東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 どうも、悪正記投稿できました。
 いやぁ、どんどん戦いが激しくなっていきますよ…。

 そして、とある報告をしたいと思っております。

 なんと、『タケトリモノガタリ』が完全に完結した暁には、『旧東方悪正記』を再び閲覧可能にしようと思っております!
 改正前と改正後、一体何が違うのか?(かなり違ってますけど。今回はかなり凝りましたけど)比較してみてください!

 ただぁーし。本当は『旧式』の方を新しく改稿しようとしていたので、1~4話までは『新悪正記』と全く同じ内容なので、そこら辺は悪しからず。


 それでは、どうぞ!


65 絶望までの5分間

 刃がぶつかり合い、火花が散る。

 刀が真上から振り下ろされ、左手の短剣がそれを止める。すかさず右手の短剣が依姫へと襲い掛かる。

 

 

「―――ッ」

 

 

 体を逸らすことによってその攻撃を避け、刀をそのまま真正面へと突き刺した。

 

 

「残念ッ」

 

 

 左右の短剣で刀の刃を挟み込み、強烈な腕力によって動かせないようにする。いくら強くとも、腕力の差は歴然で、依姫は刀を動かすことができない。

 すかさず依姫の腹に蹴りを入れ、それがクリーンヒット。依姫その衝撃で後ろに後退しながら口から液体が漏れ、悶える。

 

 

「ぐ…ッ」

 

「依姫様ッ」

 

 

 依姫は腹を抱えながらシロを睨みつけ、そのまま立ち上がる。後ろからレイセンが心配するように小さな声で依姫を呼んだ。

 

 

「心配いりません。少し…油断してしまっただけです」

 

「―――40秒」

 

「……なに?」

 

 

 

 突如そう口にしたことによって、依姫の思考はその言葉の意味を理解するために思考が全力で動き――やがて、その意味に到達する。

 

 

「お前…まさか…!」

 

「言ったでしょ?5分だけ付き合うって。どうする?あともうすぐで残り4分になるよ?」

 

 

 そう言うシロの言葉に、嘘偽りはない。本気でそう言っているのだ。それを感じ取ると、依姫は戦士として、剣士としてのプライドを踏みにじられたような感覚に陥った。

 事実、戦場で時間設定と言うのは、相手を侮辱している以外に他ならない。

 

 

「舐めるな!私を侮辱したこと……後悔するがいい!」

 

後悔ならし飽きた。余程のことでもない限り、するつもりはないね!」

 

 

 短剣を地面に落とし、深緑色の粒子となって消失する。すると今度は蒼く輝く槍が粒子が重なって生まれる。

 それをブンブンと振り回し、構える。

 

 

「――1分ジャスト。まだまだ時間はあるよ!」

 

「舐めるな!!」

 

 

 二人同時に、攻撃が炸裂する。ぶつかった瞬間に衝撃波が生まれ、互いの体が後方へと飛ばされる。

 

 

「くッ、ならば!」

 

「―――」

 

風神様、私に力を!」

 

 

 綿月依姫が――神の力を使った。使った神は『風神』。その名の通り風を司る神である。

 依姫の体に、神力が纏わりつくと、それと同時に周りに暴風が発生する。

 

 

「はぁッ!!」

 

 

 刃を振るうと、斬撃に風が纏わりつき地面を斬り裂きながらシロを襲う。その攻撃をシロは空中で華麗に避けながらも、次々に二撃三撃と斬撃が襲い掛かってくる。

 

 

「――1分16秒。風の刃で攻撃。単調だけど良い攻撃だ。でも―――」

 

 

 斬撃の嵐を掻い潜り、次の斬撃が来る最中(さなか)の一瞬、シロは蒼く輝く槍を構えると、槍先に蒼色のエネルギーが槍の形となって固まっていく。

 それをそのまま突き出すと、巨大な槍型の蒼いエネルギーが解き放たれ、風の斬撃を全て霧散させて依姫に向かって行く。

 

