全身が基板のような赤い模様が入った漆黒の鎧に包まれた、黄色い複眼の戦士―――【仮面ライダーダークカブト】。
彼は今、頭が混乱していた。
目の前にいるのが、かぐや姫の
『
この老人の名が、本当に【
仮にも【かぐや姫】の、
「儂が無理を言いましてな。かぐやを拾ってから、家が裕福になったと同時に、護衛もついて…散歩も、昔のようにはできぬようになりましてな…」
『散歩…』
たかが散歩に、大がかり過ぎると思うが、これもかぐや姫の義父と思えば、仕方のないことなのかもしれない。
「こう老けても、昔の習慣が忘れられず…」
「こうなってしまったのだ。しかし、どういうことだろうか。この付近には妖怪除けの札が辺り一面に貼ってあると言うのに…」
『妖怪除けの札?』
「あぁ。この街道は多くの人間が通るため、当然妖怪に襲われる可能性だってある。だからこそ、それが貼ってあるのだが…不備でもあったか?」
「隊長!見てください!」
一人の陰陽師が、声を上げる。
男が走って駆け付けると、男の目に映ったのは――。
「これは…!札が焼き切れている!」
「おそらく、これが原因で結界に穴が開き、結果その穴から妖怪がなだれ込んできたようです」
「しかし、札が焼き切れるとはどういうことだ?
「妖怪の手では不可能です。可能性があるとすれば、人為的にしか…」
男の部下の視線が、ダークカブトの方に行った。それを聞いていた他の部下たちも同じ行動をした。
ダークカブトも、男も、部下たちが何を思っているのかが分かった。
『俺を疑っているのか。まぁ、ぽっと出の奴を疑うのは仕方のないことだ。しかし、俺ではないぞ。そもそも―――』
ダークカブトが、再びベルトの右側の部分を押すと、ダークカブトの姿がその場から掻き消えた。
混乱した男とその部下たち。が、その1秒も経たない一瞬のうち、男とその部下の肩に手が乗せられた。
『俺が犯人なら、そんな姑息な手など使わず、この速度を用いて貴様らを皆殺しにすればいいだけのこと』
「「―――ッ」」
二人の顔に、冷汗が垂れる。
見えなかった。一度見ていると言うのに、全く見えなかった。もし、彼が敵だったら今すでに自分はこの世にいなかっただろうとすら思う。
確かに、このスピードがあるのなら、こんな姑息な手など使う必要もない。
この戦士の実力が、陰陽師たちが無理やり納得するしかないほどの、説得材料だった。
『それにもし、俺がお前たちを利用して、かぐや姫を攫おうと言う目的を持っているのなら、同じこと。この速度を最大限に利用して、攫えばいいだけ。こんな手の込んだことをする必要はない。こんなことをしてしまえば、指名手配されるだけ。しかし、俺がそれをしないのは、そのつもりがないからだ』
「……理解した。部下が疑って悪かった」
男はダークカブトの手をゆっくりと下ろす。
完全に信用はできない。だが、それでも否定することもできなかった。
『――理解は出来ても、納得は出来ないだろう。人とはそういうものだ』
こちらの心理を完全に読まれていたことに一瞬動揺を露わにしてしまうが、すぐに冷静に戻った。
「それで…あなたはこれからどうするおつもりで?」
『無論、都へ行く。鎧は脱げば問題ない』
それは鎧なのか、と思ってしまうが、逆にそうではないと完全な異形にしか見えない。
自分達も霊力と妖力の違いを感じられる陰陽師でなければ、妖怪だと誤認して戦っていたことだろう。
事実、そう言った感知に疎い兵士たちには、怯えの表情がくっきり写っていた。
「それでしたら、この馬車に乗っていきませんか?」
「造さま!」
男は大声を出してしまう。
いくら助けてもらったとはいえ、こんな不審でしかない存在を、ましてや敵になったら絶対に敵わない者を傍に置かれたら、対処の仕様がないし、危険だ。
『いいや、それには及ばない。なにより、この姿では都では目立つ』
「そうですか……」
『しかし―――』
「――?」
『かぐや姫に会うと言う目的がなくなったわけではない』
「そうですか…。また、会えるでしょうか?」
『今度は鎧を脱いだ状態で来ようと思う。その際、俺だと分かるように合言葉を設定しておく』
「合言葉…?」
『―――【
「―――?」
