東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 どうもー20日ぶりです。

 いろいろと孝作して、やっと話がまとまりましたよ。

 それでは、どうぞ!

 2021/11/21 『権能』の一部設定変更及び内容の変更


51 『権能』※

「……やっぱりな」

 

 

 ライラから聞いた事実に、零夜とシロは納得した。

 そもそも零夜とシロ、二人はその可能性をすでに見出していた。

 

 第一、紅夜は双子であるライラとレイラの顔立ちとよく似ている。それだけでも、レイラと無関係と言うのは些か無理がある。紅夜の母親が、ライラかレイラであることは、安易に予想できる。

 

 では、紅夜の母親はライラとレイラどちらなのか。これも簡単だ。

 紅夜の顔は、ライラとレイラ。どちらと似ているのかと言われれば、レイラに似ているからだ。

 

 それに、ゲレルの性格とレイラのゲレルに対する怒りから考えれば、父親がゲレルであることも、予想ができる。

 

 予想していた分、驚きはあまりない。あるのはむしろ答えが出たことによる安堵だ。

 

 

「この際だから正直に話すが……紅夜は、ゲレルがレイラを孕ませてできた子だ」

 

 

 その答えもすでに分かっている。この世にゲレルに惚れるような女がいるわけがない。むしろ、その逆。

 ゲレルは【女】と言う生き物を『子を産むための道具であり玩具』であると言う価値観を持っている。それを踏まえれば、ゲレルの子は全員、望まれない子供と言うことになる。

 

 

「まぁ、ゲレルの性格から考えて、そうだってことは安易に予測できる」

 

「ゲレルの性格は、外道の類であることは理解している。でなければ、レイラは死ぬこともなかった。紅夜が生まれてくることも……!」

 

 

 ライラは苦虫を嚙み潰したような表情になり、拳を力強く握る。

 ゲレルを憎く思うのは、最早自然のことだった。しかし、ライラがゲレルを憎く思っているならば、不自然に思うことが一つある。それは、紅夜の存在だ。

 

 

「だったら、どうして弟子として育てたりなんてしてるんだ?あいつは、ゲレルがレイラに無理やり孕ま――ゔゔんッ……憎くないのか?」

 

 

 心の傷が残っているかもしれないのに、この聞き方は不敬だ。すぐに咳込んで、本題に入った。

 

 

「…憎くない――と言えば、嘘になる。私だって、最初は紅夜が憎かった。紅夜を拾った子として育ててはいるが、レイラの死因は、紅夜を産んだことだ。レイラは、衰弱した状態で紅夜を産んだからな」

 

「衰弱死、か…」

 

 

 今になって、初めてレイラの死因を知った。

 レイラは強敵だ。そのためいろいろと調べたが、すでに死んでいるために全く情報を入手することができかなかった。

 

 

「レイラは……優しかった。だから、紅夜を生かした」

 

「……逆を言えば、レイラが優しくなかったら、紅夜をその場で殺してた……ってことか?」

 

「……否定は、しない。当時も今も、私はレイラの死の原因を作ったゲレルを許すことはない。そして、当時の私は、紅夜も恨んでいた」

 

「……レイラが死んだ、遠因だから?」

 

「―――そうだ」

 

 

 シロの質問に、ライラはそう答えた。その表情は、司令官が苦渋の決断を下すような、そんな表情だ。恨みと理性がせめぎ合って、葛藤に悩んでいたのだろう。

 

 

「なるほど。じゃあレイラと同じ格好をしてるのは?」

 

「レイラの墓を建てた時、そのまま拝借した。本来なら罰当たりなのだが、レイラと同じ格好をすることで、ゲレルにレイラの『復讐』であること分からせるために、今も着ている」

 

「「―――」」

 

 

 ライラの考えは、確かに理にかなっている。

 普通、自分が殺した相手と同じ服装をしていたら、動揺するものだ。それは、罪悪感からくるもの。しかし、ゲレルのようなクズに罪悪感と言う感情すらあるかどうかすら分からない。

 いや、分からないのではない。ない。そう断言できる。

 

 だが、ライラの目は本気だ。本気でそう思っている。だから、二人がどうこう言っても無駄だ。

 零夜は話を一つ戻すために、頭を整理する。

 

 

「……確かに、辻褄は合う。―――」

 

 

 零夜は考える。確かに、辻褄は合う。だがしかし、一つ気になることがある。

 

 

(その時、ライラとレイラは一緒にいたのか?)

