東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 今回で【東方永夜抄?】は終わりです。

 次回から、竹取物語です。
 
 それでは、どうぞ!


42 終われなかった夜

――――この後、依姫の死体とともに先ほどの場所に戻ったら、『玉兎』だけじゃなく、他の玉兎もたくさんいた。

 オーロラカーテンから現れた零夜たちに驚愕する玉兎たちもいるが、やはり一番玉兎たちの目が行ったのは、零夜の腕の中。

 そして、玉兎たちの中心にいたのが…。

 

 

「月夜見…」

 

「心配をかけてすまなかった。もう、大丈夫だ」

 

 

 月夜見だった。彼女は臘月にやられた傷がまだ癒えてなかったはずだが、依姫同様、臘月が死んだことによって傷の治りが早まったのかもしれない。

 だが、一番確実とも言える理由が、あった。

 

 

「お前、神力が…」

 

「あぁ、これか。この『玉兎』が他の玉兎に事情を説明してくれたおかげで、ある程度の信仰が集まったんだ」

 

 

 そう言い、月夜見は『玉兎』の頭に手を乗せる。

 

 信仰―――つまり、月夜見の信頼が戻ったことを意味する。

 臘月をここまで放っておいた月夜見を、他の玉兎が信じるわけもなく、信仰の減少の原因の一つとしてあってもおかしくはない。

 だが、『玉兎』の説得によって、月夜見の信頼=信仰がある程度回復したらしい。

 その回復した神力で、自分の体を回復させたようだ。

 

 説明の後、月夜見の目が他の玉兎同様、顔を悲し気にした。

 

 

「―――依姫は…」

 

「……死んだ。元々、血が足りない体で、無理をしたからな」

 

 

 依姫の死を知った玉兎たちの顔が、曇り、中には仲間とともに号泣している者もいる。

 慕われていた証拠だ。この玉兎にとって地獄と変わってしまっていた月で、唯一の心の拠り所が、彼女だったからだろう。

 

 零夜は依姫の死体を月夜見に預ける。

 

 

「…冷たい。先ほどまで、生きていた者とは、とても思えないな」

 

「そこにあるように見えて、中身は空っぽ…。そんな、虚しさだけが残る、それが、死体って奴だ」

 

「フッ、大量にそれを作ったヤツの言うことじゃないな」

 

「確かに、な」

 

 

 この戦いで、多大な犠牲を生んだのは、紛れもない零夜だ。この事実は、消えることはない。

 

 

「依姫の死体は、どうするんだ?」

 

「都を上げての葬式にする。玉兎たちにも、依姫にとっても、その方が良かろう」

 

 

 後ろの玉兎たちも、肯定の意味で首を縦に振った。

 

 

「そうか。―――それで、これから、お前はどうするんだ?」

 

「月の都を、可能な限り復興させる。まぁ、主要戦力の大部分を失い、まともに戦えるのは、もはや私とサグメしかいない。月の都が機能していない以上、何年かかるか分からんが…」

 

「おい、やっぱ皮肉ってるだろ」

 

「嫌味でも言わないと、やってられないからな」

 

 

 そう言った二人は、笑った。

 こうでもしないと、今にも襲い掛かってくる責任感で、押しつぶされてしまうから。

 

 笑いを止めた二人は、再び真面目な顔になる。

 

 

「で、一応聞くが、侵略とかは気にしなくていいのか?」

 

「お前がそれを言うか?―――だが、気にする必要はないと思う。臘月が月を支配した影響で、その隙に××に逃げられた。嫦娥は玉兎たちの統率者だったんだが……、まぁ帰ってくるとは思えない。嫦娥が原因で、()()()から何度も月を襲撃されていたが……嫦娥がいなくなった今、そいつらを気に掛ける必要はないだろう。無論、警戒はするがな」

 

「―――なんて?」

 

「?」

 

「いや、今なんて言った?」

 

「なにを……あぁ、そうか。××は地上人には発音できなかったな……。地上の言葉で言うと、嫦娥(じょうが)と言う」

 

「嫦娥……」

 

 

 嫦娥(じょうが)―――。

 零夜の『原作』の知識に、ある。

 嫦娥とは、月の都に幽閉された月の民で、月の女神と称される人物だ。 玉兎達の支配者でもあり、強大な力を持っているが、表舞台に出ることは無い存在でもある。

 蓬莱(不老不死)の薬を使った罪人であり、玉兎達の多くが幽閉されている彼女の代理贖罪として()()き続けている――と言うのが『原作知識』だ。

 

