東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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――前回、龍神が本気を出して深緑色のフルアーマー姿となり、巨体の時とは比べ物のならないほどの力を発揮した龍神に、エターナル(零夜)が提示した賭けには勝ったものの、エターナル(零夜)は敗れ去ってしまった。
 そして、負けた時に中に舞い上がった【メモリーメモリ】が機動して、零夜の体の中へと入っていた――。


 メモリーメモリは、どのような過去を見せるのか?


 本編、スタート!


61 お前の名は

――夢を見ていた。

 それは、自分の夢ではない。誰かの、知らない誰かの夢だ。その証拠に、零夜の体は半透明になっていた。

 

 

『何だココは…?一体なんなんだ?俺は確か、龍神に負けて、気絶していたはずなのに…』

 

 

 龍神に負けて、気を失ったらここにいた。

 状況が分からぬまま、零夜は辺りを見渡す。そこは宮殿のような豪華な場所で、美しい装飾品が無数にあった。

 

 

『ここが現実なはずがない…。と言うことは、夢かもしくはそれに類似する類の現象か?』

 

 

 普通、目覚めたらこんな所にいるはずがない。それに、連れ去れてたとしてもここは零夜にとって過去だ。この場所が、奈良時代のものとはとても思えない。

 それに、そもそも連れ去れてたのなら半透明になっているわけがない。

 

 

『―――いや待てよ…?こんな現象を引き起こす『ナニカ』を俺は知っているはずだ…。確か―――メモリーメモリ!!』

 

 

 そう、この現象を引き起こした元凶はメモリーメモリだ。メモリの性能をすべて調べていた時期で、メモリーメモリの効能を文字で見てはいたが、実際に体験するとこうも違うのかと実感できる。

 確か、メモリーメモリの能力は使用者に過去の出来事を見せる効果だったはずだ。

 

 先ほどそのメモリを連想していたおかげで、早く答えを見つけることができた。

 

 

『と言うことはつまり、ここはどこかの過去と言うことか?―――ん?』

 

 

 周りを再び見渡すと、その奥に一つの影が見えた。零夜は歩いて、その影の人物が何者なのかを知るために近づく。

 

 その人物は――、

 

 

『月夜見…!?』

 

 

 その人物は、月の最高神である月夜見だった。そんなバカな、彼女は今、月にいるはず…!?

 いや、違う。ここは過去だから、非現実的なことも今だけは現実となっているのだ。

 

 

『ということは、ここは月…?何故俺は月の過去を見ている?』

 

 

 いやあり得ない。―――いや、違う。あり得ない話ではない。

 月の民は昔、地球で暮らしていた。月に移住した理由は『穢れ』が増えすぎて対処できなくなり穢れから逃げることが目的だった。

 つまり、今見ているのは月の民がまだ地上にいた頃の出来事だ。

 

 そう考えていた時、コンコン、と手前の扉からノックが響く。

 

 

『入れ』

 

 

 月夜見が王として威厳のある声で、そう言うと、一人の人物が入って来た。その人物は全身を絢爛な鎧で包み、重戦士を思わせるような姿をしていた。

 その人物が月夜見から10メートルほど離れたところで跪いた。

 

 

『わざわざ呼び出してすまんな、空真(くうま)

 

『いえ、とんでもございません。月夜見様に呼ばれましたら、真っ先にお伺いするのが、臣下の務めです』

 

 

 空真と呼ばれたその人物は、重々しい声でそう言った。

 

 

『相変わらずお前は堅苦しい奴だな』

 

『…そう言われましても、当然の態度でございまして…』

 

『まぁお前はその方が楽なのだろう。さて、本題に入る。実はこの度、私と同じ存在である『神』……龍神と会談して欲しいのだ』

 

『りゅ、龍神…様…ですか!!?』

 

 

 空真は当然の如く驚いた。

 

 

『わ、私ごときが月夜見様と同等の存在である龍神様と会談など―――』

 

