東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

32 / 105
27 『最強』と『最弱』

「行くわよッ!」

 

「全軍に告ぐ!!目の前の敵を滅ぼせェええええ!!!」

 

 

―――闘いが、戦が、殺し合いが、始まる。

 15人の英雄と、一人の妖怪。100人を超える軍隊とそれを導く軍司。

 戦争が今―――まさしく勃発しようとしていた。

 

 

「左翼右翼中央部隊は接近、銃撃、防御へと分かれて迎撃せよ!!」

 

 

 軍司―――【ヘプタ・プラネーテス】最強にして、『天』のウラノス・カエルムは自分の指揮下にある兵士たちへと命令する。

 兵士たちはウラノスの命令に従い、各々の武器を手にして目の前の敵へと向かって行った。

 その顔はとても正気ではなく、まるで操られているかのような鬼の形相だった。

 

 思えば、最初からおかしなところだらけだった。

 当初、ウラノスが命令していた時はまるで痛みを知らない機械のように突撃していた。

 仲間が殺されても、お構いなしにその亡骸を踏み潰しながら目の前の敵を殺そうとしていたその(ざま)は、もう狂気しか感じなかった。

 

 

「己の体など気にするな!失明しようが、四肢を失おうが、目の前の敵を排除しろ!!」

 

「「「「「おおぉおおおおお!!!」」」」」

 

 

 これを、狂気と言わずしてなんという。

 普通、生き物は仲間意識が存在する。実際月人の兵士たちにも、心を通わせることのできる者だって存在するだろう。

 だが、この光景はどう見ても異常。仲間の、自分のことを顧みない者など、異常の一言ですら片付けることができない。

 どうしたらこのような人間機械ができるのか?『人間の能力』ではまず不可能だ。

 

 だからこそ―――この場にいる『能力』保持者、ウラノスしかこの状況を引き起こせない。

 ルーミアは向かってくる兵士たちを見て、考える。ウラノスの能力を。

 

 

 まず最初に考えうる能力は、名称を付けるとすれば『指揮をする程度の能力』だろうか。

 言ってしまえば、ただの命令だけであそこまで人間性をなくすなどおかしすぎる。だが、そこに『能力』の介入があればすべてが説明がつく。

 『能力』で部下の精神を支配してしまえば、すべての辻褄が合う。

 だが、同時にこの能力の弱点もある程度把握していた。

 

 ウラノスと戦っていた時、ウラノスの後ろにあったその光景を見て思った。

 その光景とは、仲間の死を悔やみ、仲間の亡骸を踏んだと言う事実を()()()()()()()()嘔吐している兵士たちの姿だった。

 それを見た時、考える暇などなかったためにあまり考えていなかったが、よく考えれば異常だ。

 あれほど旺盛に突撃して仲間の死骸を踏んだクセに、後からその後悔の念に蝕まれる様に、異常しか感じなかった。

 つまりは、精神支配を可能とするのは指揮をしたときのみ。

 これだけ過程ができたのだ。収穫ものだろう。

 

 

「とりあえず―――今は、目の前の奴らをぶっ潰すわよ」

 

 

 ルーミアの言葉とともに、まず最初に動いたのは【ノブナガゴースト】だ。

 ノブナガゴーストは、手に持った【ガンガンハンド・銃モード】を構えると、自身の周囲にガンガンハンドが複製され、持っているガンガンハンドの引き金を引くと、宙に浮いているガンガンハンドも一斉に弾が発射される。

 エネルギー弾は直線に向かって行く兵士たちに直撃し、血しぶきを晒す。

 

 

「撃て撃て!!」

 

 

 前方が肉壁になり被弾を逃れた銃撃隊の兵士たちは、一斉にレーザーを銃口から放った。

 ルーミアへと向かって行くレーザー。当然のごとく邪魔が入る。

 突如、ルーミアの目の前に白色の音符と楽譜のようなものが水の流れのように乱入する。レーザーと楽譜がぶつかり合い、爆発する。

 爆発と同時に煙が一瞬で晴れ、そこには【ベートーベンゴースト】が佇んでいた。

 ベートーベンゴーストは指揮者のように腕を動かすと、白い音符がまるで石を持つかのように動き始め、兵士たちへと向かって行く。

 

 

「もたもたするな!迎撃しろ!!」

 

 

 ウラノスの指示が入り、兵士たちの形相が変わる。

 狂ったかのように、また優美に列を作って連続でレーザー光線を放つ。

 ベートーベンゴーストは先ほど同様音符を用いてレーザーを迎撃しようと爆発させるが、逆に音符が負けてレーザーが爆煙(ばくえん)を貫いてきた。

 

 

「なッ!」

 

 

 先ほど防げた攻撃が、同じ方法で防げなかったことに驚愕するルーミア。

 だが、今は驚いている場合じゃない。咄嗟のことで動けなかったルーミアに変わり、白いパーカーゴースト、【ベンケイゴースト】が立ちふさがり、ルーミアを守る。

 レーザーが直撃するが、ベンケイゴーストが後ずさることもなく、無傷でレーザーを防いだ。

 と、言うのも【ベンケイゴースト】の頭を覆う頭巾【ソウシュウフード】はいかなる戦いでも退くことの無い忍耐力を生み出す。

 オーバー部分に当たる【スズカケコート】は敵の攻撃エネルギーを吸収し、自らの防御力に変換できる特性を持っているのだ。

 つまり、ベンケイゴーストはレーザーのエネルギーを吸収し、自らの防御力へと変換したのだ。

 言ってしまえば、ルーミアを攻撃するのにはベンケイゴーストの防御を突破するほどの攻撃を与えないと駄目だろう。

 

 

「どうして防げなかったのかしら?―――とにかく、今、はッ!!」

 

 

 先陣を切って突撃する。

 闇の剣を横一文字に振るう。闇の斬撃が銃撃部隊の兵士たちを襲い、多くの兵士たちの上半身と下半身が()かれる。

 元々、闇の力は空間や次元を斬り裂く強力な能力だ。普通の兵士にはこのように効くのだが、何故かウラノスには無効化された。

 ルーミアは少しでもウラノスの能力に近づいていると分かり、心の中で歓喜する。

 と、言っても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを確かめるためにも、この時間が必要なのだ。

 

