東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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どうも、龍狐です。

 ここから事前に言っておきます。
 この作品、結構他の原作キャラに対しての扱いが酷い時があります。

 今回はかなり酷いです。特に『永夜抄』のキャラが推しだと言う人はブラウザバックを推奨します。

 それでもいいよと言う人だけ、この先へ進んでください。
 もし見終わって、気持ちが悪くなってもこちらは一切の責任も取りませんしアンチコメも受け付けません。



―――いいですか?



 それでは、どうぞ。






32 最悪な初対面

―――ウラノスの死体を見つけた。

 シロから受けたカミングアウトに、零夜とニュートンは敵が死んだことに喜ぶのか、せっかく立てたはずの作戦が台無しになったことに残念そうにした―――と言うことはなかった。

 一番始めに浮かんだ感情は、『驚愕』。誰が、どんな方法を用いてウラノスを殺したのか。

 あんな鉄壁の防御を、どうやって貫通したのか。いや、もうそれは検討はついている。

 問題は、誰がウラノスを殺したか、だ。

 

 

「お前が殺ったんじゃないのか?」

 

「まさか。僕は先に行ったでしょ、『ここに来る際、ウラノスの死体を見つけたんだ』って」

 

 

 シロの呆れの感情を読み取るに、シロは嘘をついてはいない。

 となると、確実にウラノスは殺されたとみて間違いない。

 

 

「一体、誰がそんなことを…私たち以外にも、襲撃者がいたのか?私たちが騒ぎを起こして、それに乗じて月を襲撃した、別の誰かが」

 

「いいや、それは考えられないな。俺の能力で「穢れ保有者」で検索して、情報を俺の頭に繋げた。俺達三人以外それは見つけられなかった。だから、それはない」

 

 

 零夜の『繋ぎ離す程度の能力』の応用、「情報」を「頭」に『繋げる』ことで情報を仕入れることが可能だ。

 ただ、欠点としては繋げるにも時間が掛かるため最新性には優れないことだ。

 

 

「つまりは、内部のヤツの可能性が高いってことだ。シロ、お前―――『観た』か?」

 

「ごめん。君が心配で急いでたから視てないや。でも一応、『回収』はしてある」

 

「仕事が早いな…お前はいつも」

 

「ありがとう―――と、言いたいところだけど、できれば使いたくないんだよねぇ…()()

 

 

 二人の間だけで話が勝手に進んでいく。

 『観た』とは、『回収』とはなんなのか。そんな疑問をすっぽかして二人の話はとんとん拍子に進んでいった。

 

 

「二人は何を話しているかな?」

 

「少し黙ってろ」

 

「あ、うん…」

 

 

 零夜からの圧を受け、ニュートンは黙ることにした。

 二人が黙った後、シロはフードで隠れて見えない目を閉じ、集中し始めた。

 シロは何を視て、何を感じ取っているのだろうか?それを知るのは、本人のみ。

 

 しばらくした後、シロはゆっくりと目を開けて、零夜を見た。

 

 

「『観た』とき、最後―――『仮面ライダー』に殺されてた」

 

「―――やっぱり、居たか」

 

 

 シロの言葉により、確信と確証を持てた、『仮面ライダー』の存在。

 零夜はそれを聞いても、あまり驚きはしない。なにせ、ウラノスの口から仮面ライダーの存在を示唆した言葉を聞いたから。

 これで、月に『仮面ライダー』に変身可能な『転生者』がいることが確定した。

 

 

「他にはそのライダーに関してなにかないのか?」

 

「ごめん。流石の僕でも()()は長時間使いたくないから、死に際しか『観て』ない」

 

「あぁ…まぁそれでいいか。で、どんなライダーだったんだ?」

 

 

 ここが一番重要だ。

 仮面ライダーと言っても、種類も数も多数。どんな姿をしていて、どんな能力を持っているのか、これが一番知りたい。

 零夜はライダーの知識ならこの1000年間で大量に保有している。故にすべてのライダーのことを知っていると言ってもいい。

 

