東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 このたび、内容を改変した話に ※ を付けました。

 現時点では33話と4話辺りです。
 内容が少し変わって居たりしていますので、まだ見ていない人はぜひ見てください。今後のストーリに関わりますので。


 それでは、どうぞ!


35 復讐の翼

「『お父さん』!お仕事終わったよ!」

 

 

 少年は笑顔で扉を開け、お使いを任せてくれた『お父さん』に、仕事の終わりを大声で告げた。

 ノックもせず、いきなり開けた。マナーを知らない、子供特有の行動だ。

 

 

「――――」

 

「『お父さん』?」

 

 

 扉を開けて、まず目に映ったのは、『お父さん』だ。

 

 

 だが、いつもの『お父さん』じゃなかった。いつもなら、お使いを終えたら、笑顔で出迎えてくれた『お父さん』。だが、今日は無言だった。

 

 

「―――無月、か?」

 

「そうだよ。ねぇねぇ『お父さん』!お仕事終わったよ!褒めて褒めて!」

 

「悪い……。今は、できそうにない」

 

「え……なんで?」

 

 

 よく見れば、『お父さん』に元気がなかった。

 いつもなら、笑顔の『お父さん』。でも、なんで―――?

 

 

「無月。落ち着いて、聞いてくれるか?」

 

「―――うん」

 

 

 『お父さん』が元気がない理由を語ってくれるそうだ。

 そして、それを自分に話してくれる。力になれるのだ、尊敬する『お父さん』に。

 そんなドキドキとワクワクの無月の心を、『お父さん』の次の一言が打ち砕いた。

 

 

「豊姫が……死んだ」

 

「―――え?」

 

 

 『お父さん』の口から『お母さん』―――豊姫が、殺されたと、言われた。

 無月は耳を疑った。豊姫は強い。それこそ、この月の都で強者と言われ、自分より強い、そんな尊敬する『お母さん』が、死んだ?

 無月の頭は空っぽになる。いや、これは現実逃避だ。

 

 認めたくない、認めるワケにはいかない。

 

 

「う、嘘だよね?『お母さん』が…?」

 

「残念だが…事実、らしい。今さっき、連絡があった」

 

「そ、そんな……うわぁあああああああああああ!!!」

 

 

 無月はその事実に泣きじゃくり、『お父さん』が宥めてくれた。

 その時間は、約10分くらいだろうか?そのくらいたち、無月が口を開いた。

 

 

「お父さん……」

 

「――――」

 

「誰が……誰が『お母さん』を殺したの!?僕が、僕が殺してやる!」

 

 

 無月の無邪気で無垢な瞳が、憎悪と憤怒に染まった。

 もう、無月の頭にあるのは『お母さん』を殺した者への復讐心のみ。

 

―――殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ……。

 

 無月の脳内は、もうこの言葉一色に染まっていた。

 少年の決意に、『お父さん』は―――。

 

 

「そいつは、今もこの月で蔓延っている。見た目は化物だ。一目で分かる。今行けば、間に合うかもしれない」

 

 

 自身の子供のことを全く気にもせず、否定せずに肯定し、大雑把に言えば「母の仇を取ってこい」と言った。

 だが、そんなことを考える暇もない無月は、それをそのまま肯定の意味と称した。

 

 

「行ってくる!必ず、『お母さん』の仇を取るんだ!」

 

「―――あぁ、行ってこい」

 

 

 『お父さん』の一言で、無月は走って扉を開け、強烈な勢いで占めて、その場所へと向かって行くのであった。

 

 

「やっぱ、ちょろいな。子供は」

 

 

 『お父さん』の、最後の言葉を聞かずに。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

―――仮面ライダー迅。綿月無月。

 

 確かに今、目の前の存在は自らをそう名乗った。

 だが、知らない。零夜は知らない。

 

 あの姿も。

 あのベルトも。

 あのデバイスも。

 あのライダーの名前も。

 

 なにもかもが、未知で無知だ。

 

 今までの知識が完全に通用しない、新たな敵。

 ゲレルなどは『光』の知識とクウガアルティメットの力があれば対処は可能だった。

 こんな気持ちになるのは、レイラ以降だ。

 

