東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

55 / 105
 いやぁ……49話の内容に大分奮闘したなぁ…。

 3~4パターンの49話を作って、これが一番良いと思ったので投稿します。



※本来、ライラに「自分たちは未来から来た」と言うことを正直に話すという展開でしたが、諸事情で変更しました。2023/02/21


49 狐面の奥※

『ハァッ!』

 

「――――」

 

 

 森林の一部。そこでは、漆黒の騎士と狐面の女性。二人の戦士の刃が衝突し合い、接戦を繰り広げていた。

 漆黒の騎士――ダークドライブは、専用武器【ブレードガンナー】を振るい、狐面の女性へと攻撃を行う。

 

 

 ガキンッガキンッガキンッガキンッガキンッ!!

 

 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!!

 

 バチッ、バチバチッ!!

 

 

 状況は、まったく一変しない。

 互いの刃が、衝突し合い、次の一手に繋ぐために体を動かし、再び刃を振るう。

 その繰り返しだった。

 

 

(クソっ…このままじゃジリ貧だ…!)

 

 

 ダークドライブは拮抗*1感を感じていた。

 このままでは体力勝負になるだけだ。

 

 ダークドライブの圧倒的な速度のおかげでなんとか狐面の女性の攻撃に対応することが出来ている。

 初見でこの速度を用いた連撃を喰らっていれば、クウガアルティメットだったとしても優劣の差がはっきりと出ていただろう。

 

 

(速度の点では、シロのストップのおかげでなんとかなってるが、どうする?このままって訳にもいかない)

 

 

 ジリ貧にするわけにもいかない。

 ダークドライブは狐面の女性から一旦離れ、脚に力を入れる。

 

 

「――――」

 

 

 地形を最大限に利用させてもらう。

 ダークドライブは周りの巨木を足場にして跳ねて、また巨木を足場にして跳ねて、それを繰り返して狐面の女性を翻弄する。

 

 

「――――」

 

 

 狐面の女性は頭上を見上げ、様子を伺っている。

 ここまでやれば、ある程度攻撃の予想ができる。翻弄して、死角を攻撃。速度に自信がある者が、よくやるパターンだ。

 しかし、ダークドライブはその裏を突く。

 

 

『ふんッ!』

 

 

 ダークドライブは狐面の女性の真正面に着地した。

 それと同時にシフトブレスのイグナイターを押し、脚にエネルギーを充填し――一気に爆発させ、0.4/100mの壁を、超える。

 

 

「―――ッ!!」

 

 

 (上限)を越えた速度で真正面(まっしょうめん)から向かってブレードガンナーを振るう。

 速度が上がったことに動揺したのか、一瞬反応が遅れた狐面の女性は、避けるのが少し遅れてしまう。

 

 横一線の斬撃。

 攻撃と同時に距離を取り、すぐにダークドライブが狐面の女性の方を向くと、法被の裾が少し斬れているだけだった。

 しかし、攻撃が当たったと言う事実がそこにあった。

 

 

(少し工夫して攻撃したってのに、ダメージを与えられたのは服だけ…。分かってはいたが、侮れない)

 

 

 あれほどの速度で攻撃したと言うのに、その攻撃に反応する能力もかなり長けている。

 

 

『まさか、あの速度に適応するとはな。やるじゃねぇかレイラ』

 

「――――」

 

『無言か。俺の知ってるお前は、結構喋ってたんだがな』

 

「――――」

 

『せめてなんか喋れよ。こっちが恥ずかしくなんだろうが』

 

「――――」

 

 

 ここまで言っても、狐面の女性は無言を貫いたままだ。

 

 

『……ここまでくると、喋るつもりはねぇらしいな。……能力、使って来いよ。何故使わない?』

 

「――――」

 

『―――じゃあ、こっちから先に使わせてもらうぜ』

 

 

 ダークドライブはブレードガンナーを地面に突き刺し、【闇神零夜】の能力を行使する。

 闇神零夜の能力の一つ、【創造する程度の能力】。能力を行使し、自身の周りに【パトカー】【クレーン車】【デコトラ】を創造する。

 

 

「―――?」

 

『これは馬車みたいなもんだ。ただし、少し特殊だが、な』

 

 

