どうもー龍狐です。
いろいろと試行錯誤して、12000文字くらいになっちゃったよ。
正直なところ、どうやって話を三年後に持っていこうかなーって考えてる次第です、はい。
まぁそれは後々テストが終わったあとに考えることにします。
それでは、どうぞ!
――翌朝、零夜はゆっくりと瞼を開けた。
背中を木から離し、背伸びをする。隣にいる、ルーミアと妹紅の姿を確認した。スヤスヤと、二人で気持ちよさそうに眠っている。
「うーッ」
「あ、おはようございます。よく眠れましたか?」
「あぁ、お前のおかげでな」
目の前で焚火を焚いている紅夜を見て、零夜はそう言う。
あの後、約2時間置きに見張りを交代した形で二人は朝を迎えた。
「―――(現在、六時半……ちょうどいい時間だな)」
零夜が寝たのは、零時過ぎ。逆算すれば見張りをしていたのは紅夜➡零夜➡紅夜の順で、朝日が昇るころに睡眠から起きたのが零夜のは、自明の理だ。
「シロとライラは?」
「まだ戻ってきていません。でも、この時間帯まで戻ってこないなんて、少し心配です。いつも師匠はこの時間帯にはすでに起きているので。大丈夫なのは分かっていますが、少し心配になります…」
「昨日もちゃんと無事に――とは言い辛ぇが、帰って来ただろ。だから、大丈夫だ」
昨日、二人は特訓と言ってボロボロで帰って来た前科があるため、心配になるのも無理はない。
しかし、ちゃんと帰って来るだろう。
そう確信をして、焚火の近くに寄る。
「で、『神の声』のことを言うタイミング――機会はどうする?」
「―――」
単刀直入に聞いて来たため、紅夜は口ごもる。
彼の中でも既に決定事項となっているだろうが、やはりまだ抵抗があるようだ。
そりゃあそうだ。今まで隠してきたことを、突然語ると決意したのだから。心では、まだ迷いが残っているはずだ。
ちなみにだが、タイミングを機会と言い直したのは、紅夜が理解できないだろうと言う単純な理由だ。
「――正直、迷いがあります。さっきまで、あんなに言おうと決めていたのに、いろいろと考えるうちに、迷ってしまいます」
「―――」
「本当に俺って駄目ですよね。一度決めたのに、迷ってしまうなんて…」
「―――」
仕方のないことだ。
迷いとは誰にだって生まれる物だ。そして、時間が経つにつれてどんどんと膨大していく。例外がいるとすれば、それは冷酷な奴かバカな奴だけだ。
「……仕方ねぇな」
「――え?」
「おい紅夜。これは俺の憶測に過ぎねぇが、ライラは既にお前が『神の声』が聞こえてるって、薄々勘づいている可能性があるぞ」
「……えっ?」
予想していた通り、紅夜は素っ頓狂な声を出した。
言わないでやろうと思っていたが、ここまで迷っていたら、何度やっても燻ぶるだけだ。ならば、その燻ぶった悩みを一瞬にして燃やす必要がある。
だからこそ、今まで言いかねていたこの話題だ。
「あれからいろいろ考えてみたんだが、ライラがお前の様子を変だと感じる点がいくつもあった」
「それは…」
「『妖力纏い』と『繊細』の能力だ」
「―――」
零夜の言葉に、紅夜は驚愕の表情も見せず、真剣な表情のままだ。どうやら、この程度のことは考えていたようだ。
過程を考えれば、誰だって疑問を持つことだが、それでも零夜は話を続ける。
「自分ですら難しい『妖力纏い』。それを弟子のお前が軽々とやってのけること自体が異常だ。だから、まずそこをライラは疑っただろう」
あの後、【地球の本棚】で『妖力纏い』についていろいろと調べてみた。すると、ある程度確信をもって予想していた通りの情報と、確信が持てなかった情報が載っていた。
それは、妖力纏いは高度な技術であり、これを使用できれば基礎能力の上昇や、武器に纏わせれば攻撃力や耐久力を上昇させると言う基礎的なことが書いていた。
