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「臘月ゥゥウウウッッ!!」
依姫の持つ刀の、銀閃が臘月の首筋へと直撃する。
―――が、臘月の首の皮膚で、刃は止まった。刀より硬い、そんな金属を斬ろうとしている感覚が、依姫を襲った。
「な……ッ!」
「一度目が駄目だったのに、二度目が通用するわけないだろ?もうちょっと頭使ったらどうだ?」
臘月が刃を指でつまんで持つと、そのまま振り回し、刀ごと依姫を壁へ放り投げ、壁に激突する。
「ガハッ…!」
ドーム状に壁が凹み、依姫がそのまま崩れ落ちた。
「チッ、面倒くせぇな。―――あん、お前……転生者か?」
「「ッ!!」」
臘月の指摘に、二人の額に冷汗が浮き出る。
何故、見破られた。零夜はともかく、ルーミアも、男の正体が見破られたことに、驚きを隠せなかった。
だが、同時に臘月が転生者であると言う裏付けも取れた。
「何故、そう思う?」
「お前が『権能』特有の気配を持ってるからだろ。これくらい分かるっつの」
「だから、その『権能』ってなんだっての」
「は?お前『権能』知らねぇの?まぁ反応が弱ェからまさかとは思ったが、ハハッ、どうやらてめぇを転生させた神は随分とズボラ見てぇだな」
「どういうことだこらぁ…!」
自身を転生させた神を侮辱したことによる、零夜の怒りが、可視化できるほどのオーラとなって現れる。
だが、確かにあの神からは一度も『権能』と言う言葉を聞いたことはなかった。まさか、本当に意図的に、隠されていたのか、思いたくもない考えが浮かぶ。
「だってそうだろ。大した説明もねぇで転生させるとか、バカの極じゃねぇか」
「そういうてめぇの神は、どうなんだ?」
「俺を転生させた神?そりゃあちゃんとしてたぜ?てめぇの神とは違ってなぁ」
「てめぇ……r―――クロ、落ち着いて!」
怒りが増していく中、ルーミアが落ち着かせに入る。
「―――だったら、聞かせてもらおうじゃねぇか。その『権能』って奴が、なんなのかをよォ…」
「あぁいいぜ。ただし、代金は―――てめぇの命だ!」
臘月が地面に落ちた石ころを蹴ると、それが音速を超えた速度で零夜の顔面へと向かって行く。
咄嗟に巨大な盾を『創造』し、横に体を逸らす。
―――石が、盾を、部屋の壁を貫通して、轟音とともに空の彼方へと飛んでいく。
「――――ッ!」
「今の避けるのか、スピード重視系か?」
「ッ、ルーミア、ここは一旦引くぞ!」
「わ、分かっ「させるかよ」ッ!」
ルーミアに合図を出した瞬間、ルーミアに臘月がいつの間にか近づいており、腹に臘月の強烈な一撃が入る。
「グフッ!!」
ボキボキと、骨が砕ける音とともに、血を吐き、ルーミアが壁を貫通して外へと放り出された。
「ルーミアッ!」
「安心しろ。アレは俺の道具として使うんだ。殺しはしねぇよ」
「ッ!なら…!」
突如、零夜の体に、禍々しい緑の風が取り巻いた。
やがて、風は人外の形を形成していき、それが実体を表す。
【仮面ライダーダブル】の姿を歪め、後頭部側面にもう2つの赤い「目」、左右を繋ぐフランケンシュタインのような継ぎ接ぎが存在し、右が笑い顔、左がへの字口となっており、その表情はとても恐ろしげで歪な印象を与えている。
右はターコイズカラー、身体から包帯のように垂れた造形だ。
左はビスが打ち込まれた黒いレザー生地のような皮膚と刺々しい装飾を持ち、ステンドグラスで造られたかのような平面的なデザインで、スロット部分が鳥のようになっているベルト。
両太腿辺りに、左太腿にはDOUBLEの文字、右太腿には2009の数字が刻まれているライダー。
―――一人になりきれない仮面ライダー アナザーダブル
「へぇ~それがお前の『権能』なのか?」
『だから、知らねぇつってんだろがァ!』
アナザーダブルは右側のベルトを操作すると、ターコイズカラーからイエローへと変化する。
