どうなる37話!
「ど、どういうこと?この薬が、月で造られている?」
「はい。間違いありません。瓶は違いますが、効力は私の知っている物そのものです」
依姫の言葉や瞳から、嘘を言っているようには見えなかった。
つまり、依姫の言葉を信じるならば、この薬はこの月で造られていることになる。
「あいつ…!もう造れないとか言っておきながら…!現在進行形で量産されてんじゃないのよ!」
ルーミアが指摘したものもある意味問題だが、一番の問題が発生している。
〈何故、シロが月で造られている薬を所有しているのか〉だ。普通に考えれば、シロは月と繋がっていることになる。そうでなければ、この薬の入手経路の説明がつかないからだ。
偽装なども、瓶から違う瓶に入れ替えれば、十分可能だ。
「あいつ…!まさか裏切ったの…!?」
「しかし、私は彼のような人物は知りません。私が知らないとなると、やはり臘月と……―――」
「―――いいや、アイツは裏切ってなんか、いねぇよ」
突如、この場で唯一の男性の声が響いた。
二人の少女は一斉に男性に顔を向けた。
「零夜!よかった…!」
「―――どうして、そう言えるんですか?」
出血多量で横たわっていた零夜が、薬のおかげで回復しだし、意識もはっきりとしてきたのだ。
ルーミアは零夜の復活を喜び、依姫は喜びよりも疑問を優先していた。
「確かに、あいつは態度こそふざけてるが、俺の言うことに対しては、限りなく従順だ。だから、あいつが裏切るとは思えねぇ。なにより―――」
零夜は、シロの自身の体を心配する姿勢や、もう造れないと言っていた回復薬を、自分のために躊躇いなく使用する辺り、シロが自分にとって不利益な行動をするとは、到底思えなかった。
零夜はシロを、「背中を預けられる
「―――とにかくだ。事情は後で奴に聞けばいい。だから、俺たちは……」
零夜はゆっくりと立ちあがり、目の前に堂々とそびえ立つ、宮殿に目を向けた。
あそこにいるはずだ。この月の大変革の主任にして、すべての元凶―――綿月臘月が。
「行くぞ」
今、シロが裏切っていたのかなど、零夜は内心どうでもよかった。と言っても、一番の理由はシロが裏切らないと言う確信があったからだ。
シロの態度などは気に食わないが、そのような男ではないと、零夜は知っているから。
決意を、覚悟を、勇気を固め、それを、一言で纏める。
「綿月臘月を、ぶっ潰す!」
* * * * * * * *
宮殿内は、混乱に包まれていた。
すべての敷地が、どれほどあるのか分からないほどの、広い宮殿。そんな宮殿の中で、いくつもの
「―――シロの奴、随分と派手にやったんだな」
「ねぇ、これ本当に道合ってるの?」
「私に聞かれても……ここまで壊れてしまえば、もうわかりませんよ」
その劫火の中、悠然と突き進む三つの影があった。
影の内の二人の女性、ルーミアと依姫は道が分からず迷っていた。と、言うのも、道にある巨大な瓦礫が、行動を阻止していた。
この宮殿の中を詳しく知っている依姫でさえも、ここまで壊れてしまえば、道を思い出すのも不可能であった。
「とりあえず、形を留めているところからなんとか思い出せ」
「そう、言われましても……」
何度言われても、無理なものは無理。そんなほどに、宮殿の道は破壊し尽くされていた。
「ていうか、なんでここだけ壊滅状態が酷いんだよ?」
「確かに……。途中まではまだ原型留めてたけど、ここはもう滅茶苦茶ね」
三人は堂々と正門から突破したのだが、見張りどころか門番すらいないかったので、楽勝に侵入することができた。
シロが派手に暴れてくれているおかげで、戦力がすべてそこにつぎ込まれているのだろう。おかげで侵入し放題だった。
最初は楽に進めたものの、とある場所から破壊状態が酷くなったため、状況が著しく進んでいなかった。
「ったく、本戦で体力温存しておきたいってのに、余計なところで体力使われるな…」
「でも、壊しちゃったら、また酷くなるかもしれないわよ?」
「そうなんだよな…」
「――――――」
二人が目の前の瓦礫をどのように突破するのかを考えている中、依姫だけが無言で目の前を見ていた。
「どうした?」
「あっ、すみません。実は…この、瓦礫で埋まっている場所なんですけど」