しかし、零夜の不確かで不確定だった情報、それはそれが正確かつ繊細であればあるほど、その上昇率は格段に上がると言うことだった。
どのくらい繊細にやればいいのかと知りたく、もっと読みあさってみると、自身の妖力を『血液の流れと同じ均一の速度で』『骨の一つ一つ』『筋肉の繊維に沿って妖力を纏わせる』――全てを一つに要約すると、『細胞の一つ一つに均一に妖力を纏わせる』と言った大変高度かつ無理ゲーとも言える練度で行わなければならないと言うことだ。
そんなこと、完全に出来たとしても1秒持つかどうかだ。さらに勝負となったとき、妖力のコントロールと戦いを同時に行うことになるため、その集中力は尋常ではない。
つまり、そんな高度な技術を紅夜が扱えること自体がおかしいのだ。
「あと、お前がライラに『妖力纏い』を見せた時の状況を説明してくれないか?」
「えっと、それはですね…」
紅夜の説明では、ライラの体調が万全になったあと、新たな技ができたと言い、それを見せた結果、『何故できたのか』と問い詰められた。
正直にウォクスのことを除いた事の顛末を放すと、物凄く怒られたらしい。
理由はなんでも、危険な技を無暗に使用するな、と言う理由だ。
失敗すれば体の内側にダメージを負う身体強化技。未熟な紅夜ができたこと自体に問題があったことだ。すべて、ウォクスの言う通りだったと紅夜は思ったらしい。
「師匠は俺のことを思って怒ってくれたと思うんですけど、繊細の能力のことを話したらすごく疑われまして…」
「…そうか。ある程度は理解できた。で、お前が『繊細』を扱えるようになったのを、お前はどんな言い訳で通した?」
「昨日話した、妖怪での戦闘で
「つまり、未熟者の浅知恵で戦った結果、運よく勝てたって筋書だな?」
「そんなところです」
紅夜の証言で、ある程度の予測はついた。ならば、ライラ――賢人が真っ先に考える可能性は――、
「確かに、『繊細』に物事を扱う能力を得たのなら、それができたとしても不自然ではない。だがしかし、ライラは同時にこう思ったはずだ。『そんなすぐに二つ目の能力に目覚めるか?』、と」
「―――ッ!」
そこで、紅夜はようやくと言えば良いのか、驚愕した表情になった。
零夜が、何を言いたいのかを理解したようだ。
「通常、能力ってのは自覚してないとうまく扱えない。お前の一つ目の能力の場合は『岩を操る』ことだから簡単に気付けたが、『繊細』の能力は誰かに指摘されるまで気づかないような、そんな能力だ」
「―――」
事実、紅夜の『繊細』の能力はウォクスに指摘されるまで自分自身ですら気づけなかった。だからライラは考えたはずだ、『どうして気付けたのかと』。
「だがそんな能力をお前は気付いた。当然ライラは考える。『誰かが紅夜に能力の手がかりを教えた』と。『だったらそれは誰だ』とも、思ったはずだ。そして極めつけは昨日の深夜の『神の声』をライラに教えたことで、ある程度の推測が可能になったかもしれない。」
「じゃあ、師匠は…」
「確実じゃないにしろ、お前に『繊細』の能力を教えた存在には気づいているだろうな」
「……だったら、なんで師匠はそれを俺に言わなかったんでしょうか…?」
「さぁな。俺はライラじゃねぇから分からねぇよ。あとは、本人に聞くしかねぇな」
紅夜があの時妖力纏いを使ったと言うことは既にライラは紅夜が高度な妖力纏いおの使用者であることは知っていたのは確定事項だ。であれば、何故それを聞きだすことをしなかったのか、単純に、師匠としてのプライドを守るためか、それとも、別の理由があるのか、真相はライラにしか分からない。
「それじゃあ、俺からも聞いていいですか?何故師匠に『神の声』――ウォクスのことを話したんですか?」
「ギブ&テイク……っても分からねぇか。情報交換のために、シロが『そういうのがある』って感じで話したんだ。俺だって初耳情報満載で驚いたかんな?」