 

 

 ライラとレイラは、仲間依然に『姉妹』だ。ならば、一緒に行動していたとしてもおかしくない。

 レイラがゲレルに負けて、襲われて……その時ライラは何をしていた?

 

 もし一緒にいたならば、一緒に戦っていたはずだ。もし一緒に戦って負けたとしたら、何故ライラは無事で今ここにいる?

 ゲレルは捕らえた『獲物()』をみすみす逃がすような男じゃない。むしろ、絶望を楽しむような男だ。そんな男が、極上の獲物を逃すはずがない。

 

 そう考えれば、ライラはレイラの傍にいなかったことになる。しかし、そう考えれば、『もう一つの疑問』が浮かんできた。

 

 

「……ライラ」

 

「なんだ?」

 

「……お前さ、なんでレイラが襲われているのに気付いた?

 

「―――それは、どういうことだ?」

 

 

 ライラから、威嚇のオーラが放たれる。零夜はそれに負けずと、言葉を続ける。

 

 

「だっておかしいだろ。そもそも、もしお前がレイラとともに行動していたのなら、どうしてお前は無事なんだ?」

 

「……なに?」

 

「ゲレルは女を――しかも極上のモノとありゃあ絶対に逃がさない。そういう男だ。だがお前は無事だった。ましてやゲレルと対面しているのなら、俺らからゲレルについて詳しく聞く必要もない。つまり、お前はレイラと一緒にいなかったことになる。…違うか?」

 

「……そうだ」

 

 

 ライラは、思い言葉とともに、その事実を認めた。

 隠し通す意味もないと判断したのだろうか、とにかく素直に認めてくれたおかげで、話が進みやすい。

 

 

「話題を戻すが、お前とレイラは一緒にいなかったのに、どうしてレイラの身の危険を察知できたんだ?」

 

「それは単純だ。感じたんだ。強力なまでのレイラの妖力を

 

「……ちなみに、詳しい距離は?」

 

「……大体、約375里だと記憶している」

 

「375里…確か、1里が4kmだったよな?375掛ける4は―――」

 

「約1500km。単純に言えば東京から北海道までの距離だね」

 

「遠ッ!」

 

 

 その長さに、感服と驚愕の声を荒げた。単純に考えて良く1500kmからの場所からレイラの妖力を感知できたなと思う。零夜も、そこまでの距離までは感知できない。

 だがおそらく、ライラがレイラの力を感知できたのには他にも理由があるだろう。それこそ、双子の姉妹だからこその繋がりの強さがあるのかもしれない。

 

 

「そんなところから良く感知できたな…。俺でもそんなことはできないぞ?」

 

「それはまだお前が未熟だからに過ぎない。それに……あの時レイラは全力で戦っていたようで、妖気が駄々洩れで、只事ではないとすぐに察知して、駆け付けたが…間に合わなかった」

 

 

 ライラは見えないところで手を強く握った。あまりの悔しさだろう。当時のことを思いだして、歯ぎしりすら聞こえてくる。

 ――が、そこで、零夜はある一つの疑問を思い浮かべた。

 

 

「いや…おかしくないか?」

 

「……なんだと?」

 

「間に合わなかった?光の速度で動けるお前が?たった1500kmを?」

 

「…仕方なかった。当時の私は『覚醒』してなかったんだ。だから、光の速度で動けたわけじゃない

 

「―――どういうことだ?お前の能力は元々【光を操る】ことじゃないのか?」

 

 

 当然の疑問だ。光の速度で動けるライラなら、たかが1500キロなんて秒もかからずに間に合う。

 だが、ライラは当時『覚醒』しておらず光の速度は出せなかったと供述した。能力は、基本的には先天性だ。生まれた後で変わるなんてことは永遠にあり得ない。

 だからこそ、ライラの供述は矛盾を起こしている。零夜の疑問も当然だ。

 

 

「私だって詳しく知っているわけじゃないんだ。だから私に聞かれても困る。…正直、私に聞くより、こいつ(シロ)の方が“これ”について知ってそうだったぞ?」

 

「は?」

 

 

 ライラの指摘に、零夜がポカンとなる。そのままシロの方を向くと、シロは無言で立ち上がった。

 

 

「ここで振るか…。まぁいつかはこうなるはずだったし、時期が早まったって考えればいいか…」

 

