東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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48 狐面の妖怪

 夕方。

 結界内の一角。

 

 そこで、香ばしい匂いを放っている鍋を、四人の男女が囲んで、鍋の中を食べていた。

 

 

「どうやら、『レイラ』は俺達の知っているレイラで間違いないようだった」

 

「その、レイラって奴、れ――クロを負かしたほど強いんでしょ?大丈夫なの?」

 

「あの時はあいつの存在が予想外だっただけだ。だが、それも言い訳にしかならないがな…」

 

「確かに、レイラの能力と君の能力は似ている。能力を見破っていれば、あの闘いも勝てていただろうね」

 

 

 そうシロが、男性の声でキッパリと言い放つ。

 とっくに過ぎた話だが、確かに零夜とレイラ、二人の能力は似ていた。能力の性質では零夜が上位互換の立場にいたのだが、能力を見破れずに負けてしまった。

 正直、あのままではシロの介入がなければヤバかったのだ。

 

 

「ねぇねぇ。そのレイラって、誰なの?」

 

 

 ルーミアの横で食べている、黒髪と黒目の着物の少女―――妹紅が質問する。

 当初は出来るだけ彼女と関わりをもたない予定だったが、既に乗った舟だ。最後までやり遂げる。

 

 それに、妹紅が【先天性無痛無汗症】と言う生まれつきの病気を持っていると言うイレギュラーな事態がある以上、既に『原作』は崩壊している。この点では、彼女も【準イレギュラー】と言えるだろうが、この造語は転生者が関わったときに使う言葉だ。彼女はこれに該当していない。

 

 もう、自分達の知識通りにはいかないはずだ。だったら、とことんやるしかない。

 そして、妹紅の質問にシロが答える。

 

 

「妖怪だよ。かぐや姫に、クロが討伐を依頼したんだ」

 

「へぇ……かぐや姫が…」

 

 

 特に興味がなさそうに、妹紅はスープの野菜を頬張る。

 ここで、すでに『原作』と『今』の彼女の違いが出ている。『原作の藤原妹紅』は、設定情報から察するに、父親を奪い、さらには恥をかかせたかぐや姫が憎かったはずだ。

 しかし、『この世界の藤原妹紅』は、心の中で既に父親(不比等)と決別を果たしているようだった。だから、かぐや姫に特に恨みなどを持っている様子ではない。

 

 

「――――」

 

 

 ―――だからこそ、思う疑問が(存在)る。

 何故、未来の妹紅は断末魔に蓬莱山輝夜の名前を叫んだのか?と言う疑問だ。

 かぐや姫に恨みがないのなら、わざわざ断末魔で叫ぶ必要などないはずだ。それに、あの世界の妹紅は―――どこか、荒れていた。

 

 その理由は、『先天性無痛無汗症』によって、『呪い子』扱いされていたのが一番の原因だろう。

 しかし、それとこれでは『かぐや姫』を恨む理由などどこにも見当たらない。

 

 父親の愛を奪ったかぐや姫に憎悪した――などとも考えにくい。

 おそらく、別の理由がある。だが、それが分からない。

 

 

(だが、毎度のことながら考えても仕方ないか…)

 

「どうしたの、黒いお兄さん?」

 

「―――いや、何でもない」

 

 

 少なくとも、この『今の妹紅』から『未来の妹紅』になるとは考えにくい。

 一体、『この世界の本来の時間帯』に、なにがあったのだろうか?

 

 

(分からないことだらけだ。それに―――レイラが生きていると言うのなら……【ゲレル】も)

 

 

 零夜は胸元に手を置き、どす黒い魂が、そこに確かに存在していることを確認した。

 

 未来で倒した、世界の害悪。ゲレル・ユーベル

 光を司り、レイラが死んだであろう原因でもある、臘月と同等レベルの最悪の妖怪だ。

 

 あのとき、光と相反する究極の闇の力(クウガアルティメット)でなんとか撃退することができたが、正直あれはヤバかった。

 ゲレルが油断してくれていたから弱らせることができたし、力でゴリ押すことができた。

 

 さらに言えば、あそこでルーミアに気が向いたのも勝因の一つだ。

 ゲレルは光の派生である雷の力でクウガを倒せたと思い込んでいたし、ゲレルは女癖が気持ちが悪いほど強い。

 だからルーミアに集中してくれていたおかげで、撃退することができた。

 

