東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 さて、今回でついにかぐや姫と邂逅を果たします。

 零夜とシロの運命はいかに!



46 五つの難題

 零夜とシロ、二人は都へと足を踏み入れていた。

 人々の賑やかな声が、二人の耳に入ってくる。

 

「―――人がゴミのようだ」

 

「開口一番がそれかよ」

 

 

 シロのボケに、零夜がツッコむ。もっと喋ることがあるだろうに、何故それをチョイスしたのか。

 

 

『そう?私もそう思うけど?』

 

「お前は俺たちの会話に入ってくるな」

 

 

 今聞こえたのは、決して幻聴などではない。零夜の影に潜んでいる、ルーミアの声だ。都に妖怪は入れられないが、幸いなことに誰も気づくことはなかった。

 

 

「…で、あいつのことはどうするんだ?」

 

 

 零夜がそうポツリと呟く。あいつとは、妹紅のことだ。

 彼女の病気(呪い)は、都では誰でも知っているとのことだ。申し訳ないが、連れていくことはできない。

 

 

「都の陰陽師たちも、結界を弱ったままにしとくはずないし、大丈夫だろうとは思うけど、一応防御膜を張っておいた。だから、大丈夫だろう」

 

「……そうだな」

 

 

 心配ではあるが、仕方のないことだと区切りをつけるしかない。

 

 

「それに、彼女には僕の『権能』で防御膜的なものを張っている。並大抵のものだったら、そのままフルカウンターするから大丈夫だよ」

 

「……ずっと気になってたんだが、結局その『権能』ってのはなんなんだ?まだ詳しく聞けてねぇからよ」

 

 

 この際だと、零夜は『権能』について問いただした。

 時々出る『権能』と言うワード。この『権能』について確定していることは、『権能』保持者は神に『命令』できることのみ。

 『権能』が転生者限定の能力なのか、そうではないのか、実際まだ分かってはいない。分かっているのは、『権能』が『転生者』と何かしらの関係があることだけ。

 

 

「それは、また今度話そう。今話しても、全部話せない。それは、もっと時間があるときだ」

 

 

 ポテンシャルを最高にするその期間に話せなかったのか――と思うが、あの期間はシロの心を癒す期間でもあったため、聞くに聞けなかったため、仕方がないと言えばそうなのだが。

 

 

「まぁ、そうしとくよ」

 

「そうそう。それよりも、早速かぐや姫の御前に行こう」

 

「まぁ、すぐに行ければいいんだけどな…」

 

 

 しばらく歩くと、人通りが多くなっていく。

 そして、二人の目が、ある方向へと移動する。

 

 二人の目に映ったもの―――それは行列だ。

 とてつもないほどの、人の列。例を挙げるとするならば、有名チェーン店の行列だろうか。そして、その並んでいる人間は、すべて上質な素材でできている服を着用していた。つまりは、貴族。全員が、貴族だ。

 

 

「これ全部、かぐや姫に求婚している貴族かよ…」

 

「しかも、毎日って話だから、よくこの人らも飽きないよね。さて、このまま並ぶか、どうする?」

 

「できれば早く計画を遂行したい。こんなところでタイムロスをするのはな……うん?」

 

 

 そのとき、零夜が違う方向をを向いた。

 シロも同調してその方向を見ると、そこには警備巡回をしている陰陽師たちがいた。

 彼ら陰陽師は、妖怪退治が主な仕事であるが、有力者の護衛としても活動している。ならば、いたとておかしくない。

 

 

「陰陽師……警備か。ご苦労なことだね。……あ、彼は…」

 

 

 シロも、()()()()()()()()()に気づいたようだ。

 二人は、早速、その人物の前へと移動した。

 

 

「…うん?誰だ貴様ら」

 

「かぐや姫に会いに来たんだけど…」

 

「そうか。それならばちゃんと並べ」

 

「いや、その前に君に聞いて欲しいことがあるんだけど…」

 

「なんだ?賄賂ならもらわんぞ。もし、その気があったというのなら――」

 

「―――【綿月 朧月】」

 

