今回はR-18系の単語が出てきます。
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―――時間は過去に、遡る。
零夜は捕縛した玉兎たちから情報収集を行っていた。
「さて、それじゃあ俺の言う質問に一言一句たりとも偽りなく答えろ。そうすれば、お前たちの命だけは、助けてやる」
優しい顔をして玉兎たちを脅迫する。
だが、顔は見えていないため表情など無意味なのだが。
その脅迫を受けて、玉兎たちは怯えている。
それもそのはず。先ほどまで自分より強い強者たちを相手に逆転劇をして見せたのだから。弱者が強者に怯える、当然の絵面であった。
「―――――」
零夜はしばらく待つが、玉兎たちはただ震えてなにも答えない。
今現在の状況は、二つの要因が混ざり合ってできている。
一つは「恐怖」。圧倒的強者を目の前に、「殺されるのではないか」と言う恐怖に駆られているため。
もう一つは「他人任せ」。怖くて話したくないため、誰かにその役割を押し付けているのだ。
このままではらちが明かないため、特定の玉兎を指名することによって、話を進めることにした。
「じゃあ…そこの玉兎」
「わ、私ですか!?」
適当に選んだ玉兎。
選ばれた玉兎は随分と驚いていた。そしてそれとは対照的に彼女以外の玉兎たちは心から安堵の表情を浮かべていた。
「他の奴らが喋らねぇからに決まってるだろ。―――吐くもん吐け」
「わ、分かりました…」
―――従うしかない、とその玉兎は次々と事の内容を説明した。
まず、その玉兎から語られたことは、想像できたようで、できなかったことだ。
玉兎たちの待遇が変化したのは、あまりにも突然の出来事だった。
ある日を境に、とある月の重役が玉兎たちの本格的な奴隷化を宣言したのだ。当然、玉兎や一部の者たちは反対したが、他の重役たちもその意見に賛成だったらしく、実質無理やり案が可決されたらしい。
そこで、その日を境に始まった地獄。
と言っても、玉兎たちに課せられた強制任務と言ってもいい仕事が追加されたけだけであった。
―――だが、その内容がかなりの問題だった。
その内容とは、『性欲処理』。要するに完全な『道具』として扱われることだった。
毎日毎日犯される日々。敵が出てこれば徴兵され、何もない日はむさ苦しい男たちに抱かれる日々を語っていた。
「――――」
それを聞いて、零夜はだんまりとしたままだ。
だが、その心の内には、様々な悪意が蔓延っていた。人を人とも思わない悪行。その行動に、腹が立っていた。
もう本格的に月は滅ぼした方がいいのではないか。そう思うほどに感情が暴走していた。
「――――……落ち着け…」
だが、その感情を己で封じ込めることに成功する。
それに第一、人を人とも思わないこと…大虐殺を、もうとっくにしてしまっている。周りを許せないで、自分だけが許されるなんてこと、あってはならない。
結局自分もそいつらと同じド畜生へと身を堕としたのだ。クズを殺すためにクズになる。これほど道理に適っている言葉があるだろうか。いやない。少なくとも零夜はそう思っている。
―――そして、落ち着いていると、一つの疑問が、当然の疑問が浮かんだ。
「おい、ちょっと待て」
「な、なんですか?」
「月の民が…生殖行為?何をバカな第一、そんなことすれば穢れが出るに決まって―――」
「そうなんです。私たちは特に穢れがあろうとなかろうとどうでもいいんですが、重役の人たちは違います。でも、それなのに―――」
その重役たちは、『穢れ』の発生の元となる行為を全員が許した。
これには、流石の零夜も驚きを隠せなかった。
月の民は『穢れ』を極限まで嫌っている。そんな月の民が、進んで、しかも全員が穢れの発生を促す行為をするなど、誰が想像できるだろうか?