 能力には必ず穴がある。()()()()()()()()()()()()

 例外としてシロの能力がルーミアの脳内でトップ入りしているが、彼の能力もぶっちゃけ不明。それに、不自由が感じ取れなかったため、今のところ弱点が見つかっていない。

―――とまぁ、雑談が過ぎたが、とにかく言いたいのは能力には必ずしも万能ではなく、必ず弱点があるはずだと言うことだ。

 今ルーミアが探しているのは、『ウラノスの能力の弱点』。これさえ分かれば、勝機が見えてくるはずなのだ。

 なにせ、今はただでさえ大技を使用して疲弊しているのだ。これをチャンスと言わずしてなんという。

 

 

「あいつの能力を確かめるのが先ね」

 

「私の能力を確かめるだと!?何をバカな!私の能力は最強なのだ!貴様は私の能力の弱点を探っているようだが、私の能力は完全無欠!弱点などありはしないのだ!」

 

「そう?その割には大分使いこなせてないじゃない。いくら能力がすごくても、使用者が無能だったら意味がないでしょ?」

 

「―――無能だと?今、私のことを無能だとほざいたのか!?」

 

「そうよ。もっと言ってあげる。あなたの能力はね、完全に宝の持ち腐れなのよ!!」

 

「―――こッッッのォッッックソアマがぁあああああ!!!これは私だけの能力!私だけの特権!貴様ら地上の民は素直に私の奴隷でいればいいのだぁ!!そうすれば私の奴隷として、幸せに過ごせていたのもを…!!」

 

 

 ウラノスの言い分は、どこまでも支離滅裂で、身勝手な言い分だった。

 能力は生まれ持っての才能ともいうべきものであることは間違いなのだが、ここまで自分至上主義が高ければ、ウザイの一言しか生まれてこない。

 それに、奴隷と言う時点で幸せに過ごせるはずがない。そんな当たり前のことでさえウラノスの頭からは欠如していたのだ。

 

 

「奴隷な時点で幸せなはずがないでしょうが。あなたバカなの?それにねぇ、自分が最強だなんて勘違いしてると、痛い目見るわよ」

 

 

 ルーミアも過去、自分の能力が最強であると信じて疑わなかった時があったと前に証言している。

 だが、そんな自分の天敵(ゲレル)と、それを余裕で倒した(零夜)を見て、ルーミアの天狗の鼻は完全に折れた。

 あの日以降、自分が最強ではないと悟ったのだ。

 

 

「(―――過去の私も、あぁだったのね…)」

 

 

 人の振り見て我が振り直せ。こんなことわざが存在している。

 人の愚かな部分を見て、自分がそうならないように気を付けようとすることを表しており、今まさにこの状況にピッタリなことわざだった。

 

 

「本当の最強って言うのは―――アイツのことを言うと、私は思ってる。アイツとあんたを比べれば、あんたなんてそこら辺の有象無象と一緒よ」

 

「だまれ黙れダマレェ!!そんな素性の分からない輩に私が劣っているだと!?ふざけるのもいい加減にしろぉ!」

 

「―――これ以上、話のも無駄ね。行きなさい」

 

 

 ルーミアの命令に、パーカーゴーストたちが一斉に動き出す。

 最初に動いたのはムサシゴーストだった。【ガンガンセイバー・二刀流モード】を振るい、兵士たちの防御を貫通し、断裂させながら切り刻んでいく。

 ムサシの名に恥じない、素晴らしい剣技だ。

 

 それだけではなく、剣技や銃撃戦に強いゴースト達が率先して敵を斬り、銃でどんどんと肉塊へと化していく。

 他のゴースト―――例を挙げると【エジソンゴースト】【ニュートンゴースト】【ベートーベンゴースト】などが挙げられる。

 これらのゴースト達は敵の足止めや牽制を行っており、その間に攻撃を行っているゴースト【ムサシゴースト】【ロビン・フッドゴースト】【ビリー・ザ・キッドゴースト】などが敵を攻撃すると言った感じだ。

 

 

「へぇー…すごい…」

 

 

 これには闘いの最中ながらルーミアも関心していた。

 自分はあれほどの連携技は出来ないと自分を卑下しながらも、目の前の敵を排除する。

 

 

「よそ見をするなぁ!!」

 

「ッ!」

 

 

 突如、ウラノスの声が響いたと思うと、ウラノスは両手を広げていた。

 何かをする―――それは一目瞭然だった。なにせ、ウラノスのいる上空には、()ができていたのだから。

 

 

「喰らえぇ…デス・レイン!!」

 

 

 ウラノスが技名を叫ぶと―――死の雨が、降り注ぐ。

 無数のナニカが雲から降り注ぎ、地面を、武器を、臓物を、人を、すべてを抉った。

 当然、その狂気の雨はルーミアをも襲ったが、その前にベンケイゴーストが覆いかぶさってルーミアを守る。

 

 

「一体、何が…!?」

 

 

 ルーミアは覆い被さっている間、その隙間から見える抉られた地面を見据える。

 ウラノスが何かをして、地面を抉るほどの攻撃をしたのは確かだが、その降って来たものの正体が分からないままだ。

 現在進行形で降り続けている死の雨。ゴーストたちは己のことは己で守っているが、その術を持たない兵士たちは別だ。

 死の雨は敵味方関係なく死を送り続けているところが性質(たち)が悪い。

 そういったところがウラノスの性格が出ている。

 

 

「どうした女ァ!隠れているだけじゃぁなにもできないぞ!」

 

「うっさいわね!そんなこと百も承知よ!」

 

 

 ルーミアはベンケイゴーストの後ろに隠れながら闇であるものを形成する。

 その形状は、ルーミアの小さな手に収まる程度の大きさのリボルバーがついている武器――俗に言う『拳銃』だった。

 千年で蓄えた知識と、今見ている月の知識を掛け合わせた即席拳銃だ。

 構造などは深く把握していないため、『引き金を引いたら弾が出る』程度の知識しか持っていない。千年の割にはしょぼいが、それでも今では必要な知識になった。

 