『いいや、これはお願いではない。『命令』だ。空真』

 

 

 最初のような威圧が放たれ、空真の体がビクッと震えた。つまり、遠回しに「お前に拒否権はない」と言っているのだ。

 

 

『……かしこましました。……月夜見様。いくつか質問してもよろしいでしょうか?』

 

『構わん。言ってみろ』

 

『何故龍神様はこちらに来られるのでしょうか?』

 

『それは私が呼んだからだ。龍神はな、人間を見下しているんだ。人間など、恐れずに足らずと言う認識を持っている』

 

『……それは、間違いないかと思います。月夜見様や龍神様と言った『神』の領域に立つ存在は、私たちども人間を、遥かに凌駕しております』

 

 

 それは空真の言う通りだ。神と言う存在にとっては、人間など雑魚に過ぎない。それほど、力の差があるものだ。

 大半の神が、人間を「弱い者」だと認識しているもの仕方のないことなのだ。

 

 

『確かにその認識は正しい。だがな、空真。私は認めているのだ。人間の可能性を。その力を。空真、お前も例外ではない』

 

『――ッ!月夜見様…!この空真、更なる忠誠をあなた様に誓います!』

 

『それは今はいい。前に会った時にそれで口論になってしまってな…。それでだ、空真。お前には龍神と戦って欲しいのだ。そして、勝て』

 

『わ、私が龍神様とですか!?そんな…目を合わせることすら恐れ多いのに、ましてや勝負して、戦って、勝つだなて――『空真』』

 

 

『―――これは、『命令』だ。黙って従え』

 

 

『―――ッ!!ハッ!!』

 

 

 また威圧だ。高圧的で、絶対に逆らってはいけないと言う絶対零度の気配が放たれた。月夜見は多少強引なところはあるが、そう言ったところからカリスマ性が溢れ出てきている。

 

 

『良い返事だ。それで、なにか他に質問はあるか?』

 

『…それでは、失礼します。何故私なのでしょうか?』

 

『それはもちろんお前が適任だからだ。他に候補として綿月姉妹も視野に入れていたが、いろいろ考えた結果やはりお前が適任だ』

 

『……何度も聞くようで申し訳ございません。私の無礼をお許しください。私を選んでくれた、根拠は一体…?』

 

『根拠か。それはさっきも言った通り、お前が適任だと言う理由と、後はそうだな…。お前と龍神の能力が同じだからだな』

 

 

『龍神と同じ能力…ってことは、この空真ってヤツが、龍神の言ってた『アヤツ』か?』

 

 

 龍神の言葉を鵜呑みにするなら、『アヤツ』とは龍神と同じ能力――天を操る能力を持っている人物のことを指しているはずだ。

 それがウラノスではないとすると、空真が『アヤツ』の可能性が高い。

 

 

『龍神様の能力と、私の能力が同じ…(なるほど、だから月夜見様は私を選んだのか。だがしかし…)私ごときで、龍神様に勝利することができるでしょうか?』

 

『何度も言ったが、奴は人間を舐め切っている。だから必ず手加減するはずだ。これを機にアイツに見せてやれ。人間の可能性をな』

 

『―――ハッ!!!』

 

 

 空真は大声を上げて、敬礼した。人間と神との決闘。結果は目に見えているはずだ。龍神が勝つに決まっている。零夜も、あの龍神の本気モードを見て、感じて、負けて、より強く実感していた。

 

 

『……それでだ空真。臘月は今どうしている?』

 

『―――ッ!!』

 

 

 この驚愕は、この話を聞いている空真の驚愕ではない。零夜の驚愕だ。

 まさかここであの忌々しき名前が出てくるとは思わなかった。――いや、だがある意味当たり前だ。ここは過去の出来事の中なのだから。

 

 

『はッ。相変わらず自室に籠りっきりでして…』

 

『あいつは相変わらずだな…。大方研究や発案で忙しいんだろうが、一応聞いておく。アイツの現状を報告してくれ』

 