「―――いや、にしても重役が全員それを可決したなんて、ありえない。反対した奴はいなかったのか?」
「―――いるにはいました。その方は私たちの指南役をしていて、いつもきつい稽古をする方でしたね」
それを聞いて、零夜の頭にある一人の人物が浮かんだ。
神を降ろし、その身に宿す剣士―――。
「
「依姫様を知っているのですか!?」
「俺が一方的に知っているだけだ。あいつの性格は熟知している。………だが、綿月豊姫がアレってのはどういうことだ?」
深く掘れば掘るほど湧き出る疑問。
零夜の知る『原作』では、綿月豊姫の性格はあんなものではなかったはずだ。本来の彼女の性格は、敵を目の前にすればカリスマ性が発揮されるものの、天真爛漫な性格で、見た目とは裏腹にかなりお転婆で、玉兎には甘い性格をしていたはずだ。
それに、玉兎には甘いと言うところも重要だ。玉兎と対等に接する彼女の姿と、あの姿。どう見ても同一人物とは思えなかった。
彼女の性格を知っていた零夜も、心の底ではただ綿月豊姫に化けた別人ではないかと思ったほどだ。
「俺の調べだとあいつの性格じゃあ玉兎にかない甘かったはずだが」
「そうです。私たちに優しかった豊姫様が、どうして…」
段々と語っていく玉兎の目に、涙が浮かべられた。
よく見ると、それは周りの玉兎たちも同じだ。大方、
同時に、零夜はその性格の変化に疑念を持った。
「―――いつから、そんなになった?」
人の性格とは、そんなに急に変わらない。その原因は本質にある。本質は急には変らないため、同時に性格もそんなに急には変わらない。
これまでの話を聞いて、不審に思ったのはそこだ。最初からその性格だとしたら納得できるが、いかんせん納得できる要素などどこにもない。
せめて、時期さえ分かれば―――。
「その議案が可決されて、一か月も経たずに……」
「いくら何でも早すぎるな…」
人のすぐには変らない本質が、そんなに早く急に変わることはおかしすぎる。
おそらく、なんらかの『能力』による干渉が起きていると思ってもいいだろう。でなければ、正確の急変に説明がつかない。
「じゃあ、その時に変わった―――なにか変化があったか?」
「変化……とは言い難いかもしれませんが、この出来事が起きた要因となったヤツの、ことでしょうか?」
その言葉を発した瞬間、話をしていた玉兎だけではなく、周りの玉兎たちから今までとは違う感情――憎悪だ。憎悪であふれていた。
その怒りの矛先は、この玉兎が言う『ヤツ』に向けられているのだろう。
「―――で、そのヤツってのは?」
今回の最悪な大変革が起きた要因である人物。
零夜はとても気になった。もしかしたら、その人物が今回のことに関しての手がかりを持っていると思ったからである。
だが、次の玉兎の言葉で、零夜の期待は砕かれることになった。
「そいつは、【綿月依姫】様の元部下にして、私たちの元仲間―――【レイセン】です」
「―――は?」
* * * * * * * *
零夜は困惑した。多分ここ最近で一番の困惑だろう。
レイセンが今の状況を造った主犯?あんなビビり越しの兎が?んなわけないだろう。
「おい、俺は冗談は好きじゃねぇんだ。本当はなんなんだ?」
「嘘じゃありません!私たちの扱いが酷くなった理由は、本当にレイセンが原因なんです!!」
威圧を放っても、ここまで言うと言うことは、おそらく本当なのだろう。
だが、零夜は本当だと分かっても信じられなかった。あんな弱い兎が元凶だなんて――。
精々、考え付くことは逃げたことだけだ。
「―――いや、
「そうです!あいつが逃げたせいで、私たちがこんな目に…!」
話している玉兎の目はすでに涙目だ。だが、その顔には憎悪が浮かんでおり、悔し涙を浮かべていたのだ。
それに、『逃げたから』と言う理由でも、十分に名目としては役に立つ。「玉兎は弱腰だ。よって裏切らせないために玉兎の扱いを酷くするぞ!」とでも言えば十分に話がまかり通っている。
だが、地上でレイセンに対して尋問した時、レイセンはそんなことは言っていなかった。
シロもレイセンから情報を抜き取っても、月の内情が変わったなどとは言わなかった。
それに玉兎たちには遠くの玉兎と通信する能力を持っており、レイセンがそれを知らなかったとは思えない。
だとしても、あの様子だと故意的に言わなかったことは考えられないため、可能性一つ。
