――時は少し遡り、場所は臘月の部屋前。
『おらよっと!』
「グフゥ!」
アナザーフォーゼは、半透明のハンマーモジュールで兵士の頭を殴り、脳震盪で気絶させる。
今回はあまり敵を殺さない方針だ。故に、この方法が一番である。
「クソっ、手ごわいぞ、この怪物!!」
「畳みかけるんだ!かこ、ぐはっ!」
言葉を話すことも許さず、次々に敵を撲滅していく。
ウォーターモジュールの噴出で、跳躍力を増し、目の前の敵の大群の後ろ側へと返り咲く。
半透明のマジックハンドモジュールを装備して、敵を一気に薙ぎ払った。タダでさえ、この場所は通路と言う狭い場所だ。避ける場所などどこにもない。
『さて、ここにいるだけじゃ無意味だ。移動しないとな!』
半透明のホイールモジュールを起動して、長い廊下を一気に移動していく。
途中、兵士たちと遭遇するが、そこは轢いていき完全に無視する。轢いただけならば、死なない―――はずだ。なにせ、規模が規模なため、死にはしないだろう。
『さてと、地理が分からねぇのが痛てぇな』
アナザーフォーゼは宮殿の地図などを把握していない。過去のあの場所も、シロが破壊しまくったために原型が分からず、困惑している最中だ。
ならば―――。
右足に半透明のペンモジュールを装備して、ホイールモジュールで移動しながら、地面に黒い線を描く。本来このモジュールの力は、『瞬時に硬質化するインクを塗る』と言う力なため、使用の仕方はあながち間違いではない。
このままマーキングしながら移動し、地理を把握する。
だがしかし、これは同時に敵に自分の居場所を教えることになる。それを承知で、アナザーフォーゼはマーキングを続ける。
『ここは、通ったな。だったらこっちか』
迷路のような場所を、ペンモジュールの力で迷いながら即決で進んでいく。
そして、進んでいくと、ある場所へとたどり着いた。
『この場所は…』
ついた場所は、広場だった。室内の、広場。この場所は、見覚えがあった。――過去の、『回想』で。その回想とは、『空真の回想』だ。
空真が、火影と戦った場所――、
『訓練場か』
この場所は、兵士たちが訓練をするために使う場所――訓練場だった。
空真の回想で、火影と戦った場所。自分の記憶ではないのに、何故か懐かしいと感じるのは、記憶に感化されているからだろうか。
『だったら、ここからずっと辿っていけば―――』
あの神のもとへ、たどり着ける。未来では協力した、あの神のもとへ。
『空真の記憶』を元に、移動しようと、した。
「待ちな、化け物」
しかし、その行動が女性の声で遮られる。声の方向は、自分の背中からだ。アナザーフォーゼはゆっくりと後ろを見た。
そこには、剣を持っているボサボサな黒い短髪の女性がいた。女性の顔立ちは、普通にしていればとても整い、『美人』に分類されるレベルだ。――顔が、負の感情で歪んでなければ。そして、零夜はその女性に見覚えはあった。完全には初対面だ。だけど、零夜は知っている。
『お前……確か『アヤネ』って呼ばれてた奴だな』
「―――それを、どこで聞いた?」
目の間の女性――アヤネは、不愉快を顔に浮かべ、アナザーフォーゼを睨む。
『そうだな…『記憶』を見たって言えばいいか?』
「記憶…随分と不愉快な能力持ってるじゃない」
その能力のことを知って、不快感を表すアヤネ。特に疑う訳でもなく、納得したように淡々と話しを進める。
『お前のことはここに来る前に色々な奴から記憶を抜き取って情報を得ている』
「そう。どうせ、『無能』とか『役立たずのクズ』とか、そんな感想しかなかったんでしょ?」
『―――』
アナザーフォーゼは答えない。なにせ、予想外というか予想通りと言うか…。そんな言葉が飛んできたことに、言葉を失ったからだ。
アヤネはあの事件から一向に立ち直っていない。むしろ、酷くなっている節がある。自分を極限まで卑下して、一匹狼のようなイメージが目立つ。
「無視?大層な化け物様ね」
