まぁそんなことはどうでもよく、52話、投稿できました。
お知らせ。
31話にてルーミアの服装を変更いたしました。
理由は―――ノーコメで。
それでは、どうぞ!
「当然ですよ。だって、その『声』は、俺にも聞こえますから」
「な…ッ!?」
金髪紅眼の美少年――紅夜から、その事実を告げられ、絶句した。
寝たふりをしていたのか、紅夜の言葉に
つまりは、
「お前にも、『神の声』が聞こえるのか!?」
だって、ライラから紅夜が『神の声』が聞こえるだなんて情報は、聞いていないから。
紅夜の返答を待ち、帰って来た
「いや、その前に、こっちも一つ聞いておきたいことがある」
紅夜の表情が『無』に変わると同時に、素早く腰の
突然の行動に、一瞬先ほどのカミングアウトの内容すら忘れた。額に冷汗が垂れる。
「……これは、どういうつもりだ?」
「見たまんまですよ。言いましたよね、俺はまだあなたたちを信用していないと。彼女たちは――無防備なうえに熟睡しているので、警戒するほどではありません。だからこそ、俺はあんたたちを警戒していた」
紅夜は丁寧な口調は変えないものの、明らかな敵意と警戒心を持って零夜に
そうだった。初対面の人間を疑うのは当然のことだ。紅夜の師匠であるライラが信用しているのだから、紅夜からも信用を勝ち取ったと勘違いしていた。
紅夜は、零夜たちことを疑っていた。零夜たちを信用していた紅夜は、ライラの弟子の紅夜であって、【紅月紅夜】と言う個人は、全く一同を信用していなかった。
そして、ルーミアと妹紅。これは憶測と状況情報を混ぜた結論だが、二人は紅夜にとって、ただなにも知らないまま連れてこられた犠牲者とでも思っているのだと思う。
害意や敵意があるのなら、無防備な状態で熟睡するはずがないから。
「……師匠は今どこにいる?」
「…シロと一緒いる。さっきまで三人である話をしていた」
「何の話を?」
「―――『神の声』について。シロがいろいろと話してくれた」
零夜は、『正直』に『真実』を答えた。これは嘘ではない。
話の本質は『権能』だったが、その話を切り出すために必要な話題が『神の声』だ。『神の声』の話をしていたため、零夜は『本当』のことを答えた。
「―――」
その回答を聞いた紅夜の顔は、呆気に取られた――否、絶句だ。彼の今の顔にふさわしい言葉を探すと言うのなら、それは『絶句』がふさわしい。
今の話の中に、紅夜が驚くような内容があっただろうか?
「――どうした?」
「いえ、別に、なんでも…。……話が逸れた。本題に入る。あなたたちは一体、何が目的で師匠に近づいた?どうやって師匠の信用を勝ち取った?」
紅夜は刀身を突き出したまま、そう言った。
零夜は、どうするべきか迷う。彼の真意は、師匠であるライラのことを第一に想っての行動なのだろう。
しかし、それは裏を返せば、ライラの考えを真っ向から否定すると言う意味合いも持つ。
それくらいは、彼も承知の上だろう。だからこそ、零夜が取るべき行動は――、
「とある奴から、ライラを倒せって言う依頼があった。だから来た」
正直に、すべてを話すことだった。
しかし、そんなことを言えば、当然紅夜の怒りを買うことになる。そして、それも承知の上。
予想通りに、紅夜の顔が険しくなる。
「なんだと…?」
「話は最後まで聞け。で、戦ったんだが…負けた。その後、なんやかんやで意気投合してな。そしたらここに連れてこられた、以上」
「それで納得できると思っているのか?あなたがこれからも師匠に危害を加える可能性も考慮すべきだ。そこら辺はどう――」
「―――無理だよ」
紅夜の顔が、ギョッとなった。
零夜の今の言葉には、この時代に来てから、一度も出したことがなかったような力が入った声だった。
「――俺じゃ、ライラは倒せない」
ダークドライブとして戦ったあのとき、ライラに傷一つつけることもできなかった。
その理由も、つい最近知った。
あまりにも、差がありすぎるのだ。