 だが、その嫦娥が逃げ出したとなれば、最早玉兎たちにその役割は必要ないだろう。

 

 

「あとは、地上の(あやかし)共が問題だが…」

 

「大丈夫だ。あいつらはしばらくの間、月を襲うことはねぇよ」

 

「―――何故そう言える?」

 

「俺が地上で暴れてる大悪党だから」

 

 

 さらっと重要なことを言った零夜に、月夜見の顔が引きつる。

 つまりは、零夜が暴れている以上、月に攻め入る余裕などないと言うことだ。

 

 

「ま、まぁ…ありがとう、と、言って置くべきなのか?」

 

「いや、別に言わなくていいし言われたらこっちも困る」

 

 

 悪人であってくれてありがとう、なんて言われたらどんな反応をすればいいのか、永遠の課題になるかもしれない課題をするほど、零夜はチャレンジャーじゃない。

 

 

「―――それじゃあ、俺たちは、そろそろ行くよ」

 

「そうか。見送りは……必要ないな」

 

「そうだな」

 

 

 零夜は玉兎たちを月の支配から解放した、玉兎たちからすれば”英雄”だが、外面的には零夜は”侵略者”でしかないため、見送りは出来ない。

 月夜見は後ろを向いて、零夜たちに、一言。

 

 

「さぁ行け、”侵略者”ども。私は、何も見ていない」

 

 

 そう言って、前に向かって歩く月夜見。

 それと一緒に、玉兎たちも月夜見の後をついていった。

 

 

「終わった、な……。あとは…」

 

「……シロ」

 

 

 彼はまだ、あそこにいるだろう。零夜には、()()()()()()()()()()()

 シロと『圭太』。二人が親しい関係だったと言うこと以外、詳しいことは分からない。だが、臘月の言いなりになっていたとはいえ、自らの手で殺めてしまったと言う事実も消えない。

 その事実は、シロの心に杭となって、今もシロの心に突き刺さっているだろう。

 

 

「あいつのことは、まだ放っておこう。大事な人が死ぬ気持ち……()()()()()()から」

 

「―――零夜…?」

 

「行くぞ」

 

「……うん」

 

 

 零夜はオーロラカーテンを出現させ、二人はその中へと消えて行った。

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 灼熱の、業火の世界。

 所々から溶岩が流れ、飛び散っている。普通の人間が入れば、まず瞬間的に脱水症状に陥るほどの熱さだ。

 

 そして、その世界を徘徊する、化物が存在した。

 皮膚の色は赤。三メートルや五メートルと言った様々な身長の個体が存在し、共通点として手に巨大な棘金棒と、額に巨大な角が二本生えていることだ。

 

―――人間は、この化物を、恐れと畏怖の感情を込めて、と、そう呼ぶ。

 

 

「――――――」

 

 

 一匹の鬼が、とある場所を見た。

 熱の湯気で視界が遮られる中、鬼の瞳に映ったのは、一つの白い影。―――いや、影ではない、白い服装の男だ。

 

 

「グゴォアアアア!!」

 

 

 鬼は”獲物を見つけた”と言わんばかりに咆哮を上げ、熱された地面を駆ける。

 それが合図となり、他の鬼も同調して”自分の獲物”だと言わんばかりに他の鬼を押しのけあい、目の前の獲物に金棒を振るった。

 

 金棒を振るった鬼は『仕留めた』と心の中で本能的に歓喜する。

 まず、体格の差がありすぎる。二、三メートルを超える金棒が、たった一メートル後半程度しかない獲物へと振り下ろされるのだ。

 普通、潰されるに決まっている。

 

―――そう、普通なら。

 

 

「――――ガッ?」

 

 

 金棒が獲物に触れる瞬間、金棒が途轍もない衝撃音と共に跳ね返って来た。

 衝撃の反作用が加わり、鬼の顔面に強烈なカウンターが直撃する。その痛みに耐えかね、鬼は後ろに倒れる。それと同時に、ドミノのようにその鬼の後ろに居た鬼たちも倒れ始める。