『お前の言葉は貶してるのか慕っているのか分からん発現だな』
「安心しなさい。貶してはいるけど、慕ってなんていないから。むしろ殺意が湧いて来たわ」
そう言い、武器である剣をアナザーフォーゼに向ける。完全にやる気だ。と言うか、戦いは避けられるはずがなかった。
そこで、気になったことを口にする。
『――やるならやるで構わないが、お前ひとりか?』
「当たり前でしょ?アタシに味方する奴なんて、いるわけがない」
『……潜伏して、俺の油断を狙っている奴がいる可能性は?』
「もしそんな奴がいたら、アタシが逆に斬ってやる」
その目と言葉は、
『そうか……ならお構いなしにやれるなァ!』
先制攻撃。ロケットモジュールを装備して、ライダーロケットパンチを繰り出す。アヤネは後ろに跳ぶことで、その攻撃を避ける。噴出の力で強まったパンチは地面に衝突した瞬間に地面が爆裂する。
チェーンアレイモジュールを装備して、鉄球を遠くにいるアヤネに振りかざす。アヤネは少し接近して、鉄球の鎖に剣を絡ませた。
体を回転させて、逆に鎖の軌道を変えて鉄球をアナザーフォーゼに向けさせた。
チェーンアレイモジュールを解除して、ジャイアントフットモジュールを装備する。
ジャイアントフットでアヤネに向けて虚空を蹴る。重力の脚が生成され、アヤネに向かって飛んでいく。
「小癪なんだよ!」
ジャンプすることでその攻撃を避け、懐から手のひらサイズの球体を取り出す。それをアナザーフォーゼの元に投げると、爆発を引き起こす。
『手榴弾か。中々だな』
シールドモジュールで爆発の勢いをカット。
ジャイロモジュールで空を飛び、ランチャーとガトリングで連射連撃。空中からの攻撃に、流石のアヤネも怯む。
「あんた!!空中からの連撃なんて卑怯だろうが!!」
『敵に情けをかける方がおかしいだろうが!』
「ははっ、それもそうか!」
あっさりとアナザーフォーゼの言い分を認めたアヤネは、腰から小型の銃を取り出し、連射する。が、アナザーフォーゼの方が圧倒的に優勢であり、アヤネはジリ貧だった。
『チッ、時間切れか』
突如、アナザーフォーゼがそう言うと、三つのモジュールを一気に停止し、地面に着地する。
「なにしてんだ、あんた?」
『見りゃ分かんだろ。弾切れだ』
「なるほどな。そりゃあんだけぶっ放してたらそうなるわけだ!」
アナザーフォーゼが攻撃をやめた理由は、ただのエネルギー切れ。永久ではない。永久機関のエネルギーなんて、それこそ欲しいくらいだ。
そして、エネルギー切れを知ったアヤネは、とある行動に出る。
「だったら、あんたは耐久戦に弱いってわけだ!!」
『決めつけんなァ、まだやれるわ!!』
「だったら見せてみなさいよ化け物!!」
一触即発。半透明の四つのモジュールを装備して、アヤネ相手に凶器を駆使して攻撃する。対してアヤネも、負けずと剣を巧みに操って四肢に繋げられているアナザーフォーゼの攻撃を受けとめる。
しかし、一つと四つと言う、四倍の攻撃を捌き切れるわけもなく――、
「ガハッ!!」
スパイクで蹴り飛ばされる。棘と蹴りの痛みで悶えるアヤネ。いくら防具をつけているとはいえ、これは痛い。
地面に転がり、少量の血反吐を吐いた。
「う、ぐぐ…!!」
『諦めろ。火影――プロクスたちでさえ、俺の前では瞬殺だ。お前じゃ勝てない』
「だ、黙れ!お前が決めつけるな!アタシの全てを!アタシの力を!」
『――いいや、決めつけるしかないだろ。お前は、弱い』
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!」
アヤネは自分が弱いと言う事実を、アナザーフォーゼに負けたと言う事実を否定する。
自分に絶対的な自信を持っている物は、自身の敗北を認めないものが多数だ。……だがしかし、アヤネからは別のなにかを、アナザーフォーゼは感じた。
そして、感じたそれを容赦なく口にする。
