東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 41話、46話、改稿しました。

 53話の話の流れを繋げるために、先に少し変えた41話と46話を見ることを推奨します。


53 玉に(きず)な彼ら

「―――師匠…どうしたんですか、その怪我…?」

 

 

 まずい、まずい、非常にまずい。零夜の頭の中で、『Warning(ウォーニング)』の警告音が鳴り響く。

 せっかく説得したばかりだと言うのに、二人の空気の読めない恰好と登場ですべてが

パァだ。

 

 

「あぁ、これは「まさか、そいつがやったんですか?」」

 

 

 案の定と言うべきか、ライラの言葉を遮り、紅夜から荒々しい怒りのオーラが吹き荒れる。

 そのオーラ――気迫とも言うべきか。それが周りの木の葉や砂を巻き上げて、辺りに散らされ、彼の周りの輪郭が揺れていく。

 

 

「―――ッ」

 

 

 ふと、零夜の二の腕が、強く掴まれる。その方向を見ると、ルーミアが零夜の二の腕を掴んでいた。その握力はとても強く、特別な肉体でなければ、潰れているような握力だ。

 

――怯えている。一目でそれが分かった。

 顔も昨夜と同じ状態になっていて、文字通り『恐怖』一色に染まっていた。

 

 紅夜が納刀状態の刀に手をかけ、シロに向かって跳躍した。

 

 

「師匠に、なにをし「落ち着け紅夜!」グフッ!」

 

 

――ライラの鉄拳が紅夜の頭に直撃し、紅夜の顔が地面にめり込んだ。

 

 

「「「――――」」」

 

 

 あまりの突然の出来事の連続で、三人の思考は完全にフリーズした。

 紅夜のオーラに当てられて怯えていたルーミアの顔も、ポカンとなるほどだ。

 

 

「早まるな馬鹿者。この傷は確かにこいつにつけられたものだが、別に奇襲を受けたわけでもない。もしそうなら、こいつと仲良く帰ってきているわけがないからな」

 

「――――」

 

「私の方から頼んだのだ。『お前と一戦交えたい』とな。こいつはそれを快く引き受けたにすぎん。お前の考え過ぎだ」

 

「――――」

 

 

 紅夜の服の襟元を掴んで無理やり持ち上げ、ボロ雑巾を投げるかの如く近くの地面に投げた。

 「グフッ」と小さな悲鳴が聞こえたが、ライラはそれを完全に無視して――、

 

 

「大丈夫か?」

 

「……」

 

 

 ルーミアのもとへ向かった。ライラは片膝を折り、もう片方を地面にくっつけて、ルーミアの顔の様子を伺った。

 ルーミアの恐怖も、先ほどの出来事で和らいでいるように見えるが、依然として零夜の二の腕を掴んで、体を寄せていること以外は変っていない。

 

 

「――一度とならず、二度までも、怖がらせて済まなかった。こいつは一度そう思い込むと力で抑え込む以外に融通が利かないのが玉に瑕でな。私も苦労している。…悪いヤツではないんだ。だから、あのバカにはきつく言って、後で謝罪させる。だから、今はこれで許してやってはくれないか?」

 

「う、うん…」

 

「……本当に、すまない」

 

 

 ライラはもう一度謝った後、紅夜の襟を掴んで地面に引きずりながら移動していく

 すかさず、シロが質問した。

 

 

「どこにいくのかな?」

 

「この近くに湖があるので、そこにぶち込んでくる。なに、すぐに終わらすさ」

 

 

 当然の様にスパルタ発言をするライラに一瞬畏怖の念を抱きながらも、零夜はルーミアの頭に手を置いて、落ち着かせるために撫でる。

 ルーミアはそれを甘んじて受けて、何も言わない。それが、しばらく続く。

 

 

(あいつ…。本当に学習してんのか…?いや、謝れる知能があるだけマシだと思うが…)

 

 

 そもそも、ライラの言葉を要約すると、紅夜は「思い込みが激しい」と言ってはいるが、この一日紅夜を観察した結果、それがライラ関連で起こる持病と考えた方が、いろいろと説明がつく。

 彼も愚かではない。なにせ、ゲレルのような自分の非を認めるどころか自覚することすらできない男ではないから。

 