 あの、どうしても、どう考えても予習不可能な局面は、これで二度目だ。

 

 

『殺してやる!殺してやる!』

 

 

 迅の心の底にあるのは、ただ目の前のアナザーアギト(零夜)に対する明確な敵意と殺意。

 変身を終了した迅は、手を横に上げると、そこから紫色のラインが手の腕で流れ、紫色のアタッシュケースのようなものが手元に現れた。

 それを展開すると、先ほどの弓矢と変貌した。

 

 

Attache case opens to release the never missing bow and arrow

 

 

『アタッシュケースが弓になるとか、どんな冗談だよ…!』

 

『喰らえッ!』

 

 

 弓を引いた迅は、それを話すと、先ほど降って来た矢と同じ形状と色をした矢を放った。

 アナザーアギトは咄嗟にニュートン(ルーミア)の前に出て、『緑色の剣』を召喚し、薙ぎ払う。

 

 

『逃げろ!お前じゃ足手まといだ!』

 

「だ、だが『そいつの体は、お前に預けてんだ!お前がやられたらそいつも死ぬ!』―――…!」

 

 

 アナザーアギトの言う通り、今のニュートンはルーミアの代わりにその体を使っている状態だ。

 体の死は、実質的に彼女の死を表す。

 

 

『捕虜が死んだら俺の面目が立たねぇ!そいつを殺したら、お前のアイコン破壊すっからな!』

 

「―――分かった。ただし、死なないでくれよ!でないと彼女が悲しむ!」

 

『なんで誘拐犯が死んだら悲しむんだよ!訳わかんねぇこと言ってねぇでさっさと『よそ見するな!』行け!』

 

 

 口論をしている最中に、迅は走ってアナザーアギトに近づき、刃で攻撃する。アナザーアギトは持っていた剣でそれを防ぎ、お互い力で押していく。

 

 

『お前は僕が殺す…!』

 

『10歳のガキが、殺すなんて物騒な言葉使ってんじゃねぇよ!』

 

『僕はとっくに1000歳を超えてる!バカにするな!』

 

 

 予想の100倍の歳を取っていた事実に一瞬動揺するが、すぐに頭を闘いに切り替える。

 アナザーアギトは剣から左手を放すと、緑色の薙刀を召喚し、迅に突き刺そうとする。

 

 それに気づいた迅は足蹴りを行い、その勢いを利用して攻撃と回避を同時に行った。

 

 

『グっ…!』

 

『ハァ!』

 

 

 一瞬怯んだアナザーアギトに、迅はまだ足が地面についていない状態で、弓を引いて矢を放った。

 追撃だ。

 一度とならず二度までも攻撃を喰らったアナザーアギトは、腹を抑える。

 

 

『その程度か!『お母さん』の苦しみを味わえ!』

 

『クソっ、舐めるな!』

 

 

 アナザーアギトは薙刀を横に突き出すと、緑色の突風を生み出す。

 螺旋状に発動した竜巻が、迅を襲う。

 

 

『無駄だ』

 

 

 そのとき、迅の背中に機械仕掛けの翼が生え、それを使用して空を飛んだ。

 竜巻は空回りし、そのまま直線状に突き進み建築物にぶつかり爆散する。

 

 

『ちッ!』

 

 

 そして、今アナザーアギトは窮地に陥ったような感覚だった。攻撃を避けられたことより、空を飛ばれたことが厄介だった。

 アナザーアギトに飛翔能力はない。零夜にはあるが、あれは操作性が問われる部類のものだ。

 重力から解放され、空を飛ぶことが可能だが、あれは操作が難しいのだ。故にすまし顔しているが精神がかなり削られると言う欠点が存在していた。

 

 幽々子と戦った際は難なく飛べていたが、あれは練習の賜物(たまもの)と相手に対しての予習のおかげだ。 空を飛ぶなんて、今までやったことがなかったため、練習して練習して練習しまくって、なんとか操作できるようになった。

 さらにそこに予習の力を入れれば、あとはなんとかなった。

 