圧倒的な、『権能』と『能力』の格差。『能力』の強弱など関係ない。いくら強かろうが、それは『能力』止まり。
『能力』と言う枠を超越した『権能』相手には、傷一つ付けることができない。その格差を知ったからこそ、零夜は断言する。
――自分は、まだ弱い。赤子同然なのだと。
――ただ強い『能力』と『
「俺は、弱いんだよ。
「――――」
零夜は地べたに掌と尻をつき、頭上を見上げた。
映るのは、綺麗な星空。この空を見上げるのは、もう何度目だろうか。何度目か分からない程に、上を見た。空を見た。
「本当、人生クソったれだ」
その言葉と同時に、零夜は寝そべった。
「…とりあえず、あなたが師匠に危害を加えない――いや、加えられないことは分かった」
そういい、紅夜は刃を降ろした。
そして、言葉を続けた。
「……それで、彼のことはどう説明する?」
「彼……?シロのことか?」
「彼だけが、師匠を倒せる可能性を持っているはずだ」
「―――ッ!」
今までの悲観的な感情が、一斉に抜け去った。零夜はすぐに飛び起きて、紅夜の言葉の意味をすぐに頭に浮かべた。
そうだ、シロだけだ。シロだけが、この中で唯一ライラを倒せる存在だ。『権能』持ちを倒せるのは『権能』持ちだけ。そのルールに
「『声』が教えてくれた。あの中で、師匠を倒せる可能性を持つのは、あの人だけだって」
「―――ッ」
予想外だ。予想外中の予想外だ。まさか、『神の声』がそんなことを教えていたなんて。
正直、『神の声』の用途がどんなものなのか分かっていない。『神の声』は、そういったことも教える
「今、師匠とあの男は二人きりだ。今あの男はなにをしている?まさか、師匠を―――」
「いや、それはないはずだ。あいつにはライラを害する理由はない。だから別に心配する必要は――」
「あなたが知らないだけで、彼に師匠を害する理由があるとすれば?」
「――――」
反論できない。
紅夜はライラのことを守るためにありとあらゆる可能性を模索し、相手に突き付けた。
そして、その可能性がないとは言い切れないのが、また苦しいところだ。
「反論できないんだろ?立証できないんだろ。―――今すぐに師匠の元に連れていけ」
紅夜が、豹変した。
今まで残っていた丁寧語も完全に消え去り、乱暴な口調へと変化した。
――そして、錯覚だろうか。
彼の周りの
もう、初対面だったころの紅夜の面影は、どこにもなかった。
(この感覚…!体が、心が、本能が、覚えてる!)
この世界に転生してから、初めて戦った強敵――ゲレル・ユーベル。
その子供と言うだけあって、あの男の気配が若干ながらも似ている。このオーラに当たるだけで、思い出したくもない男の顔が、鮮明に思い浮かぶ。
「すぐに連れていけぇええええ!!!」
紅夜の持つ刀の刀身が、振り下ろされる。
「―――ッ!!」
零夜はすぐさま亜空間から【無双セイバー】を取り出し、刃を受けとめ―――。
「「――ッ!?」」
――た。零夜の影から生えた、漆黒の刃が。
零夜の影から生えてきた鎌状の刃は、紅夜の刃を押し返すと同時に、鎌の持ち手から枝分かれするように巨大な影の拳が出現し、紅夜を吹き飛ばした。
「ウグッ!」
鈍い声を発した紅夜は、そのまま木へと激突して悶えていた。
そしてその反面、零夜は自身の影から飛び出してきた鎌と拳が再び自分の影の中に戻っていく様を見届け、後ろを振り向いた。
零夜に影を操る力などない。この場で、そんな芸当ができるものは、ただ一人。
「―――ルーミア」
白いボタン付きTシャツと、黒いロングワンピースを着用した美女――ルーミアだった。
いつの間にか起きていたのか、彼女は険しい顔で紅夜を睨みつけていた。
彼女の【闇を操る程度の能力】の応用で影を操り、その操った影での攻撃で、紅夜は今も悶える声を出して苦しんでいる。
そんな彼を無視して、零夜はルーミアのもとに近づいた。
そして、その横では妹紅がスヤスヤと寝息を立てながらまだ寝ていた。