「お前…なにか知ってるのか?」

 

「うん。なにかと言うより…めちゃくちゃ知ってる」

 

 

 なんだ、それは。つまりさまざまなことを知っていながらも、今までずっと黙っていたと言うのか。

 彼が秘密主義であることは周知の事実だが、まさかここまでの大事な情報を今まで隠していたなんて。

 

 そう思うと、零夜の丹田辺りから、怒りの炎が沸いて出た。

 

 

「お前なァ…!そういう大事なこと(情報)は最初から言えよ!!」

 

 

 零夜は大声で怒鳴り、喚き散らす。

 この行動は今に始まったことではないが、やはり慣れるものではない。やられるたびに、イラつく。

 

 

「ひィ~……怒鳴らないでよ…。“これ”に関しては、あとでちゃんと話すって言ったじゃん」

 

「そんなの、聞いた覚え―――」

 

 

 「そんなの、聞いた覚えがねぇよ!」と叫ぶ途中、零夜の頭の片隅に保管されていた記憶のデータ、今まで予想外のことがありすぎて、そのデータのことを完全に忘れていた。

 それはごく最近のことだ。零夜の知らない情報を、あとで話すとシロは確かに言っていた。

 

 それは―――、

 

 

「―――『権能』

 

 

 ぽつりと、呟く。

 確かに、『権能』については、分からないことだらけだ。これについては、いずれ話すとシロも言っていた。

 しかし、零夜が驚いていることはそこではない。ライラの言っている“これ”と、『権能』がなんらかの関係を持っている、いや、もしかすると“これ”自体が『権能』のことを言っているのかもしれない。

 

 零夜が呟いた言葉を聞いたシロは、ゆっくりと頷く。

 

 

「そう、それだよ。『権能』。それが君の疑問の答えさ。ちょうどいいから、話そう。『権能』とは、なんなのか」

 

 

 シロが片手の手袋を外し、パチンッ!と、指を鳴らすと、二人の景色が真っ暗になる。

 一瞬で、景色が闇色一色に染まった。そして、覚えている。二人はこの感覚を、前に味わった。

 

 

「「―――」」

 

 

 気がつくと、二人は先ほどとは全く別のところにいた。

 そこは、中世ヨーロッパの部屋のような、一室だった。

 

 モダンな机と三つの椅子があり、その机に紅茶が入っているティーカップが。

 しかも、湯気が出ている辺り最近入れられたものだ。

 

 そして零夜は、この内装に見覚えがあった。

 

 

「ここは…まさか…」

 

キャッスルドランのドランプリズンさ」

 

 

 見覚えがあるわけだ。ここは、キャッスルドランの中だ。

 キバの物語で、アームズモンスターが使っていた場所だ。

 

 

「どーりで見覚えがあるはずだ」

 

「な、なんなんだここは?私にも説明してくれ」

 

「あー……極論で言えば、ここは生物の中だ」

 

「生物だと!?この部屋がか!?」

 

 

 ライラの驚愕の声が、ドランプリズンに木霊する。

 驚くのも無理はない。事情を知らない者からすれば、この部屋が生物の中など誰が思うだろうか?

 

 

「まぁ屋敷と竜が合体したような生物だから、あんま気にするな」

 

「何故屋敷と竜が合体する!?まるで意味が分からんぞ!」

 

 

 ライラの叫びに、二人は耳を塞ぐ。

 慣れている二人は問題ないが、ライラの反応の方が普通なのだ。

 

 

「とりあえず、座ってよ。そうじゃないと話は進まない」

 

「そ、そうだな……邪魔しよう」

 

 

 ライラは椅子に座ると、それに同調して二人も椅子に座る。

 

 

「――で、こんなところにまで連れてきたってことは、紅夜やルーミアに聞かれたくないってことだよな?」

 

「そうだね。妹紅は関係ないから省くけど、紅夜にはまだ早い。ルーミアちゃんは惜しいところまでいっているけど、まだダメ。だけど、零夜ならもういいかなって思った次第だよ」

 

「どういうことだ?」

 

「言ったでしょ?覚醒途上だって」

 

「―――」

 

 

 そうだ。確かにシロはそんなことを言っていた。怒涛の展開の連続で、そんなことすっかり忘れていたのだ。

 時を遡ること数日前。陰陽師組合の帰りに、シロが組合長から記憶を強奪した仕組みを聞いていたときだ。

 それを聞いて、『権能』が羨ましいと思っていた時、シロが「君はまだ覚醒途じょ――」と言っていたことを思い出した。

 あの時は、四人の貴族の刺客を相手するために戦闘モードに入っていたため、すっかり忘れていた。

 