 ルーミアがウラノスに銃口を向けると同時に、三人のパーカーゴースト達がルーミアと同様に武器をウラノスに向けた。

 【エジソンゴースト】が【ガンガンセイバー・ガンモード】を【ロビン・フッドゴースト】が【ガンガンセイバー・アローモード】を、【ビリー・ザ・キッドゴースト】が【ガンガンセイバー】と【バットクロック】を装備して、ウラノスへ向けて連射する。

 

 

「無駄だ…」

 

 

 だが、ウラノスに当たる直前になにかに当たり、すべてが霧散していく。

 

 

「やっぱり、駄目ね…」

 

 

 ウラノスの謎の防御。エネルギー体であるゴーストたちの攻撃なら、その攻撃力を上回る防御力を保有していると言うのなら、すべての説明がつくのだが、問題はルーミアの闇の攻撃だ。

 闇は先ほども述べた通り時空間をも断ち斬り、貫通して攻撃することが可能だ。それなのに、防がれた。次元を歪曲させる闇の力。それを防ぐためには、同等の力で防ぐ必要がある。

 と言うより、先ほど『究極の必殺技』として闇の力も使っていたため、ウラノスも闇の力を使うことだって可能だ。つまり、同じ力で防がれた、これが謎の防御力の答え。

 

 

「これ以上、天敵を増やされても困るんだけど…」

 

 

 本当に、運命は自分を呪っているんじゃないかと思えてくる。

 零夜にシロ、ゲレルにウラノス。自分の天敵がここまで増えるなんて思いもしなかった。いや、実際【八雲紫】や【博麗の巫女】も天敵とも言えたが、あれらとは別に敵対しているワケではなかったので重要視していなかったが、今となっては話は別。

 最低でも自分の天敵が最低でも6名―――否、5名いるこの状況、ため息しか出てこなかった。

 だが、今の敵はウラノスだ。他四名の内二名は味方なので、今のところ心配する必要はない。

 

 

「あいつの能力―――指揮する能力だけじゃないはず…」

 

 

 ベンケイゴーストの影に隠れて、ルーミアは考える。

 考えられる時間は今しかない。増援は今のところ見込めないため、自分で何とかするしかない。

 パーカーゴーストが兵士やウラノス相手に時間を稼いでくれている今しか、この時間はない。

 

―――話を戻す。

 まず、ウラノスの能力は二つあるはずだ。

 なにせ、攻撃の能力と指揮の能力は全くの別物だ。二つあると考えた方が自然だろう。

 ルーミアは詳細は知らないが、零夜だって二つ能力を持っている。

 それを踏まえて考えれば、ウラノスが二つ能力を持っていると言う考えにたどり着く。

 

 『指揮をする程度の能力』と、あともう一つ。

 このもう一つの能力は先ほども述べた通りある程度予測はついている。

 そして、その鍵は、『キーワード』は―――。

 

 

「―――『天』」

 

 

 そう。ウラノスの肩書である、『天』の文字だ。

 『(てん)』には「てん」という読み方が一般的だが、別の読み方で『(そら)』には「そら」と言う読み方がある。

 そして、「そら」は『空』だ。

 

 ルーミアは当然知る由もないが、零夜の戦ったウラノスと同じ【ヘプタ・プラネーテス】の【プロクス】【ヒュドール】【タラッタ】【デンドロン】にも、『火』『水』『海』『木』と言う肩書があった。

 プロクスには『火』を操る能力が。

 ヒュドールには『水』に所以する液状化する能力が。

 タラッタには『海』のような大量の水と、激流を操作する能力が。

 デンドロンはあまり地味で詳細が分からなかったが、『木』を自在に操る能力なのかもしれない。

―――と、このようにそれぞれ肩書の通りの能力を保有していた。

 

 無論、これをルーミアが知れるはずがないので、情報が乏しかったが、少々単純な彼女はすぐにこの法則を読み取れた。

 法則、と言うよりは『天』だから『天』に関連した能力を持っているのではないか?と言った感じだが。

 だが、そう考えた方が色々と辻褄が合うのだから。

 

 ルーミアはベンケイゴーストの影から出て、ウラノスに指をさす。

 

 

「聞きなさい、ウラノス!」

 

「あ゛あ゛!?」

 

 

 ウラノスは今現在もご立腹だ。声を極限ま低くしており、声だけでも彼の怒りが伝わってくる。

 だが、それで臆してしまっていたら意味がない。

 

 

「―――あんたの能力、ぜぇーんぶ、分かったわよ」

 

「―――なんだと?」

 

 

 ウラノスの声色が元に戻る。

 ウラノスからすれば、自分より弱い奴が自分の能力を理解できるわけがないと思っている。だが、それはただの偏見だ。

 弱いから自分より何もかも劣っている―――と言うのは間違いだ。

 人間万能ではない。必ず他人より劣っている何かがある。例えば、『知恵』などがそうだ。闘いしか頭にない人間は、他の人間より知恵が劣っている。逆に、闘い慣れない人間が、知恵が飛びぬけていると言った例もある。

 故に、ウラノスの言い分は間違いだらけなのだ。

 

 

「―――本当に、あなたがバカで助かったわ」

 

「なんだとこのクソアマがぁ!!」

 

「あなた、最初に『天』って言ったでしょ?それがもう、答えになってたのよ」

 

「――――」

 

 

 ウラノスが、口を詰むんだ。

 どうやら、ウラノスもその意味が分かったようだ。

 

 

「貴方の能力は難しいようで単純だった。あなたの能力は『天を操る能力』と『指揮をする能力』。どう、間違いある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

――――『(そら)』とは、誰もが必ず見る景色だ。

 それは快晴であったり、大雨であったり、台風であったり、雷が鳴ったり、雪が降っていたり、暗闇だったり、様々だ。

 ウラノスの能力は、そこが由来となっているのだ。

 異世界もので言う、『全属性適正』を持っているようなものだ。『火』を『水』を『風』を『雷』を『氷』を『光』を『闇』を、すべてを扱える能力、それはウラノスの能力だった。