 

「―――鳥のような、能力を持ったライダーだった」

 

「鳥?」

 

「あぁ。翼を持って空を飛んでいたし、飛行能力があることは間違いないだろう」

 

「それならあまり脅威にはならないが……鳥、か…。そんなライダー、いたか?」

 

「考えうるには―――」

 

 

 シロは考えられる様々な鳥がモチーフのライダーを提示した。

 【仮面ライダーファム】【仮面ライダーオーディン】

 【仮面ライダーブレイド、ギャレン・ジャックフォーム】

 【仮面ライダーダブル・ゴールドエクストリーム】

 【仮面ライダーオーズ・タジャドルコンボ】

 【仮面ライダーウィザード・オールドラゴン】

 【仮面ライダーシンスペクター】

 【仮面ライダービルド・ホークガトリング】

 【仮面ライダービルド・フェニックスロボ】

 

―――考えられるには以上である。

 

 

「だけど、僕が視た『ウラノスの最後』には、どのライダーも該当しなかったな…」

 

「じゃあ、それ以外のライダーってことだよな…。だが、他にいるか?」

 

「――――もしかして、()()()の方か?確かにアッチはあまり調べてなかったけど…」

 

「―――なにか言ったか?」

 

「いいや、なにも」

 

 

 シロの小言に零夜は反応するも、流石にこちらに集中していたために聞き逃してしまった。

 だが、シロが否定したので零夜はそのままスルーし、考えることに集中した。

 

―――が、やはり考えても考えても可能性は出し切った。他の可能性など出てくるはずもなかった。

 

 

「あー駄目だ!いくら考えても無理だ!クソっ、鳥のようなライダーなんて他にいたか!?」

 

「―――もう、考えても仕方ないよ。とりあえず対策は後から考えるとして、聞いてほしいことがあるんだ」

 

「なんだ?」

 

 

 零夜が聞き返した後、シロは雑に地面に置いた依姫を再び担いで、違う方向を向いた。

 

 

「でも、この話はウラノスの死体を見つけた場所でしよう。その方が手短でいいんだ」

 

「―――分かった。で、そいつはどうするんだ?」

 

 

 零夜が指を指した、今だに反応を示さない依姫。心ここにあらずの状態で、虚ろな目をしている彼女。一体、何があったと言うのだろうか?

 零夜の記憶では生真面目でプライドの高い人物だ。それが、どうしてこんなになってしまったのか。

 だが、今考えるのはそれではなく、彼女をどうするのか。

 

 

「そうだな―――。彼女には聞きたいことがあるし、ショック療法でもするか」

 

「は?」

 

 

 シロの言っている意味がますます分からない。

 確かに今の依姫は心の方が重症だ。だが、今それに何の意味がある?

 

 だが、シロの次の一言が、嫌でもその意味を理解させた。

 

 

「零夜。そう言えば彼女のお姉さん、どうした?」

 

「―――――」

 

 

 微か、依姫が自らの意思で動いた。

 それを見て、零夜もようやくシロの意味を理解した。

 シロは、『姉の死』と言う事実を妹の依姫に叩き付け、強制的に心を復活させようとしているのだ。

 だが、ショック療法はその人の心の傷をさらに抉ると言う欠点もある。そのため、彼は迷う。本当に言っていいのかと。

 彼女にとって、姉はたった一人の姉だ。そんな人物が、もういないと知ったとき、彼女はどんな反応をするのだろうか。

 泣き叫ぶ?いや、それは彼女の性格的にもありえない。だとすると、一択だ。激情に飲まれ、怒り狂う。それしか考えられなかった。

 だからこそ、零夜の答えは―――。

 

 

「―――殺した」

 

「――――――――」

 

 

 その罪を背負い、悪人への一歩の糧にしよう。

 悪とは罪だ。必ず背負わなければならない罪を、恐れてどうする。

 恨まれる覚悟なら、とっくにしている。でなければ、悪人などは務まらない。こんな程度で躓いていたら、()()()()を達成することなど夢のまた夢だ。

 