 だが、今目の前にいるのは、予習不可能な相手。戦法も、能力も、何もかもが未知数な相手。攻撃パターンが分からなければ、回避パターンも分からない相手だ。

 

 そんな相手に自身(零夜)の能力を同時に使ってしまえば、消耗戦で確実に負ける。そんなことをしてまで、飛ぶことはしたくない。

 アナザーアギトは負け戦をする気はない。必ず、自分が勝つ戦法を考案し、それを行動に移す。

 

 

『今決めた。お前は、ジワジワと嬲り殺しにしてやる!』

 

 

 迅は、殺し方を決めたようだ。

 そして、その殺し方は実現できそうなので尚更怖い。

 空を飛べる者と飛べない者の差。その差は歴然だ。

 

 

『だったら―――!』

 

 

 同じ姿で固定して戦う必要はない。

 戦況に応じて、対応を変える必要がある。そして、あれに対抗できる力が、未知を力でねじ伏せられる可能性を持つ、アナザーライダーが一体。

 

 突如、アナザーアギトの体を、禍々しく歪なオーラが包んだ。

 そのオーラは勢いを増し、巨大な渦となる。

 

 

『なんだ…?』

 

 

 オーラの渦に、戸惑いと困惑を隠せない迅。

 迅は、あんなものを見たことがなかった。そして―――、さらに、予想外が続く。

 

 オーラが、黒い霧に見えたオーラが晴れると同時に、()()は姿を現した。

 9メートル越えの、人間の体型からかけ離れた異形の姿を持ち、三本の角と左右に四つずつ存在する瞳に、牙の生えた口。気味の悪い笑顔のように見える。

 右肩にKUUGAの文字、左肩に2000の数字が刻まれている、怪物。

 

 

『グォォオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

 

――――アナザークウガ。

 最凶の怪物が、ここに君臨する。

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

 

『グォォオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

 

 禍々しい咆哮を上げたアナザークウガは、その巨体特有の、大きな瞳で迅を見据えた。

 体を丸めるように縮めると、突如背中に(はね)が生え、その翅を使って空を飛んだ。

 アナザークウガ特有の能力のため、零夜の能力を使う必要がない。故に、迅相手には最適だった。

 

 

『喰らえッ!』

 

 

 アナザークウガは自らの巨体に比例する巨大な昆虫のような二本指の腕を振り下ろし、迅へ攻撃した。

 

 

『嘘だろォ~!』

 

 

 流石の迅も、巨体による攻撃は想定外だったようで、飛行能力を駆使して避ける。

 何度も攻撃し、何度も避けられる。まるで、ハエ叩きを持ってハエを追いかける図だ。

 

 

『へッ!当たらなきゃ怖くないね!』

 

 

 当たらないことが分かると、意識を巻き返し弓矢を引いて矢を連続で放つ―――が、あまり効いている様子がなかった。

 

 

『―――痒い』

 

『えぇ効いてない!?』

 

 

 今アナザークウガが感じたのは、小さな虫が体に止まった程度の感覚。

 巨体相手にハエレベルの攻撃が通じるワケがない。だが、そんなことも知らないのか、迅はとても驚いていた。

 

 

『だ、だけど、そっちの攻撃が当たらなければいいだけだ!お前を殺すことには変わりない!』

 

『所詮、子供の浅知恵か』

 

 

 アナザークウガがそう呟くと、アナザークウガの両手に巨大な火球が纏われる。

 それだけじゃない。アナザークウガの周りにも、巨大な火球が現れていた。それはさながら、炎を自在に操る大魔法使い―――!

 

 

『燃え尽きて焼き鳥になれ!』

 

 

 巨大な火球が迅を襲う。巨大すぎる故に、避けるのも一苦労なため、迅が避けてもそれはかなりギリギリだった。

 

 

『クソッ!調子に乗るものいい加減にしろ!』

 

 

 迅はベルトのレバーを押し戻し、デバイスを取り出す。そのデバイスを弓矢に装填する。

 

 

Progrise key confirmed. Ready to utilize

 

ファルコンズ アビリティ!

