いやぁーどうするのかといろいろ考えていたら、もうこんなに立ってましたよ。
まぁ、一話分も書き終えたので、投稿しまーす。
「話…?お前がか?」
「どうした?別に変ではなかろう」
ライラからそう言われ、零夜は黙る。だがしかし、ライラの方から零夜に話があると言うのはこの数日間過ごしただけでも十分珍しいと思えることだった。
「…いや、珍しいと思ってな。まぁ気にするな。それで、話ってなんだ?」
「あぁ済まないんだが、その話をする前に、別の話をしていいか?」
「おま…ッ、自分からふっといて、別の話するとかどうなんだ?」
「それはすまないと思っている。ただ、確認しておきたくてな。……ルーミアのことだ」
「――――」
その言葉だけで、ライラが言いたいことが手に取るようにわかる。
あのルーミアの態度がおかしいことは、普段の彼女を知っている者ならば誰でも分かる異常だと言うことが、一目瞭然だった。
「お前も分かっているとは思うが……彼女、かなり無理をしているはずだぞ」
「あぁ。あいつも、俺達も、分かってるだ。頭では。あいつには罪はねぇって。でも、
「……私が良いたいのは、それだけではないのだ」
「――ん?」
ライラはゆっくりと立ち、ゆらゆらと体を揺らしながら零夜の両肩を掴む。
「お、おい。どうした?」
「お前が…お前がしっかりしないでどうする!!」
「――ッ!」
突如として怒鳴られたことに、一瞬ビビるも、すぐに落ち着きを取り戻す。そもそも、零夜にはライラに怒鳴られるようなことをした覚えなどない。
「話には聞いてはいたが、いくらなんでもそれはない!もう少しだな、ルーミアの気持ちを踏まえろ!」
あ、そういうことか。と、零夜は気付いた。
ライラは女性の敵にかなり敏感だ。紅夜に『女性には優しくしろ』と言うほどに。その理念の起源は、最愛の妹を失ったことにある。
それに由来して、ルーミアを怒らせたことに、ライラは怒っているのだと、零夜は考えた。
「あぁ…あれはすまなかったって。俺も悪気はなかったんだ。ただ――」
「ただ、なんだ?」
「いや、あの、その…」
「言い訳もできないようだな。……それも仕方のないことだとはいえ…」
そう小言を言うが、零夜には聞こえていない。
そして、ライラの脳裏に一昨日の夜の光景の一部がフラッシュバックする。
『――ところでシロ。一つ聞きたい、いや、確認したいことがあるんだが…』
『確認したいこと?……あぁ、当てようか?零夜とルーミアちゃんのことでしょ?』
『そうなんだ。無関係者の私からは非常に言いにくいのだが、ルーミアは夜神を……』
『あぁ、『愛』しているだろうね。彼女の感情は、恋する乙女そのものだ』
『…やはりか』
記憶の中のライラは頷く。
ルーミアのこの数日間の行動や仕草を見ても、零夜の気を引こうと頑張っているところが多々見られた。それでも、零夜は見向きもしていなかったが。
それがわざとなのか、それとも天然なのかはライラにも判断はできなかったから、ここで聞くことにする。
『それで、私が聞きたいことは、夜神はルーミアの好意に気付いているかと言うことなのだ。正直、あれで気付いてないと言うのは異常だぞ?』
『あぁあれね…。まぁ確かに、僕だったら普通に気付くよ』
『じゃあやはり、わざとなのか?だとすれば――』
『いいや、それは違うよ』
『なに?じゃあなんだと言うのだ?』
ライラの問いかけに、シロは一呼吸を置き、星が満点の夜空を見上げる。現代社会では見られない、濁りのない綺麗な夜空だ。
数秒間を置いて、シロは口を開く。
『零夜はね、人の愛情――いや、感情に鈍感なんだ。と、言うのも、それを認知するための機能が欠如してしまったって言う方が正しいかな?』
『それはどういうことだ?』
