東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 ついに突入竹取物語―――ではなくタケトリモノガタリ。
 
 お待ちしてくれた方々もいたでしょう、お待たせいたしました!


 それでは、どうぞ!


タケトリモノガタリ
43 いざ、過去へ。


 あの日から、数日後。

 零夜の体は完全に回復し、あとは本番へと向かうだけだった。

 

 そんなとき、ルーミアから声を掛けられる。

 

 

「……零夜、大丈夫?」

 

「……なにだが?」

 

「全部。臘月を倒す方法だって、分からなかったのに……」

 

「――――」

 

 

 ルーミアの言葉に、零夜は何も言えなかった。

 前回の月の襲撃は、過去で戦う際の月の戦力把握のためだった。あわよくば、敵の『能力』の弱点を把握して過去で楽して倒そうっていう算段だった。

 

―――だが、現実は非情だった。

 臘月の方はまだ、強さ以外は予想は出来ていた。月の情勢が変わっていると言うことは、それを変えた誰かが存在していると言うことだから。

 しかし、問題は別にあった。零夜の『原作知識』をぶち破った八人の『ヘプタ・プラネーテス』に、臘月の息子で、仮面ライダー迅でもあった無月など、予想外のことがあありすぎた。

 

 攻撃が全く効かなかったウラノスだって、【レベルビリオン(チート能力)】でのごり押しで、ようやく勝てたのだから。

 

 

「確かに、分からないことが多すぎた。だが、同時に分かったこともある」

 

 

 零夜は、月で何度も聞いた単語、『権能』を思い浮かべる。

 『権能』と言うのが、どのようなものなのかは、まだ分からない。分かっていることがあるとすれば、『権能』は転生者固有の能力で、これを持っていると神が逆らえなくなる、と言うことだけだ。

 

 

「『権能』……。まだ分からないことが多すぎる。しかし、俺も持っていることが分かった」

 

 

 零夜の『権能』がなんなのかも、まだ分からない。分からないことだらけだ。

 シロに問いただせばなにか分かるだろうが、シロは今、心に大きな傷を負っているだろうと、零夜は強制する気にはなれなかった。

 

 

「あとは、アイツが本調子に戻るだけなんだが……」

 

 

 そんな時、入口のドアからコンコン、と音が鳴る。

 

 

「入れ」

 

 

 そう言うと、扉からシロが入って来た。

 そして、シロを見た二人は驚愕の表情をした。理由は予想は出来てはいたが、いつものシロとは違うからだ。

 今のシロは、何と言うか……やつれている。そんな雰囲気が漂っていた。

 

 

「お前……大丈夫か?」

 

「……うん、大丈夫、だよ」

 

 

 嘘だ。

 これは零夜だけじゃない。すぐにルーミアも気づけたほどの、あまりにも簡単な嘘だった。

 いつものお調子者のイメージとは全く違う、暗い雰囲気。それがシロを支配していた。

 

 

「無理するな。嘘だってことが丸わかりだぞ。休んだ方が「零夜」」

 

「―――心配しなくても、いいよ。気持ちに区切りはつけるし……何より、過去で臘月を殺れば、圭太は助かる

 

 

 「圭太を助ける」。その強い意志が、あらゆる感情と混ざり合って怨嗟(えんさ)の声に聞こえなくもなかった。

 シロと圭太の関係性。それがなんなのか、まだ分からない。

 しかし、今のシロの感情が、今の原動力になっているのも事実。それ以上、土足で踏み込むことは無粋だと、零夜は話を変える。

 

 

「そうか…分かった。俺の方も、準備OKだ。それで……」

 

 

 零夜はルーミアを見る。

 彼女を、どうするかだ。月の時は、シロが勝手に連れてきてしまったが、今回の場合どうするか。このままおいていくか。

 それとも、同じレールに乗ったものとして、連れて行くか。

 

 

「―――――」

 

 