 中には、道を踏み外してマグマの中へとダイブしてしまった鬼もいた。

 

 鬼は体勢を立て直そうと、立ち上がろうとして―――、鬼の半身が、消し飛んだ。

 それは後ろの鬼たちも例外ではなく、ナニカの攻撃が一直線に進んでいき、ほとんどの鬼が、全滅した。

 

 

「邪魔、するんじゃねぇよ…!」

 

 

 鬼たちの死骸を無視して、男は歩みを進める。

 と、そのとき、男は目の前に誰かがいることに気付く。

 

 そこにいたのは、金髪ロングヘアーの赤がかった紫色の瞳をした、片手に松明を持っている少女だった。

 玉が3つ付いた紫色に水玉の帽子を被り、首元にひだ襟の付いた、青地に白い星マークと赤白のストライプの、実にアメリカンな服を着ている。

 右側がストライプ、左側が星だが、カラータイツは逆に右側が星、左側がストライプで、靴は履いていない。

 

 全体的にピエロを思わせるような恰好だ。

 

 

「ひぇ~……まさか地獄の門番がこんなに早く倒されるなんて……。お兄さん、どこから入って来たの?ここは普通の人間は立ち入り禁止だよ?」

 

「『俺』は普通じゃないから適応外だ。分かったらさっさとどけろ」

 

「なにその超自己中理論…。そんなの許されるわけないじゃん。逆にそんなんで通したら、あたいが叱られるしね」

 

「じゃあお前の上司に俺が取りあってやるよ」

 

「いや、そんなことされたらもっと叱られるに決まってるじゃないか!とにかく、ここから先は立ち入り禁止!それでも通ろうとするというのなら、あたいが相手になるよ」

 

「上等だ。秒殺してやるから、覚悟しろ」

 

 

 白装束の男の周りに、巨大な氷塊が生成される。

 それを見て、少女の顔色が一気に悪化した。理由としては、大きさ依然にこの灼熱地帯で離れた位置にいても冷気が漂ってくるほどの温度の氷塊が生まれたことだ。

 普通、こんな場所で氷なんて作れば即溶けて終わりだ。だが、彼が作った氷にはそれがない。つまり、それだけでも彼が只者ではないことを示しているのだ。

 

 

「あ、あ、あぁ…!」

 

「どうした?さっきまで粋がってたくせに、もう怖気付いたのか」

 

「え、えっと、その……」

 

「じゃあ、死ね」

 

 

 理不尽な断罪の言葉と共に、手を振り下ろし、氷塊を少女へと叩きつけ―――。

 

 

 

「あぁー!ストップ!ストップ!やめてやめて!」

 

 

 

―――女性の声が、それを静止した。

 その声を聞いた途端、少女の顔に色が戻り、男は待っていたと言わんばかりに氷塊を自らの手で消滅させた。

 

 男の目の前に映ったのは、赤髪で、長さは肩らへんまで伸ばしたセミロングの女性だ。

 白い文字で「Welcome to Hell」と描かれた黒いTシャツを着ており、WelcomeとHellの間に赤いハートマークがあり、返り血のようなプリントもついている。

 Tシャツは肩が出ている、言わばオフショルダーだ。

 スカートは濃い色の緑・赤・青の三色カラーの、チェックが入ったミニスカートで裾部分に黒いフリルと小さなレースがついている。

 

 そして特徴的なのは、黒いロシア帽のような帽子を被り、頭の後ろに赤い球体、両手に月・地球を表す球体を持ち、鎖で首輪に繋がっているところだ。

 

 

「騒がしいと思ったら……何やってんだか」

 

「売られた喧嘩を買っただけだ」

 

「え、え?」

 

「あ、クラウンピース。この子私のお客さんだから、お茶用意して」

 

「え、はっ、え!?お客様ですか!?」

 

「そうよ、お願いね」

 

 

 クラウンピースと呼ばれた少女は、驚きながらも後退していき、その姿を消していった。

 目の前の女性の言う通り、お茶を用意しに行ったのだ。

 

 

「いやーにしても、急に来られてもこっちが迷惑よ。門番の鬼、ほぼ全滅しちゃったじゃないのよ」

 

「またどうせ生まれるだろ」

 

「それはそうだけど……もうちょっとこっちの都合も考えて欲しいと言うか…」

 

「ともかく、話がある。だから来た」

 

