ようやく完成輝夜姫視点の話!
文字は30000を突破!目が疲れるのを承知で、見ていってくださいね!
物語で重要な単語も出てくるし…ボソッ。
それでは、どうぞ!
やっほー、初めましての人は初めまして。知っている人は跪きなさい!私の名前は【蓬莱山輝夜】!月のお姫様よ!
――とまぁそんなお嬢様なキャラは置いといて。
「暇ねぇ…」
何故あんな自己紹介したのか、それはただ単に暇だったからだ。
退屈が嫌で『蓬莱の薬』と言う禁薬に手を出して不老不死になって地上追放刑になったはいいけど、地上の生活は予想以上につまらなすぎる。
そもそも、私が月からわざと島流しの刑になったのは月の生活が退屈で仕方なかったからだ。そのために永琳に我儘も言ってこうなったし。
まぁ、ここまではいいんだけどね。問題は――、
(今日も、貴族たちと面会かぁ…)
おじいさんとおばあさんに拾われてから約半年。私が成人になった三か月目から、『私が美しい』と広がって毎日貴族が求婚してくる始末。
月と変わらない裕福な生活が出来るのはいいけど、これじゃ月と同じななんの代わり映えのない生活だ。これは、私が望んでいた結末じゃない。
そもそも、人が三か月で成人するわけないでしょーが。まぁ人が竹から生まれること自体、永琳の言葉を借りるなら『生物学的にあり得ない』だし、私の成長速度が異常なことを不思議に思わないのは初対面がよほどインパクトがあったからに違いない。
私が出てきた竹から金銀財宝が出てきてそれを使ってるらしいけど、その理屈は私でも分からない。ていうか竹から金銀財宝が出てくるってどんなおとぎ話よ。
そんなことを考えていると、
「かぐややー、入るよー」
「はい。お爺様」
おじいさんが私の部屋に入って来た。
一体なんの様だろうか?
「どうしたのですか?」
「実はな、久しぶりに散歩に行って来ようかと思うのじゃ」
「大丈夫ですか?私は心配です」
「心配してくれてありがとうな。でも大丈夫じゃ。護衛の兵士や陰陽師の方たちがついておられるからの」
「そうですか…。分かりました。お気を付けて」
「ありがとう。それでは、行ってくるよ」
そういい、おじいさんは
彼は元々しがない一般人だったのに、私を拾ってから楽しい毎日を過ごせるようになって喜んでいるのだろう。それに、おじいさんとおばあさんには子供がいないらしいから、私は本物の娘のように育てられた。そこは本当に感謝している。
だから、二人には寿命で亡くなって欲しいし、命が80~90年しか保てないこの
私に出来る恩返しは、二人が楽しい毎日を一日でも過ごせること。それが、私の出来る唯一の恩返しだ。
「――(よし、そう考えれば、今日もなんとなく過ごせそうな気がしてきたわ。頑張らなくっちゃ)」
今日もまた、たくさんの貴族と面会する。そんなつまらない毎日に耐えるための、心の補強も終わった。
「…それでは、行きましょう」
私は自身を耽美な麗人モードに切り替え、貴族たちが待つであろう部屋へと向かった。
これが、なんの変わりない、私の憂鬱な一
* * * * * * * *
そんなつまらない毎日に、変化が起き始めた。
始まりは、おじいさんが帰って来た時だった。なんでも、妖怪に襲われたとのことだ。
私はすぐに駆け付けた。私がおじいさんの部屋にいくと、そこにはおじいさんとおばあさんの二人がいた。
「おじいさま!」
「おぉかぐやや!心配をかけてすまなかった」
「本当に、知らせを聞いたときはどうなったかと…心臓に悪かったんですよ?」
おばあさんとともにおじいさんの心配をする。
おじいさんにはとくに目立った外傷もなく、散歩をする前とまったく変わらない状態だった。
「でも、無事で本当に良かったです…」
「あぁ。だけど、儂が無事にここに戻ってこれたのは、あの
「あの御仁?……その方がお爺様を助けてくれたのですか?」
「あぁ、あの御仁がいてくれたおかげで、儂は今ここにおるのだよ」
お爺様の話によると、散歩の帰りに突如妖怪が襲撃してきて、その時にその御仁――全身黒い鎧で統一された男が、颯爽と助けに来てくれたようだ。
なんでも、目では追うことのできない人智を超えたスピードで妖怪たちを掃討したのだとか。
でも、いくらなんでもタイミングが良すぎる。護衛の陰陽師が自作自演を疑ったようだが、もし暗殺が目的ならばそのスピードを使えばこうして姿を表すことなく暗殺が可能だったと言う正論で黙らされたようだ。
しかし、別の目的や私と近づくための自作自演であることも否定できない。その人物は、警戒すべきだ。
それに、警戒する材料に別の要因はある。
(人智を超えたスピード…。そんなことを出来る人間は、能力を持っている人間以外にあり得ない。護衛の陰陽師の話によればその男は人間だったらしいし…。でも、全身を鎧で統一する理由は?正体がバレたくないのならもっと地味な風に顔を隠すはずだし…)
正体がバレたくないのなら、顔だけ隠せば問題なはずだ。それなのに、どうしてその男は鎧なんて目立つ方法を…?
――いや、分かっている。おそらく、そうしなければならない理由があるはずだ。そして、その理由には心辺りがある。
『月』だ。月の技術ならば、能力を持っていない人間でもそのようなスピードを可能とする鎧が作成されていたとしてもおかしくはない。
あぁ、もう少し軍事のことを頭に入れておくべきだった。もしその知識があったのならそれが月の者だと言う確たる証拠になったのに…!
「それでの、その鎧の御仁が、今度かぐやに会いに来るそうじゃ。もちろん、鎧を脱いだ状態での」
「―――ッ!」
鎧を脱いだ状態で来る?その男が?
目的はなに?月の者である可能性がある以上、求婚なんて言う
まさか、私を月に連れ戻すために…?
あぁ、確たる証拠があればいいのに…!
そのとき、おばあさんが。
「でもおじいさん。鎧を脱いだ状態なのならば、区別がつかないのでは?」
そう、それだ。
鎧を着ていたと言うことは、個人の区別がつかない。そこらへんはどう区別をつけるのだろうか?
「そこも大丈夫じゃ。あの御仁は、合言葉を残していったからの。その合言葉を言ったものを、ここへ連れてくるよう言っておる」
「合言葉…ですか?ちなみに、なんなのか教えてもらっても構いませんか?」
「構わんよ。……しかし、この合言葉は、なんというか、人の名前なのじゃよ」
合言葉が、人の名前?一体どういうこと?
「人の名前とは?」
「そのままの意味じゃ。合言葉は人の名前での。確か―――【綿月臘月】。こう言っておった」
「―――」
――綿月の、臘月?その名前を聞いた途端、言葉を失った。
覚えていないはずがない。忘れるはずがない。月にいるときに、何度も聞いて、何度も見た人物の名前だ。それに、『綿月』と言う家名の時点で、確実となった。
その人物が、『月の者』だと…!
「――――」
「かぐや、どうしたんだい?」
「あっ、いえ。別になんでもありません。ただ、なんで合言葉が人の名前なのかと考えていたのです」
一瞬の動揺をおばあさんに心配された。咄嗟に誤魔化したが、おじいさんとおばあさんの二人はまだ心配そうに見てくる。
私は人前では端麗な姫を演じなければならない。それなのに、あの動揺を失態だった。
しかし、その人物とは本当に月の民なのだろうか?いや、臘月の名前を知っている時点で月の民の疑惑がほとんどなんだけど…。それでも怪しい部分がある。
基本的に月の民は地上の生物すべてを見下してるし、例外を言うのなら永琳とかが該当する。ついでに豊姫もそうかしら。
そんな月の民が、原住民に優しく接するとは思えない。むしろ、見下して強硬させようとしてもおかしくはない。
ともかく、今はその人物に会ってみる他なさそうね。
「お爺様を救ってくれた御仁は、一体どのような方なのでしょう。会うのがとても楽しみです」
「儂もじゃよ。あの時はまだちゃんとしたお礼を言ってなかったからの。この機会にちゃんとお礼をしなくては」
「私も、そのお方に会ってみたいですね」
そうして、後日。その人物は来た。
* * * * * * * *
それは、いい加減に求婚に飽き飽きしていたときだった。
私は五人の貴族たちに無理難題を吹っかけて、結婚を諦めさせようとした日のことだ。
「かぐや姫、入るよ」
おじいさんの声と共に、入って来たのは白い服に黒いズボン、黒いコートの男と、全身白服のフードを被った性別不明の人物だった。
それを見て、私は確信した。あ、こいつら月の民だと。
その理由は無論ある。まず初めにあれ、あの服よ。絶対に地上の技術じゃ作れないような素材で作られてるじゃない。ていうか、地上にコートやフードなんてもんがあるわけないでしょうが。
そもそもあいつらは隠すつもりがあるのかとツッコミたい。
まぁそれにしても、黒服の方の顔はなかなかイケてるわね。あれをなんていうんだっけ?確か、イケメン?あんなの月にいたかしら…?
とりあえず、知らないフリをしておく。
「あら、お爺様…。その方々たちは?」
「この方は、前に話した儂の命を救ってくれた方だよ」
「―――。まぁ…。貴方様が、お爺様の命を救ってくださったのですね。ありがとうございます」
「いえいえ、たまたま通りすがっただけですので…」
黒服の方が丁寧にそう答える。
警戒するに越したことはないが、一つの疑問がやはりと言っていいのか生まれる。
目の前の人物は、本当に月の民なのだろうか?
いくら何でも丁寧すぎる。演技と言う可能性もあるが、プライドの塊であるあいつらにそんな芸当ができるとは考えにくい。
そして次に、白服の人物へと声をかけた。
「それで、そちらの方は…?」
「こんにちは、かぐや姫。僕の名前はシロ。彼の仲間です」
「「―――ッ!!?」」
白服の人物が発した声は、おしとやかな女性の声だった。なるほど、白服の方は女性なのね。
……にしても、おじいさんと護衛の陰陽師がものすごく驚いてる――呆気に取られると言う言葉がふさわしいような顔をしているけど、一体どういうこと?