 どちらかと言うと、気持ちは前者に傾いている。彼女は強い。そこら辺の妖怪など、彼女の敵ではない。

 だが、相手は転生者。転生者を相手するには、転生者しか事実上できないだろう。

 

 つまり、彼女は雑魚戦でしか活躍できないと言うのが、零夜の認識だ。

 

 

「ルーミアちゃん」

 

 

 そんなときだった。シロが、ルーミアにこう問いた。

 

 

「君は、どうしたい?」

 

「どうしたいって…?」

 

「君も、行きたいか、行きたくないか」

 

 

 それは、零夜の考えていたことそのままだった。

 何故考えていたことがバレたのだろう。さとり妖怪の力でも本当にあるのではないだろうか?と零夜は考えるが、考えただけ無駄だ。

 今一番の問題は、ルーミアの返答だ。

 

 

「行く」

 

「―――――ッ」

 

 

 即答だった。

 彼女の気持ちを蔑ろにし、強制するつもりはなかったが、ここまで清々しく即答されると、零夜も呆けてしまった。

 はっきり言って、彼女が同行するのには、リスクが高すぎる。

 月では、はっきり言って彼女は運が悪かった。彼女の強みである闇を同じ力で完全に無効化していたウラノスと戦ってしまったのが、彼女の一番の敗因だった。

 

 それだったら、零夜が戦ったあの四人なら、彼女といい勝負になるかもしれない。

 だが、それでも転生者ほどの力を持たない彼女には、必ず限界が来る。それを考えると、連れて行くことにはリスクしかない。

 

 

「……どうしてだ?お前は、月で無力さを痛感したはずだ。わざわざ、あの地獄に戻る必要はないだぞ?」

 

 

 零夜はあえて彼女の考えを否定も肯定せず、彼女に問いかけた。

 そもそも、彼女がこの戦いに参戦したのはシロの勝手な判断。だが、今回は違う。敵の戦力がある程度分かっているからこそ、彼女を戦力として加えるか加えるべきではないのかが、はっきりと判断できる。

 

 

「確かに、私は月では無力だった。けどね、何もしないって言うのは、私の性に合わないの。私は二人に比べたら弱い方だけど、それでもなにか、やれることがあったらやりたいの。だから、私も連れてって」

 

「―――――」

 

 

 どうするべきか。零夜は考える。

 戦力になるか分からない人物を、戦場に連れて行くようなことはしたくない。それに、意味なく連れて行くことも愚策。

 どちらを選択するか、考える。

 そのとき―――。

 

 

「あ……じゃあ、私を案内役として連れてって!」

 

「案内役?」

 

「輝夜姫って聞いたときから、なんか聞き覚えがあるなって思ってたんだけど……実は最近思い出したんだ。あの時のこと、私記憶にあるの」

 

「それマジか!?」

 

 

 零夜が驚愕の声を上げる。

 それが本当なら、当時の力関係などがある程度分かる。

 

 

「なんでそれ最初に言わなかったんだ?」

 

「だから言ったじゃない!つい最近思い出したって!」

 

「あぁ…。だが、何故今なんだ?」

 

 

 つい最近思い出したなど、明らかにタイミングが良すぎる。

 もしかしたら、今まで黙っていたのかもしれないが、流石にそれはないだろう。だからこそ、今はこの状況を甘んじて受ける。

 

 

「なんていうかね……。輝夜姫とか、そういうのを聞いて、記憶のピースがつながった、そんな感じかな?」

 

「―――cued(キュー) recall(リコール)か」

 

「……なんて?」

 

「cued recall。つまり、『想起』を意味していて、『見て思い出す』ってこと」

 

「なるほどな」

 

 

 cued recall。「ものを見て、ものを思い出す」神経のことを言う。

 脳のメカニズムの一つ。脳のメカニズムは、知性があるのなら人間も妖怪も変わらないはずだ。

 なら、この定義が妖怪であるルーミアにも、通用してもおかしくはない。

 

 