『……強いて言うなら、一種の防衛本能かな?頭じゃなくて、心が『愛』を拒絶してる。だから、零夜自身も気づいているようで気付いていないんだ』
『……それは、どうにかできないのか?彼女の愛はここままでは一方通行だ。』
『さぁね。一種のトラウマ――心の傷は、修復不可能だからね。こればっかりはどうしようもない。僕らには、彼らに気付かれない程度の支援をすることしかできないさ』
『―――お前は、夜神のことをどこまで知っているんだ?』
『全部♪』
『―――』
『とりあえずこの案件については本人の口から言ってもらうしかないと僕は思う。それで話は変るんだけどさ――』
回想の途中で、ライラはそれを切る。
これから先のことは、後から零夜に言うつもりだ。今、考える必要はない。ライラは重々しく口を開く。
「―――夜神。とりあえず私から言うことはルーミアにちゃんと誠心誠意をもって謝れと言うことだ。そしてちゃんとルーミアの目を見て向き合え!以上だ!」
「あ、あぁ…分かったよ…」
零夜は渋々といった形で了承した。本当にやるかどうかは不安だが、とりあえずライラの中では二人が話す名目を作れたことだけでも良しとした。
そして、ここからが本題だ。
「それじゃあ、本題に入らせてもらうぞ」
「そういえばそんなのあったな。で、本題はなんなんだ?」
「……紅夜の、『神の声』について…だ」
「―――」
先ほどまでの熱が、一瞬にして冷める。
正直、零夜は彼女が話すことは十中八九そのことだろうと、心のどこかで予測はしていた。逆に、自分が知っている中でそれ以外は見当たらなかったから。
「お前が背中を押してくれたと、紅夜から聞いた」
「別に。アドバイス――助言しただけだ。感謝されるほどじゃねぇ」
「謙虚なのだな」
「――それで、俺からも聞きたい。……シロが紅夜の『可能性』に気付いた理由は、なんだと思う?」
「それは私にも分からん。聞けてないからな」
そう言い、ライラは目の前で燃え尽きかけている炎を、己の深紅の瞳に映した。
二人がシロを疑う要因は、しっかりと存在する。
――まず第一に、『今のシロ』ははっきり言って信用できる要素が少なくなっている。
と、言うのも、千年越しにいろいろな事実を零夜に言ってきて、情報を整理するのにかなりの時間を有した。何故それをもっと早く言わないのかと言う問いかけにも、『順序があった』と言うもっともらしい理由をつけていた。
これだけならまだいいのだ。
しかし――、
「いくらアイツが
「…私ですら気づけなかった紅夜の『
『権能』保有者は、互いにその気配を知ることができるという常識。しかし、その常識を覆すような『才能』、『隠蔽』。
しかし、そもそも『才能』と言うのは『権能』に覚醒して始めて貰えるおまけのようなモノ。『権能』に覚醒する前に保有していること自体おかしいのだから。
「その例外の原因が、『ウォクス』と言う例外的存在にあるってことは、一理あると思うだけどな…」
「ウォクスのことは紅夜が言っているのだから、間違いないと思うのだが…。シロは、なにか変なことは行っていなかったか?」
「変なことね……強いて言うなら、紅夜が『隠蔽』を持っていることで『神の声』が聞こえるって言うことに気付いたってこと自体が怪しいと思ってんだよな」
シロが『神の声』に聞こえた要因に、決定的となる証拠がない。
『隠蔽』と言う才能を持っていたとしても、『権能』覚醒後に貰えると言う常識が結論を邪魔するはずだ。それなのに、すぐに常識をかなぐり捨てられるのはおかしいというか、聡明だと言うのか。
「何故シロは『隠蔽』が『神の声』に繋がることに気付いたのか、俺も詳しいことは良く分からん」
「やはり、そうか。話してみて、あいつは結構な秘密主義だと言うことくらいは理解できていた。お前はあいつについてなにか知らないか?」