 そういう点では、彼女に感謝しなくてはならない。

 女性の心に傷を負わしかけた時点で、外聞(がいぶん)は最悪だろうが――。

 

 直後、ルーミアがシロに質問した。

 

 

「そう言えばさ、シロ。あんた他の四つの宝はどうすんの?最初の一個は持ってたからいいとして、四つなんて正直キツ過ぎない?」

 

「無論、現地調達さ。タイムリミットは三年もあるんだ。だから、ゆっくりと集めるだけさ」

 

「なんで三年?」

 

「あー……それは、秘密」

 

 

 シロは夕食を食べている妹紅をちらりと見た後、そう言った。

 ちなみに、三年の理由は、【車持皇子(くらもちのみこ)】が偽物の『蓬莱の玉の枝』を作るのにかかった期間だ。

 流石に未来の情報を交えた理由は、現代人の妹紅に聞かせるわけにはいかない。

 だから、シロはあえて言わなかった。

 

 

「ケチ!言ってもいいじゃモゴッ!」

 

「お前は黙って食ってろ」

 

 

 うるさいルーミアの口に零夜がパンを押し込み、ルーミアを無理やり黙らせる。

 ルーミアはシロを睨みながらも、黙々とパンを食べた。

 

 

「―――で、とりあえず、どうする?」

 

「彼らが『難題』を達成するようなことはまずないだろうから、しばらくは君の『課題』に付き合うよ。組合長の前でも、そう言ったしね」

 

「そう言えばそうだったな」

 

「忘れてたんだ…。まぁいいけどさ、それより、昼の襲撃についてなんだけどさ」

 

「あぁ……あいつらか。なんか情報あったか?」

 

「『捕食』した記憶では、刺客を(けしか)けたのは――四人」

 

「四人?五人じゃないのか?」

 

「見ては見たけど、四人だった。で、その四人に該当しなかったのが――石上麻呂(いそのかみのまろ)

 

 

 石上麻呂。

 かぐや姫に求婚している五人の貴族の内の一人で、【(ツバメ)子安貝(こやすがい)】を『難題』として出された貴族だ。

 竹取物語の中で、唯一まともに『難題』のお宝を入手しようとした人物でもある。

 

 彼の未来をネタバレすると、彼は死ぬ。

 だが、かぐや姫としても心情が良かったのか、唯一国内でなんとかなる【燕の子安貝】を『課題』として出された人物でもある。

 

 要約するに、五人の内、彼だけはまともな人間であるということだ。

 

 

「まぁ刺客を放っていないのならそれでいい。逆を言えば、あの四人が仕掛けてきたってことだしな」

 

「そうだね。で、どうする?」

 

「どうするって……無視でいいだろ。あいつらも今回の一件で、無駄だと分かっただろうしな」

 

「どうかな?バカは執念深いから、どんな手を使ってくるか分からないから、注意は必要だ」

 

「それもそうだな」

 

 

 三人は立ち上がり、後片づけをする。

 と言っても、空間に収納するだけだが。

 

 

「とりあえず、今日はもう遅いし寝よう」

 

「そうだな。早朝、出発するか」

 

 

 夕飯が終わり、今の時間帯は夜だ。視界も悪くなるし、わざわざそんな時間帯に出発するほど愚かではない。

 

 そんなとき――、

 

 

「ねぇ、お兄さんたち…明日には、行っちゃうの?」

 

「あぁ。時間はあるとはいえ、できるだけ早い方がいいからな」

 

「―――お兄さんたち、また、帰って来るよね?」

 

 

 妹紅は、悲しい目をして三人を見る。

 それを見て、零夜とシロはすぐに彼女の感情を察した。彼女は、寂しがっているのだ。恐れているのだ。目の前の、彼らを失うことを。

 たった一人の孤独の中、自分に手を差し伸べてくれた、『陽だまり』を、『太陽』を、失うことを恐れているのだ。

 

 二人には、どうしてもその目が他人事の様には思えなかった。

 すると、シロが妹紅に駆け寄り―――。

 

 

「よければさ、僕らと一緒に行かないかい?」

 

「おま…ッ!?」

 

 

 突然の提案に、驚愕を隠せない。

 相手はあの【レイラ】だ。そして、妹紅は正直に言えば『足手まとい』でしかない。そんな彼女を連れて行くなど、零夜にはとても承服することができない。

 

 

「何言ってんだ!それに、何勝手に決めてんだ!」

 

 

 零夜はシロの胸倉を掴み、叫んだ。

 もし連れていきでもしたら、最悪攻撃に巻き込まれて彼女が死ぬ。

 

 過去の『原作』の登場人物を殺した場合、未来にどんな影響が起こるか分からない。

 だから、この時間帯(過去)では出来るだけ『原作キャラ』の抹殺は避けたい。

 

 

「大丈夫だって!この『課題』は、君の課題だ。だから、僕は手を出さずに彼女を守るよ。だから大丈夫」

 

 

 そう言いながら、シロは零夜の耳に顔を近づけ―――

 

 

「彼女をここに置いていけば、人質として使われる可能性だって否定できない。それでも置いていく?