まぁとりあえず話を繋げておくか。
「綺麗なお声なのですね」
「ありがとうございます。ですが、かぐや姫の方が、お綺麗ですよ。僕はそう思います」
「謙虚なのですね。あなたの声も十分可愛らしいですよ。それにしても…女性なのに、一人称が私ではないのですね。そのような方は、初めて見ました…」
「―――かぐや姫。何を勘違いされているのかわかりませんが、僕は男ですよ?」
「―――え?」
「「「「「―――は?」」」」」
私だけじゃない、目の前の貴族五人もあっけらかんとした表情をしている。
しかも、素の声を出してしまった。恥ずかしい。
いや、それよりおかしいでしょうが!今の声で男!?冗談もほどほどにしなさいよ!
男があんな声出せるわけないでしょうが!脳みそ腐ってんの?
「お、お冗談がお上手なのですね…」
「いえ、僕はかなり本気で言っていますよ?」
「―――そ、そうですか…。分かりました。ずっと立っていると、お疲れでしょう。お座りになってください」
「「ありがとうございます」」
あのままこの話を続けていると埒が明かないので、とりあえず座ってもらった。
多少の驚きはあったけど、まだ今の姿勢を崩さないでいられる私は褒められてもいいと思う。
「それでは、お話の続きをします。私はこの度、この五名にある『課題』を出し、その『課題』を見事成功した方と、結婚することと致しました」
「して、その『課題』とは…?」
「これから、私があなた方にある宝を一つずつ指定します。そして、指定した宝を持ってきた者と結婚いたします」
そういい、私は五人の貴族にそれぞれの宝の情報を話す。
私が知っている中でもとびっきり難しい、と言うか入手自体が無理なモノを選出してやったわ!
特に【蓬莱の玉の枝】なんて、月に行かないと絶対に入手不可だし。これなら問題ないわね!
「それでは、各々の健闘を、お祈り申し上げま「待ってください」――どうされましたか?」
その時、女性の声――白服の男?が私の口を挟んだ。
一体なに?
「せっかくですので、その『課題』…。僕たちもやらせてください」
「何を言うか!これは我らの問題、部外者が出しゃばってくるな!」
【蓬莱の玉の枝】を課題にした貴族が、叱責する。ていうかあんたらの問題じゃなくてこれは私の問題よ。だから私が決めさせてもらうわ
「―――構いません」
「かぐや姫!?」
「あなたは、お爺様の命を救ってくださった言わば恩人…。それでは、あなたには――」
とりあえず、この二人の力量を溜めさせてもらうわ。
メチャクチャ強いと噂されているあの妖怪の討伐にでも向かわせようかしら。
「あぁ、それには及びません」
「――?」
「――今、あなたが提示した五つの宝物。それを全部取ってきましょう」
「「「「「「「――――ッ!!!」」」」」」」
部屋全体に、動揺が走る。
今こいつなんていった?私が提示した宝物五つ全部取ってくる?とてもじゃないし正気を疑うんですけど。
入手自体が無理難題なのに、それをどうやって五つ取ってくると言うのよ。月の技術が地上より長けているからと言っても、無理なものは無理なはず。
それに、今の発言の意味を理解しているの!?
あのは、完全な宣戦布告…!
「い、五つ、全て、ですか…?そんなことせずとも、私の『課題』である一つの宝物を取ってきてくれれば――」
「心配いりません。しかし、あなたが私を心配してくれていると言うことは伝わりました。ですが、本当に問題ありません。――前金として、これをあなたに献上しましょう」
そういい、白服の男は懐からあるものを取り出した。それは、とても見慣れていて、尚且つ、初めて見たもので――。
「そ、それは…!」
「えぇ、ご察しの通り―――蓬莱の玉の枝でございます」
「な…ッ!?」
誰が、絶句した。
しかし、そんなことは最早どうでもよかった。あの輝きが、蓬莱の玉の枝?いくらなんでもあり得ない。いや、あり得るか?
永琳から昔聞いたけど、蓬莱の玉は地上の穢れを吸うことによって輝きが増し、成長していくと聞いたことがある。
地上は穢れが蔓延してるから、これほどの輝きを放っていても、別に不思議ではないはず――!
「この輝きは…、まごうことなき本物…!」
「最高品質のものを取ってきました。どうぞ、お納めください」
白服の男が枝をおじいさんに渡して、おじいさん経由で私の手の中に入る。
この手触り、輝き、月で見た時のと、なんら変わらない。本物の蓬莱の玉の枝だ。
そして、私は始めた見たような反応をする。しかし、相手側もこの程度の演技は分かっているだろうが。
「まさか、ここまでの輝きを放っているなんて…」
「通常の品質では、そこまで輝きません。最高の品質であるが故の輝きです」
「―――分かりました。あなたには、残る四つ。『龍の頸の玉』『仏の御石の鉢』『火鼠の皮衣』『燕の子安貝』を取ってきてもらいます」
「畏まりました」
そちらの演技がうまいことに免じて、こっちもある程度の裁量を図らせてもらうわ。
月から来たのだから【蓬莱の玉の枝】の入手は楽だったのかもしれないけど―――って、あれ?よく考えればなんで
読唇術?それでも予習どころの内容ではない。最初から持っていたとなると、無論知っていたと言うことになるが……一応持っていたという少しの可能性も否めない。だからこれに関してはあまり考えないようにする。
ともかく、いくら一つ取れたって、残りの四つを持ってこなければ意味はない。せいぜい、苦しむといいわ。
そして、そんなことを考えているうちに、白服の男は私が【蓬莱の玉の枝】を提示した貴族に向かって、こう言った。
「安心してください、
「――――」
「それに、あなたの条件は『蓬莱の玉の枝』のみ。対して僕はあと四つ。差は歴然です。なので、焦る必要など微塵もございませんよ?」
「……貴殿の、言う通りだ」
あの貴族が怒りを混ぜた声でそう言った。うわぁ~あれは随分と皮肉ってるわね。
いくら演技しようとも、本質は変えられないってわけね。……なんだろう、自分で思ってると心がムカムカしてくる。
まぁいい。よし、次だ。次は黒服の男に声をかける。
「―――ところで、黒服のあなたは、どういたしますか?」
「勿論、お受けいたします」
「ちなみに聞きますが、あなたは力に自身がありますか?」
「えぇ、少なくとも、一般人以上はあると思っております」
「ふふ、謙虚なのですね。 それでは、あなたにはある妖怪の討伐と、それを証明できるものを持ってきて貰います」
「とある、妖怪…?」
「はい。噂では、その妖怪は認識できないほどの速さを用いて、武器である刀で攻撃をすると聞いております」
「刀を使う、妖怪…」
その後、私がレイラの名前を提示すると、黒服の男だけでなく、白服の男でさもえ一瞬の動揺を見せた。
どういうことかしら?レイラは妖怪だから別に気にするようなことはない。月では地上の生物はすべて穢れたものとして忌避されているから、気にしなくてもいいのに。
……あ、もしかして、ここに来る最中にそのレイラっていう妖怪に出会って、プライドを握りつぶされたとか?もしそうだとしたら爆笑ものね。
朝ドラとか昼ドラとかでも傲慢なクソ野郎が成敗されるのは見ていて気持ちがいいものだからね。
あー、それを創造すると気分がいいわ。
―――とまぁ、そんな感じでこの日は終わったのよね。
かなり衝撃的な一日だったけど、まだ耐えられるほうだ。
そして、数日が過ぎたころ――、
* * * * * * * *
「どうもー【龍の
この日、白服の男は高笑いしながら前日とは全く違う男の声でひと際デカい光輝く玉を持って来た。
しかも、その成人男性レベルの半分くらいほどの大きさの玉を片手で持って、そのもう片方には肉の串焼きがあった。
隣の黒服の男は、無表情だった。
―――はぁ!!?
いろいろとツッコミたいところがあるけど、まず一つ言わせて欲しい。それ絶対偽物よね?だってあれからまだ数日しか経ってないのよ?しかも龍の玉よ?そんなの数日で取って来れるわけないでしょうが。
あとまたあの白服声が変わってるわよ!?別人じゃないでしょうね?いや絶対別人よね!?
いつかその正体を暴いてやる。
「……疑うようで、申し訳ありませんが、それは本物ですか?数日で取って来れるような代物ではないのですが…」
「やだなぁ本物ですよ。でもまぁ疑う気持ちも分からなくはないんですよ?モグモグ…」
「喋りながら食うのはやめろ」
黒服の男が私の気持ちを代弁してくれた。いやね?一応私姫なのよ?偉いのよ?よくそんな偉い人の前で謎の肉の串焼きを堂々と食べれる度胸あるわね!驚愕を通り越して関心するわ、いやマジで。
おじいさんや陰陽師の人たちだって困惑しているでしょうが!
「でもまぁ盗って来たものは盗って来たんで、どうぞお納めください。龍の頸の玉です」
なんか最初の方に比べて、雑になってきてない?
結局、この巨大な玉は預かることにした。数日でこんな巨大な玉を用意できるとは思えないし、もしかしたらだけど、本物かもしれないしね。
とりあえず、今日はもう帰って欲しい。
「あの…」
「……どうかしましたか?」
そして今度は、今まで黙っていた黒服の男が手を挙げてきた。
「……単刀直入に言います。レイラの討伐、辞退させていただきます」
―――ん?
今なんて言った?私の聞き間違いでなければ、レイラの討伐を諦めると聞こえたんだけど…。
「ど、どういうことですかな!?」
おじいさんが荒い声を挙げる。おじいさんのあそこまでの大きな声、初めて聴いた。
いや、でもあの男の本心を聞けるチャンスだ。一体、なんでそんなことを…
「面倒になったから」
―――は?
ごめん、なんだかキレそう。面倒になったから取り止める?バカなんじゃねぇの?
……ゴホンッ。口調が荒くなっちゃったわね。
頑張れ私!この状況下で出す言葉を脳から絞り出すのよ!!
「……で、では、途中辞退…と、言うことでよろしいのですか?」
「はい。とまぁその理由もあるんですけど、一番の理由が妖怪の討伐より残り三つを探し出す方が比較的楽なので。シロに協力する形にしました」
いや残り三つを探し出すより妖怪討伐した方がまだ現実的でしょうが!
