東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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※49話の内容を改変したため、したがって50話の内容も変わります。2023/02/21



50 師匠と弟子※

「レイラの、姉…?」

 

 

 零夜は狐面の女性―――ライラの言葉に耳を疑う。

 地球(ほし)の本棚で調べた、アラビア語で『夜』を意味する言葉だ。

 

 ライラは、自身をレイラの姉と言った。確かに、ライラとレイラが双子の姉妹と考えれば、見た目の共通点にも説明がつく。

 見た目の問題は、それだけでも納得できる要素だ。

 

 

「ちなみに聞くが、お前とレイラは双子の姉妹なのか?」

 

「そうだ。私とレイラは、時と同じくして生まれたれっきとした姉妹だ」

 

「――そうか…。シロ、お前は知ってたか?」

 

「流石の僕も、これは初耳だ。僕は、全知全能じゃないからね」

 

 

 この反応を見るに、どうやらシロにも知り得ない情報だったようだ。

 確かに、正直ここら辺の知識はシロに頼りすぎている(ふし)がある。これも仕方のないこと、シロとて万能ではないと言うことだ。

 

 

「――――」

 

「――?」

 

 

 仕方ない――と思っていた時、ライラの顔がシロの方に向かっていた。

 仮面で表情は分からない。故にシロにどんな感情を向けているのかが理解できない。

 

 

「……とにかく、お前等の事情は大体分かった。正直、まだ信用できない部分もある。だが、話せる相手であることは理解した」

 

「そうか。ありがとう。感謝を述べる」

 

「感謝されるほどのことではない。それにしても…そうか、やはり、レイラは幽霊として存在する道を選んでいたのか…《b》」

 

 

 ライラが呟いた言葉を、零夜は聞き逃さなかった。

 東方project(この世界)の定義として、《b》妖怪は死んでも生き返る。例えどんな無残な殺され方をされようが、問答無用で生き返る。復活するのが叶わないのなら、幽霊として存在することができる。

 むしろレイラが復活することなく幽霊として存在していた謎も解けた。妖怪は肉体は強靭だが、精神は脆弱だ。肉体的ダメージはバラバラにされても回復するが、精神的ダメージなら致命傷を与えることが可能だ。ゲレルに襲われて尊厳を粉々に破壊された、それだけでもレイラが復活を拒む理由としては十分だ。

 

 

「……少し、話から逸れてしまうが、いいだろうか?」

 

「……なんだ?」

 

「実は、会ってほしい相手がいる。どうか了承してくれないだろうか?」

 

「…内容によるな。どんな内容なんだ?」

 

「―――私の弟子に、会ってもらいたい」

 

「……弟子?」

 

 

 『弟子』。この言葉に零夜は再び耳を疑い、ルーミアが驚愕した表情になる。シロはフードで顔が隠れているため、表情は確認できない。

 言葉の意味をそのまま取ると、彼女は弟子を取っている。堅物のイメージがある彼女が、弟子を取るなど想像もつかなかったため、二人は驚いた。

 

 

「お前……弟子なんていたのか」

 

「以外…」

 

「おい、流石に失礼だぞ。私にだって弟子はいる」

 

「そうか…」

 

「まぁまぁ、取り合えず、その弟子さんに会えばいいんだよね?会って、どうすればいいのかな?」

 

「……お前と、お前。二人のどちらかと、戦ってもらいたい」

 

 

 ライラが指名したのは、零夜とルーミアの二人だ。指名された二人は、目が点になる。 

 

 

「戦って…なんで私たちなの?」

 

「実は、私の弟子は、実戦経験が(とぼ)しくてな…。ほぼ私との戦いしか、やっていないんだ。野生の妖怪と戦わせることもしばしばあるのだが、如何せん、弱すぎてだな…」

 

「……まぁ、野生の妖怪なんて本能で生きてるからな。まともに戦える知能も有してないし、仕方ないだろ」

 

「そう、そうなんだ。だから、あいつには新しい風を吹き込ませたいと思っている」

 

 

 ライラは、自身の弟子に実戦経験を豊かにするために、零夜かルーミアと戦わせようとしているようだ。

 しかし、そこでルーミアがある疑問を抱く。

 

 

「その意味は分かったけど……なんでシロがそこに入ってないの?」

 

「それは……」

 

「単純だよ。僕じゃ強すぎるし、その弟子さんを大怪我させかねないからって理由でしょ?」

 