「それでも、今ここで聞けば良くないか?」

 

「『見て思いだす』んだから、見ないと思いだせないでしょ?つまり、彼女を連れて行けば、なにか分かることが増えるってことさ」

 

「―――そうか。……分かった」

 

「ホント!」

 

「だが、ただし条件がある」

 

「条件?」

 

「俺と一緒に行動することだ。ウラノスの時のようにならないようにな」

 

「うん、分かった!」

 

 

 彼女は非常に嬉しそうに、にっこりと笑った。

 

 

「それじゃあ、決行は明日だ」

 

 

 その言葉で、解散した。零夜が立ち上がると―――。

 

 

「あ、零夜。少しいいかな?」

 

 

 シロが、呼び止めた。

 

 

「なんだ?」

 

「過去へ行く際、いろいろと設定を作っておかないといけないから、その打ち合わせしていいかな?」

 

「……設定?何のために?」

 

「現代から来ましたなんて言う訳にはいかないしね。設定作っておいた方が、あとから楽だよ?」

 

「―――そうだな。じゃあ俺の部屋に来てくれ」

 

 

 

 零夜とシロは、部屋から出て行った。

 一人、残されたルーミアは…。

 

 

「――――――」

 

 

 誰もいないところで顔を歪め、歯茎を噛み、拳を強い力で握り締め……口と手から、血が垂れていた。

 それは、本人すら気づくことなく―――。

 

 

「あれ、なんで私、血なんて…?」

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

―――竹取物語。

 今は昔、竹取の翁と言う者ありけり。野山に混じりて竹を取りつつ、よろずのことに使いけり。名をば、さぬきの(みやつこ)となむ言ひける。その竹の中に、もと光る竹なむ(ひと)すぢありける。あやしがりて、寄りてみるに、(つつ)の中光たり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。

 

 

 竹取物語の、冒頭だ。

 つまりは始め。始まりの、物語。

 

 

 劇中から外れた、森の中。

 そこに、銀色の幕のようなものが現れ、そこから二人の男性と一人の女性が現れた。

 

 

 

「ここが、過去……」

 

「森が生い茂ってるね」

 

「―――――」

 

 

 時間は、過去。

 三人はシロのオーロラカーテンを潜り抜け、過去へと跳んでいた。

 ついた先は、森の中だ。木々の間から、太陽の光が差し込んでくる。

 

 

「なんとか、着いたようだが…。今はどの辺りなんだ?」

 

「一応、かぐや姫が成人した辺りの時間帯に跳んだから、たくさんの人が求婚しているところじゃないかな?」

 

 

 竹取物語で、かぐや姫は三か月と言う短い期間で、成人へと成長を遂げている。

 つまり、かぐや姫が発見されてから、三か月以上は経った世界と言う訳だ。

 

 

「――――」

 

「どうだ、ルーミア。なにか、思い出したか?」

 

「ごめん…。まだ、ここを見ただけじゃ……」

 

「そうだな…。すまなかった。それで、これからどうするつもりだ?」

 

「―――そうだね。まずは、平城京に行くことから始める―――前に、やらなければならないことがある」

 

「なんだそれ?」

 

「それは…」

 

 

 シロは、ルーミアを指さす。

 指を向けられたルーミアは、「え、私?」ときょとんとした顔をする。

 

 

「この時代、幻想郷がまだ創られてもいない、妖怪を退治する陰陽師が蔓延るこの時代で、妖怪は忌避するべき存在だ。そんな彼女を都に連れて行くわけにはいかないからね」

 

「あー……」

 

 

 よく考えれば、シロの言う通りだ。

 この妖怪を忌避し、忌み嫌う時代で、妖怪でルーミアを連れて行くのは、悪目立ちするし何より門前払いされる可能性だってある。

 

 そして、何より気を付けなければならない存在が、陰陽師。

 彼らはこの時代で言う妖怪退治専門職だ。世間一般で言う正義の味方である彼らに目をつけられたら、もう都に居場所がなくなり、行動しづらくなる。つまりゲームオーバーだ。

 