 ともかく、彼の暴走は、ライラが関連すると起こると思えばいい。

 それだけ、ライラのことを大事に思っていたと言うことだろう。

 

――昨日の説得が、ちゃんと紅夜の考えを変えるきっかけになればいいが…

 紅夜には、ライラを『大事』にする前に『信用』しろと説得した。人はすぐには変わらない。だから、今の零夜にできることは、その変化を見守ることだけだ。

 

 と言っても、暴走してしまえば学習していることすべてを忘れてしまうと仮定があったとしても、再び彼女のトラウマが再発したことはあとで抗議を入れるつもりだ。

 

 零夜は頭を別の話題で変えるために、ルーミアの頭を撫でる手を辞めずにシロに質問した。

 

 

「そう言えば、あの後どうなったんだ?」

 

「―――あの後って、どの後だい?」

 

「俺が出て行った後の話だよ」

 

「―――あぁ、あの後は、彼女の言った通り、闘いの申し出を受けたよ?いやぁー強かったなぁ。四肢の一つを持ってかれるなんて、久しぶりの経験だったよ」

 

「マジか。お前でも苦戦して――いやちょっと待て。四肢の一つが持ってかれた?持ってかれたのが久しぶり?……これは俺の聞き間違えか?」

 

「全然?全く持ってその通りだよ?」

 

 

――頭痛の種が、また一つ増えた。最近は新しい情報が盛りだくさんで、情報多過の連続だ。

 種の原因を数えるだけでも

 

・ゲレル

・『権能』

・紅夜

・シロ(New!)

 

 と、三つもあるのに、さらにその項目に『シロ』が追加された。

 この種は、他三つと比べれば、別に聞き逃しても問題のないことだ。だがしかし、一つでも情報を知っておきたい零夜としては、その頭痛の種と抗ってでも必要としている優先事項だ。

 

 四肢を持ってかれた?じゃあ今なんで四肢が健全のままなんだ?

 持ってかれたのが久しぶり?いつそんなことがあった?

 

――何故だろう、彼女の頭を撫でてると、心が落ち着く気がする。

 一種の現実逃避だろうか?

 

 

「……ちなみに聞くが、お前から見て、ライラはどのくらい強かった?俺じゃ判断材料にならねぇから、一応聞いておく」

 

「うーん、どうかな…?基準が『今の僕』だしねぇ…。まぁそれでも、四肢を持ってかれたのは久しぶりだったし、いい準備運動なったかなって感じかな?『権能』持ちと張り合うなんて、レイラ以来だったしね」

 

「まあそうだが……ん、『今の僕』…?どういうことだ?」

 

「あぁ、そう言えば話の途中だったね。あの時言ったけど、今だに『猛毒剣毒牙』の毒は、僕の体を蝕んでいる」

 

「ッ、『猛毒剣毒牙』…」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、零夜のルーミアを撫でる手が止まる。

 下で「むー」と言う声が聞こえたが、零夜の今の耳に、その声は届かなかった。

 

 『猛毒剣毒牙』。『転生者キラー』の特性を持ち、その名の通り、『転生者』に対して絶大な効果を発揮する聖剣だ。

 始めてみたのは、月に侵入した際に、聖剣を使って穢れを月に蔓延させた際だ。その剣にどうしてそんな効果があるのかと思っていたが、『毒の聖剣』と聞いたら、ある程度のことは予想できる。

 

 あの場でばら撒いたのは、『穢れ』。『穢れ』は、月の民からすれば一種の毒だ。つまり、聖剣が『毒』だと認識できたから、聖剣から『穢れ』を発生できたと考えるのが自然だ。

 『毒の聖剣』のことを詳しく知らない零夜でも、そのくらいのことを予想するのは難しくない。

 

 それよりも、話の話題が『猛毒剣毒牙』に完全に向いた今だからこそ言える疑問を、言うべきだ。

 都に入った際は、他の目的もあって、話題を切り出せなかったからこそ、出せる話なのだ。

 

 

「……ずっと、聞きたかった。月で、流暢(りゅうちょう)にその単語が口に出た。一度も聞いたこともない単語だったのに、無意識的に出た。あれは、なんでだ?」

 

 