私ですら残り三つの本物があるかどうか伝承でしか知らないのに、見つかるワケないでしょう!いや、龍の頸の玉の本物も見つかったし、残り三つがある可能性も十分……。
いやそれでも逆だと私は思います!
「よ、よろしいのですか?特に協力してはいけないと言う決まりはないので、私からは何も言うことはありませんが…」
「別に構いませんよ。俺はこれだけで話はすましたので、これにて失礼します」
「それでは、また」
そういい、二人は退室していった。
「――――」
はぁ…。疲れた。あんなのあの常識破り型破りの奴は。
姫である私に対して態度変えまくりだし、いや、まだ敬語使ってるだけマシなのかな…?月の民の可能性が大きくなってきたわね。
とりあえず、この巨大な玉は陰陽師組合に任せるとして、この先をどうするべきか、じっくりと考えなきゃね。
* * * * * * * *
―――と、思っていた。
数日後、大変なことが起こった。玉の持ち主である龍が、都を襲撃してきた。
「かぐやや!すぐに安全な場所に避難するぞ!」
「はい、おじいさま」
おじいさんとおばあさんが珍しく慌てている。仕方のないことだ。天災レベルの存在が襲撃してきたのだから。
私たちは護衛とともに屋敷の廊下を速足で駆ける。
それにしても、まさかあの玉が本物だったなんて…!そして、この事態を生み出したのは、間違いなく私だ。この都には恩がある。私が蒔いた種で、正直死んでほしくない人たちの住んでいる町だ。
一体、どうすれば…!
そう思いながらも、私たちは避難指定の場所まで避難する。
そこにはすでに百を超える貴族たちが避難していた。でも正直、龍を相手にすればこんな避難所なんて一瞬で灰にできるだろう。それほどまでに、龍は強い。
最悪、私が自ら戦うしかない。
そう考えながらも、私はこの場離れず、おじいさんとおばあさんを励ましながら、隠れていた。
途中、空気の読めないバカども―――おそらくは好感度アップのためでしょうが、「龍が襲ってきたら命を賭けてでもあなたを守ります」とかいう貴族がいた。
“お前はバカか”と言ってやりたい。あんたなんかが龍に勝てるわけないでしょうが。
そして、しばらく経った。
おかしい、何故これだけ時間が経っていると言うのに、破壊音が聞こえてこないのか?外では龍による破壊活動が行われているはずだ。それなのに、無音と言うのはおかしすぎる。
――そのときだった。
「かぐや姫!かぐや姫はおられますか!?」
突如、バタンッ!と言う音とともに慌ただしく入って来た衛兵が一人。
何故私が呼ばれているの?こんな状況なのに、ますます訳が分からなくなってきた。
「おい貴様!一体なにをしにここに来た!?さっさと防衛に戻れ!」
貴族の一人がそう叫ぶ。
だが、衛兵の顔はそれどころではないようだった。貴族の言葉など、耳に入らないほど、恐怖と焦燥に駆られた表情をしていた。
「これは都の存命がかかった大事なことなのです!このままでは、都が焦土と化してしまいます!!」
衛兵が叫んだことで、一気に不安が蔓延する避難所。ここは、私が出ないとダメね。
「私がかぐやです。一体、どうなさったのですか?」
「龍です。龍がかぐや姫と話がしたいと!!」
衛兵の叫びとともに、一気に不安が加速する。
龍が、私と話を?一体どういう風の吹き回し?いや、それよりも、
「都が焦土と化すとは、どういうことですか?」
「そのままの意味です!かぐや姫を連れてこなければこの都を焦土にすると龍が脅しを!」
「―――分かりました。今すぐに行きます。案内してください」
「かぐや!」
決意の意思を表した瞬間、私の後ろから声が響く。おじいさんとおばあさんだ。その顔は不安で染まっており、おばあさんに至っては目が潤おんでいる。
「お二人とも。私はこの都を守るために行かなければなりません。どうか、行かせてください」
「「――――」」
しばらく黙り、おじいさんが。
「分かった。行ってらっしゃい」
「おじいさん!?」
「だけどね、必ず無事で帰ってくるんだよ」
おばあさんの叫びの後に、おじいさんがそう付け足した。
「もちろんです。私は、絶対無事で帰ってきます」
そう言い、私は衛兵のあとをついていく。駆け足で急ぎ、都を囲む壁まで着いた。
その瞬間、強烈な悪寒が私を襲った。
「―――ッ!!」
その悪寒のせいで一瞬倒れそうになるが、衛兵が私の体を支えてくれる。
「大丈夫ですか!?」
「はい。ありがとうございます」
「それは…よか…た」
瞬間、私を支えてくれた衛兵の方が倒れてしまった。無理もない。こんな悪寒を目の前にして、立っていられる方がおかしい。
でも、行かなければならない。倒れた衛兵は他の衛兵たちに任せて、私は塀壁の上に上った。
「――――」
そこで、私は絶句した。登り切った瞬間、そこにいたのは巨大な緑色の顔。その生物は蛇のように長い体を持ち、その体から放たれる『力の波動』だけで、動転しそうになる。その生物の名前は、『龍』。
悪寒の発生源は、間違いなくこの龍によるものだ。
そして、その近くに見慣れた男が佇んでいた。
「あれっ、かぐや姫。ここまでご苦労様です」
「あなたは…!」
その男は、あの二人組の内の白コートの男だった。どうして!?何故あの男はこの悪寒の中平然といられるの!?
これを耐えているだけで、この男が只者でないことだけは分かる。だけど、今はこちらに集中しないと。
貴様が、かぐや姫とやらか?
「はい。私が、かぐや姫です」
すぐ近くで放たれる、巨体特有の大きな声。聞くだけでも、鼓膜が破れそうな勢いだ。
ここだけでも、不老不死の再生能力があってよかったと思える。
そのとき、隣からあの男の声がした。
「あの『龍神』さ、声デカい。もうちょっと音量下げてよ。あとあからさまな不機嫌オーラ出さないでよ。他の人倒れちゃってんでしょうが」
龍がそう言うと、私を襲ってきた悪寒が嘘のように消え、龍の声のトーンが若干だが下がった。まだ少し響くが、これでも制御してくれた方なのだろう。
それを感じ取ったのか、兵士たちが一斉に駆け込んできて、いつでも戦闘態勢に入るようにしている。
――だがしかし、問題はそこではない。
なんでこの男はこの龍と平然と話してるの!?一度戦って勝った相手だから、油断してるの!?こっちの被害も考えなさいよ!
あれ、なんかもう一つ聞き捨てならない単語が出てきた気が…。
だが、龍の言葉によって私の考えはかき消される。
――これは、嘘はつけないパターンね。嘘をついたら、絶対殺される。死なないけど。
野次馬が増えたが…まぁいい。それで、人間の姫、かぐや姫よ。貴様が我の宝を盗むようにそこの男に言ったのか?
「はい。私は『龍の頸の玉』を取ってくるよう、彼に言いました」
つまり、『龍神』である我を、貴様が意図して狙ったわけではないと言うことか?
「はい――?」
素っ頓狂な声が小さく木霊する。誰にも聞かれてないわよね!?
今確実に『龍神』って言ったわよね?じゃあ今目の前にいるのは神様!?後ろの兵士たちからも騒めきが聞こえる。
というか神様の私物強奪するとか頭イカれてるんじゃないのこいつ!?
私は白コートの男を凝視すると、男はヘラヘラと笑っている。笑ってる場合か!原因あんただからね!?
「い、今は私の聞き間違いでなければ、『龍神』と…」
そう言っておろうが。聞き返すな
やっぱりそうだった!畜生!龍神って言ったら月夜見様と同一の存在じゃない!
『空真』からも昔話として良く聞いていたあの龍神様じゃない!
まさか会える日が来るなんて―――なんてこと考えてる場合じゃない!
貴様の意図は良く分かった。そして貴様。何故我を狙った?狙いが【龍の頸の玉】であれば別に我である必要はなかろう?
今度は龍神の視線が白服の方に向いた。そして肝心の白服は―――、
「え?だって龍神からぶん盗った方が価値あんじゃん。あと実感」
んー!発想が脳筋の馬鹿すぎる!そんな理由で神様に喧嘩売るんじゃないわよ!そのくらいの強さがるのなら普通の龍から奪えばいいだけの話じゃない!
―――まぁよい。それでは本題に入ろう
ついに本腰を入れるときがきた。一体、どのような話をするつもりなのだろうか?まず第一に、宝を返せと言われるのは確実だ。
そのあとに、どのようなことを言われるかが問題だ。
貴様に、我が宝を『貸し出す』ことにした
しかし、結末は予想斜め上をいった。宝を、貸し出す?一体どういうこと!?
「貸し出す、ですか?」
そうだ。本来ならここを潰してでも奪い返すつもりだったがな
さらっと怖い事言ったわこの龍神。でも、神からすれば人間なんて取るに足らない存在。そのような考えに至るのは仕方のないことだ。
しかし、『空真』の言った通りの人物――いや、龍物かしら?基本的な人間への当たりが強すぎる。
黒服の男――貴様の仲間だろう?あの男が、身を挺して我と賭けをし、勝った。それ故に我が宝を貸し出すこととする
黒服の男―――レイラ討伐を辞退したあの男。あの時はただの意気地なしかと思ったけど、結構気骨ある男じゃないの。関心したわ。
ていうか――私はちらりと白服の方を見る。確か黒服の方は仲間だったはずだ。と言うことは龍神の話からするに彼は危険な状態にあるはずだ。それなのに、どうしてそんなに冷静でいられるの?
ともかく、この話には乗らない手はない。
「――あなた様の寛大なるお心に、感謝いたします。それで……いつまででしょうか?」
それはあの男からすでに条件として聞き入れている。期限は『貴様がこの都にて命が尽きるとき』までとする
その条件を聞いて、私は何か引っかかった。『私が都で命が尽きるときまで』?この言い方は、なにかおかしい。
普通なら、『私が死んだとき』でいいはずだ。それなのに、なんで『都で』と言う内容が付けられているの?
私は不老不死だ。だから死ぬことはない。と言うことはつまり、私が都で死ぬとき――この都からいなくなるときだ。
そして、こんな条件を付けるために必要な情報は、ただ一つ。あの黒服は、私が『不老不死』であると言うことを知っている!!
そして、それを知っているのは―――『月の民』!
