東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 今回少し話の構成が杜撰です。
 暖かい目で見てください。

 あと、感想募集してます。


47 情報収集

「まさか、【レイラ】の名がでてくるとはな…」

 

「そうだね。僕も驚いた」

 

 

 シロの宣戦布告と、かぐや姫が零夜に出した『課題』を聞かされ、(みやつこ)邸から離れて数分。

 二人は都にある団子屋の長椅子に座って団子を食べていた。

 

 定型的な団子である三色団子を頬張り、食す。

 

 

「レイラがこの時代にいるってことはよ、少なくともこの時代でレイラは生きていることになるよな?」

 

「そうだね。僕らが知っているレイラだというなら、そういうことになる」

 

 

 シロが男性の声でそう答える。

 最初に、刀を使う妖怪と言う部分から合致している。気になる部分があるとすれば『認知できない程の速度』と言う部分だが、それは彼女が人外であることが何よりの理由となる。

 

 未来でレイラと戦っていた際、レイラは自分の使う力が『妖力』であると語っていた。

 つまり、生前彼女の種族が『妖怪』であることに他ならない。

 

 

「だが、情報はこれだけなのか?もう少し確証が欲しいところだよな」

 

「確かに。同名の別人、だったとしたら恥ずかしいし」

 

 

 この後に及んで同名の別人などはないと思うが、念のためだ。

 それに、情報はたくさんあった方が良い。

 

 まずは、第一として、最も身近なこの時代を生きていた者に聞く。

 

 零夜は『繋ぎ離す程度の能力(権能)』を使う。自分の『力』の正式名称は『権能』かもしれないが、『能力』の方が使い慣れているしなにより、まだ『権能』の実体が判明していない以上、『権能』という名称を使わないようにしているのだ。

 

―――話を戻し、零夜は自身の『影』に潜む存在(ルーミア)と、『思考』を繋いだ

 

 

 

(―――ルーミア)

 

(ふえッ!れ、零夜!?頭の中から零夜の声が)

 

(良く聞け。これは空耳じゃない。俺の『能力』で俺とお前の『思考』をリンクしたんだ)

 

(りんく?)

 

(あー…つまりは、『思考』が繋がったってことだ)

 

(なるほど!で、どうしたの?)

 

(かぐや姫との話は聞いてたか?)

 

(もちろん!シロに恥かかされたあの子の親の顔、今でも忘れられないわ!)

 

 

 どうやら、不比等の悔し顔はルーミアにも印象に残ったらしく、今でもその余韻に浸っていたようだ。

 が、聞きたいのはそれではない。

 

 

(レイラについてだ。この時代のこと、思い出してきたんなら、レイラの名前を聞いたことはないか?)

 

(あー……ごめん。このとき私、ここら辺にいなかったし。別の場所で『食事』してたから、レイラの名前は聞いたことないのよね)

 

(そうか。分かった。またしばらく影の中で潜んでいてくれ)

 

(分かった。でも、零夜!その団子、私も食べたい!)

 

(―――都の外で食わせてやる)

 

(やったー!)

 

 

 ここで、ルーミアとの会話を、『能力』での繋がりを断ち斬る。

 ルーミアはこの時代ではこの地にはいなかった―――つまり、現代風に言えば別の『県』にいると言うことになる。

 ルーミアからは、有力な情報は得られなさそうだ。

 

 

「どうだった?」

 

「駄目だ。収穫なし」

 

「と、すると、都で情報収集するしかないね」

 

「そうだな。それじゃ、そろそろ行くか。すみませーん!勘定と一緒にもう二個団子ください!お代は一緒で!」

 

「はーい」

 

 

 若い女性の声が店の方から聞こえてくる。

 少し経って、声の通りの若い女性が店から出てきた。

 

 シロが懐に手を入れ、この時代の金銭を女性に手渡した。

 

 

「はいお代」

 