「いつの間に起きてたのか?」
「――殺気を感じたから。起きたら、零夜が危険そうだったから…邪魔だった?」
「……いいや、ナイスタイミングだ。ありがとう」
「へへっ、ありがとう」
ルーミアは頬を赤く染めて恥ずかしそうにした後、ゆっくりと立ちあがって紅夜の元まで歩いて、胸倉を掴んで無理やり起こした。
「――ッ」
「……話は少し聞いてた。あんた、ライラのことが大事だからこんなことしたんでしょ?」
「…そうだ。あの男が、唯一師匠を倒せる存在なんだ。だから、あの男と師匠をいっしょになんてできない!」
「……確かに、あの理不尽野郎ならあなたの師匠を倒せるかもね」
「貴方もそう思うんだろ!?だったら「でも、それは自分の師匠が『弱い』って言ってるのと同じよね?」
「――ッ!」
紅夜の顔が、険しかった顔が、呆気に取られた表情へと変化する。
そう。師匠であるライラが信用した相手を疑う時点で、ライラを信用していないのと同じように、倒される可能性を考えると言うことは、ライラの『強さ』すら否定すると言うことだ。
無論、疑うことも大事だ。紅夜は生きるために当然のことをしたに過ぎない。
どちらが正しく、どっちが過ちなのか――この場合、その『正しさ』も『間違い』も存在しない。だって、両方が『正』しくて、『過』っていないのだから。
「信じている人がいるのなら、信じて待つのが筋なんじゃないの?」
「――――」
「それが分からないくらいなら、ずっとそこで野垂れてなさい」
紅夜はなにも言わないまま、背中を木に預けて顔を俯けた。
ルーミアは後ろを振り向き、零夜のもとにまで移動する。
「これで、しばらくは大丈夫でしょう。あとは、あいつが愚かじゃないことを信じるのみね」
「…縛らなくていいのか?」
「そんなことしてライラに見られたら、それこそ信用問題でしょ?だから、あれでいいのよ」
「―――そうだな」
「……そんなことより、零夜」
「ん、なんだ?」
ルーミアは零夜の服の裾を掴んだ。そしてその掴んだ手を見て――唖然とした。
「今日……一緒に寝てもいい?」
――そういっ彼女の手は…震えていた。それだけじゃなく、顔も『怯え』と『恐怖』の感情で染まっていた。
その原因は、覚えがある。ルーミアはあのとき、ゲレルに襲われかけた経験がある。
そして、その子供である紅夜のオーラは、無論ゲレルの気配と酷似している。紅夜のオーラを感じて、トラウマが呼び起こされていた。
つまり、先ほどまでの紅夜に対する態度は、ただの精いっぱいの虚勢。
ゲレルと酷似した紅夜のオーラは、ルーミアの
トラウマが蘇った上で、その対象にあそこまでの虚勢を張ることは、相当『精神』や『心』を酷使したに違いない。
「――いいぞ」
「…ありがとう」
普段なら、こんなことはしない。
だが、彼女のおかげで紅夜の暴走は止まり、その代償として彼女の心の傷が再発した。ならば、そんな彼女を労ってあげるのが、今の自分にできることだと思う。
「俺が真ん中になるから、お前は俺の隣で寝ろ」
「うん…」
二人は妹紅が今も寝ている毛布を上げて、中に入る。毛布の大きさは3人は入れるほどの大きさだ。元は二人で使っていた分容量があったが、零夜が入ることでちょうど良くなった。
ルーミアは毛布で体を包み―――零夜の膝を、枕代わりにした。
「――――」
その行動に、零夜はなにも言わず、許諾した。彼女は零夜のためにトラウマを超えて無理をしたのだ。このくらいは、許すべきだ。
「ねぇ……頭、撫でて?」
「………」
「そうしてもらった方が、安心するの…。ダメ…?」
「はぁ、今日は特別だぞ?」
「――ありがとう」
零夜は自身の右手をルーミアの頭に乗せて、撫でる。まるで犬や猫の頭を撫でるかのように。
それをしばらく続けたあと――。
「すゥ…」
「……寝たか」
彼女は安らかな吐息を吐きながら、寝た。
紅夜のオーラに当たって浮かび上がっていた『怖』の感情も消え去ったように見えて、表情はとても穏やかだ。