『……お前たちが、まだ地上にいた頃。お前が担当していたチームの隊員が何人も行方不明になった事件…か?』
「―――ッ!」
『それでお前は立場を失い孤立。それで荒れ果てて、現在に至るってわけか…』
「黙れ!!お前のような化け物になにが分かる!?ただ他人の記憶を見ただけのお前に!」
アヤネは激怒して怒鳴った。アヤネがここまで男性
アヤネの反応からして、アナザーフォーゼの推測は合っているようだ。あの事件の責任を負わされ、孤立した。全貌の辛さは分からない。
――だけど、
『……だけど、失う気持ちは、分かる。失いたくないから、大切なものを作ろうとしない気持ちが、分かる』
「なにを言ってんのよあんたは…?勝手にアタシの気持ちを捏造するな!クソがッ!」
アヤネは剣を握り締め、アナザーフォーゼに向かって突撃していく。
しかし、中間地点に白い煙が発生し、アヤネの視界を奪う。
「目晦ましか!?小癪な―――」
煙の中から、半透明の赤いマニューバが飛び出し、アヤネを掴んで拘束する。そのまま横に投げ飛ばし、壁に激突させる。
「―――」
ゆっくりと壁から崩れ落ち、アヤネは気絶する。
『……ご愁傷様、としか言いようがねぇな』
アヤネにかける言葉が見つからず、とりあえず慰めの言葉をかける。
――今思えば、未来でアヤネと会わなかったのは、不必要だったから
我ながら不謹慎なことを考えるなと思った時、シロから通信が入る。
『俺だ。どうした?……分かった。は?そんなものなにに使うんだ?……なるほど、分かった。じゃあ切るぞ』
シロからの通信の内容は、ある程度理解できた。だが、最後の『とある物』を能力で作ってくれと頼まれたときはそれを何に使うのかは、ある程度予想は出来るが使う用途が分からない。
まぁ、何かに使うんだろうかと考えた矢先、再びシロから着信が入る。
『なんだ?今度はどうした―――って、あいつ、一方的に通信切りやがった。焦ってたようだったが、なんだったんだ…?』
考えていても仕方ないし、内容が分からない以上、今やることは自分の役割を全うすることのみ。
『……この先だな。最難関の、一人は』
そうして、アナザーフォーゼの姿から人間の姿に戻った零夜は、最難関の敵がいるであろう先の廊下を、ゆっくりと歩みを進めた。
彼もまた、危険に飛び込んでいく
* * * * * * * *
時間は正常な軸に戻り、シロが臘月と対面していたところまで戻る。
「あぁん……?なんでお前、俺の名前知ってんだ、てめぇ?」
「お前を……忘れたことはなかった。お前に、大切な人を殺された、あの日を!!」
臘月の疑問を無視して、シロは未来で圭太を盾にして自分に殺させた臘月に怒りの言葉をぶつける。当然、過去であるために身に覚えがない臘月は首を傾げるだけだ。
「なーに言ってんだ。お前のことなんて――。あぁ、もしかして、俺が忘れちまってるだけか?大分前から地上に密かに来てっからな。それで、隠れて女をたくさん
「―――ッ!」
また新たに発覚した、臘月の愚かな罪。臘月は地上に密かに降りて女性を性的な食い物にしていた。それを聞いて、ますます臘月への怒りが蓄積されていく。
とてつもない、外道だ、と。
そして――シロの視線が別の方向へと向いた。夜なため、月の光でしか見えない環境の中、岩陰にヒッソリと、血を流しながら横たわっている男性がいた。
シロは己の『権能』で目の光を調節して、その顔を見た。
「―――
「あ?もしかして知り合いか?悪いなァ…殺しちまってw」
嘲笑しながらシロを侮辱する。
この転がって魂が抜け落ちている男――名を『つきの岩笠』と言う。この人物は、かぐや姫が月に帰ったことにより、かぐや姫に渡されていた『蓬莱の薬』を飲む意味がなくなったために山に棄てるよう帝から直々に勅命された人物である。
『原作』では、富士山頂へ向かった妹紅が、登山の準備を怠っていたため途中で行き倒れ、本末転倒の状況に陥った時、岩笠に助けられることになり、それ以降行動を共にすることとなった。
