東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 いやー、セイバー最終回、楽しかったですね。
 倫太郎のあの告白シーン、緊張して扉越しから見ました。ああいうシーンて緊張して苦手なんですよねぇ、自分。
 
 そしてリバイスもカッコ良かった!次回が楽しみだ!


それでは、どうぞ!!


62 覚悟を決めろ

「――――」

 

「おはよう」

 

 

 零夜は目を覚まし、辺りを見渡す。ルーミアが隣で、零夜に目覚めの言葉をかけてくれた。他にあるとすれば、今までいなかった四人も、この場にいたことだ。

 

 

「大丈夫ですか?零夜さん」

 

「あぁ…なんとかな」

 

「そうか。それなら良かった」

 

 

 紅夜とライラが、体調の方を気遣ってくれる。シロの隣にいる妹紅は、零夜の状態を見て、口を詰むんでいた。あまりの怪我の酷さに、顔面蒼白しているのだ。

 妹紅はまだ子供だ。故に、こういったものに耐性がない。それに妹紅は先天性無痛無汗症だ。故に、痛みが分からぬためどう言葉をかければいいのか分からないのだろう。

 そして、ようやく一言発した

 

 

「大丈夫…?」

 

「あぁ。大丈夫だ」

 

「そっか…よかった」

 

 

 その言葉に、妹紅は小さな笑顔を浮かべた。

 

――さて、最後は…

 

 

「で、シロ。何か言うことあるよな?」

 

「――――」

 

 

 威圧を込めた言葉を放ったが、シロは無視して、ただ無言で何かを考えているように見えた。

 シロがこうなったら、話が進まないので、ルーミアに頼んで鉄拳制裁してもらう。

 

 

「いてッ!」

 

 

 シロが苦悶の声を上げ、ルーミアに殴られたところをさする。

 

 

「痛いなァ……。なんなの急に?」

 

「なんなのじゃないでしょ!零夜が話してるでしょうが!」

 

「あぁ――。ゴメン。ちょっと考え事をしててね。それと、君の言いたいことは分かってるよ。なんで相手が龍神だったのを言わなかったのか、でしょ?」

 

「それもある。だが、神力があるってところで気付けなかった俺も俺だ。だが本題は、なんで龍神のあの形態のことを黙ってた?」

 

「黙ってなんかいないさ。むしろ、知らなかったんだ。僕もライラも

 

「―――本当なのか?」

 

 

 零夜がライラに視線を向けると、ライラは首を縦に振った。つまりは、肯定。本当に知らなかったと言う意味だ。

 

 

「僕とライラが倒したのはあくまで巨体の時の龍神だ。鎧武者姿の龍神なんて、僕は知らない」

 

「私もだ。奴の威圧感…。一瞬だけだったが、ここからでも感じ取れた。アレは強い。私ですら勝てるかどうか分からんほどの力を感じた。まさか、奴の本気があそこまでとは…」

 

「師匠でも、勝てるかどうか分からないんですか!?」

 

 

 ライラの評価に、紅夜が驚愕する。

 ライラの話だと、一瞬感じたと言うところ、あの隔絶空間が龍神のエネルギーを包み込んでいたはずだ。それを破壊したことによって、エネルギーが一気に広がったとみるべきだ。

 

 

「巨体の龍神はそこまでの力はないんだ。だが、あの姿になった瞬間だった…。勝つ可能性が一気にゼロになった」

 

 

 それほど、本気の姿になった龍神の力は凄まじい。正に桁違いの強さを誇っていた。

 今の零夜では、龍神には決して勝てる要素など微塵もない。シロとライラならば勝てる可能性もあるだろうが、それは周りの被害を無視したこと前提の話だ。

 

 

「でもまぁ、危機は去ったんだ。……それで、零夜と話たいことがあるからさ、悪いんだけどライラと紅夜の二人は妹紅を連れて違う場所に行ってくれないかい?」

 

「……分かった。そちらの陣営の話し合いということだな。ならば私は邪魔か。いくぞ、紅夜」

 

「はい!」

 

 

 紅夜は妹紅を担いで、ライラの後を追っていく。

 完全に見えなくなったところで、シロは息をはいた。

 

 

「ふぅ〜。これで僕たちだけで話ができるね」

 

「ねぇ?私が残ってもよかったの?」

 

「構わないよ?だって僕らは仲間じゃないか」

 

「……なんだろう、あんたが言うとすごく胡散臭く感じるから、辞めてくれない?」

 

「えぇ、酷!」

 

 

 ガーン、とシロは落ち込むが、一瞬にして立ち直り愉快そうに話を続ける。

 

 

「それで話なんだけど、ウラノスのことなんだよね」

 

