―――悪臭の原因は、これだったのだ。
このおぞましい光景が、すべてを物語っていた。一回も掃除されていないような汚い空間に、女性が二人、全裸で鎖に繋がれている。
つまり、この空間では
「や、八意様!」
そう叫び、二人の女性へと向かっていく女性がいた。依姫だ。
依姫は零夜の手から逃れて、まず最初に二人を捕縛している鎖に目を向け、その小さな手でなんとか外そうとしている。
だが、外れない。
「ど、どうして!?」
当たり前だ。
依姫は強いが、所詮は人間。人間の腕力で鎖を千切れるはずがない。
それに、今の依姫はシロによって力を封じられている状態だ。
「―――ッ頼む!お二人の鎖を壊してくれ!」
依姫はそうシロに悲願した。
依姫にとって、彼女――【八意永琳】は姉の豊姫と依姫の師匠でもあり、尊敬し、敬愛する存在だ。
目の前に、敬愛すべき師が、こんなむごい状態で捉えられているのだ。正気を保てるはずがない。
「なにその命令とお願いを掛け合わせたような言葉…。なんで君なんかに命令されないといけな「シロ、頼んだ」……君の頼みなら仕方ないね」
依姫の頼みを冷徹に拒否したシロが、零夜の横入りが入ったことで即座に行動に移した。
あれほどの力を持つ存在が、なぜ零夜に従っているかは分からないが、大事な戦力であることは変わりない。
シロは手を刀の形―――手刀を虚空で振るうと、それと連動するように二人を捕縛していた鎖が千切れ、二人は地面に横たわる。
「八意様!輝夜!」
応答はない。当然だ。こんな劣悪な環境で長年ロクに動くこともできずにいたのだから。
鎖でずっと動けない状態でいたのだ。当然、筋肉が硬直してまともに動くことすらできやしない。
彼女たちの心は、すでに限界を超えていても不自然ではないのだ。
「返答がない―――!?」
「当然でしょ。こんな環境に居りゃ、心が破壊されても不思議じゃない」
「―――ッ!どうか、助けることはできないですか!?」
「だから、僕に命令しないでくれないかな?」
「――――ッ」
シロから再び返ってくる、冷徹な回答。
依姫は助けを求めるかのように、涙目で懇願するような顔で零夜を見た。
「―――無理だ。諦めろ」
だが、零夜から返って来た答えも無情だった。
依姫の顔が絶望に染まり、顔を地面に向けて、そのまま動かなくなる。
「いくらこいつが有能で、体を治すことが出来ても、流石に心までは無理だろ」
『心』と言うのは繊細だ。個人個人によってその度合いが違う。ましてや、すでに「破壊」されてしまった『心』を治すなど、不可能だ。
『心』は、『体』のように簡単に治らない。
「『心』を治すなんて、よほどの奇跡がない限り無理でしょ。せめて治す術があるとすれば、時間だね」
「―――それに関しても同意見だ。『心』ってのは、そう簡単には治らねぇしな」
「そんな……」
依姫の擦れた声が、虚しく響く。
地上へと逃亡しながらも、それでも尊敬し続けていた人物が、こんな状況になっていたのだ。微かに縋った希望にも、裏切られた。いや、最初から仲間でもなんでもなかったため、裏切りではないが。
―――そんな、ときだった。
「あ……」
かすれた声が、低く響く。
その声は、麗しい女性の声。その声の主は、当然のこと零夜ではない。そして、シロの今の声は男の声だ。
つまり、この声は―――。
この声に一番に反応したのは、依姫だった。
「その声は…!」
「依、姫……?」
「輝夜!」
依姫が、その声の主の名を叫ぶ。
長く伸びた黒い長髪を持った美少女―――【蓬莱山輝夜】だった。
彼女が声を発したことに、一同は驚きを表す。
「驚いた…。まさか、意識が残っていたなんて…」
「輝夜!大丈夫!?」
「なんで、ここ、に…?臘月、は…?」
「ッ!!」
依姫の顔に、焦燥と驚愕の感情が浮かび上がる。
依姫の中で、この地下通路を造り、使用していたのが臘月であることが、確定したのだ。
「―――臘月は、ここにはいません。今、助けます」
「わ、私たち―――助かる、の?」
擦れた声と、生気のない顔でそう依姫に説いた。
依姫の顔は真剣そのものだ。それが、輝夜に希望を与えた。
