東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 どうも、お久しぶりです。ディケイドのスピンオフが面白くて、更新遅れました。
 ディケイド館のデス・ゲーム!滅茶苦茶続きが気になる!

 そして、こちらでもついにルーミアが復活!

 続き、どうぞ!


36 復活の闇

―――深い、深い、闇の中。

 彼女の意識はそこにあった。動くことも、考えることもせずに、ただそこに、存在しているだけだった。

 そんな、静寂の世界で、一つの騒音が生まれた。 

 

 

「――――――」

 

「お―――き―――ん」

 

「―――――」

 

「――い――きろ―――あく―――」

 

「――――」

 

「おい起きろ!ルーミアくん!」

 

 

「――――?」

 

 

 何者かの声が、彼女の意識に届いた。

 だが、それも杞憂だ。今の彼女は眠い、途轍もなく眠い。怠惰でいたい。このまま、ずっと目を閉じていたいという心地の良さが、彼女を支配していた。

 

 

「―――な、に…もう、少し、眠、らせて……」

 

「何を言ってるんだ!零夜が危ないんだぞ!」

 

「ッ!零夜!」

 

 

 彼女は、男の身に危険が迫っていると伝えられ、すべての感情を置き去りにして目覚めた。

 彼女が目を覚ますと、そこには―――

 

 

「ようやく起きたか!」

 

 

 水色のパーカーに、フードを被り、その奥には果てしない黒。そして、光る怪しい水色の瞳。一言で言えば化物だった。

 

 

「うひゃぁ!」

 

「ぶほっ!」

 

 

 彼女はすぐに起き上がり、目の前の化け物に平手打ちを喰らわせた。

 強烈な勢いで横に飛んで言った化け物は、壁や周りに置いてあったであろう機材にぶつかって、ガラスの割れる音、木材が壊れる音、紙束が落ちる音とともに崩れ落ちる。

 

 

「こ、ここは……?」

 

 

 彼女は体を起き上がらせると、そこには先ほどの音と比例するように、大量のフラスコや試験管、黒板ボードに紙束などが綺麗に整頓されていたり、散乱したりしていた。

 ここは、一言で言ってしまえば研究室だ。学校の化学室とも言える。

 

 

「いたた……少し乱暴が過ぎないかい?」

 

「あ、あんたは……!」

 

 

 意識が覚醒し、彼女、ルーミアはようやく目の前の存在が誰なのかを認識することができた。

 目の前の化け物の正体―――それは、ニュートンゴースト。

 

 

「あ、あんた!なんでここに!?」

 

「それは、ここが私の世界だからだ」

 

「あんたの、世界…?」

 

 

 ルーミアは周りを見渡す。

 確かに、彼女にとっては未知のものばかりだ。

 

 

「ていうか、だったらなんで私がここに…!?」

 

「すまないが、あまり説明している暇はない。強いて言うなら、彼らの荷物にならないように、しばらくの間、君の体に私が憑りついたんだ」

 

「憑りついたって……うッ!」

 

 

 その瞬間、ルーミアの脳内に、記憶にないはずの記憶が一斉に流れ込んでくる。

 まず最初に、最後に覚えていたウラノスに操られてからの、その記憶。ニュートンに体の主導権を奪われ、膝枕、地下通路での出来事、月の都での出来事など、すべての記憶が流れ込んできた。

 

 

「なに…ッ、これ…ッ!!」

 

「それは、私が君に憑りついていた間の記憶さ。この際だから、事情は知っておいた方が良いと思ってね」

 

「それは分かったけど…変なことしてないでしょうね?」

 

 

 ルーミアは目の前の青いゴーストに対して冷たい目で見る。

 当然、自分の知らない間に他人に体を使われていたのだ。警戒するのは当然である。

 

 

「安心してくれ、そんなことはしていない。君も見ただろう?それに、君にそんなことすればあの二人に私の魂を破壊されかねない」

 