右腕を振るうと、腕が伸び、臘月に巻き付け拘束する。
『ここじゃ狭い!広いところまで移動させてもらうぞ!』
「――――」
そのままハイジャンプし、臘月ごと外へと身を投じた。
かなりの高さまで飛んだあと、臘月をそのまま地面へと強烈な勢いで放り投げる。
地面に激突する瞬間、爆発的な土煙が生まれ、辺りの視界を遮った。
イエローからターコイズに戻し、アナザーダブルの周りを竜巻を操り、空中で体勢を維持する。
『――――!』
少しの時間が経ち、砂煙が晴れた瞬間、アナザーダブルはありえないものを見る。
衝撃により窪み、できたクレーター。その中心に……。
「何しやがんだよクソ野郎が…!」
臘月の素肌には、大けがどころか擦り傷すら存在せず、ましてや、服にすら損傷が届いていなかった。
ウラノスと同じような、服が衝撃の緩和などの特別性の服なのか、いや、それでもあれだけ平然としているなど、ありえない。
「降りてこいよ!」
臘月がアナザーダブルに手をかざすと突如、体の姿勢が崩れ―――否、体が落ちていく。
『なッ!?』
すぐに体制を立て直そうと、風を操ろうとするも、風が言うことを効かない。
そのまま、高所から地面に落下し、骨に、体全体に、ダメージが響き渡る。
『がハッ…!なに、が…!』
臘月が手をかざしてきた瞬間、完全に風の制御が効かなくなった。
なにが起きたのか分からず、悶えるアナザーダブル。考えられる可能性として、操作の主導権を奪われた?今ある情報では、それしか考えられない。
「これで、同じ土俵だなぁ。空飛ぶとか卑怯過ぎんだろ。どう思ってんだよ、お前」
『卑怯、か…。月を理不尽と色欲一色に染めたてめぇにだけは、言われたくねぇ言葉だよ…!』
零夜の中の、卑怯=理不尽の存在が、シロだけではなく、目の前の男が加えられた瞬間だった。
零夜としては、もう既に存在自体卑怯なお前にだけは言われたくない、と思うほどだ。
「理不尽?色欲?なに言ってんだお前。理不尽と色欲なんざ、地球と全く変わりはしねぇだろ」
『―――――』
「お前はいいよなぁ?俺なんか、せっかく異世界転生ハーレム作って盛り上がろう!って思ってた矢先だったってのに、まさか転生先が『穢れ』だっけ?そんなクソつまんねぇ理由で、禁欲生活を強いられる毎日がよぉ、想像できるか?だから俺が変えてやったんだよ、このふざけた空間を、正常なものへと戻したんだ!」
臘月はすらすらと、まるで台本を読んでいるのではと思うほど言葉を読み上げていく。
そこには、自身の身勝手な理論しか存在しておらず、この世の真理を語っているかのような顔をしていた。
「まぁいい家に生まれたのが良かったよ。おかげで、あとは大義名分ができるだけでここまで作り変えられたしなぁ。そんな苦労して、念願の夢を叶えた俺と比べて、お前はいいよな?地上で生まれて、好きなだけ女を抱き放題でよォ!あのさっきぶっ飛ばした金髪の女、あれお前の女だろ?いいよなぁ、顔面偏差値が高くて、乳がデカいって、どんな優良物件だよ。いいよなァお前は女を抱き放題でよぉ!お前もどうせ、俺と同じような考え持ってんだろ?この月襲って、自身のハーレム要因増やそう的な考え持って来たんだろ!?そんなことさせねぇよ!逆に、お前の女を俺が貰ってやらぁ!」
自身の中で勝手に物語を構成し、まるでそれが真実かのごとく語っていくその様は、生理的嫌悪感しか覚えることのできない光景だ。
『女抱き放題だ……?ふざけんなよこっちの気も知らねぇで!俺は昔っから一筋派だ!』
「はぁ~~~?なにそれ?ふざけてんのか?異世界に来ておいてハーレム作らないとか、バカだな、愚かの極だ。女ってのは、穴としか価値のない、それしか意味のない存在なんだよ。アレか?日本の男女平等?公然猥褻罪?そんなの根付いてんのか?ここは異世界!そんな法律存在しねぇ!だから、女をどう扱おうが、男の勝手なんだよ!お前もそうあるべきだ、だって男なんだからなぁ!」