「よがっだ…よがっだ…あぁあああああああああああああ!!!」
輝夜の瞳から、ダムのように涙があふれた。依姫に抱き着き、今まで溜まっていたものを、一気に流し出したようだった。
そんな
「―――おかしいな」
「そうだね」
「―――どうしたんだい?なにか、おかしいところがあるのかい?」
二人の疑問に、
この絵面は、言ってしまえば「姫を助けに来た王子」だ。そんな感動な光景に、二人は疑問しか思い浮かべることができなかった。
そんな
「―――こんな環境下で、精神がまともでいられると思うか?」
「あッ―――」
零夜に言われ、
アイザック・ニュートンは科学者だ。心理学者でもないため、この異常に気付くのに、言われるまで気づかなかった。
月人とはいえ、所詮は人間。こんな劣悪な環境下―――換気もされていない密閉された部屋が生み出した強烈な悪臭が漂い、闇が支配したこの部屋。
そして、この部屋で行われていたであろう不祥事。そんな状況で、まともでいられるはずがない。
「―――彼女の能力、【永遠と須臾を操る程度の能力】なら、それも可能だろうと思うけど…」
【永遠と須臾を操る程度の能力】。
その名の通り『永遠』と『須臾』を操ることができる能力。
永遠とは「不変であり、歴史のない世界」。未来永劫全ての変化を拒絶する。永遠を持ったものはいつまでも変わる事が無く、干渉されることも無い能力。
須臾とは、「認識出来ないほどの僅かな時間」のこと。その「一瞬」を必要なだけ寄せ集めて、自らの時間とすることが出来る能力。
この『永遠』の力を使えば、この地獄の環境でも耐えうることも可能だろう。
しかし、それをずっと続けることなどできるだろうか?
『永遠』は、変化を拒絶する能力。確かにこれを使えば自分の『
自分だけが心を保てている中、隣の大事な人だけがどんどんと劣悪な環境の中で、『心』が壊れていく
そして、
やがて、壊れないはずの『心』が壊れると言う矛盾に至った。
『心』が壊れていく大切な人の隣で、自分だけの『心』が無事でいて。壊れない『体』も、穢されることには対抗できなくて、『体』が穢されて『心』が無事と言う矛盾が襲い掛かって。そんな環境下で、ずっと能力を発動させているなんてありえない。
【藤原妹紅】の異質な『ホウライジン』とは違い、本来の『蓬莱人』の特性、『肉体が滅んでも飲んだ者の魂を存在の主体として即座に好きな場所に肉体を作り直し、生き返ることが出来るようになる』特性。
どんなに『
これはまだ憶測にすぎない。
だが、現実は――――。
「―――依姫。お願いがあるの」
「な…なんで、すか?」
「私を、私たちを、
――――非常に、残酷だ。
* * * * * * * *
「―――な、なにを、言っているんですか?」
「だから、私たちを、
依姫の脳内の許容範囲が、オーバーした。脳が、理解することを拒んだのだ。
だが、それも理解せざる負えない。
「こ、殺してって……そもそも、
「それでも。私ね、もう……生きるのが嫌になったの」
先ほどの号泣した時の大声とは裏腹に、最初の時の小さな声に戻った輝夜の声に、生気は感じられなかった。この声は、本当に死を覚悟した者のみ、絞り出せる声だ。
その声を聞いて、依姫の顔が絶望に染まっていく。
「いや、ですから…不老不死を、殺せるわけが…」
「ううん。殺せる」
話がかみ合わない。
依姫の正論が、輝夜の耳には全く入っていなかった。
予想は、当たっていた。予想していた、この最悪な展開。「二人が、死を望むパターン」を。
よくよく考えれば当然だ。何日も、何十日も、何百日も、何年も、何十年も、何百年も、何千年も、ずっと二人は、こんな環境で過ごしてきたのだ。
体も穢され、心に相当な傷を負った。この展開は、ある意味予想できた展開だった。
「―――永琳」
ふと、輝夜が隣で今だに倒れている美女―――【八意永琳】の髪を、そっと撫でた。
「ねぇ永琳。ごめんね。私の、私のせいで、あなたまでこんなことに巻き込んじゃって。元々は、私の我儘だったものね。それが、こんなことに……。ごめんね、本当にごめんね」