「―――零夜ならともかく、あいつなら、やりそうね」

 

 

 ルーミアの中で、シロの評価は著しく低い。

 候補から零夜を押しのけ、無理やりシロに罪を着せたような状態だ。

 

 

「いや、普通に彼にアイコンぶっ壊すって言われたんだがね…」

 

「――――それで、私はどうしていたの?」

 

「無視かい!?―――ま、まぁいいとして……君はウラノスとの闘いで、精神が摩耗して、しばらくの間眠りについていたんだ」

 

「眠り…」

 

 

 先ほどまで感じていた、睡眠欲。それは疲労が原因だ。

 だが、その疲労を気合だけで押しのける彼女の精神力もすごい。

 

 

「他の奴らは?」

 

「大丈夫さ。そもそも、私たちはすでに死んでいるから、消滅したとしても魂だけの存在なためまた復活する」

 

「―――な、なんだ……そうだったの…?」

 

 

 ニュートンゴーストからの説明を受け、死んでいないことに(あの時点で既に死んでいる)安堵したルーミアだったが、よくよく考えればあそこまで泣く必要なかったと赤面した。

 

 

「でも、死んだ私たちのために、あそこまで泣いてくれたのは嬉しかったよ」

 

「―――――」

 

 

 ニュートンゴーストからの感謝の言葉に再び赤面したままのルーミア。そんな彼女の耳に、パチパチと拍手の音が聞こえる。

 見上げると、ニュートンゴーストが喝采をしていた。

 

 

「さて、本題に入ろう。今零夜くんがとても危険な状態だ」

 

「―――そうだ!零夜が危険ってどういうこと!?」

 

「今零夜くんは、敵から強烈な攻撃を受けて、満身創痍の状態なんだ」

 

「だったら!なんで助けないのよ!」

 

 

 ルーミアはニュートンゴーストに近づき、襟を持ち上げる。

 

 

「落ち着くんだ!助けないんじゃなくて、私では助けられないから今こうしてここにいる!」

 

「―――どういうこと?」

 

 

 ニュートンゴーストは、自分では助けることができないから、こうしてここにいると言っている。

 だが、その理由は?どうして助けることができない?

 

 

「正直に言ってしまえば、彼らとの戦闘で出てきた障害物から君の体を守るために、力を使いすぎたんだ」

 

「力を…」

 

「これ以上無理に使ってしまえば、例え妖怪の体である君でももたない。それに、零夜くんから君を守れと言われているからさ」

 

「零夜が……!」

 

 

 零夜が自分を守れと言ってくれたのを知って、ルーミアは一瞬歓喜した。

 こんな、途中からリタイアするような足手まといを、こんなにも気遣ってくれるなんて…。

 ニュートンゴーストは、ルーミアの手を放した。

 

 

「だからこそ、無理やりだが今彼を助けられるのは、君を含めた二人だけ」

 

「二人?もう一人って、シロのこと?」

 

「いいや、シロくんとは途中で分かれた。別人だよ」

 

「それって誰よ?」

 

「それは目覚めてからのお楽しみとしておこう。まず、作戦だが君の闇の能力で、注意を逸らしてくれ。あとは、もう一人が不意打ちさ」

 

「だから、もう一人って誰よ!?そいつは、信用できるの!?」

 

「大丈夫、信用できるさ」

 

 

 ニュートンゴーストの言葉には、何かしらの重みがあった。

 これでは、彼の言葉を信用するしかないではないか。

 

 

「―――よし、それじゃあ体の主導権を君に還す」

 

 

 ニュートンゴーストがそう言った矢先、世界が崩壊し始めた。

 外側からボロボロと崩れ落ちていき、その奥には強烈な光がさしている。

 

 

「検討を、祈る。私は、私たちは、君たちを見守っている」

 

「見ないでよ、気持ち悪い」

 

「そういう意味で言ったわけじゃないんだがな…。まぁいいか。それでは、行ってらっしゃい」

 