つまりあいつも、この白服も『月の使者』ってことに――、
「今君が考えていることは、1000%の確率で間違いだ。僕たちをあんな肥溜め連中と一緒にしないでくれ」
――心を読まれたッ!?
どうして私の考えていることは分かったの?まさか、心を読む能力者!?
「違うっての。
「また―――ッ!やっぱりあなたは、そうなのね!?」
「主語がないから分からないんだけど。―――あぁ、そうか。外野がいるから詳しく話せないもんね。それなら問題ないよ、ほら」
白服が私の後ろの方―――護衛たちがいる方を指さす。私は振り返ると、そこには奇妙な現象が広がっていた。
「これは…?」
「大丈夫。しばらくの間、『記憶喪失』になってもらってるだけだから」
「記憶喪失…!?」
「そ、すごいでしょ?記憶にも干渉できるだぁ、僕(まぁ、実際に対象の頭に触れないと『捕食』も『混合』も『嘔吐』できないんだけど。せいぜい『幻惑』程度なんだよなぁ。でもこけおどしでも十分効果はあるしね)」
「記憶に、干渉…!?」
それを聞いて、鳥肌が立たずにはいられない。それはつまり、いくらでも自分に都合のいいように周りの記憶を誤魔化せると言うことだ。
そんなのを相手にしていたら、精神的に持つはずもない。
「だから、『記憶』も複製できちゃうんですよ。誰だろうと、ね」
「―――ッ!!」
そういうことか…!だから私が『不老不死』であることを知っていたのね。つまり、出会った当初から私の記憶すべてをコピーされていたってこと。
そしてそれに伴って、私が『月の民』であることも知っているはずだ。黒服が知っていたのは、この男が仲間である黒服にその情報をリークしたから!
「あなたたちの目的はなんなの?まさか、私を攫うこと?」
化けの皮を剥がし、私は面と向かって目の前の『不審者』に敵意を持って睨む。
「違うっての。そんなことしたら、メリットどころかデメリットでしかない。まだ疑っているようだから言って置くけど、僕たちをあんなゴミと一緒にするなって。不愉快極まりないんだよね」
「だったら―――!」
さっきから聞いていれば!月の民を侮辱しおって!何様のつもりだ貴様ァ!!
私が叫ぼうとした瞬間、龍神が大声を出したことで私の言葉はかき消された。その際に鼓膜にダメージが入った。声大きすぎるのよ…!
不老不死の再生能力があってよかったと今だけは思える。
ていうか急になに?さっきまで静観決め込んでいたじゃない。なんで急に怒鳴るのよ?
多分、彼は『月の民』である空真をあいつが侮辱したから怒ったんだろう。
「なに?急に怒鳴って?事実じゃん。あんな『
確かにあそこには『ゴミ』が大多数だ。だが、そうでないものもいる。悪しき部分しか見ることの出来ぬ愚か者が
「それって月夜見のこと?まぁ月夜見なら幾分かマシな部類だよ。でもそれ以外は駄目だ。俺は、月の民に『悪感情』しか
―――瞬間、二人から強烈な『力』の波動が暴発する。輝夜はその波動による風圧で、目をつむった。まさに、一触即発の危機だ。
『記憶喪失』状態でなにも感じていない護衛たちが羨ましい。自分は、こんなにも鳥肌と悪寒、震えが止まらないと言うのに。
こいつら
「―――やめよう。ここで戦ったら、条約違反になる。そっちも、一度確定して自分で決めたことを覆したくもないだろう?」
―――そうだな。我もそれで構わん。
あれ、案外あっさり終わった…。
もうここが焦土になるくらいの戦いが起こるかもしれないと思ってたのに…。
だが、貴様を警戒するに越したことはない。今後とも警戒させてもらうぞ
「一瞬で僕に負けたクセに良く言うよね」
あれは貴様らが我が本気を出す前に一方的に叩きのめしたからだろうが!!
え…?相手はあの龍神よ?それを本気を出してないとはいえ一方的に叩きのめすなんて一体何者なのこいつ?
意味不明がどんどん増えていくんだけど。
まぁよい。我はもうこの地から飛び立つ。次会う時は、あるかないか、分からんがな。さらばだ、小娘。そして――『陰の使徒』よ
そういい、龍神は空の彼方へと飛び立っていった。
ようやく、終わった…!
「はぁ…疲れた…。―――」
ところでさっき、龍神が『陰の使徒』って言ってたっけ?
小娘は私のことだから、その『陰の使途』って言うのは――、
「チッ。『俺』をその肩書で呼ぶんじゃねぇよ…!」
なんかすごく豹変してるんですけど!?『僕』から『俺』になってるんですけど!?もしかして、あっちが素?あいつも猫被ってたわけ?
『陰の使途』が肩書?これは一体何を意味しているのかしら?
「あ、何見てんだよ?」
「…ッ、当たり前よ。結局、あなたが何者なのか、まだ全然聞けてないじゃない」
「そんなの―――それは、すべての宝物が君のところに集まったら、おのずと知ることになるよ。ていうか、その時にある程度バラすつもりだし」
こいつ、一瞬で猫被ったわね。適応能力凄すぎでしょ。
ていうか、なによそれ、めちゃ気になるわよそれ。
「なにを勿体ぶって…。今聞かせなさいよ――って言うつもりだけどやめるわ。さっきのアレを間近で喰らって、命令する気にもなれないわ。それに、あなたなら本当に残りの三つを集められそうだしね。不老不死の私にとっては、いい暇つぶしになるしね」
「そういうもんかぁ。じゃあ、その時を楽しみにしているといいよ」
そういい、白服は指を鳴らすと、兵士たちの目の色が一気に戻る。
その瞬間、私はかぐや姫モードに入る。
「か、かぐや姫様!あ、あの龍はどこへ!?」
「安心してください。あの龍はすでに飛び立っていきました。龍は私と『約束』を締結したため、ここにはもう用がないと」
「そ、そうでございましたか!本当に、あなたに怪我がなくて良かったです!」
「ありがとうございます」
すまし顔をするが、私は内心困惑していた。何故皆あの龍を『龍神』だと認識していないの?
――まさか!!
「―――」ニコッ
白服の方を振り返ると、アイツはフード越しにニコッっと口を曲げた。
あいつの仕業ね、これは。でもまぁ、龍神なんていう存在だけでも余計混乱するだけだ。龍が来たと言うだけでも十分効果はあるから、余計な情報は言わないのが吉ね。
そして、龍騒動は終わりを迎えた。
残るは後始末だけだ。
まず白服と黒服に向くであろう住民や貴族たちのヘイト。これをすべて私に集中させ、尚且つ減少させる。
今回の件をどうするかについての集まりで、『彼らに責任を取らすべきだ』と言う声が多数上がったため、私がそこで待ったをかけた。
『元より龍の宝物を盗ってくるように命じたのは自分であるため、彼らはそれに従っただけにすぎないと。罪があるのなら、私にある』と主張した。
そこから状況は一変。
帝と結婚する気はないけど、せっかくだから今の地位を全力で利用してやるわ。
だから、私のこと、退屈させないでよね。
* * * * * * * *
それからと言うものの、彼らはたて続けに【仏の御石の鉢】【火鼠の皮衣】を取ってきて、私に献上してきた。
偽物かと思うかもしれないが、実際に本物の【蓬莱の玉の枝】と【龍の頸の玉】を持って来た彼らを疑うことは(疑っているだろうが、実際に持って来た実績があるため、口にはできないはずだ)。
それに、【火鼠の皮衣】は実際に燃やしてみて全く朽ちることがなかったため、本物認定された。
「ていうか、あれからももう三年ね…」
私の結婚候補は、実質【石上麻呂足】様と【車持皇子】様の二人。残りの三人は宝を先に盗られた実質降格だ。
ところで、宝を献上する際にもう白服しか来なくなったけど、黒服の方はどうしてるのかしら?
今度会った時聞いて――、
「かぐや姫様。例の男がこちらに来ております」
「分かりました。通してください」
と、思った矢先に来た。どんだけタイミングがいいんだか…。
少しすると、白服が部屋に入って来た。
「おはようございまーすかぐや姫。いや、こんにちわの方が良いでしょうか?」
「いえ、どちらでも構いませんよ」
早々につまらないジョーク?をかましてくるあたり、本物で間違いないだろう。
こいつは何故か毎回会うたびに声が全くの別人に変わる。顔も見えないし、もう別人だと何度思ったことか。それでも、権力者に対してあんな『のほほ~ん』とした態度とれる奴なんて早々いてたまるものでもないし、突っ込まないことにしている。
周りにいる護衛の陰陽師たちがその度に不快感を顔に露わにしているけど、私の方から「別に構わない」と言っているので、突っかかってくることはないだろう。
「それで、此度はどのようなご用件で?」
「あぁ、実はこれを」
そういい、取り出したのは小さな手のひらサイズの綺麗に輝く玉。もしかして、これは…。
「ご明察。これは【
と、ヘラヘラとした態度でそう答えた。相変わらずよねぇ。もう驚かないわよ。
子安貝をおじいさんに渡し、おじいさん経由で私の手に渡る。
「―――と、いうことは、達成ですね。おめでとうございます」
私は数回、小さな拍手を白服に送る。まさか、本当に達成できるとは、当初は全く考えてなかったわ。
「いやぁーありがとうございます。これで、ようやく努力が報われるってもんですよ」
「そうですね。それでは、あなたの望みはなんですか?私との婚約ではないとはお爺様から聞いております。それで今までずっと気になっておりました」
あの時は私自身が目当てかと思っていたが、どうやら違うらしい。なにやら、私にお願いしたいことがあるから、この戦いに参加したようだ。
その内容が今まで分からなかったが、ついにそれを知ることができる。
「あー……すみませんが、まだ申し上げることはできませんね」
「――えっ?」
「だって、まだ。揃っていないんですよ。舞台役者が」
舞台役者?こいつ一体何を言っているの?