正直、トラウマが再発したあととは、とても思えない。
トラウマは一種の呪いだ。呪いが見えない楔となって心の臓に根深く突き刺さり、それを抜くことは不可能だ。
唯一の逃避手段は、痛みを和らげること。そして、その方法は一つしかない。
それは―――、
「うゥ…」
そのとき、零夜の目の前で、細く、弱々しい声が聞こえた。
この声は、無論零夜のものではない。そして、妹紅のものでも、ルーミアのものでもない。となると、この場にいる残りの人物は――、
「―――起きたか、紅夜」
紅夜だ。木が陥没するほどの大打撃を喰らっても尚、この短時間で気絶から目覚めるその胆力は、流石は妖怪と言ったところだろうか。
紅夜は立ち上がろうとするが、ダメージが大きいのか、うまく立ち上がれそうではなかった。
「おい、そのまま聞け」
「――――」
「お前がライラを大事に思っているのは、この一件でよーく分かった。だがな、お前の
「――――」
「ライラはお前を『大事』にしてる。そうじゃなきゃ、お前を弟子として自分のすべてを叩き込むことはしない」
「――――」
「だから、お前がライラにするべきなのは『大事』にすることよりも、『信頼』することなんじゃないのか?」
「――――」
「今のお前の
紅夜は、なにも言わない。答えない。
それでも、伝わっているようには思えた。これは、勘でしかないが。
零夜は続けて紅夜に向けて言葉を発する。
ライラは強い。それに、『権能』と言う圧倒的な力を持っている。紅夜に守ってもらう必要など、どこにもないほど強い。
そもそも、ライラと紅夜は師弟関係なのだ。この関係が維持されている限り、弟子が師匠を守ると言う出来事は決して起きえない。
仮にもし、そんなことが起きてしまえば、その時点で師弟関係は崩壊する。
『師』より強い『弟子』など、最早『弟子』ではないから。
―――だから言うのだ。赤の他人だろうと、無関係だろうと。
『師』を守る力なんてないくせに、守ろうとすること自体がおこがましい。間違っている。
『弟子』ならば、『信頼』しろ。師匠の強さを、生きて帰ってくるのだと、帰ってくるそのときまで『信用』しろ。
それが――『弟子』と言うものだろう。
「別にお前が間違っている、とは言い辛い。心配になるのは分かる。だがな――」
零夜の言葉のトーンが変わる。説得のようなものじゃない、怒りを孕んだ言葉だった。
「詳細は省くが、こいつはお前の気迫に怯えてた、震えてた。恐怖に染まってた。お前への態度は、精いっぱいの虚勢だったんだよ。俺は人のこと言えたもんじゃないが、他人に配慮できない奴が、一番『大事』な人を『大事』にできるわけがない。見ていて分かったが、そういうとこだぞ、お前の欠点」
「―――ッ」
「赤の他人に言われてムカついたか?……声を出さない、いや、出せないのはさっきの攻撃で肺をやられたか…?……なら好都合だ。最後に一つ、言わせろ」
その声は――先ほどまでの怒りを孕んだ声でもなければ、説得をしているような声でもなかった。
その声は――どこか、悲しさを、哀愁を、哀を感じた。
「『大事』で、『信頼』した人たちがいなくなってしまうのは、辛くて、悲しくて、苦しいからな。お前が、そうならないために、今ここで忠告しておくぜ?」
「――――」
「しばらくはそこで考えてろ。俺は、もう寝るぜ」
零夜は木に背中を預け、目を閉じた。
そして――少し後悔した。
(本当に、どの口が言ってんだかなぁ…)
誰かを泣かせ、困らせ、絶望に叩き込んだ数なら、零夜が圧倒的だ。
転生当初に起こした【光闇大戦】で、どれほどの人間が、妖怪が、半人半妖が、彼に――夜神零夜に、『究極の闇』に、絶望を振りまいたのだろうか。
その数は、計り知れない。そんな人間が、道徳を説くこと自体間違っていると言うのに。
(――――)
だがしかし、紅夜に対して、言いたいことは言えた。