「ッ!!その声、もしや…!……少し待ってくれ」

 

 

 男はそのまま走っていき、見えなくなった。

 あの男は、零夜がダークカブトとして助けた際に造と一緒にいた護衛の隊長だ。【綿月朧月】という合言葉は、あの場にいた者しか知らない。

 それに、ダークカブトとしての零夜は、『鎧を脱いでまた来る』と言った。ならば、男としてはこの男が鎧の戦士であると確信したのだろう。

 しばらく待つと、男が再び走って来た。

 

 

「待たせてすまない。来てくれてすまないが、今かぐや姫は貴族の方々とお話しをされている。それに、あの行列では、話せるのは随分後になってしまうのだが…」

 

「別に、構わない。こっちが勝手に来たんだから、中に入らせてもらうだけでも特別待遇と言える」

 

「そうだね。それは仕方ないことだ」

 

 

 男は二人が合意したのを確認する。

 

 

「それでは、案内しよう」

 

 

 男に案内され、零夜とシロは裏口から入った。

 そして、入った瞬間、見覚えのある老人が目に映った。

 

 

「おぉ、あなたが…!」

 

「昨日ぶりですね、(みやつこ)さん」

 

 

 出迎えてくれたのは、讃岐(さぬき)の造だった。

 

 

「まさか、こんなにも早く来てくださるとは、この造、感服です」

 

「はは、ありがとうございます。いやぁまさか、鎧を脱いでからくると言ったから、すぐには信じてもらえないと思っておりましたよ」

 

「何をおっしゃいますか。あなたが言った合言葉を語った者が表れた場合、すぐにお連れするように言ったのは、他でもないこのワシですので」

 

 

 どうやら、こんなにもすぐ入ることができたのは、彼のおかげらしい。

 しかし、手っ取り早くて助かるのだが、どうしても危機管理能力が足りないのではと感じてしまう。これは、彼の美点でもあり欠点でもある。

 

 

「会って間もない人物を信用するなて、あなた、危機管理能力が足りないと、良く言われませんか?」

 

「ははは…お恥ずかしいことに、昔はよく言われました。ですが、性分ですが故…」

 

「ですが、あなたのその()()に助かりました」

 

「そうですか。ありがとうございます。それでは、まだ時間がありますが故、儂の部屋で会談でもしませんか?」

 

「いいですね!ぜひお話しさせてください!もし良ければ、かぐや姫のお話しを聞かせてもらえないでしょうか?」

 

「構いません!構いません!では、どうぞこちらへ」

 

 

 造の案内で、零夜は造の跡を着いて行った。

 

 

「――――」

 

「ッ、どうしたんですか?」

 

 

 跡を追おうとしたシロが、陰陽師の男に問いかける。

 男は、どこか唖然としているというか、心ここに在らずといった状態だった。

 

 

「あ、いや、初めて会った時と、今の態度が全く違っていて…」

 

「あぁ、実はここだけの話なんだけど、彼は鎧をつけてる時と付けてないときじゃ性格が変わる特殊な体質なんだよね」

 

「そ、そうなのか…」

 

 

 どうやら、男はダークカブと零夜の態度のギャップに困惑を示していたようだ。

 だが、シロの咄嗟の詭弁によって、事なきを得た。

 

 

「それでは、あなたも着いてきてくれ」

 

「はーい」

 

 

 そう言って、シロは男の跡をついていった。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

「それでですね、外の様子で分かるよう、かぐや姫は大層可愛らしくて貴族の方々が求婚をし続けているんですよ」

 

「なるほど。噂ではかぐや姫は絶世の美女。貴族たちが見初めても全くおかしくないということですね」

 

「そうなんですよ!実はですね、あれでもかなり減った方なのです!当初はあれの3倍はおりましたよ!」

 

「3倍!そんなにいたのですか!」

 

「えぇ!当初の状況を見ていた儂からすれば、あれでもかなり減った方なのですよ」

 

「あれでですか…」

 

 

「「―――――」」

 

 