輝夜の謝罪に、永琳は今だに無反応だ。
当然だ。零夜達の憶測では、永琳はすでに―――。
そんな一同の思考をほったからしにして、輝夜は淡々と言葉を続けた。
「だからね、永琳。私の最後の我儘を聞いて?」
輝夜のこの先の言葉。
それは、何故か簡単に予想が付けた。当然だ。なにせ、答えはもうすでに、決まっているのだから――。
「私と一緒に、死んで?」
「輝、夜…」
返答のない、ただただ一直線な会話を目にして、もう依姫は絶句するしかなかった。
ここまで心が壊れていることは、予測はついていた。なにせ、『
「そっかーそうよね!やっぱり、私と一緒に死んでくれるのね!永琳は優しいわね。私はね、永琳のそういうところが好きなのよ?」
「―――ッ」
もう、見ていられなかった。この、まるで死骸と言わんばかりに微動だにしない永琳に語り掛け続け、まるで答えが返ってきている
いくら『人の死骸』などが平気でも、ここまで心が苦しくなる光景は、零夜は一度も見たことはない。
人を殺したときとはまた別な苦しみが、零夜の心を襲ったのだ。
「そ、んな……」
そして、それは依姫も同じだ。これまで、何度も精神の調子を上下してきた依姫の心も、限界を迎えていた。
シロによる挫折、二人の無残な光景を見たことによる精神を揺さぶられ、生きていたと言う希望を与えられ、殺して欲しいと願われ、壊れていく
こんな状況の連続で、精神が耐えられるわけがなかった。
「もう、準備は出来てるわ。早く、私たちを、殺して?」
「いや…いや…」
「―――その役目、僕が引き受けよう」
拒絶の言葉が依姫の口から出た時、平然とした口調で許諾した人物がいた。
全身を白装束で纏った男性の声を発する人物―――シロだ。
「二人を殺す役目を、僕が引き受ける」
「ま、待て!」
当然の如く、それに反発する者もいる。依姫だ。
彼女にとって、ようやく見つけた尊敬し敬愛する人物。それを、目の前で殺されてなるものかと、躍起になっている。
「二人には手を出さすワケにはいかない…!それに、お二方は不老不死だ!殺せるワケがない!」
「確かに、僕でも不死を殺す算段はない」
「なら―――「だが、手段がないワケでもない」なんだと…?」
算段はないのに、手段はある。
そんな支離滅裂なシロの言葉に、依姫は疑問しか感じない。
やがて、それが「ふざけているのか」と、依姫の怒りの油となった。
「貴様!ふざけるのも大概にしろ!」
依姫が素手のまま、シロにとびかかった。
―――が、その直前にシロが目の前から姿を消し、依姫の真後ろに立ちその手に持った刀が、彼女の首筋にヒヤリと冷たい感触を与えていた。
それは、業火のごとく燃え盛る依姫の炎を鎮火するには、十分なほどの激流だった。
「いつの間、に……」
「君程度の速度なら、十分上回れる」
「それに、その、刀は…」
「そうだね。君の刀だ。僕が既に回収しているのは予測が付けただろう?」
シロが依姫の首筋に当てている刀。それは依姫の刀だ。
捕縛する際、ちゃっかり異空間で回収していたようだ。そこら辺が抜かりなかった。
自分の刀で自分の命が危ぶまれている状況。なんと皮肉な運命なのだろうか。
いつもの依姫なら、この程度の束縛など自力で脱出できる。
だが、今はシロに力を封じられている状態。反撃など、できるはずがなかった。
「第一、君に彼女等の生死を決める権限はない」
「―――ッ」
「彼女等たちが生きるか死ぬかは、彼女たちが決めることだ」
依姫はシロの正論に、なにも言い返せない。
他でもない輝夜が、『死』を求めているのだ。その、『死ねない
その究極の矛盾の要求が、彼女の異常を物語っているのだから。
「僕には彼女等を殺す手段がある。なにより、今この場で僕にしかできないことだ」
「それ、でも…!」
大好きな人たちが、大切な人たちが、目の前で殺される様なんて、見たくない。見せつけられたくない。そんな感情が渦巻く。
本当に、現実は残酷だ。
「でも、安心しなよ。確かに過程はこれよりさらに残酷な結末になるかもしれない。でも、結果論で全てが綺麗に収まる。それだけは、確約できる」