 

「――詳しく話せ」

 

 

 今のシロの可能性の話は、流石に聞き流せない。

 零夜はシロの胸倉を放し、話を聞く。シロは零夜の耳元で、ルーミアや妹紅に聞かれないように、小声で話す。

 

 

「今は視線を感じないけど、ありとあらゆる手段を用いて監視される可能性だって否めない。もし妹紅と僕たちの関係性がバレたら、特に藤原不比等。ヤツはもう娘の事を娘だなんて思っていないはずだ。だから、容赦なく人質に取って来たとしてもおかしくない」

 

「―――」

 

 

 シロの推測は、良く考えれば十分にあり得ることだ。

 今はバレていないからいいとして、地道に調査を続ければ、妹紅と零夜たちが、何かしら関係あるとバレるかもしれない。

 バレたら、確実に人質として使われるだろう。その点を考えれば、多少危険でも、連れて行く方が良いのかもしれない。

 

 

「だが、そう簡単に事が運ぶのか?杞憂になるかもしれないぞ?」

 

「人生ってのは、そう都合よくはいかないものさ。何事も想定外を想定するべきだ」

 

「―――そうだな。……あまり納得は出来ないが、致し方ないしな」

 

「理解してくれて、ありがとう。それじゃあ決定で」

 

 

 それで話がまとまり、二人は離れた。

 

 

「…なんの話をしてたの?」

 

「別に、どうでもいい話さ」

 

「明日から忙しくなるからな、ちゃんと寝ろよ」

 

「はーい」

 

「お、おやすみなさい…」

 

 

 妹紅の言葉を皮切りに、四人は今日を終えた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

「……で、探すにしても、どこを探す?」

 

 

 明朝。場所は深い森の中。

 零夜たちは、最初の関門に激突していた。

 

 かぐや姫の『難題』は、レイラの討伐だ。それを行うためには、まずはレイラを探さなくてはならない。

 だが、その前提条件が、達成されていなかった。

 

 

「レイラがどこにいるのか分からなきゃ、前途多難だねぇ…」

 

「完全に盲点だった…!まずはレイラを探さなくちゃならねぇんだった!」

 

 

 いろいろとありすぎて、大事な前提条件をすっかり忘れていた。忘れてはいけない条件を、忘れていた。

 レイラの居場所が、全く分からない。これでは倒す以前の問題だった。

 

 

「目撃情報があるってことは、この近くなんだろうが…詳しい場所が分からん」

 

「そんなんで、『課題』成功できるの…?」

 

「だ、大丈夫だと思う!ずっと探せば見つかると思うから!」

 

 

 ルーミアからは辛辣で正当な評価を(いただ)き、妹紅からは励ましの言葉を貰った。

 

 

「はは、返す言葉もないなぁ。事実だから。でも、励ましてくれてありがとうね」

 

「励ましは正直ありがたいが……どこを探す?三年もあるとはいえ、相手は生きている。つまりは移動しているんだ。すれ違いになったら洒落になんねぇぞ」

 

 

 探す相手は、そこに留まっているのではない。生きているため、移動しているはずだ。

 いる場所が分かっても、すでにそこに居なければ本末転倒だ。

 

 

「うー……ん…?……あ、そうだ」

 

「なんか思いついたのか?」

 

「あのさ、【地球(ほし)の本棚】って使えないかな?」

 

「あー…確かに、あれなら居場所を特定できるかもしれないな」

 

 

 地球の本棚を使い、『レイラ』の居場所を特定する。

 地球の本棚の特性として、常に地球の情報が更新される。その特性を活用すれば、レイラの場所を特定できるはずだ。

 

 

「……だが、地球の本棚は、ここ(奈良時代)だとどう作用するんだ?」

 