 

「あの時か…。いろいろあって忘れてたが、言いかけだったじゃねぇか。覚えずらいわ」

 

「ははッ、確かにそうだね。だけど、君が覚醒途上だってことは間違いないだよね」

 

「……俺が『権能』に覚醒しかけてる。それは理解できた。だが、その確証はなんだ?証拠でもあるのか?」

 

「―――『天からの声』が聞こえただろう?」

 

「―――ッ!!」

 

 

 言い当てられたことに、零夜はフード越しで顔を驚愕の表情に染める。

 『権能』を持つ者が、神に命令することができることに気付いたとき、確証が持てなかったため、半場ヤケクソだった。しかし、実践して見て、見事予想が的中した。

 その時に聞こえた声。あれは、空耳なんかじゃなかったと言うのか。だとすれば、なんだと言うのだ。

 

 

「……あぁ、聞こえた」

 

「ならば覚醒しかけている証拠だ。――ライラも聞こえるだろう?」

 

「……『権能』、と言う単語は初めて耳にしたが、『天からの声』、が聞こえるのは確かだ。と言っても、聞こえたのはこの力に目覚めた時だけだ。それ以外には一度も聞こえてこない」

 

 

 ライラからも肯定の声が出る。しかし、一度しか聞いたことがないとのことだ。

 これも初耳だ。ライラも『天からの声』が聞こえていたなんて。いや、会って間もないのだから知らなくて当然か。

 

 

「この際だから、ライラにも説明するとしよう。ライラ、君は、自らの力に気付きながら、その正体を知らない。違うかい?」

 

「―――確かに、私は『権能』とやらは知らないが、私が纏っている独特な気配が、お前からも感じる。その気配が『権能』なのか?」

 

「そうだね。これで、君の力が『権能』であることも、はっきりしたね」

 

「待て待て待て。どうしてそうなる?理由を説明しろ」

 

 

 今の話の流れで分かったことは、ライラも『権能』を持っていたと言う衝撃の事実だ。そんな重要な内容をさらっと流したことに、困惑しか生まれなかった。

 困惑を表す零夜に、補足するようシロが口を開く。

 

 

「『権能』にはね、同じ『権能』を持っている者にしか分からないような特別な気配――波長とも言う。それがあるんだよ」

 

「つまり、特別な力――『権能』を持つ奴は、互いに『権能』持ちだって分かるのか?」

 

「そうだね」

 

 

 さらっとそう言うシロ。

 シロは軽く言っているが、これは大きなメリットであり、デメリットでもある。

 互いに『権能』持ちであることが分かると言うことは、互いに【イレギュラー】ですよと言っているようなものだ。隠そうとしても、相手に『権能』持ちがいれば、無意味になる。

 

 

「じゃあ、ライラ。お前は会った当初からシロが『権能』持ちだって分かってたのか?」

 

「そういうことになるな。私以外にもこの気配を持っていた奴を見るのは、初めてだったからな」

 

 

 会った当初からシロが自分と同じ特別な力を持っていると分かっていた。話の流れからその可能性は十分にあった。

 分かっていた回答(こた)えを、あえて聞いたようなものだ。

 

 

「それで、次だ。『覚醒』前の能力と『覚醒』後の『権能』が違うのはなんでだ?」

 

「…それでもう合ってるよ。わざわざ聞いたのは、確認のためかな?」

 

「……これで、合ってるのか」

 

 

 これで決まりだ。ライラは『覚醒』前は何かしらの能力を持っており、それが『覚醒』して『権能』になったことで【光を操る権能】へと昇華した。それが先ほどの謎の答えだ。

 

 

「……私は元々、『速度』と『耐久』。この二つの能力を持っていた。そして『覚醒』してこの二つの能力が統合されて、『光を操作する』と言う『権能』に成った」

 

「能力が二つあって…統合?それが『権能』の正体か?」

 

「いいや、それはただの一部分にすぎない。僕も元々、二つの能力が統合して今の『権能』になってるからね」

 

 

 初めて聞く情報だ。『権能』は、一部分とは言え二つの能力が統合された結果によるものだと言う事実。

 それはシロも同じだったらしい。

 

 

(俺の能力は『繋ぎ離す』――言い辛いから…『離繋(りけい)』でいいな。『離繋』と『創造』。この二つが融合すれば、一体どうなるんだ?)