 

「―――ッ!」

 

 

 風神の力で風を纏い、後方へとジャンプして攻撃を避ける。だがしかし――、

 その後ろには、傍観している兵士や玉兎たちがいた。

 

 

「しま――ッ」

 

 

 このままでは後ろの部下たちに当たってしまう。その心配と懸念が依姫の心の中で満たされた瞬間―――攻撃が曲がった

 不自然な形で軌道を歪曲させた槍型エネルギー体は、空中で孤を描きながらそのまま依姫の頭上へと向かって行く。

 

 

「追尾弾…小癪な!」

 

 

 そのまま風の力で跳躍し、叫ぶ。

 

 

火雷神(ほのいかづちのかみ)!私に力を!」

 

 

 依姫の刀に、七頭の炎の龍が顕現し、それがまとまり一匹の獄炎の巨龍へと変化する。

 巨龍と槍が上空で衝突し合い、強烈な爆発を生み出した。黒く輝いていた空が、一瞬赤く変色した。

 

 

「――――1分39秒」

 

 

 そうポツリと、空を見上げていたシロが呟く。

 すると、爆発の中から依姫が降ってきて、着地する。

 

 

「はぁ…!」

 

「神の力もこの程度か。まだ一分半しか経ってないのに、ひ弱過ぎない?」

 

「なんだと…!」

 

「あ、伝わらない?神の力が弱いのか、君が未熟故に本来の力が発揮できていないのか。その選択が難しいんだよ」

 

「戯るな!」

 

 

 何度も依姫の逆鱗に触れる度に、フードで隠れているシロの口元がニヤリとなる。ここまで、易々と挑発に乗ってくれるなんて!シロは歓喜する。だがしかし、喜んでばかりはいられない。

 依姫がここまで挑発に乗ってくる理由は、月で起きているあの事件が理由だろう。だからこそ、依姫の精神は今安定していない。

 

 

「不都合が、今だけ好都合になるとは、なんとも皮肉なのかねぇ…」

 

「なにを呟いている!油断は…命取りだぞ!」

 

 

 その瞬間、シロの真上から強力な落雷が発生する。そう、炎雷神の攻撃は終わっていなかった。名前の通り、この神が司るのは『炎』と『雷』。先ほどの攻撃では『炎』しか使っていなかった。本命は、『雷』だった。

 さらにシロが今持っている武器は槍。避雷針として運用もできたため、都合が良かったのだ。

 

 

「神を侮辱したこと…神の怒りに焼かれて悔いなさい」

 

 

 爆発音にも似たような強烈な音ともに雷は着弾する。シロを包み込み、周りに熱気をまき散らしながら、中心にいるシロを跡形もなく焼いていく、だろう。

 だが、

 

 

「―――んー、これじゃ電気マッサージにもならないなぁ」

 

 

「な、に…ッ!!?」

 

 

 雷が、霧散して、当たり一帯に散る。その中心には、全くの無傷のシロの姿がそこにあった。その現実に、依姫は絶句するしかなかった。神の怒り(いかづち)が全く通用しないなんてこと、今までなかった。

 それなのに、本人に効いていないどころか服すらノーダメージだ。もう、笑うしかない現実がそこにあった。

 

 シロは服の埃を払うかのような動作をして、一服。

 

 

「――2分18秒。最近マッサージとは無縁だったから、長く浸かってみたんだけど…時間の無駄だったかなぁ」

 

「そんな…。貴様は、一体何者、なんだ!?」

 

「あ、それ聞いちゃう?……普段なら『ただの地上人』って答えちゃうけど、まだ時間あるし、今回は特別に――」

 

 

 瞬間、シロの雰囲気がガラリと変わった

 

 

『僕』の名前はシロ!そして、『僕』と『俺』の肩書は――『復讐者』だ」

 

 

 高らかに宣言をした『僕』――シロは笑う。その笑いに、周りは疑問と疑惑に包まれた。そして、すぐに言葉の意味を理解して、侵略者がどのような目的で月に来たのかを、知ることとなった。