『申し訳ありませんが…分かりかねます。しかし、館の巡回をしている兵士の証言によると、夜中に臘月様の部屋で何やら奇妙な物音がするとのご報告が入っております』

 

『奇妙な物音?なんだそれは?』

 

『私にも分かりません。証言をした兵士によりますと、キシキシと、なにかが動く音が微かに聞こえたとの報告が。また、別の日には何やら(うめ)き声のような声が聞こえたと、別の兵士から証言が上がっております』

 

『なにかが動く音に呻き声?本当にあいつはなにをしているんだ?」

 

『本当に分かりません。しかし、これだけではなく、なにか機械音が鳴っているとの報告も』

 

『機械音?――あいつは都をより発展させるものの発案などをしているはずだ。創作は専門外だろ?』

 

『はい…。それを聞いた兵士の話では、フラ、ファ、ンと、途切れ途切れしか聞こえなかったようです』

 

 

『フラ、ファ、ン……。その単語、どっかで聞いた覚えが…』

 

 

 『フラ』『ファ』『ン』。その三つの単語が導きだす答えは――、

 

 

『――まぁよい。臘月のことは常時報告を入れろ』

 

『かしこまりました!』

 

 

 しかし、考えている最中にも話はどんどん進んでいくため、零夜はこの考えを一度斬り捨てる。

 

 

『それではもう下がってよい。次はアヤネと話をしなくてはならないからな』

 

『……口を挟むようで申し訳ありません。アヤネは、確か…』

 

『あぁ、女部隊の隊長だ。隊員の連続失踪のことについて話を聞かねばならん』

 

 

『―――隊員の連続失踪事件?』

 

 

 謎の事件を聞かされて、零夜の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。話を聞く限り、任務中に何人のも失踪者が出た事件のようだ。

 

 

『彼女は本当に気の毒です。まさか穢れの除去任務が主なアヤネの部隊…。その任務中に何人のも失踪者を出しているのですから』

 

『それらも含めて、あいつとはいろいろ話さなければならないことがある。もういいだろう?下がれ』

 

『はっ!!』

 

 

 そういい、空真は一礼をして、扉から出て行く。零夜は、その空真の後を追って行く。何故だかは分からない。だがしかし、彼の後を追わなければならないと思った。

 

 空真が扉を出て、しばらく廊下を歩くと、一人の女性と空真はあった。

 

 

『アヤネ』

 

『……空真』

 

『これが、アヤネ?』

 

 

 その女性の名前はアヤネだった。月夜見と空真の最後の話から出てきていた、女性の名前。女部隊の連続失踪事件の被害者たちの隊長だ。

 アヤネの目には深いクマがあり、とても落ち込み、荒れているのが人目で分かる。彼女も、この事件を悔やんでいるのだろう。

 

 

『―――その、なんだ。気の毒、だったな』

 

『なに?同情ならいらない。それだけだったらそこどけてくれない?アタシは月夜見様に呼ばれているの』

 

『…分かった』

 

 

 空真は道を譲った。そして、アヤネは道をわざわざどけた空真の肩にわざとのようにぶつかり、そのまま月夜見の部屋まで向かって行った。

 が、途中で一旦止まり、空真の方に振り返る。

 

 

『あと、宮殿の中でくらい鎧や兜を脱ぎなさいよ。正直、見ていて鬱陶(うっとう)しいわ。その恰好でいることを許されているからって、調子に乗ってんじゃないわよ』

 

 

 愚痴をこぼした後、その背中が見えなくなるまで、空真はその背中を見送る。

 

 

『――大分荒れているな。仕方のないことだが…』

 

 

 アヤネの辛辣な言葉を受けとめ、空真は歩みを進める。

 しばらく歩いて、空真が到着した場所は、訓練場だった。そこではたくさんの兵士たちが訓練に励んでおり、熱気に包まれていた。

 空真が顔を見せると、一人の兵士がその存在に気付く。

 

 