 

 

 未来のことを考えるが、今考えていてもどうしようもないことだ。それよりも、これまでの情報を統合すると、これで、いろいろと辻褄があった。

 レイラも『権能』を保有していた。これは確定事項。だから、『権能』に覚醒していない零夜の攻撃が一切通用しなかった。

 レイラの『権能』である『ずらす』の特性もあったのだろうが、これで零夜の攻撃がレイラに通用しなかったことも、辻褄が―――、

 

 

「ん、ちょっと待て。レイラと戦って俺が惨敗した時、お前その説明でレイラの力のこと『能力』っつたよな?なんであんとき『権能』って説明しなかった?」

 

 

 ちなみに、シロはレイラとの戦いをライラに説明する際に、零夜がレイラに喧嘩を吹っかけて惨敗したと説明していた。

 その後にシロと協力してなんとか倒したと言うのが事実だが、これも一応真実だったので、なにも言えなかった。

 ある意味真実なため、零夜は特に反論することなく、話を合わせることにした。非常に遺憾であるそうだが。

 

 零夜が惨敗したあと、シロからレイラの『能力』について教えられたが、レイラがあのとき『権能』に覚醒していたとしたら、何故あの時に説明しなかったのか、新たな疑問が生まれた。

 

 

「あぁ、それはまだ、明かすのは早かったからね」

 

「早い、だと?」

 

「そう。何もかも最初から話してたら、情報多過(たか)で混乱しちゃうでしょ?」

 

「だとしても!あのとき(月に行くとき)に話していてもよかっただろ!」

 

 

 零夜はそうシロに怒鳴りつける。

 月に行くとき、『権能』のことを話さなかったシロに、嫌気がさしてくる。もしその前にその話をしていたら、何かしらの対策ができていたはずだ。

 

 

「確かに、その通りだ。だけど、無理だったんだよ。あの時は」

 

「理由は?」

 

 

「『権能』の最大で最凶のアドバンテージ」

 

 

「―――」

 

 

 力の入ったシロの言葉に、零夜は黙るしかなかった。否、黙らされた。

 シロのフードの奥にある見えないはずの紅い瞳が、零夜を捉えていたからだ。だがしかし、フードの奥が闇で染まり、その闇の奥から紅い瞳がこちらを捉えていた。

 

 今の零夜は、まるで蛇に睨まれた蛙だ。

 それほどまでの威圧を、シロから感じた。だがしかし、零夜は立っている。この、圧倒的強者から放たれる威圧を前にしても。

 

 威圧されながら、零夜は話を続けた。

 そして、それと同時にシロをまとっていた威圧が虚栄(うそ)のように消え去った。

 

 

「……それは、なんなんだ?」

 

「答えをすぐに言うようでは面白くない。そのメリットは、君はすでに聞いてもいるし体験しているはずさ」

 

「……すでに聞いて、経験している?」

 

「ヒントは理不尽(チート)。分かるかな?」

 

「――――」

 

 

 零夜は脳内で頭を振り絞って、シロが提示したヒントを元に、答えを導き出す。

 

 ヒントはチート。そして、この話の内容は『権能』保持者だ。

 零夜が思うに、『権能』持ちは正直言ってズルい。『能力』だけでも常識外れだと言うのに、『権能』はさらにその上をいくのだから。

 

 『権能』持ちを理不尽だと思ったことは、何度もある。

 いい例が臘月だ。零夜の攻撃は、全くと言っていいほど通用しなかった。アナザーダブルはまだいい。しかし、アナザーリュウガの反射能力すら凌駕する力を持っている相手を、理不尽と言わずしてなんというのだ。

 

 それに、依姫の頸を狙った攻撃さえも、全くの無傷―――無傷。

 

 

「……無傷?」

 

「おッ」

 

 

 零夜が口から零した言葉に、シロが反応した。

 そうだ、あったじゃないか。臘月、ライラ、シロ。この三人の、理不尽の共通点が。

 

 (くび)を攻撃しても、全くの無傷だったと言う、事実が

 

 

「そうだ。お前も、ライラも、そして臘月も、頸を切ろうとしても無傷だっつー化け物じみた耐久力を持っているのは、なんでだ?」

 