「―――ッ!!」

 

「は?なんであのゴミクズが出てくるのよ?」

 

 

 シロが出したその名、ウラノス・カエルム―――否、空真の名が出てきたことに、驚愕を示した。なぜその話を今になってするのか、作為的なものを感じたからだ。

 そして、突然思い出したくもない男の名を聞かされたことで、一気に不快感を露わにするルーミア。

 

 

「ゴミクズとは心外だね―――まぁ僕もアレを知るまではそう思ってたから、君のこと言えないんだけどね。龍神が怒っていた理由はこれだったのか…

 

「は?話が分からないんだけど。あと今なにか言わなかった?」

 

「気のせいだよ。百聞は一見にしかず、直接見た方が早いよね。零夜、記憶コピっていいかな?」

 

「そう言うことかよ。何考えたのかと思ってたが、まさか俺が起きた瞬間に俺の記憶閲覧しやがったな…!」

 

 

 そう、シロの権能の一つには、記憶に関する権能がある。相手から情報を読み取ったり、相手の記憶を好きなように抹消したりすることができる。

 だが、これらの行動には相手の脳に近い場所ーー頭に直接触れる必要がある。だが、それを必要としない記憶の読み取りが、シロには零夜にのみ可能なのだ。

 つまり、いつでも零夜の記憶を読み取り放題なのだ。プライバシーもクソもない、クソみたいな権能だ。

 それを知っている零夜は、一気に顔を顰めた。

 

 つまり、シロはあの一瞬で零夜がメモリーメモリで観た記憶を勝手に見たことになる。

 

 

「まさか昔のウラノスとプロクスがあんな真人間だったなんて、思いもしなかったよ。この分だと、他の五人も昔はまともだったと見るべきかな?」

 

「……俺の記憶を見たことは置いておくとして、その考えは早計だ。例えば地上人を見下すのは月の民の証みたいな常套句だからな。特にプロクスやデンドロン辺りが、その傾向が強いように見えたからな」

 

「そこにウラノス―――空真がいないのは、どういうことかな?」

 

「……お前も見たなら分かるだろ。あの頃のあいつは、すごくマトモだ。それに、演技ができるようにも見えない」

 

「……そこに関しては僕も同意見だよ。一体、何があったのか……すごく気になるところだよ」

 

 

「―――あのさ、私を置いて話を進めないでくれない?」

 

 

「「―――」」

 

 

 完全に忘れてた。空真に関するショックが大きすぎたために、ルーミアのことをすっかり忘れていた。

 そして、忘れられていた事実に腹が立ったのかルーミアは立ってシロの後ろに周り、首を十字固めで絞めた。

 

 

「ぐえぇえええ!!なんで僕!?零夜も同罪のはずだよね!?」

 

「零夜は怪我人だから除外してるだけよ!私を除け者にするなぁあああ!!」

 

「ああああ!!ギブギブ!!…あ、でもおっぱいがクッションになってて正直気持ち「~~~ッ/////この変態!!」ヘブシッ!!」

 

 

 シロのセクハラ発言に顔を赤らめてシロの頭を掴んで地面に叩きつけた。ゴシャッ、と鈍い音が響いた。

 少なくとも、今のは完全にシロの発言が悪い。

 

 

「あぁ~痛いなぁ。もうちょい加減してよ」

 

「あんたが悪いんでしょ!」

 

「はいはい。反省しておりますよーだ。さてと、話が脱線したね」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

 

 顔や服が土まみれになり、汚れているところでシロは水を操り、服の不純物を取り除き顔を洗っていつも通りの姿となる。

 

 

「さてとそれじゃあ記憶コピっていいかい?」

 

「でもアレ辛いんだろ?正直この体では無理だ」

 

 

 思い出すは、レイセン(優曇華)相手に情報を読み取ったときのあの苦痛に悶えた姿。記憶を無理矢理読み取られるのだから、ああなるのも無理はないが、正直この体でやるのはリスクが高すぎる。

 

 

「そもそも、お前が回復かけてくれればいいだけの話だろ。回復くれよ」

 

「いやいや。それはできない」

 

「はぁ?なんでだよ」

 

「今の零夜の体には龍神の回復術が流れてるからね」

 

「……確かに、回復してもらったが、それがどう関係してるんだ?」

 

「今も龍神の術が君の体を治癒している。そこに僕の回復力をぶつけると、強力な力がぶつかり合ってさらに君の体を壊すことになるよ」

 

「…マジか」

 

「マジだよ」

 

 

 まさかの情報に、零夜はもう一度聞き返してしまった。回復と回復。聞くだけだと癒す力だが、それでも『力』であることは変わりない。

 強力な『力』同士がぶつかれば、暴発することは目に見えている。

 