「この道を塞いでいる瓦礫がどうした?」
「実は、この場所にはとある部屋の入口があったんですけど…」
「とある部屋?」
「―――薬物開発室です」
依姫の言葉に、目を丸くする二人。
つまり、この薬物開発室だった場所では、例の回復薬が作られていたと言うことになる。
「そこって、あの薬が作られていたところよね?なんでこんなになってんの?」
「さぁな…。ただ、あいつの暴れ具合からすると、気に食わないことでもあったんじゃねぇか?」
「気に食わないこと…?あなた、この部屋でなにがあったか、知ってる?」
ルーミアは依姫に、内部のことについて聞く。
この場で一番この宮殿で詳しいのは、依姫しかいないのだから、当然だろう。
「一度だけ、入ったことはあります。室内は、一言で言えば研究室…。ですが、その部屋に、とても似つかない物はありましたね」
「似つかないもの?」
「大樹です」
「……大樹?」
大樹、とは。つまりは大きな木のことだ。
確かに、薬物開発室と言う明らかな製作を担う場所にはとても似つかない物だ。
何故、そんなものがあるのだろうか。
「大樹とは、確かに変だな」
「その大樹って、おかしなところはなかったの?」
「おかしなところ……ただの大樹ないことは確かでした。神々しい緑色のオーラを常に纏っており……とても、近寄りがたいものでした。まるで、『本物の神』が、いるかのように…」
『本物の神』。そのフレーズに、零夜は反応した。
「『本物の神』?」
「……少し、語弊がありましたね。正確には、今までとは違う神が、居たようでした。感じたことのない、全く別の神の…」
「全く、別の神…?」
依姫の証言から、考えられるパターンは、二つ。
まず一つは、自分達の知らない、様々な神話に登場するであろう神とは、全く別の神。だが、これは確証が持てないため、保留とする。
そして、もう一つ。これが一番現実的だ。日本神話以外の、神。
依姫は八百万の日本神話の神をその身に降ろすことが可能だ。
そんな彼女が、別の神の気を感じた、と言っているのだ。つまりは、別の神話の神の力である可能性が高い。
「別の、神…。他の神話の神か?」
「何を言っているのかはわかりませんが、私の知らない神であることは確かです」
「他にはなにか分からないの?」
「すみません。あの大樹のことは、【デンドロン】が一任していたもので…」
「デンドロン…」
―――デンドロン・アルボル。
零夜が倒したヘプタ・プラネーテスの一人だ。デンドロンだけ、確かに能力が不確かだった。『火』『水』『海』『天』『金』『土』は能力がはっきりしていたのに、唯一『木』だけが能力が分からないなんて、おかしすぎる。
よくよく考えてみれば、あの土壇場で、何故能力を行使せずに弓で対抗しようとしたのか、今になって疑問だ。ヘプタ・プラネーテスと言う猛獣の集まりの一人なのだ。能力がないなど考えられない。
弓術以外で、なにか能力があったに違いないが、特に弓術と、『実』のこと以外、デンドロンに気になったことはなかった。
「ヘプタ・プラネーテス、だったっけ?デンドロンって奴、滅茶苦茶弱かったけど、本当にヘプタ・プラネーテスだったのか?」
「確かに、彼は弱いです。なにせ、彼の能力は戦闘には不向きなので」
「なに?」
聞き捨てならなかった。ヘプタ・プラネーテスの中に、戦闘に不向きな人物がいたなど。あの手を組まれると厄介な無我夢中で倒した怪物レベルの強者たちの中に、非戦闘員がいたなど。
「なんで、そんな奴がヘプタ・プラネーテスの中にいるんだ?どう考えてもコネにしか見えねぇんだが」
「コネではありません。彼はどちらかと言うと補助を担っています。この場所にあった薬物開発の最高責任者が、彼ですからね。
「はぁ?だったら、なんで最前線なんかに出てんだよ。おかしいだろ」
非戦闘員を最前線に置くなど、愚かの極みだ。そして、それが最高責任者と言う重要な役割を持っている人間なら尚更だ。
そんなバカなことを実行するなど、零夜には到底理解できない。
「ヘプタ・プラネーテスは7人ですが、今まで七人同時に出撃したことは、たまにあります。今回なんかがそうです。ですが、全員が一緒に戦うことは、一回もありません。理由としては、ウラノスが一人で戦うことを好んでいたからですね」