「――――もう二度と来ないわよ」

 

「はは、そうかい」

 

  

 その言葉とともに、世界は崩壊し、ルーミアの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るー、みあ…」

 

「ごめんね。寝坊しちゃって。もう、大丈夫だから」

 

 

 今、目の前に、ルーミアがいる。

 あの時、精神の奥底で眠っていると、ニュートンから言われていたのに―――。

 

 

「起きた、のか?」

 

「そうよ。じゃなかったら今この場にいないし」

 

「誰だよお姉さん。今仲間って言った?そいつの?」

 

「そうよ。ていうか、あんたこそ誰よ。ここはガキのいていい場所じゃないよ」

 

 

 復活したてのルーミアは、敵が子供だと完全に舐め切っている―――わけではない。

 彼女は見た。この子供が、ただの子供ではないことを。そしてなにより……零夜を、傷つけていたことを。

 だからこそ彼女は相手を、無月を煽る。

 

 

「僕はガキじゃない!無月だ!」

 

「あっそ。そんなことどうでもいいのよ。よくも私の仲間を痛めつけてくれたわね」

 

「そんなやつそうなって当然だ!僕の『お母さん』以上の苦しみを味わって死ぬべきなんだ!」

 

「生憎、私は他人がどうなろうと知ったこっちゃないから、あんたの考えは分かんないわ」

 

 

 無月の言い分を、ルーミアは一蹴する。

 彼の言い分は、確かに正論だ。母親を殺された、子供の恨み。それは否定しにくいもの。恨みで前が見えなくなった子供特有の考え方だ。

 だが、他人などどうでもいいルーミアに、無月の言い分など理解できるはずもなかった。

 

 

「だったら……だったらお前も敵だ!『お母さん』を殺したそいつと、同罪だ!」

 

「勝手に罪刷られるの、困るんだけど。これだからガキは…」

 

「だから!ガキじゃないって言ってるだろ!」

 

「うるさいガキね。もう埒が明かないわ」

 

「もういい!お前もころしてやる!」

 

 

 無月は子供のごとく癇癪を起こし、手に持つ弓矢を放った。

 放たれた紫のエネルギー矢が、ルーミアを一直線に襲う。

 

 

「遅い!」

 

 

 だが、ルーミアの動体視力とって、矢の速度などナメクジレベルの速さだ。

 創った闇の剣ですかさず矢を斬り、自慢のスピードで一気に距離を縮める。

 

 

「ッ!」

 

 

 だが、無月が子供の肉体とは思えないほどの身体能力で後方に飛び下がった。

 姿かたちに似合わない超人レベルの身体能力を見せられたルーミアは、動揺してそのまま立ち止まった。

 

 

「今の、確実にガキの身体能力じゃない…どういうこと?」

 

「ガキっていうな!僕の体は改造されているんだ!お前等ごときに遅れを取るわけないだろ!」

 

「ムカつくガキね……。子供はおねんねしてなさい!」

 

「子供扱いするな!もう怒ったぞ!殺してやる!」

 

 

 無月は、懐から迅に変身するためのベルトを装着し――

 

 

「させるかッ!」

 

 

 だが、その直前にルーミアが無月の腕に弾幕を放ち、ドライバーを地面に落とした。

 

 

「ッ!」

 

「姿を変えることができなきゃ、あんたらは所詮雑魚!あ、もちろん零夜は別だからね?」

 

「なにを言ってんだお前は…」

 

 

 ライダーとしての最大の弱点の一つであるドライバーの手放しを行い、ルーミアは悦に一瞬浸る。

 ドライバーを回収するために、無月が跳躍してドライバーに手を伸ばす―――。

 

 

「それも読めてんのよ!」

 

 

――その瞬間、ルーミアが闇の剣を振るうと、オーロラの如く闇が縦に地面に浸食していく。

 闇の斬撃は岩を、石を、地面を、瓦礫を、鉄をも、すべてを断ち斬り、目標へ向かっていく。

 