 

 

「復讐…。なるほど。それがあなたたちが月へ来た理由…。誰を、殺すつもりですか?」

 

「そこまで言う訳ないでしょ。目的を知れただけでも、君等にとってプラスのはずだ」

 

 

 そう淡々と述べるシロに、依姫は一旦黙り、ならばと次の口を開き――、

 

 

「依姫様、こんなんじゃ駄目ですってば」

 

「そうですよ。こういうのは徹底的にやらないと。無理やりにでも吐かせるべきです。拷問とか、ね」

 

 

 兵士たちの奥から、特徴的な二人の男の声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、辺りがザワッと、雰囲気が変わり、兵士と玉兎は顔を青ざめるものが大勢出てきた。

 そして、依姫でさえも嫌悪感を露わにしていた。

 

 その、人物は――、

 

 

「【クリューソス・アウルム】、【アンモス・サブルム】…」

 

 

 ヘプタ・プラネーテスの『金』と『土』の席の人物。【クリューソス・アウルム(砂金)】と【アンモス・サブルム(逢土)】だった。

 

 

「あれ、なんで侵略者が俺達の名前知ってんの?」

 

「あー情報を漏らしたんだよ、八意永琳が罪人と一緒に地上に逃げたって情報に入っていただろ?」

 

「あぁ、そうだったね。本当に、裏切者ってのは卑しいよね」

 

 

「―――ッ!!」

 

 

 その言葉を聞いて、依姫の唇から血が垂れる。強く噛んでいて尚且つ、その言動に怒りが湧いている証拠だ。

 ちょうどこの時、豊姫もプロクスたちの言葉で唇を噛んで血を流していた。

 

 だが、その雰囲気をぶち壊す男が一人。

 

 

「――3分。あと二分だ、早くしてくれないかな?」

 

「―――お前さぁ、通信で聞いていたが、俺達や依姫様を侮辱しているのか?」

 

「本当にそうだよね。依姫様や僕たちに失礼だと思わないのかい?」

 

「君等の社会的地位なんて僕は興味ない。さっさとかかってきてくれないかな?雑魚が二匹、増えただけだし」

 

 

 そのあからさまな挑発に、クリューソスとアンモスは激怒し、怒鳴る

 

 

「言ったな!その言葉、後悔させてやる!!」

 

「俺達を雑魚呼ばわりとは、許せない!」

 

 

 クリューソスは大量の武器を召喚し、剣、槍、矢などが宙に浮き、アンモスの周りに砂が浮きシロを捉える。

 

 

「喰らえ!」

 

 

 最初に動いたのは、アンモスだった。アンモスは腕を振るうと、突如としてシロの周りの砂が浮かび上がり、旋回して――超強力な竜巻へと変化した。

 まず最初に言って置くが、アンモスの能力は風を操る能力ではなく、砂を操る能力者だ。その能力を使い、砂嵐を巻き起こしている。砂粒が高速で回転し、相手の心身を物理的に抉ると言う恐ろしい技だ。しかし――、

 

 

「―――フッ」

 

「なにッ!?」

 

 

 無傷の状態で、傷一つ負っていないシロが砂嵐の中から飛び出し、右手に巨大な突出武器――パイルバンカーを装備した状態でアンモスに強烈な勢いで突撃する。

 

 

「させるか!」

 

 

 すかさず、クリューソスが目の前に金属の壁を作った。

 

 

「そのまま自分のスピードで潰れ――」

 

 

 そう言いかけた瞬間、金属の壁はシロと衝突したと同時に砕け散った。そして右手のパイルバンカーの杭が浮き出ており、あれで壁を破壊したことが確認できた。

 

 

「ならば!」

 

 

 ああいった武器は、再使用にインターバルが必要だ。この一瞬の間に解決策を思い浮かべ、今度は何重にも金属の壁を作った。それに、今度はより頑丈な金属を使って、だ。

 