彼女は自分が逃げた程度で月の内情がここまで変わるとは予想もしなかったのだろう。だが、そんなこと誰が予想できるだろうか?零夜だって聞くまで予想できなかった。
「だが、玉兎が一匹いなくなった程度でそこまで変わるか?」
「そこは、私たちも疑問に思ってましたけど、そんなのわかりません」
玉兎たちが大量に大脱走したのだとしたら話はそういう風に変わるのもおかしくはないが、たかが一匹いなくなった程度でそこまで変わるのはあまりにもおかしすぎる。
考えうるに、この議案を提示した人物は、『口実』が欲しかったのだと思う。玉兎が逃げたと言う口実が。そして、それが実現したために事に及んだと考えるべきだろう。
「―――なるほど。で、その議案を提示したのは誰なんだ?」
「その人物は、綿月豊姫様の旦那様であらせられる、【綿月
「―――臘月?」
始めて聞く名前に、零夜が首を傾げる。
いや、一度だけ聞いたことがあった。確かプロクスと豊姫の会話に、その名前が出ていたはずだ。あれは豊姫の旦那の名だったのか。
確かに『設定上』豊姫は夫婦で、一人息子がいる。
だが、臘月と言う人物は、『原作』には登場していなかったはず。―――なんだかきな臭い。
「臘月様は私たち玉兎の待遇をさらに酷くし、さらに周りを味方につけ無理やり可決させました」
「―――(能力の、干渉か)」
先ほども過程した通り、月の重鎮たちがそんな案を通すはずがない。
だとしたら、自分の言いなりにするしかない。そこで、『能力』の干渉が、必ずあるはず。
「穢れはどうする?」
「それも、臘月様が解決なさりました。なんでも、そういった能力を持っているようで…」
「(おかしいな。穢れない能力と、脳に干渉する能力は、全く別物のはずだ)」
零夜は臘月の能力を『穢れない能力』と過程して考える。
だが、もしその能力者だとしたら、『脳に干渉する能力』はなんだ?これにも考えられる可能性は二つ。
その臘月と言う人物が、能力を二つ持っていること。
そしてもう一つは―――
「―――協力者」
この可能性。協力者がいる可能性。
一人ではこんな月の内情を変える計画は過酷すぎる。絶対に誰かの手を借りたいはずだ。
「で、そいつの能力名は?」
「そ、そこまでは…私たちは完全な奴隷なので…」
流石に自分の能力を公開するなどと馬鹿な真似はしなかったか。
だが、得られたい情報を得ることはできた。
話をまとめると、過去にレイセンが逃げたことによって綿月臘月が玉兎を完全に奴隷として扱うことを決定。
それを何故か月の重鎮たちは可決して、玉兎の本格的な奴隷化が開始された。
穢れの心配もあったが、それは臘月の能力で解決。月の重鎮たちが何故か可決したのも、『能力』による脳への干渉だと思われる。
そして、正確の変わった綿月豊姫。
これも『能力』による脳への干渉だと思われる。脳へ干渉するのなら、性格が変わったとしても別に不思議ではない。
これで分かったことは、臘月には十分に注意しなければならないということだ。
レイセンがどうして月の現状を知らなかったかは不可思議だが、ここでその話をカミングアウトすると、話がややこしくなりそうなので、今は伏せておくことにする。
「話は大体理解した。で、その臘月ってのは、月の都にいるのか?」
「そうなんですけど―――」
玉兎の言葉の端切れが悪い。
なにかまだあるのだろうか?
「よ、余計なお世話だと思うんですけど……お仲間さんを、助けなくていいんですか?」
「は?」
仲間?零夜はすぐにあの二人の顔が浮かぶ。
シロが苦戦するなどとは考えられないため、ルーミアか。
何故玉兎たちがそれを知っているのかと思うが、この月には通信機器があるんだ。情報共有システムがあったとしてもおかしくない。
「それがどうかしたのか?」
「えっーと、その……じ、実はですね?この辺り一帯には、『防音フィールド』が張られているんです」
「防音フィールド?」
始めて聞く単語だ。言葉の通りなら、音を遮断するフィールドだ。
零夜は玉兎の言葉に耳を傾け、続きを聞くことにした。
「ヘプタ・プラネーテスのプロクス様らが、『別の場所での戦闘音が耳障りでうるさい』とのことなので、張っていたんです」
「―――――」
ここまで聞いて、ようやく理解した。
よくよく考えれば、
ただ聞き逃していただけかと思っていたが、まさかそんなからくりがあったとは――!