 それに、回復力が異常なまでになってしまえば、『回復』を通り越して最早それは『破壊』の力へと変化してしまう。

 

 

「どこぞの漫画で過剰回復で相手の体を破壊するって言う設定は存在するしね。この世界でもその節理が働いたとしても不思議じゃない」

 

「じゃあ、龍神の回復の術?が俺の体を完治してくれるまで、お前は手が出せないってことか…」

 

「そゆこと。それで、記憶コピっていいかい?」

 

「―――好きにしろ。ただし、あまり痛くするなよ?」

 

「分かってるよ。それじゃあ…」

 

 

 シロは頭を掴んだ。―――自分自身の

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 その行動に二人は驚いた顔を見せ、それと裏腹にシロの頭が光り、数秒もするとその光も収まった。

 

 

「よし、これで記憶のコピーは完了だ」

 

「待て待て待て。どういうことだ?」

 

「どういうことって、記憶をコピったに決まってんじゃん」

 

「いや、俺はてっきり俺の記憶から……」

 

「私も…」

 

 

 あの話の流れなら、確実に零夜の記憶を拝借する流れだっただろう。それなのに、その工程を自分自身で行ったことに、困惑を隠せない二人。

 

 

「いやぁ、最初はそのつもりだったんだけど…よく考えたら零夜の記憶を見れるんだから僕自身でもいいかなって」

 

「おまっ…だったら今までのやり取りほぼ無意味じゃねぇか…!」

 

「まぁそうなんだけどね。僕もやられっぱなしは性に合わなくてねぇ…」

 

 

 そういい、シロはルーミアのことをチラッと見る。

 その視線を感じたルーミアは、先ほどのことの軽い仕返しを受けたのだと判断し、頬を小さく膨らませた。

 

 

「あれはあんたが悪いんでしょ!」

 

「まぁ僕も配慮が足りなかったけど、なにも首を絞めるまでもなかったじゃん。それにあの体勢ならば君のおっぱいが僕に当たるのは自明の理であって――」

 

「~~~////!うるさいうるさい!おっぱいおっぱい言うな!」

 

 

「……おいお前等、うるせぇぞ」

 

 

「「―――」」

 

 

 二人の言い争いは、圧のある零夜の一言によって終わった。零夜にとって、胸のことで争っている二人が今は何よりも醜く見えたためだ。

 と言うか一番の理由が『おっぱい』と言う単語が単純に耳障りなのが理由だが。

 

 

「話を戻すぞ。さっさと記憶をルーミアに移植しろ」

 

「は~いはい。それじゃあ、準備はいいかい?」

 

「なるべく痛くしないでよね?」

 

「分かった分かった。できるだけ被害が及ばないように、じっくり、ゆっくりと移植することにするよ」

 

「―――なんか、その言い方すっごくキモイんだけど」

 

「……()せたよ」

 

「いいからさっさとやれ」

 

 

 零夜の言葉で、再び話が進む。

 シロはルーミアの頭に手を乗せ、淡い光がシロの手から発せられる。その光とともに、ルーミアは少し苦しそうな顔をしつつ、汗が垂れている。

 精神的苦痛に耐えている証拠だろう。曲りなりにも他人の記憶を移植するのだ。別人の記憶を見ることで、自分自身を失いかねない危険性もあるため、ゆっくり、ルーミアに危険性がないようにやっているのだ。

 

 そして、しばらくするとそれも終わり、ルーミアは地面に尻もちをついて、大きな息を吸って吐いた。

 

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!なにこれ…辛すぎるでしょ…!?ゆっくり、やっても、これ、なの…!?」

 

 

 彼女の疲弊具合から、どれほど苦しいのかが伺える。

 

 

「それで、どうだった?昔のウラノス―――空真を見た感想は?」

 

「――正直、まだ信じられないわ。あのクズがまさか昔はあんなだったなんて…。これ、猫被ってるわけじゃないわよね?」

 

 

 ルーミアは完全に疑っていた。

 無理もないだろう。彼女は一回あの男(ウラノス)によって散々な目を見ている。疑うのは当然のことだ。

 

 

「その可能性もあったけどね。でも『星の記憶』を見た限り、人のいない所でも空真はあの態度を崩さなかった。だから、その可能性は低いと、僕は睨んでいる」

 

「だとしたらおかしすぎるでしょ。なんでアレからああなるのよ。どう考えてもおかしいでしょ」

 

「そこなんだよねぇ。空真の性格は紳士だ。だがしかし、ウラノスの性格はゲス、クズ、ゴミの三拍子が揃っている。それを踏まえると、考えられる可能性は――二つ」

 