 ダークドライブは三つの【シフトカー】を取り出し、ばら撒く。

 三つのシフトカーは自動的に、【ネクストデコトラベラー】がデコトラに、【ネクストハンター】がパトカーに、【ネクストビルダー】がクレーン車に。

 

 創造された三台の乗り物へと吸収される。

 

 すると―――、

 

 

変形して、ロボットとなった。

 

 

「―――ッ!!?」

 

『ライダーと俺自身の力を混合した、完全オリジナルロボットだ。巨体な分お前ほどのスピードはでねぇが、パワーは強大だぞ?』

 

 

 巨大ロボへと変形した三体のロボが、狐面の女性を捉える。

 

 

 

「―――ねぇ、何あれ?」

 

「男のロマンだよ」

 

「……あれの何がいいの?」

 

 

 

 ルーミアから女性特有の『男のロマン分からない宣言』は、ダークドライブの耳に入る。

 だが、それを無視してダークドライブは三体のロボに進撃命令を下す。

 

 

『―――行け』

 

 

 三体のロボが一斉に動き出した。

 最初に攻撃したのはクレーン車型ロボだ。クレーン車型ロボは右手のショベル部分を狐面の女性に向けて振るった。

 

 狐面の女性は動かないままだ。

 そしてそのまま、当たる直前に―――ショベル部分が、細切れになる。

 

 

 ズバババッ ズバババッ!!

 

 

 その次に狐面の女性の姿は掻き消え、次の一瞬には狐面の女性はクレーン車型ロボの肩の上にいた。

 そのまま、狐面の女性の無数の斬撃が、クレーン車型ロボの全体を、細切れにした。

 

 

(―――速いな。スピードだけならダークドライブの性能を超えていてもおかしくない)

 

 

 応戦中で気付かなかったが、狐面の女性のスピードは、ダークドライブの走力を完全に上回っている。

 ダークドライブ自身と戦っているときは、手加減をしていたのかもしれない。そう思いとイライラしてくる。

 

 

(あの野郎…全力でかかってこないなんて、完全に舐められて……うん?)

 

 

 突如、ダークドライブの視界の端に、煙が立っていることに気付いた。

 そちらの方向を振り向いてみると、その一帯の草木が焼き焦げていた。

 

 

(焼き焦げてる?……そう言えばあの場所、俺が最初の斬撃を移動させた場所だったような…)

 

 

 焼き焦げていた部分は、零夜が斬撃を移動させた場所だった。

 着弾場所が、破壊されているのではなく、焼き焦げていた。

 

 

(これは、もしや―――)

 

 

 ババババッ!ドドドドッ!

 

 

 ダークドライブが思考の波に吞まれている中、狐面の女性を、パトカー型ロボが銃撃していた。

 パトカー型ロボは両手にアサルトライフルを装備すると、狐面の女性に向けて撃ちまくる。

 狐面の女性は再びその姿をかき消し、ある場所まで移動した。そこは―――、空だ。

 それを感知したパトカー型ロボは頭上に向けてアサルトライフルを連射するが、一弾も狐面の女性に当たることはなかった。

 それどころか、弾丸を利用されていた。

 

―――弾丸を、足場にしている。

 

 放たれた小さな弾丸の尻の部分を足場にし、己の速度を高め、空中でも体の軌道を変えることに成功していた。

 

 

 ジャキンッ!!

 

 

―――一閃。

 地面に着地した狐面の女性は、縦に一閃、刃を振るった。着地した場所は、パトカー型ロボの影。

 狐面の女性が血の付いた刀から血を掃うように刀を振るったと同時に、パトカー型ロボが縦に真っ二つになり、爆裂四散する。

 

 

(――――やはり、そうか)

 

 

 それを見て、ダークドライブはある一つの結論を見出した。 

 そんな中、爆裂四散の影響で発生した煙の中から、漆黒に輝くチェーンが、狐面の女性を拘束した。

 

 

「――――」

 

 

 煙が晴れると、最後の一体。デコトラ型ロボの胸部から、このチェーンが出ていた。敵を拘束したデコトラ型ロボは己の巨大な拳を振り下ろした。

 

 万事休すな状況。だが、狐面の女性は諦めていなかった。

 突如、狐面の女性の全体から、白く光り輝く刃が現れ、チェーンを細切れにした。

 