「はい。ちょうどいただきました。お団子はもう少しお待ちください」

 

 

 そういい、女性は再び店内に戻っていく。

 

 

「二つ?どうして二つも……あぁ、そういうことか」

 

 

 シロが疑問を示したが、すぐに察したようだ。

 この二つの団子は、ルーミアと妹紅に渡す予定だ。

 

 

「そういうことだ。……ところで、気になっていたんだが、よくこの時代の金銭なんて持ってたな」

 

「旧友がいてね。貰ってきた」

 

「え、旧友?お前に友達なんていたのか「さぁそれじゃあ情報収集に行こう!」

 

 

 零夜の話を遮り、シロは我先へと走っていった。

 

 

「あ、おいちょ、待てって!」

 

 

 零夜もすぐに追いかけたいところだが、団子を注文している以上、ここからすぐに動けなかった。

 

 

「―――にしても、まさかあいつにこの世界の友達がいたなんてな…正直以外だった…」

 

 

 シロの「友達いますよ宣言」に驚愕しながら零夜は、団子が出来るまでの間、ずっとそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

「あぁー!私の『思い出コレクション』の『金銭:奈良Ver』が一袋ない!シロの奴、奈良時代に行く前にちゃっかり盗んでいったなぁぁああああ!!」

 

「どうしましたかヘカーティア様!?」

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

「―――で、ここはなんだ?」

 

「都の陰陽師が集まってる場所だね」

 

 

 前略。零夜とシロ。二人は、バカでかい建物の前に佇んでいた。

 何故こんな場所に来たのか、理由は一つ。情報収集だ。

 

 二人の目の前には、たくさんの陰陽師たちが建物の中を出入りしていた。

 

 

「それは分かってる。俺が聞きたいのは、ココは何なんだってことだ」

 

「だから言ったでしょ。ここは陰陽師が集まる場所。妖怪退治の依頼を受ける場所だね。そして一般人は、ここに依頼を提出する」

 

 

 ここは、陰陽師が仕事を受ける際に必ず訪れる場所――つまるところ、陰陽師たちを統べる組織とでも言えば良いだろうか?

 もっと分かりやすく、異世界ファンタジー風に言えば『冒険者ギルド』的な場所だ。

 

 

「異世界ファンタジーで言う、『冒険者ギルド』的な場所か…。まさかこの時代にそんな制度があったとはな」

 

「陰陽師もたくさんいるからね。それらをすべて管理することは出来なくても、統率する組織があっても別におかしくはない」

 

「確かに。『陰陽師ギルド』って感じだな。ここって正式名称はあるのか?」

 

「『陰陽師連合組合』ってところらしいね」

 

「組合か…。だけど、俺達の場合はギルド呼びの方がしっくりくるな」

 

「それは現代日本人の(さが)かもね…。とりあえず、入ろうか」

 

 

 二人は呼称:『陰陽師ギルド』に入る。

 入った瞬間、建物に近づくにつれ、二人を見る視線が多くなっていく。

 

 やはり、顔を隠している怪しい二人組が入ってきたら、当然警戒はするだろう。

 

 

「目立ってるね、僕ら」

 

「目立ちたく、ないんだがな…」

 

 

 恰好状、陰陽師でないものがここにいるだけでも十分目立つ。

 零夜は愚痴りながらも、真っ直ぐ進んでいき、受付の方まで歩く。

 

 

「ちょっといいかな?」

 

「――なんでしょうか?」

 

 

 零夜は受付の男性に声をかける。

 当然のことながら、怪しい恰好をしている二人組を見て警戒している。

 

 

「実は、調べたい情報があるんだが、大丈夫か?」

 

「調べたい情報?内容にも寄りますが…」

 

「【レイラ】。この妖怪について知りたい。なにか情報ないか?」

 

「―――ッ!」

 

 

 レイラの名前を言うと、男性は驚いた表情を見せる。

 しばらく目の前の二人を見つめ、なにかを呟き始めた。

 