音が遮断される。つまりはフィールド外の情報が完全に得られなくなる―――!
「今すぐ解除しろ!!機材はどこだ!?」
「じょ、に、荷物の中に…!」
それを聞いて、冷静さを失った零夜。
玉兎からその機材の場所を聞きだす。周りを見ると、荷物などが一か所に集まっている場所を見つけた。
「(あれを最初に確認しておくべきだった…!)」
零夜は荷物を漁って中身を捜索する。
「どんな見た目だ!?」
「ちょ、直径30センチくらいの正方形の―――」
「これか!!」
玉兎の証言通りの物を見つけた。その機材は細かい回路のようなものが刻まれており、その回路には青白い光が漂っていた。
零夜は、すぐさまそれを握力で握りつぶす。
機材は効果を失ったように、光が消える。
―――そして、それとともに爆発音が聞こえたのは、すぐのことだった。
「な…ッ!?」
あの爆発地点、あそこは確か最初に分岐したところだったはずだ。
と、言うことはルーミアが――!
それに、あの爆発だ。ただで済むはずがない。ルーミアはあんな爆発を起こす能力を保有していない。つまりは、敵の攻撃。
「クソがッ!!」
零夜はビートチェイサー3000を召喚し、またがる。
エンジンをつけると、その馬力を用いて爆発地点へと向かっていくのであった―――。
* * * * * * * *
―――時間は、さらに遡る。
全身白装束の男が、月面を歩いていた。
男はその手に紫色のエンブレムがついた剣を腰に携え、余裕そうに闊歩していた。
「―――驚くほどなにも出てこないな。流石にここまで暇だと、欠伸がでる」
その口から出るのは、男らしい貫禄のある声。
男は両手をパーカーのポケットにつっこみ、辺りを見渡す。
辺り一面月面。それ以外になにもなく、どうしても暇だと感じてしまう。
「僕はハズレクジでも引いたのかな?―――ルーミアちゃんはともかく、r……クロもとっくに戦闘が始まってるっぽいし」
どこから情報を仕入れたのか分からないが、シロはすでに仲間の二人が戦闘に突入していることを悟っていた。
「僕って幸運者なのに、ハズレを引くなんてなぁ…」
「早く敵と遭遇しないかなぁ」などとぼやく。
――――そして、その願いは早くも成熟した。
突如、シロの目の前に炎の壁が作られたのだ。その炎は綺麗な一閃を描きながら現れ、その登場の仕方に、シロは胸を躍らせた。
「あ、ようやく来た!いやぁー…待ったよ」
敵の登場だと言うのに、なんと楽しそうなのか。
第三者の目からしても、異常でしかないこの状況。
そんな中、炎の壁が消え去ると、そこには重火器を装備した玉兎が複数、軽装を纏った男性二人。そして、その先頭に立つ、剣を地面に突き刺し、その目でシロを威嚇している女性。
その女性の容姿は、薄紫色の長い髪、黄色のリボンを用いて、ポニーテールにして纏め、紫がかった赤い瞳の色。
半袖で襟の広い白シャツのようなものの上に、右肩側だけ肩紐のある赤いサロペットスカートを着用した女性だ。
しばらくの沈黙の後、女性は口を開く。
「まず、始めに聞こう。地上の民よ」
「あーはいはい」
シロの適当な変事にまゆを顰めるが、すぐに表情を戻し、問いかける。
「貴様らはなんの目的があって月を襲撃した?」
「わざわざ敵に答えるワケないじゃん。バカなの?」
「なッ、貴様「己貴様ァ!!依姫様を愚弄するのかぁ!」」
「せっかく依姫様が対話をしてくださっているのに、それを台無しにするとは!」
彼女が何かを言いかけた時、突如男の一人が大声を上げた。
それに共鳴するように、もう一人の男もシロに対して怒りの声を上げる。
「いやぁ、敵として当然のことを言ったまでだけど?ていうか君たち誰?」
「私たちは―――と、名乗りたいところだが、まず俺達が名乗る前に、お前が名乗るのが礼儀であろう!」
「―――(何この人たち?まぁいいや)僕の名前はシロ。たぶん地上で最強」
「最強とは驕りおって!ならば月での最強は綿月家と月夜見様だ!」
―――本当になんなんだろう。
そう思いながら、男たちの言葉を完全に無視してシロは依姫と呼ばれた女性に声をかける。