 場所は、造の部屋。

 有力者らしく、とても豪華な部屋で、そこら辺の貴族の部屋に引きを取らないのではないかと思うほどの部屋だ。

 その部屋で、零夜と造は対面になってかぐや姫の話で盛り上がっていた、そして、その様子を無言で見続けるシロと、陰陽師の男。

 

 

(良く、ここまで話を咲かせられるな…。これは流石の僕でも無理だ)

 

(造さまに危険が及ぶかもしれないと思ってはいたが…杞憂だったようだ)

 

「何故かぐや姫は誰とも結婚しようと考えないのでしょうか?」

 

「それは儂にも分からぬのです。かぐや姫には、一人の女として幸せになって欲しいのですが…。一体、なにが駄目なのやら」

 

(そりゃあ月に帰る予定があるんだから当たり前だよね)

 

「かぐや姫の考えは、かぐや姫にしか分かりません。全てを彼女の考えに(ゆだ)ねるべきでは?」

 

「できればそうしたいのですが、儂も年です。かぐや姫の花嫁姿を見たいもので…」

 

 

 子供がいない老人夫婦だからこそ、娘の花嫁姿を見たいという観望があるのだろう。

 だが、この物語の結末を知っている二人からすれば、それは叶わぬ願いだと分かっている。

 

 

「その願い、叶うといいですね。――ところで、お話しを戻しますが、外にいる貴族たちは、まだかぐや姫を娶ることを諦めきれていない方々たちなのですか?」

 

「そうですね。ですが、一ヶ月も過ぎるとようやく人数が減ったと認識できるほどの速さですかね」

 

「なるほど…。そうですか…」

 

「ところで、儂も聞きたいのですが、あなた方はかぐや姫をどう娶るおつもりで?」

 

「―――というと?」

 

「かぐや姫は、今までどんな財宝にも目が暮れず、求婚を断り続けてきました。詰まるところ、かぐや姫は金銭などにはつられません。だからこそ、あなた方がかぐや姫にどう求婚をするおつもりか、聞きたいのです」

 

「ご安心ください。俺たちの目的は、かぐや姫を娶ることではありませんので」

 

「「―――えッ?」」

 

 

 造と陰陽師の男が、素っ頓狂な声を上げる。

 かぐや姫に会いにくる男など、すべて求婚してかぐや姫を娶る以外の理由などなかった。

 だからこその疑問だ。

 

 

「ならば、一体なにをしにかぐや姫に…?」

 

「お願い、ですよ」

 

「お願い…?」

 

「かぐや姫にお願いがあって来ました。俺たちは、かぐや姫にそのお願いをするために来たのです」

 

「お願い……それはちなみに、どんな…?」

 

「残念ですが、それはお答えできません。ですが、彼女にとって、不利益ではないお願いというのだけは、お約束いたしましょう」

 

「は、はぁ……」

 

 

 流石の造も、理解はできても納得はできないようだ。

 不利益ではないお願いと言われても、その内容が分からなければ、納得などできるはずがない。当然の反応であった。

 

 しばらくの沈黙が流れ―――。

 

 

「造様、失礼します」

 

 

 扉の奥から、一人の男の声が聞こえた。

 造が「構わん」と、答えると、男が入室してくる。

 

 

「造様。朗報でございます。かぐや姫が、結婚の意を示しました」

 

「それは(まこと)か!?」

 

 

 造は勢い良く立ち上がる。

 かぐや姫が結婚の意を示した。それは、造にとってはまたとない朗報であった。

 

 

「ついに、かぐや姫が…!」

 

「よかったですね、造さん」

 

「あぁ、本当に……!」

 

 

 あぁ、本当に良かった。ついにこの時が来た、二人は心の奥底で微笑む。

 かぐや姫が結婚の意を示したーーー。つまり、今かぐや姫のいる部屋には、五人の男がいるはずだ。

 

 『竹取物語』の重要人物の、五名が。

 

 

「もし良ければ、お二人も見ていきますか?」

 

「ありがとうございます。是非」

 

 

 そういい、二人は立ち上がり、造の跡を着いていく。

 