 

「―――あッ」

 

 

 ドライバーは、真っ二つになった。

 

 

「あぁあああああああッッ!!!!」

 

「―――は?」

 

 

 この現実に、無月は絶叫し、零夜は呆けた声を出した。

 仮面ライダーの最大の弱点の一つであり、禁忌とも言える行動の一つ、ドライバーの破壊。それをやってのけたルーミアは、誇った顔をした。

 

 

「どう!?やったわよ零夜!」

 

「あ……うん。そう、だな……」

 

 

 零夜も、呆けた顔の次に渋い顔をした。

 彼としては、倒した後あのライダーがなんなのかを調べるつもりだったが、壊れしまっては元も子もない。残骸からなにか分かるかもしれないが、それでも得られるものは少ないだろう。

 この状況でとやかく言う資格はないが、何かと複雑な心情だ。

 

 

「よくも!よくもよくもよくも!ベルトを壊してくれたな!『お父さん』に言いつけてやる!」

 

「言いつけてやるってなによ。子供なの?―――子供か」

 

「~~~ッ!!」

 

 

 子供を煽る技術は一級品だ。

 子供だから煽られやすいと言うものあるが、彼女の本質そのものが技術を向上させているのかもしれない。

 

 

「それに、ベルトはそんな簡単に壊れないはずなのに!」

 

 

 ベルトの強度に、自身があったようだが、それも闇の力の前には無力だった。

 空間に干渉する闇の力、その力の前に、どんな強度の物質も、防げるわけがない。もし防げるとしタラ、それは同じ力か対極の『光』の力でしかできないだろう。

 

 

「もういい!ベルトがなくなったって、これがあるから!」

 

 

 無月はベルトのことをすんなりと諦め―――、否、それよりも怒りを優先したのだ。

 少年の腕が、弓矢に伸びて―――

 

 

「ウグッ!」

 

 

――――その前に、無月の喉に、鉄の刃が貫通した。

 

 

「―――エ゛ッ?」

 

 

 無月の喉から、ボタボタと血が垂れていく。

 

 

「な、ん、で…?」

 

「案外あっさり終わったわね。あんたが子供で助かったわ」

 

「どう、いう…―――」

 

「私は、ただそいつが攻撃するまでの、囮でしかなかったってことよ」

 

 

 ルーミアは、ただ()()()が攻撃するまでの、囮でしかなかったのだ。

 ルーミアが無月を煽り、彼の注意をルーミア一人に向けさせることで、協力者が見事無月の喉に一撃を与えた。

 喉から刃が抜かれ、間欠泉の如く血が放出する。無月は膝から崩れ落ち、そのまま倒れる。

 

 

「だ、誰、…?」

 

 

 無月は苦し紛れに首を傾け、襲撃者の正体を見ようとする。

 そして、彼の黄色の瞳が、その正体を捉えた。

 薄紫色の長い髪を、黄色のリボンを用いて、ポニーテールにして纏めている。瞳の色は紫がかった赤。半袖で襟の広い白シャツのようなものの上に、右肩側だけ肩紐のある、赤いサロペットスカートのような物を着ている美少女が、養豚所の豚でも見るような眼で、無月を見ていた。

 

 その手には、やはり一振りの刀。

 その刃は、無月の血で濡れていた。

 

 

「な、なんで……!」

 

「―――――」

 

依姫、お姉ちゃん…!?」

 

 

 その襲撃者の正体は、依姫だった。

 襲撃者の正体に、焦燥と疑念、驚愕の表情を浮かべた無月。次第に、それが悲哀と激情になっていく。

 

 

「どう、して…!」

 

「―――――」

 

「ま、待っ―――」

 

 

 ――――無月の首が、胴体から離脱した。

 結局、一言も話すこともないまま、無月はその生涯を終えたのだ。

 

 

「――――」

 

 

 そして、驚愕の表情を浮かべていたのは、零夜も同じだ。

 何故彼女が?何故仲間である無月を殺した?訳が分からない。それも、あんな瞳で……どうして肉親を殺せた?