「そう、ですか…」
咄嗟の嘘に半分本当を混ぜたおかげで、完全に信じた紅夜は、考え始める。
彼がなにを考えているのかは、手に取るように分かる。だから、これでチェックメイトだ。
「―――」
「まぁただ、単純にお前がその後に『繊細』の能力に気付けたと考えたかもしれない」
「え…?」
「言ったろ?これは俺の考え、ライラの考えじゃない。ライラの考えなら、ライラが一番知っている。あとは、お前があいつの口から直接聞けばいい、それだけだ」
「……そう、ですよね。ありがとうございます。勇気づけてくれて」
「感謝するこたねぇよ。時間が経てば、迷いが生まれるのは、当然のことだからな」
紅夜の場合、あの時の決意は例えるのなら『紙』、ただそれだけだ。少しの風が吹けば、一瞬にして飛んで行ってしまう。
しかし、零夜の言葉がその『紙』を補強する『のり』になり、『セロハンテープ』になり、紅夜に『紙』を完全に貼り付けたのだ。
つまり、何も知らない状態で話すより、相手がある程度勘づいていると考えている状態で話す方が、よっぽど心に負担をかけないと言う訳だ。
(だから、あとは紅夜の決意がまた剝がれねぇうちに、さっさと帰って来いよライラ!)
「う~ん…」
そして、零夜の考えとは逆に、今まで零夜の隣で眠っていたルーミアが目覚めた。とんだ金髪違いだ。
「あ、おはようございます」
「おはよう」
「う~ん……おはよう…」
彼女は目を擦って、目やぎを取り除く。
そしてその後に、
「お休み」
零夜の膝を枕にして、そのまま二度寝した。
「「―――」」
「こいつ、ちゃっかり俺の膝を枕にしやがった……」
「ははっ、随分と好かれてるんですね…」
その様子を、ただ無言で眺めた二人は、別々の感想を述べた。
紅夜の考えに、『俺の膝ってそんなにこいつにとって枕として適してるのか?』とすら考える始末だ。しかし、これは実戦しようがないため、断念せざるを得ない。
「まぁコイツは重いだけだ。
「それ、かなり失礼じゃありませんか?」
「良いんだよ、別に」
「「―――」」
再び、無言になる二人。
今ので完全に話題が尽きた。あとはライラが来るまで待てばいいのだが、ライラがいつ戻って来るのかすら分からない状態だ。
つまり、この空気はとても気まずい。
しかし、流石にこの空気は頂けないため、なにか話題を作って――、
「なーにしてんの?」
「「ッ!!」」
二人の間から聞こえた初めて聞いた女性の声に、二人の肩が震えた。
即座に戦闘態勢に入り――、
「あーストップストップ!僕を攻撃しちゃやーだよ」
「……シロ…ッ!」
その女性の声の正体は、シロだった。シロの恰好は、昨日のようにボロボロの恰好ではなく、いつも通りの服装だった。
彼の声質は毎回変わるために、聞く度にドキッと心臓が高鳴る。
「……待てよ?お前がいるってことは、ライラは今どこにいる?」
「ライラ?彼女なら湖の方に行っているけど?」
「――ッ!紅夜」
「はい。行ってきます」
短い会話でコンタクトを取ったあと、紅夜は湖のある場所に向かって走り出した。
当然の紅夜の行動に、当然の如くシロは首を傾げた。
「……どういうこと?」
「お前はいなかったから知らなかったからな。教えてやる。どうやら紅夜にも『神の声』が聞こえてるらしくてな。それを今ライラに話すらしい」
一通りの事情を一言で纏めた零夜は見えないシロの顔を見る。どうせシロも知っているはずだ。
『権能』を持っている者同士、『権能』持ちであることを理解できることは、百も承知だ。
「……あぁ、知ってるよ」
案の定の答えが、シロから返って来た。
この答えは当然だ。想定の範囲内だ。
「あぁ、だからあとは分かり切っている結果が来るのを、待つだけさ」
「……そうは、行かないんじゃないかな?」
「どういう意味だ?」
シロの口から思わせぶりな発言が飛ぶ。