 

 これならばすべての辻褄が合うのだ。

 先ほどの仮説の通り、ルーミアの闇の斬撃を防いだのは、『闇』の力でガードしていたから。

 強硬そうな鎧も傷一つつかなかったことも、これで頷ける。

 ルーミアの後ろからの攻撃の際、分身していたように見えたのは、『光』による屈折。

 『デス・レイン』はその名の通り水圧による『水』の攻撃のゴリ押し。 

 それらを駆使して、ウラノスは戦ってきていたのだ。 

 

 

「―――つまり、こういうことよ。どう、合ってるかしら?」

 

「――――――」

 

 

 ルーミアが自身の仮説を述べた後、シン…と、先ほどまで騒がしかった戦場が、一気に静まり返っていた。

 それもそうだ、指揮官であるウラノスがなにも言わなくなった以上、兵士たちも正気を取り戻すのだから。

 『指揮をする能力』の影響がなくなった今、兵士たちは自らの意思で誰も動かなかった。全員、ルーミアの仮説に釘付けだったからだ。

 

 

「フ、フフ、フフフ…」

 

「―――?」

 

「ハハハハハハハハ―――!!!」

 

 

 突如、ウラノスが笑い始めた。

 その笑いに、生理的嫌悪を覚えるルーミアと、無言のままウラノスの笑いに疑問を浮かべる兵士たち。反応は様々だ。

 

 

「なにが可笑しいの?」

 

「いやぁ、本当に素晴らしいものだ!先ほどまでの怒りがまるで嘘のように吹き飛んだ!!」

 

「―――まるで意味が分からないんだけど」

 

 

 ルーミアの疑問に、ウラノスは嘲笑の笑みを浮かべながら淡々と話す。

 

 

「あれだけ自信満々に解説していたところ悪いのだが―――」

「今のお前の仮説は、せいぜい80点だ」

 

 

 ウラノスの答え合わせに、ルーミアが内心で愕然とした。

 なるほど。ウラノスの怒りが吹き飛んだ、と言う言葉の意味はこれだったのか。

 あれだけ自信満々に回答しておきながら、それが満点ではなかったことによる嘲笑。

 

 ウラノスはルーミアが恥をかいたと考え、ルーミアへの怒りが吹き飛んだのだ。

 

 

「―――80点?」

 

「そう、大体は合っていた。私はそれらを一気に操ることが可能だ。故に【ヘプタ・プラネーテス】最強なのだ!だがなぁ、全属性の操作を可能とする?ただ兵士たちを操る?()()()()()じゃ『最強』は務まらないんだよ!!」

 

 

 ウラノスは腕を薙ぎ払うと、そこから暴風が吹き荒れる。

 最初のターゲットとなったのは―――。

 

 

『『『ッ!!』』』

 

 

 エジソン、ロビン・フッド、ビリー・ザ・キッドゴーストだった。

 一々攻撃してくるのが、ハエのごとくウザイとでも思ったのだろう。故に、最初の的にされたのだ。

 風による暴力が三体を襲い、一気に霧散する

 

 

「なッ!?」

 

 

 突然の攻撃に対処しきれなかったルーミアは、急な攻撃に驚愕したが、すぐに戦闘態勢に入り、他のゴースト達に攻撃させる。

 ウラノスは空中にいるため、攻撃するには遠距離攻撃は必須だ。

 故に遠距離攻撃を可能とするゴースト達が前に出る。

 

 【リョウマゴースト】【ノブナガゴースト】【グリムゴースト】が前に出た。

 【サングラスラッシャー・ブラスターモード】【ガンガンハンド・銃モード】【ガンガンキャッチャー・銃モード】をそれぞれを装備し、ウラノスに向ける。

 

 

「そんな銃だけで私の防御を貫けるはずが―――」

 

 

 その瞬間、空中に無数の武器が現れた。

 その武器は、三体のゴーストが装備している武器と全く同じものだった。

 

 

「なにが起こっているのだ!?」

 

 

 謎の現象にウラノスが驚愕の声を上げる。

 この現象、関わっているのは【ノブナガゴースト】だ。

 ノブナガゴーストには、武器を複製する能力を保持しており、この能力を用いて自身の武器だけではなく、リョウマとグリムの武器をも複製したのだ。

 1つで駄目なら2つで。とにかく数を増やして力でのゴリ押しだ。

 

 リョウマゴーストはサングラスラッシャー・ブラスターモードの引き金を引くと、それと連動してすべてのサングラスラッシャーの引き金が引く。

 銃口から巨大な螺旋状の炎の渦を発射する技、【メガオメガフラッシュ】を発動した。

 ノブナガゴーストも同様、大量に複製したガンガンハンド・銃モードの引き金を引き、連撃を繰り出す技、【オメガスパーク】を発動。

 グリムゴーストもまた、ガンガンキャッチャー・銃モードに自身のアイコン【グリムアイコン】を装填して銃口からペン先を模した無数の弾丸を繰り出す技、【オメガフィニッシュ】を放った。

 

 大量に複製された武器による連続攻撃。

 圧倒的な力によるごり押しならば、ウラノスの能力を少しは突破することができるかもしれない。

 放たれた凶悪とも言っても過言ではない攻撃が、ウラノスに直撃し、爆風と爆煙を上げる。

 

 

「―――――」

 

 

 思わず、固唾をのみ込む。

 それもそうだ。あれほど強力な能力だ。それに、すべてを解明できたと思ったら、それは80点。あと残りの20点が不明な以上、とにかく攻撃してその残りの20点を解明するしか抜け道は存在しない。

 むしろ―――。

 

 

「―――この程度か?貴様の配下の力は?」

 

 

 この程度の攻撃で、ウラノスの防御を突破できるなんて、希望を持たない方がよかったと思うほどだ。

 そして、そんな希望を抱きながらも、無駄だと言う絶望が存在していたことは、ルーミアが一番知っていた。

 なにせ、同じく闇を操る能力者なのだから。

 闇の力がどれだけ活用できるのか、その運用性を一番熟知しているのは、ルーミアなのだから。

 

 