「おっと。つい楽しみを滑らせてしまいました。いやー面目ない」
「――その舞台とは、一体なんですか?」
その時、部屋にいた護衛の陰陽師たちが一斉に彼に警戒を表す。中には札や
――瞬間、白服の雰囲気が一変する。針や吹雪のような、威圧に、突き刺すような痛みが私の肌にひしひしと感じてくる。
「やめてくれないかなぁ。別にかぐや姫に危害を加えるような内容じゃないんだ。僕もここで君たちとドンパチするつもりはないんだからさ。ここは穏便に、ね?」
「――降ろしてください」
「し、しかし…!」
「ここで彼と戦えば、アナタたちが無事ではすみません。どうか、私の言うことを聞いて下さい」
「……分かりました。全員、武器を降ろすんだ」
隊長格の陰陽師の人がそう言うと、全員が武器を降ろす。
ここで戦ったとしても、龍神をマトモに相手に出来る存在とじゃ、勝てるはずがない。
「もう一度聞きます。その舞台とは、一体なんですか?」
「とっても面白く、壮絶で愉快な
かなりド直球に言ったわね!つまり何?いけ好かない奴を言葉の暴力でとっちめるショーってこと?よくもまぁそんなことを言える度胸あるわねこいつ!
いや、もうこんな無礼をしても、問題ないと思われているのだろう。だって、ここにいる陰陽師たちじゃ、この男に勝てる道理などない。だから調子に乗られてる。
私なら持久戦に持ち込めるけど、こんなことで力を使う訳にもいかない。
「ですが、そのための役者がまだ二名ほど足りてないんですよねぇ。だからできないんです。だから、それが来るまで待ちます」
「その足りない役者とは、誰なのですか?」
「一人はおのずとここへ来ます。そして、もう一人は僕がここへ連れてきましょう。フフフ、本当に楽しみです。その時が。それでは失礼します」
そういい、陰陽師たちの間を通って白服は退室していった。
そして、緊張の糸が途切れたように陰陽師たちが口を開く。
「なんなのですかあの態度は!かぐや姫様の前で、あんな無礼を!」
「全くだ。隊長!何故あの男に鉄槌を下さないのですか!」
「そうです!我らは舐められてはおしまいです!」
「―――お前等、気持ちは分かるが、かぐや姫の御前だぞ。愚痴なら誰もいないところでやれ」
「「「「「――――」」」」」
隊長の人の一喝で、全員が黙った。いやぁ、こういうときって上の人間ってすごく便利よね。
そして、隊長の人が私を前に跪いた。
「かぐや姫。彼らの無礼をお許しください」
「良いのです。それよりも、あなたの考えを聞かせてくれないかしら?」
「私の考え、ですか?」
「彼との関係を、どのようにしていくか、です。ぜひ、彼らのまとめ役であるあなたに話を伺いたいのです」
「―――畏まりました」
よし、どうやら通じたようね。
単純に考えて、私の決定でもそれをよしとしない奴だって十分いるはずだ。それに、こんな箱入り娘(自分で言ってて悲しくなるわね…)の言葉なんかより、戦いに精通している彼の言葉の方が、より良い。
それに、私が考えを聞いているのだから、それに口出しする権利は与えるつもりもない。
「私としては、このままの関係を続けるべきだと愚行いたします」
「―――その理由を、お聞かせください」
「はい。知っての通り
「神―――ですか?」
「はい。それを説明する前に、私の大まかな生い立ちをここで話すことをお許しください」
「……分かりました。話してください」
何故その説明にこの人の生い立ちを聞く必要があるのか分からないけど、ここで肯定しないと私の姫としてのイメージが崩れるし、結局はやるしかないのよね。
そして、彼の話が始まった。
彼の一族は代々、『
そんな特に御利益のない神を、良く信仰していられるなと感心する。――と思ったが違った。
ご利益はどうやらあるらしい。
なんでも、ご先祖様がその神と
事実、彼には一人の兄と弟がおり、兄は【陰陽師組合】の『組合長』をしており、弟はこの都の貿易などを一括している責任者である。そして真ん中である彼は組合に属さない『朝廷』に選ばれた陰陽師たちの総括している立場だ。
三兄弟揃って、都の重要なポジションについている。改めて聞くと凄い一族ね。
そう言う重要なポジションに必要なのは、『優秀な知識』と『危機管理能力』だろう。あらゆる状況にも対応できる、順応な人間。優秀以外の何物でもない存在。
「そして、感じました。彼は『神』に似た存在であるかもしれないと!」
「―――」
『神』に似た存在……確か、龍神があの男のことを『陰の使途』って言ってたわよね?
使徒って言ったら普通、神の手下を連想させるけど、まさか……いや、考え過ぎか。
「……すみません。取り乱しました。今のは私の
「は、はい…。分かりました」
「そして、私が感じた彼の気配から考えるに、彼はこの場にいる誰よりも強い。故に、私はこの関係を続行することを提案いたします」
「……分かりました。あなたの考えを肯定します」
「ありがとうございます」
そのやり取りに、皆が皆困惑を示す。無理もない。事実彼が無礼であることは事実。その場で仕置きをするのがここでの普通だ。
だがしかし、龍神を退けたと言う実績がある以上、無碍に扱うわけにもいかず、かといって敵に回せばこちらも無傷で済まず、むしろ全滅する可能性が高い。
だから、悔しくとも、感情で動くのではなく理性で動くしかないのだ。情けないと思うが、本当に仕方ない。
もう、後戻りはできない。
だったら見せてもらおうじゃない。そのショーってやつを……!!
* * * * * * * *
あの日から一か月経ったこの日、【
三年ぶりね、この顔を見るの。なんでも、三年間旅をして【蓬莱の玉の枝】を入手してきたようだ。
その証拠に、屋敷に戻らず旅人の服装でここに来ていた。よく見ると、本当にボロボロだ。
そして、長ったらしい経緯を説明された。
一昨々年の二月の十日ごろに、難波より船に乗りて、海の中にいでて、行かむ方も知らず、おぼえしかど、思ふこと成らで世の中に生きて何かせむと思ひしかば、ただ、むなしき風にまかせて歩く。命死なばいかがはせむ、生きてあらむかぎりかく歩きて、蓬莱といふらむ山にあふやと、海に漕ぎただよひ歩きて、我が国のうちを離れて歩きまかりしに、ある時は、浪荒れつつ海の底にも入りぬべく、ある時には、風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなるものいで来て、殺さむとしき。来し方行く末も知らず、海にまぎれむとしき。ある時には、糧つきて、草の根を食物としき。ある時は、いはむ方なく むくつけげなる物来て、食ひかからむとしき。ある時には、海の貝を取りて命をつぐ。
旅の空に、助けたまふべき人もなき所に、いろいろの病をして、行く方そらもおぼえず。船の行くにまかせて、海に漂ひて、五百日といふ辰の時ばかりに、海のなかに、はつかに山見ゆ。船の楫をなむ迫めて見る。海の上にただよへる山、いと大きにてあり。その山のさま、高くうるはし。これや我が求むる山ならむと思ひて、さすがに恐ろしくおぼえて、山のめぐりをさしめぐらして、二三日ばかり見歩くに、天人のよそほひしたる女、山の中よりいで来て、銀の金鋺を持ちて、水を汲み歩く。これを見て、船より下りて
『この山の名を何とか申す』
と問ふ。女、答へていはく、
『これは、蓬莱の山なり』
と答ふ。これを聞くに、嬉きことかぎりなし。この女、
『かくのたまふは誰ぞ』
と問ふ。
『我が名はうかんるり』
といひて、ふと、山の中に入りぬ。
その山、見るに、さらに登るべきやうなし。その山のそばひらをめぐれば、世の中になき花の木ども立てり。金、銀、瑠璃色の水、山より流れいでたり。それには、色々の玉の橋わたせり。そのあたりに照り輝く木ども立てり。その中に、この取りて持ちてまうで来たりしはいとわろかりしかども、のたまひしに違はましかばと、この花を折りてまうで来たるなり。
山はかぎりなくおもしろし。世にたとふべきにあらざりしかど、この枝を折りてしかば、さらに心もとなくて、船に乗りて、追風吹きて、四百余日になむ、まうで来にし。大願力にや。難波より、昨日なむ都にまうで来つる。さらに、潮に濡れたる衣だに脱ぎかへなでなむ、こちまうで来つる」
とのたまへば、翁、聞きて、うち嘆きてよめる、
くれ竹のよよの竹とり野山にも さやは わびしきふしをのみ見し
これを、皇子聞きて、
「ここらの日ごろ思ひわびいはべりつる心は、今日なむ落ちゐぬる」
とのたまひて、返し、
我が袂 今日かわければ わびしさの 千種の数も 忘られぬべし とのたまふ。
―――なっがい。
メチャクチャ長い。よくそんな話をペラペラと言えるわね。疲れてるのに、本当にその胆力だけは褒めてあげたいわね。
ちなみに翻訳するとこうだ。
おととしの2月10日ごろに、難波から船に乗って出港し、海へ進みました。どこへ行ったらよいかもわからずにいたのですが、だからと言って、自分の願いが叶わないでいては『この世に生きていても何をしようか』と思ったので、ただ無情である風にまかせて進んでいきました。『死んでしまったらどうしよう(とは思いましたが)、生きているうちはとにかく船を進めて、蓬莱という名の山に辿りつけるだろう』と思いながら、船を漕いで日本から離れていったのです。
あるときは荒波にのまれて海に沈んでしまったり、あるときには、風に流されて知らない国に漂着し、鬼のような怪物が現れて私を殺そうとしました。あるときには、行く方角も帰る方角もわからなくなり、海で遭難しようになりました。あるときには食糧がつきて、草の根を食べたこともありました。あるときには、言いようのない恐ろしい怪物がやってきて、私を食べようとしました。あるときには、海の貝を採って命をつないだり(飢えをしのいだ)もしました。
旅の空の下のことですので、誰も助けてくれる人はいませんから、いろんな病気をして、どこに行ったら良いのかもわかりません。船の進む方向にまかせて、海に漂って500日ほどたった日の辰の時刻(午前8時)ぐらいに海の向こうに、うっすらと山が見えたのです。船の楫を進めて見ていましたが、海の上にただよっている山は、とても大きいのです。その様はとても高く立派でした。『これが私たちが求めていた山に違いない』とは思うのですが、さすがに(見つけた喜びを通り越して)恐ろしく思えました。
山の周りを2、3日かけてめぐっていたところ、天界の人の格好をした女性が山から出てきました。彼女は銀のお椀を持って、水を汲んでいました。これを見た私は船から降りて
「この山は名前をなんと言うのか。」
と尋ねました。女性が答えて言うには、
「これは蓬莱の山です」
とのことでしたので、これを聞いてとても嬉しい限りでした。
「そうおっしゃるのは(あなたは)、どなたですか?」
と女性が言うので(自分の名を)答えたところ
「私は"うかんるり"と申します。」
と言って、彼女は山の中に入っていったのです。
その山を見てみると、まったく登る手段がありません。その山の周りを廻っていると、この世の物とは思えない花の木々が立っていました。金色、銀色、瑠璃色をした水が山から流れています。その川にはいろいろの玉で作られた橋がかかっています。そしてそのあたりに光り輝く木々が立っていたのです。その中では、この採ってきた枝は(他の枝に比べたら)よくない質の物だったのですが、かぐや姫がおっしゃられた物と違ってはならないだろうと、この花を持ってきたのです。
山はたいへん興味深いものでした。この世に例えるものがないほどですが、この枝を折ってしまうと、かぐや姫に会うのが待ち遠しくなって、船に乗りました。すると追い風が吹いて、400日ほどして参上した次第です。神様のお力添えでしょうか。難波から昨日都に参りました。そして潮にぬれた衣さえ着替えることもなくこちらに参上したのです。
と皇子がおっしゃったので、おじいさんはこれを聞いて、すっかり感激して歌を詠みました。
代々、竹取の仕事で野山にはいりますが、そのように辛いことがあったでしょうか、いやないです。
これを聞いた皇子は、
長い間つらいと思っていた心は、(その言葉、やりきった気持)で今日落ち着きました。
とおっしゃいました。そして返歌に
(かぐや姫への思いと海の潮、これまでの苦労の涙)で濡れていた私の袂も今日乾きました。1000種類
もの辛さも忘れることができましょう。
とおっしゃいました。
「―――と、言う苦難を乗り越え、私はついに蓬莱の玉の枝を入手することに成功したのです!」
車持皇子様がおじいさんに蓬莱の玉の枝を渡し、経由して私の手に渡る。
確かに本物だ。この輝きが証明している。
まさか、本当に持ってくるなんて…。
「かぐやや。この皇子に申し上げた蓬莱の玉の枝を、ひとつの間違いもなく持ってきている。何をもってあれこれと申すこともない。皇子は旅のお姿のまま、ご自宅へもお立ち寄りにならないでいらっしゃった。はやくこの皇子に嫁ぎ仕え申し上げよう」
と、おじいさんがとても嬉しそうにそう言った。隣のおばあさんも、最早泣いている。うれし泣きだろう。
ようやく自分の娘が嫁に行くことになって、嬉しいのだろう。
――だがしかし!私からしたら有難迷惑でしかない!元々結婚するつもりもないことを前提にあの宝をリクエストしたのに!