そうか、この男は、男尊女卑が心の底から根付いているのだ。
理性を常に保っている零夜と、理性と言う壁すら破壊した臘月、二人はまさしく水と油の関係だ。
『黙れよ……。てめぇの理論こっちに勝手に押し付けてくんじゃねぇ…。お前を見てるとよォ、お前に似たクソ野郎を思い出すんだ』
かつての記憶。
ルーミアをミラーワールドに連れて行く要因となった、
男尊女卑が心の底から根付き、長々と自分の理論を語っているところからすでに似ている。
この男は、臘月は、ゲレルと根本的に似ている―――すなわち、クズだ。
「そのクソ野郎って言うのが誰だか知らねぇが、それは、つまり俺はそのクソ野郎とお前如きに同視されてるって見ていいだな…?」
『始めっからそう言ってんだよ、分かれや、クズ野郎』
「――――よし、殺そう。お前は、残忍な方法で殺してやろう。そうだな、玉兎たちの嬲り者にでもするか。あいつらはいっつも道具として扱ってるからな。道具のケアも、所有者として必要な仕事だ。あいつらのストレスを、お前にぶつける。俺はとても素晴らしいと思うだろ?人に、道具にも、分け隔てない考え方をするからなぁ!」
先ほどまで男尊女卑を語っていた男が、分け隔てなくと言う時点で、とてもまともな思考じゃない。言っていることが何から何まで支離滅裂だ。
臘月は、自尊心が高すぎる。その証拠が、この傲慢で高慢な態度だ。
『お前がイカれてることは十分に分かった…。だったら尚更てめぇを生かすわけにはいかねぇ!』
右側のベルトを操作する。アナザーダブルの右側―――ソウルサイドが、ターコイズからホワイトへと変化した。
左側―――ボディサイドの刺々しい装飾同様に、ソウルサイドの装飾も、突起物――刃が目立つ装飾へと変化した。
『はァッ!』
右腕についた三日月状の刃を2、3回連続で振るうと、強大な白銀の斬撃が、地面を斬りながら臘月を襲った。
臘月は余裕そうな表情を浮かべ、その攻撃を甘んじて生身で受け止めた。
地面を斬るほどの刃、それを生身で受ければ、ただでは済まない、はずなのに―――。
「無駄なんだよォ。どんな攻撃をしたって、俺には届かない」
臘月には、服すら損傷がなかった。
やはり服が特別性なのか、それとも臘月の『権能』の影響なのか、最早分からなくなってきていた。
それでも諦めないアナザーダブル。
今度はボディサイドを銀色に変え、長い鉄の棒のようなものを装備する。それと同時に、棒の両端に巨大で強靭な刃が対になるように出現した。
見た目は、二対の大鎌をくっつけたような、そんな感じだ。
『うぉぉお!!』
巨大な大鎌を振るい―――狙うは首だ。
先ほどの依姫の攻撃で、臘月の首を攻撃しても意味がないことは承知済みだ。だがしかし、少しでもある可能性に、賭けてみることにしたのだ。
巨大な刃が、臘月の首を襲う。
「お前、さっきのヤツ見て学習しなかったのか?首ちょん切ろうとしたようだけどよ、無意味なのはさっき見たよな?お前って学習能力ないのか?」
臘月が刃を素手で掴むと、刃が一瞬にして握りつぶされる。
それを見たアナザーダブルはすぐに棒を捨て距離を取った。
だが、これで分かったことがある。
臘月の防御力は―――いや、あれは防御力と呼べる代物ではない。
今確かめたのは、臘月の防御力がどれだけのものかを確かめるためのものだ。
依姫は女性とは言え、常人以上の力を持っているのは確か。それでも刃が皮膚すら通らないとなると、相当な防御力を誇っていることになる。
ならば、それ以上の力で振るえば―――と思い実行したが、それはまるで無意味だった。
目の前の、ロッドをボキボキと折っていく臘月を見て、確信した。
―――臘月の『権能』は、限りなく『無敵』だと。
最悪だ。最悪の中の最悪だ。
今まで、こんな敵にあったことがなかった。『無敵』の能力者なんて、まるで成す術がない。
成す術なく、やられていく。
(クソ……最悪だ。『無敵』だなんて、誰が想像できるか…!)