 

 

 機械音とともに、発射部分にピンク色のエネルギーが集められる。

 弓を引き、発射されると同時にエネルギーの矢が鷹の形を取り、意思を持っているように自在に飛び回り、アナザークウガへと突撃する。

 

 

『効かんッ!』

 

 

 だが、それもアナザークウガにとっては烏合の衆ともいえる攻撃。たかが数が増えただけだ。

 先ほどと同じような程度の感覚を感じたアナザークウガは、そのまま接近することにした。

 接近戦でまた更に接近すれば、体格差で避けることはまず不可能。

 

 

『フンッ!』

 

『アガッ!』

 

 

 接近して接近してを繰り返し、上空から強烈な拳を叩き込み、迅を地面へと落下させる。

 さらに追撃と言わんばかりに、口から火球を吐き出し叩き込んだ。

 

 

ポーラーベアーズアビリティ!

 

 

 ―――すると、地上から巨大な氷塊が発射され、火球とぶつかり合い、中心で水蒸気爆発を引き起こした。

 

 

『―――――』

 

 

 爆現地を見据えるアナザークウガに―――。

 

 

コングズ アビリティ!

 

 

 巨大なゴリラの腕を模したアーマー型のエネルギー弾が、アナザークウガの腹を襲った。

 遥か上空に突き出されたその巨体は、やがて結界を突き抜け―――。

 

 

『アァアアアアア!!!』

 

 

 力を籠め、体を縮こませることで弾を圧迫し、強制的にエネルギー弾を霧散させた。

 遥か下を見下げると、月の都がかなり小さく見えた。大雑把で言うと、スイカくらいの大きさに見えた。

 すぐに急降下し、迅の元へと向かう。

 

 

『こっちから来てやったぞ!』

 

 

 だが、急降下をしている最中に迅が猛スピードでこちらに向かってきていた。

 迅の手には、青色の大きな銃が手に添えられていた。先ほどの氷塊とエネルギー弾は、あの銃で撃っていたのだろう。

 迅は濃い緑色のデバイスを銃にセットする。

 

 

ヘッジホッグズ アビリティ!

 

チャージライズ! フルチャージ!

 

 

 それと同時に、銃をアタッシュケースの状態に戻し、再び銃の形へと戻す。

 巨体のアナザークウガへと狙いを定め――――

 

 

『ハアッ!』

 

 

 アナザークウガへと、発射した。

 発射した針型弾が、アナザークウガへと無数に着弾する。

 

 

『ウガァ…!!』

 

 

 この攻撃は、ただ着弾するだけではなく、アナザークウガの体に突き刺さり、直にダメージを与えていた。

 そして、それに追い打ちをかけるかのように―――。

 

 

スコーピオンズ アビリティ!

 

 

 銃を捨て、再び弓矢を構え、紫色のデバイスを装填。

 弓を引いて、発射。

 

―――最初は、一本の矢だった。

 だが、それが発射されて数秒後、無数に分裂し、アナザークウガに追い打ちをかけた。

 所々に針が突き刺さった部分に激突し、それが更なる激痛を与えた。

 

 煙が立ち上り、汚い空気をまき散らす。

 

 

『どうだ……!やったか!』

 

 

 迅は爆煙を見て、勝利を確信した。

 流石にアレだけの攻撃を与えれば、流石のヤツも起き上がることはないだろう。

 

 事実、迅はアナザークウガに対して、尋常じゃない程のダメージを与えただろう。それは、自分の目で確かめたから。

 あれほどの攻撃を喰らって生きている生き物など、迅は二人と一神(ヒトリ)しか知らない。

 『お父さん』と、ウラノス・カエルム、そして月夜見。この三人だ。

 

 『お父さん』と模擬戦した際は、全くダメージが入らなかったし、ウラノス・カエルムも同様だった。

 月夜見とは一度も戦ったことはないが、強いと聞いている。どのくらい強いのか『お父さん』に聞いたら、「たぶん俺の方が強い」と言っていた。

 『お父さん』から、地上の人間は「全員変身したお前より弱い」と聞かされていた。だから、迅は勝利を確信し油断した。

 