確かにウラノスのあの力なら、共闘など弱者のすることだ、などとと考えて共闘などとは無縁だろう。
「それに、デンドロンは兵士たちが盾となって守っていました。そのデンドロンを含めた『火』『水』『海』の四人と兵士たちを率いるのが、
「―――――。」
今の依姫の、豊姫の呼び方が完全に呼び捨てだった。
前に、今の豊姫がもう姉ではないと言った通り、もう今の依姫は豊姫を姉として見ていなかった。ただの、他人だとしか、見ていないように思えた。
「……そうか。で、肝心の臘月は?」
「臘月は一人で十分戦えるので、護衛など必要ありません。ですが、臘月の他に、警戒しなければならない人物がいます」
「―――月夜見」
そう。元々、臘月やウラノス、無月の存在を知る前から、最も懸念していた存在が、月の神【月夜見】なのだ。なにせ、『原作』では月夜見こそが、月を統べる統率者なのだから。
その力は、尋常ではない。
この世界の神は、自身が受けている信仰が強ければ強いほど力が増す傾向にある。月の民のほとんどが信仰しているため、彼女の強さは化物レベルになって、いた。
「だが、今は違う」
「どういうこと?」
「神は信仰が強ければ強いほど力を増す。だが、月の兵士のほとんどが戦死し、民もあの状態で生きてるか死んでるかも分からない、まさに地獄。そんな状態で、強力な信仰があると思うか?」
「あッ…」
零夜からの説明で、ようやくルーミアも話についていけた。
この、月の兵士をほぼ失って、結果的に月夜見の信仰は減った。つまりは、通常よりかなり弱体化しているはずだ。
「わざわざ、万全の状態で戦う必要なんてねぇ。だからこそ、今が好機なんだ。だからこそ、急ぎたいんだがな…」
零夜は再び、目の前の瓦礫の山を垣間見る。
この瓦礫を退かさなければ、先へ進むことなどできない。そして、他のルートを通れば、間違いなく兵士たちと合流して戦闘になる。
無駄な消耗は避けたい今、戦うことは悪手だ。だからと言って、この瓦礫を退かせば大きな音が鳴り、兵士たちを呼び出すきっかけを作ってしまう。
「万事休すか…?」
「やはり、遠回りしてでも別のルートへ行った方が良かった「その必要はないさ」ッ!」
突如現れた、第四者の声。
三人は一斉に警戒態勢に入り、周りを警戒する。そして、以外にもその声の主は瓦礫で塞がっている道とは反対の方向―――つまりは零夜たちが歩いてきた道から来ていた。
「――――」
コツコツと、廊下を歩く音が小さく響く。
影は近づくにつれ大きくなり、やがて、全貌を現した。
流れるような長い黒髪、とても普通とは思えないほどの上質な服装、そして、見るものすべてを魅了するような顔と、その顔に似合うほどのグラマスクな体型の美女が、零夜たちの前に姿を現した。
「ついに、反旗を翻してくれたんだね。私は嬉しいよ、依姫」
「―――月夜見、様……!」
依姫の、震えた喉が、目の前の存在を、『名前』を口にした。
目の前の女性。彼女こそが、この月の神、月夜見だった。
* * * * * * * *
「てめぇが、月夜見…?」
零夜が疑惑の声を上げる。月夜見―――またを
だが、目の前にいるのは絶世の美女。
日本神話では月夜見は男だったはずだ。それなのに、目の前にいるのは女性。
明かに、零夜の認識に齟齬が発生していた。
「あぁ。私が月夜見だ。だが、信じられないだろう?私からはほぼ神力が感じられないだろうからな」
「あ、いや、そうじゃなくて、だな…」
「どうしたの?」
「この方は間違いなく月夜見様ですよ?」
二人からも指摘(心配)が入るが、零夜の頭は硬直したままだ。
男性かと確信していた月夜見が、まさかの女性。この事実に、困惑が未だ拭えない。
「あ……もういいや…」
「「「――――?」」」
零夜は、思考を放棄した。今は他にやらなければいけないことがあるからだ。
ちなみに、月夜見に女性説はあります。
「で、神力がほぼねぇのはほぼ気配で分かる。それに、お前レベルの神とくりゃあすぐに分かってもおかしくねぇからな。話しかけられるまで分からなかったのは、気配遮断がかなりうまいのか、弱すぎて気づけなかったか、もしくは両方だ」
「言うな…。確かに、今の私にはその両方が該当する。気配を断ち斬ることなど、神には出来て当然だ」