正直、赤の他人の事情にここまで関与するつもりはなかった。だがしかし、似ていると感じたから。
本質が違くとも、ある一点においては――『大事にしている人がいる/た』と言う点が、似ていたから。
(だから……そうならないためにも、その未来が来させないためにも、今ここで、殺っておく必要がある。俺のエゴでしかないが……目的追加だ。首を洗って待っていろ。――【ゲレル・ユーベル】)
未来で倒した、思い出したくもない害悪を、この時代で倒すことを決意した。
例え未来が激変しても――あの
そう胸に決めた。
* * * * * * * *
「んー……朝か…」
零夜は、朝日と膝の重みによって、目覚める。
目を開けて、最初に目に映ったのは、日光。やはり、何度も浴びているとはいえ、眩しいものは眩しい。そして、膝の重みの原因――ルーミアだ。
昨日、彼女は心が危険な状態で無理に動いたため、零夜に甘えてきた。それを許諾して膝枕を許したが、はやり重い。
――いや、そんなことよりだ。
今だに自分の頸と胴体がオサラバしていないことに、正直驚いた。
いくら密かに夜襲対策をしているとは言え、普通、起きたら確認することではないが、確認できると言うこと自体で、結果は決まっているも当然だ。それでも、予想内と言えばいいのか予想外と言えばいいのか――。
「―――流石に、その行動は、予想外を超越したな…」
目を開けた零夜の目の前には―――土下座をしている金髪の少年の姿があった。
そのフォームは流れるように美しく、また、懺悔の心情すら伝わってくると感じるほどだ。
「……ちなみに聞くが、それは何の真似だ?」
「……見ての通り、謝罪です。昨夜は、真に申し訳ございませんでした」
そう言い、紅夜はこれ以上は無理だと言うのに限界を超えてまでおでこを地面に擦り付けた。
確かに、確かにちゃんと考えろとは言ったが、ここまでしろとは一言も言っていない。
この行動が彼の真面目さ故なのかは分からないが、土下座をされると流石に抵抗がある。
「あー分かった分かった。だからもう土下座はやめろ」
「―――ありがとうございます」
顔を上げた紅夜の顔は、憔悴しきっていた。やつれているようにも見えて、少し罪悪感が湧いた。
半日も経たずにこれほどまでの顔になるとは、一体どれだけ零夜とルーミアの言葉の意味のことを考えていたのかが伺える。
真面目に考えてくれたのは嬉しいが、流石にここまでさせるつもりはなかった。
普通に、ゆっくりと考えを改めてくれた方が良かったのだが――、
「それにしても、随分と急な心変わりだな?どうしたんだそんなに急に?」
「―――師匠の教えです。女性を乱暴に扱う者は、それは心のない怪物だ……と。昨夜、俺の怒りが彼女を怯えさせてしまったのは事実。弁解のしようもありません。昨夜の俺は…正気じゃありませんでした。それ故に、己の過ちに、気づくのが遅すぎた」
ライラのその教えは、紅夜が
鳥の雛の刷り込みの一種だ。子供のころからそういった教育を施せば、自然とそのような考えになる。ライラのその教育は、正解だ。
結果、紅夜は己の非を認める潔い男になったのだろう。
それに、ライラも良いことを教えたものだ。実際こうやって、紅夜は今の自制ができる素直な性格になったのだから。自分の感情に素直なのも、難点ではあるが――、
『女性を乱暴に扱うものは、それは心のない怪物だ』。いい言葉だと思う。
しかしならが、零夜は「自分には向かない言葉だな」と心の中で思う。幻想郷では女性が多いため、必然的に女性と戦う羽目になる。
つまり、零夜はこの言葉を完全に違反していることになる。別に約束しているわけではないが、こう聞くと何故か罪悪感が湧いてくる。
――ともかく、彼の心境は理解できた。
しかし――、
「その謝罪は、俺じゃなくてこいつにするもんじゃないのか?」
「全く持って、その通りです。怖がらせてしまった以上、まともに取り合ってくれるとは思っておりません。それでも、今ここで、謝罪をしておきたいのです。―――誠に、申し訳ありませんでした」