『空真隊長!』

 

 

 その一声で、兵士たちが一斉に訓練を辞め、空真に近寄ってくる。

 その表情は爽やかで、空真がとても慕われていることが分かる。

 

 

『ハハッ。来ただけでこの歓迎とは…。別に俺のことなど気にしなくともいいんだぞ?』

 

『いえいえそんな!隊長が来たのなら全力で歓迎しますよ!それで隊長。この度はどうしてこちらに?』

 

『あぁ。実は火影(ひえい)に会いに来たんだ。火影はいるか?』

 

『はい!火影隊長ならこちらにおります!さっそく、お呼びいたしますね!』

 

『あぁ。頼む』

 

 

 兵士の一人が火影と言う人物を呼びにその場を離れる。

 その間にも兵士たちのすし詰めにされながらも、空真は紳士に対応する。

 

 

『こいつ、かなり慕われてるんだな…』

 

 

 零夜はその場面を見ていて、空真がどれほど兵士たちの信頼を集めているのかを実感する。月ではそれどころではないため合わなかったが、この性格の人物ならば、臘月の非道さに心打たれ、零夜とともに戦ってくれてたかもしれない。

 本当に、空真と合えていればよかったと思う。

 

 そして、火影を呼びに行った兵士が戻って来る。

 

 

『隊長!火影隊長をお連れしました!!』

 

『よぉ空真。俺に一体何の用だ?』

 

 

『なっ!!?こいつは―――!?』

 

 

 零夜は火影の顔を見て、驚愕する。混乱、動乱、困惑と言った表情を一気に詰め込んだような表情をしてしまった。

 だって、なにせ、その人物の顔は―――、

 

 

プロクス・フランマ―――!!?』

 

 

 火影と呼ばれたその人物は、未来で零夜と戦った【ヘプタ・プラネーテス】の一人、プロクス・フランマだったのだ。

 驚きと困惑で脳が停止する。一体どういうことだ?何故プロクスが火影と名乗っている?

 

 だがしかし、零夜の驚きを他所に、話はどんどん進んでいく。

 

 

『お前が俺を呼ぶなんて珍しいな。一体どういう風の吹き回しだ?』

 

『実は、今度あるお方と手合わせすることになっていてな。その準備運動をしたいと思っているんだ』

 

『カーッ!お前にとって俺は準備運動程度かよ!!』

 

『す、すまない。お前の気分を害してしまったようだ。申し訳ない』

 

 

 そう言い空真は頭を下げて謝罪する。

 

 

『いいってことよ!お前は俺ら男隊長の中では最強だからな!そうなっちまうのも仕方ねぇ!それに、俺はお前がそう言う奴じゃねぇってこと、知ってっからよ!その謝罪、ちゃんともらうぜ?』

 

『……ありがとう、火影』

 

『いいんだいいんだ。それで、お前の準備運動に付き合えばいいんだろ?付き合ってやるよ!』

 

『ありがとう。それじゃあ、移動しよう』

 

 

 そういい、二人は訓練場の中心へと移動する。兵士たちも、場外から観戦するために集まる。滅多に見れない部隊長同士の戦いだ。

 ある者は興味本位で、ある物は参考にとどんどん人が集まってくる。

 

 

『それでは、審判は私が務めさせていただきます!用意はいいですか?』

 

『あ―ッ、ちょっと待てや。おい空真。お前戦いのときくらい兜脱げや』

 

『…?いや、普通は逆じゃないのか?』

 

『そりゃーそうだけどよ、なんつーかな。お前いつもその恰好だから、たまには顔見せた状態で戦えよ。一種のハンデだよ』

 

『そうか…頼んでいるのはこちらだから、お前の考えを尊重するのが道理か。では、外すからちょっと待っててくれ』

 

 

 空真はゆっくりと、その兜を外していく。

 そして―――その顔が、露わになった。

 

 

『―――』

 

 