 

「そこで、二段構えをする」

 

「二段構え?」

 

「そ、まずは第一認証として、彼女には零夜の影に隠れてもらう。彼女は闇の妖怪だから、闇と関連する影に隠れることくらい、造作もないでしょ?」

 

「確かに、出来るわね」

 

 

 ルーミアからの確証も取れた。

 だが、問題は次だ。

 

 

「で、問題は次なんだけど、都の中には陰陽師が必ずいる。都の中で指摘されたらそれもゲームオーバー。だから、零夜とルーミアちゃんには、『式神契約』をしてもらう」

 

「「式神契約…?」ってなんだ?」

 

 

 式神、と言う言葉なら聞き覚えはある。

 八雲紫の式神、八雲藍がその例だ。

 

 この世界の式神は、既存の妖獣等に式神という術を被せ、強化・制御したものを言う。パソコンにソフトウェアをインストールするようなものである。

 八雲藍の場合は九尾の狐という妖怪を媒体として、八雲藍という式神を憑けている。

 

 

「零夜はすでに分かっていると思うけど、『式神』とは言わば使用者の道具。この時代じゃ、その認識が強いね」

 

「―――つまりお前は、俺とルーミアが式神契約をすれば、万が一バレた場合言い訳が出来るってことか?」

 

「そういうこと」

 

「……ルーミア、お前はどうなんだ?俺の式神になるってことは、すなわち俺の奴隷に「なるわ」決断早ェよ!」

 

 

 まさかの即答。

 これには流石の零夜も動揺する。零夜が言った通り、式神になると言うことはすなわち奴隷になると言うことだ。そんな決断を、即決するなど、とても正気とは思えない。

 

 

「だって、ここに来たのは半分私の我儘でもあるんだから、これくらいはやらないと。それに、こうしていた方が零夜も監視がしやすいでしょ

でしょ?」

 

「そうだとしても、お前、プライドとかないのか?」

 

「そんなもの、もうとうの昔に捨てたわよ。言うなれば千年くらい前?いや、今は過去だから、なんて言えば…」

 

 

 千年前に捨てたプライド。だが、今はそれより過去にいる。つまりルーミアが己のプライドを捨てるのは未来の出来事。確実な矛盾だ。

 

 

「まぁ雑談はそれくらいにして…。はいこれ」

 

 

 シロは零夜に、お札のようなものを手渡す。

 

 

「これは式神の札と言ってね。式神の術をかぶせることが出来るんだ。ちなみにこれは既存の式神の札とは違って、媒介となった者の意識を奪うことはないから、安心していいよ」

 

「なるほどな……。これ、どうやって使うんだ?」

 

「えっと……霊力を送りこんで、対象に貼り付けるだけ」

 

 

 シロに言われたまま、零夜はお札に霊力を送りこむ。

 札は霊力を吸収し、淡い光を放った。

 

 

「貼ると言っても、どこに貼れば…」

 

「どこでもいいよ」

 

 

 そう言われ、零夜はルーミアのおでこに札を貼った。

 ルーミアが、「ウッ」と短い悲鳴を上げると、眩い光が辺りを包む。それは3秒ほど続き、光は収まった。

 零夜が目を開けると、何故か札が消失していた。

 

 

「おい、札がなくなってるんだが?」

 

「成功した証拠だよ。試しに、なにか命令してみて」

 

「そうだな……。とりあえず、俺の影に入れ」

 

 

 そう言うと、ルーミアが影の中にズブズブ…と音を立てて入っていき、姿が完全に見えなくなる。

 

 

「……なんか、実感湧かないな」

 

『そう?私の方はなんか、強制力を感じたけど…』

 

「成功ってことだ。それじゃあ、出発しよう」

 

 

 ルーミアを自身の影に入れた零夜は、シロと共に森の中を歩く。

 