「なにを、言って――!」
「過程が、結果につながる。それを言いたいんだよ」
極々普通の考えだ。過程がなければ結果は生まれない。
当然、そんなワケの分からない答えに依姫が納得するはずがない。
なにせ、シロの言っている答えは、零夜達にしか分からない
「貴様、ふざけt―――」
「もう口論は終わりだ」
だが、その積憤とした不快な雰囲気をぶち壊した黒い影が、そう言った。
黒い影は、依姫の首の後ろを手刀で攻撃し、気絶させた。
「ありがとう、零夜」
「お礼を言われるほどでもねぇ」
黒い影―――零夜はシロからのお礼も、面倒くさそうに返した。
そしてそのまま、零夜は依姫を担いだ。
「―――本当に、やるのか?」
「あぁ。それが、彼女たちの願いだろ?」
「まぁ、そうだが…」
「大丈夫。全部、僕がやるから。君の懸念は心配ないよ」
零夜が懸念していることは、二つ。
一つは本当に不老不死を殺せるのか?零夜も妹紅を殺した際は、『最期の瞬間のまま永遠に固定』と言う『バグスターウイルス』の特性を用いて実質的に殺した。
だが、シロはどうやって不老不死を殺すのだろうか?算段はないが、手段はあると言っていた。零夜は、その意味を知らない。
そしてもう一つ。二人が攫われた際の情報だ。『臘月』がどんな能力を用いて、どうやって二人を月に連れ戻したのか。それが知りたかった。
だが、肝心の二人の『心』は壊滅。とても聞ける状態じゃなかったので、これは素直に二人から聞くのは諦めるしかない。
だから、シロの『能力』を使うしかない。
「本当に、お前の『能力』で、大丈夫なんだよな?」
「大丈夫だって。僕の『能力』なら、問題ないさ」
「―――そうか」
「じゃあ、集中したいから、二人とも部屋から出て行ってくれないかな?扉はこっちから閉めるから」
「分かった。行くぞ、ニュートン」
「あ、あぁ……」
零夜は
そのとき、零夜が一言、シロに呟いた。
「ちゃんと、弔ってやれよ」
「―――もちろんさ」
それと同時に、部屋の扉が閉じた。部屋はシロたちが来る前とほぼ同じ状態になり、光源は、シロが出した光の玉だけ。
「―――あなたは?」
「僕はシロ。今から、綿月依姫に変わって、僕が君たちを殺すよ」
「へぇ~~……私たちを、どうやって殺すの?」
「君たちは、何もしなくていい。ただ、そこにいるだけでいいよ」
「そう。じゃあ、よろしくね」
輝夜は永琳を抱きかかえ、そのまま動かなくなる。
それは、まるで石像のようで。
「―――本当に、この『権能』は、使い勝手が良いやら悪いのやら…」
シロから出た、『権能』と言う言葉。先ほどまでは、『能力』と言っていたはずだが、何か違いでもあるのだろうか?
そんな誰も聞いていない独り言を、シロは続ける。
「でも、この『権能』じゃないと、君の望みを叶えられない。―――解放するよ、君の魂を」
「■■■の権能。――――●●●の●●」
哀愁が漂うシロの言葉とともに、淡い水色のオーラが、部屋を包み込んだ。
* * * * * * * *
力の波動を感じる。
シロが、『能力』を行使したのだ。それが、壁越しに感じられる。
彼の『能力』は、まだまだ未知数な部分が多い。零夜だって知らない『能力』ばかりだ。
自身の能力を用いて部屋と自分の視覚と聴覚をつなげれば中で何が起こっているのかを判断できるが、シロ相手ではそれをやった瞬間にバレそうだ。
シロはなぜか、一部の『能力』を零夜に見せるのを拒んでいる。故に、零夜が知っているのは『火』や『水』、『風』などのエレメントパワーを操る能力だけだ。それ以外は、あまり知らない。
「―――零夜くん。これで、良かったのかい?」
「なにがだ?」
力の波動を感じてる中、
「いくら、彼女の選択とはいえ、こんなのは…」
「―――分かってる。これが、残酷な選択だってことくらいはな」
零夜が歯を噛み締める。
その顔には、悔しさが露わになっていた。
「―――分かってるんだ。いくら早く
「――――」
「過去に行って、全部なかったことにするってわかっていても……」
「零夜くん…」
「そのための、今回の出来事だったとしても―――!」