「それ、何か知れば結果的に今の話の結論に繋がるとか考えてるのか?無駄だ。千年一緒に過ごしているが、知っているのはあいつの『権能』の効力の一部と、あいつの素顔と旧友がいるってことくらいだ。昔話とかしねぇからな、あいつ」
「あいつの素顔…?知っているのか!?」
予想以上に、この案件についてライラが食いついてきた。
まぁ普段人前で顔を見せないシロの素顔を知っているとなれば、食いつくのも当然であろう。
「あぁ、初対面のときに、嫌というほど見せられた。知っているのは、俺とルーミアだけだ」
「そうか…。ちなみに、どんな顔か聞くことかは可能か?」
「―――驚愕的かつ、納得のいく顔、だろうか?」
「―――?」
驚愕するのか、納得するのか、一体どちらなのだろうか?そこらへんをはっきりしてほしいと表明しようとするが、途中でやめた。
今の表現は、彼にとって精いっぱいの表現だったのだろうと、納得させる。
「それでは、旧友とは?」
「さぁ?旧友がいるってことしか聞いてねぇからな。あいつ、自分の昔話とか全然しねぇし。その旧友ってのが判明すれば、あいつの過去くらい知ってると思うんだがな」
「分からないなら、探しようがないか。無粋なことを聞いたな」
「それは俺にじゃなくてシロに言うべきだろ。まぁ、この場にいない奴のことなんて言ってもしょうがねぇが……。しかし、総合的に考えて、あいつがそんな疑われるようなヘマをすると思うか?」
「…では逆に聞く。付き合いが長いお前の目から見ればどうだ?」
「絶対にしない。あいつはそう言うやつだ。やるとしても、確実にわざとだ」
シロの性格は、良く言えば計画的、悪く言えば狡猾だ。
そんな男が、そんな初歩的なミスをするとは思えない。
もしかするならば、『紅夜の可能性に気付いた』という示唆すら、シロがわざと疑うように言ったと言うほうが、まだ現実的だ。
普通は逆だが、シロと言う存在はそういう男なのだ。
「しかし、この状態で私たちの疑いを自らに持たせることに、一体なんの意味があるんだ?」
「さぁな。あいつの考えていることは俺にも分からん。だが、皮肉にもあいつのやることのなんらかは俺達の利益に繋がっているってこったな。それでも、いい気分はしねぇときが多数だが」
零夜は、これまでのシロの行動を振り返る。
何度も自分勝手のような行動をしておきながら、その裏では何かしらの利益に繋がっていた。ほとんど納得のいかないような形で終わってはいたが。
「本当に、あいつはなにを企んでいるのか、理解に苦しむな」
「あぁ、本当に、だ。情報が乏しいのが致命的だな。あいつは俺よりも策略家だからな。『敵を騙すにはまず味方から』って言う考えが定着してる」
「それは……理解は出来るが、納得できるものではないな」
この時代の価値観からしても、この考えはあまり受け入れがたいようだ。敵を欺くために味方を欺くのは計画や作戦上仕方ないと思われるが、それでも信用していた見方から騙されると言うのはいい気分はしない。
だからこそ、ライラの反応は当たり前なのだ。しかし、シロは容赦なくこの方法を使っている傾向にある。
「ただし、俺達の場合は完全に騙されてるわけじゃなく、『あいつはまだなにか隠してる』って感じだな。つまり、中間地点とでも思ってくれ」
「……隠し事をする者のことなど、あまり信用は出来ん。気を付けた方がいいぞ」
「分かってる。それに、それはお互い様……ってなわけでもねぇな。悪い、失言だった」
「―――」
シロがまだなにか零夜たちに隠し事をしているように、ライラもまた紅夜に対して隠し事をしている。紅夜は自分がライラの妹の息子だということを知らない。と、言うより、知る由もない。