――だが、それも無意味に終わり、横に一直線だったシロの体は、突如として風を纏い勢いを無理やり殺して上昇した。

 この一瞬で、だ。右手のパイルバンカーを消失させ、今度は銀に輝く弓矢を取り出し、引き絞った。それと同時に、虚空からシロの周りを囲むように銀の矢が出現し、クリューソスとアンモスを捉える。

 

 

「な――ッ!!」

 

「そんな…ッ」

 

 

 弓の弦が、手から離れる。複数の矢が一斉に二人を貫かんと放たれた。二人はそれぞれの防御形式をとるが、銀の矢はそれを軽々と貫き、二人の関節、手首、足首、肘、膝、動けなくなるような場所を重点的に貫いていき、二人は血を流して倒れる。

 

 

「「「「「――――」」」」」

 

 

 ヘプタ・プラネーテスが圧倒言うまに倒された。その事実に、周りの兵士や玉兎は言葉が出なかった。それと同時に感じた。

 目の前の侵略者は、自分達がどうあがいても勝てる存在でないと。その、唯一のこの場にいる希望(依姫)も――、

 

 

「―――」

 

 

 唖然としている。依姫としても、あの事件に巻き込まれてから性格が変わってしまった彼らを毛嫌いするようになったが、実力は自分には及ばないとはいえ認めていた。そんな彼らが、一分もしないうちにやられた。

 そして認めるほかない。目の前のこの男は、想像を絶する化け物だと―――。

 

 

「―――3分54秒。結構時間食ったかな?」

 

 

 そう平然と言葉を口にする男に、もう怒りどころか、焦燥しか感じない。この男は、最初に見せた態度の通り、自分との戦いは遊びでしかなかったのだ。

 それを思うと、再び怒りが湧いてくる。しかし、その感情が自分を失わせると自覚し、自制する。

 

 いくら強かろうが、自分は月の使者のリーダーの一人。ここで、引くわけにはいかない。

 

 

「4分だ。後1分。遊んでくれるよね?」

 

「―――愛宕(あたご)様!!私に力を!」

 

 

 依姫は、愛宕の力を借りて、自身の腕を炎と化した。「地上にこれ以上の熱い火はない」と言わしめるほどの、強力な炎だ。

 炎の腕で刀を持ち、全体に炎を行き渡らせる。シロに接近して、燃え盛る刃で何度もシロに斬りかかる。

 

 

「よっ、ほっ、はっとぉ」

 

 

 だが、気の抜けた掛け声とともにその攻撃はいなされる。―――生手によって。

 手袋をしているとはいえ、この炎とは強力な火だ。手で触って無傷で済むはずがない。しかし、この男はそんなこと気にせず、と言うか気にしていないように自分の手で攻撃を無効化していった。

 

 

「あと40秒。本当にやる気あるの?」

 

「うるさい!!天津甕星(あまつかみぼし)様、私に力を!!」

 

 

 天津甕星(あまつかみぼし)――それは星の輝きを用いた力を使う神。輝き――光による圧倒的熱量。そして光特有の素早さ。

 二つを掛け合わせた剣技を炸裂させる。が、しかし、その攻撃すらもめんどくさそうにシロは避けた。――ポケットに両手を入れながら。

 

 

「あと30秒。遅すぎるっての」

 

「ウグッ!!」

 

 

 ポケットから出した右手の指で高速で動く刃を受けとめられ、少し離れた地面に投げ跳ばれ、叩きつけられる。

 これでも、駄目なのか。速度も駄目、熱による攻撃も駄目。ならば、もうこれしかない。

 

 

祇園(ぎおん)様…あの男に、鉄槌を!!」

 

 

 依姫が地面に剣を刺すと、シロの周囲に無数の刃が突き出て取り囲んだ。

 

 

「――――」

 

 

 それに動じることなく、無言で周りを見渡すシロ。

 脱出口を探しているのかと思った依姫は、忠告する。

 

 

「無暗に動かないことです。下手に動けば、祇園様の怒りを買いますよ」

 

「――――」

 

 

 それを聞いても、シロは無言だった。と言うか無視していた。無視して、シロは懐から手のひらサイズの時計――懐中時計を取り出して、じっと見つめる。

 

 

(まさか、この状態でも5分と言う時間を気にしているの?どれだけ傲慢なのか…。祇園様の怒りで、破られるといい!)