 チェーンから逃れられたと同時に振り下ろされた腕の上に乗り、駆ける。

 そのままデコトラ型ロボの頭に向かって走り―――、斜め一閃。

 

 デコトラ型ロボは斜めに真っ二つになり、爆発した。

 

 

『……かなり、終わるのが早かったな』

 

「―――」

 

 

 爆発した煙の中から、ゆらりゆらりと、ゆっくりと狐面の女性が一歩ずつ一歩ずつ歩いてくる。

 途中で止まり、狐面の穴から見える紅色の瞳が、ダークドライブの複眼を捉えた。

 

 

『―――戦って、少しは疑問に思ってたんだ』

 

「――――」

 

『なんで能力を使わないのか。普通に舐められていると思っていたが、そうじゃない。お前は、ただ単に使えなかっただけなんだ』

 

「――――」

 

『そして、ようやくお前は能力を使った。能力を見て、それと同時に、声を出さない理由も分かった』

 

「――――」

 

『よくよく考えれば、能力使わなきゃあの最初の斬撃は何だったんだよって話だしな。……お前さ、―――レイラじゃないだろ?

 

 

 狐面の女性が、かすかに動揺を見せた。それが答えだ。目の前の女性は、レイラじゃない。

 

 

「え、レイラじゃないの!?」

 

「――――」

 

『お前はレイラじゃない。服、髪、瞳。すべてが俺の知っているレイラそのものだ。だがな……『能力』だけは、どうしても変えられないんだよ』

 

 

 服装も、髪の色も、瞳の色も、すべて変えることは可能だ。この時代でその技術はまだないが、妖怪ならば多少変えることくらいできる妖怪がいたとしても不思議ではない。いくら容姿を本人に近付けても、変えることのできないものだってある。その筆頭が、『能力』だ。

 先天性な能力は、どうあがいても変えることはできない。狐面の女性が堅くなに能力を使わなかったのは、自身がレイラではないと悟られないためだろう。

 

 それに、声もだ。

 妖怪の中には声を変えることの出来る者もいる。その代表格は狐と(タヌキ)。この妖怪たちは人を騙すために人間に化けると言うのが有名な妖怪だ。

 狐面と言っても、この女性は声を変えることはできないらしい。

 

 

『お前がレイラじゃないってんなら、お前の行動も全て納得できる』

 

「――――」

 

『それに、剣の打ち合いと、巨大ロボの攻撃。それだと言うのに、お前は『レイラの能力』を使わなかった。俺が知っているレイラなら、自分の手札は出し惜しみなく使う』

 

「――――」

 

『それに、能力が違った』

 

「――――」

 

『俺の知っているレイラの能力は、全然違う』

 

 

 冥界でレイラと戦った際、かなり翻弄された記憶、今でも鮮明に覚えている。

 レイラの【ずらす程度の能力】はかなり厄介だった。自身の存在をずらすことによって異空間に身を置いて攻撃から逃れる術は最後まで見破ることができなかった。

 

 と、こんなレイラ特有の攻撃回避方法があると言うのに、目の前の狐面の女性はそれをしなかった。

 それを見て、ダークドライブはある仮説を立てたのだ。それが、“しないのではなくできない”と言う仮説だ。

 これも、その能力を持っていなければ、辻褄が合う。

 

 

『レイラとは一度戦ってるからな。あいつの戦い方はある程度身に染みているつもりだ』

 

 

 レイラの戦い方は、己の剣の道を信じて突き進み、力も速度も能力も、すべてを出し惜しみなく使って、決して相手を侮らないという己の信念を持った、そんな闘いだった。

 

 それ零夜=ゲレルの誤解が解かれていない時でさえ、同じだった。 

 零夜は、少なくともそう感じていた。

 

 

『だけど、お前の剣の在り方は、レイラのソレじゃない。剣の型も似てた。だがなァ、剣に賭ける想いが違う。俺は人に剣を教えられるほどうまくはねぇが、それぐらい分かる』

 

 

 レイラと零夜の関係は、善し悪しのどちらかを言えば、悪い方だ。これからも、敵として戦い続けるだろう。

 

 

『偽物は本物に成れない。本物はこの世でたった一つだ。心も、想いも、信念も。……もう一度聞くぞ。お前は、誰だ?』

 