 零夜は、その顔を見た途端、絶句した。その時だけは呼吸も忘れ、息をすることすらできなかった。

 そして五秒ほど経ち――、

 

 

『ゲホッ、ゲホッ!!』

 

 

 ようやく息をして、生命活動を再開した。

 

 

『あいつは…あの顔は…!』

 

 

『それでは、はじめ!』

 

 

『『『『『おぉおおおおおおお!!!』』』』』

 

 

 零夜が苦しんでいる傍らで、火影と空真の戦いは始まった。

 火影の烈火が燃え盛り、地面と焼きながら、空真に向かって行く。空真は風を引き起こし、火を消失させ、風の力で自らの体を飛翔させ、剣を振るう。

 

 

『『はぁああああああ!!!』』

 

 

 火炎が、流水が、雷が、疾風が、土豪が、光が、闇が、辺り一帯を包み込み、そして――、

 

 

『すまないな、火影。また俺の勝ちだ』

 

『あーっ!クソっ!またお前の勝ちかよ!少しは手加減しろよ!』

 

『すまないな。俺は一切妥協しないと、知っているだろう?』

 

 

―――そう悪気のない皮肉を言い放った空真の顔は、あの忌々しき敵、ウラノス・カエルムだった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

「ウラノ――ッ!ガッ…!」

 

「零夜!」

 

 

 零夜は、そこで目が覚めた。情報多可による衝撃で起き上がろうとすると、肉体的なダメージで苦痛の悲鳴を上げる。自分の体を見て、自分の体に無数の包帯が巻かれていることが理解できた。

 そして、零夜の目ざめに喜んだ一人の女性―――ルーミアが隣にいた。

 

 

「ルーミア…。ここは…?」

 

「ここは私たちが元居た場所。怪我が多くて、ここまで移動するの大変だったんだから」

 

 

 ルーミアは愚痴のようにそう言った。

 ともかく、零夜が気絶する前に聞こえた女性の声は、ルーミアだったと言うことだ。

 

 

「そうか…。すまないな。わざわざ」

 

「えっ!?い、いや別に…当然のことだし…」

 

 

 お礼と謝罪すると、ルーミアは突如として顔が赤くなり挙動不審となる。

 その感情のバリエーションの多さに、激しい奴だと言う感想が浮かんだところで、ルーミアに質問する。

 

 

「ところで、他の奴らは?」

 

「妹紅は寝てるわ。シロはまだ都に。ライラと紅夜の二人は零夜のために薬草とか探しに行ってきてる」

 

「――そうか。皆に迷惑かけちまったな…」

 

「全然、私はそんなの気にしてないわよ」

 

「そうか」

 

「……それで、どうだった?龍との戦いは…?」

 

「―――それ聞く意味あるか?見ての通り、惨敗だったよ」

 

 

 それを聞いて、ルーミアの顔が曇る。彼女にとって零夜はほぼ敵なしの存在だ。例外を上げるとするならばシロや臘月のような権能持ちのみ。

 きっと勝ってくると、そう思っていたのに――、

 

 

「それに、相手が悪かった」

 

「どういうこと?」

 

「神力を持っているって時点で気付くべきだった…。あの龍はただの龍じゃない。【龍神】だった」

 

「龍神って…!あの!?」

 

 

 彼女の顔が驚愕に染まる。どうやら彼女も龍神を知っているようだ。(まが)りなりにも幻想郷に住んでいたのだ。

 その場所を創った人物のことを知っていても不思議ではない。

 

 

「あの龍神だ。あぁクソ!シロの野郎、次会ったら絶対ボロクソ言ってやる!」

 

「そこは殴るとかじゃないの?」

 

「普通はそうしてぇよ。だけど、この体じゃ無理だし何より、龍神だと気付ける要素は会話の中にはあったんだ。今回は隠し事らしい隠し事はしてねぇし、それだけで留めとくつもりだ」

 

 

 今回は少なからずとも気づけなかった自分にも非があるので、言葉だけで済ませておくとする。

 

 