 剣を見たことなら、あった。月に初めて来たとき、月の民たちに自分たちの存在を教えるために、あえて剣の特性を使って『穢れ』をばら撒いたとき。

 しかし、あのときに剣の名前を聞いた覚えなど微塵もない。それなのに、覚えている。知っている。

 この圧倒的な矛盾が、零夜の心の中でわかだまりを作っていた。

 

 だからこそ、その真実を今知るべきだと、確信する。

 

 

「――――」

 

「…シロ?」

 

 

 話を聞くうえで、彼の見えない顔を伺った。顔が見えなくとも、動作である程度の表情は読み取れる。

 そして、今のシロは、硬直した状態で、なにも言わなかった。

 

 ただ、口に手を当てて、なにかブツブツ独り言を喋っているばかりであった。

 

 

「まさか…『権能』が限りなく弱体化していた状態で、無意識的に『権能』が発動していたとでも…いや、逆にそうとしか考えられない…」

 

「シロ、お前なにブツブツ言ってんだ?」

 

「ッ!、…ご、ごめん。なんでもないんだ。それで、その答えだけど、答えは『ライラとの会話』だよ」

 

「は?」

 

「いやだから、『ライラとの会話』だって。ライラに全部話すって言った際に、体験したでしょ?」

 

「あー……あれか」

 

 

 思い出すは、ライラと戦った後の事。シロが急に念話みたいなもので零夜の頭の中に直接語り掛けてきたときのことだ。

 あれと同じことを、陰陽師組合に行く前に団子屋で自前の能力を使ってルーミアとともに体験しているため、すぐに思い出すことができた。

 

 自身の思考に、他人が介入してくると言う本来ならありえない未曽有の事態。覚えていないはずがなかった。

 

 

「僕の場合、あれは『権能』を使ってるんだけど、どうやらあの時無意識に防衛本能とでもいうのかな?まぁ、その『権能』が発動していたらしいね」

 

「――つまり、あの思考をリンクさせる『権能』で、俺が『猛毒剣毒牙』とその『特性』を知れた、ってことでいいんだな?」

 

「その認識でいいと思うよ。それに、『猛毒剣毒牙』の説明をまだしてなかったからその話からしないといけないと思っていたけど、手間が省けたね」

 

「俺からすれば混乱するに十分な内容だったんだけどな。『転生者キラー』だったっけか?『権能』の弱体化とか、どんなチート能力だよ」

 

「でもその分、転生者にしか変身できないし、変身者もその毒の餌食になるんだよね…」

 

 

 『猛毒剣毒牙』がどのようなチート剣だと言うことなのかは、その『権能』のおかげで理解できた。

 無数の『毒』を生成でき、その可能性は無限大。例を挙げるとするならば、『穢れ』と言う『毒』を生成したとき。

 常人ですら持てば危険だと言うのに、『猛毒剣』の『特性』で転生者には絶大な効果を発揮する。まさに、『転生者特化の武器』だ。

 

 

「まぁ逆に、そんなデメリットがなけりゃマジで不公平だしな。で、その話と今の話、なにが関係しているんだ?」

 

「……『猛毒剣』の毒が、今だに僕の体を蝕んでいる。『猛毒剣』の毒が、まだ体内に蓄積していて、すべて分解できていないんだ」

 

「ッ、……つまり、『弱体化』してるってことか?」

 

「―――」

 

 

 零夜がたどり着いた答えに、シロは頷き、肯定した。

 そしてその答えは、今となっては最悪の事実だった。事実は変えようがない。それも、過去のこととなれば尚更だ。

 いくら過去を変える可能性と手段を持っていたとしても、こればっかりはどうしようもない。

 

 シロの力は、三人の中では最強クラスだ。そして、一番の理由は『権能』を持っているから。そんな人物の力が弱体化しているとなれば、唯一の頼みの綱が切れたも同然だった。

 

 

「マジか…。ちなみに、どのくらい弱体化している?」

 

「そうだね…、本来ならライラ相手に手こずるどころか、四肢を奪われるようなことはなかったんだけどね。パワーもスピードも弱体化してるから、ライラのスピードに対応できなかったのが敗因かなぁー」

 

 