「……そうだ」

 

 

 ライラの目的が弟子の実戦経験を積ませることであれば、シロは適応外すぎる。

 理由は単純。シロは強すぎるため、瞬殺される可能性が大だ。それを考えれば、シロは自動的に除外されるため、この判断は正しいと言える。

 

 

「とりあえず、一通りの要求は分かった。これくらいだったら、別に問題ないよね?」

 

「あぁ、俺は意見はない」

 

「私も」

 

「要求を通してくれて、感謝する。それでは、私もそれなりの誠意を見せようと思う」

 

 

 そう言うと、ライラは狐面を外し、その素顔を晒した。

 狐面の奥にあったのは、レイラとよく似た顔立ちの、美しい美貌を持った女性だった。双子の姉妹と言うだけあって、姉と妹ともども、とても美人だ。

 ライラとレイラを比較すると、レイラは桜の木を背景にするとよく似合う美人だが、ライラは梅の木と散らばる花びらを背景にすると、良く似合う美人だ。

 ちなみに、桜の花言葉は「精神美」「純潔」「優美な女性」であり、梅の花は「高潔」や「上品」と言う意味を持っている。

 ライラの素顔を見た零夜は、呟く。

 

 

「…なんだ、仮面取った方が、似合うじゃねぇか」

 

「生憎だが、私の素顔は私が信頼に値する者にしか見せないことにしている」

 

「つまり、俺らはその信頼に値する人物って捉えてもらったってことか?」

 

「言っただろう。誠意を見せると。これが、私なりの誠意だ」

 

 

 そう言い、ライラは小さくほほ笑む。

 

 

「――――」

 

「――ん?どうした、ルーミア?」

 

 

 零夜が横を向くと、何故かルーミアが頬を膨らましていた。

 

 

「別に……何でもない」

 

「いや確実になにかあるだろ。なんか拗ねてるだろ」

 

「なんでもないったらなんでもない!」

 

 

 拗ねていることを拒否しながらも、完全に拗ねているであろう反応に、困惑する零夜。思考をひねり、彼が出した結論は――、

 

 

「まぁ、何もなければいいんだが…」

 

 

 スルーだった。この手には、いくら内容を聞こうとも決して話そうとしないタイプだ。だからこそ、無理矢理聞かずに諦めた。

 

 

「……どうやら、拗ねさせてしまったようだな。すまない」

 

「別に!あなたに謝ってもらう必要なんてないから!」

 

(……こいつ、いつの間に面倒くさいキャラになったんだ?)

 

 

 千年前とのキャラのギャップに、困惑を示す。

 しかし、人も妖怪も例外なく成長する生き物だ。千年と言う年月が過ぎれば、彼女の性格が変わっていても、別におかしくはないと零夜は心の中で納得する。

 

 

「それでは、着いてきて「あぁちょっと待った」どうした、まだ何かあるのか?」

 

 

 ライラを静止し、シロはここから少し離れた物陰に移動する。

 そこでしゃがむと、何かを掴む動作をして、再び立ち上がる。

 

 

「あっ、それは…」

 

「妹紅」

 

 

 シロが背中に担いでいたのは、今だに気絶している妹紅だった。

 シロが強烈なオーラを放つために、妹紅に影響を及ぼさないためにあえて気絶させていて、今までずっとあの物陰に隠していたようだ。

 

 

「――彼女は?」

 

「人間の捨て子さ。いろいろな事情があって捨てられて、僕らの旅に同行してもらった次第だ」

 

「……そうか。その年で、その子の親はなんとむごいことを…」

 

 

 ライラは俯き、妹紅を捨てた親への怒りを露わにする。

 

 

「おっほん!でも、彼女はすでに父親と決別しているから、大丈夫だと思うよ?」

 

「……もし、その子がそうだとしても、私はとても許容することはできない…!」

 

 

 ライラの憤慨が、ひしひしと伝わってくる。

 少しして、自分が我を見失っていたことに気付く。

 

 

「―――すまない、取り乱した。それでは、向かおうか」

 

 

 そう言い、ライラは最初に現れた方向に向けて、歩き出す。

 

 

「あ、待って」

 

「なんだ?また何かあるのか?」

 

 

―――その矢先に、シロが待ったをかける。

 

 

「聞きたいんだけどさ、ここからその場所まで、どのくらいかかる?」

 

「えっと、そうだな……。お前の気配を感じてから、能力を使って全力で走ってきたからな、詳しい距離は分からん」

 