「あ、そう言えばそうだね。そこら辺はまだ検証してなかったから、どうなるか分からない」

 

 

 地球の本棚は、常に地球の情報が更新されるが、この時代だと、一体情報がどこまで解禁されているのかが未知数だ。

 今この場に妹紅がいるために、『この時代』や『未来から来た』などと言うワードを使わないことも、配慮する。

 

 

「それじゃあ、物は試しだ。早速試してみる」

 

 

 意識を集中させ、零夜は地球の本棚へとダイブする。

 

 真っ白な世界。そこに並ぶ、無数の本と本棚。この景色は、いつ、何度も見ても達観だ。

 

 

『さて…キーワードは、【レイラ】』

 

 

 キーワードに反応して、急激に減っていく本棚と本。

 一万から千へ、千から百へ、百から十へ、十から―――三つの本棚と、三冊の本が。

 

 

『三つか。一つの情報だけで、かなり絞り取れたな』

 

 

 一つのキーワードだけで大分絞れたことに驚く。

 もう少し情報が必要かと思っていたが、その必要はなかったようだ。

 

 

『さて……取り合えず取ってみる……ん?』

 

 

 そこで、零夜は本にある異常があることに気付いた。

 とても、分かりやすい異常だった。なにせ、こんなことは今までなかったのだから。

 

 

『この本…、封鎖されている…?』

 

 

 三冊の中、一冊だけが、鎖で巻かれ、南京錠のようなもので閉じられていた。

 鎖が邪魔で、タイトルすら見えない。

 しかも、それだけじゃなかった。

 

 

『それに、もう一冊…これ、焼き焦げてる…?』

 

 

 次に零夜が手にかけたもう一冊の本は、ボロボロで焦げていた。これも同様、タイトルが焼き焦げているために確認できない。

 これでは、本の中身など見れるわけもない。

 

 

『三冊中二冊が中身を見れないようになってやがる…こりゃあ一体全体どういうことだ?』

 

 

 今までこんなことはなかった。

 地球の情報が、こんなことになるなんて、今まで、一度も。これを違う表現で表すのなら―――、

 

 

『地球の意思で、情報が抹消された…?いや、それだと封じられてる意味が分からない』

 

 

 もし、この仮説が正しかったとしたら、南京錠で封じる必要などない。

 もう一冊同様、焦がして見れない状態にすればいいだけの話だ。

 

 一体この二冊の【レイラ】に何が起こっているのだろうか。

 

 

『……いや、考えるのは後だ。とりあえず、残りの一冊は通常の状態だ。これを見て戻ろう』

 

 

 零夜はそう決断し、最後の一冊のページを開く。

 

 

『アラビア語で【ライラ】と【レイラ】。この二つの単語は日本語でを意味している』

 

 

 最後の一冊、タイトルは【Lyla(ライラ)Leila(レイラ)】。

 この一冊は、【ライラ】と【レイラ】と言う単語が、『夜』を意味すると言う辞典のような内容だった。

 

 

『……これはあんまり意味ないな。やっぱ、謎なのはこの二冊。仮説は立てたが、それが正しいとは限らないしな…。はぁ、収穫なし、戻るか』

 

 

 これ以上、ここにいたとしても収穫はない。

 それに、自分だけで考えていたら分かるものも分からない。

 

 零夜は、地球の本棚から離脱した。

 

 

「…ふゥ」

 

「…どうやら、ダメだったみたいだね」

 

「あぁ。まさか、三冊中二冊が読めないなんて、思いもしなかった」

 

 

 三冊中二冊も読めないとなると、組合までわざわざ言って情報を収集したことは間違いでなかった。

 こっちで調べられないのなら、地道に収集するしかなかったから。

 

 

「唯一読めた本は、アラビア語のレイラと【ライラ】って言う単語が、日本語で『夜』を示すってことだけだ。正直、どうでもいい情報だった」

 

「まぁでもこれで、地球の本棚の情報が、僕たちと同じ水準であることが分かった。それを知れたことだけでも、僥倖だと思うよ?」

 

 

 シロはこう言っているが、やはり気になるものは気になる。

 あの南京錠で閉じられている本と、焼き焦げて回覧できなかった本。あれは一体何を表しているのだろうか?