流石に、神を名乗るのだから戦闘に関する事柄は、基本的に習得しているようだ。
月夜見の言う両方とは、そのままの意味だ。零夜が最初に予測した、月夜見の弱体化はもちろん、気配を遮断していたために、話しかけられるまで気づけなかったのだ。
弱ければ、気配も弱くなる。つまりは、気配遮断が断然と楽になるということだ。
「で、何の用だ?」
「ここで話すのはなんだ…。少し移動しようと思う。そこを、どけてくれないか。危ないから」
月夜見が、瓦礫の山に手をかざし、拳を徐々に握る。
すると、瓦礫が小さな音を立てながら、みるみると小さく―――否、圧縮されていく。明かに許容量をオーバーしながらも、大量の瓦礫が圧縮される速度は止まらない。やがて、瓦礫が直径30センチメートルほどの球体となって、地面に転がり落ちる。
「これ、で……大、丈夫……」
突然だった。なんらかの力を行使し終えた月夜見が、体に力が入らなくなったかのように、倒れたのだ。
それを見た依姫が、月夜見の元へ駆けつける。
「月夜見様!」
「ど、どういうこと…これ…?」
「力を使いすぎた結果だろうな…。言ったろ。こいつは弱体化してるって。多分、その後遺症だ」
「ど、どうすれば…、ひ、ひとまず、月夜見様の部屋へ!」
「おい待て、そんなことしてる暇なんてねぇぞ」
零夜の言う通り、ここは敵陣地。いつ敵に襲われてもおかしくはないのだ。
それだと言うのに、敵か味方か分からない相手を、介抱する時間などない。
「し、しかし!月夜見様は私たちに活路を開いてくれました!助けなければ―――!」
あぁ、なんということだろうか。
今の依姫は、視野が狭くなっているのだ。精神が不安定で、いつもの自分を見失って、最適な判断が出来ていない。いや、大抵人間はこういうものだろう。
依姫にとって、月夜見はまだ尊敬に値する人物なのだろう、しかし、零夜はそうではないのだ。
「それに、俺がそいつを助けて、一体何の意味が―――」
「―――臘月、あいつのことを、できるだけ、話、す…」
瞬間、零夜は目の色を変えた。彼女を助ける理由ができたからだ。
報酬にがめついとかそういうことではない。彼は単純に損得を気にしているだけだ。それに、ここで臘月の情報を、できる限り入手しておくもの、今後に繋がるからだ。
「―――はぁ、で、どこに行けばいい?」
「話の、通じる、やつ、は…嫌い、じゃない、さ。道は…依姫に教えてもらってくれ」
「分かった、喋るな。臘月の情報吐くまで体力温存しておけ」
「――――――」
零夜の言う通り、月夜見はもうそれ以上なにも喋らなくなった。
神が人間の言葉を聞くなど、意外だと思いながらも、今自体が非常事態なために、そんなこと考えても仕方ないとも言える。
「ついてきて下さい」
依姫の案内に従い、月夜見を背負って廊下を駆ける。
瓦礫の山の奥に広がる光景は、まさに地獄の業火が蔓延っていたと言えよう。そんな灼熱地帯の中を、猛スピードで移動する。
これだけでも、シロがどれだけ暴れていたのかが理解できてしまう。
「あっつ!長時間いるのは危険だぞ!」
「ねぇまだつかないの!?」
「もう少し待ってください!――――ありました!」
秒速百メートルほどの超高速で走り、10~20秒ほどかかり、ひときわ大きな扉の前へと到着した。
直後、依姫が月夜見を担いでいる零夜を見た。
「ここに、月夜見様の手をかざしてください」
目の前には、タッチパネルのような画面が存在していた。
「まさか、指紋認証?律儀な…」
零夜は月夜見の手をタッチパネルにかざす。
すると、何重とも積み重なっていたのか、いくつもの扉が様々な形―――横に開き、縦に開き、上下に開き、やがてすべての扉が開くと、そこには大きな部屋が存在していた。
「入ってください」
四人が入ると、先ほどの巨大な門とも言える扉が、閉じる。
あれほどの強靭な扉、こじ開けるのは困難なはず。これで、しばらく誰も入ってくることはないだろう。
いざとなれば、オーロラカーテンで逃げればいい。零夜は、言ったことのある場所なら、繋げることができるので、なんの問題もない。
「非常電力が動いているようで、助かりました」
「非常電力?なるほどな、こんな状態でも動くわけだ」