「なんか君との方が話が通じそうだ」
「―――そうですね」
お互いに生まれた、謎の感情。憐み、とでもいうのだろうか。わからない。
話を戻し、彼女は再び目を強めてその目をシロに向ける。
「せっかくなので、名乗りましょう。私の名は【綿月依姫】。月の都の防衛を担っている者です。――では、あなたが月を襲撃した理由は?」
「ノーコメントで」
「そうですか―――。では、お二人とも」
「「畏まりました!」」
依姫の相図とともに、二人の男はそれぞれが虚空から武器を取り出して構える。
一人の男は巨大なハンマーを、そしてもう一人の男は剣、槍、銃など…。さまざまな武器を所有していた。
「虚空から物を取り出す……それも月の技術ってワケかい?」
「そうだ。偉大なる依姫様の姉であらせられる豊姫様の旦那である臘月様が考案された技術だ」
「彼がいたからこそ、我々はさらなる発展を遂げた」
そして、二人から語られる謎の自慢話。
どうして他人の功績なのに自分が達成したかの如く話せるのだろうか?
「(―――友達がすごい功績残して自慢したくなる心境かな?)自慢話しているところ悪いんだけど、会ったことのないヤツの自慢話されても困るんだけど」
「なにィ!?臘月様の偉業を聞いて、なにも思わないだと!?」
「なんたる侮辱だ!」
―――話聞いてないな。
本気でシロは呆れた。まぁこの二人を見るに根はいい奴なのかもしれない。ただ尊敬している人物のことになると暴走するだけで。
よく見ると、依姫の顔にも呆れの表情がくっきり写っていた。彼女もこの二人には手を焼いているのだろう。
多分そんなタイプだろうと自分の中でシロは納得させる。
「あーはいはい。で、君らの名前は?せっかくだから聞いておこうと思う」
「話を聞けぇ!何故臘月様の話をしている最中に我々のことなど「いいから話しなさい」で、ですが依姫様!」
流石に我慢の限界なのか、依姫が二人を制して止める。
「これは命令です。早くなさい」
「か、畏まりました」
二人は「ゴホンッ!」と咳をすると、大声で名乗りだした。
「俺の名前は『金』の【クリューソス・アウルム】!『ヘプタ・プラネーテス』の一人だ!」
「同じく『土』の【アンモス・サブルム】!『ヘプタ・プラネーテス』の一人だ!」
そう。この二人こそ、『ヘプタ・プラネーテス』の二人であった。
シロはその単語を聞いて、不思議そうに首を傾げる。
「ヘプタ・プラネーテス…?
「当たり前だ!俺達ヘプタ・プラネーテスは、綿月家直属の存在!そこら辺の有象無象とはワケが違うのだ!」
「そして、俺達二人は依姫様の親衛隊だ!」
シロから見れば、二人はどうやら綿月家に心酔しているように見えた。
それは今までの話の内容から、歴然だった。
「ヘプタ・プラネーテス…ヘプタ・プラネーテス…ヘプタ・プラネーテス…」
「おい、聞いているのか!?」
「あぁ。ごめんね。少し考え事しててね。―――一つ、聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「君たちの名前は、【クリューソス・アウルム】と【アンモス・サブルム】でいいんだよね?」
「そうだ。それがどうした」
先ほど語ったはずの名前を、もう一度聞き直したことにクリューソスは疑問に思う。
しばらくの沈黙の後、シロが再び口を開く。
「一貫性が見当たらない…君たちの仲間――ヘプタ・プラネーテス他にもいるの?」
「あぁいるぞ」
「兄弟、あまりこちらの情報を語るな」
「この程度なら問題ないだろう。ですよね、依姫様」
「―――えぇ、この程度なら問題ありません」
依姫の許可をもらい、クリューソスは話の内容を淡々と語っていく。
ヘプタ・プラネーテスは7人いるらしく、今いるクリューソスとクロノス、そして最初にいた部隊の隊長。そして他にも四人いることを知った。
「なるほどね……にしても、直属の部隊が出て来ていいのかい?」
「私は月の防衛を担っているもの。防衛のために自身の部隊を動かすことになにか問題でも?」
「ないね。実に合理的な判断だ」