「―――正解。僕たち『権能』は、『権能』持ち以外の攻撃を、完全無効化することができる」

 

「はぁ!?」

 

 

 衝撃の事実に、零夜は椅子から立ち上がって叫んだ。

 信じられない、そんなことを聞いても、夢や幻を見ているのではないかとすら思う。

 

 『権能』による、『権能』以外の攻撃の無効化。

 確かに、そう考えれば辻褄は合う。

 

 月に行く前にそんな話を聞かされて、もし月に『権能持ち』がいた(実際にいたが)とするならばそれはかなり士気に関わってきたはずだ。

 『権能』持ちは『権能』持ちにしかダメージが通らない。そんな事実を聞かされれば、零夜の頭を悩ませる結果になっていただろう。

 いや、実際今なっている。

 

 それに、臘月にいくら攻撃しても通じな(とど)かなかった理屈も、それで通る。

 だが、理解はできても、納得できるかは別の話だ。

 

 

「なんだよそのチート!!いきなりそんなこと言われたって納得できるわけねぇだろ!」

 

「まぁまぁ落ち着いて…。怒鳴られたって、真実は変らないんだって。『天からの声』の説明も、そうだったしね」

 

「―――その、さっきから言っている『天からの声』ってのは、なんなんだ?」

 

 

 権能の話の起点である、『天からの声』とは一体なんなのか。

 零夜は頭の中で今までの話の流れ(経緯)を整理する。 

 

 月で『転生者』が『神』に『命令』することができると仮定して、それを行った。

 そして、見事予想が正解(あた)り、零夜は『神』に『命令』することができて、その場の全員を癒すことができた。

 

 その時、聞こえた声は――、

 

 

「――『神』」

 

「なに?」

 

「『神』だよ。『天からの声』――それを言い換えれば、『神の声』ってことじゃないのか?」

 

 

 状況を整理すれば、すぐに分かることだった。

 

 

――その言葉を、待っていた。

 

 

 あの時聞こえたこの『天からの声』は、零夜が『神』に命令した直後に聞こえた声だ。

 そう考えれば、『天からの声』=『神の声』と考えるのは自然且つ合理的だ。

 

 

「―――正解。『天からの声』って言うのは、『神の声』のことさ。いつ聞こえるのかは個人差があるけど、それが聞こえると、僕たちが『権能』への覚醒の(きざ)しなんだ」

 

 

 シロから打ち明けられた事実に、二人は黙っていた。

 零夜は単純に、『権能』への覚醒についてのことで驚きのあまり心ここにあらずと言った状態だったが、ライラの方は、俯いたまま、なにも喋らないでいた。

 

 

「…『権能』覚醒への兆し…。そう考えれば、俺ももうそろそろ権能に覚醒できるのか?」

 

 

 単純に考えれば、零夜も『権能』に覚醒してもおかしくない。

 シロから覚醒途上と言う墨付きをもらい、『権能』に覚醒するための『神の声』も聞こえた。それならば、もう『権能』に覚醒していてもおかしくはないが――、

 

 

「いや、まだだね」

 

「なんでだよ?」

 

「『権能』に覚醒すれば、『権能』を持つ相手以外からの攻撃を一切受け付けなくなる。君はまだその境地に至っていない。それに、完全に覚醒している僕の目から見ても、零夜の覚醒具合は中途半端なんだよね」

 

「中途半端?」

 

「言ったでしょ、覚醒途上だって。覚醒途上(イコール)、気配が中途半端に出てるんだよ。僕らは同じ『権能』覚醒者の気配を完全に読み取ることができるからね」

 

「――――」

 

 

 良く考えれば、確かにシロの言う通りだ。

 零夜の状態はあくまで覚醒途上。そして『権能』の気配を完全に感じ取れる『権能』持ちであるシロがそう言うのだ。

 それに、『権能』が『権能』以外の攻撃を完全無効化する話が本当だとすれば、零夜はまだその境地に至っていない。

 『権能』に覚醒していない理由の提示は、これだけで十分だ。これ以上は、必要ない。

 

 

「じゃあ、いつになったら『権能』に覚醒するんだ?」

 

 

 これらを聞いて、零夜は焦りを感じた。

 一番の理由としては、『権能』以外の攻撃を無効化すると言う特性だ。これがある以上、『権能』に覚醒していない零夜の攻撃は、『権能』持ちには一切通用しない。

 それを防ぐためにも、早く『権能』に覚醒しなければならないと言う、焦りが生じ始めている。

 