こんな、灼熱地獄状態の宮殿で、電力が動いているのかと心配になっていたが、どうやらここには非常電力と言うのがあるらしく、それで動いていたようだ。
「―――で、ここなら邪魔は入らない。臘月のことについて、どれくらい知っている?話せ」
「その前に、まず少し私のことについて、話さなければならない」
「は?そんなのは別に「聞いて、くれないか?これは、君に関することでもあるんだ」―――どういうことだ?」
何故、月夜見自身の話が、零夜について繋がるのか、意味が分からない。
零夜と月夜見にはなんの接点もない、ましてや、今日が初めての、つまりは初対面なのだから。
「知っての通り、私の力は弱体化している。だが、それは君たちのせいじゃないんだ」
「ど、どういう、意味ですか…?」
「私の力は、もうとっくに弱体化していたんだ」
月夜見のカミングアウトに、三人が驚愕と困惑の表情を見せる。いや、依姫だけ、二つの感情とともに悲痛の感情が混ざっていた。
もうすでに弱体化している。確かに月夜見はそう言った。つまり、最初からほぼ信仰が失われていたと言うことになる。
「ど、どういう、ことですか…?」
「そのままの意味さ。私は、ある日から信仰のほぼ全てを失った。実質、新参者の神となんら変わらない程度の力しかないのだ」
「―――何故、力を失った?お前はこの月で最も信仰されてる神だろ?」
月夜見は、この月の都の創設者の一人だ。そんな神が、信仰のほぼ大半を失うなど、ありえない。
なにか、途轍もない要因があるに違いない。
「―――臘月の、仕業だ」
「臘月が!?」
再び、困惑に困惑が塗りつぶされた。
もしそれが、本当に臘月の仕業だとすれば、予測がつかない。月夜見ほどの強大な神を、どうやってここまで追い込んだのか、想像がつかない。
「臘月…。そいつが、何をしたんだ?」
「分からない、だが、ある日突然私の信仰は消えた。いきなり、大量にな……」
「一気に、大量に?そんなことがあり得るのか?」
「分からない。だが、事実、あいつがなんらかの手段を用いて私の信仰を消したのは確かだ」
「で、なんでそれが臘月の仕業だって分かったんだ?」
月夜見の信仰が消えていたのは確実だ。ならば、何故それが臘月の仕業だと断言できた?普通、様々な原因を考えるはずだ。
それなのに、月夜見は臘月を犯人と断言している。
「―――信仰を失う数日前、臘月に言われたのだ」
『月夜見、てめぇの天下はもう終わりだ。これからは、俺がこの月のトップとなる…!だから、てめぇはすっこんでろ』
「最初は、ただの戯言かと思った。不敬罪で牢にぶち込んでやろうかとも思った。だが、なにも言えなかった」
「言えなかった?どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。私は、喋ることができなかった。
月夜見は話を続ける。
何故か言葉を話すことのできなかった月夜見は、そのまま部屋に実質的な投獄され、今までずっとこの部屋に閉じ込められていたとのことだ。
「待ってください!そんなことありえません!投獄?そんなはずが!だって、月夜見様は私と、たまに会っていたではありませんか!」
「そりゃあ、どういうことだ?」
「月夜見様とは、私は度々会っていました!そんなはずがありません!」
「おい、そりゃあどういうことだ?」
今の依姫の話が本当なら、今の話は嘘だと言うことになる。
二人は、月夜見に警戒を強めた。
「―――確かに、そうだ。だが、依姫。お前は、
「それは、臘月から、言われて……ッ!」
依姫が、言葉を失った。
月夜見の言っている意味を、理解したからだ。そして、それは零夜とルーミアも同じだった。
「その次は?」
「臘月に……」
「またその次は?」
「臘、月、に……そ、そん、な……」
依姫は膝から崩れ落ち、唖然としたまま、動かなくなった。
とどのつまり、全部臘月が仕組んだことだったのだ。
「でも待って?なんで気づかなかったの?」
「確かにそうだな。いくら会うのが難しいトップだったとしても、そう何度も頻繁に会っていたら、疑問に思っていたはずだ」
「確かに……確かに、そうです。なんで、どうして、今まで、気づかなかったのか……」