「―――お前こそ、なんなんだ?」

 

 

 狐面の女性から、声が発せられた。可憐な美声だ。

 だが、その声はレイラの声ではない。別人の声だ。

 狐面の女性は(うつむ)き、力なき声でダークドライブに向けて問いた。

 

 

『言っただろう?レイラと一度、戦っただけだ。だけどな、戦ったからこそ、分かることがあるんだ。だから分かった。お前が、レイラじゃないってこともな』

 

「たった一度、か…。まさか、その程度で私のレイラの違いが見破るなんてな…」

 

『認めたな。何故レイラの名を(かた)っている?本物のレイラはどこだ?』

 

「――――」

 

 

 ダークドライブの質問に、レイラを騙る狐面の女性は再び無言になった。そもそも未来ではすでにレイラは霊界にいた。つまりこの時代でも既に死んでいる可能性だってある。手の相手に、無理矢理聞き出すのは返って逆効果だ。

 

―――だからこそ、質問を変える。

 

 

『それでは、質問を変える。お前は、ゲレルとどんな関係だ?

 

「――――」

 

 

 狐面の女性の、雰囲気が圧倒的に変わる。

 先ほどの委縮したような雰囲気とは180度反転し、心の底から怒っているような、そんな雰囲気を放っていた。

 狐面の女性にとって、ゲレルの質問は爆弾だったようだ。

 

 狐面の女性が、ドス黒い声を放つ。

 

 

「何故……そんな質問をする?」

 

『お前の能力を見たからだ』

 

「……何?」

 

 

 怨嗟と疑問を混ぜた声が、木霊する。

 

 

『お前のダークドライブをも超える、圧倒的なスピード。光り輝く斬撃。そして……焼き焦げた草木と地面。俺は、これと似た能力を、一度見ている。そして、その能力を使っていたのが……【ゲレル・ユーベル】だ』

 

「なッ…!?」

 

 

 詰まったような言葉が狐面の女性から出る。喉が詰まった状態で出したような、そんな声。

 狐面の女性は明らかな動揺を示し、後ずさった。

 

 

『お前の能力は……【光を操る能力】。違うか?』

 

「――――」

 

「光を操る…?」

 

 

 一連の話を聞いたルーミアが、身震いを起こし、顔に青筋が浮かんだ。

 今から考えれば未来の話だが、ルーミアにとっては思い出したくもない過去だ。

 

 訳も分からないまま初対面の男に襲われ、そのままハジメテを奪われかけた。それはどれだけ強い力を持っている者でも、心にトラウマを刻み込むだろう。

 それに、ルーミアも例外ではなかった。

 

 光を司る力を持つゲレルと、光を操るであろう狐面の女性。この二人に、何等かの関係があるのは明白だ。

 能力の酷似性が、それを証明している。

 

  

『――――』

 

 

 ダークドライブがルーミアの状態を遠目で見て、申し訳ない気持ちになる。

 ダークドライブ――零夜は未来で悪人を名乗っているが、それは仮の姿に過ぎない。自分が行う、悪行を自分の中で正当化するための。

 

 かつて自分を襲いかけた男と、何かしらの関係がある者。

 トラウマを掘り起こすのには、十分だった。

 

 

『――俺は昔、ゲレルと言う男と戦った。その際に奴は自分の能力を【光を司る能力】だと言った。お前の能力が【光を操る能力】だった場合、その関係性は否定できねぇんだよ』

 

「――――」

 

『もう一度聞く。お前は、ゲレルとどんな関係を持っている?』

 

 

 もう一度、同じ質問をする。

 こちらの情報は、出来る限り開示した。だから、今度はそちらの番だ。

 

 そう遠回しに言い、ダークドライブの青い複眼が狐面の女性を捉える。

 

 

「……そうか…あなたたちも……そうなのか…」

 

 

 狐面の女性は何かを呟くと、背中にかけてあった鞘に刀を納刀する。

 それと同時に、狐面の女性がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 

 先ほどとは違い、殺意も、敵意も、感じない。

 

 

『―――』

 

 

 敵対意識がない相手に、剣を向けても、逆効果だ。

 ダークドライブも無言で、剣を納刀する。

 

 

「――――」

 

 

 狐面の女性は、ダークドライブの横を通り過ぎる。

 そのまま歩いた先には―――、

 