 

「もしや、この二人が…!しょ、少々お待ちください。今その書類を持ってきますので…」

 

 

 受付の男性はそそくさとドアの奥へと消えていき、沈黙が流れる。

 二人は邪魔になると思い、近くにあった椅子へと座る。 

 

 

「「――――」」

 

 

 3分。男が消えてから3分経った。しかし、まだ来ない。

 本当に書類を取りに行っているのだろうか?いくらなんでもそれだけでは長すぎる。

 

 

「なぁ、今書類持ってくるって言ったが、それで済むと思うか?」

 

「全然」

 

 

 二人の意見が合致する。

 この場が異世界ファンタジー定番の『ギルド』だと思えば、考察は楽だ。

 テンプレで考えろ。異世界ファンタジーで『ギルド』のテンプレと言えばなんだ?答えは決まっている。

 

 そのとき、受付の男性が、息を切らして現れて、二人にこういった。

 

 

「組合長が貴方達を呼んでおられます。どうか、来てくれませんか?」

 

 

―――答えは、『偉い人に呼び出される』だ。しかもテンプレ通りの組合長。異世界ファンタジー風に言えば『ギルドマスター』だ。

 二人は了承し、男についていく。階段を何回も上がっていき、5階。その一室に入る。

 

 部屋に入ると、そこには30代後半の中年が、奥の机に座っていた。

 とても貫禄のある顔で、一言で言えば強面の男だ。

 

 

「そっちに座ってくれ」

 

「それじゃ、失礼して」

 

 

 二人は、組合長と対面になるように座った。

 その境目にある長机には、三つのお茶が。

 

 

「構わず、飲んでくれ」

 

 

 組合長の男はそういうも、零夜は手を付けない。

 一番の理由は、『毒』だ。毒を仕込まれている可能性を、否定できない。出されたのだから、飲まないといけないだろうが、どうしても不審に思ってしまう。

 零夜には回復をする(すべ)がない。だから、一回でも口をつけてしまえば終わりなのだ。

 

 

「―――ッ、ゴクッ」

 

 

 シロが、飲んだ。躊躇いもなく飲んだ。

 一気飲みしたシロは、茶碗を机に置き、小さなゲップをする。

 

 

「大丈夫。普通のお茶」

 

「そうか。なら飲めるな」

 

 

 零夜もお茶に手をかけ、ゆっくりと飲み干した。

 茶碗を置いたあと、男は微笑する。

 

 

「毒でも入っていると思ったか?」

 

「「ああ」」

 

 

 二人の即答に組合長は苦笑した。

 

 

「初対面の人間を信用しないことは当然だ」

 

「当たり前だね」

 

「い、言うなお前たち…。ま、まぁいいんだ。それで、本題に入っていいか?」

 

「構わない」

 

「それで、本題なんだが……、かぐや姫のことだ」

 

「かぐや姫?確かに言ったが…それがどうかしたか?」

 

「どうしたもこうしたもあるか。『白いの』。お前、貴族様に宣戦布告したらしいじゃないか」

 

「あー…」

 

 

 この男が二人を呼び出した理由が分かった。それは、五人の貴族とのいざこざが原因だった。

 異世界ファンタジーでも、貴族の権力が凄まじい。そんな貴族に、しかも五人に喧嘩を売ったとなれば、その人間の人生はどん底に落ちたも同然だ。

 

 

「なるほど。その実体を聞きたくて、俺らを呼んだってことか」

 

「そういうことだ」

 

「それにしても、情報が早くないかな?この話、たったさっきの話だよ?」

 

 

 シロがそういう。確かに、この話題などたった一時間もしないほど前の話だ。

 情報の伝達が、あまりにも速すぎる。

 

 

「それは秘密だ。にしても、『貴族に喧嘩を売った』などどんな冗談だと最初は思った」

 

「あ~…」

 

 