 

 

「―――仕方ない、この手はあまり使いたくなかったんだけど…」

 

「え、なんかあるなら最初から使いなさいよ!」

 

 

 ルーミアから怒号が響く。

 今の目的はレイラの捜索だ。そのための手段を隠していたことに、ルーミアは怒る。

 

 

「いやぁさ…ここで使うにはいろいろと条件が悪いんだよ。その条件をクリアできたら、できるんだけど…」

 

「じゃあさっさとクリアしちゃいなさいよ。時間があるとはいえ、早い方がいいんでしょ?」

 

「そうだね……それじゃあ、妹紅ちゃん」

 

「え、私…?」

 

「少しの間、眠っていてくれ」

 

 

 シロの姿が、霞のように掻き消える。

 その瞬間、零夜の後ろで妹紅の「うっ」と小さな悲鳴が聞こえる。何事かと思い即座に後ろを振り向くと、シロが妹紅を気絶させて担いでいた。

 

 

「ちょ、なにしてんのよ!?」

 

「彼女には悪いけど、これで最低限の条件が揃った」

 

「なに?こいつが起きていると困ることがあるのか?」

 

「彼女には……寝ていてくれないと、耐えられないからさ」

 

「は、耐えられない?一体なにを――」

 

 

 零夜の言葉を無視したまま、シロは妹紅をルーミアに預けて―――力の流れ(威圧)が、爆発した。

 

 

「「―――ッ!!?」」

 

 

 力の波動は見えない暴風となり、荒れ狂った。

 青緑色のオーラが可視化するほどにシロを中心として暴れまわり、周りの木々をなぎ倒しながら広がっていく。

 力の波動は発生源の近くにいた零夜とルーミアに直撃し、冷汗が止まらなかった。

 心の底から湧き出てくる、“逃げろ”と言う本能的警告が、鳴りやまない。

 

 

 

「ううぅ…!」

 

「――――ッ!」

 

 

 妹紅を気絶させた理由が分かった。

 こんな波動、強烈な威圧にも等しい。こんな威圧を幼い子供がこんな近くで受ければ、心臓麻痺が起こって最悪の場合死に至ってもおかしくはない。

 

 妹紅を気絶させたことは、そうさせないための保険だったのだ。

 

 

(なんだ!?シロの圧倒的存在感が…間欠泉のごとく吹き出してやがる!)

 

 

 普段感じることのない、圧倒的存在感。

 あのへらへらした態度からはまったく想像することのできない力の波動。普段と今のギャップすらも、心の動揺を引き起こしていた。

 

 たまにシロが強烈な力の波動を出すことはあったが、今までとはまた――質だ。質の違う力の波動が、零夜とルーミアの肌にビリビリとダメージを与えていた。

 

 シロの力の波動を受けて、大量の動物の鳴き声――悲鳴が聞こえる。

 圧倒的な、力の差。それを本能的に感じて、天敵から逃げているのだ。

 

 

「ちょ、ストップ!やめろシロ!」

 

「―――え?どうかしたの?」

 

「どうかしたの?じゃねぇよ!あんな波動を急に垂れ流すんじゃねぇよ!」

 

「え、一応それを(ほの)めかすことは言ったんだけど…」

 

「仄めかすんじゃなくて直接言え!ていうか、これになんの意味があるんだ!?」

 

「単純だよ、これだけの力の波動を流せば、逃げる奴と近づいてくる奴で限れてくる」

 

「……つまり、力に自信があるヤツが近づいてくるって認識でいいのか?」

 

「そう!実に聡明だね」

 

 

 零夜の言う通り、知能のない妖怪なら今の力の波動を感じて逃げている。それは野生の動物すらも同じだ。

 唯一、近づいてくる存在があるとするのならば、それは力に自信がある、強者だけだ。

 

 

「だが、その強者が聡明だった場合、お前との力の差を感じて、逃げてしまう可能性だってあるんじゃないのか?」

 

「あー…それは、大丈夫だと思うよ?」

 

「なんでそう言い切れるんだ?」

 

「今の波動にね、少し小細工をしたんだ。特定の人間にしか分からないような、そんな小細工を。――と言っても、勝手についてくるだけなんだけどね、その小細工が」

 

「小細工?」

 

「少なくとも、()()()には分からない小細工さ」

 

「今の俺?それはどういう―――」

 

 

―――瞬間、光輝く三日月が、零夜とシロに向けて放たれた。

 即座に反応した零夜は、【繋ぎ離す程度の能力】を行使し、三日月を近くの木と繋げて、対象を木へと変更。三日月は木に向けて軌道を変えて、三日月が木を真っ二つにした。

 