 零夜の頭によぎる、これからの未来。

 依姫が怒りの形相で零夜に殴り掛かろうとする未来。

 それを、十分に覚悟した。

 

―――だが、現実は違った。

 

 

「―――そう、ですか…」

 

 

 ようやく、喋った。果物の果汁をギリギリまで絞り出したような、そんな薄い声が、虚しく響いただけだった。

 おかしい。なんだその反応は?姉を殺されたんだ。もっと怒ってもいいはずだ。目の前に、仇がいるのだから。なのに、依姫は対して興味もなさそうに、ただ受け流した。ただ、それだけだった。

 

 

「おい……なんだその反応は!?」

 

 

 零夜は依姫の胸倉を掴んで、自分の顔に寄せた。

 完全に立場が逆になった。本来なら、掴んでいる方が依姫で、掴まれている方が零夜だったはずだ。

 だが、完全に立場が正反対だ。どうして、どうして肉親が殺されたと言うのに、そんなどうでもよさそうに出来るのだ。

 

 

「肉親が!姉が!殺されたんだぞ!?俺が、殺したんだ!俺を恨むとか、憎むとか、そんな感情はないのか!?」

 

「ちょ、落ち着いて―――」

 

「お前は黙ってろ!」

 

 

 ニュートンの静止を聞きもせず、ただ零夜は依姫に対して怒鳴った。

 どうして、そんなすまし顔ができる。どうして恨もうとしない。どうして憎もうとしない―――!

 恨んでいいんだ。憎んでいいんだ。それなのに、なぜそうしない―――!

 無数の疑念が、零夜の中で渦巻いた。

 

 

「―――もう、あの人は、ではありません…」

 

「―――――」

 

 

 『姉』じゃない?依姫の言っている意味が理解できない。

 零夜は彼女の『設定』を知っている。間違いなく豊姫は依姫の姉だ。それを、姉じゃないだと?

 

 

「姉じゃねぇってどういうことだ!?」

 

「もう、昔のお姉様は、戻らないんです……。だから、姉じゃない」

 

「昔の…?」

 

 

 玉兎の話を思い出す。

 昔の依姫は、『原作』通りの性格をしており、玉兎たちにも優しい、玉兎たちからすれば人格者だった。

 だが、月の大変革が始まってからと言うものの、豊姫の玉兎の扱いは奴隷同然になっていった。

 そして、その原因をなんらかの能力で洗脳されたと過程したはずだ。

 

 だから、依姫は豊姫のことを「もう姉じゃない」と―――。

 

 

「―――そう、か。……ならいい。、行くぞ」

 

「――――そうだね。僕についてきて」

 

 

 

 シロはその言葉を皮切りに依姫を担ぎ、二人はシロの後を追っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 ―――目の前に、グチャっと潰れた、真っ二つになった死体が映った。

 その死体の顔は、なんといえばいいのか。とても苦しそうに歪んだ顔で死んでいた。他殺されるのは十分ショックだ。その際の顔なのだろう。

 その死体―――ウラノス・カエルム、だったものを零夜は見て、思わずため息をついた。

 

 

「ウラ、ノス……?」

 

 

 目の前の、ウラノスだったものを見て、依姫の擦れた声が虚しく耳に入っていく。

 

 

「仲間に殺されたか…。禄な死に方じゃなかっただろうな」

 

「まぁ実際そうなんだけどね」

 

 

 彼の死体は今もそのままだ。

 誰も動かしておらず、触れてもいない。つまりは生のまま。死体に生と言う表現を使うことはおかしいが、この状況じゃ誰もそう思わないだろう。

 

 

「『鳥のライダー』に殺されて、そのまま…。月の都も近いな」

 

 

 零夜が見据える先には、月の都。

 半透明の膜で覆われており、とてもじゃないが正攻法で攻略するには至難の業だ。

 ちなみに、ここに来る際、三人は零夜の能力で「他人の視界・センサー」から『離れた』ため、他人に認知されなくなっている。

 