 

 

「―――――」

 

 

 依姫は刀を鞘に納め、ゆっくりと近づいてくる。

 次は自分の番だ。そう感じた零夜は、ほぼ使い物にならなくなった体を起こそうと―――。

 

―――するが、ルーミアに止められる。

 

 

「大丈夫、無理しないで」

 

「何、言って―――」

 

 

 そんなことをしている合間に、依姫の接近を許してしまった。

 地面に這いつくばる零夜は、依姫を睨む。次は自分の番だと言うのに、どうしてルーミアは……裏切り?

 

 

「――――」

 

「は?」

 

 

 考えていると、突如、依姫が片膝をつき、刀を地面に置き、敬意を示すポーズをした。

 これは、忠誠を誓うポーズだ。どうして、彼女が?

 

 

「―――クロ、殿。こんな状態で、申し訳ありません。ですが、あなたの警戒を、できる限り解くため、これだけは最初に言わせてください」

 

 

「―――どうか、綿月臘月を討つ機会を、私にください」

 

 

 彼女の目は、憎しみと憤怒で、塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

 

「どういう、ことだ…?」

 

 

 零夜はルーミアの手を借り、体を起こしていた。

 腕をルーミアの首に回し、それで体勢を取っていた。

 依姫の言っている意味が分からない。いや、そのままの意味として取れば、依姫は臘月の首を取る――つまりは殺したいと祈願しているのだ。

 勝手に取ればいいものを、なぜそれをわざわざ自分に言う必要があるのか。

 

 

「そんなのお前が勝手に取ればいいだろ。どうしてそれを俺に言う必要がある」

 

「―――確かに、そうです。私も、臘月の首を狙いましたが、失敗して、今や裏切り者です」

 

「――――は?」

 

 

 そのあと、依姫は淡々とシロに捨てられ保護された後のことを話した。

 彼女が目覚めたのは、医務室のベットだった。自らの体を起こした。

 彼女が最初に感じたのは、何かの足りなさ。なにか、重要なことを、忘れている。そんな感覚だった。

 そして、最初に目にしたのが…

 

 

『やぁ、起きたかい依姫?』

 

『―――臘、月……!』

 

 

――――全部、思い出した。

 絶対に許されない、大罪を犯した、自分の師を、あのようになるまでいたぶった、あの男―――綿月臘月!

 この男を見るだけで、徐々に怒りが湧いてくる。すぐにでも殺したい。殺したい。殺しは月の間では大罪だ。だが、それがどうした。この男はすでに大罪人だ。ならば、殺しても、構わない――!それが例え、肉親だとしても。

 

 殺すために、まずは手段を探した。

 力は―――何故か、戻っていた。八百万の神々との繋がりが、確かに存在していた。

 そして、自分の傍に存在していた、自分の刀。白装束の男に回収されていたはずなのに、何故か自分の手元にああった。

 だが、これ以上の好都合なことはない。

 

 依姫は刀を手に取り、抜刀し、神を降ろして殺気全開で、目の前の存在を滅さんと刀を振りかざした。

 狙うは一刀両断。首を狙い、この外道に、引導を渡してやる―――!