「うん、こっちの方が早いね」

 

 

 光を操る能力を持つ彼女が、全力で走ってきたと言うことは、ここからかなりの距離があることが安易に予想できる。

 彼女なりに、人間の子供を担いでそこまでの速度は出せないと考慮したのだろうが、いくらなんでも徒歩など夢想の中の夢想だ。

 

 見かねたシロが、ライラの頭に手を乗せる

 

 

「な、何をする!?」

 

「―――『権能』発動」

 

 

 シロがそう呟いた瞬間、五人を巨大な黒い穴が包み込んだ。

 

 零夜、ルーミア、ライラの三人の視界が、真っ暗闇に染まる。

 だが、それは一瞬の出来事で、すぐに暗闇の世界が、光に包まれた。

 

 

「一体、何が…!?」

 

 

 零夜がゆっくりと目を開けると、そこには先ほどとはまったく別の景色が広がっていた。

 

 先ほどの場所は陽の光が入る巨木が連なる樹海だった。

 しかし、ここは木の一本すらない、緑が生い茂る草原だった。そして、正確に言うと、木がないのはこの辺りの話であり、目を凝らしてよく見ると、遠目で分かるほど遠くに森のようなものが見える場所だった。

 

 

「こ、ここは…?」

 

「ここは、私が当初、いた場所だ…」

 

 

 困惑するルーミアに説明するように、ライラが補足する。

 どうやら、零夜達はライラが最初にいた場所にワープしたようだ。

 

 

「シロ、これはどういうことだ?」

 

「僕の『権能』のコンボ。ライラの最近の記憶を読み取って、ワープの『権能』で移動したんだよ」

 

「……お前の規格外さに、慣れている俺がいるよ…」

 

 

 シロの言い分から考えるに、シロは二つの『権能』を用いて記憶(メモリー)入手(インストール)して、ワープをしたようだ。

 言葉だけ聞くと、とんだ幻想かと思うが、それをやってのける力、『権能』とは一体なんなのか、零夜の頭を苦しめる。

 

 

「さて、言いつけ通りなら、ここで待っていろと言っているはずだが―――」

 

「――師匠?」

 

 

 刹那、零夜達の背中から聞こえた、少年の声。声から察するに、歳の頃は15~16と言ったところだろうか。

 師匠と言っている辺り、彼がライラの弟子なのだろう。

 そして、背中で感じるは、妖力。つまり、ライラの弟子は妖怪だ。

 

 全貌を確認するために、一同は振り向き―――凍り付いた。

 

 

「――――」

 

「師匠、その人たちは…?」

 

 

 目に映った少年は、ライラに似た金色の髪を短髪に整え、紅色の瞳を持ち、黒と赤で統一された半袖長ズボン、その上に水色の長袖法被(ハッピ)を着用していた。

 腰には、上等な刀がかけられており、鞘も上質なものに見える。

 

 そして、女性に近い顔立ちをしている美丈夫(びじょうぶ)を持った少年だった。

 だが、その顔に近い、オリジナルを、零夜達は知っていた。

 

 

「―――レイラ…?」

 

 

 その顔立ちは、レイラにとても良く似ていて。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 バカな、そんなことがあるはずがない。

 零夜は頭をリフレッシュするために目を(こす)る。しかし、現実が変わることなどなく、レイラに似た顔立ちの少年は、今もこうして目の前にいる。

 

 目の前の現実が、零夜の脳内キャパを超え、硬直していると、耳元にライラの声が聞こえた。

 

 

「少し黙っていてくれ」

 

 

 そう言い、ライラは目の前の少年に近づいて話をする。

 黙ってくれと言われたが、すでにこの現状を理解するために、喋ることなどできない。

 

 

「師匠、この人達は…?」

 

「私の客人……とでも思ってくれ。とにかく、気にしなくて問題ない」

 

「まぁ…師匠が仮面を取っているわけですし、大丈夫ですね」

 

 

 少年も、ライラが仮面を外す意味を理解しているらしく、当初見せていた警戒の表情も、今ではすっかりなくなっている。

 

 少年は零夜たちに近づいて、お辞儀をする。

 

 

「どうも、初めまして。俺の名前は紅月(アカツキ)紅夜(コウヤ)。師匠の弟子です」

 

「……零夜(レイヤ)。夜神零夜」

 

「ルーミアよ」

 

「……シロ」

 