無知は罪とはよく言うが、こればかりはどうしようも言えない。
「いや、いいんだ。紅夜に嘘をついていることは事実なのだから。紅夜には、捨て子だったところを私が拾ったと説明している。……今更、それが嘘だったなんて言えない」
(いやその説明は正直無理がありすぎるだろ。お前と紅夜がどんだけ似てると思ってんだ)
零夜は内心そう思う。
ライラとレイラは双子だ。つまり、容姿がとてつもなく似ている。しかも、紅夜はそんな双子の妹であるレイラの息子でレイラよりの容姿を持っている。
つまり、いくらなんでも捨て子だと言う設定には無理がありすぎる。容姿の時点で紅夜がなんらかの血縁関係の疑問を抱いていてもおかしくはないレベルである。
「だから、嘘をついていると言う点においては、私はお前と同類だ」
「ま、まぁそこまで自分を卑下することはないんじゃないか?俺も自分の過去はあまり語らない部類だしな…」
自分の闇の歴史の表を使って、ライラを擁護する。シロはともかく、ライラの嘘はすぐにバレるような嘘だ。
だからと言って、ライラの反応を見るにあの説明で本当に紅夜が気づいていないと思っているようだ。
気づかれている可能性が高いだろうが、なんとも言いにくい状況だ。
昨日、紅夜に確認しておくべきだった。いや、確認した時点で怪しまれそうなためこの手は悪手だ。結局は、紅夜がどのように考えてるのかは聞くことができない。
「とりあえず、気にすることはないと俺は思うぞ?嘘には、ついていい嘘と悪い嘘がある。それは、つくのは仕方のない嘘――つまり、ついていい嘘だ」
「―――そうか、そう言ってくれると、幾分か気が楽になる」
そう言ったライラの顔は、少しだけだが清々しくなっていた。励ましたことは、無意味ではなかったようだ。
「さて、励ましてもらったのはありがたいのだが、これとはまた違う、別の重要な話があるんだ」
「……なんだ、それは?」
ライラは目を閉じた状態で、気持ちを落ち着かせるためかしばらく無言だったが、ゆっくりと目を開けて『ソレ』を言った。
「実はな、夜神。シロから提案されたんだ。『綿月臘月の討伐』と『ゲレルの討伐』。これを交換条件で、互いに協力し合おうと」
「―――ッ!?」
なんだって、そんなの初耳だ!――と零夜は
「落ち着け、夜神。私も昨日言われたことなのだ。お前が知らなくて当たり前だ」
零夜の気持ちを汲み取るようにライラがそう補足するが、零夜の怒りの起点はそこではない。
「あいつ……なんでそんなことを俺に相談しない!?」
シロからはそんな話一度も聞いたことはない。いくら昨日言われたことだからと言って、許容範囲と言う壁が存在する。
臘月討伐に『権能』持ちの仲間が増えることに越したことはない。あちらにだって、『権能』持ちが二人いるのだから。
だとしても、正直言えば無関係のものを巻き込むわけにはいかない。これは、零夜たちの問題なのだから。悪を自称している零夜にも、その程度の常識はまだ残っている。
「それに、お前は納得しているのか!?」
「落ち着け。そこも順を追って説明する。まずお前の疑問だが、私は別に良いと思っている。と、言うのも、了承してなかったらこの話をここで持ちかけてなどいない」
「―――」
確かにその通りだ。もし断っていたのならその場で断っていただろうし、考える時間を貰ったとしても、シロに内容を伝えるはずだ。
だからこそ、話を聞いた時点で了承していたのだと理解できた。
「しかし、良く了承したな。お前にはゲレル討伐以外に何の得もないだろう?」
「なに。困ったときはお互い様と言うではないか。……しかし、だ。これだけは一つ確定させておくぞ。この条約はゲレルのことは他言無用だ。理由は、言わなくても分かるだろ」
「あぁ。分かってる」