―――それが、敗因となるとも知らずに。

 

 

 突如、煙の中から伸びた巨大な二本指の手が、迅を捕縛した。

 

 

『何ッ!?』

 

 

 突然掴まれたことに迅は困惑し、腕の先――胴体があるであろう煙の中を見据える。

 時間が経つにつれ、煙が晴れていき、そこには赤き凶悪な瞳でこちらを見て、気味の悪い笑顔を浮かべるアナザークウガの姿があった。

 

 

『なんで…どうして!?』

 

『知ってるか?狩りは、獲物を狩ったときが、一番油断するんだよ』

 

『どうして…傷を負わせたはずだ!』

 

 

 アナザークウガの今の姿は、無傷そのものだった。

 先ほど、針型弾を突き刺し、さらに追撃を叩き込んだはずなのに、無傷だった。

 

 

『は?んなもとっくに再生してるわ』

 

『再生だと…!』

 

 

 そもそも、迅は知らなかった。アナザーライダーの特性を。

 オリジナルの力でしか倒せないと言う特性を。

 

 アナザークウガを倒すためには、クウガの力が必要だ。

 それを知らなければ、アナザークウガどころかアナザーライダーを倒そうとするなど、夢のまた夢。

 

 

『てめぇの敗因は、無知だ。よく覚えて置きやがれ』

 

『クソっクソっクソっ!離せよッ!放せよ!』

 

 

 迅はアナザークウガの腕の中で藻掻くが、体格差がありすぎるあまり、じゃれているようにしか見えない。

 完全に無視したアナザークウガは、口に火球を生み出し、自らの手に向けて発射した。

 

 

『アァアアアアア――――!!!!熱い熱いよォ!!助けて、助けて『お父さん』ッ!!』

 

 

 悲鳴も、ごねている子供だ。

 見た目も、精神年齢も子供の相手をいたぶり、殺すのは少々癪だ。だが、それでも殺しに来ると言うのなら―――!

 鉄が焼ける匂いが、音が鼻と耳に入っていく。それに耐え、何度も、何度も火球を発射して燃やして―――。

 

 

『―――――』

 

 

 やがて、なにも喋らなくなる、抜け殻が完成した。

 

 

『―――――――』

 

 

 その抜け殻を手放し、抜け殻はゆっくりと、地上に向けて落ちて行った。

 落として、10秒ほどだろうか。地上で、何かが地面に激突する音が、小さく聞こえた。

 

 

『―――終わった、か』

 

 

 アナザークウガはゆっくりと地面に降り、変身を解除する。

 地面に着地した後、アナザークウガ―――零夜は周りを確認する。それは、凄惨な光景だった。

 

 闘いの余波で巻き込まれ、建物は見るも無残に倒壊し、無事なのは宮殿だけ。あそこだけは特別防御が強固のようだ。

 アナザーアギトと化していた住人たちは良い方では大けが、悪い時では即死していた。彼ら彼女等の中にも、無実の人間がいただろう。だが、無罪有罪の人間を選別していたら、キリがない。

 

 目の前に広がる、自身が引き起こした、生み出した地獄。

 そして、それを見るのは住んでいた住人の平和を、日常を侵略し、土足で踏みにじった悪人だ。

 

 

「―――罪がない奴も、ある奴も、全部この瓦礫の中か…」

 

 

 零夜は適当な瓦礫の前で、合唱を行った。

 ここらに埋もれているかもしれない人が、罪人か、善人かの区別は零夜にはつかない。そこにあるのは、ただ無差別に人を殺戮し、日常を蹂躙したと言う事実のみ。

 許せとは言わない。ただ、せめてもの、戒めに―――。

 

 

「―――迅を、無月を探すか」

 

 

 零夜は無月の遺体を探す。

 よく思えば、無月も哀れな犠牲者の一人だ。

 何も知らない、10歳(実年齢1000歳)の無邪気で無垢な少年が、こんな闘いをする羽目になるのだから。

 そもそも、なぜこんな少年に戦う力を持たせているのかが気がしれない。

 