「……すまん。もう一回寝るから、緊急以外のときは起こさないでくれ」

 

「分かった。それじゃ、おやすみ」

 

 

 彼女の柔らかく優しい声を最後に聞き、零夜は再び眠りに落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

『全く…どうして我がこんなことを…』

 

 

『――龍神…!』

 

 

 再び過去の記憶へと突入すると、そこには見慣れた存在である、龍神がいた。

 龍神は蛇のような見た目をした巨体バージョンで、木々が生い茂る場所の中で、開けた場所で体を丸めて休息をとっていた。

 

 

『月夜見の奴め…。人間の凄さを見せてやると言っていたが、何故我ら神より弱い人間とわざわざ戦わねばならぬのだ。いや、挑発に乗った我も我だが…』

 

 

 

 独り言のように、零夜にとってありがたい状況の説明を述べていく。

 記憶の中の龍神は、当初零夜と初対面だったときのように、人間を弱小種族と馬鹿にしているような雰囲気だった。

 

 

『こいつの傲慢さは相変わらずだな。強さを認めた奴にだけは寛大になるが、温度差の激しい神だな』

 

 

 龍神への率直な感想を述べた後、奥の方から一つの影がこちらに向かって歩みを進めてきた。

 そして、その存在が露わになる。その人物は、ウラノス・カエルム――いや、空真だ。

 

 

『お待たせして申し訳ない。龍神様。ご紹介に預かった、空真と申します』

 

『貴様の名前などどうでもよい。我もこのような児戯に戯れているほど暇ではないのだ。早々に終わらしてやる!』

 

 

 龍神は丸まった体を広げながら飛翔し、上から空真を見下ろす。

 

 

『あなた様に無礼にならぬようこの空真、全力で、全身全霊で、お相手いたしましょう!!』

 

 

 その言葉とともに、戦いの火ぶたは切られた。

 龍神が初めに口に火炎を生成すると、それを玉にして空真に放つ。空真は両手剣を豪快に振るうと、その炎をかき消した。

 

 

『ほう。我の炎をかき消すとは。月夜見が選ぶだけのことはあるようだな!』

 

『お褒めに預かり光栄です!では、次は私から行かせてもらいます!!』

 

 

 空真の両手剣に、水流が集束していく。それと同時に空真の体に竜巻が纏われ、瞬発的な速度と飛翔を生み出し、両手剣を振るう。

 水流が斬撃となり、龍神を襲う。

 

 

『その程度か!』

 

 

 瞬間、龍神から強烈な熱気が放たれ、水の斬撃が一瞬にして蒸発する。

 

 

『流石は龍神様です!であればこれなら!』

 

 

 両手剣を地面に突き刺すと、岩などが地面から浮かび上がる。両手剣を持ち上げ、振るうと岩が龍神に向かっていく。

 

 

『小癪な!』

 

 

 龍神は暴風を巻き起こし、迫りくる岩たちを粉砕する。その間に、空真は跳躍して両手剣を振るい、龍神の体に当てた。

 

 

『うぐぅうう!!おのれ!我の体に攻撃するとは!!人間風情がぁあああああ!!』

 

『申し訳ありませんが、月夜見様から手加減などせず、容赦なく勝てと命令されておりますゆえ、私も本気で行かせていただきます!!』

 

『えぇい!!ならば、これならば!!』

 

 

 龍神の体が突如として発光し、空真の目を晦ます。一瞬目を閉じてしまった空真だったが、その隙を突かれ、龍神が爪を使った斬撃を飛ばす。

 

 

『ふっ!』

 

 

 そしてその攻撃を、間一髪で防いだ。長年の勘のおかげだ。

 お返しと言わんばかりに、空真は次に手を振りかざすと、当たり一帯が闇に包まれる。

 

 視界を奪った状態で、空真は全身する。狙うは龍神の顔じゃない。その胴体だ。

 両手剣に(速度)()を乗せて振りかざし、龍神の鱗に傷をつけた。

 