『それでは、失礼する』
戦士がサイドバックルを叩いた瞬間、
* * * * * * * *
『―――はぁ、「疲れる…」
『お疲れ様。「大変だったでしょ?」
あの場からかなり離れた森の奥にて変身を解除したところに、零夜の影から出てきたルーミアに、
そして、その隣にいるもう一人の白装束の男にも同じことを言われる。
「本当にお疲れ様。苦労した?」
「当たり前だ。自分のキャラと合わないキャラなんかやって、ボロが出たらどうするつもりだったんだよ」
「そこら辺は零夜を信じた。問題ないかなって」
「それはそれでいいとして、本当にあのキャラでいいのか?」
ダークカブトに変身していた際で通したあのキャラ。
一見傲慢に見えるが、礼儀はちゃんと正すキャラで良かったのかと疑問に思う。
「にしても、まさか助けたのが重要人物の讃岐の造なんて、思いもしなかったな」
「あぁ、それは僕もビックリだよ。でも、おかげで以外と早く計画が進められそうだ」
「それに、合言葉を臘月に設定するとは、なかなかやるな」
「でしょ?」
既にネタバレを喰らっている者にしかできない計画。
かぐや姫―――蓬莱山輝夜は月の住人だ。そんな彼女に、月の人物、しかも有名人の名前を地上で聞かせればどうなるか、確実にあちらからコンタクトを取ってくるだろう。
「だが、逆に警戒されて跳ね除けられることはないのか?」
「仮にも彼女はお迎えが来る予定の罪人だ。彼女は僕たちが月の使者であると認識するだろう。だが、お迎えが来る予定なのに手を出して予定日に来なかったら、不審に思われるだろ?だから彼女は自ら出るはずさ」
「そういうものかね…。まぁうまく事が運べば良いが」
「それを願うしかないわね」
とにかく、今はそうなることを願うのみだ。
「――ところで、さっきのあれ…。妖怪除けの札が焼き切れた件についてなんだが…」
「妖怪除けの札?あぁあったねそんなの」
「おまッ……気づいてたんなら言えよ。…まぁいいとして、そんなものがどうして焼き切れたんだ?」
陰陽師の話だと、あれはそう簡単には焼き切れないらしい。
妖怪除けの札と言うのだから妖怪には絶大な効果をもたらすだろう。そんなものが焼き切れるくらいだから、きっと強力な妖怪が―――、
「あぁ、あれね。アレ、僕らの仕業だよ」
「―――は?」
零夜の目が点になる。
シロの言っている意味が分からない。いや、分かるだが、脳がそれを否定している。
「ま、待て待て待て待て。おかしいだろ、俺達なにもしてないだろ?」
ようやく理解が追いつき、反論をする。そうだ、少なくとも自分はなにもやった覚えがない。
僕らの仕業?つまり、シロだけじゃなく零夜もそこに入れられていたことに疑問しか感じない。
「そうだね、僕らはなにもしていないね」
「そうだろ。結界を壊すようなこと、わざわざする訳…」
「―――時間移動」
「―――…あ」
理解、できた。
時間移動とは、一種の空間移動だ。過去――つまり違う空間へと移動する際に生じた歪みが、結界の影響を与えたのかもしれない。
「しかも、それだけじゃないね。ルーミアちゃんも、一つの原因かな」
「え、私も?」
急に責任を振られたルーミアもキョトンとする。
確かに、僕らとは言ったがルーミアまで入れることは―――。
「ここ、妖怪除けの札で守られてるんよね?」
「―――――」
ここまで言われてしまえば、流石に分かる。
妖怪除けの札で形成されている結界内に、妖怪を無理やり連れたから…。例え、それが使用者の
「それに、結界に歪みが生じているのも、原因の一つかな。本来この結界は、真っ直ぐなドーム状で形成されているんだけど、僕たちが時間移動をした際に空間が歪んだから、結界が見えなくとも、形はねじれているんじゃないかな?」
「―――つまり、妖怪であるルーミアが通れたのは、その隙間を通ったからってことか?」
「そういうことになるね。まぁ僕もルーミアちゃんが無傷で通れるよう少し細工したんだけど……」
つまりは、零夜達が時間移動したせいで結界の形がねじれて隙間が生まれ、そこをさらにシロが広げたことにより結界が不安定に。
不安定になったものはとても脆い。そこを突かれ、知識を持たない弱小妖怪でも、通ることができたのだろう。