 

「かぐや姫、入るよ」

 

 

 造が入室して、二人も入室する。

 そして、そこには、五人の貴族と―――絶世の美女が、いた。

 

 誰もが見惚れるような可愛らしい顔に、ストレートで、腰より長いほどの黒髪を持った美女だ。

 前髪は眉を覆う程度の長さの姫カット*1

 

 服装は上衣がピンクで、大き目の白いリボンが胸元にあしらわれており、服の前を留めるのも複数の小さな白いリボンが使用されている。

 袖は手を隠すほどの長さと幅があり、左袖には月とそれを隠す雲が、右袖には月と山が黄色で描かれている。また、ピンクの上衣の下にもう一枚白い服を重ね着している。

 腰から下は、赤い生地に月・桜・竹・紅葉・梅の模様が金色で描かれているスカートと、その下に白いスカート、更にその下に半透明のスカートを三重に穿いている。

 スカートは非常に長く、地面に付いてなお横に広がるほどだ。

 

―――彼女こそが、かぐや姫こと、蓬莱山輝夜だ。

 二人は、直感ではなく、確信した。

 

 何故なら、あの忌々しい未来で、彼女とは一度対面している。

 そしてなにより、その未来を変えるために、今自分達はこの場にいる。

 

 五人の貴族は入室してきた造―――ではなく、その後に入って来た零夜とシロを見て、奇怪な目で見てくる。

 大方、何故あんなみすぼらしい者がここにいるのか、と言うことでも思っているのだろう。

 

 

「あら、お爺様…。その方々たちは?」

 

 

 案の定と言うべきか、叔父が連れてきた男二人組が、かぐや姫の目に入った。

 かぐや姫の喋り方は、一言で言えば華奢。それも、綺麗な美声が合わさって、聞き惚れる声だ。

 造はかぐや姫の質問に答えるために、手を零夜の方に向けた。

 

 

「この方は、前に話した儂の命を救ってくれた方だよ」

 

「―――。まぁ…。貴方様が、お爺様の命を救ってくださったのですね。ありがとうございます」

 

「いえいえ、たまたま通りすがっただけですので…」

 

 

 警戒しているのだろう。かぐや姫は自分の叔父を救った恩人だと知るや否や、最初だけ含みの部分があった。

 と、いうことは、『合言葉』はかぐや姫にも伝わっていると言うことになる。

 それを知った二人は内心でほほ笑み、零夜は謙虚な姿勢をしながら、頭を下げる。

 

 

「それで、そちらの方は…?」

 

 

 かぐや姫は次に、シロの方を向いた。

 黒服の男性が叔父の命を救ったと言うのなら、この白服の男性は一体何者なのだろうかと言う考えだろう。

 その質問に答えるため――シロは、声を発した。

 

 

「こんにちは、かぐや姫。僕の名前はシロ。彼の仲間です」

 

「「―――ッ!!?」」

 

 

 シロは、綺麗な女性の声を発した。

 その様子を見て、先ほどまで男性の声を発していたことを知っている造と陰陽師の男は驚愕の表情でシロを見た。

 五人の貴族は、何故ここに女性が?と言う表情をしている。確かに、シロの姿では性別を判断することは不可能だ。唯一の判断材料は、声のみ。

 だが、その声を変える性質(せいしつ)が、さらに混乱を引き起こすのが、シロの性質(たち)の悪いところだ。

 

 

「綺麗なお声なのですね」

 

「ありがとうございます。ですが、かぐや姫の方が、お綺麗ですよ。僕はそう思います」

 

「謙虚なのですね。あなたの声も十分可愛らしいですよ。それにしても…女性なのに、一人称が私ではないのですね。そのような方は、初めて見ました…」

 

「―――かぐや姫。何を勘違いされているのかわかりませんが、僕は男ですよ?」

 

 

「―――え?」

 

「「「「「―――は?」」」」」

 

 

 始めて、かぐや姫の健美な表情が崩れた。

 そして、それは今まで傍観を決め込んでいた五人の貴族も同じ。

 