 

『うがぁああああ!!そんなことがあり得てたまるか!人間如きに、我の鱗が傷つけられるなどぉおおおおお!!』

 

『はぁあああああああ!!』

 

 

 下等生物と見下していた相手に傷をつけられたことによるショックと動揺を付き、空真は連続で攻撃を叩き込む。

 場所を一か所に絞り、攻撃を続けていく。龍神の鱗が少しずつ剥がれ、肉がどんどんと露わになっていく。

 

 

『こんなこと、認めて溜まるかぁあああああ!!』

 

 

 龍神の体が雷撃に包まれ、空真もそれに巻き込まれて感電する。

 感電した空真は、焦げて地面に落ちる。

 

 

『やはり、一筋縄ではいかないようですね…!』

 

『当たり前だ!月夜見が自慢するだけの力はあるようだが、神を舐めるな!!』

 

『もちろんですとも!!』

 

 

 空真は手に炎を纏わせると、その拳を地面に向けて突き出す。

 すると上昇気流が発生し、一気に空真は上空へと解き放った。

 

 

『はぁ!!』

 

 

 龍神よりも高く飛び、両手剣に『雷』『炎』『風』の力を纏わせ、重力に従って龍神の頭めがけて剣を振り下ろした!

 

 

そんな攻撃!当たらせるものか!

 

 

 龍神が大きく口を開き、炎弾を生成する。しかし、それだけには留まらず、深緑色のエネルギーを炎弾に纏わせ、赤緑色の玉へと変化する。

 

 

『あれは…神力…!』

 

 

 遠巻きで見ていた零夜が、その深緑色のエネルギーの正体を見破る。

 あれはエターナルで戦った時に何度も見せられた龍神の神力だ。あれを纏わせたと言うことは、空真を強者と認めたのか、あるは――、

 

 

―――そんなことをしている合間にも、龍神の攻撃と空真はぶつかりそうになっていく。

 

 

『送風!二酸化炭素!!』

 

 

 瞬間、炎弾ごと龍神に向かって強力な風が吹き――火が鎮火した。

 

 

なに!?我の炎が、たがか風如きに!?

 

『永琳様の知識ゆえですよ!』

 

 

 天晴(あっぱれ)だ。まさか戦いの最中に科学知識を使うとは。確かに炎は酸素がなければ燃えない。二酸化炭素は逆に炎を鎮火するには持ってこいの反転物だ。

 だがそんな知識知る由もない龍神はただの風にしか思えず、そのただの風に鎮火されたことに、再び気を取られていた。

 

 

『ハッァアアアアアア!!』

 

『うぐぉおおおおお!!』

 

 

 その結果、空真の両手剣が脳天に直撃。龍神は悲鳴を上げ、衝撃のまま地面に激突し、強烈な爆音と砂ぼこりをまき散らしながら、落下した。

 

 風の力でゆっくりと地面に着地した空真は、砂ぼこりの奥を見つめる。

 

 

『はぁ…はぁ…』

 

 

 砂ぼこりが晴れ、そこにいたのはボロボロになっている龍神の姿だった。

 

 

『まだだ……まだ我は負けてなどいない!!』

 

『いいや、お前の負けだ。龍神』

 

『『―――ッ!!』』

 

 

 突如聞き慣れた声に、空真と零夜は驚愕し、その方向を見る。するとその何もない空間から突如として、月夜見が現れた。

 

 

『お前が地面に落下した時点で、お前の負けだ。そう言う勝敗の決め方だっただろう』

 

『だがまだ我は負けてなどいない!!』

 

『あぁ。お前はまだ動けるな。だがしかし、お前はあの時言っただろう?〈我を地面に堕とせばそいつの勝ちにしてやる〉と。まさか、約束を違えることなど、しないよなぁ?』

 

『うぐぐぐぐぐぐ……!!』

 

 

 月夜見の皮肉に、龍神は悔しそうに唸る。しかし、そんな状況が分からないと、空真は月夜見に質問する。

 