「了解了解。全く、アナタも昔の方が可愛げがあったのに「昔の話はやめろ」……分かったわよ。それじゃ、上がって上がって」

 

 

 白装束の男―――シロは、目の前の赤髪の女性の跡をついていく。

 

 シロと親し気に話す彼女の名は―――地獄の女神、【ヘカーティア・ラピスラズリ】

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 地獄の部屋の、一室。

 ヘカーティア・ラピスラズリの部屋。シロとヘカーティアは対面になるように座った後、クラウンピースと呼ばれた少女の持って来たお茶をシロは飲む。

 

 

「ありがと、もう行っていいわよ」

 

「は、はい…」

 

 

 クラウンピースはゆっくりと扉を開け、一礼し、部屋から出て行った。

 

 

「あなたの方から来るなんて、珍しい。かつての旧友の頼みだから承諾したけど、普通だったら追い返したわよ?……で、一体何の用?」

 

「―――どうせ、見てたくせに、言う必要があるか?」

 

「あら、バレてた?」

 

「当たり前だ。お前の性格は大体把握している。お前は、昔っから覗きが好きだったからな」

 

「ちょっと……私が変態みたいな言い方やめてよ…」

 

 

 ヘカーティアはシロからの辛辣な言葉に落ち込む様子を見せ―――一瞬で回復した。

 

 

「まぁいいとして!最初に言って置くけど、私は見てただけで、何もしてないわよ?」

 

「別にそれが聞きたい訳じゃねぇ。問題は……どうして月に圭太がいたのかだ」

 

 

 シロから漆黒のオーラが漏れると同時に、シロは手に持ったティーカップを握りつぶした。

 彼のこの怒りは、何故か『圭太』が臘月の言いなりになっていたことによる、臘月への怒りと、そんな圭太を自らの手で殺めてしまった、自分自身への怒りだろうか。

 

 

「あぁ!オーラ漏れ出てる!あとそのカーペット気に入ってるんだから、汚さないでよ!………それは私にも分からないわよ。そもそも、この世界に圭太がいるってこと自体、私すっごい驚いたんだからね!」

 

 

 ヘカーティアは椅子に座ったままシロの方へを身を寄せる。

 シロは冷静に、ティーカップを口に近付けて、 

 

 

「……そうだな」

 

 

 そう言った後、紅茶を啜る音が響く。

 その返答に、沈黙が、部屋を支配する。

 

 そして、その沈黙を破ったのは、ヘカーティアだった。

 ヘカーティアは慌てるように、この部屋の空気を換えるために話を変える。

 

 

「ご、ごめんね?は、話変えるけど、臘月や圭太、あなたに零夜くん、その他モロモロ含めた『権能』保持者に、私たち神が抗えないことくらい、あなただって知ってるでしょ?臘月のやつ、神に一切情報が入らないようにしてたから、ここ最近の月の都の内部情報が分からなかったのよ」

 

「―――そうか。臘月の野郎、そこまで対策してたか…」

 

 

 シロも、特になにも言わずにヘカーティアの話に答えた。

 そして、その話をそのまま続ける。まるで、その話には触れないようにしているかのように。

 

 

「幻想郷や月の都より強いお前なら、なにか知ってると思ったんだが…とんだ無駄足だったな」

 

「ちょっと!人の仕事邪魔したり人の部下殺してそれ!?酷すぎない!?」

 

 

 ヘカーティアが椅子から立ち上がった音と、叫びが響く。

 シロにとっては無駄足でしかなかったが、ヘカーティアにとっては仕事を邪魔され部下を殺されと不幸なことしか起きていない。

 彼女の言葉は正論だった。

 

 

「面白いことがあったらすぐ仕事抜け出す奴がなに言ってんだよ。現に、あの闘いを見てただろ?」

 

「う……それを言われたらなにも言えない…」

 

 

 ゆっくりと座り、紅茶を飲むヘカーティア。

 一呼吸置いた後、面倒臭そうな表情で、シロを見る。

 

 

「とにかく、私から言えることはなにもないわよ?嫦娥も月にもういないから、そもそも見る必要なかったし…」

 

「じゃあなんで見てたんだ?」

 

「それはね、あなたが戦ってたからよ。旧友の活躍舞台、見ない理由はないでしょ?それに、『権能』持ちが二人もいるんだから、あわよくば月の情勢も探ろうかなって」

 