 

「こんなに近い場所で殺られたってのに、どうして誰も気づかなかったんだ?」

 

「それは、この岩が原因じゃないかな?」

 

 

 シロが触れたのは、ひときわ大きな岩。

 男の大人一人隠れるのには、十分な大きさの岩だ。

 確かにここでなら暗殺は可能だったが、問題は―――。

 

 

「どうして、ウラノスはこんなところにいたんだ?」

 

 

 逃げる最中に暗殺されたと言うのなら、こんな誰にも見つかりづらい岩陰などにはいないだろう。

 途中で殺されて、ここに死体を引っ張ってきたのなら話は別だが、引きずったあともない。つまりは、ウラノスはここで殺された。

 

 

「私が考えるに、ウラノスの性格上、彼は自分の失敗を全力で隠し通したい部類の人間だろうね」

 

「俺もそう思うな」

 

「だったら、そんな人間がこんな誰にも見つからないような場所に、わざわざいた理由なんて…決まってる」

 

 

 シロが一歩踏み出し、無造作にウラノスの死体を蹴って退かし、岩に近づくとなにやら小言を口にした。

 しばらくすると、岩に液晶画面が現れ、回路のようなものが全体に広がっていく。

 それを最後に、地響きの音が鳴り、岩に扉が現れた。

 その扉の先にあるのは、闇。暗闇だ。どこまでも続く、闇だった。

 

 

「扉…?」

 

 

 扉を見た依姫が反応した。が、これも小さな反応だった。

 この状態を見ると、依姫もこの扉のことを知らなかったことになる。

 

 

「パスワード式だったのか」

 

「あぁ。ここでも『ウラノスの記憶』が役に立った」

 

 

 シロは、一度もウラノスに合ったこともないし、ここに来るまでウラノスの存在すら知らなかった。

 それなのに、どうやってウラノスのことについてそんなに詳しいのか、疑問だった。

 だが、今シロは『ウラノスの記憶』と言った。

 

 知らなかったはずの扉のパスワード。ウラノスはもちろん知っていたはずだ。

 だからこそ、『ウラノスの記憶』を見たのなら、すべての辻褄が合うのだ。

 

 

「この扉に関しての記憶を見た」

 

「ほんと、お前のその『能力』便利だな」

 

「――――あまり、良いモノじゃないよ。こんなの」

 

「だな。他人の記憶なんて、見ていてあまり良いモノとは思えねぇし」

 

「その認識で合ってるよ」

 

 

 シロの『能力』が、他人の記憶を見ることが可能だとすれば、それはかなり強力な能力だ。

 つまりは悟り妖怪と同じ能力を持っていると言うこと。

 本当に、彼がどれほど能力を持っているのか、分かったものではない。

 

 

「―――行くぞ」

 

 

 零夜の言葉を皮切りに、シロは依姫を担ぎ、三人は暗闇の中に入る。

 

 

 そこには、暗い、暗い、暗い、闇―――。闇が、広がっていた。

 入口を見た時点ですでに理解は出来ていたはずだ。だが、光源が何一つもないと言うのが、逆に不審に感じる。

 闇黒(あんこく)が広がる地下空間に、三つの足音が小さく響く。

 

 

「―――暗いな」

 

「そうだね。僕は能力で何とかなっているけれど、君は?」

 

「俺も大丈夫だ。時期に慣れる」

 

「それ、大丈夫じゃないと思うんだけど?それで、ニュートンは?」

 

「私も問題ない。と言うのも、彼女が闇の妖怪であるためにある程度の暗闇には慣れているのが理由だろう」

 

 

 今現在の順列は、シロ、ルーミア、零夜の順で、零夜が一番後ろだ。

 理由は今言った通り、一人だけまだ暗闇に目が慣れていないため。

 

 

「ていうか、明かりはつけないのかい?」

 

「駄目だ。こんな暗闇で光なんかつけて、もし敵に見つかる可能性があるだろ」

 

「そうだね…」

 