かといって、約束を違えることもできない。一体、どうすれば…。
そして、考えている合間にもどんどん話が進んでいく。
「この国では見ることのできない玉の枝だ。今回は、断る理由もない。皇子は身なりも良い方だ。きっとかぐやのことを幸せにできるだろう」
と、おじいさんは善意でにこやかな笑顔を私に向ける。やめて!善意が辛い!
クソっ!せめて断る口実ができれば――
「おーと待ったー。そーは問屋が卸さないよー」
そのとき、中庭の方から気が抜けた声が聞こえた。その声は愛くるしい少女の声で、その平凡さがより一層不気味さを増し、全員の視線が中庭に向く。
そこには、あの白コート野郎―――『シロ』がいた。
「貴様は何者だ!」
「やだなぁ。三年前合ってるじゃないですか。僕ですよ僕、シロですよ」
「は、はぁ!?貴様があいつ!?バカ言うな!声が全然違うじゃないか!」
うん。それは全力で同意する。なんであいつは毎回毎回声を変えるのよ!それにこう思うのはこれでもう何回目よ!
「あー、女の子の声は駄目だった?だったら―――「こっちの声の方がいいかぁ?」」
瞬間、可愛らしい女の子の声から、野太い男の声に変化した。
え、マジ?本当に声が変わったんだけど。ギャップがすごすぎてドン引きなんですけど!
「なっ、なっ、なっ!?」
「うん、十分困惑してるね。まぁ想定の範囲内だ。だからさ、もっと戸惑わせてやろうと思ってさぁ!」
白服は拍手を二回すると、左から三人、右から三人の男たちが現れた。
「見つけたぞ!」
「褒美はまだなのか!」
「な、なんだね君たちは!?」
おじいさんがあまりの困惑に叫ぶ。護衛の陰陽師たちも一斉にその六人の男に警戒を表す。
その威圧に怖気づいたのか、六人は後ずさるが、白服が一人の男にこう言った。
「大丈夫です。彼らは何故あなた方がここにいるのか分からないから警戒している。落ち着いて、ゆっくりと、ここに来た経緯を話してください」
「あ、あぁ。――こほん。まず私の名前は【
「それで、あなた方は一体どのような理由でここに来たのですか?」
「実は、玉の木を作る仕事のことです。五穀を絶って1000日ほど力を尽くして玉の木を制作したことは、並大抵の労力ではありませんでした。しかし、まだ報償を頂いておりません。これを頂いて、ふつつかな弟子たちに与えたいのです」
「「「「「―――ッ!」」」」」
「そして、彼から玉の枝は、かぐや姫のお使いとして、かぐや姫がお求めになるはずであったと、伺いまして。それ故この家から褒美を頂きたく存じます!」
私たちは一斉に車持皇子に視線を向ける。彼の顔は憤怒の赤と、焦燥の青が混ざったような良く分からない顔色をしており、彼の視線の先には白服が舌を出したピースサインをしていた。確実に煽ってるわねあいつ。
「これはどういうことですかな?」
「えっ、あの、それは…!!」
「皇子!褒美はどうするおつもりですか!」
「えぇい黙っていろ!!」
と、あいつは大声で叫ぶ。しかし、これ以上聞いても結果が覆ることはなさそうだ。
私は、車持皇子に笑顔で、
「本物の蓬莱の玉の枝かと思いました。このような驚くウソでしたので、早く枝を皇子にお返しになってください」
おじいさんに偽物の蓬莱の玉の枝を渡す。
と、その時車持皇子が大声を荒げる。
「お待ちください!これは、彼らが私を陥れるための嘘を―――」
「嘘だと!?三年間も箱詰め状態で仕事させといて、嘘とはなんだ!」
「そうだ!俺たちは仕事でやっているんだ!嘘つき呼ばわりするな!」
それを聞いて私は宝物庫にある【蓬莱の玉の枝】を従者に取りに行かせる。
しばらくすると白服が持って来た蓬莱の玉の枝が私の手の元に。輝き以外は、ほぼ本物と同じだ。まさかこれほど精巧な物を作っていたなんて…!
地上の技術も、捨てたものじゃないわね。
すると、しばらく黙っていたあの男が怒鳴る。
「えぇい!よくも私の邪魔を!許さんぞ!そんなに私とかぐや姫が結婚するのが妬ましいのか!この愚か者目が!」
「ははっ。許さない?逆恨みもいいところだ。僕はただ、彼らをここに案内しただけ。不正を止めに来たんだ」
「不正だと?ならば貴様が龍を退けたと言う噂はなんだ?人間が生身で龍に勝てるはずもない!貴様こそ不正をしているのではないのか!?」
「―――言ったね。その言葉を、待っていたよ」
「――は?どういうことだ?」
「あのさぁ。君はついさっき本土に上陸して、すぐさまここに来たって言ってたよね」
「そうだ!それがどうした!?」
「だったらさ、なんでその噂を知っているのかなぁ?」
「―――ッそ、それ、は……!」
「―――なるほど。そういうことですか」
もしアイツが本当に三年間旅をしていたと言うのなら、その噂なんて知れるはずもない。そして、本土に帰ってきてすぐにここに来たと言うことは、その噂を誰かに聞く暇もない。
つまり、この男は噂を知れる範囲内にいたと言うことになる。
「なんで、その噂を知っているのかな?説明プリーズ」
「そ、それは旅の途中で流れ着いた国で聞いたんです!それでその噂を耳に――」
「それもおかしい。さっきの話だと、君は日本にいなかったはずだ。今の時代、外国との交流が盛んに行なわれている。だから分かるはずだ。外国とこの国の言葉は違うと。その状態で、どうやって噂を知ったんだい?」
「う、うぐぐ……!!」
「つまり!!先ほどの話は全くの嘘!今までのお前の言葉は、何もかもが矛盾してるんだよ!!」
「――――ッ!!!」
彼は絶句して、最早何も言わずに、悔しそうな表情をするばかりであった。
自分の失言に気付いたのが、遅すぎたのが、彼の敗因ね。
さて、と…。
「お爺様。車持皇子に玉の返却をお願いします」
「分かった。明かな偽物だと分かった以上、貰う理由はないからの」
「えぇ。本物の玉の枝と聞かされたのに、言葉巧みにかざった偽物だったのね。本当に驚きました…」
「何故だ!何故私の邪魔をする!?そんなに私のことが羨ましいのか!?私のことが妬ましかったのか!?」
と、あの男が怒鳴り散らす。正直言って、面倒臭い。
不正したんだから、もう諦めなさいって言うのが本音ね。
―――ちょっと待って。この前のアイツが言っていた『舞台』って、まさかこのこと?役者が二名足りないからって言っていた。
一人はおのずとここに来て、もう一人は連れてくると。だが、あの男が連れてきたのは六人。どう考えても多すぎる。
一体、あの男は何を考えているの?
「羨ましい?妬ましい?ははっ、違うね。―――僕は、君のことが初めから気に食わなかった」
「なに?」
「藤原不比等。あなた―――娘さんは今、どーしてますかー?」
「―――ッ!!?」
その質問に、車持皇子がとても焦った様子をした。
確か、彼の娘――【藤原妹紅】は、とても重い病気を患っていて、離れで療養をしていて、しらばくの間顔も見れていないと言っていたことを覚えている。しかも母親がすでに他界しているため、使用人が看病しているらしい。
あのときは「だからこそ、かぐや姫には妹紅の母親代わりになってほしい。声だけでも、きっと元気を出すでしょう」と言われたことを思い出す。
それを聞いたときは、娘思いの父親だなと同情した。同情だけだけど。
「それは車持皇子の話を覚えております。確か、重い病気を患っているのですよね?その
「あー……なるほどね。そう説明されてるのか。まぁ、その言い訳が、打倒だろうねぇ」
なによその言い方…。言い訳って、それってつまり、嘘ついてるってこと!?