 

 一つは、龍神が予想した通り空真とウラノスは別人説

 龍神が予想したウラノスは空真の息子だと言う説は、あり得る可能性の一つだ。だがしかし、いくらウラノスが空真の息子だとしても、あまりにも似すぎている、と言うより完全に同一人物にしか見えない。

 故に、この可能性はあくまでも可能性でしかない。

 

 二つ、これはかなり有力な可能性だ。空真がなんらかの理由で絶望し、過去の自分をすべて忘れるために名前を変えた説

 人とは変わりにくく変わりやすい生き物だ。並大抵のことでは人はあまり変わらない。だがしかし、強烈なこと――精神的苦痛や重圧によって絶望し、まるで別人のように変わるときがある。

 

 

「考えられる可能性はこの二つ。そして一番有力なのが後者のほうだ」

 

「まぁ妥当だな。仮に後者だと考えると、どうして空真が絶望したのかを考えることが必要だな」

 

「うん。そのためにも零夜。また過去に跳んでくれないかい?」

 

「―――はぁ。やっぱりか。まぁ寝てれば見れるんだ。こうならとことんやってやるよ」

 

「皆のことは、僕やライラに任せて。君は、自分のやれることをやってくれればいいから」

 

「わーってるよ。それじゃあ、行ってくるよ」

 

 

 そして零夜は、再び目を閉じ、過去へと眠りにつく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

『……さて、また入って来れたな。さて、空真は何処にいる?』

 

 

 零夜が目を覚ました時、そこはとても広いメルヘンチックなドーム状のホールだった。人が千人入ってもかなり余裕のあるバカでかいホールで、零夜は目を覚ました。

 

 

『ひっろ。こんな場所一体何に使うんだよ―――』

 

 

 その瞬間、ドームの天井が開き、快晴な空が目に映る。

 そして、その光がなにかの巨体に遮られ、その巨体がこちらに向かってきている。

 

 

『―――ッ!』

 

 

 その正体は龍神だった。そうか、このホールは龍神の体を納めるための場所だったのか。

 確かにこの大きさなら龍神の巨体も十分入るだろう。

 

 そう考えていると、今度はホールの奥の2m×1mほどの穴が開き、そこから空真が出てきた。空真はあの時のガチガチの鎧ではなく、私服で入って来た。

 

 

『来たか空真。待ちわびていたぞ』

 

『申し訳ございません。次はもっと早く来るように精進いたします』

 

『―――おい空真。何度も言うが、敬語はやめろ。堅苦しい』

 

 

『あ、それは申し訳―――申し訳ない。もう敬語は沁みついてしまっていてな…』

 

 

 ついまた出てしまいそうになった敬語を押し込み、空真はため口で龍神と話す。

 もの凄い適応力だ。格上の存在に対して、ため口では話すなど無礼以外の何物でもないと言うのに。

 

 

『…どうやら、あれから大分間があいた後の記憶らしいな』

 

 

 どういう経緯かは知らないが、空真と龍神は互いにため口で話すほど仲は親密になっていた。

 しかも、あの堅苦しいイメージしかなかったウラノスが、命令とは上司レベルの相手にため口を平気で使っているところも、驚愕している点だった。

 

 そして、それを見て零夜は―――、

 

 

『繋がった』

 

 

 どこか、納得したような顔をした。

 そして、どんどん話は進んでいく。

 

 

『まぁよい。とりあえず、これを飲め!』

 

 

 

 そういい龍神が取り出しのは、一つの酒樽。空真の身長など、軽々超える、龍神用の酒樽だった。

 

 

『相変わらずのデカさだな』

 

『まぁ構わんではないか。お前には全く問題ないからな』

 

『まぁ、確かにそうだな』

 

 

 龍神が酒樽を開けると、そこから純白の透き通った美しい酒が現れる。

 空真はジョッキを取り出し、体を浮かして飛び、酒樽からジョッキで酒を掬う。

 

 

『がはは!今日は祝杯だなぁ!』

 

 

『あぁ、全くだ。ようやく、月へ行くためのロケットが完成したのだから、これほど嬉しい日はない』

 

 

『月に行くためのロケット…まさか、【人妖(じんよう)大戦】の前か?』

 

 

 【人妖大戦】―――それは月の民たちが月へ移住する際にそれを阻止しに来た妖怪たちとの戦争のことだ。結果は人間側の勝ちで見事月へと飛び立つことができた。

 ただし、零夜が知っているのはあくまでも結果だけだ。過程は知らない。

 

 

『だが、正直言うと寂しくもある。友が全く違う場所へ行ってしまうとなるとな…』

 