そこにゲレルのことは言わない理由は、言われなくとも分かっている。
紅夜に自信の両親の真実を知られるわけにはいかないし、ルーミアに対してはゲレルにトラウマを持っている。
そんな二人を、ゲレルの討伐に巻き込むわけにはいかない。
「じゃあ、臘月討伐のときはどうするんだ?」
「無論、参加させる。見方によってはあいつのいい特訓になるからな」
「月人との戦いを特訓で済ませんな。月には権能持ちが二人もいるんだぞ?しかもその内一人は『無敵』で、もう一人は忠実に動く『人形』。舐めてかかったら痛い目見るぞ」
「それも承知の上だ。シロからは『人形』の方を抑えることをお願いしたいと言われた。なんでも、短期決戦で済ませると言っていた。なんでも、切り札があるとか…」
「短期決戦…切り札…ッ、(まさかあいつ、【猛毒剣毒牙】を使うつもりか!?)」
最凶最悪の諸刃の剣、【猛毒剣毒牙】。シロは臘月相手にまた使うつもりだ。猛毒剣毒牙の危険性は、使用後のシロの身体の疲弊度を見ている零夜だからこそ、その使用は危険だと思っている。――だがしかし、それと同時に使わなければならないと言う気持ちも強い。
今のところ、臘月の『無敵』の権能を破る方法はチートを超えたチートである毒牙しか思い浮かばない。つまり、必然的に毒牙を使うしかないと言うことだ。
別の方法は臘月の『無敵』を突破する方法を見つけることだが、前回は見つけることはできなかったため、今回も見つけることは難しいだろう。
(それと、ライラの反応からするに、シロはその
だが、話さないのは逆に良かったのかもしれない。
『権能』の弱体化と言う理不尽極まりない力の存在を知ったら、それ以前に『猛毒剣』と言う名称通りあらゆる『毒』を操る能力は大変危険だと判断するはずだ。
それに、いくら共闘する仲になるとはいえ、こちらの情報を渡し過ぎるのは得策ではない、ただの愚策だ。
「……そうか。だったらそれに関しては俺が言うことはなにもねぇな。ところでよ、ライラ。お前の方はゲレルを探したりなんかはしたのか?」
「いいや。私もそうしたいのは山々なのだが、紅夜の育成などもあってできなかったんだ」
「なるほどな。じゃあゲレルに関しては情報はなしか…。顔は覚えてるからな、3年もあればきっと見つかるだろ」
「…3年か。確か、妹紅の父親が模造の宝を作る期間、だったか?偽物の宝で女を手籠めにしようなど――いや、それ以前に自分の娘を蔑ろにする奴に女を愛す資格などないと言うのに…!」
そこに関しては零夜も同感だ。【先天性無痛無汗症】を持つ妹紅を化け物呼ばわりしたことは、決して許せることではない。
そもそも、これは一種の病気であって、痛みを感じず汗をかかないと言う部分を除いては、妹紅はれっきとした人間なのだ。
無知とは罪――この言葉は、まさにこれに対してベストマッチな言葉だった。
「まぁ結局偽物だってことがバレて恥をかく運命だ。どうせなら、盛大に、派手にやろうぜって、俺は思うね」
「ふっ、そうだな」
「――さて、話は終わりでいいか?」
「あぁ、時間をとってしまって済まなかったな。それじゃあ、そろそろ紅夜たちのところに―――」
「キャアアアアアアア!!」
「「―――ッ!!?」」
突如、聞こえたかん高い女性の悲鳴。
しかも、この声は、とても聞き覚えのある声だった。
「この声は…ッ!」
「ルーミア…!?」
そう、あの悲鳴の正体は、ルーミアの声だった。
「一体なにがあったんだ!?」
「分からん!ともかく、急ぐぞ!」
二人は各々の武器を持ち、悲鳴の聞こえた方向へと急いで駆けた。
本当に一体、なにが起こった?あそこには紅夜もシロもいる。バリバリの戦闘要員であるあの二人――特にシロの目を掻い潜ってルーミアに危害を加えることができる存在が、この時代にいたと言うのか?