あまりにも、残酷だ。
零夜に残る良心が、零夜の心を蝕んでいく。
それに、シロの『能力』なら死んだ者の記憶を『視れ』る。ただし、いろいろなデメリット付きらしいが。
「―――ところで、ルーミアはまだ目覚めないのか?」
「そんな、無理に話題を変えなくとも「大丈夫なのか?」――まだ、彼女は眠っているよ。疲労が溜まってるのと、ウラノスに操られていたのが、よほど堪えたのかもしれないね」
話を無理やり変えた零夜は、ルーミアの現状をニュートンに聞いた。
どうやら、彼女はまだ眠っているようだ。零夜は今ただでさえ依姫を担いでいるで奇襲を受けたら対応するのが難しい状態なのに、荷物が増えたらと思うとある意味ゾっとする。
ニュートンが憑いてくれたおかげで、荷物が減った。そう考えることにしようと零夜は自分の中で話を完結させた。
―――その時、ちょうど壁の奥からエネルギーの流れが止まった。
「―――終わったか」
零夜がそう呟き、少しした後、壁が再び消え、そこからシロが歩いてきた。
「―――ご馳走様でした」
「なんだお前、喰ったのか!?」
出てきた途端に意味深な言葉を使ったシロ。
先ほどの鬱憤な気分もどこへやら。零夜は大声でシロに叫んだ。
どさくさに紛れてナニやってるんだ―――と零夜が言うと、シロが慌てて弁解した。
「違うよ違うよ!そこまで鬼畜じゃないって!ほら、その証拠に見てよ!」
弁解するシロを差し置いて、零夜は部屋の中に入るが―――誰も、いなかった。
あるのは、ただ二人を拘束していた千切れた鎖だけ。二人の影は、どこにも見当たらなかった。
「おまッ……まさか、喰ったって…まさか、物理的に…?」
「まさか、食人をするとは思わなかった」
「ちょ!それも違うからね!?」
なにかと弁解するシロだが、状況証拠から見てそうとしか思えない。
まさか、食人をするなど、誰が思いつくだろうか。
「だから、違うからね!?」
「あーはいはい。とりあえず、お前後で胃の中のもん吐き出せよ?」
「流石にあの二人が浮かばれないと思うからね」
「だ・か・ら!信じてって!」
いくら叫んでも、信用されないものはされない。
ただ二人は状況証拠から考えてその結論に至ったのだ。そもそも、最後に「ご馳走様でした」なんて勘違いされるようなことを言わなければ―――。
「ッ!!ニュートン、目の前に
「なにを―――ッ!分かった!」
シロが突然叫んだと思ったら、その異変に
不可視の攻撃がぶつかり合い、そこに何もないように見えて、途轍もないほどの攻防が、零夜たちの目の前で繰り広げられていた。
「あが…駄目だ…!これ、以上は、この
ニュートンの悲痛な叫びとともに、
「ちッ!零夜!ニュートン!地上に出る!地上での戦闘を視野に入れて、衝撃に備えろ!」
「なッ!?おいちょ、まッ―――」
突然の宣言に、零夜は驚愕を隠せない。
「地上に出る」、と「衝撃に備えろ」と言う言葉から、シロがどうやってここから脱出しようとしているのか、皆目予想がついた。シロは、天井を破壊して地上に出るつもりなのだ。地上に出たら戦闘になると言うのも、またそれを示唆していた。
だが、零夜が危惧しているのはそこではない。
自分一人ならなんとかなるだろうが、今は
零夜の静止を聞かずにシロが人差し指を上に上げると、零夜たちの立っていた地面が隆起し、そのまま天井へと向かって行った。
硬い金属のようなもので出来た天井を軽々と破壊し、一同は地上に向かって行く。が、零夜だけは大ダメージを受けていた。特に、頭に。
両手が塞がった状態で、頭を支えることのできなかった零夜は、頭に直接ダメージを受けていたのだ。
―――そして同時に、足場を支えていた、隆起した地面が破壊され、大爆発のような轟音が、辺り一帯に響いた。
「あ…が…ッ!」
宙に浮いた自分の体。上空に見える青く光った夜空。
そして、無数の建築物に、そこを歩いていたであろう人。それらが視界に入ったと同時に、零夜は意識を手放してしまった。
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