「―――完ッ全に俺らのせいじゃねぇか…」
「そうだね。…(完全に見逃してた…。あぁクソ、胸糞悪い…)」
ここで妖怪の大群などに襲われたら、それこそ歴史が滅茶苦茶になる。
歴史を直しにきたのに、逆に滅茶苦茶にしてしまったら、元も子もない。
「とにかく、結界を直そ――」
「キャァアアアアア!!」
「「「―――」」」
第二の問題、発生。
自分達の
声の主は、女性であることは分かるがそれ以外は分からない。
―――が、今はどうでもいい。すぐに助けなければならない。最悪、歴史が急変する。
「シロ!」
「分かってるよ」
―――瞬間、シロの姿が掻き消える。
その速度は、クロックアップを超えているのではないだろうかと零夜が思うほどだ。
そもそも、シロの種族が人間なのか妖怪なのかすら分かっていないのが現状だ。
シロからは、霊力や妖力などと言った力を感じ取ることができないのだ。
そのため、代弁状は人間と定義しているが、それが真実なのかどうかすら分からない。
が、人間にあの速度が耐えられるだろうか?普通に無理だ。
二人が駆け足で悲鳴が聞こえた方へと走ると、ある景色が目に映った。
そこには、いくつもの妖獣の死骸と、その中心にいる、一切血で汚れていないシロの姿が。
そして、そこには頭をうずくまらせている、黒い長髪の少女がいた。
体がとても痩せ細っており、皮膚と骨しかないように見える。これだけでも、まともに食事が採れていない貧民の類だと予想できた。
山菜取りにでも行こうとしていたのだろうか?
服装はこの時代に合った服装で、とても質素だ。だが、その服は血で汚れていた。
おそらくシロの攻撃が原因だろう。
「おーい、大丈夫?」
「――――」
「おーい……」
「――――」
「駄目だ…。完全に恐怖でやられている…」
シロの呼びかけに、少女は答えない。
妖怪に襲われた恐怖が、まだ心に突き刺さって抜けていないのだろう。
だが、なぜこんな幼い少女が一人で森の中にいるのだろうか?
親は?保護者は?
痺れを切らしたシロは、少女の肩を揺らす。
「おーい、そろそろ起きてくれないかな?」
「ヒッ!!こ、来ないで!!―――あ、アレ?」
意識を取り戻したと同時に悲鳴を上げた少女は、少し顔を上げる。少女の黒い瞳が、零夜たちの目に映ると同時に、少女は目の前の変化に気付いた。
自分を脅かす存在がいなくなったことに、疑問を抱いている。そして、その周りに死体が転がっていることに気付いた少女は、再び悲鳴を上げる。
「――大丈夫。悪い妖怪は、お兄さんが倒したから」
瞬間、シロの声が優しい男性の声へと変わる。
こういうときだけは、彼の特性は便利だと思う。
「本当に…?」
「うん、大丈夫だよ。ところで…君は?お父さんやお母さんと一緒じゃないのかい?」
ここが、一番気になるところだ。
何故、こんな
見たところ、服装は質素なため、孤児なのだろうか?
「―――母上は、もういない。父上も、今はいない」
どうやら、彼女の家庭は父子家庭らしい。
だとすれば、父親はこんな少女を放っておいて一体なにをしているのだろう。
現代人視点から見れば、十分なネグレクトだ。
「そうか…。それじゃあ、君はこんな場所でなにをしていたの?ここは妖怪が出て危険なんだよ?」
「私と遊んでくれる人いないから、ここで遊んでたの…。いつもは出てこないのに、妖怪が来て…」
「「―――――」」
ここまで言われると、流石に罪悪感を隠せない。
この少女を育児放棄している父親が全面的に悪いが、そんな少女を危険な目に合わせた原因を作った自分たちにも当然ながら罪悪感がこみあげてくる。
「そっか。今のここは危険だ。きっと、都の陰陽師たちがなんとかしてくれる。だから、お兄さんたち一緒に、都に帰ろう」
「―――嫌」
少女は、拒否した。この答えに、流石のシロも呆気に取られていた。
今ここは危険な場所(零夜とシロ、ルーミアが原因だが)だ。普通なら一刻も早く安全な場所に行きたいはずだ。
それなのに、少女はそれを拒んだ。
「どうしてだい?ここより、都の方がずっと安全だよ?」
「私のことは、放っておいて」
「放っておいてって……君みたいな子供を置いていけるワケないじゃないか」