 貴族に喧嘩を売るなど、よほどの命知らずかバカだけだ。

 組合長は、それを知るために二人をここに呼んだのかもしれない。

 

 

「貴族共のことなんてどうでもいいよ。それより、【レイラ】について知りたいんだけど?」

 

「どうでもいい、か…。とんでもないこと言うな。レイラの情報、教えてもいいんだが…その『課題』は、 『黒いの』の方のじゃなかったか?」

 

「あぁ、確かにそうだよ。だけど、なにも焦る必要なんてないし、しばらくはこっちの方を一緒にやった方が暇つぶしにもなっていい」

 

「なにを根拠にそんな余裕を持っているんだ?恋敵の手伝いをするなど、愚鈍にもほどがあるぞ」

 

 

 組合長は、勘違いをしていた。

 かぐや姫に近寄る男など、全員がかぐや姫を妻にしたいと言う男しかいないと。しかし、その認識は当たってはいるのだ。

 この時代には、そういう男しかいない。しかし、『この時代』の人間ではない零夜とシロには、それは該当しなかった。

 

 

「恋敵?何を勘違いしているかは知らないが、俺達の目的は求婚じゃない」

 

「なんだと?ではなんなんだ?」

 

「それは秘密。だけど、これだけは言える。僕たちの目的は求婚じゃないから、一緒に行動できるんだ」

 

「納得は出来ないだろうが、理解はしてくれ。その方が手っ取り早い」

 

「―――そうだな。それで、もう一つ。これが本命なんだが……『黒いの』」

 

「俺か?」

 

 

 組合長は次に零夜を指名した。

 “ようやく俺の番が来たか”と零夜は心の中で苦笑する。

 ここに来た目的は『レイラ』の情報を得るためだ。同名の別人である可能性を考えてのこと。

 話が今まで脱線していたが、ついにこの話にこぎつけることができた。

 

―――と、そのときまでは思っていた。

 

 

「――お前の影に隠れている妖怪について聞きたい」

 

「「――ッ」」

 

『え、私!?』

 

 

 零夜の影に隠れている妖怪。それは間違いない、ルーミアだ。

 どういうことなのだろうか?零夜の式神となってから力は極力抑えて引っ込めていた。

 検問の際だって、兵士たちは気付くことはなかった。それなのに、目の前の男には気づかれた。

 

 零夜は霊力をあえて放出して身構えた。

 

 

「落ち着け。別にどうこうしようと言うことではない」

 

「信用できるか。妖怪に対して差別を持っているお前等(人間)が、なにもしないなんてことはありえない」

 

「いや、本当に何もしない。ただ、私が確認したいことは、『黒いの』の式神であるか否かだ。ただ、今の反応を見るに、その妖怪の存在は始めから知っていたようだな」

 

「くッ」

 

 

 零夜は悪態をつく。

 やられた。カマをかけられた。完全な早とちりで、自分が式神の存在を隠していたことがバレた。

 

 

「それに、『黒いの』が存在を知っているといいうことは分かった。それで、それはお前の式神なのか?」

 

「あぁ、そうだ。俺の式神だ。……どうして分かった?」

 

「このくらい分からなければ、組合長などと言う地位には就いていない。私は生まれつき『霊力』や『妖力』などと言った力の波動に敏感なんだ」

 

 

 しくじった。まさかこういう人種がいたとは――いや、いてもおかしくはない。

 こういうものは、生まれつきの才能だ。生まれつきのものは、良し悪しもあり、良しが目の前の男で、悪しが妹紅だ。

 こういったところから、やはり幸せかどうかが決まってしまうのだろう。

 

 

(―――そう考えると、世も末だな)

 

「式神を手に入れたのであれば、管理するために手続きをしなければならない。あとでいいが、ちゃんと手続きをしてくれ」

 

「……ちなみに、やらない、と言ったら?」

 

「規定違反で即御用だろうな」

 