『なにを仰る。半永久的に不死身の神であるあなたが、たった一人の人間との別れを惜しむなど…』

 

『空真、素が出ておるぞ』

 

 

『ははっ、これは失礼したな』

 

『まぁいいのだ。……正直、ここまで我と波長が合った人間は、そうそういない。能力が同じと言うのも理由の一つなのだろうが……やはり、お前の『魂の色』が限りなく白に近いからだろうな』

 

 

『―――魂の色?』

 

 

 気になる単語が出てきた。それは全く新しい単語で、理解するのに数秒の時を有した。

 そして、話は進んでいく。

 

 

『龍神。何度もその話は聞いた。お前は魂の色を見てその生き物の善悪を見定めることができるんだろ?それで、俺は限りなく白に近いと。だがその言い方だと、黒も少しは混じってるんだろ?いいのかそんな人間を信用して?』

 

『フン、完全に白な人間などいるはずもないし、もしいたとしても気持ち悪いわ。』

 

『そうか?完全に白の人間なんて、究極の善人じゃないか』

 

阿呆(あほう)が。人間はそのように出来てはおらん。光があれば闇がある。それは人間だとて同じこと。もし本当にそんな奴がいたとすれば、そんなのはただの自意識を失った人形でしかない。それを、気持ち悪いと言わずしてなんという』

 

『そういうものなのか…』

 

『そう言うものだ。むしろ、我からすればお前は信用における最高の善人だ。魂の色が、それを物語っている』

 

『買い被りすぎだ。俺は善人なんかじゃない。誰もいないところで上司に不満を漏らすときだったあるんだ』

 

『それは当然のことだと思うぞ。もっと自分に自信を持て。お主は、人の上に立てる存在なのだからな。現に、お前は隊長の座についている』

 

『そうか?お前にそう言われると、気分が良くなるな、ハッハッハ!!』

 

 

 酒に酔ったからなのか、豪快な笑い声が響く。

 

――そして、豪快な笑いと共に、空真の目から水滴が零れ落ちる。

 

 

『本当に…共に酒を飲みあかせるのが、今日で最後だと言うのが、辛くなってくるな』

 

『……仕方のないことだ。お前たちは月に行く準備を進めており、お前も責任者の一人だ。忙しいのだろう。この時間だって、わざわざ空けてくれたのだろう?』

 

『―――月でも…また会って、酒を飲みあかせるか?』

 

『何度も言うたが、それは無理だ。我はこの星の神。それ故に離れることは出来ん。それも余程の理由でもない限りな』

 

『そう、だよな…。』

 

 

 先ほどの楽しい空気とは一変、暗い気持ちがホール中を包んだ。

 これで、合えるのが実質最後に成ってしまう。言うなれば別れの飲み会だ。先ほどの笑顔も、それを忘れるために取り繕っていたのかもしれない。

 

 

『――おい空真。』

 

『……なんだ?』

 

『最後の最後に……我の技を伝授してやる。』

 

『な、なんだ急に?』

 

『知っての通り、もう我とお前は会えることはないだろう…。だから、だ。我の技を、お前に伝授する』

 

『も、貰えるのならありがたく貰うが……何故、そんなことを急に?』

 

『我とお前の、最後の友情の証だ』

 

『―――最後なんて、言うなよ。離れていても、心は繋がってるだろ?』

 

『確かに、そうだな。それでは準備はいいか?我が教える技はとっておきの技で―――』

 

 

 それから、龍神による技の講習が始まった。

 技の方法は『火』『水』『風』『雷』『氷』『光』『闇』の七属性を束ねてそれを放出すると言う技だった、それは――、

 

 

『そうか。ここでその技を教わったのか…』

 

 

 零夜は納得したように、両腕を組む。

 別れの前の、プレゼント。その(てい)であの技は龍神から伝授されたのか。そして、その清らかな技は、未来でより汚い方法で使われていた。

 

 技を酒の勢いで伝授している龍神と、酒の勢いでそれを実践してみようとして楽しむ二人を見て、零夜は悲しそうな表情をした。

 

 

『あの時――月の都に侵入して、夢で見た二人の男。一人は臘月だって分かったが、もう一人が謎だったが……お前だったんだな。空真』

 

 

 あのとき――月で見た謎の夢。そこには二人の登場人物がいた。二人とも、顔にモヤがかかったようで見ることができなかったが、声だけはちゃんと人別できた。

 一人は声だけで臘月だとしっかり判別できた。だがしかし、もう一人の方が分からなかった。いや、違う。脳が理解を拒んでいたのだ。

 知っての通り空真とウラノスは違いすぎる。声は二人とも同じだったが、ウラノスとの印象が違いすぎたため、無意識にその結果を否定していたのだ。

 