「別に…父上は私が死んだって、気にしないから」
「「―――」」
それを聞いて、零夜とシロは唇を噛み締める。
つまるところ、この少女の父親は育児放棄―――つまるところ、ネグレクトをしているのだ。少女の話から察するに、今まで、ずっと。
父親は一体全体本当になにをやっていると言うのか。自然と、怒りが込み上げてきた。
「お家に、他に人はいないのかい?」
「お手伝いさんがいる…けど、皆私のこと、見てくれないから」
「そうか…。じゃあ、お兄さんたちが、今日一日いてあげるよ」
「―――ッ、本当に?」
少女が、今まで下げていた顔を上げる。
ようやく、少女の顔の全貌が分かった。子供らしい童顔と、先ほど見えた深紅の瞳に加えられた、とても綺麗な顔立ちをした少女だった。
「「――――ッ」」
そして、その少女の顔を、零夜とシロは―――知っていた。
わざとらしく、シロがその少女の名前を聞く。
「―――君、名前は?」
「
* * * * * * * *
目の前の、深紅の瞳の少女―――藤原妹紅。
まさか、現代で死闘を繰り広げた少女と、再び邂逅するなど思いも寄らなかった――。
「―――いや、違うか…?この時代だからこそ、会ってもおかしくない…」
蓬莱山輝夜と藤原妹紅の時代は、一致している。
ならば、出会っても不思議ではない。だが、予想外だったのは出会ったことだ。
予定では、出会う予定などはなかったのだから。
(ていうか、貧民かと思ったらお貴族様じゃねぇか…)
貴族である彼女が、何故こんな質素で、難民を思わせる恰好をしているのだろうか。
まさかとは思うが―――、
「とりあえず……都に行こうか」
「ううん。私は、ここにいる」
彼女の返答に、シロは硬直する。
「いや…ここは危ないし、都に行こう」
「でも、お兄さん強いでしょ?妖怪がいつの間にか倒してたもん」
「都に帰ったって……どうせ、皆…」
妹紅は顔を下に向け、暗い顔をする。そして、その目には一筋の水滴が―――。
なにか、父親以外にも、都に帰れない理由があるのだろうか?
「―――分かった。とりあえず今日はここに居よう。置いていくこともできないしね。二人も、それでいいかな?」
「あぁ、別に構わない」
「私もr――クロがいいって言うのなら」
二人も承諾し、しばらくの間ここにいることにした。
幸い、強者三人の放つオーラが弱小妖怪を近寄らせない効果があるため、よほどの強力の妖怪でなければここには近づいてこれない。
無論、人間相手にも警戒しなければならないため、周囲の警戒は怠らない。
(にしても、予想外の出来事が起きたな…。いや、予想外の出来事が起こるのは、もう慣れっこなんだが…。いや、慣れちゃ駄目だなこれ)
『予想外の出来事』。それは、“藤原妹紅との接点”。
当初の予定では、藤原妹紅とは何の接点もなしに計画を進める予定だったから。
なにせその計画の中には―――彼女にとって、不利益でしかない内容が含まれているから。
計画をこのまま進めたら、彼女に恨まれそうだ。
「いや、これも違う。父親にネグレクトされてるなら、恨まれることはないか…?」
正直、零夜にその匙加減は分からない。考えの通り、恨まれることはないのか。それとも、ネグレクトされていながらも、父親にある程度の期待を寄せていたり…。
結局、分からないことだらけだ。
「……ところでさ、あなた。どうしてずっと体育座りしたままなの?」
「ッ―――」
ルーミアが何気にそう指摘すると、妹紅がビクッと震えた。
それは、ルーミアの指摘が妹紅にとって都合が悪い事だと言うのを示唆していた。
「べ、別に…ただ、この体勢が楽なだけで…」
「でも、その体勢って、お尻が痛くなるから、私あまり好きじゃないのよね」
「―――ッ」
「「――――」」
妹紅の顔が、青ざめる。
自分の言葉で、ルーミアの何気ない言葉によって、墓穴を掘っていると自覚したからだろうか。
そして、それを知って、真っ先に動いたのは――シロだった。
「ちょっとごめんね」
「―――えッ…」
瞬間、シロの右手が淡く光るとともに、妹紅の体が淡い光と共に浮遊した。
妹紅は自分の身に何が起こっているのか分からないまま、困惑する。
妹紅の体が浮遊する―――つまり、妹紅の隠していた