別に問題はないはずだ。『権能』に覚醒しているシロが紅夜の『神の声』の存在に気付いているのだ。同じ覚醒者のライラが気づいていないはずがない。
「お前が紅夜の『神の声』に気付いているなら、ライラだって気付いているはずだ。それの、どこに問題があるんだ?」
「そこに、問題があるんだよ」
「―――どういうことだ?」
「だって、ライラは気付いていなかった。紅夜が『神の声』が聞こえることに」
「……は?」
―――。
――――
―――――。
――――――。
―――――――。
時間は、少し先へ。
湖はここからなかなか離れており、紅夜ですら走っても3分ほどかかる。ライラならば一瞬だが、紅夜は違う。
そもそも水場のある近くに拠点を構えればいいだけの話なのだが、水辺は
「師匠ー!」
紅夜は、この近くにある湖にいるであろうライラの元へと向かっていた。
湖が見えたと同時に、見慣れたライラの後ろ姿が確認できた。
ライラから3メートルほど離れた場所で立ち止まり、呼吸を整えた。
「…そんなに息を荒げて、どうしたんだ?」
「…突然ですけど、師匠!実は俺、今まで師匠に言っていなかったことがあるんです!」
「―――」
ライラは、やはりと言うべきか、ずっと無表情で紅夜を見ていた。
紅夜もそのライラの状態に、紅夜は確信した。零夜の仮説は正しかった、と。
確信と自身を持って、言葉を続ける。
「その、隠し事とは?」
「……実は俺、聞こえるんです。『天からの声』が」
「――あぁ。知らされたよ」
* * * * * * * *
脳が、理性が、知性が、今入って来た情報を遮断しようとする。
事実、あの話を聞いた後ではとてもじゃないが信じられない情報だ。だって、『権能』持ちは互いに『理解』し合える、そんな特性を持っているはずだろう?
零夜だって一度しか『神の声』を聴いた経験がないのに、微弱ながらも同じ力の流れを感じると二人から言われたのだ。
そんな『権能』持ちが、『権能』の蕾に気付いていなかったなんてことがあるのか?
「待て、おかしい、どういうことだ。お前が今言ったことは、前提から覆るぞ?だって――」
「『権能』持ちのライラならば、紅夜の覚醒に気付いていてもおかしくない、だよね。事実、そうなんだ」
「だったら――」
「でも、それを阻害するナニカがあるとすれば?」
「阻害する、何か…?―――ッ、まさか」
あった、確実な、気配などを隠すために最適な、紅夜の『才能』とも言える長所――!
「『隠蔽』…!」
「そ、紅夜の『隠蔽』が、『権能』の『気』そのものを『隠蔽』していたんだ」
「だがそんなことがあり得るのか?いくら生まれつきの才能だからって、『権能』の気配そのものを消すことなんてできるのか?」
「……通常は、できない」
「……通常は?ってことは、例外があるのか?」
シロのすぐに分かるような含みのある言葉に、零夜は反応を示す。
『権能』の気配は消すことはできない。常に垂れ流しだ。しかし、そんな『気』を遮断する方法があるとすれば――、
「……まだ先の話だから、黙っていたことがある。『権能』に覚醒すると、一つ特典がもらえる」
「……特典?……俺で言う『
「まぁそんな類のものだと思ってもらって構わない。その特典ってのは、『能力』を一個増やすような感覚で、『才能』がもらえる。ちなみに、僕の才能は『変声』であり、ライラの才能は『教育』だ」
「お前の声が毎回変わる理屈ってそれだったのか!?」
まさかの千年越しの驚愕の事実の発覚だった。
シロの声が一々変わる理屈が、まさか『才能』だったなんて。しかし、何故よりにもよってそれをチョイスしたのだろうか。紅夜の『隠蔽』のような戦闘向きの『才能』にすればよかったものを。しかし、それは本人が決めたことなので零夜がとやかく言う資格はないし、そもそも過ぎたことなので出過ぎた真似だ。