「―――そうか、分かった。あとでやる」

 

 

 バレた以上、隠し通すことは不可能だ。

 だからもう、肯定するしかない。

 

 

「それじゃあ組合長。この話はもう終わりでいいかな?」

 

「構わない。それで、お前たちはレイラに関する情報を知るためにここに来たんだったな」

 

「そうだ。で、あるか?」

 

「もちろんあるとも。と、言っても、詳しいことは取り扱っていないがな」

 

「――? どういうことだ?」

 

「言葉通りさ。レイラに関する情報が少なすぎるんだ。だから、別にタダで答えられる」

 

 

 組合長ほどの男がそういうのだから、実際にレイラに関する情報が少ないのだろう。

 無論、この男が嘘をついている可能性はあるのだが―――。

 

 零夜はシロの方を見る。

 シロは、片手をグットの形にする。

 

 

「―――。じゃあ、教えてくれ」

 

 

 男はレイラについて知っている限りのことを(こた)えた。

 

・長髪で金髪の妖怪

・服装は胸にサラシを巻き付け、赤い法被(ハッピ)を着用。下は見たこともない服。

・刀を武器として使っている

・人智を超えた速度を用いて斬りかかってくる

 

 以上だ。

 なんとも少ない。本当に少なすぎる。

 

 

「本当にこれだけなのか?」

 

「あぁ、これだけだ。もっと詳しいことを知っているならば、その対価としてお前たちに何かしらを要求した」

 

 

 理には適っている。

 確かに、こんな金魚の糞程度の情報、公開しても別に問題ない。逆に、その程度の情報しかないと言うのが、残念だった。

 

 零夜はシロを見る。

 再びグットのポーズをしているため、この男は別に嘘をついているわけではない。

 

 

「まさか、組合でもこの程度の情報しか集まっていないとはな。なんでなんだ?」

 

「情報提供者が少ないのが主な原因だな。この四つは、様々な情報の中から共通しているものだけなんだ」

 

「って、ことは、共通していないものもあると」

 

「そうだなぁ」

 

 

 これ以上、ここにいてもレイラに関する情報は入手できそうにない。

 だが、分かったことが一つある。それは、『レイラ』が零夜たちの知っているレイラだと言うことだ。

 

 

「分かった。じゃあ次に、レイラはなにをやったんだ?」

 

 

 次に浮かんだ疑問が、これだ。

 かぐや姫の耳にすら入る妖怪と言うことは、なにか重大なことをやらかしたに違いないと、零夜たちは踏んでいる。

 大虐殺でも行ったのだろうかと、思ったほどだ。

 

 

「別に、特に問題になるようなことはしていない」

 

「は?」

 

 

 問題になるようなことはしていない?

 ならば、なぜ討伐を命じられる必要がある?

 

 

「だったら、なんでわざわざ倒す必要がある?実害はないんだろ?」

 

「何を言っている。妖怪は殺す。それが力を持つ人間のやるべきことだろう」

 

 

 つまり、危険だから()す。組合長はそう言っているのだ。

 危険を排除する。それは、恐れるからだ。恐れるからこそ、その恐れをなくしたいがために、危険な可能性を持っている、もしくは秘めるものを全力で排除しようとする。それが、人間と言うもの。

 

 そして――それが、人間の浅はかで愚かな部分。

 

 

「……つまり、なんだ?俺の式神すら殺すっつー宣戦布告って受け取っていいのか…?」

 

「阿呆か。なにをどう受け取ったらそんな解釈が出来る。他人の大事な商売『道具』を、わざざわ壊すような無粋な真似、私はしない」

 

「――『道具』、ね…」

 

 

 今も、昔も、未来も、『怖いから排除』すると言う人間の思考は決して変わることはないだろう。

 ましてや、その『可能性』を、『命』を『道具』としてしか扱っていない部分が、彼は本質的に嫌いだ。全力で嫌悪する。

 