「ところで、どうして俺達のところに?」

 

 

 紅夜と名乗った少年は、自己紹介が終わると率直に疑問をぶつけた。

 その疑問を、ライラが答える。

 

 

「実はだな、紅夜。夜神とルーミア、この二人とお前に戦ってもらおうと思って、連れてきた」

 

「え!?どうしてそうなるんですか!?」

 

「理由は単純だ。お前は知性がある相手との実戦経験が乏しすぎる。そう言った相手との戦いなんて、せいぜい私が大半だっただろう」

 

「……つまり、俺と二人を戦わせて、実戦経験を(つちか)うのが目的…ってことですか?」

 

「そうだ。流石私の弟子だな!はっはっは!!」

 

 

 ライラは大声で笑い、紅夜の背中を叩く。

 会った当初のイメージはどこへやら。紅夜の前だとあそこまでテンションが高くなるのかと、達観する。

 

 

「痛いですって!……ちなみに、シロさん、でしたっけ?なんでその人は除外されているんですか?」

 

「そんなの決まってる。理由は私と同じで、お前じゃこいつに傷一つ付けられないからだ」

 

「えぇ!!この人、師匠と同等の化け物なんですか!?」

 

 

 カッチーン。ライラからそう擬音が聞こえた気がした。

 ライラから強烈なゲンコツを頭にもらい、悶えている。

 

 

「痛い!」

 

「誰が化け物だ?もう一度言ってみろ」

 

「だって!師匠と同等ってことは、首に刀入れても傷一つつかないってことじゃないですか!」

 

「え、なんだそのバケモン?」

 

 

 これには耳を疑う。首に刃を入れて無傷だなんて、化け物と言わずしてなんというのだ。

 シロをジト目で見ると、シロはフードの奥で笑顔になって、

 

 

「ちなみに聞くが、これはお前でも該当するのか?」

 

「はは、相手にもよるけど当て嵌まるよ?」

 

 

 シロはそう笑い飛ばすが、笑いごとではない。と言うか、ライラと紅夜の場合それをやったのかとツッコミたくなるが、これは、あれだ。口に出したら負けと言うやつだ。

 

 

「―――」

 

「でもさ、それって妖怪だからじゃないの?私だって、弱っちい人間の攻撃受けたって無傷よ?」

 

 

 ルーミアがそこに補足を入れる。

 確かに、弱小人間と強い妖怪の溝は底なしだ。弱い人間が強い妖怪に剣を振るって当たったとしても、傷をつけることはできない。

 その理屈で考えれば、その現象も説明がつく。

 

 

「だから、弱者と強者の違いで傷をつけられないってことも、あるんじゃ―――」

 

「いやそんな次元じゃないですよ!師匠は無防備で、俺は全力で攻撃したのに、傷一つつけられなかったんですよ!そんなの異常すぎますって!」

 

「「――――」」

 

 

 そんなことをしていたのかと、唖然となる。紅夜が恐怖するのも無理はないと思った。

 そもそも無防備の師匠を攻撃すると言うだけでも精神的にかなりきつくなるのに、ましてや狙いは首。確実に死ぬであろう急所を攻撃しろと言ったのだから、心にトラウマを植え付けられていたとしても不思議ではない。

 

 それに、そんな状態で無傷など、一体どれほどの防御力を――、

 

 

(……あれ、前にも一度、こんな話を聞いた覚えが…。確か、依姫からだったか?)

 

 

 思い出すは、3対月の戦争の時、依姫が臘月を裏切ってこちらの仲間に入った際、その経緯を説明して、依姫の(クビ)を狙った攻撃に臘月が無傷だったと言う話を思い出した。

 その話は、今の話と酷似している。と言うかそのまんまだ。

 

 

(頸の攻撃が無傷…。いや、頸だけとは限らない。事実、臘月相手では、俺やルーミアの攻撃も服にすら通らなかった)

 

 

 ウラノスを相手にした際はチートを使ってゴリ押ししたが、その反動による内傷があり、いくら傷が回復したとはいえ本気を出すことはできなかった。

 それに、攻撃が通らないことに、なんらかの規則性があるのだとしたら―――、

 

 

(俺の攻撃が通らない相手は、知っているだけでもシロと臘月。……そしてレイラ。あと、今の話からライラを入れると、四人。この四人の共通点は……『イレギュラー』であること)

 

 