そして、そこには驚愕すべきものが映った。
「これは…!」
「――――」
妹紅は観念したかのように、顔が暗くなった。
注目すべきは、腹部。そこには、巨大なひっかき傷が存在していた。
そこからゆっくりだが、ドクドクと血が流れてきている。
「なんだこれ!君はこんなものを我慢していたっていうのかい!?」
「あ、う……」
シロは妹紅を降ろした後、両肩を掴んで問い詰める。
この傷は、誰がどう見ても大怪我だ。しかも、傷の形状から見ても、さっきの妖獣から与えられた傷だ。
彼女の服の血は妖怪の返り血だと思っていたが、それだけじゃなかった。彼女の血も紛れていた。
「これは、どう考えても我慢できるレベルのものじゃない」
シロが遺憾なくそういう。
実際、こんな子供に―――いや、大人でも耐えられないほどの大怪我をしていた彼女は、あまりにも平然としすぎていた。
だから、見るまで気づくことができなかった。
「とりあえず、ジッとしてて」
シロの左手が怪我をしている妹紅の腹部にかざした。
すると、光がこみあげ、ゆっくりと、妹紅の傷が治っていく。
自分の傷が治っていくのを見て、妹紅は小さな歓喜の声を上げた。
「傷が…!」
「これで、大丈夫さ。どうして、こんな傷を我慢してたんだい?」
「――――」
妹紅は治ったはずの腹部を両手で抑えながら、なにも答えない。
―――この反応を、零夜は知っている。
これは、答えたくない質問を、されたときの顔だ。
「――――」
零夜は考える。
よくよく考えれば、現代の妹紅にもこれと似たような現象があった。
『《b》ないんだよ。痛覚なんてなぁ!』
現代の彼女の言葉が蘇る。
彼女は自身に痛覚がないと言っていた。それは、妹紅が『蓬莱人』ではなく『ホウライジン』だったからだと、自分でもその二つの区別がついていない状態で過程していたが、その過程が、違っていたとするならば…。
「お前、まさか……《b》痛覚がないのか《b》?」
「―――ッ!」
瞬間、妹紅の怯えたような瞳が、零夜を―――いや、三人を捉えた。
どうやら、図星だったようだ。
彼女、藤原妹紅には―――痛覚が、ない。
「嫌…嫌…やめて…」
「どうした?」
「やめて……投げないで、いじめないで、…」
「――――」
この様子、どこか……いや、全体的におかしい。
なにか、トラウマを刻みつけられているように見える。いや、そういう風にしか見えない。
少なくとも彼女の怯えと言葉が、それを物語っていた。
「……少し、眠ってくれ」
トンッ、と。シロが妹紅の首筋を叩くと、妹紅が気絶した。
倒れる妹紅を、シロが抑えると、ルーミアに手渡す。
「すまないが、彼女を洗ってくれ。このままだと、周りから怪しまれるから」
「う、うん……」
「それと零夜、
「あ、あぁ…」
零夜は言われるがままに、湯舟、桶、石鹸、スポンジを創った。
シロが湯舟の中に温水をため込むと、妹紅とルーミアを囲むように仕切りが出来る。
「それじゃあ…この子洗えばいいのよね?」
「あぁ、頼んだ、ルーミア」
零夜がそう言うと同時に、「はーい」と言うルーミアの声が聞こえ、ザパァと言う水の音が聞こえてくる。
「―――零夜、察しがついていると思うけど、少し話そうか」
「そうだな。……ルーミアはどうする?」
「式神になって力が制限されているとはいえ、彼女は非常に強力な妖怪だ。そこら辺の雑魚妖怪なら近寄ってこないだろう」
「確かに」
確認をし終わると、二人は少し離れた場所に向かう。
「……これで、謎が解けたような、それとも謎がまた増えたのか、分からなくなってきたね」
「あぁ、そうだな。だが、確かに言えることが一つだけある」
「そうだね。藤原妹紅は―――」
「「―――病気だ」」
二人の重い言葉が、重なった。
はい、今回の話をみて疑問に思った方がいるでしょう。
藤原妹紅が病気だと言うことは公式設定にはありません。
完全に本作オリジナル設定です。そこら辺のところを注意して読んでくれた方が、混乱がなく読みやすいと思います。
痛覚がない、と言う時点でなんの病気なのか既にお分かりの方もいるかもしれません。
シロの声 【石田彰】➡【保志総一朗】
評価、感想お待ちしております。