 そう考えている合間にも、話はどんどん進んでいく。

 

 

『なるほど、これはこうやるのか。覚えたぞ』

 

『早いな。まさかここまでとは。流石我の見込んだ男だ』

 

『ありがとう。それでは―――』

 

 

 その時、空真の懐から『ピピピピ…』と、音が鳴る。

 懐から小型の機械(タイマー)を取り出し、それを確認すると、空真は名残惜しそうな顔をする。

 

 

『すまない、そろそろ時間のようだ』

 

『そうか……仕方ない、か』

 

 

 ついに、互いの顔合わせもできなくなってしまい、名残惜しそうな顔をしたまま振り向き、入って来た扉へと向かい、その扉を開ける。

 半分身を乗り出したところで、空真はピタッと動きを止めて、振り向かないまま、言葉を綴った。

 

 

『そうだ。最後に一つ、俺からの願いを聞いてはくれないか?』

 

『願い、とな?』

 

『あぁ。もし、もしもの話だ。もっと未来の話。自分で言うのは気恥ずかしいが……俺のような奴がいたら、そいつの力になってくれないか?』

 

それは、お前のように強く、清らかな心を持った人間と言うことか?

 

『恥ずかしいからやめろ!そこまで言う必要はない。ただ、俺から言うことは、人間だから、弱いからって種族全体を見下すのはやめて欲しいってことだ』

 

『―――何を今さら。我はすでにお前のことを認めている。良いだろう、唯一無二の、『親友』の頼みだ。聞き入れてやろう。ただし、『我が認めた強さと心の持ち主』、に限るがな。そいつには、お前と同じように接してやろう』

 

『それでいいんだ。―――俺は誇りに思うよ。龍神と言う存在であるお前に、影響を与えることの出来るまでの存在に、なれたことを。さようなら、永遠の友よ

 

 

 空真の足元に、一筋の水滴が、零れ落ちる―――。そして、扉は締まった。

 

 

『ふん――。最後の最後は、カッコ良く締まりをつけるものだぞ。空真』

 

 

 ドームの天井が開き、龍神もその巨体をうねらせながら、天空へと姿を消していった。

 

 

『――――』

 

 

 本当に誰もいなくなったドームで、零夜は拳を握る。爪が拳に埋め込まれ、本来ならば血が出てしまうほどの圧だ。

 それでも、実体を持っていない零夜の手からは、血は流れない。

 

 

『―――なるほどな。そう言うことか…!龍神が人間の強者を認める理由は分かった。だが…!清い心の持ち主だと!?俺がか!!?『悪』を名乗り、それを実行し、罪なき命を!生命を!無数に、無慈悲に葬って来た俺が、清い心の持ち主だと!?』

 

 

 あの話からするに、龍神が心を開く人間の対象は、空真のように『強く清い心の持ち主』であること。それに、零夜は該当したのだ。

 

 その事実を叩きつけられ、零夜は怒鳴った。自分の矜持を傷つけられたからだ。

 今まで、零夜は数知れないほどの一般論で言う『悪行』をこなしてきた。そんな自分を、龍神は『善』と認識したのだ。

 これほどの屈辱があるだろうか?自らを悪人と定義している人間に、赤の他人から『善人』だと言われて、納得できるはずがない。

 

 

『そんなこと、あってたまるか…!!』

 

 

 だが、メモリーメモリは過去を見せる力だ。この現象を否定できるはずもない。

 それに、龍神の『魂の色』を見る力も、信ぴょう性が大きい。嘘をつく理由がないからだ。途中、大雑把に中間地点が抜け落ちていて、二人が仲良くなる過程がまるまる飛ばされていたが、あの信頼関係が構築されている状態で、あんな嘘をつくとは思えなかった。

 

 

『―――いや、今そんなことを考えている場合じゃねぇ。』

 

 

 もう既に、世界(過去)は崩壊している。目覚めるのも時間の問題だ。

 自分の矜持より、今に目を向けるべきだ。

 

 

『だが、認めるつもりはねぇぞ。俺は、『悪』でいなきゃ、ならねぇからな』

 

 

 崩壊する世界(過去)の上空に向かって、そう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

「おはよう、零夜。―――なるほど、そう言う過去を見たのか」

 

「起きて早々、俺の頭の中覗くんじゃねぇよ」

 

 

 起きた瞬間、零夜は毒を吐く。あの一瞬で、零夜の記憶を丸々全部見たのだ。不愉快極まりないのは、仕方のない事だ。

 

 

「にしても、見えたのは最終部分だけか。二人が仲良くなる過程とかも、観れたら良かったんだけどね」

 

 