 

 

 自分を何度も侮辱したこの男。自然系の攻撃も聞かないとなれば、もうこれに臨みを賭けるしかなかった。そして――5分が、経った。

 

 

「5分だ。もう遊んでいる理由もない」

 

「まだ、そんなことを―――」

 

祇園、この檻どかせ

 

 

 そう無造作に無機質に、『祇園』に命令した瞬間、刃の檻が地面の中に戻っていった。

 この謎現象に、困惑する月人たち。それに、何より困惑しているのは術者の依姫だった。

 

 

「そんな…バカな…!?祇園様!?祇園様!?」

 

「無駄だよ。祇園は君より僕の命令を優先したんだ」

 

「そんな、ことが…!?」

 

 

 依姫は愕然とする。自分に力を貸してくれている神が、目の前の男を優先したことによる、一種の絶望。裏切られた感覚に、依姫は動揺する。

 

 

「ならば、火雷神様――」

 

火雷神、綿月依姫に力を貸すな

 

 

 一瞬、溢れてきた力がシロの言葉によって瞬時に途切れてしまった。これも、先ほどの祇園と同じ感覚だ。神の力の供給が、突如途絶えたこの感覚、自分の傍から大事な誰かが消えていなくなってしまうような、そんな悲しい感覚―――。

 そんな感覚が、依姫の脳天を襲った。

 

 

「あ、あぁ……!!」

 

「分かった?君は、俺に勝てる道理なんて、最初から、微塵もなかったんだ。悲しいけど、これが現実だ」

 

「認めない!!愛宕――」

 

愛宕。お前は出てくるな

 

 

 また、自分から離れて行った感覚が襲った。行かないで、見捨てないで、置いていかないで――。そんな不安の感情が、依姫の中でどんどんと肥大化していき、増幅していく。

 まるで、帰省した際に大好きなおばあちゃんと、実家に戻るために離れ離れになってしまうような、子供だ。今の依姫は、まさにそれだった。

 

 

「そ、そんな…ッ」

 

「悲しいだろう?辛いだろう?大切な誰かと、二度と会えなくなるような、そんな感覚。君はこの短期間に()()味わったはずだ」

 

「―――ッ!」

 

「でもね、――『俺』は、そんなの何度も何度も、味わってきた。そして、ニ度と会えないと思った人に会えた。それは奇跡だった。でも―――()()()が、それを奪った」

 

「あの男…?」

 

「あいつは、『俺』と『僕』の、大事な仲間を奴隷のように扱うだけではなく、『俺』と『僕』の大事な仲間を盾にして、他でもない、『俺』自身の手で殺めてしまった!!」

 

「―――ッ!!」

 

 

 そうか、そういうことか――。

 依姫は、この男の言う『あの男』が誰なのか、分かった気がした。自分の身内で、狡猾で自分本位で傲慢で強欲で不誠実で不作法で無慈悲な男が。

 無論、他にも候補がいるだろう。例えば、【ウラノス・カエルム】と人が変わってしまった『空真』など、候補に十分当てはまる。

 だが、人と言う愚かな生き物は、自分の憎い相手の親族でさえも、まるで肉親の仇のような眼で見る。それと同じで、目の前の男も、自分が制御できないほどの、怒りにまみれているのだ。

 

 

「まさか…あなたの、復讐対象は…」

 

「あぁ…気づいたんだな。せっかくだ、教えてやるよ」

 

 

 『僕』―――シロは歩いて、悲しみのあまり膝をついてしまっている依姫の目の前まで移動して、こう言った。

 

 