 攻撃が通らない相手の共通点が、イレギュラーであることだと気付いた零夜だが、イレギュラーであることはあまり関係なさそうだということに同時に気づいた。

 その理由は、単純だ。

 

 

(俺もイレギュラーだってのに、攻撃は通る。ルーミアは【準イレギュラー】だから省くとしても、攻撃が通らない理由に、この共通点は関係なさそうだな)

 

 

 結局、この程度の情報では真理にたどり着くことなどできなかった。

 零夜が考え事をしている合間にも、話は進んでいて、ライラが紅夜に対してものすごい形相をしていた。

 

 

「―――(何この状況?)」

 

「……紅夜。お前が私をどのように考えていたのかがよぉ~く分かった」

 

「い、いや、あの、その…(や、ヤバイよ!初めて他の人と会話らしい会話したから浮かれて師匠がいること忘れてた…!)」

 

「……予定変更だ。今まで手を抜いて戦ってきたが、今日は特別に少し本気を出そう。そうだな……いつもなら1割だが、今日は特別に3割だ」

 

「え、遠慮しておきま「やるだろう?」ヤリマス、ハイ…」

 

 

 考え事をしていて話を聞いていなかったが、予想するに紅夜はいつものライラの怪物っぷりを淡々と話していたのだろう。

 そして、それはライラの存在を途中から忘れるほどに。愚痴も入っていたのだろう。

 

 それが原因で、現在に至っていると説明されても納得が出来る。

 

 

(あいつ……真面目そうに見えて、抜けてるところあるな…)

「なぁ、そう言えば途中から考え事してたから、話聞いてなかったんだが…なにを言ってたんだ?」

 

「き、聞きたい?かなりヤバイわよ…?」

 

 

 話を聞いていたであろうルーミアの顔が蒼白になっている。

 一体、どんな恐ろしい話を聞かされたのか。逆に興味が湧いてくる。

 

 しかし、彼女の状態を見るに、あまり聞かないほうがいいのかもしれない。

 

 

「……じゃあ聞かない」

 

「賢明だと思う。すごく」

 

「―――」

 

「逆に、それをやっていて耐える彼のメンタルを、逆に関心したわ…」

 

(どんだけだよ。……しかし、ここまでのスパルタ指導を受けてるのに、それを語る度胸があるのはすごいな。いや、よくラノベとかであるスパルタ指導の中で、覚えていないほどきつい修行があるとか、そういう部類なのか…?)

 

 

 よく、ラノベなどで本人が覚えていないほどのスパルタ指導をする場面があるが、もしかすると目の前の師弟も同じなのかもしれない。

 紅夜が語ったのはあくまで彼が覚えている部分のみと言う仮説を立てる。そう考えれば、どうしても思い出せない―――本能が思い出すのを拒絶している修業内容も、存在しているかもしれない。

 

 だがしかし、どうしても気になる。知らないことを知りたがるのは、人間の(さが)だ。

 ルーミアに聞けないのなら、もう一人に聞けばいいだけだ。

 

 そう考え、シロの方を向く。

 

 

「――――」

 

「――?」

 

 

 シロの方を向くと、彼はずっとライラと紅夜の戯れ?を見ていた。

 フードの奥で、うっすらと見えるその口も口角は、微妙に上がっていて。

 

 

「今の()は……幸せそうだな。……見れて安心したよ」

 

「―――」

 

「……だからこそ、助けるから」

 

 

 小声でそう言った後、シロは再び無言になって、ライラと紅夜の戯れ?を再び見続ける。

 

 シロの言葉の意味は、なんなのだろう?

 彼はたまに含みを入れるようなことを喋るが、最近はそれがめっぽう多くなっている。

 

 今の場合だと、君に該当するのはライラと紅夜だけだ。そして、ライラと出会った時の反応もほぼ動揺することはなかった。

 つまり、君と言うのは紅夜しか該当しない。

 

 

(紅月紅夜…。あいつと何らかの関係があるのか?だけど、あっちはシロのこと知らなそうだし…まぁフードつけてるし、声変わってるし当然か?いや、それにしてもこいつの友人関係には謎が多い)

 

 

 シロの友人関係は分かっているだけで紅夜、圭太、そして謎の旧友(ヘカーティア)だ。

 圭太はほぼ洗脳状態にあったため覚えてないもの仕方ないとして、紅夜の反応は初対面の反応だった。だがしかし、シロは紅夜を一方的に知っているようだった。

 

 