 今すぐに言いたい。『命』は『道具』じゃないと。

 だがしかし、『式神』を『道具』としてしか見ていない今の時代の人間にそんなことを言っても、無駄であることなど百の承知だ。

 だからこそ、今はぐっと堪える。

 

 

「……そうか、それなら、いいんだ。情報提供感謝する」

 

 

 零夜とシロは立ち上がり、組合長も立ち上がる。

 零夜がふすまの取っ手に手をかけた――瞬間。

 

 

「あぁ、そうだ。『白いの』」

 

「僕?」

 

「情報の一つに、【蓬莱の玉の枝】を所持していて、それをかぐや姫に献上したとあったが、(まこと)なのか?」

 

「そうだけど、それがどうかしたの?」

 

「これは私の妄想でしかないのだが、五人の貴族に宣戦布告をしたということは、貴族たちを敵に回した。これから、『白いの』に間者が来たとしてもおかしくはない。なにせ、五人の貴族共通の敵なのだからな。それに、【車持皇子】が『蓬莱の玉の枝』の在処(ありか)を吐かせるために君を攫おうとしても、おかしくはないだろう。これは、私の妄想に過ぎないがな」

 

「「――――」」

 

 

 これは、警告と忠告だ。

 シロはこの時代で有力者五人を敵に回した。この時代で貴族の権力は絶大だ。間者や暗殺者を送ってきたとしても、不自然ではない。

 しかし、ここまで来てしまった以上、後戻りはできない。

 それに、覚悟もなしにこんなことは、していない。

 

 

「ご忠告どうも。わざわざありがとうね。そして、悪いんだけど」

 

「――モゴッ!?」

 

 

 突如、シロの掌が組合長の顔を包み込んだ。同時に、顔に強烈な痛みが発生した。

 声を発そうにも、口が塞ぎこまれているため、声を出せない。

 

 

「モ、モゴゴッ!!?」

 

「悪いけど、ルーミアちゃんのことは知られるわけにはいかないんだ。だから、消えてくれ

 

 

 組合長の顔が、淡い水色の光に包まれ、声にならない悲鳴が響く。

 手で、足で、藻掻(もが)くが、シロの圧倒的な腕力が、抜け出すことを許さない。

 光が発生して3秒ほどで、組合長は藻掻くことをやめた。まるで、屍のようになった。

 

 

「――――」

 

 

 シロは組合長から手を放すと、組合長は立ち尽くしたまま、瞳に生気が宿っていない状態となっていた。

 

 

「おーい」

 

「……あ、え、うん?私は、一体、何を…?」

 

「何って、あなたは五人の貴族に喧嘩を売った僕に興味を持ち、ここへ連れて来て、そのついでで僕の仲間であるクロのためにあなたから『レイラ』の情報を聞いていたじゃないですか。それで、今あなたは僕たちを見送ろうとしている。そうですよね?」

 

「……あ、あぁ。そうだったな。急に呼び出してすまなかったな。ちなみに、あれは本当に私の妄想でしかないからな」

 

「分かってますって。それじゃあ、ありがとうございました」

 

「失礼する」

 

 

 零夜とシロは、ふすまを開けて部屋から退室した。

 

 

「―――はて、なにか大事な話をしていたような…。まぁ、気のせいか」

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 陰陽師組合の建物から立ち去り、門に向けて歩く二人。

 

 

「にしても、まさかルーミアの気配に気づくとは、流石は組合長ってことか」

 

「そうだね。まさかあんなところで『権能』を使うことになるとは思わなかった」

 

「それにしても、お前あんなこともできたんだな」

 

「記憶の消去のこと?簡単さ。僕の『権能』で記憶を抹消して、杜撰になった部分は都合の良いように補完して繋げる。言ってしまえば『捕食』『混合』『嘔吐』だね」

 

「なんで食事で例えてんだよ。しかも最後リバースしてるじゃねぇか」

 