 

『あの、月夜見様?どういうことですか?この時点で私の勝ちと言うのは!?』

 

『あぁ、そう言えば言ってなかったな。正直あまりにも不公平だから、こいつが調子に乗ってな。地面に落下させたらお前の勝ちと言うハンデをつけてくれたのだ!そして、見事こいつは負けた!そういうことだな』

 

『月夜見様…それ先に言ってくださいよ…』

 

『ハハッ、すまなかったな。それでどうだ、龍神?格下に見ていた相手に負けて、ついでに賭けにも負けた気分は?』

 

『黙れ月夜見!分かっておる!この勝負は我の負けだ!千年物の美酒はそなたの物だ!!これでいいだろう!!』

 

『そうだそうだ!それでいいのだよ!!はっはっは!!』

 

『―――賭け?千年物の美酒?どういうことですか?』

 

 

『まさかこいつら―――』

 

 

『あぁ。実は龍神と賭けをしていてな。負けた方が秘蔵の酒をくれてやると言うものだ』

 

 

『えぇ!!?』

 

 

『やっぱりこいつ……ウラノスを賭けに使ってやがったな』

 

 

 その事実にウラノスは驚愕の言葉を上げ、零夜は呆れた。

 まさかあの命令にこんな裏があったとは、誰も思いはしなかっただろう。

 

 

『そんな……まさか賭けに使われていたなんて…』

 

『どうした?不服か?今の私は気分がいいからな。なんでも言っていいぞ?』

 

『―――それでは、一言。確かに賭けに使われていたと言う事実には、腹が立ちました。……しかし、龍神様とお手合わせできたと言う感動の方が、私の心の中により強く残りました

 

『『『――――』』』

 

 

 その言葉に、月夜見も、龍神も、零夜も絶句した。

 賭けに使われたと言うのに、人間風情と罵られた相手に、その相手と戦えたことへの感動の方が勝ったなどと、普通の人間に言えようか。否である。

 

 

『貴様――空真と言ったか。変わっておるな』

 

『気にするな。コイツは元からそう言う奴だ』

 

『えぇ。私は元からこういう奴なのですよ』

 

 

『『『フフフ、ハハハハハハハハ!!!』』』

 

 

 最後はともに三人で大爆笑した。その笑い声は森中に届いた。

 

 

『―――景色が』

 

 

 それと同時に、零夜が見る景色が薄れて行っている。目覚めの時が来たのだ。

 そんなときでさえも、零夜は二人の神と共に笑っている空真を悲しそうな目で―――悵然(ちょうぜん)の表情で見つめた。

 

 

『――どうして、どうしてお前はあんな風になっちまったんだ?ウラノス―――いや、空真』

 

 

 誰にも届かない、悲しい言葉。その言葉を最後に、零夜は、過去から覚める。

 

 

 

 




 はい、いかがでしたか?
 この回では、プロクスとウラノスが地上にいた頃は別の名前を名乗っていて、尚且つ部下たちにも慕われているほどの人気ぶりを持っていたことが明らかになりました。
 零夜の言う通り、何故この二人があれほどの下衆(ゲス)へと身を堕としてしまったのか。とても気になりますね!

 そして、臘月の部屋から鳴っていた機械音、『フラ』『ファ』『ン』。これが何を意味するか分かりますかね?

 さらに、龍神との出会いが月夜見と龍神の賭けだったと言うことも明らかに。
 これから徐々に二人の関係が親密になっていきますので、楽しみにしていてください!(零夜達にとっては過去の出来事)

 それと、龍神があれほど早く負けてしまった理由としては、空真が普通の人間より確実に強かったのと、龍神が人間を見下して最後の最後まで本気を出さなかったこと、そして何より自分自身を不利にしたこと(龍神にとっては不利でもなんでもないハンデ)が敗因でしたね。

 それでは、次回をお楽しみに!!


 評価:感想お待ちしております!!




 
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