 シロは手にいつの間にか持っていたメモリーメモリを上に投げながらそう言う。

 

 

「いつの間に…」

 

「零夜の体から摘出されたからね。それで、どうなの?」

 

「それを俺に言ってどうする。まぁ、そこら辺は同意するが…あいつらはどこ行った?」

 

「あぁ、邪魔にならないように、皆違う場所で寝ているよ。もう、夜だしね」

 

「あぁ……」

 

 

 零夜は空を見あげると、とっくに夜になっていた。

 夜特有の夜空と星が光り輝き、零夜の目を覚ましていく。

 

 

「それで、どんな気分だった?」

 

「―――どこのことを言ってるんだ?」

 

自分の矜持を傷つけられた感想だよ

 

 

 瞬間、零夜の両手がシロの首を掴む。強烈な殺気を放ち、威嚇する。

 率直に聞いて来た。自分の矜持に関することを、オブラートに包むことすらせずに。

 

 

「黙れ…!」

 

「おぉ、この反応は予想してたけど、過激すぎない?」

 

 

 首を掴み、絞めていると言うのに、全く苦しそうにせず、むしろ余裕を見せているシロに、怒りしか湧いてこない。

 これが『権能』の効果かと実感する。首を絞める力を強めても、一向にシロは態度を変えないのだから。

 

 

「気持ちは分からなくはないけど、別に悪に成りきる必要はないんじゃない?ていうか、君は正直言うと『悪人』向いてないしね。だって、根っからの善人じゃん、君」

 

 

 シロから言われた、一番言われたくない言葉。

 自分の存在価値を根本から揺るがされ、零夜はさらに激高する。

 

 

「黙れ!!お前に、何が分かる!?俺の、『悪』でいなきゃならない俺の気持ちが!なにもかも失ったことすらないお前に、分かってたまるか!

 

「―――――」

 

 

――――瞬間、ゾクッと、零夜の背筋に悪寒が走る。その悪寒の正体は、殺気だ。それも、零夜のものより濃厚な。

 感じているだけで息ができない。感じているだけで瞳孔が開きそうになる。感じているだけで冷汗が止まらない。感じているだけで、体が動かない。

 

 そして、その殺気の発生源は、シロだった。

 

 

「零夜、今は正直僕が悪かった。誰だって、掘り返したくない過去もあるしね。だけど――」

 

 

 

「失ったことだって、あるんだよ。『俺』にだってなぁ……!!」

 

 

 

 一瞬、『本物のシロ』が浮き出てきた。それは『圭太』へ悲痛な叫びを向けた時と、同じ一人称だった。

 シロは、今まで『本物の自分』を出したときが、あの場面しかなかった。出会った当初から、ヘラヘラとした態度も、もしかしたら『偽りの自分』なのかもしれない。

 

 それに、失ったこと――それは『圭太』のことだ。圭太とシロの関係は分からない。だが、ただの友達とは言えないようなナニカがあることは確かだ。

 それを臘月に奪われ、その命を自分自身で奪った。シロの喪失感は、計り知れないだろう。

 

 零夜は、ゆっくりと、崩れ落ちるようにシロの首から手を放した。

 

 

「――――」

 

「―――いや、ごめんね?君が怪我人だったこと忘れてたよ。それに、『僕』は零夜のこと良く知ってるけど、君は『俺』のこと良く知らないじゃん?だから、そんなことも言えるんだよね。これって不公平だよね。だから、許すよ。ただ、一度だけだけど

 

「――――」

 

「僕も謝っとくよ。君の矜持を傷つけてごめんね」

 

「――あぁ。それで、もういい」

 

 

 ともかく、この話はこれ以上するべきではない。

 零夜は本題に足を踏み入れる。

 

 

「ともかく、目的が一つ追加されたな」

 

「おぉ。それは一体なんなんだい?」

 

ウラノス――空真を、一発ぶん殴る。そうしないと気が済まねぇ。そのために、俺は更に強くなる」

 

 

 何故空真がウラノスになってしまったのか。分からないことだらけだ。だからこそ、何故そうなってしまったのかを知らないと、気になって仕方がない。

 それに、あの龍神が認めた男があんなに堕ちるなんてありえない。なにか途轍もない理由があるのは確かだ。それを、確かめたい。知識を求めて、零夜は強欲になる。

 

 

「そして、あいつがどうしてああなったのかが知りたい。そのために、力を貸せ、シロ」

 

「ははっ、そういうとこだよ、零夜。答えはもちろんイエスだ。『俺』と君は、()()()()だからね」

 

本当のことだからってそんなこというなよ。気持ち悪りぃ」

 

「ははっ、確かにそうだね」

 

 

 そういい、二人は笑いあう。

 これからも、零夜はどんどんと強くなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――三年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――と言う訳で、ここから三年後の物語、『竹取物語』の終盤に入っていきます。

 いやー区切りをどうするか迷っていましたけど、なかなかいい感じに終わったと思いましたね、これ。

 さらに、34話で見た零夜の夢の人物で、臘月ともう一人が謎で分からなかったですけど、それも空真だということが今回で明かされました!
 このあとは、どうなっていくのか!とても楽しみですね!