『俺』の復讐対象は、【綿月臘月】だ。臘月は今、どこにいる?」

 

 

 その瞬間、周りが騒めく。周りは、「まさか、あのお方が…!?」「ありえない!」「でたらめに決まって…」と兵士たちから懐疑的な声が、「でも、そのくらいの理由がないと…」「じゃあ、やっぱり臘月様が?」と、玉兎たちから肯定的な声が聞こえてくる。

 

 

「外野がうるさいな。周りの意見なんてどうでもいいんだ。とりあえず、君は連れて行くことにするよ。ここじゃ、いろいろとうるさいんでね」

 

 

 シロは半場放心状態の依姫を担ぐ。その状態を目の当たりにした兵士や玉兎たちが、正気に戻り、依姫を取り返さんと躍起になり、近接武器を手にシロに襲い掛かる。

 

 

「―――あぁ、そう言えば君も忘れてたな」

 

 

 シロは瞬足で移動して、まるで瞬間移動のようなスピードで目の前の長身の玉兎――レイセンの腹をもう片方の拳で殴る。

 

 

「ウグッ!!」

 

 

 強烈な腹パンで意識をなくしたレイセンは、『カハッ』と白い液体を口から吐き、気絶する。そのまま依姫とともに担いだ瞬間、オーロラカーテンを召喚して、その場から消え去った。

 

 

――月の時代で、類を見ないほどの、綿月依姫の大敗北が、ここで決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん……?うッ」

 

 

 腹への激痛と共に、レイセンは目覚める。一体自分は―――そうだ。あの男に、連れ去られたんだ。依姫とともに。

 何故自分も連れ去られたのか、分からないことだらけだが、とりあえず今はこの場所の確認だ。レイセンは辺りを見渡す。

 

 波のせせらぎと、生い茂る桃の木。ここは―――、

 

 

「豊かの海。その名の通り、とても美しく豊かな海だ」

 

「―――ッ!!」

 

 

 後ろから聞こえた、綺麗な女性の声。だが、その声を自分は知らない。知らないからこそ、レイセンはすぐさまに反応した。

 そして、その後ろに居たのは、岩に尻を持ちかけているシロだった。その隣には、気絶している依姫の姿も。

 

―――豊かの海。波の静かな大洋で、日中でも大きな地球を見ることができ、海岸沿いには桃の木が茂っている海だ。

 そして、『原作組』がいずれロケットで降り立つ場所でもある。

 

 つまり、この場所は豊かの海の海岸沿いにあると言うことだ。 

 

 

「依姫さま!!」

 

「おっと、動かないでね」

 

 

 瞬間、先ほどと同じように認識できないスピードで自分に近づいたシロは、短剣をレイセンの喉元に突き付ける。

 

 

「―――ッ!」

 

「安心しな。死んではいないさ。それよりも―――「君は今、疑問に思っているはずだ。どうして自分が連れてこられたのかと」

 

 

 途中から、シロの声が女性からさっきの男性の声に変わる。

 

 

「声が…!?」

 

「あぁ、これ?これは僕の『才能』である『変声』だよ。結構使えるんだ。凄いでしょ?まぁなに言ってるか分からないと思うけど」

 

 

 実際、この男の言っている意味が分からない。それよりも、どうして自分を連れてきたのかが重要だ。戦闘態勢に入りながら、話を聞くことにする。

 と言っても、喉元にナイフを突き出されている以上、抵抗できるかどうかも怪しいが。

 

 

「それで、君を連れてきた理由だけど、君が一番臘月に近い玉兎だからさ」

 

「臘月様に、近い…?」

 

「君はそこに転がっている綿月依姫のペット。つまり、なんらかの理由で臘月に会えた時期があってもおかしくはない。つまり、君を連れてきた理由は臘月について知るためさ」

 

 

 そういうことか…。確かに、自分は依姫の部下(ペット)だ。そう考えるのは当然だ。だからと言って、そう簡単に喋るほど、自分の忠義は甘くはない。

 