シロの目を掻い潜れる存在となると、『権能』覚醒者である可能性が高い。そして、『権能』覚醒者とは、転生者のことだ。
まずい、本当にまずい。転生者と言えばゲレルのことばかり考えていて、他の可能性を全く考えていなかった。
もしかしたら、零夜達の知らない歴史で、もう一人の転生者が暗躍していて―――、
と、様々な可能性が浮かび上がる。
「――おい、大丈夫か!」
声が聞こえた方向へと着いた零夜とライラ。零夜が叫ぶと、横から聞き慣れた声が聞こえた。
「あ、零夜」
「お兄さん!」
振り返ると、そこには今だに女性の声のシロと妹紅がいた。しかし、あれだけの悲鳴があったと言うのに、二人は冷静そのものだった。
「もしかして、ルーミアちゃんの悲鳴聞いてここに来たの?」
「当たり前だろ!あいつは今どこにいるんだ?あと、なんでお前はそんなに冷静なんだ!?」
「ちょっとちょっと。そんなに質問されたらなにから答えればいいのか分かんないって。とりあえず、ルーミアちゃんならこっちだから、着いてきて」
「「―――」」
零夜とライラは互いの顔を見合って無言で頷き、二人の後を追う。
少しだけ歩き、生い茂った森を抜け、少し余裕のある場所へと着くと、そこには――
「ルーミア!大丈夫か!?」
ライラがそう叫ぶ。そこには、尻もちをついてガタガタと震えているルーミアの姿があった。
零夜もすぐに駆け付けて、ルーミアの状態を見る。涙目になって、とても怯えている。そして、それはゲレルや紅夜に怯えていたような、心の底から怯えているようだった。
「―――ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」
「おい、なにがあった!?」
「あああああ、あれ……!アレ!」
そう慌てながらもルーミアが指さす方向には、紅夜がヤンキー座りの脚を閉じた方の座り方をしながら、影で全体が見えないがモゾモゾと動く巨大な毛が生えている物体を撫でていた。
零夜は武装を取り出し、ライラが光で照らして、影を消去する。
そして、その巨大な存在の正体が、露わになる。
「―――蜘蛛?……いや、タランチュラか?」
暗い紺色の毛を全身に纏い、赤く光り輝く4つの眼光。大きな八本の脚に、その足で支えられる巨体のタランチュラだった。
大きさは縦の大きさなら中学生サイズの妹紅といい勝負であり、横のサイズもそれに比例してデカかった。
しかし、普通タランチュラと言えば毒を持つと言うイメージがあり、恐怖の対象でもある存在だが、このタランチュラは違った。
大きくクリクリとした目に、小さな口。見た目的に言えば、マスコットキャラのような見た目をしたタランチュラだった。
「―――なんだ、マクラじゃないか」
「――枕?」
「あ、師匠!零夜さん!」
二人の存在に気付いた紅夜は、立ち上がってこちらに手を振る。すると、マクラと呼ばれた巨大なタランチュラも脚の一本を持ち上げて左右に振る。
「あれのこと…知ってるのか?」
「あぁ。紅夜に紹介されてな。あいつの友達だ。なかなかに可愛げのある奴だぞ」
「―――」
零夜はマクラの目を見る。確かに、大きなクリクリとした目が、可愛さを彷彿とさせている。ライラの意見も、あながち間違いではない。
「まぁ、確かに可愛げは、あるな」
「分かります!?俺の大事な友達なんです!マクラも、褒められて嬉しいって言ってますよ!」
マクラの首が、ものすごい勢いで縦に振られている。どうやら、マクラは人の言葉を理解できているようだ。マクラからも感じられる力も妖力だし、どうやら妖怪のようだ。
いや、逆に妖怪じゃなかったら何なんだと言う話になるのだが――、
「にしても名前がマクラって……枕にして寝てるのか?」
「いえ、蜘蛛の別名が、【マクラ】って言うらしいんです。名前がなかったので、それをそのまま付けたんです!」
別名――つまるところ、別の国の言い方と言う解釈になる。
そして、付け足すようにシロが割って入った。
「マクラは、『ネパール語』だね。その国の言葉で、蜘蛛って呼ぶんだ」
「お前、随分と博識なんだな」
「そうですね。俺もウォクスに言われて知ったのに…」