あり得る…。
「―――車持皇子様。言い訳とはどういうことですか」
「か、かぐや姫!こんな奴の言葉を信じるのですか!?」
「偽物の蓬莱の玉の枝を持って来たあなたよりは、多少は信用できます」
「―――ッ!」
そう、辛辣な言葉を言い放つ。ていうか、久方ぶりに私の本音を人前に出すことができたわ。
普通なら、ビックリされるだろうが、今は特別な状況。彼が疑われている状況。私が疑っていても、なんら不自然でもない。
それに、私は偽物の宝物を渡され、騙された被害者だからね。
「シロさま。説明をお願いします」
「さまは良いよ。さんとかで。その方がやりやすい」
「では、シロさんと」
「うんうん。まず、彼の娘が病気なんて言うのは大嘘だ。いや、一部は本当だけどね」
「どういうことですか?」
「彼は、自分の娘が生まれつきの病気で『痛覚』がなくなっていることを、周りに露見することを恐れて、それを隠していたんだ」
「「「「「――ッ!?」」」」」
予想していたのがかなり外れて、スケールのデカい話になって来た。『痛覚』がない?だから車持皇子は娘を病気として外に出すことを恐れた?
そうか…『痛覚』がないないて、当然普通じゃない。そして、私はその娘以上に普通じゃないから、その気持ちが良くわかる。
不老不死は、地上人からしたら十分不気味だろう。地上人の寿命は約80年と随分短い。そんな中、ずっと老けずに生き続ける人間がいたとしたら、不可解に思うのも当然だ。
「ど、どういうことだ!?」
「まぁ君も知らなかったから仕方ない――と言うつもりはない。君は無知ゆえの加害者であることは変わりはないから」
「だから、なんのことだと言っているのだ!?あんなのが、病気なわけがない!痛みを感じないんだぞ!?そんなのが、病気であるはずがない!人間なはずがない!」
「本当に、あなたは墓穴を掘るのが得意なようですね」
「アッ―――!」
彼は本当に墓穴を掘るのが最特技なのではと思うほどにやらかしていた。
彼は、自分の娘を人間として見ていなかった。『痛覚』がない故に、
それが地上では普通なのかもしれないけど、いくらなんでもムカつくわ…!
「車持皇子。あなたは…私に嘘をついていたのですね」
最早コイツに敬称をつける価値すら、私の中には残っていなかった。
そして、私の中で自分の価値がどんどんと下がっていることに気付き始めたのか、彼は焦り始めて言い訳を並べた。
「し、仕方なかったのです!『痛覚』がないなど、あまりにも異常なこと!それが外に知られれば、妹紅は非難の対象となる!我が子を守るためには、苦肉の策だったのです!」
「――――」
「はっはっはっ。はははははは!!!」
「な、なにがおかしいのだ!?」
「いやさ、確かにさ。普通だったら通用するでしょうね、それ。だけどさぁ、考えたことなかったの?自分の娘が三年間どうしているのか」
「―――ッ!」
どういうこと?確かに娘のことを秘密にしていた理由としては確かだろうし、三年間ずっと隠れて過ごしていたのなら自分の娘がどうなっていたのかなんて知る由もないはずだ。
一体、この男はなにを知って――、
「そもそもさ。なんで僕が隠していたはずの君の娘の秘密知ってるか分かる?」
「そ、それは…ッ!まさか…ッ!」
「そう、その通り。その娘さんから直接聞いたよ。あなたが、自分をどのように扱っていたのか」
「み、皆さん!聞きましたか!?この男、私の娘を攫った極悪人であると自ら主張しました!今すぐにこの男を捕縛するべきです!」
「「「「「――――??」」」」」
と、叫んだが何のことだかまったくさっぱり分からない。
どうして今の話の流れで娘を攫ったって言う話に繋がるわけ?
「はっはっはっ。本当に、あなたは自身の墓穴を掘るのが、得意のようですねぇ」
「なにッ?」
「どうしてこの話の流れから妹紅さんを攫ったことになるんですかね?普通、こう言うのは不法侵入したって言うのが自然でしょう?」
「―――ッ!」
「つまり、あなたは自分の娘がいなくなっていることにとっくに気付いていた訳だ」
そうか!どうしてあの話から攫われたなんて不吉な話になったのか理解できなかったけど、これで辻褄が合う。
この男、とっくに自分の娘がいなくなっていることに気付いていて、それでも探すことをしてなかった。娘ほっぽらかして宝探し(自称)をしていたから、自身で出来るはずもない。
「さて、どうして自分の娘がいなくなっていたことに気づいていたのに、あなたは何もしてなかったんですか?」
「そ、それは密かに探らせていたのだ!事情が事情であるが故に!」
「それもあり得ない。あなたは【藤原妹紅】を自分の娘どころか人間と思ってもいない人間が、私財を裂くとは到底思えない」
「―――ッ!」
彼はもう何も言えなくなったのか、押し黙った。
これで、確定ね…。
「―――さて、そろそろ最終ショーと行きますか」
「何だと…?」
「そう、そのまさか。ここで、最後の役者に、入ってきてもらおうと思います」
ついに来た。ショーの〆ってやつね。あいつがなにを企んでいたのか、大体わかって来たし、後は高みの見物のみね。
それに、話の流れで出てくる人物が誰なのか、すでにもうわかっている。
「イッツザ、召喚!」
そのとき、中庭に銀色の垂れ幕なようなものが出現する。
その垂れ幕に一斉に警戒を表し、中には当然の如く困惑する
そして、その銀の垂れ幕の奥に、一つの影が映り―――一人の少女が姿を表した。
現れた長い黒髪を持つその少女は、謎の強烈な存在感を持った、不思議な少女だった。あまりの登場の仕方に驚きすぎて開いた口が塞がらない。使い方間違ってるけど。
「――――」
「な、な、な…!?」
その少女の存在に、車持皇子は大層驚いている様子だった。
彼があれほど驚く人物―――彼女が…。
「僕たちは、ただ二人で三年間を過ごしていたわけじゃない。彼女とも、過ごしていたんだ。さて、あとは君の番だ」
「―――分かった」
白服とすれ違うようにして、前に出てくる。
「――ほとんどの人が初めましてですね。私の名前は【藤原妹紅】。といってもすでにシロさんが私のことを話しているとお思いですが…」
妹紅さんはあの男を光のない目で見据えた後、私の方を見る。
「お話を聞いていることを前提に話を進めさせていただきます。ご存知の通り私は彼の娘です。小さい頃、生まれつき『痛覚』がないことを理由に、離れでの生活を強いられていました」
「―――ッ!」
「そこでの生活に耐えられなくなった私は逃げ出し、都の外に出たところを彼に助けられ、この三年間彼らとともに過ごしていました」
「と、言う訳だ。さて、真っ先に出るであろう質問は?」
「―――それでは、妹紅さん。心苦しいとお思いですが、あなたは離れでどんな生活をしていたのか、できるだけ詳しく話してくれませんか?」
「――はい」
そこで彼女から聞かされたのは、辛い毎日だった。
質の悪い服に無理やり変えられ、外に出ることすら許されない毎日。食事は少ない穀物とみそ汁と漬物の三つのみ。それを毎日。
自身のことを知っている使用人が食事を持ってくるたびに向けられる奇怪な目に精神をすり減らされていく毎日。
「隙を見て逃げ出し、彼らに会いました。彼らに『痛覚』のことを知られたとき、もうダメかと思いました。しかし、彼らは私の異常をどうでもよさげに、私の普通の人間として扱ってくれました。この恩は、決して忘れることはないでしょう」
「――――ありがとうございます」
話を聞いて完全に理解した。
あとは、私が決定を下すだけだ。だがしかし、認めることのできないバカが一人いた。
「お待ちください!その女が、本当に私の娘だと言う証拠はどこにあるのですか!?確かに顔立ちは昔と似ていますが、妖怪が化けている可能性だってあります!」
「隊長殿。どうなのですか?」
「問題ありません。彼女から放たれる
「ぐぐぐぐぐ……ッ!」
隊長からのお墨付きをもらった。彼のお墨付きならば、誰もが納得しよう。
あとは――、
「車持皇子」
「は、はいッ?」
「三年前。あの五名を、私を諦めずに愛を捧げてくれた方たちに、試練を与えました。ですが……あなただけだったようですね。あの五名の中でその資格に値しなかった人物は」
「う……うわぁあああ!!」
辛辣な言葉を言い放った直後、あの男が突然奇声を上げ、白服と妹紅さんに突撃した。
あの男、もう後がないからって理性を投げ捨てたわね!陰陽師の人も、率先して動いた――、
「―――サビク・オフィウクス」
そう、白服が呟いた瞬間、白服のフード越しにある目が赤く光った。それと同時に波動が流れ、あの男が後ろ向きに倒れた。それだけじゃない発せられた悪寒の巻き添えを喰らった私たちは、心臓の音が止まらなくなるほど恐怖に駆られた。
あまりにも一瞬の出来事で、唖然とする私たち。
「あっ、いっけね。ちょっとカッコつけたいから、技名口に出しちゃった…。恥ずッ」
あいつは軽々しく口にしたけど、一体何したのよ。
そして、妹紅さんは倒れているあの男を上から見下ろし――、
「さようなら、お父さん」
と、背中を向けて白服の方へと歩いていった。
「これで、もういいのかい?」
「うん。お別れはもう済んだから」
「そっか。君が満足なら僕が言うことはなにもない。とりあえず、先帰っていてくれ」
白服は指を鳴らすと、再びあの銀色の垂れ幕が現れ、妹紅さんはその中へと消えて行った。
そんな摩訶不思議な現象を見て唖然としている私たちを目の前に、白服が手を鳴らす。
「さて、疑問質問はいろいろと浮かぶでしょうが、僕がそれに答える義理も義務もない。と言うわけで楽しかった舞台もこれで終わり。それではかぐや姫、僕とあなた、二人で話をできますか?お願いのことでお話があります」
「―――分かりました。皆さん。申し訳ありませんが全員外に出ていてくれませんか?」
反発があるだろうと思っていたが、案外素直に全員出て行ってくれた。
と言うより…まだ体が震えている。さっきのアイツが口に出した技――『サビクなんとか』で目が光った瞬間だ。その瞬間に「目の前の存在に逆らってはいけない」と言う言葉が本能から発せられた。
それより―――、
「……もう、いないわよね?」
「えぇ。他の奴等には聞こえない。猫を剥がしても、なにも問題ないはずさ」
姿勢を崩し、右足を立てて右腕を膝に乗せる白服。
「信用して、いいの?」
「今ここで君の本性がバレることは、僕にとっても都合のいいことじゃない。だから、心配しなくていいさ」
「そう…分かったわ。それじゃあ今度こそ聞かせてもらおうじゃないの。あなたの目的を!」
ついに知ることができる。こいつが何者で、なにを目的として私に近づいたのか――!