「この道は、彼女ですら知らなかったらしいし、使っているのはごく一部の人間だけだろうね」

 

 

 この月の都で相当な地位にいるはずの依姫が知らない場所となると、使っている人間は限られてくる。

 まず、ウラノスは確定だ。この道を使おうとしていたのだから。

 そして、もう一人の確定人物が―――。

 

 

「―――綿月、臘月」

 

 

 そう。この都でかなりの地位を持っているであろう綿月家の人間。

 綿月豊姫の夫である、綿月臘月。この月を変えた、大変革を起こした張本人。

 そして、この男が一番転生者であることが高い存在でもあると同時に、ここを造ったであろう人物。

 こういった隠し通路は、重鎮しか使わないから。

 

 

「とりあえず、あの二人がこの場所を使っていたことは確定と考えていいだろう」

 

「そうだね。だが、どういった目的でここは作られたのか…?」

 

「普通に考えたら、隠し通路とじゃないのかな?」

 

 

 普通に考えれば、そうだ。

 誰にも知られていない場所、隠し通路。逃げる際にこういった場所は必ず必要になる。

 よく武将ドラマに、掛け軸の裏に穴があり、そこが隠し通路になっていると言う話があるだろう。ここは、それと同じ用途で造られたはずだ。

 

 

「ここが武将ドラマと同じような隠し通路だとしたら、この先は……」

 

「間違いなく、親玉のいる部屋だね」

 

 

 この先にいるであろう、親玉の部屋。

 そして、その親玉こそが―――。

 

 

「臘月…」

 

「まさかこんな場所を作っていたとはね。随分と容易周到だったようだ。だけど、この場所を知られちゃ意味はないね」

 

「出る際に溶接して閉じるか」

 

 

 逃げ道を完全に防ぐため、この道を抜けたら道を溶接して完全に閉じる。

 これで、逃げ道を防げる。

 

 そう確信した後、零夜が声を上げた。

 

 

「よーやく夜目に慣れた…。この道、全部一直線だな。このまま突っ切って―――」

 

 

―――ガタンッ

 

 

「「「ッ!!!!」」」

 

 

―――音が、聞こえた。

 物音だ。何かが微かに動く音。

 三人は背中を合わせて警戒する。

 

 

「今、聞こえたか?」

 

「あぁ、聞こえたよ」

 

「今、確実に物音が聞こえたね」

 

 

 物音がする。つまりは、何者かがいる証拠。

 ネズミなどの獣の類だったら安心できるのだが、敵が隠れている可能性だって十分ある。

 安心などできない。

 

 

「音は、この近くで聞こえたよな?」

 

「でも、ここには扉らしき場所なんてどこにもない。おかしいね」

 

「―――ウラノスの記憶の続きを見る。だから、警戒は任せてもらってもいいかい?」

 

 

 シロの突然の提案に、零夜は驚く。

 こんな状態で何を言っているんだ―――そう言おうとしたが、すぐにその意図を理解した。

 現状、この場所のことに一番詳しいのはシロ(ウラノスの記憶)だ。なら、ウラノスの記憶を見ればいい。

 もしかしたら、まだ知らない未知の情報があるはずだ。

 

 だが、同時に危険も存在する。

 この『能力』はシロですらも使うのを躊躇うほどのものだ。そんなものを、気軽に連発するのは、相当な覚悟がいるだろう。

 なにせ、『自分』ではない『他人』の記憶を見るのだから。

 だが、それも覚悟の内だろう。

 シロはそのまま無言になり、深層意識の中―――『ウラノスの記憶』へと飛び込んだ。

 

 

「―――――」

 

 

「さて、あとは警戒を続けるだけ「うッ!!」ッ!?」

 

 

 

 シロがウラノスの記憶を見て、そのすぐ直後にシロが唸り声を上げた。

 その声はとても苦しそうで、実際、シロは頭を手で抑え込んで苦しそうにしていた。

 

 

「おい、どうした!?」

 

「―――問題、ない。ただ……気持ちの悪いもの、見た…」

 

 