「では…おしゃべりはもうそのくらいでいいですよね?」
依姫がそう言うと、二人は殺気全開で武器を構える。
今までの浮かれているような感じとは違う、完全な戦闘モード。
依姫の命令で、動く準備はとっくに出来ていたのだ。
「―――わざわざ時間稼ぎに付き合ってあげたのです。なにか策はあるのでしょうね?」
「なんだ。そんな風に思われてたんだ」
「違わないでしょう?戦場で喋るなど、そんな理由しかありませんので」
依姫は、自らの勘がそう告げていた。
相手にむやみに時間を与えれば、何かしら策を転じられる。
だが、それでもあえてその考えに乗ったのは、自分の圧倒的強さのため。
自分は決して手を抜かない。常に本気を出して挑む。手を抜くなど持っての他。その考えがあったからこそだ。
―――だが、本人はそれが一番の慢心であることは、気づいていない。
「違う違う。確かにそういう解釈もあるけど…。一番の本命は、
「なに?」
その答えに、一番動揺したのは依姫だ。
情報収集だった?あれが?ただ仲間の数と名前―――ヘプタ・プラネーテスについて語っただけだ。
あの程度、依姫にとっては痛くもかゆくもない情報だった。
だが、あのシロの態度。あれは確実に満足――とは言っていないような感じだったが、なにやら納得しているような感じだった。
―――そして、そんな沈黙がシロによって破られる。
「―――【プロクス・フランマ】」
「ッ!!」
それを聞いた途端、依姫、クリューソス、アンモス、そして今まで静観を決め込んでいた玉兎たちですら、シロの言葉に驚愕していた。
これは、誰にでも分かっていた。なにせ、今シロが言った言葉は―――。
「なぜ貴様が、プロクスの本名を!?」
紛れもない、ヘプタ・プラネーテスの『火』のプロクスの本名だったからだ。
これには、流石んお依姫も驚きを隠しきれない。最初から知っていたとするのならなんとなく理解できるが、それでは『情報収集』と言った意味は?では、それですら嘘なのだかろうか?
依姫には、分からない。
だが、そんな依姫の思考の速度など顧みず、シロはたて続けに話す。
「【ヒュードル・アクア】。【タラッタ・マル】。【デンドロン・アルボル】。【ウラノス・カエルム】。―――そして、君たち。以上
―――その時、フードの下にあったシロの顔が、とても愉快そうに笑みを浮かべていた。
他のヘプタ・プラネーテスの名前など、一切伝えていないはず。なのに、なぜすべてを知っているのか―――。依姫の脳内に、ある一つの可能性が思い浮かんだ。
「―――最初から、知っていたんですか?」
「―――どういうことかな?」
「最初から、知っている上でこの話を持ち掛けたのですか!?」
もう、彼女に冷静さなどなかった。
シロが今言った発言は、彼女にとって予想外のオンパレードだったからだ。
「それも違う。僕も今さっき理解したからね」
「そんなバカな話がありますか!」
そんなことあり得ない。
もしそれが本当だとすれば、あの断片的な情報だけでどうやって他のヘプタ・プラネーテスの名前と家名を言い当てたと言うのだ。
「本当本当。―――僕だって、
本当に意味が分からない。
本当にこの男はなんなのだ。言葉の意味も、その存在も、全てが謎過ぎるこの男に、依姫はただただ恐怖しか感じなかった。
「―――二人とも、彼を攻撃しなさい!」
「「はい、畏まりました!!」」
何としてでもあの男を捉えて情報を吐かせる。
そのことだけで頭がいっぱいだった。
―――だからこそ、最後まで失念していた。
クリューソスの武器が宙を舞う。それはまるで操り人形のごとく精巧な動きをしていた。
アンモスがハンマーを地面に叩くと、アンモスの正面。シロの立っていた地面だけが大地震のごとく揺れる。
「俺の能力は『金属を操る能力』!すべての金属を自由自在に操れる!これでお前の心臓でも内臓でも貫いてやる!」
「俺の能力は『土を操る能力』!これを使えば土なんて自由自在!依姫様に振動なんて微塵も与えねぇ!」
それぞれが手の内を明かし、シロに攻撃を仕掛けた。