 

「焦んなくてもいい…とは言いづらいけど、そうだね。強いていうなら、言えない

 

「は、どういうことだ?一番大事なところだろうが!なんでそれを言わない!?」

 

 

 『権能』保持者相手には攻撃が『権能』しか効果(きか)ないのであれば、いち早く『権能』に覚醒することが必須だ。

 その条件が、『言えない』?バカげている、ありえない。シロ()はこの状況を、理解しているのかとと、正気すら疑いたくなってくる。

 

 

「ふざけるのもいい加減にしろ。ある程度のことは飲みこめるが、こればっかりは看破できねぇ」

 

「焦らないでって。それに、言葉が足りなかったのは、こちらの落ち度だしね」

 

「言葉が足りない?」

 

「そう。正確に言うならば、言ったら余計条件達成が厳しくなるからね

 

「それは、どういう意味だ?」

 

 

 言ったら条件達成が難しくなる?普通、逆だろう。

 その条件を知ることによって、それを目標としていき、やがて達成する――、それがセオリーと言うものではないか。

 しかし、シロはそのセオリーを真っ向から否定した。

 

 

「さっきも説明した通り、『権能』への覚醒にはある条件を満たす必要がある。そして、その内の一つが 『神の声』を聴くこと。だけど、それは入口に過ぎない。本当の覚醒に至るためには、その『条件』を達成する必要がある」

 

「――――」

 

「そして、その『条件』は達成しようとして達成できるものじゃない。だから、知らない方がいいんだ」

 

「――つまり、知らない方が『条件』達成に都合がいいって言いたいのか?」

 

「そういうこと。悪いけど、この理由から、教えることはできない」

 

「――――」

 

 

 シロのこれ以上ないほどの確言に、零夜は黙るしかなかった。

 そして、これ以上なにも言えなくなったのか、零夜は無言でオーロラカーテンを出現させ、その場から消えて行った。

 

 

「あれは…?」

 

 

 そして、今まで黙っていたライラが、口を開いた。

 

 

「おそらくだけど、元の場所に帰ったんだと思うよ」

 

「夜神も同じような力を持っているのだな」

 

「話すとこはそこ?でもまぁ、仕方ないよ。『権能』と『能力』じゃ、雲泥(うんでい)の差だから、自分が無力だって言う事実を、受けとめざる負えないと言う事実が、彼を蝕むだろう」

 

「無力感…。その気持ち、分からなくもないがな」

 

 

 ライラの口から、「ズズズ…」と紅茶を啜る音が響く。

 ティーカップを机に置き、「フゥ」と息をつく。そして、何かを決意したかのような真剣な顔立ちになって、シロを見つめた。

 

 

「さて、夜神もいなくなったことだ。これで、ゆっくりと話が出来るな」

 

「―――話すこと?他になにかあったかな?」

 

「惚けるな。お前が一番良く分かっている癖に」

 

 

 そう言った次の瞬間、ライラは机を蹴り飛ばして退()かして光の速度で刀を抜刀し、シロの首元に突き付けた。

 

 

「―――何の真似かな?」

 

「無論。嘘をついたと分かった瞬間、お前の喉を突き刺すための準備だ」

 

「怖いなァ…僕ってそんなに信用ないかい?」

 

「あぁ、ない」

 

 

 即答だった。

 ライラの瞳に宿るのは、疑惑と殺意。ライラは、本気でシロを殺すつもりでいる。

 

 

「今のお前の話が本当ならば、同じ『権能』とやらを持っている私の攻撃は、お前に通用する。そうだろう?」

 

「あぁ、そうだね」

 

 

 『権能』保有者以外の者の攻撃を完全に無効化しているライラも、また『権能』覚醒者の一人だ。

 つまり、同じ『権能』持ちであるシロに、攻撃は通る。

 

 シロ自らの口で説明した事柄だ。この場では、シロが一番良く知っている。

 

 

「だから、もう一度聞かせてもらうぞ。『真実の契約』中に私についた『嘘』を、今度は虚偽なく、だ」

 

「――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

「すゥ…すゥ…」

 

「むにゃむにゃ…」

 

「――――」

 

「――呑気に寝てるなぁ。今は、それが羨ましい」

 

 