 

 神の力を借りた、神速の一刀。

 その光速を超えた速度の刃が、臘月の首を、通り過ぎ―――。

 

 

『なんの、つもりだい?』

 

 

 ―――ることはなかった。

 動かない。刃は確かに、臘月の首にぶつかったはずだ。それなのに、これ以上刃が通らなかった。力を入れても、ただそこに壊れることのない鋼鉄を、相手にしているかのようだった。

 

 

『起きて早々、敵だと思って攻撃したのかい?いや、ちゃんと俺の名前言ってたし、それはないよな……。もう一度聞くけど、どういうつもりだ?』

 

『――――ッ!見させてもらった!あの地下通路を!そして、そこで囚われてる八意様と、輝夜を!!』

 

『―――なんのことかな………なんて言ったって、信じるわけないか。カメラ確認したら侵入者と気絶した君がいたから、もうもろとも殺ろうと思ってたんだけど、生きてたって知ったときは驚いた。ていうか、どうやってあそこのパスワード知ってたのかな?あそこのパス知ってるの、俺以外にウラノスしかいなかったはずなんだけど』

 

『貴様ァぁああああ!!』

 

 

 己が罪を認めた臘月に、鉄槌を下さんと再び刃を振るう依姫。

 刃の煉獄の炎を纏い、このまま焼き殺すつもりだ。刃が無防備の臘月を襲った。だが、その刃が臘月の無防備な手によって掴まれていた。

 依姫の脳内が、疑問で一色になる。どうしてそんなことができる?刃の身で手の皮膚が切れ、熱で肉が焼けることを恐れていないのか?

 

 

『できれば知らないままでいてほしかった…。だけど、秘密を知られたからには、君の残された選択は二つ。まず、一つは、秘密裏に俺の玩具(おもちゃ)になることだ。そしてもう一つ、この月の、裏切り者になるかだ!』

 

『ならば―――私は、迷わず後者を選ぶ!』

 

『そうか、残念だ!』

 

瞬間、医務室が爆ぜる。

 煙で包まれた医務室だった場所から、依姫が飛び出し、廊下を駆けた。

 

 

『依姫様ッ!?』

 

『どうなされたのですか!?』

 

 

 そんな、兵士たちの言葉も無視しながら。

 

 

『謀反だ!依姫が裏切った!』

 

『なんですと!?』

 

『依姫様が!』

 

 

 そんな、自分が裏切者になっていく過程を、聞いていたとしても。

 依姫は、ただ、怒りを胸に、激憤を胸に、悲しみを胸に、悲哀を胸に、ただただ駆けたのだ。

 

 

 

 

「―――そして、なんとか宮殿を抜け出し、轟音を頼りに、ここに来た次第です」

 

「それで、その途中で私と出会ったの。ホント、あのおっさん(ニュートン)から聞かされてたけど、こいつがいたのは驚いたわ。だってこいつ、ついさっきまで敵だったんでしょ?」

 

 

 そう、ルーミアの言う通り、数刻前までは綿月依姫は敵だったのだ。そんな相手を、裏切ったから仲間にしてくれと言われて、はいいいですよなどと承諾できるはずもない。

 

 

「裏切り者はいずれ裏切られる。それは当然の摂理です。ですので、今回の件が終わったら、私を切り捨ててくれても構いません。ただ、私は、臘月に一矢報いれれば……!」

 

 

 依姫の瞳に宿るのは、復讐心と言う名の激情だ。地下で尊敬する人物(八意永琳)と、その人物が忠誠を誓っていた人物(蓬莱山輝夜)が、あのような状態で囚われていたあの残状を見て、依姫の頭は、パニックを起こしているのだろう。

 もっと臘月を討つ機会があったはずなのに、早とちりをして裏切者扱いにされているのが、何よりの証拠だ。

 

 

「―――どうする、零夜?」

 

 

 依姫を一時的な仲間にするかは、零夜の選択にかかっている。

 裏切った人物を仲間にする、それは相当なリスクを背負うことになる。このイレギュラーの巣窟となってしまった月で、これ以上の不安要素を加えるのは、なんとしてでも阻止したいところだが…。

 

 

「一つ聞く。お前は、俺を裏切るか?」

 

「―――私は、裏切る、裏切らない以前の話をしています。私の目的はただ一つ。臘月の、首を刎ねます」

 

 