 シロはそうヘラヘラと語るが、現状では死活問題だ。

 彼の全盛期の力は、レイラを圧倒するほどに強かった。しかし、その姉であるライラ相手に四肢を奪われるほどに弱体化しているとなると、対月への戦力としての信頼度が下がったとみてもいい。

 だが、ライラとレイラの実力差が分からない以上、言い切れないのが難点ではあるが―――、

 

 

「じゃあ、どのくらいで完全回復が見込める?」

 

「それについては不明だね。僕の『権能』がベノムの毒を分解しているとはいえ、そのペースは微々たるものだ。『猛毒剣』の毒と『権能』の効果は水と油の性質に近いからね。時間がかかるんだ」

 

「……3年。タイムリミットの三年間、それだけ時間がありゃ回復もするだろ?」

 

 

 藤原不比等が蓬莱の玉の枝の模造品を作るのにかけた時間が、約三年。

 そしてそのあとしばらくすれば月からの迎えが来る。

 竹取物語から推測できる情報は、これが限界だ。

 

 シロがどれだけベノムの毒に犯されているのか、その現状は分からない。

 しかし、三年もあればある程度毒の影響からも解放されるはずだ。

 

 

「僕もどれくらい時間をかければ全回復するのか分からないけど、三年もあればある程度回復するはずだから、経過を見るしかないね」

 

「そうか。それはもう仕方ないか…」

 

 

 彼の今の心境は複雑だ。

 レイラがいるのかと思ったら、その姉や息子が出てきたり、ゲレルのことだったり。そして、シロと『仮面ライダーベノム』のことだったり。

 様々な状況情報が、零夜の頭を混乱させた。

 

 正直、どこから手をつけていいのかが分からなくなっている。

 

 

(さて、どうしたものか――)

 

「ふわぁ~」

 

 

 ふと、聞こえた第三者の声。

 三人が一斉にその方向を見ると、毛布が盛り上がっていた。そして、その毛布をかぶっている、黒髪の少女に目がいった。

 妹紅だ。

 

 

「おはよう…。って、あれ、皆どうしたの?」

 

 

 キョトンとしながら、いつもと違った様子の三人の状況を聞いてくる妹紅。

 

 

――今だけは、彼女の子供特有の無邪気さが、うらやましく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

 

 

 一同の目の前で、紅夜が土下座をしていた。紅月紅夜、本日二回目の土下座だ。

 内容は、一回目と同じ。急に襲い掛かって来たことに対する謝罪だ。ただ、一回目とは違って、二回目の土下座はほぼ強制的に行われているような感じだった。

 その、一番の理由は――、

 

 

「――――」

 

 

 無言で怒りのオーラを放っている、ライラが原因だった。

 ライラが掲げる思想は、『男が女に手を出したらそれはただのケダモノ』。そんな感じの思想だったが、紅夜のオーラはゲレルのものに類似している。

 そのために、ゲレルにトラウマを持っているルーミアのトラウマを再発させてしまっている。

 

 それが主な理由で、ライラは紅夜に怒っていた。

 その理由から派生した理由を上げれば、客人に刃を向けた、と言うところが妥当である。

 

 

「あー……ライラ?もうそこら辺でいいぞ?」

 

「それは貴様が決めることではない」

 

「あ、あぁ…」

 

 

 零夜が止めるように言うが、ライラの威圧に気圧された。

 ライラは知らないが、このやり取りはすでに二回目だ。だからこそ、そのやり取りを知っている二人は、もう別にいいと思っているが、その事情を知らないライラは別である。

 ライラの中では、ルーミアを恐怖させたことが許せないようだ。

 

 

「わ、私ももういいから……いい加減にやめさせたあげて…」

 

「そう言う訳にはいかない。こいつには一応学習する知能はあるが、時折怒りに呑まれて本能のままに猪突猛進するのが玉に(きず)なのだ。いい加減、その癖を矯正(きょうせい)しなければならん」

 

「で、でもほら、本人もすっごく反省してるみたい出し…」

 

「反省?何度注意しても直らんところの、どこが反省しているように見えるのだ?」

 

「そ、そうですね……」

 

 

 ルーミアは最早肯定するしか選択肢が残されておらず、頷くしかなかった。

 どうやら、紅夜の怒りのままに突っ走るクセは、筋金入りのようだ。ライラが怒るのも、無理はない。

 