ライラの『才能』をいつ知ったのか分からないが『教育』と言うだけで、紅夜を育てるためにその『才能』を貰ったのだろうということが十分予想できた。
「――話が変わったから戻すけど、この理屈で紅夜は『隠蔽』の『才能』があるんだと思う――んだけどね」
しかしよくよく考えてみればこれはまた初耳の情報だ。黙っていたと言うのは聞き捨てならないが、それは後ででいい。
問題は、『権能』に覚醒すればその特典として『才能』がもらえると言う点だ。
しかし、紅夜の場合は前提が崩れている。
「待てよ、それこそおかしいだろ。紅夜はまだ『権能』に覚醒してねぇんだぞ?」
「それも不思議なところだ。今までのパターンでも、『権能』に覚醒せずに『才能』を貰えたパターンは存在しない」
「だったら、なんで…?」
シロですら知らない例外。それは零夜の脳を振るわせた。どうしてそんな例外的なことが起こるのだろうと。
しかし、考える物事はその次だ。何事にも例外があるとするならば、必ず理由が存在するはず。その理由を、考える。
だが、考える前に、シロが口を開いた。
「……コレは僕も初めてのパターンだから分からないけど…紅夜の『権能』関連で、異例の事態が起こっていると考えれば、それが連鎖して今の事態が起こっていると考えられる」
「例外……異例の事態…ッ」
瞬間、零夜の脳裏にある記憶がフラッシュバックする。
それは、紅夜の昔話の一部だった。頭の中で話題が要約されて一文に纏められる。―――『『繊細』の脳能力のおかげで、通常できないはずのサポートが可能になった』。
通常できないことができる――つまり異例の事態だ。
そして、それが出来る者の名は――、
「ウォクス…!」
「ウォクス?『
「紅夜の『神の声』の名前だよ。紅夜の持っている『繊細』の能力で通常できないことができるようになった正にイレギュラー!これが関係してんじゃねぇのか?」
「……確かに、それは異常だ。零夜の言ってること、案外当たってるかもしれないね」
そうあくまでも、シロは冷静に取り繕う。
しかし、内情は焦っているはずだ。本来ありえない――イレギュラーを目の前に、混乱するのは誰だって当たり前の出来事だ。
「……待てよ?だとしたらまずくねぇか?紅夜にはライラが『神の声』の存在に気付いている前提で話をしりまってる」
「いや、そこらへんは心配ないよ」
「――どういうことだ?」
『神の声』の存在を知ったライラは、紅夜が『神の声』が聞こえるのではないかと言う疑念を持たせた状態で送り出したことをまずいと感じた零夜だったが、何故シロは大丈夫だと言う。一体、なにが問題ないと言うのだろうか?
「僕がさ、昨日の夜ライラと居たのは、なんでだと思う?」
「そりゃあ、特訓だって――」
「違う。ライラの力量は初めて戦った日に把握している。特訓なんて、あの場から離れるための口実に過ぎない」
「なんで、そんなことを…?」
「……零夜と紅夜が戦ったあと、僕は紅夜が『隠蔽』を持っていることを知って、確信したんだ。紅夜は『神の声』が聞こえていると」
「その根拠はなんだ?」
「僕の権能だよ。君にはまだ話していない部分も多いからね。隠された部分を見つけるなんてことは、お茶の子さいさいさ」
「―――」
確かに、零夜はシロの能力――もとい権能の効果すべてを知っているわけではない。と、言うより本人が情報開示をしないだけだ。
別に隠すことは悪いことではない。誰だって隠し事の一つや二つ持っているものだ。
既に知っているいくつかの権能の効果の実態を知っているが、どれも頭が痛くなるようなチート級能力だ。
だから、信じるに値する十分な事柄だ。
「だからいろいろとライラから聞いたんだ。無論、彼女もタダで情報開示するようなバカではない。だから、僕も情報を上げた。ギブ&テイクってやつさ」