 

「ひッ」

 

 

 ルーミアだ。狐面の女性はルーミアにゆっくりと近づいていく。

 ルーミアがダークドライブとシロに助けの視線を送るが、二人は無言だ。

 

 率直に言えば、彼女は狐面の女性に対して恐怖を抱いている。

 自分にトラウマを与えた男と、なんらかの関係性を持っているとわかれば、その反応も分からなくはない。

 だがしかし、ダークドライブとシロは、ルーミアを助ける気はない。

 

―――と言うより、助ける意味がないから。

 

 

「………」

 

「……えっ?」

 

 

 狐面の女性は、ルーミアに抱き着いた。

 力強く、ただ、抱きしめた。

 

 

「え、え、え?」

 

「……怖かっただろう」

 

「…え?」

 

「怖がらせて、すまない。君も、怖かっただろう?過去を掘り返してしまって、本当に申し訳なかった」

 

「―――」

 

「すまない、すまない、すまない…!」

 

 

 

 狐面の女性は、ただただルーミアに謝り続けた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 あれからしばらくして、狐面の女性と、変身を解除した零夜、シロ、ルーミア、そして目覚めた妹紅が、四対一で対面になっていた。

 

 そんな中、最初に口を開いたのは零夜だった。

 

 

「……あの…なんだ。喧嘩売って、悪かったな」

 

 

 零夜の開口一番は、謝罪だった。

 よくよく考えて、時を遡って考えると、先ほどの一連の出来事は、かぐや姫の『依頼』を受けて起こった出来事だ。それを受けなければ、あの出来事は怒らなかった。

 それに、あんなものを見せられたら、罪悪感しか湧かない。

 

 

「いいや、構わない。私も、熱くなりすぎた」

 

「いや、元はと言えば俺らが喧嘩売ったからな…。言ってしまえば元凶は俺らだし…」

 

「……では、罪悪感を感じているのならば、あなたたちのことについて教えてくれ。極端に言えば、ゲレルについてだ」

 

「―――……」

 

 

 その質問に、零夜は沈黙する。

 どう答えるべきか、迷っているのだ。

 

 零夜達が知っているのは、未来のゲレルだ。しかし、その情報を馬鹿正直に話したところで、未来と過去の齟齬が出る可能性も否めない。

 それを考えると、どこまで秘匿してどこまで正直に話すか、迷ってしまう。

 

 

「――――」

 

 

 沈黙が続く。

 このまま続けば、狐面の女性に不信感を与えてしまう。

 

 どうすればいいか、考えていたとき、ふと頭に声が聞こえた。

 

 

(零夜。聞こえる?)

 

 

 突如、零夜の頭の中に、シロの声が届いた。

 突然の出来事に困惑を示し、零夜がシロの方を向くと、シロの口角が微妙に上がっていた。

 

 

(シロ!なんだこれは!?……いや、これは俺の能力でルーミアの思考と繋げたときと同じ状態?)

 

(そうだね。それと全く同じ状態だ)

 

 

 思い出すは、都の団子屋でレイラの情報をルーミアから入手するために、影の中に潜んでいたルーミアと零夜の思考を【繋ぎ離す程度の能力】でリンクした時と、まったく同じ状態だった。

 

 

(お前こんなこともできたのか…)

 

(できるよ?あと、彼女にどれくらい話すかなんだけど、未来のことは伏せて、できるだけ全部話そうと思うんだ)

 

(……そうか)

 

 

 正直、シロの正気を疑う。

 第一、未来から来たなどと言う話を信じて貰えるわけがない。そこを踏まえても、嘘を混ぜて説明をするべきだ。

 

 

(いくらなんでも馬鹿正直すぎる!それに第一、未来云々(うんぬん)の話を信じてもらえるわけねぇだろ!)

 

(まぁ確かにそうだ。だけどね、大丈夫なんだ。僕に任せて)

 

 

 次の瞬間、零夜とシロのリンクが切断された。

 

 

「……どうして無言なんだ?まさか、話せないようなことでも―――」

 

「いやいや、そんなのないさ。ただちょっと、考え事していただけだから」

 

「―――」

 

 

 狐面の女性が、怪しげにシロを見る。あそこまで無言が続けば、仕方のないことだが。すると、狐面の女性が見定めたかのように、こう言った。

 

 

「―――そうか、あの波動は、お前のものだったのか」

 

「正解。まぁ試したのもあるんだけど、やっぱりこのくらいは分からないとね」

 

「そうだな」

 

「…さて、待たせてごめんね。少々、二人には話しずらい内容だから、僕の口から話すよ。嘘偽りなく、ね。許可してくれるかな?