 それに、無月の怒りも憎悪ももっともだった。

 殺らなければこちらがやられる状態で、敵を殺さないと言う選択肢など存在しない。だが、それが無月を復讐の鬼へと変貌させるきっかけとなったのだ。

 第一、そもそもの発端は自分達だ。自分達が月を襲撃しなければ、無月は怒りに囚われることなどなかったはずだ。

 これも、それも、なにもかも自分達のせい。無月は何も悪くない。悪いのは自分達と―――その自分達が月をここまで蹂躙し尽くす理由を作った男、綿月臘月なのだから。

 

 

「せめて、この時代でも、墓は作っとかなきゃな…」

 

 

 無月の遺体を探す理由は、墓を作るため。

 罪人の墓を作るつもりはさらさらない。そして、その罪人かどうかも区別がつかない今、罪人ではないと断言できるのは無月、そして、依姫。その二人と玉兎たちだけだ。

 だからこそ、罪なき人間を殺してしまった象徴として、墓を建てる必要がある。

 

―――そして、もう一つ。あのベルトのこと調べるためだ。

 未知のライダーのベルト。あれを解明して調べる必要がある。あのライダーは、零夜だけではなくシロすらも知らなかった。

 思わせぶりな発言をしていたが、真偽は定かではない。

 

 

「くっそ、瓦礫が邪魔で通りずらい……」

 

 

 闘いの結果、生まれてしまった大量の瓦礫。

 それが零夜の行く道と視界は阻んでいた。

 

 

「―――ていうか、ニュートン(ルーミア)どこいった?逃げろと言ったが、合流できるかどうか…。まぁいずれあっちから来るだろ」

 

 

 ニュートン(ルーミア)のことを後回しにし、今は無月の死体を探す。

 歩いていくごとに、煙が立ち上っている場所へと近づいていく。

 

 が、目の前に大きな瓦礫があり、それが零夜の行く道を阻んだ。

 

 

「チッ。仕方ない、どかすか」

 

 

 腕に力を入れ、瓦礫を精いっぱい退かした。

 やがて、煙の奥が見える―――。

 

 

スティングカバンショット!

 

 

「オブッ」

 

 

―――硬い、鉄のようななにかが、零夜の腹を貫いた。

 

 

「あ…が…ッ!な、なに、が…?」

 

 

 硬い鉄のなにかが勢いよく零夜の腹から抜けられ、蓋がなくなったと同時に間欠泉の如く零夜の腹から血が噴き出てきた。

 それを抑えるために、腹を手で抑えるが、あまり意味はない。

 

 一瞬見えた鉄のなにか、あれは鎖のように見えた。

 そして、なによりあの機械音。あれは―――。

 

 

「狩りは、獲物が狩った時に、一番油断する。お前が教えてくれたことだよ」

 

 

 擦れる瞳に、一人の少年の姿が、ぼんやりと映った。

 こんな場所に居る子供は、一人しかいない―――。

 

 

「無、月…!」

 

「気安く名前で呼ばないでくれないかな。僕はすごく怒っているんだ」

 

 

 無月の手に、青い銃が握られていた。

 あれで、鎖を発射していたのか。銃口から鎖が出現するなんてどんな冗談だ。予想外過ぎて逆に笑えてしまう。

 倒れた零夜の目の前に、無月が近づくと、足蹴りをして零夜を仰向きにして、踏みつける。

 

 

「あが…ッ!」

 

「苦しいだろ?『お母さん』が味わった苦しみは、こんなんじゃなかったはずだ…!」

 

 

 踏みつけられることで、風穴が空いた部分から血がにじみ出てくる。

 乱暴な言葉遣いと、相手を苦しませる、とても子供とは思えない方法を熟知していた無月。

 よくよく考えれば、見た目の年齢で騙されていたが、1000年も生きていたのだ。そのくらいの言葉、知っていて当然だ。

 実際、豊姫はアナザーファイズの必殺技で、苦しまずに死んでいった。だが、そんなこと知る由もない無月は、豊姫は苦しんで死んだと思い込んでいるだろう。

 もしここで弁解したとしても、豊姫を殺したのは事実なため、弁解などできるはずがなかった。

 