つまり、昨日二人がいなかったのは特訓などではなく、互いの情報を擦り合わせる――いや、提示し合う会議のようなことをしていたと言うことか。
そして、その中に紅夜の『神の声』の可能性を教えたということだろう。
「その情報に、知られたらまずい情報は入ってねぇか?」
「少なくとも、僕たちに不利な情報は流してない。話したことを挙げるとすれば、『紅夜の権能覚醒の可能性』や『僕たちの表側の目的の詳細』くらいかな」
「―――紅夜のことはともかく、俺らの目的――表向きってことは、最悪の未来を変えるって言う目的のことか」
「そう。輝夜と永琳、圭太を救い、臘月をこの世からもあの世からも滅ぼすと言う目的をね」
大体は会ってはいるが、この世からもあの世からも滅ぼすと言うのは初耳だ。そこらへんは膨張しているのだろう。しかし、それほどシロは臘月を殺すことに執着していることになる。
あの世からも消し去ると言うことは、魂を消失させると言う認識でいいのだろうと思うが、シロならそれが出来そうで怖い。
零夜にはとてもじゃないが無理だ。アナザーゴーストの力を使っても、魂の消失までは行えない。せいぜい『貯蓄』までだ。
もしこの世界の住人で『魂』を消滅させることのできる権限や力を持つ者がいるとするのなら、原作の公認チートキャラである【八雲紫】と【ヘカーティア・ラピスラズリ】しかいないだろう。
気に食わない奴がいれば、彼女たちに消させるよう誘導するのもありかもしれない。
しかし、悪役と言う立場で定着している零夜達の誘導では、あの有能で頭がキレるであろう二人には無意味かもしれない。
無駄な発想だったなとこの考えを頭から振り払う。
「なに考えてたの?」
「別に。大したことじゃない。……もう、大分時間が経ってるな」
「そうだね。僕からもライラに話しているから、案外すぐに会話が終わるだろう。その証拠に――来たし」
「――?」
その言葉で、二人が戻って来たのかと思った零夜が後ろを振り向くと、そこには誰もいない。
「誰もいないじゃないか」と文句を言おうと再び前を向いたとき、『ソレ』はそこにいた。
それは機械で出来たような鉄製を思わせるフォルムをした赤と黒を基準とした、黄色い瞳を持つ蝙蝠だった。
「『キバットバットⅡ世』…!」
『久しぶりだな』
キバットバットⅡ世はシロの腕に乗っかり、黄色い瞳で零夜を見据えていた。
そして、零夜は二人の要因から困惑していた。一つ目は何故彼がいるのか、二つ目は、いつ、どうやって抜けだしたのか。
『俺様が何故いるのか。どうやってお前のところから抜け出したのかと困惑している顔だな。それは単純だ。コイツに頼まれて、あの二人の様子を見に来たのさ』
「…お前がか?お前は人のお願い聞くようなタイプじゃねぇだろ」
キバットバットⅡ世は、良く言えばクールで厳格な性格、悪く言えば傲慢だ。
そんな彼が素直にお願いを聞くとは思えない。
「やだなー零夜は。彼は確かに悪い面ばかりに気を取られちゃうけど、融通が利かないって訳じゃないしね。でしょ?」
『―――』
キバットバットⅡ世は、何も喋らない。
そう、彼は決して悪い人間?蝙蝠?ではない。彼はクールで厳格かつ融通が利くキバット族なのだ。
だから、頼みを聞いたのだろう。
「沈黙は肯定とみなすよ?あ、あといつ彼が零夜から抜け出したのかと言うと、単純に君が寝ている隙に盗って待機させておいたのさ」
「結局お前が原因じゃねぇか!」
今すぐにでも立ってシロに突っかかろうとしたが、膝に乗っかかる重さを思い出して、途中でやめた。
すっかり頭から抜け落ちていたが、今も尚ルーミアは零夜の膝を枕にして寝ている。良く寝ていられるなと感心する。
それに、その隣で毛布で包まって寝ている妹紅もすごい。あれだけの騒音で全く起きないなんて、なんだろう、胆力がすごいとでも言えばいいのだろうか?