 シロはシロで、手を横に振りかざすと同時に、漆黒の三日月が発生し、光輝く三日月と衝突し、霧散した。

 

 

「なんだ!?」

 

「普通に考えて、敵襲だよ」

 

 

 二人が一斉に、三日月が放たれた方向を向くと、そこには長い金髪に胸に(サラシ)を巻いて紅い法被を身に纏い、長いパンツをはいている女性がいた。

 

 狐面の女性から感じられるのは、妖力。目の前の女性が、妖怪であることは間違いない。

 手には一本の獲物()。さらに顔は――、

 

 

「お面…?」

 

 

 狐面の女性は、木彫りの狐面を着用していた。

 狐面の女性は、空いている瞳の部分から、紅い瞳をこちらへずっと向けているままだ。

 

 これで、今と未来を合わせての、二回目の邂逅だった。

 何を話せばいいのか分からない。

 

 そして、そんな沈黙を――、

 

 

「やぁ、初めまして。君が、【レイラ】でいいのかな?」

 

 

 シロが破った。

 率直な質問。レイラの顔は狐面で顔を隠れているため、確認が必要だ。

 

 

「と言っても、その服装、その髪、その瞳。全部が僕らの知っている【レイラ】のままだ。もう、君がレイラってこといいよね?」

 

「――――」

 

 

 狐面の女性は何も答えない。無言を貫いたままだ。

 

 

「無言、ね…。まぁいいや。今回君に用があるのは僕じゃない。彼の方さ」

 

 

 シロは掌を零夜に向ける。それと同時に、狐面の女性の視線が零夜の方に向く。

 

 

「……お前が、レイラでいいんだな?」

 

「――――」

 

「無言か。だが、どうでもいい。突然で悪いが―――」

 

 

 零夜は、狐面の女性に向けて、虚空から取り出した【無双セイバー】を、狐面の女性に向けた。

 

 

「お前を、倒させてもらう」

 

「――――」

 

「かぐや姫って知ってるか?絶世の美女だって人間の間で流行ってる。んで、そのかぐや姫が俺にお前の討伐を命じた。お前を倒す経緯は以上だ。他に、理由はいるか?」

 

「――――」

 

「肯定ってことでいいな?それじゃあ――」

 

 

 零夜は無双セイバーを投げ捨て、己の腰に漆黒の宝玉が取り付けられたベルトが現れる。

 構えて、力を高め――、

 

 

「待った」

 

 

 突如、シロからストップが入る。

 今使おうとした力は、ゲレルと戦った際の【クウガアルティメット】だ。

 

 レイラは強い。それに、【ずらす程度の能力】と言う能力を持っており、それに対抗するには出し惜しみはできない。

 自身の【繋ぎ離す程度の能力】と、クウガアルティメットの圧倒的なパワーを用いて倒す。

 

 零夜の体は最悪になるが、結果は最高のものとなる。

 それなのに、止められた。

 

 

「――何の真似だ?」

 

「クウガアルティメットはまずい。せめて、【ダークドライブ】で戦ってくれ」

 

「は?なんでそこでダークドライブをチョイスするんだよ?」

 

「いいからいいから。僕の言う通りにして」

 

「チッ、わーったよ」

 

 

 渋々と零夜はベルトを霧散させ、【ドライブドライバー】と【シフトブレス】を装着する。

 シフトブレスに【シフトネクストスペシャル】を装填。

 

 

ブゥウウウウンッ!!!

 

 

 車のエンジン音とともに、零夜の周りに黒い鎧が現れる。

 

 

「変身」

 

 

ドライブッ!! TYPE NEXT!!

 

 

 それが零夜の体に纏わる。それと同時にどこからか現れた黄色いラインが入ったタイヤが体にセットされる。

 

 零夜は、【仮面ライダーダークドライブ】へと変身した。

 その手には、専用武器の【ブレードガンナー】も。

 

 

『待たせたな。準備はいいか?』

 

「――――」

 

『じゃあ……行くぜ!』

 

 

 瞬間、二人の姿が掻き消え、中央にてお互いの刃が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、僕もそろそろ、零夜に怒鳴られる覚悟の準備をしておかないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 地球の本棚の【レイラ】に関する三冊の本。
 その内の二冊が封鎖され、燃やされていた。一体、どういうことか?

 狐面の女性現る!
 次回、ダークドライブVS狐面の女性!

 今回のシロのイメージCV【榎木淳(えのきじゅんや)


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