「どうした、攻撃の手が止んでるぞ?」
この感情は、いつぶりだろうかと、思わず考えてしまう。
まるで、スーパーなヒーローの虹色無敵状態を相手にする、亀の軍団の気持ちだ。
この『絶望』は、本当にいつぶりだろうか。
「まさか、怖気づいたのか?」
にやにやと笑う臘月。
それに激情し、アナザーダブルはソウルサイドとボディサイド、両方の色を変える。
ソウルサイドはイエローに、ボディサイドはブルーの色に変え、ひと際どでかい銃―――マグナムにも似た銃を持ち、引き金を引く。
黄金のエネルギー弾丸が、不規則な軌道で臘月に迫っていく。
「だから、なにをしたって無駄なんだよ!」
臘月が地面の砂を掴み、投げる。砂が一定の直線の軌道を描きながら、弾丸に着弾し、小さな爆発を引き起こす。
―――と、そのとき、灼熱の劫火が、渦を描きながら臘月を襲い、飲みこんだ。
爆煙は、フェイントだった。本命は、この劫火だったのだ。
燃える灼熱地帯の中、アナザーダブルのソウルサイドが、灼熱の如き赤色へと変化していた。
『物理攻撃は絶望的だ。なら、炎は―――』
「しゃらくせぇ!!」
『何!?』
突如、
比喩表現ではない、物理的に、炎が止まったのだ。炎の時間が止まった?いや、炎の熱は依然として感じられる。なら、別の要因がある、あるはずなのだ。
だが、現実はアナザーダブルに考える余裕すら与えてくれない。刹那の時間―――その間で、
『炎を…砕いた…!?』
砕かれた炎が、そのまま塵となって無に消えていく。
目の前のありえない現象に、困惑を示すアナザーダブル。
ありえない。現実的にあり得ない。炎がガラス細工のように砕かれるなんて。
「あー……イライラする。普通諦めるだろ。なんで諦めないだお前?お前さ、もしかして諦めない男はかっこいいとか思ってるんじゃないだろうな?それさ、単純に面倒くさいだけだからよ、いい加減諦めろよ。人生諦めも大事、パパやママに習わなかったのか?確かに諦めないって言うのは利点だ。だが同時に欠点でもあるんだよ。漫画やアニメで諦めないと力が漲って敵を倒すってシーンあるけどさ、あれは主人公だけの特権なんだよ。そして、お前はモブ。俺が、この月での主人公だ」
諦めるのを強要しているのか、褒めているのか、貶しているのか、話の要点が掴めない。
そして、自分を『月の主人公』と自称する臘月。
『確かに、確かにてめぇは主人公とも言える力を持っているが……だが、それだけだ』
「は?」
確かに、臘月の『権能』と言うのは『無敵』なのかもしれない。
だが、完全で完璧な『無敵』など、ないに決まっている。零夜には、その確信があった。
同じ無敵の【ハイパームテキ】でさえも、【パラド】が消失してしまえば変身できなくなると言う弱点がある。
【ゴッドマキシマムゲーマー】にも、『モータルリセッター』と言う弱点がある。
それと同じように、何かしらの弱点があるはずだ。零夜はそう信じて疑わない。
だからこそ、態度を決して崩さない。
『言ってやるよ。お前は、バットエンドが確定している物語の主人公が、お似合いだよ』
「貴様ァアアアアアア!!」
アナザーダブルの煽りに、激高する臘月。
周りに転がっている小石や岩を投げて、蹴って、投げて、蹴ってを繰り返し、音速を超えた
「ハァ……ハァ…!この俺を、バカにしやがって……思わず木端微塵にしちゃったじゃないか―――」
―――突如、臘月に大量の石礫が真横に降り注いだ。
「ッ!?」
臘月は驚きながらも、避けることはせず、石礫が直撃する。
強烈な、盾や壁をも貫通した己の石礫を受けても平然と立っている臘月は、表情が怒りで歪んでいた。
「どういうことだ…!?何故俺の攻撃が跳ね返って!?」
『そのまんまの意味だよ』
目の前の、臘月の視界が、煙から解放された。
そこにいた怪物は、先ほどとは違っていた。
あのターコイズとブラックの半分こ怪人ではない、別の怪人。
体の色は、漆黒と黄金の二色。
