力で、二人を移動させたのだ。

 その証拠にかすれた目でうっすらと見えた、彼女の笑っている目が、それを物語っていた。

 まったく戦闘に参加しないと思っていたら、こういったところで参加していたのだ。

 

 アナザーフォーゼは苦し紛れにモジュールを装備する。

 

 

ランチャー オン!

 

 

 半透明の【ランチャーモジュール】からミサイルが発射され、ヒュドールとタラッタを襲う。

 ヒュドールは体を液状化させて攻撃を回避。

 タラッタは大量の水を発生させて波に乗り、華麗に避けていた。

 

 

「追加!」

 

 

 何者かの声が響くと同時に、背中に痛みが走る。

 その何かは背中で停滞しており、痛みを我慢してそれを引き抜くと、それはデンドロンの矢だった。

 

 

『あが――ッ』

 

 

 そして、再びアナザーフォーゼを襲う眠気。

 しかも今度は先ほどの巣歩合の量が体に投与された。今のアナザーフォーゼが耐えるか耐えられないかの境目にまで至っている。

 何も抵抗できないアナザーフォーゼにプロクスが追い打ちをかける。

 

 

「はぁあああああ!!」

 

 

 今度は、拳だ。

 炎を纏った拳が、アナザーフォーゼに直撃したのだ。

 

 

『あがぁあああああ!!』

 

 

 悲鳴を上げ、アナザーフォーゼは地面に転がった。

 

 

『(クソ…ッ、眠気が邪魔して、能力で無効化できない…!)』

 

 

 

 零夜の能力を使えば、毒などは即座に消える。

 だが、眠気がそれを邪魔してまともに解毒することができなかった。

 

 

「諦めろ、地上の民」

 

「お前では私たちに勝つことはできない」

 

「私たちの力を甘く見過ぎた結果だ」

 

「俺達のチームワークを舐めすぎたな」

 

 

 四人の嘲笑う声がアナザーフォーゼの耳に木霊する。

 そんな中、アナザーフォーゼの頭にある光景がフラッシュバックした。

 

 

――――

 

――――――

 

――――――――

 

 

 

 嫌いだ。この言葉、この感覚、この感情。

 向けられてくるこの悪意が、すべてが嫌いだ。

 

 

『死んじまえクソ野郎!!』

 

『お前のせいで、どれほどの人の心を傷付けた!?』

 

『お前なんか、この世に生まれてくるべきじゃなかったんだ―――!』

 

 

 向けられてくる罵詈雑言が、彼を襲う。

 この言葉、嫌いだ。捨てたはずの過去が、今になって彼を襲う。

 

 

 

 ウルサイ。 ダマレ。 ナゼソンナコトガイエル。

 

 

 

 そんな言葉が、彼の脳裏に浮かぶ。

 怒りが、悲しみが、負の感情が、彼を襲う。

 

 

 

 

―――もう、死ねよお前等――――

 

 

 

 

「グハァ!!」

 

「なッ!?」

 

「そんな、ありえない!」

 

「バカな、どうして動けて…!?」

 

 

 

 化け物の拳が、プロクスを襲った。

 痛みに悶えるプロクス。

 驚愕するヒュドール。

 目の前の事実に理解しきれないタラッタ。

 困惑するデンドロン。

 

 

「その、姿は…!?」

 

 

 その次に、またデンドロンが驚愕と困惑の声を出した。

 目の前には、『青い炎』によって皮膚が爛れたように崩れ落ちる、さっきまで絶命寸前だと思われた化け物。

 崩れ落ちた皮膚の下から、また別の化け物が生まれた。

 

 その化け物の見た目は黄色い複眼の奥にある小さな眼、筋骨隆々としたマッシブな体型と、ボディ各部に走っている赤い血管のようなものは歪みに歪んでいる。

 右肩にはFAIZの文字が、左肩には2003の数字が刻まれた怪物が、怪物の中から生まれたのだ。

 その怪物の名は―――

 

 

 

ファァイズゥ!

 

 

 

 

 ――――アナザーファイズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 月の兵士たちは困惑していた。

 遠目から見てもわかっていた。怪物の中から、また怪物が生まれたのだ。

 そして、困惑しているのは豊姫も同じだった。

 

 

「一体、どういうこと?いえ、そんなことより、今の動き、とても眠気に襲われている者の動きではなかった…。一体、どうやって解毒したというの…?」

 

 

 アナザーフォーゼを眠りにつかせていたのは、とある木から栽培された『実』の汁だ。

 彼女は上司である『神』からこれの栽培を命じられ、デンドロンに命令して育てていた。この木はその『神』が『神の木』と呼んでいたものだ。

 その正体はトヨヒメですら知らないが、穢れが発生しないのならいいかと思っていた。それに、その『実』の睡眠作用は強力だ。どんなものだって眠らせる自信がある。

 それなのに、一体、どうやって…?