「そんなへなちょこな攻撃で、私を傷付けられると思うなぁ!!」

 

 

 ウラノスが手を掲げると、そこから大きな水球が生まれる。

 これだけを見れば、あの水をそのまま投げるだ楼と考えるだろう。だが、ウラノスは予想外の使い方をしてきた。

 もう片方の手を上げると、太陽の光が強く輝いた。

 ウラノスの天を操る能力は、太陽の光をも操ることが可能なのだ。

 そして、太陽の光が水球に収束し―――。

 

 一瞬の輝きで、リョウマ、ノブナガ、グリムゴーストが焼き消えた。

 

 

「――――!?」

 

 

 ウラノスは、あの巨大な水球を虫眼鏡に見立て、太陽の光を収束させて一種のレーザーを創り出したのだ。

 自然現象を用いただけではなく、能力をも使用したことによって威力が倍増したのだ。

 

 

「―――なんで、あんなに疲れが出てたのに、人間のクセに精神力の回復が異常に早すぎる…!?」

 

 

 ウラノスはあの必殺技を放ったことで、大分精神力を摩耗していたはずだ。

 それに、あれからほとんど休んでいないはずなのに、あれほど細かくコントロールできるほどに精神力が回復していたのだ。

 

 

「それは、これのおかげだ」

 

 

 ウラノスが懐に手を入れ、(まさぐ)った。

 そして、そこから出したのは小さなカプセル状の薬品。

 

 

「これは、私用に作られた薬でねぇ。精神疲労に急激に効く薬だ。効力が強すぎて私ほどの者でないと効果に耐えきれない欠陥品だがな」

 

「そんな……」

 

 

 再び彼女を襲った、絶望。

 ようやく精神的に疲労させたのに、精神的疲労が弱点だと分かったのに、その弱点をすでに克服していたとは。いや、普通自分の弱点をそのままにしておくはずがないため、こういったことは最初から予測しておくべきだったのだ。

 だが、月の技術を話だけ聞いていたルーミアには、そういった可能性を見出すことができなかった。

 完全な、知識不足が原因だった。いくら千年もの月日を生き、新たな知識を持っていたとしても、それと同時に月の知識も進化していたのだ。

 月の知識の方が、地上より何枚も上手だったのは、最早周知の事実と言っても過言ではなかったのだ。

 

 

「とっくの昔に、耐久戦も問題なくなった。詰んでいたのだよ、最初から」

 

「く…ッ!」

 

 

 ルーミアは悪あがきと言わんばかりに、手をかざすとウラノスの後ろに闇の槍が形成され、そのままウラノスを貫こうと迫る。

 

 

「無駄な悪あがきをッ!」

 

 

―――だが、当然のごとくウラノスに見破られ、ウラノスが腕を振り払うとそのまま闇の槍が霧散する。

 

 

「もういい加減に諦め――」

 

 

 ウラノスがそう言いかけた時、ウラノスの目の前が二つの瞳で埋まる。

 そう、あの攻撃は陽動だったのだ。本当の狙いはこちら。

――が。

 

 

「不意打ちだけで私に傷を与えられると思うな!!」

 

 

 ウラノスは手を出し、能力を行使しようとする。

――そのときだった。

 

 

「なに!?」

 

 

 突如、ウラノスの腕に、鎖が巻かれた。

 その鎖の先には、【フィーディーニゴースト】が。フィーディーニゴーストが鎖をその手に持ち、ウラノスの手を拘束していたのだ。

 このチャンス逃すワケにはいかない。なんとしてでも、いや、せめてあの男に一撃を入れたい。その思いを、気持ちを掲げ闇の剣を携え―――。

 

 

「しまっ―――」

 

 

―――ボギッ、バギッ、グチャ

 突如、辺り一帯に響いた不快な音。その音は、肉がつぶれ、骨が砕かれた音。

 そして、その音の出所は―――。

 

 

 

「あがぁあああああああ!!!!」

 

 

 

 ウラノスの腕だった。

 ウラノスの腕は、その強硬な鎧ごと砕かれ、不快な音を上げたのだ。

 ここで今、なぜか難攻不落だったウラノスを、予想外の方法で、ダメージを与えることに成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

「殺す!殺す!殺す!殺す!!この能面風情がぁああああああ!!!」

 

 

 ウラノスが今までに見たことのない形相でフィーディーニゴーストを睨み、無事な方の腕をフィーディーニゴーストに向けるとその瞬間、フィーディーニゴーストの立っていた地面が業火に燃える。

 

 

「――――」

 

 

 対して、ルーミアも驚愕していた。

 仲間がやられたことではない。無論、あれだけ攻撃を与えて無傷だったウラノスに、ダメージを与えることができた理由だ。

 あの鎖が、特別だったのか?いや、事前にシロから教えられていた情報では、あれはただの強靭な鎖だ。それに第一、あの鎖にウラノスの謎の防御を突破する力などは存在していない。

 と、言うことは別の要因でウラノスはダメージを負ったことになる。

 

 今回、ルーミアはなにもしていない。

 つまり、考えられる可能性は一つ。『ウラノスの能力』。

 ウラノスの能力―――不明な20点のなにかが、鎖が巻き付いたことと連動し、今回の結果につながったのではとルーミアは過程する。

 

 

「いいや、とにかく。あいつにダメージを与えることができたってことが、一番の収穫ね」

 

 

 ダメージを与えることができたのは嬉しいのだが、その肝心のダメージを与えたゴーストがすでにウラノスにやられてしまっt―――。

 

 

「――誰…?」

 

 

 そのとき、後ろからチョンチョンと肩を叩かれる。

 誰かと思い振り向いてみると、そこには先ほど業火に包まれて倒されたはずのフィーディーニゴーストがその場に佇んでいたのだ。

 これには、ルーミアも驚く。

 

 

「えっ!?さっきやられたはずじゃ…!?」

 

 

 ちなみに、フィーディーニの二つ名は「脱出王」

 その肩書の通りに、脱出をなによりも得意としているため、あの業火からの脱出もお手の物だ。

 背中のタイヤのプロペラを全開にまで稼働させ、後方へと飛んだのだ。あの一瞬にして、疲弊していたとしても妖怪のルーミアの目から逃れるほどのスピードでそれを行ったのだ。彼の技術が伺える瞬間であった。