―――だが、それも一秒前の話。
「まだ話の途中なんだけど」
「ガ…ハ…ッ!!」
肉が貫かれ、骨が砕かれる音が、鈍く響いた。
なにせ、突如シロの周りから出現した大量の武器が、クリューソスの体と言う体を貫いたからだ。
そんな光景を、遅れてアンモスは見た。
「え……?」
アンモスは遅れながらも理解した。クリューソスは死んだ、と。
だからこそ、反応が遅れたのだ。異常に気付くのが、遅すぎた。
「な、なんだ!?」
アンモスの周りには、大量の土砂が漂っていたからだ。
自分はこんな土砂操ってなんかいない。と、言うことは―――。
「君らと話しても、何の情報も得られなそうだから、もう死んでくれ」
そんな恐ろしい単語を淡々というシロに、アンモスは恐怖を感じた。
だが、こんなところで負けるわけにはいかない。第一、自分にとって土の操作は十八番だ。あの男は自分の殺め方を間違えたのだ。
わざわざ説明してやったのに――と、内心でシロをバカにした。
「土の操作は俺の得意分野だ!誤ったなぁ!」
アンモスは能力を行使する。
―――だが、土砂は依然とアンモスの周りを漂っているだけだ。
「な、操作できない!?どういうことだ!?」
「君程度の操作技術で、僕から操作権を奪うなんて、無理な話だったんだよ。以上、死ね」
「まっ―――!」
シロが手を掲げ、手を握ると、それに反応するようにアンモスの周りを漂っていた土砂が一斉にアンモスを中心にして、球状に固まる。
シロが手を握る力を強めると、声にならない声が土の塊から聞こえると同時に、大量の血液が土の塊から垂れていた。
クリューソス・アウルム 出血死
アンモス・サブルム 圧死
二人の生は、今ここで尽きた。
「―――――」
その光景を見ていた依姫は、ただただ絶句するしかなかった。
あの二人は決して弱くはない。弱かったら、綿月家直属の部隊などやっていないのだから。
ただ、あの男が
「さて、次は君の番だよ?綿月依姫」
「―――私の番、ですか」
それを聞いた依姫は、刀をシロに向け、こう言い放つ。
「確かにあなたの力量を見誤っていたのは事実です。しかし、私は八百万の神々をこの身に降ろし、その力を扱うことができる。いくら強かろうがあなたも人間。私には勝てません」
「慢心だねぇ」
「それは重々承知しています。ですが、それはあなたにも言えることではないですか?」
「ご名答、確かにそうだね」
お互いを皮肉っている。
そんな二人の背中には、謎のオーラが発せられているように見えるのも、気のせいだろうか?
それほどの威圧が、二人の間では存在していた。
―――そんな時、突如シロの背中を爆風が襲った。
「―――なにあれ?あそこは……ルーミアちゃんが戦っている場所だな」
「お仲間が戦っているのですか。では、その方はもうすぐ死ぬでしょう」
「―――なんだいその根拠は?」
シロの纏う雰囲気が明らかに悪くなる。
だが、そんなことお構いなし依姫は言葉を続ける。
「何故なら、あそこで戦っているのは、ヘプタ・プラネーテス最強である、ウラノスだからです」
「ウラノス・カエルムか。で、それがどうしたの?」
「―――これを聞いて、よく平然でいられますね。ウラノスは強い。あなたのお仲間ももうじき死ぬでしょう」
「――――あぁ、それなら大丈夫だよ」
「……どういうことですか?」
――――本当に何を言っているんだこの男は?
仲間が最強と戦って、死ぬかもしれないと言われて、何故ここまで平然としていられるのか。
依姫の心に疑問が尽きない。
そんな時、シロの口から答えが返ってきた。
「―――なぜなら、お姫様を助ける役目は、王子様だって、相場が決まっているからね」
ゆっくりと喋るシロは、全身が白い服とサンサンと光り輝く太陽と同調して、まるで圧倒的力を有する『神』のようだったと、後にとある玉兎は語った―――。
―――そして、彼の言葉は後に現実となる。
今回のシロのイメージCV 【速水奨】
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