(まぁとにかく、今は目の前の方に集中するか。はてさて、今はどんな状況か…)

 

 

 零夜が目の前を見ると、ついにライラと紅夜の戦いが始まるところだった。

 

 ライラは構えと言う構えはしておらず、ただ刀を抜刀しているのみ。

 対して紅夜は腰に会った刀を抜刀して構え、強い瞳でライラを見ている。先ほどの恐怖はどこへやらと思うが、紅夜はライラの強さを知っているからこそ、恐怖を押し殺して向き合っているのかもしれない。

 

 しかし、今のライラは1割ではなく3割の力を出すつもりでいる。つまり、ライラの力ならば1割と事足りるということ。

 3割出すと言うことは、紅夜にとってかなり厳しい戦いになるだろう。

 

 

「―――はぁあああああ!!」

 

 

 紅夜がライラに向かって地面を蹴り、刀を振り下ろす。

 

 

「愚直すぎるぞ」

 

 

 が、その程度のスピードのジャンプなどライラに通用するわけもなく、難なく躱される。

 光の速度を出せるライラにとって、きっとスローに見えているだろう。

 

 そのまま刀の柄を振り下ろし、紅夜に向けて一撃。

 

 

「―――ッ」

 

 

 しかし、ライラの振り下ろした腕に向かって、地面から石の柱が突出した。

 当たることを忌避したライラは腕を振り上げて攻撃を回避する。その隙に、ライラと距離を取った。

 

 

「流石だな。これくらいやらなければ、私の弟子は務まらん」

 

「師匠の攻撃は素早いですからね!一手二手先を読むんだって、口癖じゃないですか」

 

「そうだな。今日は客人もいるからな。次はお前に先の一手を出させてやる。さぁこい!」

 

「それではお言葉に甘えて、これなら!」

 

 

 紅夜が手を地面にかざすと、地中から複数の巨大な岩石が浮き出てくる。

 複数の岩石は、ライラに狙いを定め、発射される。

 

 

「乱れ撃ちか…。何度も行っている上に、私はこの技を何度も見ている…。鍛え直さねばならないな!」

 

 

―――無数の光の斬撃が、ライラの前方から放たれる。

 光の斬撃は視界と岩石を蹂躙し、すべてを真っ白な世界へと切り替えた。

 

 

「……眩しい」

 

「お前は闇の妖怪なんだから、人一倍光に弱いだろ。目つむってろ。にしても、あの斬撃、かなりの速度だったな」

 

「そうだね。今の一瞬で、斬撃分の数だけ刀を振るってた」

 

「え、あれ振ってたの!?全然見えなかったんだけど…」

 

「そりゃあ発光とほぼ同時の速度だったからな。俺は能力で、視認する『光』と『ライラ』を『分離』して、『光』を除外して『ライラ』だけを見えるようにした。あとは持ち前の洞察能力だけだ」

 

「僕はただ五感が良いだけだけどね」

 

「自慢かよ」

 

 

 零夜は能力の補助と自前の視力を使ってようやく見えたほどだが、シロは普通に視力だけでライラの攻撃を見たらしい。

 人間の瞳は許容量以上の光を見ると本能的に目を閉じるが、彼はそれをどうやったカバーしたと言うのか、皆目見当がつかない。

 

 

「それに、紅夜はどうやら、岩を操る能力があるみたいだね」

 

「そうだな。攻撃と隠密に向いてるな」

 

 

 見るからにだが、紅夜の能力は岩を操る能力だろう。

 岩を操っての攻撃、地面の岩盤を盛り上げて隠れ蓑を作ると言ったことに長けている。

 

 

「さて、ここからどうしてくるか――いない?」

 

 

 すべての岩石を破壊し終えたライラが目の前を見ると、そこに紅夜はいなかった。

 その代わりに、空中に複数の先ほどの1.5倍ほど大きな岩石が浮遊していた。

 

 

(……あの岩石から紅夜の気配を感じる。岩の大きさを利用して、姿を隠しているな。気配をなるべく消しているようだが…まだまだだ!)

 

 

 岩石から紅夜の気配を感じ取ったライラ。

 そのまま巨大岩石がライラに向かって放たれ、ぶつかりかかる前に何度も斬り伏せる。

 

 

「そこだ!」

 

 

 そして、最後に襲い掛かってきた岩石を斬る。

 ライラの背中で真っ二つになった岩石。だが、そこでライラはある異常に気付く。

 

 

(今の岩石…斬った感触がほとんどない!まさか!)