「ははっ、それじゃ君は動けないね」
「―――ッ。まぁいい。気付かなかった俺も俺だ。」
「そうか。それで、どうだった?」
『話の大体の内容はお前らが話していたのとほぼ同じなはずだ。あとは……そうだな。あの小僧はあまり驚いてなかったな』
その理由は簡単だ。紅夜にはライラがウォクスの存在に気付いているかもしれないと言ったあるため、驚きは少ないだろう。
「他には?」
『ない。それだけだ』
「そっか。ありがとうね」
『礼など必要ない。俺様は休ませてもらう』
そう言うと、キバットバットⅡ世は零夜のコートの内側の懐へと入っていった。
「――さて、そろそろ帰ってくるだろう。心の準備はいいかい」
「あぁ、とっくにできている」
二人は紅夜が走っていった方角を見据え、数十秒ほど待つと、二つの足音が聞こえてきた。
零夜は枕を『創って』ルーミアをゆっくりと乗せ、二人で立って森を見据える。
森の奥から最初に出てきたのはライラで、その次紅夜が出てきた。
「「――――」」
二人は無言で、互いの顔を見合わせずに、帰って来た。
ライラはそのまま二人を通り過ぎると、焚火の前に胡坐をかいて座った。
そして紅夜は、零夜の前で立ち止まった。
――一言、放った。
「…ありがとうございます」
「――――」
それは感謝であった。しかしその表情は『儚い』、その一言で尽きるような表情だった。
「今まで詰まっていたナニカが、取れたような感覚です。これも、あなたのおかげです。本当に、ありがとうございました」
「あぁ。それなら、良かった」
そう行った後、紅夜はライラから少し離れた場所の木にもたれかかった。
溜まっていたものが取れたようにも見えるが、何故かそこには喜びはないように感じられた。どういうことだろうか?
――こればかりは、話を直接聞いていたキバットバットⅡ世に聞くしかない。
(それはあとで聞くとして…今はこの空気を変えるとするか)
「おい、そろそろ飯にするぞ。二人を起こすから、できればこの空気を変えたいんだが?俺は嫌だぞ、こんな空気で飯食うの」
直球だ。オブラートに隠すことも、なにか比喩することもせず、直接要求を言った。
普通なら機嫌を悪くするところだが、そこにまっとうな理由があるのなら話は別だ。
「…そうだな。いつまでもウジウジしてられない。食事の準備をするぞ、紅夜」
「…はい、師匠」
そういい、二人が率先して食事の準備をし始める。
しかし、空気とはそう簡単に変わるものではない。だが、少しでも話題から逸れてくれたことでも、成果はあった。
「フッ、おい、そろそろ起きろ」
「ふぎっ!」
零夜はルーミアの頭にチョップをかまして無理やり起こし、小さな悲鳴を無視して妹紅の方に駆け寄ると、ゆっくりと揺さぶって起こす。
「う~ん…」
「ご飯だから、起こした。お前も手伝ってくれ」
「んー…分かったー…」
「ちょっと!その子と比べて私の扱い雑過ぎない!?」
「俺の膝勝手に枕にしただろ。それに、枕わざわざ創ってやったんだ。それでいいだろ」
「……いいけど、なんか納得いかない!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ金髪の美女を無視して、零夜は食事の準備をし始める。
――10分後、全員分の食事が行き渡り、食事をし始めたころ。
「―――」
むすっとした顔でソーセージを口に入れるルーミア。零夜に杜撰に扱われたことが気に食わなかったのだろう。
「機嫌悪くすんなよ…飯がまずくなる」
「そんな私の機嫌を悪くした本人には言われたくはないわよ」
「―――」
そう言われると、何も言えない。
元々悪い空気を変えるためにあれこれやったのに、結局は自分で別のパターンで元の状態に戻してしまった。完全に因果応報だ。
「悪かったって…」
「乙女の心は繊細なの!そんな心の籠っていない謝罪で、私の機嫌が治ると思ったら大間違いよ!」
そう豪語するルーミアだが、零夜の頭に浮かぶのはクエスチョンマークだ。
「乙女…?」