瞳やクラッシャーが存在し、仮面のスリット部分が歪なラインになっており、赤い複眼の中に小さい瞳が存在している。
漆黒の龍がモチーフとなり、頭部の紋章はそのまま龍の顔を象っており、ボディ各部には龍の鱗らしき意匠が、ベルトのVバックルもカードデッキを咥えた龍の顔になっている。
下半身には中華服のような前垂れが存在している。
胸部には鏡文字でRYUGA、2002と描かれている。
左に剣を装備し、右に龍の頭を模った手甲を装備している。
―――かつて鏡の世界に存在した異世界のライダー アナザーリュウガ
* * * * * * * *
アナザーリュウガへと変身を遂げた零夜は、仮面越しで目を血走らせた。
ほんんどの攻撃が通用しない『無敵』の『権能』。だか、そこには必ず綻びがあるはずだと、零夜は信じて攻撃を続ける。
右腕の龍の手甲に、蒼き漆黒の炎を纏わせ、腕を突き出した。
蒼き漆黒の炎が臘月を包み込み―――臘月が、炎を突き抜けてきた。
「無駄だっつってんだろ!」
臘月の無傷の右手が、アナザーリュウガを襲う。
左手の剣を振り下ろし、臘月がその剣を素手で掴む。
「死ねッ!」
右手で剣を掴んだまま、左手でアナザーリュウガの腹を殴る。
この攻撃は、先ほどルーミアを彼方まで吹き飛ばした攻撃と、同じだ。衝撃に従って、アナザーリュウガは後ろに吹っ飛ぶ……はずだった。
だが、臘月が今剣を掴んでいるため、吹っ飛びたくても吹っ飛べない。このままでは、サンドバック状態だ。
『(剣が……離せない!?いや、それだけじゃない足が地面にくっついたように離れない!)』
ならば、剣を離せばいいだけだと実行しても、何故か剣が手から、足が地面から離れなかった。
いや、そうじゃない。
「ハハハハハ!どうしたどうした!!攻撃の手が衰えて―――あん、なんだこれ?」
突如、臘月の目の前に、鏡が出現した。
その鏡は今の臘月の姿をくっきりと映しており、何の変哲もない、ただの鏡だった。
―――だが、そのとき、鏡の中の臘月が飛び出して現実に出現し、連続で鏡像の臘月が臘月に拳を叩き込んだ。
己の攻撃が己に返り、臘月は後ろへ吹っ飛ばされる。
音速を超えた速度で、後ろへ後退していく。
「――――――」
臘月が、己の脚を、地面に付ける。
すると突然、先ほどの攻撃が嘘だったかのように、臘月の後退は止まった。
『衝撃を……かき消したのか!?』
「やってくれるじゃねぇか。攻撃を跳ね返すのか?卑怯すぎんだろうが…。さっきの攻撃が跳ね返ったのもそれか。ふざけんなよ、俺の攻撃は俺のもんなんだよ、お前のモンじゃねぇ。俺のなんだ。お前さ、著作権って知ってるか?自分が作ったモンを、人の許可なしに使っちゃダメってヤツだよ。お前が法律のしがらみに囚われてんならそれを守れよ。バカじゃねぇのか?俺の攻撃勝手に使いやがって。著作権の侵害だぞこの野郎が…!」
『さっきまで日本の法律に真っ先に無視してたバカにだけは言われたくねぇわ…』
日本の法律は通用しないと言って置きながら、その法律を相手に強要する様は、もう呆れを通り越して清々しく見える。
「黙れ黙れ!俺は法律と言う鎖を断ち斬った身!そしてお前はまだ囚われている身!つまりはだ、俺は守る必要はねぇが、お前はそれを守る必要があるだよ!お前も日本人ならそのくらいの教養身に付けとけよ!」
『―――もういい。お前と話していると疲れる』
それは一体どんな極論だ、と思わずとも思いたくなる。
先ほどまで男女不平等を零夜に強要していた男が、ここに来て法律を守れなど、ばかばかしいにもほどがある。
『教養の「き」の、ケーの文字の一画目すらないお前に、言われたくない!』
「ふざけんなよこの野郎!」
臘月とアナザーリュウガが同時に急接近し、己の右手をぶつけ合い、蒼き漆黒の波動が辺り一帯を支配した。
『お前の攻撃は、案外大したことねぇな!』
「なんだと!!バカにするのもいい加減にしやがれ!」
事実、アナザーリュウガの能力で攻撃を跳ね返せたと言うことは、そういうことだ。