「そっちが本命だろ。俺は、俺たちはまんまと利用されたってわけか。で、お前はどうするんだ?」

 

「―――どうするって?」

 

「月の都を、だ。今しかない襲撃のチャンス。お前はそれを、モノにするのか、ドブに捨てるのか、どっちだ?」

 

 

 今、月の都にある最大戦力は月夜見しかいない。

 そして、ヘカーティアはシロの言った通り、幻想郷や月の都を超えるほどの力を持っている。彼女ならば、今の月の都を落とすことなど、赤子の手をひねるくらい簡単だ。

 

 

「そんなの決まってるじゃないのよ。さっきも言った通り、嫦娥がいないあそこを襲っても意味ないし、そもそもあそこまで落ちぶれちゃ襲う価値もないって感じ?だけど、純狐(じゅんこ)がどう出るか分からないけど…。まぁ嫦娥がいない今の月にはあの子も興味ないでしょうね」

 

「だろうな。あいつが月を襲ってた理由は嫦娥だ。嫦娥がいないあそこを、襲う理由はないか…」

 

「それで、何だけど……」

 

 

 ヘカーティアの顔が凛々しくなる。

 両肘を机につき、手の甲に顎をつけて、一言。

 

 

「―――仮面ライダーベノムの力……使ったでしょ?」

 

「――――――」

 

「あの力はあなたでも危険すぎるから、出来るだけ使わないようにって言ったのに…。あれはあなたの体や命をも蝕む諸刃の剣よ?あなた、もうしばらくの間ベノムに変身できないどころか、ベノムの能力であなた自身が弱体化してるし、しばらくの間動かないほうがいいわよ?」

 

 

 仮面ライダーベノム。

 シロが変身した転生者にしか変身できない、相手にも使用者にもダメージを与える諸刃の剣。

 ベノムの能力は『権能の弱体化』。使用者であるシロにすらもベノムの能力が体を蝕んでいる。つまり、今のシロは弱体化していると言っていい。

 

 

「ただでさえ臘月並のチートがあなたの強みなんだから、せめて回復するまで待って「いいや待てない」――なんで?『最高のポテンシャルを維持』って言うのがあなたのポリシーでしょ?」

 

 

 ただでさえ、ベノムの力で弱体化していると言うのに、回復を待たずに行動するシロの考えが、ヘカーティアには分からない。

 ヘカーティアはシロのことを知っているからこそ、疑問が尽きない。

 

 

「―――圭太が臘月の手に落ちていることは、完全に予想外だった。臘月だけなら、なんとかなった。最悪力のゴリ押しで、なんとかなると思っていたが……圭太がいるのなら、話は別だ」

 

「それも、そうね。でも、闘いは有利だったんじゃない?あなたは圭太の『権能』を知っていて、今の圭太はあなたの『権能』の詳細を知らないんだから」

 

「そういう問題じゃない。少なくとも、武器の性能は……圭太が完全に上だ。俺だって無敵じゃないんだ」

 

「あなたの口から言われても、説得力があるのかないのか…。で?結局そのままいくの?」

 

「無論だ。()()()()()()()()()()()()()からな…」

 

「あー……仕事が…」

 

 

 ヘカーティアは椅子の背で背中を曲げて、天井を見て手で顔を覆い隠した。

 彼女は知っている。()()()()()()()()()()()()

 

 

「修正のために、出来るだけ早く過去を、最善の道へと導く」

 

「―――出来るといいわね…」

 

「出来るできないじゃない。やるんだ」

 

「そうね。あなたは昔からそういうタイプだったわね。……ていか、思ったんだけどさ、それって【あなざーじおうつー】の、時間改変の力で何とかならないの?」

 

 

 アナザージオウⅡ。

 時間改変の力を持っているアナザーライダー。確かに、この力を使えば、わざわざ過去に行かずとも、時間を書き換えて臘月が存在せず、永琳や輝夜が逃げきれた世界へと書き換えることも可能だ。

 

 だが、シロの答えは―――。

 

 

「無理だ」

 

「どうして?」

 

「彼に―――いや、【夜神零夜】に、ジオウの適正が無いから」

 

「―――――」

 

 