 どうしても埒が明かないため、今度はシロが入った。

 

 

「まぁまぁ、怒ってばかりじゃ話にならないし、そろそろ食事にしない?この子もお腹空いてるしさ」

 

 

 シロは妹紅の頭に手を乗せ、それに乗るように妹紅は「お腹が空いた」と言うジェスチャーを行った。

 それを見て観念したのか、ライラはため息をついた。

 

 

「……そうだな。そろそろ食事にするとしよう。紅夜、もういいぞ」

 

 

 ライラの許可が下ったことで、紅夜は土下座から正座へとフォームチェンジする。

 紅夜の表情は沈んでおり、深く反省しているように見えた。実際、彼は反省しているのだろう。だがしかし、反省した矢先にまた同じことを繰り返すと言う愚行を行っている以上、すぐに信用はできない。

 

 こればっかりは、彼の「怒りに任せて本能のままに行動する」と言う欠点が、いつか改善されることを祈るしかない。

 逆を言えば、怒らせなければいいということだけなのだが、彼の地雷は「ライラ」に関することだ。

 だから、それにさえ触れなければ大抵は問題ない。

 

 

「―――」

 

「ほら、俺は気にしてねぇから、飯さっさと食うぞ」

 

「そうよ。怖かったけど…もう大丈夫だから。気にしないで」

 

「……お気遣い、ありがとうございます」

 

 

 二人の許しを得た紅夜は、感謝を述べた後、立ち上がって薪を並べ始めた。

 いろいろあったが、そろそろ食事の時間である。

 

 

「ふぅ、とりあえず、一件落着、か?」

 

「まぁ…そうなんじゃない?根本的な解決には至ってないけど…」

 

「それもそうだが……。ところで、いつまでそうしている気だ?」

 

 

 ちなみにだが、今零夜とルーミアの距離は――近かった。無論、物理的な意味で。

 倒した木を椅子代わりに座っているのだが、その二人の間の距離が近い――いや、ないに等しいくらい、ピッタリと密着していた。

 

 

「正直、まだ怖いから…こうさせて。こうした方が、誰かがいるって感じて、安心できるから」

 

「……そうか。だったらいいんだ」

 

 

 零夜は彼女の行動を甘んじて受け入れ、そのままの状態を続けることにする。

 零夜は非常な人間と思われがちではある。少なくとも、幻想郷の住人達の『究極の闇』――『クロ』の認識はそうだろう。

 しかし、それは『敵』であるが故の行動だ。基本的に、『味方』相手ならば、零夜は寛大な心で接する。ただし、絶対に裏切らないと言う保証がある相手にだけ、それは通用するが。

 

 彼女がその枠に収まっている理由は、式神契約を行っているからだ。

 『式神契約』とは、行ってしまえば主従関係を構築する契約だ。だが、主従と言っても、従者の扱いは良くて(しもべ)、悪くて奴隷だ。

 しかしながら、主人に服従しているので、裏切ると言うことがない。

 

 だからこそ、零夜はそこを信用しているのだ。

 

 

「しばらくそうしてもいいが、飯の時くらいは離れて「おやおや、お熱いですなぁ」―――」

 

 

 狙ってなのか、シロがイジッてくる。

 別にそんなのではないが、どうしよう、なんだかものすごくイラつく。特に、こいつの態度が。

 

 

「冷やかすな。顔面にグーパン喰らいたいのか?」

 

「おぉ怖い怖い。だけど、僕はそんな惚気(のろけ)を見たら、揶揄わずにはいられない性質なのさ」

 

「お前、はっきり言ってクソだな。あと別に惚気てなんかねぇよ」

 

「はっきり言うねぇ。でも、その状態で惚気てないなんて言う方が無理だよ?」

 

「う…ッ」

 

 

 それを言われると、流石の零夜も何も言えない。だって、それは紛れもない正論だったからだ。

 客観的に見れば、男女が密着していることなんて惚気以外の何物でもない。逆に、それ以外だったらなんだというんだと言うツッコミが必ず返ってくるだろう。

 

 零夜は顔を顰めるが、なにも言えずにただ黙るだけだった。

 