 

「私が、喋るとでも?」

 

「別に、そこには期待していないさ。だから、ね?強硬手段になるけど……こうするしかない」

 

 

 シロは再び一瞬で依姫の元まで移動して、その頭を鷲掴みにする。すると、シロの手から淡い水色の光が差し込み、その光が依姫を包み込んでいく。

 

 

「その手を放せ!」

 

 

 依姫が攻撃されたと思ったレイセンは、飛び出してシロに襲い掛かる。が、その攻撃は躱され、逆に首固めを喰らった。

 

 

「さぁ、どうする?もう一度聞くよ。臘月について知ってることを全部話せ」

 

「わ、分かった…!分かったから!全部、話すから!依姫様を、助けて!」

 

「うん、良い返事だ。その話を―――『俺』に聞かせろ」

 

 

 シロはレイセンを解放し、依姫から手を放して光を中断させる。――身に纏う雰囲気を変えながらも。

 レイセンはシロを勇気を振り絞り睨みつけながらも、知っていることを全部話した。

 

 

「臘月様に会ったのは、実際に、偶然の一回だけ。あの方の波長を見たけど……あれは次元が違った。豊姫様や、依姫様を凌駕するような、本物の化け物って言っても、差し支えなかった」

 

「あぁ、それくらいは知ってる。一度戦ったことがあるからな。あいつの力は、あの女以上であることは確かだ。だからこそ、同じステージに立つ必要があった」

 

「同じステージって……―――ッ!!あなたの、それって…!!」

 

「あ、波長見たんだ。臘月と同じだろ?僕のこれは、言うなれば『思い』の力さ。『思い』が、僕を強くした」

 

 

 レイセンはシロの波長を読んで、感じた。この男も、臘月と同等の化け物だと。自分が逆立ちしても、決して勝てない相手だと。

 依姫に圧勝した時点で、その力は立証済みだったのに、怒りに任せて攻撃した。どれだけ、自分が無謀なことをしていたのかを思い知る。

 

 

「それで、君は臘月を見た際、どの様に感じた?」

 

「―――臘月様は、私と出会った時、何故か恐怖の波長を出していた。臘月様の方が強いのに……どうしてなのかって、疑問に思ってた」

 

「―――恐怖の波長?」

 

 

 あり得ない。あの、死ぬ間際まで自分の敗北を認めないで『死ぬ恐怖』よりも『敗北への怒り』が勝さった男が?恐怖を感じた?

 だが、逆にレイセンが嘘をつく理由にもならない。

 

 

「……それは、本当なのか?」

 

「この状況で嘘をつけるわけがないでしょ」

 

「本当に、臘月が『恐怖』を抱いていたのか?お前如きに?」

 

「嘘じゃない。自慢じゃないけど、私の波長の感知能力は玉兎随一なんです!それを見込まれて、私は依姫様の部下に―――」

 

「ペットに、だろ?」

 

 

 シロのムカつく補足に、レイセンは内心怒りながらも話を続ける。

 

 

「――ペットになりました!それからは…説明する間でもなく、普通な毎日でしたけど…あの事件が起こって――」

 

「あ、そこは省略で」

 

「えっ!!?」

 

「もう永琳からその話は聞いてるしね、同じ話を二度も聞く趣味はない」

 

 

 再び、レイセンを怒らせるシロ。だが、その怒りを無視して、終点へとたどり着く。

 

 

「なるほどね。臘月が君に―――いや、『玉兎』にと考えるべきかもしれない。ともかく、恐怖を抱いていたと言う情報は、値千金だ…!」

 

「もう、これでいいでしょう…?」

 

「あぁ、十分だ。でもその前に――」

 

 

 シロは頭に二本指をつけると、なにやらブツブツと話し始めた。所々で、「零夜、――して、――キングして」など「――ンを創っ―。」など「創ったド――をにつなげて」と聞こえた。もしやと思い、能力を使って波長を可視化できるようにする。