 依姫の瞳は、どこまでも怒りと悲しみで濁っていて、穢れていた。

 だが、そんな彼女の瞳が、零夜にはまっすぐな瞳に見えた。この目は―――嘘をついている者の、目ではない。

 零夜には、それが確信できた。

 

 

「勝手に、しろ」

 

「ありがとう、ございます」

 

 

 依姫は再び敬礼し、実質的な服従の儀が、完了した。

 これで、彼にとってどうでもいいことは終わった。それを実感すると、体から力が抜けてくる。

 それを感じ取ったルーミアが、焦りの声を上げる。

 

 

「零夜ッ!?」

 

「怪我が大きすぎたんです!急ぎ過ぎて回復薬の回収を忘れていた…!どうすれば…!」

 

「そんなの、必要ないわよ!私たちには、私たちの薬があるから!」

 

 

 ルーミアは懐を(まさぐ)ると、そこから二つの瓶を取り出した。

 緑色の液体と、赤色の液体だ。赤色の液体は、見覚えがあった。ルーミアの体にニュートンが憑りついたとき、シロが零夜に飲ませた造血剤だ。

 緑色の液体を零夜に飲ませると、みるみると怪我が回復していった。すべての傷が治るのに、1秒もかからなかった。

 そのあとに、赤色の液体―――造血剤を飲ませた。青白かった零夜の顔色がどんどんとよくなっていく。血行が良くなった証だ。

 

 

「よかった…。アイツの記憶弄ったかいがあったわ。順序が間違ってたら、確実に危ないことになってたわね…」

 

 

 もし、順序を逆にしていたら、せっかく増えた血液が流れていただろう。

 こればっかりは、ニュートンの記憶に感謝だ。

 

 

「ちょっと、なにボケっとしてるのよ。あいつの薬の効力がすごいからって、ボーッとされちゃ困るんだけど」

 

 

 今の回復具合を見て、依姫も驚愕していたのだろうか。驚愕と困惑の感情をそのまま顔に出して硬直していた。

 

 

「――――なんで…?」

 

「ん?なんて言ったの?」

 

「なんで――――()()を、あなたたちが持ってるんですか?」

 

「は?」

 

 

 依姫の疑問に、ルーミアは首を傾げた。

 彼女の言っているソレとは、確実にこの回復薬と造血剤のことを言っているだろう。だが、ただ貰っただけのルーミアにとっては、それがなにを意味しているのか分からなかった。

 だが、否が応でも依姫の次の言葉でそれを知ることになった。

 

 

「その回復薬と造血剤は、月の都で開発、量産されているものですよ…?」

 

「―――え?」

 

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

 

 月の宮殿の一角。

 その一つの大きな場所が、壊滅寸前まで追い込まれていた。

 大量の機材が破壊され、大量の鮮血と血肉が飛び散り、煙が永遠と炊き続けられる。

 

―――場所の名前は、薬物開発室。

 

 

「あ…が…ッ、ウグッ…!」

 

「あぁ良かった。まだ起きてたんだ。お前が一番偉そうだったから、生かしておくつもりだったから、本当に良かったよ」

 

 

 その部屋に、一人の白衣を着た男と、全身白装束の男がいた。

 他にも、人はいた。だが、それらはすべてその辺りに転がっている肉塊や血だまりが、その人物らの後世を物語っていた。

 白装束の男は、白衣の男を首から持ち上げ、白衣の男が苦しそうに悶えていた。

 

 

「すべて、全部、何もかも、虚偽なく答えろ。僕は今、とても機嫌が悪いんだ」

 

 

 白装束の男は、もう片方の手で、緑色の液体の入った瓶を持ち、白衣の男に問いかける。

 

 

 

「なんでコレ(回復薬)が、ココ()で造られてるんだ?」

 

 

 

 白装束の男―――シロは、フードで隠れたその漆黒の瞳で、男に憤怒をぶつけた。

 

 

 




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 今回のシロのイメージCV【内山昂輝】
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