 声は完全に女。だけど、性別は男。この究極の矛盾が、彼らの脳に混乱をきたした。

 これは、シロの弄りだ。他人の精神を弄ぶ、一種の遊び。

 

 

「お、お冗談がお上手なのですね…」

 

「いえ、僕はかなり本気で言っていますよ?」

 

「―――そ、そうですか…。分かりました。ずっと立っていると、お疲れでしょう。お座りになってください」

 

「「ありがとうございます」」

 

 

 二人の声がハモり、造が正座をすると、二人も正座をする。そして、その隣に陰陽師の男が座る。

 

 

「それでは、お話の続きをします。私はこの度、この五名にある『課題』を出し、その『課題』を見事成功した方と、結婚することと致しました」

 

「して、その『課題』とは…?」

 

 

 貴族の男の一人が問う。

 

 

「これから、私があなた方にある宝を一つずつ指定します。そして、指定した宝を持ってきた者と結婚いたします」

 

 

 その『課題』を聞いた五人の貴族が、「おぉ…!」と声を漏らす。

 彼らは、かぐや姫との結婚を諦めきれなかった男たちだ。ついに自分達の前に垂れ下がって来た糸、取らない手はない。

 かぐや姫は、次々に『課題』の内容を上げていく。

 

 

大納言(だいなごん)大伴御行(おおとものみゆき)様」

 

「はッ」

 

「あなたには『龍の(くび)の玉』を取ってきてもらいます」

 

「畏まりました」

 

 

―――『龍の頸の玉』

 龍の首元にあるとされる、五色に光る宝玉だ。

 だが、龍が普通の人間に倒せる訳もない。言うなればこれは無理難題だ。

 

 

石作皇子(いしづくりのみこ)様」

 

「はッ」

 

「あなたには『仏の御石の鉢』を取ってきてもらいます」

 

「畏まりました」

 

 

―――『仏の御石(みいし)の鉢』

 ブッダが悟りを開いた際に、四天王が持参した4つの鉢を、ブッダが合体させて一つの鉢とし、終生用いたという宝だ。

 4リットル程の大きさの、鍋サイズの光を放つ黒中心の配色の鉢だ。

 だが、これは世界に一つしかない物のため、本物を取ってくることはまず不可能だろう。

 

 

右大臣(うだいじん)阿倍御主人(あべのみうし)様。

 

「はッ」

 

「あなたには『火鼠の皮衣』を取ってきてもらいます」

 

「畏まりました」

 

 

―――『火鼠の皮衣』

 その名の通り、火鼠と言う、南方の果て(中国)の火山にある決して燃え尽きない木の中に住むという幻獣の皮衣を指している。

 場所が場所なため、その場所に赴くことすらまず不可能だろう。

 

 

「次に仲納言(ちゅうなごん)石上麻呂(いそのかみのまろ)様」

 

「はッ」

 

「あなたには『(ツバメ)子安貝(こやすがい)』を取ってきてもらいます」

 

「畏まりました」

 

 

―――『(ツバメ)の子安貝』

 燕が卵を産む時に体内に現れて、タマゴと同時に生む事があると言われている子安貝。子安貝とは、タカラガイのことを表しており、当然、この貝は海から採れるため、ツバメから採れるはずがない。

 

 

「そして――最後に、車持皇子(くらもちのみこ)

 

「はッ」

 

「あなたには『蓬莱の玉の枝』を取ってきてもらいます」

 

「畏まりました」

 

 

―――『蓬莱の玉の枝』

 七色の実をつけた木の枝のことを言う。

 月の都にしか本来存在しない植物である『優曇華の木』が、地上に蔓延る穢れを栄養として成長し、美しい七色の実を付けた物だ。

 

 しかし、その性質上、地上に持ってくると蔓延る穢れの為に早く成長するため、地上の権力者に与えると、権力者が権力を持っていればいるほど穢れを持つのでその玉は権力の象徴となっている。

 

 その性質を利用し、月の使者が権力者に与えて争いを起こさせ、それによる地上の発展と歴史の創造を促す為にも使われている。

 

 すなわち、一応地上には存在しているが、取ってくるのは至難の業なのだ。

 

 そして――、

 

 

(車持皇子…!藤原不比等(ふひと)…!)