 

「なぁ、これちゃんと街道に出るのか?」

 

「もちろん。ただ人目がつかないように森の中に入っただけ。このまままっすぐ進めば、街道に出るはずだよ」

 

 

 そう言われ、黙々と歩き続けること、数分。

 ついに街道に出ることができた。

 

 

「出たな。……で、どっち方面だ?」

 

「こっち」

 

 

 シロが指さす方へと歩こうとした、その時だった。

 

 

 

「ぐぎゃぁー!!」

 

「「ッ!!」」

 

 

 

 反対方面から、悲鳴が聞こえた。

 男の声だった。しかも、その声は、断末魔によく似ていた。

 それだけじゃない。なにやら、武器と武器がぶつかり合うような音が聞こえる。どうやら、戦っているようだ。

 

 

「おい、どうする?」

 

「―――とりあえず、行ってみるとするか」

 

「そうだな」

 

 

 零夜もシロの意見に賛成し、街道を駆けた。

 走ったら、案外早く着いた。そして、零夜とシロの目に映ったのは、豪華な馬車と、それを守っている陰陽師や兵士の姿、そして、複数の妖怪の姿だった。

 

 

「……こんな真昼間から、襲撃とは、妖怪たちも貪欲だね」

 

「どうでもいいだろ。で、助けた方が良いか?」

 

「うーん、豪華そうな馬車と護衛…。有力者が乗っていることには間違いない。これは、利用できるかもね」

 

「利用?」

 

「それは追々話すとして…ルーミアちゃん。僕と彼の影を伝って伝言を伝えることはできるかい?」

 

『そんなこと、造作もないわよ』

 

 

 零夜の影から、ルーミアの声が聞こえる。

 一体、シロはこの状況をどう利用しようと言うのだろうか。

 

 

「零夜、性格の設定は昨晩話した通りで通して。計画は、ルーミアちゃんを経由して話す。だから、助けに行っちゃって」

 

「分からねぇが、とりあえず乗ってやる。――変身!」

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

「クソッ!畳み掛けるんだ!絶対に守り通せ!」

 

 

 陰陽師特有の服を着こなしているこの男性は、この護衛団体のリーダーだ。

 有力者を乗せているこの馬車を護衛して、帰還の最中、いきなり妖怪の群れに襲われた。

 

 すでに仲間が数人やられた。絶命しているのか、それともまだ生きているのか、確認する暇すらない。

 まさに崖っぷちだった。

 

 

 兵士たちも頑張ってくれて入るが、兵士には陰陽師ほどの攻撃力はない。

 だからこそ、危険な状況だった。

 

 

―――そんな時、一匹の狼型の妖獣が、男に牙を向けた。

 

 

「お、『陰陽札』!」

 

 

 男は札を複数投げ、妖獣に直撃し、煙をまき散らす。

 

 

「やったか!?」

 

 

 倒したかと、男は喜んだが、それは杞憂だった。

 喜んだもつかの間、煙の中から妖獣が牙を向けてきたのだ。

 

 

 

「うわぁあああああ!!」

 

 

 

 男は悲鳴を上げ、両腕で顔を覆い隠した。

 噛みつかれる。そう思った瞬間―――、

 

 

――バキュンッ!

 

「ギャンッ!」

 

 

 謎の音が聞こえたと同時に、妖獣の断末魔が聞こえた。

 男はゆっくりと目を開ける。男の足元――地面には、自身を襲おうとしていた妖獣が、絶命していた。

 

 その摩訶不思議な現象は続いた。

 

 

――バキュンッ! バキュンッ! バキュンッ!