 

 

「ま、まぁともかく、無事でよかったわ…」

 

「生きていたかこの能面がァ!」

 

 

 フィーディーニゴーストが生きていたことに激怒した。

 それに、生きていると言うより、パーカーゴースト達はすでに死んでいるため生きているとは言えない。

 あともう一つ。ウラノスはパーカーゴーストのことを『能面』と呼んでいるが、これはただ単純にウラノスがパーカーゴーストのことをただのお面をかぶった人間だと思っているだけである。

 普通、人間が急に現れたりしないのだが、そこら辺は完全に考えていないだろう。ウラノスはそういう人間なのだ。

 ともかく、ウラノスにダメージを与えることに成功した今、やることはただ一つ。 

 

 

「青い奴!その鎖をアイツの腹に巻き付けなさい!」

 

 

 ルーミアはフィーディーニゴーストに命令をする。フィーディーニゴーストはそれを聞き入れ、ウラノスに鎖を投げつけた。

 巻き付けると言う行為自体は攻撃ではないが、巻き付けることによって謎の作用が働き、ウラノスにダメージを与えることができると分かった今、それ以外の攻撃をすると言う選択肢はない。

 

 

「そんな幼稚な攻撃に当たる訳がなかろうが!!」

 

 

 ウラノスはそのまま上昇して巻き付ける攻撃を回避する。

 鎖はそのまま空を舞う。

 

 

―――そのとき、白い手がフィーディーニゴーストの鎖を掴んだ。

 その手の正体は、【サンゾウゴースト】だ。サンゾウゴーストは『觔斗雲』のようなものに乗り、空中を浮遊していたのだ。

 そしてそのまま觔斗雲を駆使して滑空し、ものすごい勢いでウラノスの周りに鎖を巻き付ける。

 回転した鎖が、ウラノスの周りに漂う。

 

 

「この程度で―――私を仕留められるとでもアガッ!!?」

 

 

 突如、ウラノスの体が震える。

 

 

「これは―――麻痺か!?」

 

 

 目をギョロギョロと移動させ、その要因を見つけた。

 【ベートーベンゴースト】だ。ベートーベンゴーストには音楽を操る能力。つまりは音を操る能力を持っている。

 音の力でウラノスの体の命令系統――脳に異常を起こし、麻痺を起こしたのだ。

 そのままフィーディーニゴーストとサンゾウゴーストが鎖を引っ張り、鎖をウラノスに巻き付けた。体を動かすことなどできないウラノスは鎖は巻き付かれ、謎の力によってウラノスの体は引き千切れる―――はずだった。

 突如、ウラノスの体が霧のように霧散した。

 

 

「え…ッ!?」

 

「引っかかったなバカめがぁ!」

 

 

 鎖の下段―――。そこからウラノスの声が響く。

 いつの間にか、ウラノスが移動していたのだ。いや、これは移動などではない。

 最初から、そこにいたのだ。でなければ、先ほどまで拘束したウラノスが霧のように霧散するはずがない。

 

 

「死ねぇ能面ども!!」

 

 

 ウラノスの全身に、雷が纏われる。

 それを一気に放電するかのように、辺り一帯に雷の球体が出来上がる。

 

 

「しま…ッ!」

 

 

 ルーミアも、他のパーカーゴースト達も、十分その射程範囲内にいた。

 このままでは、自分たちも巻き添えを喰らってしまう。

 ルーミアとパーカーゴーストたちは一斉に走りだした。だが、雷の浸食の方が、ルーミアたちのスピードを、何倍も上回っていた。

 それに、疲弊した状態なために、いつものスピードを出すことができなかったルーミアは、もうすぐそこまで雷が迫ってきている状態にまで陥っていた。

 

 

「このままじゃ―――!」

 

 

 ルーミアの肌と雷が触れ合った瞬間、雷の中からフィーディーニゴーストの背中の部分――グライダーが飛び出し、ルーミアを一気に押し出した。

 その勢いでルーミアは「ウグッ」とえずいてしまうが、それが起点となった。

 そのままグライダーがルーミアを押し続け、射程範囲から脱出することに成功したのだ。

 だが、その犠牲もあった。

 

 近くにいたフィーディーニゴースト、サンゾウゴースト、ベートーベンゴーストが犠牲となったのだ。

 残った英雄ゴーストは、六体。

 

 

「なんだ、まだ生きていたのか。運のいい野郎どもめ」

 

 

 焼き焦げた地面から煙が漂う中、ウラノスの声が聞こえた。

 だが、その声や顔色には余裕はなく、グチャグチャになった腕をもう片方の手で押さえている状態だった。

 ウラノスはルーミアたちの無事を確認すると、兵隊たちの元へと移動した。

 自分を攻撃できる手段を失ったために、慢心が出たのだろう。普通、最後まで終えてから敵から目を離すのだが、この男がそれをしない所を見ると、どうしても愚かにしか思えない。

 

 

「おい!回復薬をよこせ!常備装備にあっただろう!」

 

「い、いえ、それが…」

 

「なんだ?いいからさっさとよこせ!」

 

「―――も、もうすでに兵士たちにすべてを使ってしまい…」

 

「なにをやっているのだクズどもが!!」

 

「う、ウラノス様は毎回使わないため、今回もそうかと―――」

 

「口答えするなァ!!」

 

「うぐッ!」

 

 

 ウラノスの無事な手が、副官の顔に直撃する。

 副官は地面にこすれながら転がっていく。

 

 

「な、なんなのあいつ――」

 

 

 これを見て、ルーミアも引いていた。それと同時に、敵ながら副官に同情した。

 大方、ウラノスは今まで一度も怪我をせずに生きてきたのだろう。だが、今回怪我をすると言う異常事態に陥ってしまったことにより、ウラノスは副官に八つ当たりしているのだ。

 副官も副官で、ウラノスが怪我をするなど思っていなかったため、惜しまず回復薬を兵士たちに使っていたのが仇となり、八つ当たりの対象となってしまった。

 