 シロは問題ないと言ってはいるが、今のシロの状態は重症患者のそれだ。

 いつものシロとは違う状態に、零夜は困惑した。

 

 普段、どんな攻撃を喰らっても平気な状態でヘラヘラしている男が、ここまで体調を崩す―――いや、崩れてしまったのは体じゃない、心だ。

 シロは『ウラノスの記憶』を見た。その『記憶』の中に、シロの心がここまで崩れるほどの内容があったに違いない。

 だが、零夜にはこの男(シロ)がここまで苦しそうにするほどの記憶と言うのは、予想できない……否、できるはずがなかった。

 

 

「これ、持って、て…確か、ここ、に…」

 

 

 苦しそうにするシロから、依姫を預かり、シロはフラフラとしながら近くの壁に触れ、何やら小言を語り始めた。

 そして、この状況に零夜は見覚えがあった。

 

 

「(あれは…)」

 

 

 ついさっきのことだ。

 シロは先ほども、パスワードを用いて扉を開けていた。

 この通路を使用していた『ウラノスの記憶』を探ったために、その信憑性は随一だ。

 隠し通路の中に、また別の隠された部屋か、または道がある。だが、その先には一体なにがあると言うのだろうか?シロが苦しむほどだ。絶対禄でもないに違いない。

 

 10秒ほど経ち、壁が先ほどと同じ要領で消えて、道ができた。

 そして…。

 

―――壁が消えると同時に、激臭が三人を襲った。

 

 

「臭ッ!!」

 

「なんだこれは!?」

 

「――――」

 

 

 零夜とニュートンは鼻を抑え、激臭になんとか耐えているが、シロは鼻を防がずに平然としていた。

 

 

「おまッ…なんでこんな激臭の中平気なんだよ…!?」

 

「それについては私も同意だ!こんな悪臭を耐えられるなんて…理解しかねる!」

 

「僕には……臭い、に、対して、も『完全耐性』を持って、いる。だから、僕が嗅いでいる、のは…草原の香りだ」

 

「今以上にお前を羨ましいと思ったことはねぇよ!!」

 

 

 なんと、シロは臭いに対しても、『完全耐性』を保有していた。

 彼曰く、自身にとって害悪でしかない臭いはすべて草原の香りに変化するようになっているらしい。

 ちなみに、今零夜とルーミア(ニュートン)を襲っている臭いは二人曰く、「肥溜めをなんの処置もせず数年間放っておき、その上に人や獣の腐りかけの死骸や腐った食べ物が無数に積み重なっているような悪臭」らしい。

 つまりはとっても臭い。凄く臭い。

 こんな悪臭を草原の匂いに変換するなど、この時本当に二人はシロのことを羨ましがった。

 

 

「とりあえず…この臭いなんとかできないか!?」

 

「じゃあ……空間を外とつなげて、換気しよう」

 

 

 シロが手を掲げると、空間に小さな穴が開いた。

 その先は月面へと繋がっており、そこから新鮮な空気が大量に入ってくる。

 

 

「―――なんとか、マシになったな」

 

「―――思ってたんだが、何故宇宙空間に酸素があるんだい?」

 

 

 ニュートン(ルーミア)から当然のような質問が来た。

 生き物は空気がないと生きられない。それは月人も同じだろう。だが、地球人の常識では宇宙に酸素はない。それが常識だ。だが、この月では何故か空気が存在していた。

 

 

「そりゃあ、ここは月人が闊歩している『裏の月』だ。『表の月』になくても、『裏』にはあってもおかしくねぇ」

 

 

 月の科学力なら、空気を作ることなど造作もないだろう。

 おそらく、今まで吸っている空気も、すべて月製だ。

 

 

「とりあえず、マシになったから奥を見て―――」

 

 

 その時、零夜が一瞬固まった。

 そして、疑念の声を上げた。

 

 

「―――おい、なんか、聞こえないか?」

 

 

 零夜の耳に聞こえたと言う、謎の音。

 他の二人も、耳を傾け、その音を聞いてみた。

 