 ジオウ劇中、【海東大樹】が副作用により変身した際は、加古川程「ジオウ」への適性が無いのか、はたまた暴走によって冷静な思考が出来ないのか、これらの能力は使用せずに双剣による直接攻撃のみを使用していた。

 これは詳しいことは分からないが、デメリットがあることは確かだ。

 

 

「ジオウの適正、つまり王としての素質。【夜神零夜】にはそれがない。ないから、ジオウの力を正常に扱えない」

 

「つまり、闇神零夜が『歴史改変』の力を使えば、杜撰な部分がたくさん出る…って思っていい?」

 

「あぁ。最悪、辻褄が合わない世界になって、世界が崩壊するかもしれない」

 

「考えたくもないわねぇ…。それじゃあ、あなたはどうなの?」

 

「『俺』が王?冗談はよしてくれ。『俺』に王の素質があるように見えるか?」

 

「……あると言えば、ハーレム王?」

 

「殺すぞお前」

 

 

 純粋な殺気がヘカーティアを襲う。

 彼女はほぼ冗談で言ったが、生憎彼は冗談がうまくとも受ける場合はほぼ真に受ける難しい性格だ。

 殺気に当てられたヘカーティアは、手をあたふたとしながら謝罪する。

 

 

「ごごごごめんって!冗談!冗談だから!」

 

「……『俺』が冗談を真に受けるタイプだって、お前知ってるだろ?」

 

「いやぁ、そうだけど、もうそこら辺は直ってるかなって思って…!」

 

「……もういい。お前は変わってなくて、安心したよ。変わってたら面倒なこと変わりないからな」

 

「それ、レディーに言うこと?」

 

「少なくともお前を女として見たことはない」

 

「ひどっ!」

 

 

 ヘカーティアの顔に、どこぞの少女漫画の如く驚愕の表情を表す白線が入り、背景が白黒になる。

 

 

「さて……そろそろ行く」

 

「あら、もう行っちゃうの?」

 

「いろいろと準備や考え事が、あるからな」

 

「―――そっか。気をつけなさいよ」

 

「言われなくとも」

 

 

 ヘカーティアは立ち上がり、見送りの準備を。

 シロはオーロラカーテンを出現させ、そこに向かって歩き……一度、歩みを止め―――、

 

 

「―――また、来る」

 

「いつでもいらっしゃい」

 

 

 完全にシロの体がオーロラカーテンに飲みこまれていき、それと連鎖してオーロラカーテンも虚空へと消えた。

 シロを見送ったヘカーティアは、再び椅子に座る。

 

 

「―――ハァ、本当に、男の子って分からないわね。あの意地がどこからくるのか…。過去ですべてを救うって心の中で思ってても、圭太を自らの手で殺してしまったことには、変わりないから…。あの子も、辛いはずなのに」

 

 

 ヘカーティアの顔には、何故か寂寥感が漂っていた。

 その心は、シロを心配する気持ちだろうか。

 

 

「泣きたいときに泣けない、悲しむときに悲しめない……本当に男って不便ね。……にしても、あの人は昔っからツンデレなところは変わってないわね。……中身は、ほぼ変わったって言うのに」

 

 

 ヘカーティアは先ほどのシロの態度を思い出す。

 自分の予想通り、彼は正常な態度を取っていたが、心の方は無事ではないはずだ。そして、彼のことを詳しく知っているのは、もう自分しかいない。

 それは彼なりの意地なのかもしれない。

 彼がここへ、自分に会いに来たのは、情報収集と言う皮を被った、彼の悲しみが露わになったからだろうと、へカティアは推測する。

 

 人は、脆い。

 心が揺さぶられると、落ち着かせるのに相当な時間と根気が必要だ。

 そして、それは彼も例外ではないのだ。

 

 だからこそ、旧友と言う関係である彼女を、頼ってここに来たのかもしれない。

 

 

「―――――」

 

 

 へカーティアは無言のまま、自分の首輪に鎖で繋がっている三つの球体を見る。

 その中から、青い球体――地球の球体を持って、悲し気な顔をする。

 

 

「―――もう、笑いあっていたあの三人は、見れないのかしら…」

 

 

 地球を抱きしめながら、ゆっくりと、目を閉じた。

 

 

 




 長かった、東方永夜抄?編……。

 竹取物語はさらに長くなりそうです。
 気長に、次回をお待ちください。

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