 

 

「とにかく、今は情報を集めるのが先ね。『ヘプタ・プラネーテス』。私の役に立ってもらうわよ」

 

 

 

 

 

『グガァアア…!』

 

 

 化け物は―――アナザーファイズはその場に佇んでいた。

 アナザーファイズの能力で保管している魂を媒介にして焼却。状態異常を完全回復したのだ。

 生命エネルギーの力は未知数だ。故に、こういったことに使用することができたのだ。

 

 

「よくも…私の顔に傷を!!」

 

 

 攻撃されたことにプロクスは怒り、激情のままに大剣を振るった。

 縦一直線に振るわれた大剣はそのままアナザーファイズに向かって行く、その瞬間、残像の様にアナザーファイズの姿が消えた。

 

 

「なに!?」

 

 

 一瞬の出来事にプロクスは困惑し、辺りを見渡したが、アナザーファイズの姿は皆無。

 

 

「どこにいった―――グガッ!!?」

 

 

 刹那、プロクスが傷みに悶えた。

 その痛みは、腹から来ていた。己の腹を見る。そこには、化け物の腕がプロクスの腹を貫通していた。

 まさか、あのスピードで自分の後ろに周り、硬い鎧を突き破って攻撃してくるなど、思いもしていなかったプロクスには、この結果は予想外だった。

 

 

「プロクス―――ッ!」

 

 

 ようやくそのことに気付いた三人が、腕を貫通させている化け物。アナザーファイズへ攻撃を加えようとした瞬間。

 

 

「あ、が…ッ」

 

 

 プロクスの体が青い炎に包まれる。

 その現象に動きを止めてしまう三人。

 青い炎が、プロクスの体を浸食する。顔がボロボロになっていくのがその目で確認できた。

 

 

「―――――」

 

 

 プロクスの体が、鎧が、すべてが灰になり、崩れ落ちる。

 プロクスは、断末魔を上げることなく、その生涯に幕を閉じた。

 

 

「プロクスゥウウウウ!!!!」

 

「よくもプロクスをォ!!」

 

「なッ、待てヒュドール!タラッタ!!」

 

 

 デンドロンの静止を聞かずに、二人はアナザーファイズへと攻撃をしようと地面を駆ける。

 タラッタは大量の水を召喚して、アナザーファイズを飲み込む。同時にヒュドールも液状化してその波に溶け込む。

 大量の水の中、唯一水に成れるヒュドールは、アナザーファイズの姿を探した。

 

 

「(おかしい…見つからない!?)」

 

 

 だが、その姿を見ることは出来なかった。

 まさか、あの時飲み込んだつもりが、避けていたのか?

 すぐにタラッタに伝えなければ、そう思い水上に上がって実体化する。

 

 

「タラッタ!!この中にヤツはいない!」

 

「なんだと!?」

 

「すぐにヤツを探して――――」

 

「ヒュドール避けろ!!」

 

 

 突然のタラッタの叫びに、困惑するヒュドール。

 後ろを振り向くと、そこにはもう直撃寸前の両足キックの構えをしたアナザーファイズの姿があったのだ。

 この時すぐに体を液状化すれば避けれたのだが、ヒュドールは体を液状化することができ、自分に物理攻撃が効かないことを知っていた。だからこそ、慢心していた。避ける必要がないと。

 だが、その一秒後に、それが慢心だったと知った。

 

 

「ウガァ!!?」

 

 

 痛みを、感じた。

 感じるはずのない、痛みを。

 そのまま、ヒュドールの体をアナザーファイズは貫通する。

 

 

「ヒュドールゥウウウ!!!」

 

 

 そのまま水を解除し、ヒュドールへと駆け寄ろうとするが、ヒュドールの死体はすでになかった。

 ヒュドールも生涯を終えた。

 