 

「キャンッ!」「グガッ!」「オオォオオ!」

 

 

 

 妖怪たちが、次々にこの現象の餌食になっていた。

 ある妖は脳天を貫かれ、ある妖は胴体を貫かれ……。他の仲間たちも、この謎の現象に動揺を隠せずにいた。

 

 

 

「おい、あそこを見ろ!」

 

 

 

 仲間の一人が、大声を上げる。

 男もそこを見る。そこには、謎の存在がいた。

 

 全身を銀色のフルアーマーで統一しており、左側の肩アーマーに、見慣れない謎のマーク、黄色い複眼が、妖怪を捉えていた。

 謎の存在が、右手に持っているナニカを妖怪に向け、再び音が響いた。音とほぼ同時に、また妖怪が一匹絶命した。

 

 

 “なんだ、あの存在は?”男はそう思う。

 妖怪の類かと思っても、あの存在から感じられるのは『霊力』。霊力は、その者が人間であることを示している何よりの証拠だ。

 だが、あの奇怪な術はなんだ、どうやって妖怪を倒している?男の疑問は尽きない。

 

 そんな男の思考など放って、妖怪たちは目の前の存在を、本能的に“危険”だと感じたのか、一斉にその存在へと向かって行った。

 

 

 

『――――』

 

 

 その存在は、腰に手を掛けた。触れたのは、赤いラインが入った黒く大きなカブトムシのようななにか。

 角に触り―――倒した。

 

 

CAST OFF!

 

 

 

 銀の鎧が弾け、妖怪たちに激突し、弾けた際の爆風が、陰陽師たちを襲う。

 咄嗟に目をつむり、爆風から逃れた男は、ゆっくりと目を開ける。

 

 そこには、既にあの銀色の戦士は存在していなかった。

 全身が黒い鎧で統一されており、先ほどと比べてスリムになっている。

 頭部、胸部、肩部のアーマーには基板のような赤い模様があり、何より特徴的なのは、銀色の鎧越しからも見えた黄色い複眼と、大きな角だった。

 

 漆黒の戦士は右手の武器を持ち換え、それはナイフのように見えた。

 

 

「グゴォォオオオ!!」

 

 

 妖怪たちが、一斉に戦士へと襲い掛かった。

 圧倒的な数の暴力が、戦士を襲った。先ほどの一体一体確実に仕留めていく方法では、ジリ貧になる。一体、どうするべきか?加勢するべきだろう。だが、脳がそう思っていても、体が動いてくれなかった。

 

 そんな中、戦士は腰に巻かれている銀色のベルトの右側を、押した。

 

 

CLOCK UP!

 

 

 

―――妖怪たちの血しぶきが舞った。

 

 

「―――えッ?」

 

 

 あまりにも、一瞬の出来事で、男には見るところか認知することすらできなかった。

 男が目の前で見た状況を、言葉で説明するならば、「一瞬で妖怪たちが全滅した」。

 

 逆に、これ以外の説明方法が存在しなかった。

 目の前には、妖怪たちの血、肉、骨が大量に転がっている。死んだことは、確かだ。だが、その速度があまりにも速すぎる。

 

 それだけの状況証拠で、理解できた。

 あまりにも見えないスピードで、妖怪たちは殺されたのだと。だとすれば、今戦士はどこにいる?

 

 

 

「ッ!あいつはどこにいった!?」

 

 

 男とその仲間たちは、辺りを見渡す。

 あの速度で動かれたら、対処する術がない。瞬殺される自信がある。

 

 

「……あッ!」

 

 

 仲間の一人が声を上げる。見つけたのかと、一斉のその方向へと目を向けた。

 男の眼には、確かに戦士が映った。だが、その場所は…。

 

 

『―――』

 

 

 馬車の隣に、立っていた。

 平然と、まるで違和感がないかのように、腕を組んで、ただその場に立っていた。

 

 

「貴様は何者だ!」

 

 

 男は自身に課せられた責務を全うするべく、陰陽札を戦士に向けた。

 この戦士に己が勝てないことなど分かっている。あの速度で動かれたら、一巻の終わりだ。

 だからこそ、重要なのはこの戦士が、敵か、味方か、そのどちらか。

 

 