 

 

 ライラが後ろを向くと、斬った岩石の内側から、紅夜が飛び出してきた。

 “やられた”。ライラは咄嗟にその言葉が脳内に浮かんだ。

 

 紅夜の気配が岩石にあることを確認しただけで、まさか岩の内側に潜んでいるなど思いもしなかった。

 岩から飛び出した紅夜は、刀を斜めに凪った。

 

 

「なッ!?」

 

 

 だがしかし、ライラの姿が掻き消えたことにより、奇襲は失敗に終わった。

 そのまま、紅夜の首元にライラの刀が添えらえた。

 

 

「……負けました」

 

 

 紅夜は負けを認め、それを聞き入れたライラが刀を納刀する。

 

 

「――紅夜。あれをいつ考えた?」

 

「特別なことはありませんよ。ただ、師匠がいない間一生懸命考えていただけです」

 

「―――馬鹿者!」

 

 

 突如、そう叫び紅夜にゲンコツを浴びせる。

 その表情は、先ほどの静かな怒りとはと違い、激情していた。取り乱して、どこか、悲痛な部分が見える怒りを露わにしていた。

 

 

「うッ!」

 

「もしあのまま私が岩石を細切れにしていたら、中のお前ごと斬ってしまうところだったぞ!」

 

「そ、それは…」

 

「とにかく!この奇襲は禁止だ!二度と使うな!」

 

 

 ライラの叱責に、完全に委縮した紅夜は、うつむいたまま無言になった。

 ため息をついたライラは、零夜たちの方に向き直り、

 

 

「呼び出したのに済まないが、今日はもう遅くなってしまった。明日、紅夜と戦ってくれないか?」

 

 

 空を見ると、空は赤く染まっていた。

 夕暮れ時だ。もうすぐ、夜がくる。

 

 

「……分かった。とりあえず、今日も野宿でいいな」

 

「せっかく来てくれたのに、本当にすまないな」

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

「「「――――」」」

 

 

 時間帯は、真夜中。場所は夜の山。

 その場所に、三人の男女が立っていた。

 

 山の山頂に立つのは、長い金髪の美女――ライラと、その後ろ――背中を見ている二人の男性。白装束の男【シロ】と、黒装束の男、【夜神零夜】。

 

 三人は無言のまま、互いに何も話さない。

 

 ちなみにだが、ルーミアと妹紅、紅夜の三人はここから離れた場所で野営をして眠っている。

 三人は、紅夜達が寝静まったことを確認した後、この場所に来ていた。

 

 三人は沈黙したまま、なにも喋らない。

 しかし、喋らなければ、話は進まない。だからこそ――、

 

 

「……なぁ、ライラ」

 

 

 その沈黙を、零夜が破った。

 その言葉を聞いて、ライラが後ろを振り向いた。

 

 

「なんだ?」

 

「……紅夜について、聞きたいことがある」

 

「…そうだね。顔立ちが……レイラそっくりだった。大体、予想はつくけど、さ…」

 

 

 零夜は紅夜の顔を思い出す。

 男性だが、顔立ちはレイラに似ている。ライラとレイラは双子姉妹なので、ライラにも似てなくはないが、顔のパーツはレイラよりだ。

 

 

「…あぁ。お前たちの、思っている通りだ」

 

「「――――」」

 

「警告はしておいたが、紅夜に言わないでいてくれて、感謝する」

 

「まぁ、普通に考えれば、言わないのが得策だ。紅夜は、レイラにそっくりで、とてもただの師弟関係とは思えなかった」

 

「むしろ、ライラ。君の息子だと言われても、全く不自然じゃないくらいだ」

 

「……私とレイラは、良く似てたからな。紅夜が似るのも、無理はない」

 

「……傷を抉るようで悪いが、紅夜の、父親と、母親は、もしかして――」

 

 

 今まで取り入れてきた情報を組み合わせれば、その答えも自然と出てきた。

 むしろ、()()があったとしても、全くおかしくないと思えるほど。

 

 ライラはそのまま、小さな声で――、

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、紅夜は……ゲレルとレイラの子供だ」

 

 

 

 

 

 

 

 予想していた答えが、ライラの口から出た。

 

 

 

 




 衝撃! 紅夜はゲレルとレイラの子供だった!

 生まれた経緯は……ゲレルの性格を考えれば、悪い意味で予想できちゃいますよね。


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