「それを言う前に、まず君が多分誤っているであろう情報を抜き取って、補填することから始めようか」
「補填?どういうこと?」
「まず三年前だ。龍が襲撃してきた際、僕は自身の能力で君の記憶を見た。だから君の正体を知っている。君はそれで自分の中で自己完結して一つの疑問を解消した――これで合ってるね?」
「言い方ムカつくけど、一応合ってるわ。それが、どうかしたの?」
「やっぱり、勘違いしてるね、君」
「はぁ?」
勘違いって、なんのことよ。
非常にムカつくしイラつくけど、こいつが能力使って私の記憶覗いたってなら、私の正体知っているのにも説明つくし、それのどこが勘違いだって言うのよ。
「そもそもさ、君が僕らを認識することになった要因である『合言葉』がなんだか知っているかい?」
「『合言葉』って――臘月……ッ!」
「やっとか」
そうか!あいつは当初から月の民でしか知ることのできない【綿月臘月】のことを知っていた!つまり、記憶に関する能力を持っていることが本当だとしても、私の記憶を見たと言うのは完全な私の勘違い…!
なんでこんな単純なことに気付かなかったのかしら。
「そう、僕らは最初から【綿月臘月】と言う存在を知っていた。それはつまり、君と出会う前から『月の民』について知っていたからさ」
「じゃあ、やっぱりあんたたちは…!」
「だから、僕らは『月の民』じゃない。何度言ったら分かるのかなぁ?」
「だったら、なんだって言うのよ!?」
「―――『復讐者』」
――えっ?
「今、なんて…ッ」
「聞こえなかった?僕は――『俺』は、臘月に、復讐する」
「復讐って…一体、アイツが何をしたの?」
復讐なんて物騒な単語が出て、私の脳内活動はフリーズした。
アイツが、復讐されることなんて――いや、ある。あいつ月でも素行悪いし。何回かしか会ってないけど、碌なヤツじゃないってこと、クソ野郎だってことは十分熟知している。
普段は猫かぶってるけど、碌なヤツじゃないことは分かり切ってる。私の予感はただしい。うん、アイツは復讐されていいと思う。
と、ともかく、今はコイツの動機を知らないと。
「そうだな…せっかくだし教えてやる。臘月は、俺からあまりにも大事なヒトを、奪っていった。その人は…俺にとってかけがえのない大事な人だった。やっと、ようやく見つけたんだ。だけど…もうそれは、アイツに何もかも奪われていた後だった」
「――――」
「だから俺は、もう一度月に行ってあのクソ野郎を完全にぶっ殺す。それが俺の目的だ」
臘月…私が知らないところでそんなことしてたの?
こいつはもう一度月に行くと言った。つまりは一度行ったことがあると言うことだ。そこで何らかの形で私のことを知った…。それで、もう一度月に行くために、私に近づいたってことね。辻妻は合ってる。
「理屈は分かった。理由も分かった。私は月にもアイツにも情なんて持ってないから、アナタがアイツをどうしようがどうでもいいんだけど…どうして私に近づくことが月に行くことに繋がるの?」
「――前に月を襲撃した際、資料室らしき場所で、償いが終わったからそろそろお前を連れ帰るって言う資料を見つけてな」
「ッ!?それ、本当!?」
「嘘だったら、わざわざ近づく必要がない」
嘘でしょ…!まさかそんな計画があったなんて!?
連れ戻されるなら、わざわざ
地上人じゃ、月の民に太刀打ちできない――そう、普通ならば。
「それじゃあ、あなたがここにいるってことは、並大抵の奴等よりは強いって認識でいいの?」
「そんな当たり前の質問、答える意味、あるのかなぁ?」
「―――そうだったわね」
空真ですら勝てない龍神を相手が本気を出していないとはいえ勝った相手だ。並大抵の月の民ならば圧倒できるだろう。
「つまりまとめると、アナタたちの目的は臘月への復讐。そのために私を利用するってことは―――」
「そう。お前が帰るであろう乗り物を奪い、俺達が月へ行って、臘月をぶっ殺す。これが今考えている俺の計画の全貌だ」
「なるほどね…。だったら、わざわざあんな回りくどい方法じゃなくて、直接私に言ったら良かったのに」
「なーに言ってんだ。直接言ったって信用しなかっただろ。何のために五つの宝物取ってきて、龍神に喧嘩吹っ掛けたと思ってんだ」
あー確かに、初対面でそんなこと言われて、信用するほど私もバカではない。むしろ初対面でそんなこと言われたらなにか裏があるんじゃないかと全力で警戒する。
私の信用を得るために、わざわざ五つの宝物取ってきたり、龍神の喧嘩売って―――ん?
「ちょっと待って?龍神に喧嘩売ったのって、価値と実感なんて馬鹿げた理由だったんじゃないの?」
「ハッ、そんなんで龍神相手に喧嘩売るバカがどこにいるよ。そんなの嘘に決まってんだろ、お前の考えを都合よくさせるための」
「嘘ッ!?じゃあ本当はなんなの?」
「そんなの、俺の強さを知ってもらうためさ。圧倒的力ってのは、良くも悪くもあらゆる者への抑止力となる。だから、知ってもらった方がいいかなってさ」
あーそういうことね。
力を見せつける相手に、龍神以上に適任がいなかったと―――いやいるでしょ!もっと他のが!
いくら力を見せるためだからと言って龍神はない!それだけは断言できる。
いや、結婚するの嫌だったから、【龍の頸の玉】を依頼した私も私だけどさ!
「もう、笑わないわよ」
「笑ったら殺す。永遠に」
「あっさりと怖いこと言うのやめなさいよ!」
「いいだろ、別に。さて、話を戻すけど、そろそろ月の方から迎えが来るはずだ。それを奪って俺たちは月に行く。麗し(笑)の輝夜姫のご到着だ。これ以上の油断はねぇだろ」
「ちょっと!なによ麗し(笑)って!?完全に私のことバカにしてるでしょ!?」
「してなきゃこんなこと言ってねぇよ」
「やっぱあんたムカつくわ…」
(笑)を入れるなんて、良い趣味してるじゃないコイツ…!今度絶対なんらかの形で仕返ししてやる!
「さてと、これで俺の目的は大まかに全て話した。―――それじゃあ、これで『僕』はお
こいつ…!一瞬で化けの皮を貼りやがった!どんだけ面の皮厚いのよ。
「それじゃあ―――あ、そうだ言い忘れてた。その資料の中のお迎えメンバーに【八意永琳】の名前もあったから」
「―――ッ!」
「本番よろしくねぇ~」
手をヒラヒラと動かしながら、退室していく白服。
そう…永琳が、ここに来るのね。ならば、やることはただ一つ。
「はぁ……これから、大変になりそうね。今まで以上に、デンジャラスで、スリリングなことが、起こりそうな気がして止まないわ…」
―――後に、私のこの予感は当たることになる。
一つの単純明快な計画が、複雑怪奇なモノへと変貌していくことを、私はまだ知らない。
* * * * * * * *
「ようやく…この時が来たか」
シロはそう満足げに屋敷を後にする。
途中、屋敷の使用人や陰陽師たちに向けられた奇怪な目をすべて無視して。
一番の難所だったかぐや姫への対処も完了だ。
嘘と言うのは、本当の中に嘘を混ぜるのが、一番バレにくい方法だ。今回もその方法で相手を完全に誤魔化した。
「三年間…練りに練った計画が、ついに実を結ぶときがきた。これで心置きなく月に行ける…。これで心置きなく臘月を殺せる準備も整った」
三年間、シロは奔走した。自分の計画を、より確実に、完璧に近づけるために。
だが、そう言った完璧な計画ほど、一つの歯車がずれることで全てが瓦解することになる。だから、完璧すぎるのも危険だ。今回のような、何が起こるか分からないこの状況では。
だからこそ、練りに練った計画が必要だった。
「三年と言う時間、何もしてなかった訳がないだろ。しかし、まだ不安もある。僕の方も予想外がかなり舞い込んで、摩訶不思議な不確定要素が残っているが、今はそれを気にしている場合じゃない」
すべては
「零夜と紅夜には権能に覚醒してもらわないと、話にならない。それに、嬉しい誤算もあるしね。まさかだったよ、本当に。常識が覆った。まぁ、常識が通用しないのが、『この世界』だし、特に気にすることはないか」
基盤も整った。準備も整った。あとは―――、
「あとは出し惜しみなく、全力で敵を潰す。だから…どうか、『俺』の期待に応えてくれよ、零夜」
不適な笑みで、そう呟いた。
これで、終わりました!次回は三年後で、本格的に始まります!
さてさて、今回気になったのは龍神のシロの呼び方『陰の使途』ですね!使徒と言えば神の御使い。かぐや姫もそれを察したが、気のせいと切り捨てる。
でも、もしかして…。
そして、軍の責任者である陰陽師の男の人!陰陽師組合の組合長が兄であることが発覚!そして弟は貿易の責任者。今考えると凄い一族ですねぇ。
さらに、その一族が信仰している『無銘の神』。それと『陰の使途』がなにか関係がありそうで。
そして、シロの最後の意味深な言葉の意味とは?
ドキドキワクワクな展開が止まらない!
次回をお楽しみに!
シロの声イメージCV
当初 【下野紘】
女の声 【鬼頭明里】
野太い男の声 【松岡
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