「でも、あながち間違いじゃないからね」

 

「で、『捕食』と『嘔吐』はなんとなく分かるが、『混合』ってなんだ?」

 

「『混合』は、『捕食』した元の記憶と都合のいい記憶を胃の中で『混合』するって意味だよ」

 

「分かりにくッ!」

 

 

 何故食事で例えるのか分からないが、確かに記憶の抹消とは凄まじい『権能』だ。

 『捕食』で記憶の消去し、胃の中で『混合』する。そして、元に戻す『嘔吐』で例えているのだろう。

 非常に分かりにくいが、意味さえ分かれば確かになんとなく分かる。

 

 

「まぁこれも、僕の『権能』の応用なんだけどね…。昔、知人のアドバイスでこの方法を編み出したんだ」

 

「知人って……マジでお前の友人関係が分からん。まぁそれは今はいいとして、結局のところ『権能』ってマジでなんなんだよ…?」

 

「焦らなくて大丈夫。今のところ、今の君は覚醒途じょ―――」

 

「シロ?」

 

 

 シロが言葉を遮り、目の前を見据える。

 その異常性から、零夜も只事ではないと察知。そして、今この状況での、異常性と言えば――一つだけ。

 

 

「――追手、か?」

 

「そうだね。すでに何人も僕たちを見ている」

 

「こんな街中で……暇してんだなぁ、あいつら」

 

 

 組合長から忠告されたことが、早速起こった。

 貴族に喧嘩を売った以上、こうなることは必然だったが、まさかこんなにも早く来るとは少し予想外だった。

 しかし、あの情報伝達の速さからすれば、これもおかしくはないのかもしれない。

 

 

「とりあえず、戦闘態勢だけは取っておこう。都を出たら、即刻戦闘だ」

 

「そうだな。だが、都を出るまで平然としておこう」

 

 

 二人はそのまま歩き、複数の視線も零夜たちを追いかける。

 門で身体調査を済ませ、門の外に出る。

 

 その瞬間、零夜たちを見つめる視線が急激に増加する。

 外にいる刺客が、都よりたくさんいた証拠だ。

 一目に付かない森まで歩き――。

 

 

「ここで、良いでしょ」

 

「そうだな、ここにするか」

 

 

 わざとらしく、零夜は背伸びをする。

――瞬間、零夜の頭上めがけて、矢が飛んでくる。

 

 

「――ルーミア」

 

「分かってるわ!」

 

 

 零夜の影の中からルーミアが出現し、矢を闇の剣で弾く。

 矢が飛んできた方向から、「なッ!?」と聞こえてくる。妖怪の出現が、完全に予想外だったのだろう。

 

 

「よくやった。あとは、俺達に任せろ」

 

 

 亜空間から、【ダークカブトゼクター】が出現し、いつの間にか零夜の腰に巻かれていた【ライダーベルト】に自らの意思で装着され、角を倒す。

 

 

HENSIN

 

 

 仮面ライダーダークカブトに変身した零夜は、即座にクロックアップを発動し、森に隠れているであろう多数の刺客たちを探し、見つけて、一網打尽にする。

 

 気絶させて、一か所に集める。

 

 

「ご苦労さま。にしても、良くこんな数が森に隠れてたね」

 

「ここら辺は結界内だし、妖怪に襲われる心配もねぇから、この数も納得だわ。数が多いって理由で、襲われることがないからな」

 

 

 変身を解除した零夜は、そうため息をつく。

 

 

「それじゃあ、こいつらの記憶消して、塀のところに放置しとくよ。巡回する警備兵が見つけてくれるでしょ」

 

 

 そう言い、シロは気絶した男たちを塀まで持っていき、放置した。

 

 こうして、呆気なく襲撃者を打倒(蹂躙)したのだった。

 

 

 




 今回は異世界転生でよくあるテンプレを発動させてみました。

 シロのイメージCV 【廣瀬(ひろせ)大介】


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