 さてとさてとで、次回は特別版!


 題名は【断章:輝夜姫の憂鬱】です!


 蓬莱山輝夜の視点からの三年間をお送りいたします!
 次回をお楽しみに!


 そしてついでですけど、アナザーストリーをご紹介します。
 どっちを投稿しようかなって迷ったんですけど、迷った末に本編のようになりました。
 ちなみにIFの部分は『零夜が龍神に善人だと認定されたことずっと思い悩んでいたら』です。


 では、どうぞ。


『―――なるほどな。そう言うことか…!龍神が人間の強者を認める理由は分かった。だが…!清い心の持ち主だと!?俺がか!!?『悪』を名乗り、それを実行し、罪なき命を!生命を!無数に、無慈悲に葬って来た俺が、清い心の持ち主だと!?』


 あの話からするに、龍神が心を開く人間の対象は、空真のように『強く清い心の持ち主』であること。それに、零夜は該当したのだ。

 その事実を叩きつけられ、零夜は怒鳴った。自分の矜持を傷つけられたからだ。
 今まで、零夜は数知れないほどの一般論で言う『悪行』をこなしてきた。そんな自分を、龍神は『善』と認識したのだ。
 これほどの屈辱があるだろうか?自らを悪人と定義している人間に、赤の他人から『善人』だと言われて、納得できるはずがない。


『認めてたまるか、認めてたまるか…!!』


 だが、メモリーメモリは過去を見せる力だ。この現象を否定できるはずもない。
 それに、龍神の『魂の色』を見る力も、信ぴょう性が大きい。嘘をつく理由がないからだ。途中、大雑把に中間地点が抜け落ちていて、二人が仲良くなる過程がまるまる飛ばされていたが、あの信頼関係が構築されている状態で、あんな嘘をつくとは思えなかった。


『―――そうだ。龍神は、見間違えたんだ。俺の中には無数の魂がある…。その一つを、俺の魂と勘違いしたんだ。そうだ、そうに違いない!』


 あまりにも幼稚で、自分に都合のいい解釈だ。だが、自分の矜持を傷つけられた衝撃で、今の零夜にそんなことを考える余裕などない。
 しかし事実、零夜にはアナザーゴーストの力で魂を取り込み、基礎能力を向上している。つまり、その可能性は()()()()()()()
 だが、ただそれだけだ。


『俺がまだ善人だなんて……あってたまるか。ライラたちだって、臘月の討伐のために利用しているだけで―――』


 ブツブツと、ただ脳で考える前に言い訳の如く口にしていく。
―――それとともに、過去の記憶が、場面が、世界が、崩れ去っていく。


『―――』


 その世界を見て、零夜は濁った眼を、光り輝かせた。


『そうだ――!これだ、これだよ!俺は『世界』がこの場面になることを望んでいるんだ!今やってることだって、あの二人(輝夜と永琳)を救うためじゃない!俺が異変を奪うためだ!異変を奪って、『世界』を滅ぼす!それが、俺がこの世界に転生してきてから、ずっと心に宿してきた(こころざし)だ――!』


 もう、零夜は自分自身が何を言っているのかすら、分からなくなっている。それくらい、()()()()()()()()()
 たった、一つの真実だけで。龍神が零夜を善人扱いしたと言う、その事実だけで。

 なんと馬鹿げていて下らない理由だろう。そんな理由だけで堕ちていく零夜は、とても下らなく、儚く、哀れにしか見えない。


『そうだ。俺は、俺は、俺は!あのときから、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!!!『世界』を破壊することが目的だった!アイツが憎くて憎くて――!だから、ここで立ち止まっているわけにはいかねぇ!目的のために、俺は更なる『悪人』になってやる!」


 崩壊する世界(過去)で、零夜は高笑いを続ける。


「俺は、更なる悪の境地へと至ってやる!!ははっ、はははははははは!!!」


 目覚めるまでずっと、零夜は狂人の如く笑うこと止めなかった。



―――と言う感じですね。
 採用するにも闇落ちする理由があまりにも幼稚すぎるので、没にしました。


 正直、皆さんはどっちが良かったですかね?
 変更のつもりはありませんが、もしよかったらコメントください。


 評価:感想お願いしまーす!


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