そう言い、紅夜は再び頭を下げて土下座の状態になった。
零夜への謝罪は、もうさっき受け取った。つまり、今の謝罪はルーミアへの謝罪。彼女は今も寝ており謝罪は耳に入っていないだろう。
しかし、こういった状態でもないと、『恐怖』を
「頭を上げろ。そして、もう一度言うぞ。その謝罪は、俺じゃなくて
「――分かりました」
責任を重んじる彼は、即諾した。
ほぼ無理難題を押し付けたが、そうでもしないと腹の虫が収まらな――、
(……ん?なんで俺はこいつのためにこんな感情的になった?うーん…分からん。とりあえず、この件は一件落着ってことでいいか)
「とにかく、顔を上げろ。体を起こせ。足で立て。俺はこいつの枕役で忙しいからな。薪でも集めて来てくれないか?」
「はい、任せてください!」
零夜の言う通りに立ち上がった彼は、森の中へと消えて行った。
「早いな。まるで野生動物…まぁ長い間野営してたら当然か?………にしても、『神の声』のこと完全に聞きそびれたな。今日の夜聞いておくか…」
最初の話題であった、『神の声』のことについては、完全にあやふやになってしまっていた。紅夜の疑惑が晴れたとはいえ、元々聞きたかったのはそっちの方だ。
今の状態ならば、聞ける。
「そうと決まればまずは―――」
「…ねぇ」
次の目的を決めた、次の場面。また見知った声が聞こえた。
しかも、今度は一日しか聞いていない声などではない。千年間、聞き続けた、女性の声だ。
そして、その発生源は、自身の膝の上――。
「――お前、いつから起きてた?」
そこにいるのは、やはりと言って長い金髪と白い長袖ブラウスと黒いワンピースの美女――ルーミアだ。
いつの間に起きていたのだろうか?
ルーミアは零夜の膝の上にある頭を軸に仰向けになって、零夜の顔を真上から見た。
彼女の美貌が朝日と合わさってより美しくなったように感じる。そして朝日を眩しそうにしながら、腕で顔を覆い隠して、零夜の質問に答えた。
「零夜が……起きる前から」
「そんなに早くからか?……じゃあ、あれ、聞いてたのか?」
「……うん。ねぇ、零夜。もしかしてだけど、紅夜って…ゲレルの…?」
「――察しがついてんなら、その通りだ。間違っても、本人の前で言うんじゃねぇぞ?」
「……うん。分かった」
ずっと起きていたのなら、先ほどの謝罪もすべて聞いていたはずだ。その謝罪を聞いて思うところがあったのか、ルーミアは即諾した。
その後、ルーミアはゆっくりと起き上がって―――今度は、零夜の膝を座椅子のようにして座った。
「――おい、なんだこれは?」
「何って、座ってるのよ?」
「俺は枕代わりに使うことは許容したが、座椅子代わりに使うことは許容した覚えはねぇぞ」
「えーこのくらいいいじゃない、使わせてよ」
「ダメだ、降りろ」
「それじゃあ、膝枕してくれたお礼に、膝枕ならぬ私の胸まく――」
「よし冗談言える余裕があるのならもう大丈夫だな」
女性が軽々しく言ってはいけないワードを言いかけることを阻止することに半分成功半分失敗した零夜は、ルーミアの腰を掴んで持ち上げて横にずらした。
「意気地なし…」
「なーにが意気地なしだ。俺に変態のレッテル張り付けるつもりか?」
「そんなことないわよ。それに、見た目の歳は近いんだから、恋人同士にも見えないくないでしょ?そんな風に説明すれば――」
「加害者と被害者が恋人だなんてどんな少年漫画の設定だよ。ていうかそれ以前に誰に説明すんだよ」
――優しくしてるからって調子に乗るな。
そう言ったあと、彼女の頬は膨れ上がった。第三者が見れば「かわいい」の一言に尽きるだろう。
「―――(でもまぁ、トラウマを一時的にだが忘れてくれて、良かったのかもな)」
それに、昨夜は紅夜のオーラに当てられ過去のトラウマが蘇り心の底から震えていたと言うのに、とてつもない精神の回復力だ。