 

―――ジャラ、ジャラ、ジャラジャラ……

 

 

 聞こえてきたのは、鉄がこすれる音―――『鎖』の音だ。

 鎖がこの奥で鳴っている。あまりの臭いに部屋を見ることを忘れていたが、今は目的の一環でこの部屋を調べることも重要だ

 今の零夜たちは夜目に慣れている。つまりは部屋の間取りを、全体を見ることができる。

 この部屋の間取りは8畳ほどの大きな部屋だ。

 だが、そこに一切の物などは置かれていない。

 

 ―――そう、物は。

 

 

「これは…!」

 

「なんて、ことだ…うッ!!」

 

「……ッ」

 

 

 部屋の奥にあった()()を見た時、三者はそれぞれの反応を見せた。

 零夜は『憤怒』。ルーミア(ニュートン)は『驚愕』。そして、シロの表情は『果然』としたものだった。

 特に零夜とニュートンは部屋の臭いのことなんて微塵も忘れるほどに、目の前のことにショックを受けていた。

 

 

「ハァ…ハァ…ほんと、こればっかりは、彼女が目覚めていなくて、良かったと思う…」

 

「いや…これはルーミア(アイツ)だけじゃねぇ。他の奴らにも見せれるわけねぇだろ」

 

「―――――」

 

「シロ、お前が『記憶』で見たのは、これだったのか?」

 

「…あぁ」

 

「クソっ!」

 

 

 シロの声が、部屋に虚しく響き、零夜の悪感な怒号が部屋に轟いた。

 零夜はその後に、抱えていた依姫を見る。依姫は声を出してはいないが、この部屋の臭いがとても聞いているようで、先ほどの虚ろな目はどこへやらの状態だった。

 この悪臭には文句しか浮かび上がってこないが、一応依姫の気を取り戻してくれたことには非常に遺憾なのだが感謝した。一応。

 

 

「おい綿月依姫!」

 

「は、はい…」

 

「お前、アレ、見えるか?」

 

「アレ、とは…?」

 

 

 当然、今までずっと夜目に慣れようとしていなかった依姫には、目の前の状況は理解できなかった。

 だか、そんな悠長なことは言っていられない。

 この状況は、『綿月』として知る必要がある。

 

 

「シロ、できるか!?」

 

「―――分かった」

 

 

 シロが人差し指を上げると、そこから光の玉が発生した。

 そして光の玉はまるで蛍のようにフラフラと部屋の奥へと進んでいき、やがて依姫の赤紫の目にも、その全貌が見えた。

 

 

「――――え?」

 

 

 そして、その全貌を理解した瞬間、依姫の世界が静止した。

 彼女の心に渦巻いた感情は、驚愕、焦燥、絶望、憤怒、悲哀―――。さまざまな感情が交差した。

 

 

「え、嘘。え、え?ありえない。だって、そんな、え?どうして、どうして?私が、全ての、今まで、なんだったの?」

 

 

 混乱により語彙が完全におかしくなってしまった依姫。

 そんな、彼女の瞳に映った光景は―――。

 

 

「―――――」

 

「―――――」

 

 

 そこにいたのは、二人の女性。

 

 一人は長い銀髪を三つ編みにしている美女

 もう一人は、ストレートで、腰より長いほどの黒髪を持つ美少女だった。

 

 二人の女性は『鎖』で腕を頭の上で繋がれ、動けない状態になっており、そしてなにより―――一糸纏わぬ姿、つまりは全裸で吊るされていたのだ。

 それを見て、脳がついに理解の範疇に収まった時、依姫は零夜の腕から崩れ落ちた。

 

 

 

八意様ァ…!輝夜…!どうして、こんな………――――あぁあああああああああああああッッッ!!!!」

 

 

 

 鎖に繋がれていた、全裸の二人の女性。

 それは、零夜たちの目的である【八意永琳】と【蓬莱山輝夜】だったのだ。

 

 

―――今ここに、最悪な初対面が実現した。

 

 

 




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