「なぁに。ちょっとした豆知識だよ。それで、どうだい?マクラ、可愛いかい?妹紅ちゃん」
「うん!マクラすっごく可愛いね!」
『(≧▽≦)』
妹紅にも褒められて、嬉しそうにしているのが分かる。
妖怪だったら普通人間を襲うのだが、知性があるおかげか友好的な蜘蛛のようだ。
「しかし、マクラは仲間見たいなもんだろ?なんで一緒に行動してないんだ?」
「あぁ、それはですね。マクラがただ単に自由奔放なので、時々会うくらいなんです」
「……個人の考えに水を差すつもりはないが、それ下手したら討伐されていてもおかしくないんじゃ…」
「不吉なこと言わないでくださいよ。マクラはとっても強いんですから。そんんじょそこらの人間には負けませんよ」
「―――そうか」
紅夜が強いと言っているのだから、マクラの強さは相当なものだろう。
だがしかし、強さに関係なくルーミアはマクラの何が怖いのだろうか?妹紅の目から見ても可愛いと言う感想が飛び出てくるほどなのに、怖がる要素など皆無のマクラを怖がる理由が分からない。
ルーミアの強さがあるのならば、マクラを怖がることもない。
(それに、力の封印はもう解除してるしな)
ルーミアの力の封印は、もうとっくに行っていなかった。
理由は一つ。これから強大な力を持つ敵と戦う以上、力を出させておかなければ大変なことになるからだ。
「おいルーミア。こいつのどこが怖いんだ?」
「ち、ちちち、違うの!私が怖いのは、そいつじゃないの!」
「マクラじゃない?じゃあなにが怖いんだ?」
「そいつの、そいつの後ろにいる、アイツよ!」
全員が、一斉にマクラの後ろを見る。特に気配は感じない。
「何も感じないぞ?誰もいないんじゃないのか?」
「違う!間違いなくいるわ!あいつの気配を、私が忘れるわけがない!」
これ以上ないほどの剣幕な感情を露わにしているルーミアを見て、只事ではないと判断する。
――ガサッ
「「「―――ッ!!」」」
突如、マクラのいる場所の奥にある茂みから、音が聞こえた。バカな、さっきまであそこにはなんの気配もなかったはずだ。なのになぜ、あそこに誰かいる?
零夜、ライラ、紅夜の三人は剣を構え、シロは妹紅を守るように立ちふさがる。
そして、
全身に存在する、黒光りする外皮鎧。頭から生える二本の触覚に、二つの眼。
その姿は、人間――いや、人間だけじゃない。生物全てが、生きとし生ける者全てが嫌悪感を抱かずにはいられない存在――。
―――
「「「―――」」」
しかも、問題はその大きさだ。横の大きさが1メートルを超えており、縦のサイズもそれに比例したものになっている。
どう考えても、非常識なサイズのGだった。
あまりにも衝撃的な存在を前に、全員が言葉が出ないでいた。
だが、そんな皆の状態など気にせずと言わんばかりに『G』は『カサカサ…』と言う生理的嫌悪感を抱く音を立てながら、零夜たちの方へと向かってくる。
「キャアアアアアアア!!」
「全力で滅ぼせぇ―――!!!」
ルーミアの悲鳴と、ライラの雄叫びが被る。
零夜と紅夜はそれぞれの武器を取り出し、全力で目の前の『
「――――フフッ」
そして、そんな場面の裏で、シロと妹紅がマクラと合流し、妹紅はマクラの頭を撫でていた。
「よしよし」
『―――///』
「―――にしても、かぁ…」
シロは絶賛
「これを見るに、蜘蛛好きは変わってないみたいだね。君の
シロは妹紅に撫でられて喜んでいるマクラを見ながら、懐から紫色がベースの一冊の本を取り出す。紙製ではない、プラスチックでできたような、硬い質感を持つ本だ。
そして、その本の題名は――【
今回はどうでしたか?
ちょっとシリアスな部分が多いので、マスコットキャラ的なキャラを出してみまさいた!
全部シリアスだったらちょっと気分的にアレなんで、ちょっとはコメディな部分もあってもいいですよね!
そして、紅夜が蜘蛛好きだと知っていたシロは――?そして、何故あそこで【POISON SPIDER】のワンダーライドブックを…?
いろいろと謎が深まりますね!
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