これも妖怪だからだろうか―――いや、流石にない。回復が早いのは身体的にであって精神的な回復は人間と同じだ。
普通はじっくりと治療していくものだが、一体、なにが彼女をあそこまで笑顔にするのか。
心の傷を治すためには、信用できる第三者の存在が必須であり、必要不可欠。
この場合、第三者は零夜のことを指すが、彼は彼でルーミアが異常なまでの精神回復を見せた理由に、検討がついていない。
(――膝枕してやっただけだし、それだけでここまで回復するとは思えないしな。それを省けば、特に心辺りはな――)
「やぁやぁ。なんか非常にいい雰囲気になっているところ悪いんだけど、ただいまー」
ふと、声が聞こえた。その声は、初めて聴く男性の声だった。
ほのぼのした雰囲気から一転、二人はすぐに戦闘態勢に入り各々の武器を手に取り――、
「その反応は酷いなぁ。せっかくお仲間が返って来たって言うのに」
「――シロ……なのか?」
そこにいたのは――シロだった。
彼は零夜が出ていったあとも、ライラと一緒にいた。そして、二人が帰ってきていないと言う状況から、紅夜が暴走するきっかけを作った、一種の元凶のお帰りだった。
そして、そんな彼を見て、二人は、絶句した。目を擦って、目の前の現実が幻でないのかを確かめてから、再び絶句した。
零夜とルーミアは、目の前の人物が、『シロ』であることに疑念を抱いていた。
なぜなら―――、
彼の白装束の所々が焼き焦げ、擦り減っているから。
白かった服が濃い茶色に変色して、所々の布地の繋がりが半分以上なくなり、さらに目立つのは左腕の部分の服が、左手の指先から左肩までなくなっていたところだ。
左肩の焼き切れたような焦げ跡が、くっきりと残っていた。彼のスレンダーながらの筋肉質な細腕が、しっかりくっきりと見えた。
なお、何故か顔を隠しているフード部分だけが無傷で焦げ跡も一切見当たらない。
顔を重点的に守っていたと言う状況が伺えた。
「おま…ッ!?どうしたんだよその服と傷は!?」
「半分以上焼けちゃってるじゃない!」
「いやぁ~僕としては現在進行形で行われている
「ラブコメしてる覚えもねぇよ!ていうか、マジでなにがあった!?」
「それは「それは私から説明しよう」」
そんなシロの後ろから、金髪の美女――ライラが現れた。
ライラの服装も、シロほどではないが、乱れていた。ズボンや
そんな二人の状態を見て、零夜とルーミアから――、
「お前もなにがあった!?」「あんたら…なにやってきたの!?」
困惑した答えが返って来た。当然と言えば、当然だ。
突然帰ってきたと思ったら、両者とも風変わりした状態で帰還してきたのだ。
それに、紅夜には「なにもないから安心しろ」と伝えたばかりで――、
「―――師匠?」
少年の声と、なにかが「ガラガラ」となにかが崩れる音が聞こえた。
全員がその方向を向くと――、案の定、紅夜がいた。なんとも最悪な状況で帰ってきた。必然か運命か、とにかく零夜はソレを呪いたくなった。
そして、先ほどの崩れる音は、紅夜の手から薪が地面に落ちる音だった。
帰ってきたら自分の師匠がボロボロの状態で帰ってきてた――。
そんな状況を見れば、唖然となるのは当然だ。
しかし、そんな中零夜は、別の要因で焦っていた。
(まずい、せっかく弁解したってのに…!)
せっかく「シロは危害を加えない」と弁解したばっかりだと言うのに、明らかに「ドンパチやらかしました」と言う痕跡をお互い隠す気もなくここへ戻って来たことは、ドンパチやらかすことから零夜にとって予想外の連続だった。
―――困惑の第二戦が今、始まろうとしていた。
――自分で書いててなんだけど、二人の距離が一気に縮まった気がするなぁ…。
これからも、次回投稿にかなりの間が空くことが予想されます。そこらへんは、許容してください。
今回のシロのイメージCV 【阪口大助】
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