 

 

 この男こそが、藤原不比等

 竹取物語の重要人物にして―――藤原妹紅の、父親。

 

 

(実の娘を(ないがし)ろにして、自分は新しい女かよ)

 

「それでは、各々の健闘を、お祈り申し上げま「待ってください」――どうされましたか?」

 

 

 一人、声を上げたものがいた。――シロだ。

 シロに、全員の視線が集まった。

 

 

「せっかくですので、その『課題』…。僕たちもやらせてください」

 

「何を言うか!これは我らの問題、部外者が出しゃばってくるな!」

 

 

 シロの言葉に、車持皇子――不比等が声を荒げた。

 彼としては、ライバルが増えることを懸念しているのだろう。それに、この『課題』はかぐや姫への愛を捨てなかった自分達五人の特権だと考えているのかもしれない。

 

 

「―――構いません」

 

「かぐや姫!?」

 

「あなたは、お爺様の命を救ってくださった言わば恩人…。それでは、あなたには――」

 

「あぁ、それには及びません」

 

「――?」

 

 

 かぐや姫が、首を傾げる。

 『課題』を受けると言っているのに、『課題』が必要ないと言う矛盾がここで発生していた。

 シロは、一呼吸置くと、発言した。

 

 

「――今、あなたが提示した五つの宝物。それを全部取ってきましょう」

 

 

「「「「「「「――――ッ!!!」」」」」」」

 

 

 零夜を除いた、この部屋にいる人物たちに、動揺が走る。

 「五つの宝物すべてを手に入れる」。つまり、五人の貴族に喧嘩を売り、共通の敵となったのだ。

 

 つまり―――『宣戦布告』

 

 

「い、五つ、全て、ですか…?そんなことせずとも、私の『課題』である一つの宝物を取ってきてくれれば――」

 

「心配いりません。しかし、あなたが私を心配してくれていると言うことは伝わりました。ですが、本当に問題ありません。――前金として、これをあなたに献上しましょう」

 

 

 シロは、懐に手を入れ、ある物を取り出した。

 瞬間、部屋が七色の光に包まれる。あまりの光量に、シロと零夜を除いた全員が目をつむったり、袖で目を隠したりした。

 

 

「そ、それは…!」

 

「えぇ、ご察しの通り―――蓬莱の玉の枝でございます」

 

「な…ッ!?」

 

 

 全員から、驚愕の声が漏れる。

 そして何より、動揺が一番大きかったのは不比等だ。自分の出された『課題』の宝を、すでに持っていたことへの、驚きだ。

 

 

「この輝きは…、まごうことなき本物…!」

 

「最高品質のものを取ってきました。どうぞ、お納めください」

 

 

 シロは立ち上がって、造の所にまで移動し、造に『蓬莱の玉の枝』を手渡すと、造の手からかぐや姫に手渡った。

 

 

「まさか、ここまでの輝きを放っているなんて…」

 

「通常の品質では、そこまで輝きません。最高の品質であるが故の輝きです」

 

「―――分かりました。あなたには、残る四つ。『龍の頸の玉』『仏の御石の鉢』『火鼠の皮衣』『燕の子安貝』を取ってきてもらいます」

 

「畏まりました」

 

 

 立ったままお辞儀をし、シロは不比等の方を見る。

 案の定と言うべきか、不比等は忌々しそうにシロの方を見ていた。

 

 それを見たシロは、不比等に体を向けて―――。

 

 

「安心してください、車持皇子さま。蓬莱の玉の木はこの世にたった一つ―――などではありません。複数存在します。僕が献上した枝は、その木のたった一部分でしかないのですから」

 

「――――」

 

「それに、あなたの条件は『蓬莱の玉の枝』のみ。対して僕はあと四つ。差は歴然です。なので、焦る必要など微塵もございませんよ?」

 