「予想はしていたが、依姫。お前もすでに、臘月の『権能』の餌食になっていたか…」
「―――『権能』?」
零夜は、初めて聞く言葉に首を傾げる。
今までいろんなことに触れてはきたが、そんな言葉は初めて聞いた。
「なんだ、その『権能』って?」
「私も詳しくは分からん。だが、臘月が自分の能力のことを『権能』と言っておった」
「『権能』……ッ!…あの男も、シロと言う男も、『権能』と言う言葉を、口にしていました」
「なッ!?」
ここで、シロの名前が出てきたことに、絶句した。
シロは確かに、秘密主義のような一面もあった。零夜はシロ自身について、詳しいことすら知らないのだ。だが、知らない部分があって当然だが、よりにもよって、臘月とシロが同じ単語を使っていた。とても偶然とは思えない。
「あいつ、隠し事が多そうだったけど、まだこんな重要なこと隠してたなんてね…。ますます怪しくなってきたんじゃない?」
「そうだな…。信じたくはねぇが、信ぴょう性が高まってきているもの、また事実だ」
「―――その、シロと言うのが誰だか分からんが、『権能』を使っているのは確からしいな」
「確かにそれも気になるが、もっと別のことだ。実質的な監禁をされていたんなら、どうして出てこれたんだ?」
「それはだな、この騒ぎの際、電力が一時期に止まって、扉が開いたんだ。だが、しばらくの間、動くことができなかった」
「何故?」
「謎の、拘束力……と言ったところか、それで私は動けなかった。だが、しばらく経ち、それが解けたのだ。そうだな……ちょうど、10分ほど前だっただろうか」
「10分前?それって…」
「俺たちがここに乗り込んだ時だな」
零夜たちが宮殿に乗り込んだ時間帯と、月夜見が行動可能になった時間帯が、ほぼ一致している。
これほどの偶然があるだろうか。いや、ないに決まっている。
月夜見の話を一通りまとめると、月夜見はあるときから臘月によって監禁。不自然に思われないにように依姫とたまに会わせ、依姫にも不自然に思われないよう『権能』とやらを使用。
シロが暴れたことにより、電力が一時停止したことによって、ここを閉じていた扉が解放されたのだ。
この扉は、従来の電力により開くタイプではなく、電力によって閉じて、指紋認証によって電力の供給が止まり開くと言うもの珍しいタイプだったそうだ。
脱出のチャンスだったが、何故行動不能に。だが、零夜たちが来てしばらくした後に、行動可能となり、零夜たちと合流したそうだ。
(俺達が乗り込んだのと、こいつの行動が可能になったのには、なんらかの関連性があるのか…?)
「で、臘月って奴のことは?」
「あぁ。あいつのことについてできるだけ話そう。あいつは―――」
月夜見が言葉を続ける、瞬間だった。
突然、月夜見が大声を上げた。
「皆!すぐに壁際に寄れぇええええ!」
それを聞いて、三人が一斉に壁際によった。
その瞬間、轟音とともに強靭で巨大な扉にと反比例した小さな円状の穴が開き、月夜見の腹に巨大な穴が開いた。月夜見の傷口から、口から、鮮血が飛び散り、辺りを汚した。
「月夜見様ァアアアア!!」
依姫は月夜見に駆けつける。
床を血が汚す中、月夜見は微かに息をしていた。
「まだ…息はある!でも、脈が…!」
「なんだ、まだ生きてんのか。さすがに神はしぶといな」
扉の奥から、誰かの声が聞こえた。
そして、何故か零夜はこの声を知っていた。
「この、声は……!」
夢だ。
気を失った際、見た夢に出てきたうちの一人。●●に、■■と呼ばれていた、男…!
扉が、正規の手段で開く。
何重にも積み重なっていた扉が開き、そこにいたのは、一人の男だ。
黒髪に、漆黒の瞳を持った、美青年。上質な着物を拵え、動きやすさを重視した服装をしていた。
「お前等が侵入者か。まったく面倒なこと起こしてくれやがって。男の方はぶっ殺すとして、女は……俺の道具にするか」
その言葉とともに、三人の額の血管が浮き出る。
怒りのあまり、力が入っている証拠だ。
「貴様ァア……!臘月ゥゥゥゥッ!!!」
依姫が、その男の名を叫ぶ。
―――■■、否、【綿月臘月】。
すべての元凶である男が、ついに姿を現した。
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