アナザーリュウガの能力、『反射』は相手の攻撃をそのまま反射する力だが、アナザーリュウガ自身の防御力を上回る攻撃は、跳ね返せない。
それでも跳ね返せたと言うことは、臘月の攻撃力はアナザーリュウガの防御力より下と言うことになる。
波動が、衝撃が、限界に達して、二人を中心に爆発を引き起こす。
アナザーリュウガが衝撃で後ろに後退するが、その爆発を受けたことにり、アナザーリュウガの目の前に鏡が出現し、鏡から前方に再び爆発を引き起こし、辺り一帯に爆炎と爆煙をまき散らした。
『これで、少しはダメージッ!?』
―――刹那、爆煙が一瞬にして晴れ、同時にアナザーリュウガは全身に強烈なダメージを受けた。
体が宙に浮き、転んでいく。
『な、なにが…!?』
起きて立ち上がると、同時に鏡が出現した。
『反射』が発動したのだ。
―――が、鏡が、割れた。
『割れ、た…!?』
今、目の前で確かに、『反射』の鏡が割れた。
つまり、あの攻撃は、アナザーリュウガの防御を上回ったと言うことになる。
今の一瞬で、一体なにが起きた?
「今、見たぞ…?鏡割れたな。工夫して攻撃力高めてみたら、割れたな。つまり、あれか。跳ね返せないほどの攻撃をすりゃ、跳ね返せないってことか。いい発見をしたなぁ。褒めてやるよ、今まで舐めプしてたが…それはやめだ。本気を出す必要はねぇ。ただ、真面目にやるとするよ。真面目に、お前を潰す」
『――――ッ!』
見破られた。
あの一瞬で、アナザーリュウガの『反射』の弱点を見破られた。アナザーリュウガは臘月をただの攻撃力だけの塵屑野郎としか見ていなかったが、その認識は少し間違っていた。
この男は、頭がキレる。でなければ、この短時間でアナザーリュウガの弱点を見破れるはずがない。
「じゃあ俺のターン行くぜ」
『ッ!!』
刹那、臘月が一瞬のうちにアナザーリュウガに接近し、腹に拳を叩き込んだ。
嘔吐物を吐きそうなほどの衝撃が、アナザーリュウガの腹を貫通し、法則のままに後ろへと吹き飛んだ。
勢いが落ちることがなく、まっすぐ、ひたすらまっすぐに飛来し、アナザーリュウガにダメージを与えていく。
そんなとき、突如勢いが落ち、無様にも地面へと何度も何度も転がり、やがてその勢いはとどまったが、今の一撃が強力すぎて、立ち上がれない。
(なんだ、今の…!?パンチであることには変わりなかった…それなのに、なんだこの攻撃は!?さっきの比じゃない……!?)
攻撃事態は、先ほどと同じパンチだった。だが、相違点は、攻撃力がさっきよりも跳ね上がっているということだ。
これほどの攻撃力では、『反射』などできるはずが―――。
『あ゛…?』
ここで、ある異変に気付いた。
『反射』ができなかったことではない。それはすでに予測していた。アナザーリュウガが気づいた異変とは、その前提。
割れる割れない、発動するしないの、以前の問題だった。鏡が、『反射』が出現しないのだ。
跳ね返せないのなら、鏡が割れるはずだ。
だが、それ以前の問題だ。『反射』が、発動しない。
『『反射』が、発動しない…!?』
それを感じて、一つの可能性が浮上した。
―――『能力の無効化』?いや、それはありえない。今までの攻撃に、それとは全く関係性や関連性がない。
ということは、別の『権能』を行使したのかもしれない。
ウラノスのように、二つの能力を持ち合わせている可能性だってある。
『無敵状態と、能力無効化…!?そんなの、正真正銘のチート、だろうが…!』
「どうした、怖気づいたか?その方が手っ取り早くていいんだがな」
アナザーリュウガの前に、臘月が仁王立ちをしていた。
完全に舐められている。だが、アナザーリュウガの強みである『反射』が効かない時点で、あの態度を取るのも分からなくはない。
「もう諦めろよ、いい加減。お前じゃ俺に勝てない」
『いいや、まだだ…!諦めて、なるものかよ…!』
「面倒くせぇな。なんなんだその自信?」