零夜は彼女を見ていると、どうしても乙女とは何なのかを考える。どうしても初対面のインパクトが強すぎるために、とてもじゃないがルーミアは乙女に見えない。強いて言うなら、見た目だけだ。
むしろ、彼がルーミアの内側に感じるのは、『獣』のような本能と思えた。
その反応を見たルーミアは、ライラに泣きついた。
「うわーん!ライラ―、零夜がいじめるよー!」
「ちょ、おまっ!」
「……夜神。彼女はこう見えても繊細な子のようだ。いじるのもほどほどにしろ」
「そうですよ。流石に可哀そうです」
「ちょ!こう見えてもって酷くない!?ライラもいじめるー!こうなったら、紅夜!今日一日私と付き合いなさい!親交を深めるわよ!」
「えぇ!?俺ですか!?」
彼女の急な提案に、紅夜が驚きの声を上げるが、驚いたのは彼だけではない。妹紅を除いた三人も同様で驚いていた。
彼女は、ルーミアは、紅夜を恐怖の対象として見ていたはずだ。それもそのはず。紅夜自身は知らないが、紅夜の父親はかつてルーミアにトラウマを植え込んだ最狂の狂人だ。
そんな怪物の息子である彼の
「そう!あんたに怖がってた私はもうバイバイ卒業よ!これからはグイグイ行くことにするから!」
「そ、そうですか…?」
「ていうかそもそも、私より弱いあなたに怖がること自体間違ってるってことに気付いたからね!」
「う…ッ、事実が棘に…!」
目に見えない攻撃が、紅夜を襲う。
ルーミアの急激な変化に戸惑いながらも、零夜は口を開いた。
「おいルーミア、お前どうしちまったんだ?」
「別に、なんでもないわよ」
「いや確実にあるだろ。今日のお前、おかしいぞ?」
「おかしくない!おかしくないったらおかしくなーい!」
彼女は否定するが、誰の目から見たって今の彼女は異常だ。
もしやと思い、いや、確実に彼女のこの態度の原因は零夜の態度だと直感した。
「すまん、俺が悪かった。だから落ち着け!」
「落ち着いてますー!別に変なところはないから!と、言うわけで行くわよ紅夜!あんたのこと、いろいろ聞かせなさい!」
「えっ、あの、ちょ、まだ食べてる途中―――!」
「いいからいいから!」
ルーミアは紅夜の手を掴んで無理やりどこかへと連れ去っていった。
「「「「――――」」」」
そんな状況を、ただ見ているだけで留めてしまったことに、少しの後悔を持った。
「仕方ない。妹紅ちゃん。一緒に二人のところに行こうか」
「えっ、どうして?」
「だって、そっちの方が楽しそうだし」
「……分かった!行く!」
「良い返事だ。それじゃあ、行こうか!」
シロは食器を置くと、オーロラカーテンを出現させて、二人は消えていった。
残ったのは、零夜とライラの二人のみ。
「…なんか、騒がしかったな」
「ふふっ、そうだな」
嵐のような朝だった。
その起源がいろいろとおかしくなったルーミアだが、彼女が本当に心配になってくる。シロがみているから大丈夫だとは思うが、やはり心配だ。
「ルーミアのこと、心配しているのか?」
「あぁ、一応な。あいつなんか急に変になったし。本人は否定してるけどあれって完全に俺の対応が原因だよな…」
「そうかもしれんな」
「他人事見たいに…いや、他人事か…」
反論しようとするが、できない。だって、本当に他人事なんだから。
すると、ライラが。
「それにしても、ちょうど良かった」
「―――?」
「夜神。お前とは一度、一対一で話しておきたいと思っていたんだ」
そう、真剣な面持ちでライラは零夜にそういった。
評価・感想お願いします。
いやー今回でシロの声が毎回変わる謎が解けましたね。こんな日常回?シリアス回?の中間地点とも言える
それにしても、すべてシロが手回ししていたことも驚きがあったでしょう!どこまで用意周到なのかと思うくらいですね!
そして、久しぶりに登場キバットバットⅡ世!
前回の登場は11話だったので、大分久々ですね!そしてその役割が盗み聞ぎ…。ちょっと微妙な立ち位置だったなと思いましたね。
最後に、次回はライラと零夜がついに一対一の対話となります。
ライラは、一体零夜になにを話すのでしょうか?
次回をお楽しみに!
今回のシロのイメージCV 【