 オーロラカーテンを通して零夜が戻って来た場所は、ルーミアや妹紅、紅夜が寝ている野営地点だ。

 ルーミアと妹紅は、今もスヤスヤと寝息を立てながら寝ている。

 

 紅夜も、刀を抱き枕代わりに座ったまま寝ている。これなら奇襲でもすぐに抜刀できそうだ、なんて気晴らしにそんなことを考える。

 

 零夜達がいない間に、三人はとっくに寝ていたようだ。

 紅夜は一応警戒はしながら寝ているようだが、大妖怪とも言える力を持った彼女はだらしない顔で寝ている。

 本当に、当初あったときの威厳は何処へやらだ。

 

 零夜は三人が寝ている場所から1mほど離れた地べたに座って、夜空を見上げた。

 

 

(―――知るより、知らない方が都合がいい条件、か…)

 

 

 今回の出来事で、『権能』について様々なことを知ることができた。そして、その中でも衝撃が大きかったのはやはり『攻撃の無効化』だ。

 レイラや臘月相手に攻撃が通用しなかったのは、それが一番の理由だった。

 

 『権能』と『能力』は、まさに『雲泥の差』『月とすっぽん』と言った単語を使えるほどの圧倒的な差があった。

 

 それを知ってしまった以上、今求められるのは『権能』の覚醒だ。

 すでに『権能』に覚醒している臘月、さらに他にもいるであろう転生者も『権能』を持っている可能性が高い。

 そんなチート(権能)持ちを相手するためには、自分自身も権能に覚醒する必要がある。

 

 しかし、その条件を知ることができない。知ってしまったら、条件達成が余計に厳しくなると言うことで、知りたくても知れない。

 その矛盾が、零夜をさらに焦らせた。

 

 

「―――俺に、なにか出来ることはないのか?」

 

 

 今のところ、『権能』持ちとまともに戦えるのはシロだけだ。ライラはこの時代の存在のため、当てにはできない。

 正直に言えば、早く覚醒したい。しかし、なにをすればいいのかが分からない。

 

 

「知っていたら達成が厳しくなる条件。そんなの、いくら考えたって答えにたどり着けるわけがない」

 

 

 つまり、考えるだけ無駄。そう判断した零夜は、夜空を見上げた。

 考えることから逃げる(現実逃避)。人間がそれをやる際にまず、空を見上げることが多い。零夜も、例外ではない。

 零夜の瞳に映るのは、無数の星の輝きだ。その輝きが、今だけこの鬱憤を晴らしてくれている。

 

 

「なぁ、『神の声』さんよォ。あれから一回もそっちの声、届いてねぇけど、俺は何をすればいい?教えてくれ……」

 

 

――――。

 当然、返事はない。月で神に『命令』を下して聞こえた『神の声』を皮切りに、あれから一回も声を聞いていない。

 シロの口から、『神の声』が聞こえることが『権能』覚醒への第一歩だと知った時は嬉しかったが、今最も欲しい情報である『権能』覚醒への条件が、知ることができない。単語で表すなら、上げて落とされた、だ。

 

 

「返事なし、か…一体、何がダメなんだか」

 

 

「――彼女は、そんな生半可な気持ちには(こた)えてくれませんよ」

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 零夜の真後ろから、少年の声が聞こえた。

 あまりにも咄嗟のことで動揺し、すぐに後ろを向いた。

 

 

「『声』は、認めた者にしか聞こえないから」

 

 

 金髪の少年が、いつの間にか立ち上がって零夜に語り掛けていた。

 いつから起きていた?いや、いつから見ていた?いろんな考えが交錯する。

 

 

「お前、いつから…?」

 

「答える義理はありません。師匠が信用しているとしても、俺はまだ信用してませんでしたから」

 

「いや、それより、お前、『神の声』のことを、知っているのか!?」

 

「当然ですよ。だって、その声は、俺にも聞こえますから

 

 

 そう、確言した金髪の少年――紅夜は、深紅の瞳を、光らせながら、零夜にそう言った。

 

 

 

 




 怒涛の展開!

 ついに『権能』の情報を知ることができた。
 しかし、その大事な条件は知ると逆に達成が厳しくなると言う。その条件とは一体?

 『真実の契約』とは?
 シロが契約中にライラについた嘘とは?

 そして、『神の声』のことを知り、聞くことができていた紅夜!
 紅夜は『神の声』について何かしら知っているようだ―――。

 さて、どうなる次回!


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