『これは、決して俺の自慢じゃねぇが……こっちにもいるんだよ、チート野郎がな…!』
「は、まさかお前転生者二人拵えてきたのか?うわぁーないわ。本当にお前の自慢じゃねぇじゃん。結局は人だよりかよ。かっこ悪ぃな。お前さ、人に任せて恥ずかしくないのか?せめて男なら最後まで筋通せよ。お前のような、ラノベとかでよく出る悪役的な、ああいうの俺嫌いなんだよな。ホント死んでもらいたいわマジで」
『言ってろ…。あいつなら、お前に勝てるはず―――ッ!?』
「あん?」
―――突如、巨大な地震が二人を襲った。
『月で、地震……!?どういうことだ!?』
「こりゃあアイツがマジで暴れてやがる…。それほどの敵なのか?まさか、今てめぇが言ってた奴のことか?」
『暴れている…。まさか、シロが!』
地震と連動するように、地面が轟音とともに爆発する。
土を、石を、煙をまき散らしながら、そこから一つの人影が見えた。
―――全身白装束の、チート野郎が。
『シロッ!!?』
「ハァ…ハァ…零夜君?どうして、ここに…?」
『それはこっちの台詞だ!なんで地面から出てくんだよ!?それにお前、それ、血…!?』
始めてみた、シロの『血』を。
シロの全身の白装束の、半分以上が赤い血で汚れていた。
始めてみた、シロが怪我をしているところを。
「『俺』のことは気にするな!『俺』には、今やらなきゃいけないことがあるんだ!」
『シロ…ッ!?』
始めて聞いた、シロの『俺』と言う一人称。
始めて聞いた、シロの、ここまで慌てふためく様は。
いや、慌てていると言うより、シロから怒りや、悲しみといった感情が感じられた。どちらにせよ、ここまで感情的になっているシロを見るのは、初めてだった。
それに、一人称が『僕』から『俺』に変わっている。
自分の一人称すら変えるほどの、”ナニカ”と、今シロは戦っているのか。
「おいおい、どうしてくれんだよ、これよ。勝負に水差しやがって…」
煙ごしから聞こえた、臘月の声。
再び、一瞬にして煙が晴れた。だが、今のこれは、先ほどの衝撃波のような攻撃が混じったものじゃない、ただの風が、吹き荒れただけだ。
視界が良好となったとき、零夜とシロは、見た。
臘月の隣に立つ、”二人目”を。
「―――――」
そこにいたのは、顔立ちの整った、美青年と言うべき青年がいた。
髪の色は白、色彩が抜けた色だ。瞳は黒真珠のような黒色。だが、その瞳に光が―――ハイライトが存在していなかった。まるで、人形のように。
引き締まった体が、目立つ青年。
だが、顔と相まって、服装がボロボロだ。
彼の服装は、一言で言えば布切れだ。一枚の布切れを、被っているかのように、そのまま着用している。
彼の見た目と服装、まさに水と油だ。
「お前か……お前が、臘月か?」
シロが、怒気を、怨念を込めた声で、臘月へと問いた。
それを聞いた臘月は、にやりと不敵な笑みを浮かべ、
「そうだ。俺が綿月臘月。それで、お前は?」
「『俺』はどうでもいい!お前……
「おいおい、こっちが名乗ったんだから、お前も名乗れよ。普通さ、こういうのはお前が先に名乗るもんだぞ?それをこの優しい俺が文句も言わずに答えたんだ、だから名乗るのが礼儀なんじゃないのか?」
「――――おい、『俺』は、そいつに―――圭太に、なにをしたかって、聞いてんだよ!!」
瞬間、シロの激高に連動してか、暴風にも似た衝撃波が辺り一帯に飛んだ。
『圭太』とは、誰だ?シロは、その人物のことを知っているのか?零夜は分からない、聞いていないから。
「おいおい、そんなに怒るな。それによ、『圭太』だって誰のことだ?こいつはそんな名前じゃねぇ」
「いいや違う!そいつは、紛れもない『圭太』だ!そうじゃないとしたら、一体誰だ!」
「いいぜ、答えてやるよ。こいつは―――」
「―――八人目の『ヘプタ・プラネーテス』、名を『地』の
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