 

「もういい!いいか、私が戦い終わるまでに回復薬を補充してこい!これは命令だ!!」

 

「は、はい…!」

 

「ふんッ!」

 

 

 少し満足したのか、ウラノスはルーミアの方へとゆっくりと歩いていく。

 己が怪我をしているというのに、なんという油断なのか。

 いや、ウラノスの性格だからこそ、なのかもれしない。

 

 それはウラノスと言う人間と短期間しか見ていないルーミアにも分かった。この男、人を痛めつけることに快感を覚えているのだ。

 俗に言うサディスト。この男はそれに該当する。

 

 サディストは相手を痛めつけるのには慣れているが、自分が痛めつけられるのには慣れていない。

 そのため、無意味な八つ当たりを繰り返している―――。そんな感じだろうか。

 

 

「貴様はただでは死なさんぞ!!」

 

 

 ただでは死なさない―――。これが意味をしているのはただ一つ。「自分が気が済むまで殺す気はない」と言うことだ。

 本格的に拷問でもするつもりなのだろうこの男は。

 

 

「どうすれば―――」

 

 

 もう本当に、どうしようもなくなった時。それは起こった。

 なんと、ルーミアを守っていた【ベンケイゴースト】以外のパーカーゴーストたちが一斉にウラノスに突撃したのだ。

 

 

「なッ!?あんたたち、戻ってきなさい!」

 

 

 ルーミアの静止も聞かず、ゴースト達はウラノスに武器を振るう準備を始める。

 

 

「バカなことを!圧死しろ!」

 

 

 ウラノスは無傷の腕をゴースト達に向けると、ウラノスの手の掌から激流ともいえる水が渦状となって放水される。

 水の砲弾は、パーカーゴーストたちに牙をむき、そのままパーカーゴーストを穿つ――その瞬間、水が分裂して当たり一帯に零れる。

 

 

「なにッ!?」

 

 

 これにはウラノスも驚愕していた。

 ウラノスは焦り、手当たり次第に攻撃を仕掛けた。炎の渦、風の刃、雷の槍、氷柱での攻撃など。それらすべてを駆使しても、当たる直前に何故かコントロールを失い霧散するのだ。

 パーカーゴーストたちの距離は、もう目前にまで迫っていた。

 

 

「無駄だ!私には絶対的な防御が―――」

 

 

 焦りながらも、自分の防御を過信していたウラノスはそのまま何もすることなく佇んでいただけだったが――途端に、焦りが生じ始めた。

 

 

「ま、待て!お、落ち着くのだ!だから攻撃するのをやめ―――」

 

 

 そんなウラノスの言葉になど耳を貸さず、パーカーゴーストたちは一斉に必殺技を放った。

 ムサシゴーストのガンガンセイバー・二刀流モードで放つ技『オメガスラッシュ』

 ニュートンゴーストの斥力を込めた右ストレートで敵を吹っ飛ばす技『グラビテーションインパクト』

 ゴエモンゴーストの刃に炎を纏わせすれ違いざまに切り裂く技『メガオメガシャイン』

 ヒミコゴーストのサングラスラッシャーから放つ技『メガオメガシャイン』

 ツタンカーメンゴーストのガンガンハンド・鎌モードによる敵を直接斬り裂く技『オメガファング』

 

 五つの技が一点(ウラノス)に集中した。

 本来、この攻撃も無敵だったウラノスにはなんの意味もなさなかっただろう。

 だが―――今、その前提が、再び崩れた。

 

 

「ぐあぁあああああああああ!!!!!」

 

 

 必殺技は、ウラノスの強硬な鎧をも貫通し、ウラノスの体から血しぶきが舞い上がったのだ。

 

 

「な、なんで…?」

 

 

 ウラノスには『巻き付ける攻撃』が有効打だったはずだ。巻き付けることによって、ウラノスの謎の力が働いてダメージを与えることができた。

 だが、今のはなんだ?通常攻撃が全く効かなかったウラノスに、斬撃が効いたのだ。今までの前提が崩れた。ルーミアの斬撃も、ウラノスにはいなかった。わからない。何が起きているのか、わからない。

 

 

「あ、が…」

 

 

 ウラノスが大量に血を流し、体制を崩す。

 そしてそのまま、膝から崩れ落ちる―――瞬間、踏みとどまった。

 それに気づいたゴーストたちが追撃を仕掛けようとする。 

 

 

「お゛の゛れ゛ゴミ共がァアアアアアア!!!待でど、い゛ッだだろうがァアアア!!!」

 

 

―――だが、時すでに遅し。

 ウラノスの体には業火が纏われ、その姿は今にも爆発しそうな爆弾。

 ゴーストたちは理解した。「これは助からない」と。

 

 

「皆、逃げてぇええええ!!」

 

 

 ルーミアの悲痛な叫びが響く。

 だが、それを叶えることはできなかった。

 

 

「じねぇえええええ!!ゴミクズどもォおおおお!!」

 

 

 ウラノスの熱気が最大限に高まったその瞬間、四体のパーカーゴーストが突如として、一人のゴーストを一斉に蹴り出した。

 その勢いは凄まじく、蹴られたパーカーゴーストはそのまま飛来し、ベンケイゴーストにキャッチされた。

 それを見届けたパーカーゴーストたちは、最後の悪足掻きと言わんばかりに、己の獲物を振るった。

 

―――その一秒後、業火が辺り一帯を支配した。

 

 

 

「あ、ああぁ…!!」

 

 

 

 ルーミアの目から、涙が零れ出る。

 自分の涙腺は、いつからこんなにも脆くなってしまったのか。そんなこと考えている暇など、彼女にはなかった。

 ゴースト達はすでに死んでいるため、朽ちない存在だ。だが、それでも自分のために戦い、その身を滅ぼしたパーカーゴーストたちに、彼女はただ涙を流すことしかできなかった。

 

 

 

『―――――』

 

 

 

 そして、もう一人。

 四体のパーカーゴーストに助けらたゴースト―――【ニュートンゴースト】は、それを見て何を思ったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

「うぐッ、ひぐッ、えぐッ…」

 

 