 

「……まぁ、いじるのはこれくらいにして、妹紅ちゃん。この野菜を鍋に入れてくれないかい?」

 

「分かったー」

 

 

 妹紅は既に切られている野菜を、鍋に入れる。

 あちらはあちらで家族団らんみたくなっていた。

 

 

「はぁ……」

 

「夜神、少しいいか?」

 

 

 零夜がため息をついたとき、今度はライラが話しかけてきた。

 

 

「どうした?」

 

「いや、私からも謝罪をしなければならないと思ってな。すまなかった、お前たちを客人として連れてきたのに、無礼を働いてしまったからな」

 

「あぁ、さっきも言ったが、俺はもう気にしてねぇから、安心しろ」

 

 

 零夜の考えに同意するように、ルーミアも首を縦に振る。

 

 

「そうか。そう言ってくれと、私も気が楽だ。ありがととう。ところで話は変わるが、紅夜と戦う話なのだが…」

 

「あ…」

 

 

 そう言えば、そうだった。

 ライラがここに連れてきた理由は、零夜たちを紅夜と戦わせるため。戦闘経験を養わせるためだ。

 

 いざこざがあって、すっかり忘れていた。

 

 

「そう言えばそんなこと言ってたな」

 

「まぁ忘れてしまっていても仕方なかったが…とりあえず、飯を食い終わってからでいいか?」

 

「そうだな。それじゃあ、食事が終わったら、そうするとしよう」

 

「あぁ、終わりくらいには、しっかりとしておくぜ」

 

 

「おーい、飯できたよ」

 

 

「いや早ぇよ!さっきのやり取りから3分も経ってねぇぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ルールは簡単だ。一対一の真剣勝負。武器に使用制限はない。これだけだ。審判は僕が務めるよ」

 

 

 食事が終わった後、一同は最初の場所――紅夜と始めて出会った草原にいた。

 紅夜の【岩を操る能力】によって凹凸が激しくなり、美しかった緑が一瞬にしておじゃんになった草原だったが、シロが謎の力(権能)で岩を強制的に地面に引っ込め、再び綺麗な更地へと戻したのが、現状である。

 

 そして、シロが審判を務め、二人の間に立つ。

 

 

「頑張れー!」

 

「手を抜くなよ、紅夜」

 

「負けないでねー!」

 

 

 外野から、二人の女性と一人の少女の応援が響く。

 

 

「―――」

 

「―――」

 

 

 互いに見つめ合っている二人の男性は、それぞれの武器を手にした。

 紅夜は腰に降ろしていた自前の刀を手に取る。

 零夜は亜空間から取り出した【無双セイバー】と【ブラックライジングタイタンソード】の二刀流だ。

 

 変身はしない。

 表向きの理由は、ペナルティやデメリットのあるライダーに変身すれば体調を崩す可能性があると言うことだが、裏向きの理由は、紅夜相手になら変身する必要がないからだ。

 (おご)りや油断などと思われても仕方ない理由だが、変身すれば『生身』VS『武装』の戦いになってしまうため、しないことに決めたのだ。

 

 しかし、紅夜は妖怪だから変身した方がフェアなのではと思うだろう。

 だが、身体能力や体の作りが能力によって人間離れしている零夜にとって、そんなペナルティなどないに等しいのだ。

 故に、必要ない。

 

 

「そろそろ、いいかな?」

 

「あぁ」

 

「構いません」

 

 

 二人の了承を得て、シロは片手を天に掲げる。それを合図に、二人が剣を構えた。

 

――そよ風が、二人の間に流れる。

 

 

「レディ……ゴォー!!」

 

 

 その掛け声とともに、二人が地面を蹴って、互いの刀身が、衝突した―――。

 

 

 

 

 




 次回、戦闘から始まります。

 なんかグダグダで終わった感じがするけど、まぁいいかなーって感じで終わりました。
 紅夜くんには可哀そうだけど、彼の性格が二人の距離を縮めましたね。
 ちなみに、彼の暴走も、ライラを想うが故の暴走なんですけどねぇー…。
 
タイトルの意味。
 零夜――鈍感
 シロ――秘密主義・ウザい
 紅夜――暴走


 次回、お楽しみください。
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