「助けてもらった身でありながら失礼なのは重々承知だが、かといって役職上、いきなり出てきた者を信用するワケにもいかぬのだ」

 

 

 高慢な態度を取っていれば、この戦士の怒りを買って殺されてしまう危険性だってある。

 だからこそ、その理由を語ることによって、その可能性を出来るだけ潰そうとしている。

 

 

『――森を歩いていたら戦闘の音が聞こえて、ここに来た』

 

 

 戦士は言葉を語り、ゆっくりと自身のことを語った。

 

 

「森を歩いていた…?一人で……いや、貴殿のその力があれば、一人でいても何の問題もないか」

 

『これで、いいか?』

 

「いや、まだだ。貴殿は何者だ?貴殿ほどの強者、耳に入っていてもおかしくはないはずだが…」

 

『……目立つのが苦手な、ただの風来坊さ。それで納得してくれ』

 

「そう言われて、納得できる者がいるか?……まぁいい。風来坊と言うのなら、ここへはどんな目的で?」

 

『―――【かぐや姫】。絶世の美女がいると聞いて、やって来た』

 

 

 男はそれだけで、納得できた。

 男の耳にも、【かぐや姫】の事はもちろん入っている。なにせ、都中で噂になっていることなのだから。

 【かぐや姫】を娶ろうと毎日貴族が求婚しにやってくることは、仕事柄何度も目にしている。

 

 目の前の戦士は、自分の力を見せつけて【かぐや姫】に求婚をしに来たのではないのかと、男は考えた。

 

 

「なるほど、かぐや姫か…。貴殿もかぐや姫に求婚しに来たのか?」

 

『……まぁ、似たようなものだ』

 

「―――そうか。疑って悪かったな」

 

 

 男は陰陽札をゆっくりと下ろすと、頭を軽く下げた。

 顔を上げると、優し気な顔で、名前を聞く。

 

 

「貴殿の名前を聞いてもよろしいか?」

 

『名乗るほどの者じゃない。と言うか、名乗ったら有名になりそうだから無理だ』

 

「……貴殿は有名になるのが嫌なのか?誰しも、己の名を上げることに必死であることは当然なのだが」

 

『言っただろう。目立つのが苦手だと。だから、いろいろな場所でも口封じをしてきた、それだけだ』

 

「……道理で」

 

 

 これほどの強者を知らなかった理由、それは自身で口封じをしていたからか。

 確かに、他の名を上げることが目的の陰陽師が必ずいる。本人が目立ちたくないと言っているのだから、それを最大限利用して情報規制をしている可能性だって十分あり得る。

 

 これ以上深入りするのは無粋だと、男は思う。

 

 

「理解した。我々に助勢してもらい、感謝する」

 

『構わない。それでは、俺はこれで失礼す「あぁ待った!」?』

 

 

 戦士が立ち去ろうとしたとき、誰かの声が響いた。

 これは、男の声ではない。別の、誰かの声だ。そして、声の主は…。

 

 

「お待ちくだされ!そこのお方!」

 

 

 その声の主は、馬車から出てきた。出てきた人物は、初老の男性だった。ただ、その身に拵えている服がとても豪華で、普通の人物ではないことは見ただけで理解できた。

 

 

『なんだ?』

 

(みやつこ)様!勝手に出て来てもらっては困ります!」

 

『―――ミヤツコ、だと?』

 

 

 戦士の言葉が、震えた。

 戦士には、その名前に聞き覚えがあった。

 

 

「流石に、かぐや姫に会いに行くとなれば、この方をご存じであっておかしくはないでしょうな」

 

『かぐや姫に会いに行くんだ…。このくらい知っていて当然だ』

 

「おぉ、それでしたら詳しく話す必要はないでしょうが…。一応。オホン!」

 

 

 男性は一回咳をして、気を締め直し――。

 

 

 

「儂の名前は【讃岐(さぬき)(みやつこ)】。かぐや姫の義父(ちち)でございます」

 

 

 

 




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