「……貴殿の、言う通りだ」

 

 

 不比等が、叱責を混ぜた言葉でそう言った。

 

 

「それに、かぐや姫の約束がなくなったわけでもなく、あなたはあなたで『蓬莱の玉の枝』を取ってくれば良いのです。品質など、関係ありませんよね?ただ、()()であれば良いのですから。そうですよね、かぐや姫?」

 

「確かに。品質などは関係ありません。私は、ただその『宝』を取ってきてください、としか言っておりませんので」

 

「ご説明ありがとうございます。では、僕はこれで」

 

 

 そう言い残し、シロは零夜の隣に再び正座した。

 そこで零夜は、さっきから気になっていたことを、小声でシロに問う。

 

 

「―――おいシロ、お前いつからあんなもの持ってたんだよ?」

 

「月に襲撃をかける際、言ったでしょ?盗りたいものがあるって」

 

 

 そう言えば、言っていた。

 取りたいものがある、そう言ってその後に別れたが、まさか蓬莱の玉の木を取っていたなんて、思いもしなかった。

 こういうところは、本当にちゃっかりしていた。

 

 

「まさかこの時のためにそれを取っていたなんてな…」

 

「まぁ、結果的にはいいでしょ?藤原不比等にも、精神的ダメージを与えることができたし、万々歳だ」

 

 

 零夜が不比等の方向を見ると、相変わらず悔しそうな顔をしていた。

 シロの『本物』がかなり大きなダメージを喰らわしたのだ。

 

 竹取物語で、彼だけが五人の中で唯一偽物を意図的に作って、それを『本物』だと偽って渡した。騙せるところまで騙せたが、鍛冶職人の介入によって、計画が失敗してしまうが、この場合ではそれ以前の問題だ。

 最高品質の『本物』がある。それはつまり、偽物だと見破られる可能性が高くなると言うことだ。

 

 もし誤魔化せても、最高品質の平凡な品質の『本物(偽物)』。

 どちらが反応が大きいかは、歴然だ。

 

 

「―――ところで、黒服のあなたは、どういたしますか?」

 

「勿論、お受けいたします」

 

 

 ついに、零夜の番が来た。

 かぐや姫は、零夜にどのような『課題』を出そうか迷っている姿勢を見せる。

 しばらく考え込んだようで、ついにかぐや姫は口を開いた。

 

 

「ちなみに聞きますが、あなたは力に自身がありますか?」

 

「えぇ、少なくとも、一般人以上はあると思っております」

 

「ふふ、謙虚なのですね。 それでは、あなたにはある妖怪の討伐と、それを証明できるものを持ってきて貰います」

 

「とある、妖怪…?」

 

「はい。噂では、その妖怪は認識できないほどの速さを用いて、武器である刀で攻撃をすると聞いております」

 

「刀を使う、妖怪…」

 

 

 刀を使う妖怪。つまり武器を扱うほどの知性があると言うことだ。

 大抵の妖怪は知性がなく本能で襲い掛かって来るが、知性がある妖怪は何かと厄介だ。数多の戦術を用いて攻撃し、引き際の時は引く。

 そういった知性を持ち合わせた妖怪ほど、煩わしいものはない。

 

 

(刀を使う妖怪か。なんだか、あいつを思い出すな……)

 

 

 思い出すは、『春雪異変』。

 幽々子を倒した際に、突如現れた金髪の剣士。フィフティーンとして闘い、負けた。ライダーとして初めて負けたあの闘いは、今だ忘れていない。

 あの剣士が何者なのかはまだ分かっていないが、当分は会うことはないだろうと―――、

 

 

 

「その妖怪の名前はレイラ。この妖怪を、討伐してきてください」

 

 

「――――」

 

 

 

―――そう、思っていた。

 

 

 

 

*1
前髪を分厚くまっすぐに切りそろえ、サイドの髪の部分を顎にあたる長さで切りそろえた髪型




 久しぶりに登場した、レイラ(名前だけ)。
 さて次回、どうなるか!

 シロの今回の声 【保志総一朗】➡【金元寿子】

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