 

「――――……許可する。分かった。お前の言葉を信じよう」

 

「「ッ!」」

 

 

 零夜とルーミアは驚愕の表情を浮かべる。

 狐面の女性の性格と一言で表せば、堅物だ。そんな彼女をたった数秒で懐柔して見せた。シロのその腕前に、驚きを隠せない。だが、不審に思うこともある。

 

 

(信頼要素もないあの内容で、あの女は一体シロの()()()()()()()?それに、『許可』ってどういうことだ?)

 

 

 話の内容にあった、『許可』と言う単語。一体、シロは何を提案して、狐面の女性は何を許可したのか、分からないことばかりだ。

 普通、信じて貰えるように話すのが普通だが、『許可』と言う単語はこの手の話には明らかに不自然過ぎる。

 『許可』と言う単語に、どんな意味が隠されているのだろうか。

 

 

「それじゃあ、一から話すとね―――」

 

 

 シロはこれまでの経緯をかいつまんで話した。そして話した内容を要約すると、

 

 自分たちはとある目的を持っており、三人で行動を起こしていること。

 その目的の最中に冥界に立ち寄り、その際にレイラと戦ったこと。

 その目的の足掛かりとして、かぐや姫の懐に入る必要があること。

 零夜が戦ったゲレルの情報を。

 

 時々違うことも言いながらも、辻褄の合うように話していた。

 

 

(それにしても…)

 

「それで、零夜――黒い方の彼のことね。で、彼が疑ったゲレルと君の関係性についてなんだけど、正直なところ俺もよく分からない。能力が似通うなんてことは稀にあることだけど、やっぱり関係を疑わざる負えないんだよね」

 

「―――それで?」

 

「だから俺は一つの仮説を立てた。まぁそれを言うのは(はばか)られるから言わないけど」

 

(口がうまいな、アイツ)

 

 

 零夜が口を滑らせたところを、シロはうまくカバーしていた。そもそも、目の前の女性とレイラの関係性すら分からない状態だ。未来で知り得た情報を出すのは不味すぎた。女性はゲレルのことを死ぬほど恨んでいる。だというのに、自分と宿敵のなんらかの関係性を仄めかすような発言は、限りなく危険だ。だが、その時は零夜はこの女性がゲレルを恨んでいたことを知らなかった。全ては後の祭りなのだ。だからシロは、そこをうまく本題に入れたようで躱したのだ。

 

 

(あとで礼、言っとくか…)

 

(礼なら今ので十分だよ)

 

(ちゃっかり俺の脳内除くなッ!!)

 

 

 狐面の女性にむけて喋っている最中だというのに、こちらに向ける意識まであるとは。ある意味感服だ。ある意味。

 

 

「それで、お前らの目的とはなんだ?」

 

「それはね…LOVE&PEACE、愛と平和さッ!!」

 

「は?」

 

「「??」」

 

 

 何言ってんだこいつは、と、三人の心が一致したような感じになった。狐面の女性は呆けた声を出したが、二人は顔には出たが声には出なかったため、そこは偉かった。だが、二人も内心穏やかじゃない。

 

 

(え、何言ってんのコイツ?)

 

(むしろその愛と平和を脅かしてる側だろ…)

 

「そ、そうか…、そ、それ、は、素晴らしい、目的、だな…」

 

 

((絶対信じてない。まぁ分かるけど))

 

 

 狐面の女性は明らかにたじろいでいる。まぁ明らかに愛と平和とは程遠い人物(ヤツ)なため、信じろと言うのも無理があるが。ていうか絶対信じてない。

 

 すべて聞き終わった狐面の女性は、顎に手を当て、真剣な面持ちで、唸っている。しばらく、それが続き―――、

 

 

「……(にわ)かには信じられないが、それが真実なのだろう。まさか、未来から来るとは、想わなんだ」

 