 ヒュドールを倒した方法。それはアナザーファイズの必殺技、『クリムゾンスマッシュ』によるものだ。

 ヒュドールの能力は、体自体を水にする能力であり、アナザーファイズの必殺技を喰らう瞬間も、実体を持ってはいたものの、体は水だった。

 だが、喰らった攻撃が悪かった。

 『クリムゾンスマッシュ』は着弾時に敵の分子構造を分解し、破壊する技だ。

 ヒュドールの体を直撃した瞬間に水の分子構造を破壊されたのが、ヒュドールの敗因だった。

 

 

「クソっ、よくもヒュドールを!!」

 

 

 タラッタは三又の槍でアナザーファイズに駆け寄る。

 アナザーファイズは刀身が円柱状の一角がギザギザに尖った禍々しい見た目をした剣を取り出し、タラッタの槍と対峙する。

 

 

「貴様を、絶対に殺してやる!!」

 

 

 タラッタの威勢とは裏腹に、アナザーファイズの態度は冷静としていた。

 無言のままベルトの部分を操作すると、赤黒い光がアナザーファイズの武器に移動する。

 すると、タラッタの武器がアナザーファイズの武器に触れているところから徐々に青い炎が灯されていき、タラッタの槍が灰と化した。

 

 

「なッ―――ガブッ!!」

 

 

 自身の武器が灰となったことに驚愕したタラッタを次の瞬間襲ったのは、強烈な蹴り。

 地面を転がり、勢いがなくなったと同時に立ち上がろうとした瞬間、自身の腹が青く燃えていることに気付く。

 そして、理解する。

 自分は死ぬのだと。

 

 

「いやだ…!死にたくな――」

 

 

 タラッタの叫びも虚しく、灰燼と化していった。

 

 そして、残るはデンドロンのみ。

 彼は静かに弓を構えた。

 

 

「貴様…一体どうやって『実』の効果を、いや、そんなことはどうでもいい。よくもプロクスたちを…!」

 

『殺す覚悟ができていて、殺される覚悟がなかったのか?』

 

 

 アナザーファイズの言葉はとてつもない正論だ。

 人を殺すと言うことは、人に殺される覚悟もしなければいけない。

 それが、弱肉強食の摂理だ。

 だが―――

 

 

「黙れ!月の民は狩り、地上の民は狩られる!そのルールが絶対なのだ!その節理を犯した貴様を、俺は決して許さん!!」

 

 

 プライドの高い月の民は、その節理を真っ向から否定した。

 もともと、死から逃れるために月へやって来た存在だ。死を極限まで嫌っている彼らからすれば、地上の人間は不快でしかなかった。

 見下していた相手と、立場が逆転したと言うことを、意地でも認めなかったのだ。

 

 

『―――もういい、死ね』

 

 

 アナザーファイズが武器を持ち、その場で立ち尽くす。

 デンドロンは固唾を飲み、弓矢を構え、アナザーファイズをロックオンする。

 両者動かないまま、しばらくの静寂が包み―――

 

 

「ふんッ!!」

 

 

 矢が、放たれる。

 矢は空を切り、アナザーファイズへと向かって行く。アナザーファイズは動かず、立ち尽くしたままだ。

 そして矢が当たる瞬間、アナザーファイズの姿は掻き消える。

 

 この場面を、プロクスで一度見た。

 後ろへと回られ、腹を貫かれた場面を。

 

 

「そこだ――ッ!!」

 

 

 デンドロンは片手で持っていた弓でアナザーファイズを殴った―――つもりでいた。

 殴っていたのは、虚空だった。

 

 

「な――ゴブッ!」

 

 

 腹に激痛が走る。

 腹を見れば、そこにはアナザーファイズの武器が、デンドロンの腹を貫通していた。

 それと同時に、武器に赤黒い光が発光すると、そこからデンドロンの体が青い炎に包まれる。

 

 

「そんな、バカ、な…」

 

 

 デンドロンも灰燼と化して、今ここで『ヘプタ・プラネーテス』の四人はこの世から消滅した。

 

 

『―――――』

 

 

 デンドロンの灰が、風によって流れていく。

 それを見届けたアナザーファイズは、血塗られた武器を振るい、血を(はら)った。

 血を掃った後、小さな眼が存在する大きな複眼があるものを捉える。

 

 

 複眼に映るのは、『ヘプタ・プラネーテス』の四人が無残に殺されて怯える兵士たちと、こちらを睨んだトヨヒメがいた。

 

 

 そして―――

 

 

『うぉおおおおおおお!!!!』

 

 

 

 アナザーファイズは自身の武器を構え、月の兵士たちへと突撃したその数秒後、兵士たちの断末魔が、月に虚しく響いた―――。

 

 

 




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