 彼女の目から、大粒の涙が零れる。

 自らの身を挺してまで戦ったのに、それでも届かない圧倒的敗北感。それが彼女の心を支配していた。

 最後、最後一度だけ、ウラノスに大ダメージを与えることに成功した。だが、その要因も謎のままだ。

 そして、残された手がかりも一つのみ。

 

 

「ねぇ…なんであんたは、助けられたの…?」

 

 

 涙をこらえながら、ルーミアはパーカーゴーストたちに助けられたゴースト、【ニュートンゴースト】に問いかける。

 だが、ニュートンゴーストは無口だ。

 

 

「なんとか言いなさいよ!あいつを倒す手がかりを、持っているんでしょ!?」

 

 

 ルーミアは無口なニュートンゴーストに対して怒鳴る。

 これはニュートンゴーストに限らず、すべてのゴースト達は無言のままだった。だがそれなのに、お互い情報を共有しあっているようだった。

 と言うことは、パーカーゴーストたちには何かしらの意思疎通を可能としているのかもしれない。

 

―――だが、ニュートンゴーストは無口のままだ。

 

 

「なんとか言いなさいよ!!」

 

「あぁあああああああ!!」

 

 

 ニュートンゴーストにルーミアが掴みかかろうとしたその瞬間、男のかん高い声が聞こえた。

 この声の主を、ルーミアは忘れるはずがなかった。

 

 

「ウラノス――!?」

 

「まぁだハエが一匹残ってたかぁ…まぁいい!今ここで、まとめて仕留めてやるゥ!!」

 

 

 激怒したウラノスに、もう心の余裕などなかった。

 ウラノスは鬼の形相のまま、自身の頭上に七色の球体を創り出す。

 

 

「あれは…!」

 

 

 あれには見覚えがあった。

 あの時、ウラノスが『究極の必殺技』だと言い放った技だ。

 まずい―――!それだけがルーミアの頭を支配した。これだけ疲弊した状態で、あれを喰らえば一たまりもない。

 逃走しようとした、そのとき。ベンケイゴーストがルーミアの前に立った。

 

 

「―――え?なに、してるの?」

 

 

 真っ先に思ったことを口にする。

 あの行動の意味が分からない。否、分かりたくない。だが、意地でも分かってしまう。ベンケイゴーストは、自分を守るために―――。

 いくらベンケイゴーストの特性を用いても、消滅してしまえば話は別になる。

 

 

「駄目、駄目よ。これは命令。あいつには私じゃ勝てない。私を守っても無駄よ。だから、だからやめて…」

 

『…………』

 

 

 ベンケイゴーストは動かない。

 確実に()()()()の命令通りに、動いているのだから。

 すると突如、ニュートンゴーストがルーミアを担いでその場を離れだした。

 

 

「やめて!離して!」

 

『………』

 

「聞こえてないの!?――――あなたも、早く逃げ―――」

 

「死ねぇええええ!!」

 

 

 彼女の悲痛な叫びをかき消すように、ウラノスの叫びと同時に『究極の必殺技』が放たれた。

 先ほどとは違い、今回は一直線による攻撃。一点集中系だ。それに極太レーザーと来た。回避は、不可能だ。

 ベンケイゴーストに、『究極の必殺技』が直撃する。

 

 ベンケイゴーストの特性である相手の攻撃を防御力に変換すると言う特性を、軽々と打ち破るエネルギーを保有した『究極の必殺技』は、ベンケイゴーストを、一瞬にして塵へと化したのであった。

 

 

 

「―――――!」

 

 

 

 その様を目のあたりにしたルーミアは、目を見開き絶句するしかなかった。

 ベンケイゴーストを貫いた技は、そのまま二人を殺さんと直行してくる。

 そして―――『究極の必殺技』が、二人を影ごと飲み込んでいった。

 

 

「ハハハハハ!!!ようやく!ようやく死んだかぁ!!」

 

 

 二人が『究極の必殺技』に飲み込まれたのを確認したウラノスは、高笑いをした。

 

 

「にしても―――面白い!面白かったぞ!奴の絶望した顔!()()()()で見れなかったのは残念だったが、それでもいい!私をコケにした罰が下ったのだぁあああ!!!」

 

 

 血塗れになりながらも、高揚感が止まらないウラノス。

 そのまま、二人が消滅した場所へと目を向ける。

 

 

「―――にしても、ずいぶんとクレーターができた。これでは、()()に怒られてしまうな。よし、お前等!ここら一帯を埋め立て―――」

 

 

 

「ヒッグッ、エッグッ…」

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 その時、聞こえた。ウラノスの耳に、()()()()()()が。

 そして、この声は間違いなく―――!

 

 

「バカなッ!?塵と化したはずだぞ!?」

 

 

 ウラノスは風を起こし、辺り一帯の煙を晴らした。

 そして、ウラノスの目に映ったのは、()()()()

 

 

「う、うぅ…!」

 

「――泣くな。なんとなく、状況は分かった。おい、ルーミアを守ってろ」

 

『――――』

 

 

 ルーミアとニュートンゴースト。そして、黒装束の男が追加されていた。そして、その男の隣にはひときわ多いいバイクが。

 おそらく、あのバイクで二人を救ったのだろう。だが、あの一瞬で?一体何馬力あるんだ。

 ウラノスは目線をずらす。例の男は全身が黒で統一されており、フードを深く被り顔などは確認できなかった。

 ルーミアは黒装束の男に縋りつき、泣いていた。男はルーミアを宥めると、ルーミアをニュートンゴーストに預ける。ニュートンゴーストはそれを無言で頷き承諾した。

 

 

「さて―――」

 

 

 黒装束の男は立ち上がると、ウラノスの方を向く。

 

 

「お前が何者かは知らねぇが―――一つ。言えることがあるとすれば―――」

 

 

 男はウラノスを指さし、うっすらと見えた黒い黒曜石のような瞳で睨みつけた。

 

 

「今日が、お前の命日だ」

 

 

 その男は―――【闇神 零夜】は、そうウラノスに対して宣言したのだ。

 

 

 

 

 




我らが主人公登場!
 感想お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。