 すると、レイセンの目に見えたのはシロの頭を起点に、とある方向に伸びている赤い糸が見えた。

 

 そして、その糸が指す方向は――、

 

 

(あそこは、月の都の方向…)

 

 

 あそこに、通信相手のもう一人の敵がいるのか。玉兎同士は『テレパシー』の能力で繋がっており、どんなに離れていても耳から特殊な波動を発して会話が成り立つと言う仕様だ。

 ちなみに、その性能にも差があり、レイセンははっきりと聞こえる。

 

 

(とりあえず、今の近況を仲間に伝え―――)

 

 

 その瞬間、自分の首を距離を一瞬で詰めたシロに捕まれた。

 

 

「ウグッ!!」

 

「ダメだなァ。そう言うのは、僕がいないところでやるのが、もっと賢い方法なんだけど」

 

「―――」

 

「でも、君はもう用済みだ。あとは彼女を連れて行くなりすればいい―――」

 

 

―――突如、ハッとしたシロは、力がなくなったようにレイセンを解放した。なにか思い詰められたような、そんな表情をしている。(顔は見えないが)。

 

 

「―――?」

 

「嘘、だろ…?万が一のことを考えて、今出せる力の全力で結界を張ったってのに……それが――!!」

 

 

 レイセンはこの男の言っている意味を理解できない。それでも、一つだけ、確かなことがあった。

 

 

(今、この男にとって、予想外の出来事が起きてるってこと…?)

 

「クソっ!零夜、緊急事態だ!悪いけど、一度地上に戻る!!すぐに戻るから!!」

 

 

 再び虚空に叫び、シロが手を振るうとそこにオーロラカーテンが出現し、シロはその中に消えて行った。

 

 

「なんだったの…?ッ!とりあえず依姫様を運ばないと!!」

 

 

 レイセンは今だに気絶している依姫を担ぎ、豊かの海を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

―――場所は変わり、思い出の場所へ。この場所で何度も夜を明かし、朝日を浴びた場所だ。

 そして今、この場所に居るはずの人物を探すために、シロはわざわざ地上に戻って来た。

 

 

「――妹紅ちゃ…!!」

 

 

 その人物――妹紅の名前を呼んだ瞬間、シロは硬直した。

 

 

「――――」

 

「――あ?なんだお前?」

 

 

 シロが見た光景は、見知った人物の足元に、()()の妹紅が倒れていると言う光景だった。

 黒かった髪が、老人のように白くなっている。あの白髪は、何度も観て、何度も知っている姿―――蓬莱人の姿だった。

 

 そして、その見知った人物の手には、カラの瓶が握られており、そこから残りカスであろう液がチョピチョピと垂れている。

 つまり、妹紅は誰もいなくなった後、この人物に無理やり、『蓬莱の薬』を飲まされたことなる。――シロが今出せる、全力の防御結界を破壊して。

 

 そして、そんなことを出来る人物は、同じ『権能』持ちしかいない。

 

 だからこそ、シロはその人物の名前を、思いっきり叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「臘月ゥウウウウウウッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忌々しき宿敵、【綿月臘月】へと。

 

 

 

 

 

 

 




 どうでしたか?
 豊姫の天敵が零夜であると同様、依姫の天敵はシロ。ここまでは【東方永夜抄?】と同じパターンですね。
 しかし、レイセンが語った、臘月が『玉兎』を恐れていると言う情報は、勝利の鍵になるかも…?


―――ていうか、『権能』持ちには『能力』は効かないはずなのに、『能力』で波長が見れるって……アレ?


 そして、最後に臘月が地上に登場しましたね。
 妹紅に、無理矢理『蓬莱の薬』を飲ませて、一体何が目的なのか…?もしかしたら、臘月が妹紅が『ホウライジン』になってしまった原因なのかもしれませんね。

 臘月の『権能』とは――?いづれをお楽しみに!

 シロの今回のイメージCV
 女性声【水樹奈々】
 男性声【石田彰】


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