 

「なんで…生きて…!」

 

「僕の体は、『お父さん』に魔改造されたんだ。だから体は特別丈夫なんだよ」

 

「なッ……!」

 

 

 無月が言うには、『お父さん』が無月の体を改造していたらしい。

 確かに、子供の体型ながらにあそこまでの耐久力は、そうでないと説明がつかない。

 

 だが、おかしい。どうして、それを不自然に思わないのか。

 いや、当然か。なにせ、子供なのだから。子供だからこそ、『父親』に対して従順なのだ。

 『親』の言うことを必ず聞く。誰しもが学ばされたことだ。そのルールに(のっと)って、無月も行動しているに過ぎないのだから。

 

 

「僕の体は剣も通さない。残念だったね。まずは―――」

 

「ッ!!」

 

 

 無月は弓矢を装備し、刃の部分で零夜の左足関節を斬った。

 当然、零夜の左足を中心に激痛が全身に迸る。

 

 

「悲鳴を上げなよ!無様な姿を僕に見せろ!次はこっち!」

 

「―――ウグッ」

 

 

 今度は、左腕の関節を斬られた。

 血を大量に流した。もう左は使えない。あと使えるのは、右だけだ。

 迸る激痛に耐えながら、少しずつ、腕を動かす。

 

 

「させるわけないでしょ」

 

「ッ!!」

 

 

 だが、無月がその小さな足で腕を踏み、動きを封じた。

 残るは右足のみ。だが、右足だけでなにができる。出血しすぎて、頭が朦朧としてきた中で、どうここから脱出する?

 相手は子供だ。子供程度の重量なら、なんとか抜け出せそうだが、そうはいかなかった。

 踏まれてようやく理解した。無月は、重い。

 

 魔改造されたと言うのなら、まず連想できるのは体のサイボーグ化。体が機械なのなら、重くてもなんら不思議ではない。

 

 

「『お母さん』以上の苦しみを味わってから、死ね」

 

 

 無月が弓矢で狙いをつけた。狙いは――右足だ。

 これで、とうとう四肢が使い物にならなくなってしまう。なんとか、なんとかしないと―――。

 

 

「―――ん?なにこれ?」

 

 

―――突如、暗闇が、無月と零夜を包み込んだ。

 無月が困惑する中、零夜も驚きを隠せない。突然出現したどこまでも果てしなく続く漆黒の闇。そんな能力を使用できるのは……。

 突然、零夜は浮遊感に襲われた。

 

 何者かに体を摑まれ、そのまま移動させられた。

 それと同時に、闇が晴れる。

 

 

「……誰、あんた?」

 

「―――――」

 

「返してくれないかな?そいつ、殺せないから」

 

 

 零夜の朦朧とした瞳に映ったのは、絶世の金髪美女だ。

 長いロングの金色に近い黄髪、グラマーな体型をした、100/100の男が見惚れるであろう、そんな美しい顔立ちをした女性。

 背中に漆黒の翼を背負った、まるで堕天使―――。

 

 

「ニュートン……?」

 

 

「違うわよ。あんなおっさんじゃないから、私」

 

 

「――――ッ!」

 

 

 

 口調が違っていた。ニュートンはもっと穏やかな口調をしていた。

 だが、目の前の女性少し粗暴な口調だ。そして、言葉遣いが女らしくなっている。彼は、こんな言葉遣いはしない。

 

 

「お前、は…」

 

 

「少し安静にしてて。すぐ、終わるから」

 

 

 

 美女はその右手に漆黒の剣を生み出し、構える。

 無月は不機嫌そうに、目の前の女性に問うた。

 

 

「誰だよお前!」

 

 

「私?私は――――」

 

 

 

 少しの前置きとともに、美女はその唇を動かす。

 

 

 

「―――ルーミア。彼の、仲間よ」

 

 

 

 美女―――ルーミアは、その綺麗な黄髪をなびかせ、無月へと剣を向けたのだ。

 

 

 

 





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