「まぁ普通は信じられないよね。でもね、これが真実なんだよ」

 

「……それに、かぐや姫が月で生まれたなど、信じられなかったな。だがしかし、信じる他あるまい。それに……ゲレルのことが気がかりだ」

 

 

 そう、シロはゲレルのことについてなど、偽り(少し誤魔化しはしたが)なく話した。その場にいた零夜とルーミアが頷けるほどの説明だった。

 狐面の女性はそれらのことをすべて信じ、話を続ける。

 

 

「ゲレルが、私の上位互換の能力を使っていたんだろう?」

 

「あぁ、光を司って、光から派生する『雷』や『熱』の力を使ってきた。凄い強敵だったらしいよ。ね?」

 

「―――そうだ。だから、こっちは闇の力でなんとか撃退した。だから、アイツが俺のこと逆恨みしててもおかしくないな。つまり、互いに因縁の相手ってことになる」

 

 

 未来のゲレルは既に葬っているが、ここは過去の世界だ。ゲレルは確実に生きている。だからこそ、“撃退したが取り逃がした”と言う事実を創り出すために口裏を合わせる必要があった。そこら辺は、シロの念話でいくらでも可能だ。

 

 

「……しかし、何故ゲレルが私の能力の上位互換を…ゲレルには能力を奪う力でもあるのか?」

 

「さぁな。まぁもしかたらそういう能力を持っていてもおかしくはないが、もしそれが事実だとしても【光】の能力以外使ってこなかったからな…」

 

 

 もしゲレルの能力が敵の能力を奪うなどと言うチートであれば、複数の能力を使ってきたはずだしなにより、零夜やルーミアの能力を奪ってきてもおかしくはない。

 

 

「奪うのに条件があるとすれば……例えば、殺した相手の能力を奪うと言う能力であれば、おかしくはない」

 

「それでも、ゲレルは光の能力しか使ってこなかった。だから能力の強奪はないだろう」

 

「でも、零夜のことナメてて、最後まで使わなかった可能性もあるね」

 

「あぁ、アレのことなら十分あり得るな。自分のこと最強だと思ってる定型的なバカだったから」

 

「そうだね……あとほかに、なんかある?」

 

「「「「――――」」」」

 

 

 完全に言葉に詰まった。と言うより、これ以上の考察ができない。

 いや、正確には、一番有力な可能性が、誰も口にできないことだ。

 

 

(―――俺らの知っているゲレルが、こいつ(狐面の女性)の子孫だと言うこと…)

 

 

 考える中で、この説が一番有力なのだが、この説が本当だった場合、最大の矛盾が生じる。

 もしこの説が正しかった場合、この時代のゲレルはなんなのか?

 狐面の女性の反応から察するに、ゲレルはこの時代ですでに悪行の限りを尽くしているだろう。これを踏まえれば、零夜たちの知っているゲレルが狐面の女性の子孫だということ自体おかしい。それに、彼女が配偶者を作るなど、想像すらできない。

 つまり、この説は塵と化したも同然だ。だから皆、口に出さない。

 

 

「どちらにせよ、分からないことが多いが、怨敵のことが分かった言うのは僥倖だ。私は、これからも強くなり続けるだけだ」

 

「強くなることは別に構わないんだけど、僕からも質問いいかな?結局、君とゲレルはどんな関係なの?」

 

「……冥界でレイラと戦ったのだろう。レイラは復活することなく幽霊として存在している。ならば、私の目的はただ一つ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『(かたき)討ち』だ。この私――【ライラ】の妹である、レイラの、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、狐面の女性―――ライラは、憎悪を孕んだ声で、淡々と答えた。

 

 

 

 

 

*1
ほぼ同列のもの同士が、互いに張り合って優劣のないこと




 狐面の女性の正体は、レイラの姉、ライラだった!

 ちなみに、巨大ロボですが、完全に趣味で取り入れてみました。
 まぁ、ライラに瞬殺されましたけどねw。

 ライラはシロの何を信じて話を信じたのか、いろいろと考察してみるのも、ありですよ?

 あと、ライラがルーミアに抱き着いた理由ですけど、単純にゲレルに恨みを持つ者として、妹を殺された者として、襲われかけた彼女(ルーミア)に同情したからですね。


 評価・感想お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。