山頂へ至ると岩笠は壺を火口へ投げ込んで処分しようとするが、そこに現れた『
しかし、この世界線では妹紅はかぐや姫に対して恨みすら持っておらず、父親とも絶縁を果たしいているため、父が輝夜に恥をかかされた後、彼女は『月に帰った』輝夜が地上に残した2つの壺のうち、迷惑をかけたとして帝に残した壺が運ばれることを知り、壺を奪うことで復讐すると言う動機がなくなったために、交わらないはずの二人だった。
だが、臘月の手によってそれは変わった。状況を見るに、岩笠から壺を奪って、それを飲みやすくさせるために容器に入れ替えて妹紅に無理やり飲ませた、と言うのが一番しっくりくる。
「―――」
「なんだよ、黙りやがって」
「……いや、もう、お前に怒りを抱くことすら、無駄なんじゃないかと思い始めただけさ…」
何度も、
「それに…お前、妹紅になにしている?」
「妹紅?……あぁこのガキか。安心しな、俺はガキには手を出さねぇ主義だ。やっぱ、巨乳でケツのでけぇ女じゃないと、抱きごたえがねぇからな」
「『俺』は、なにをしてるかって聞いているんだ…!!」
「やっかましいなぁ。見ればわかるだろ?―――実験だよ」
「実験…?」
実験だと?『蓬莱の薬』を使って?蓬莱の薬の効果は、輝夜と永琳によって立証されているはずだ。それなのに、それ以上何を実験すると言うのだ?
「『蓬莱の薬』ってんだ。まぁ不老不死の薬だな。これを、先天性の無痛症の奴に使うと、どうなるかって実験だ。でも、無意味だったぜ…あーぁ、時間無駄にしちまった…」
「……なんで、妹紅の先天性無痛無汗症のこと、知っているんだ?」
臘月は転生者だ。この『東方project』と言う世界を知っていても、別に不思議ではない。しかし、妹紅の先天性無痛無汗症は完全に『原作』にない予想外だ。
それを、何故臘月が知っている?
「おっと。ここから先は、いくら心の広く慈悲深い俺でも、話すことはできねぇなァ」
「……話す必要はねぇよ。操り人形が」
「―――てめぇ、そりゃどういう意味だ?」
瞬間、臘月から『権能』特有の強烈なオーラが放たれた。このオーラに常人が当たれば、普通の人間ならばよくて気絶、悪ければショック死だ。
しかし、シロは普通ではない。
シロも負けずと、己の『権能』のオーラを放ち、対抗する。そのオーラを感じ取り、臘月は一言発した。
「……なんだァ。お前も操り人形じゃねぇかよ。人の事言えんのか?お人形さんよォ」
「別にいいんだよ。それに、お前も操り人形だって認めてるようなもんだぜ?」
「チッ、ムカつく野郎だ。こうなると見込んで俺をキレさせるために言いやがったな?本当にムカつく野郎だぜ…。まぁいい。今ここでお前を殺せば、俺の鬱憤も晴れるだろうからなぁ!」
瞬間、臘月はボールを投げるような動作で虚空を掴み、振りかぶってシロに投げた。突如、強烈で身が引き裂かれそうなほどの突風が吹き荒れ、シロは持ち前の速度で難を逃れる。
風が向かって行った地点は、地面が抉れ、木が跡形もなく木端微塵になっていた。
「死ぬのは、てめぇだ!!」
シロは接近すると、臘月に拳を叩き込む。臘月は、無傷だ。
「ハッ、この程度の攻撃が、俺に効くワケ―――」
その時、臘月は違和感に気付いた。自分にとって、この程度の攻撃、蚊が止まったのかと思う程度のレベルだ。
――それなのに、攻撃の威力が上がっているのはなぜだ?
シロは連続で臘月に拳を叩き込む。……気のせいじゃない。間違いじゃない。攻撃が、どんどん強くなっていく!!
「離、れろ!!」
臘月は足蹴りをシロの腹に叩き込む。その衝撃でシロは後方へと飛ばされ、勢いが衰えることなく吹っ飛ばされていく。
「へッ、侮ったな俺を。そのまま岩にでも激突して潰れろや」
そう呟いたその時、銀の光が臘月の横をすり抜けた。何事かと思い後ろを見ると、そこには銀色に輝く槍が地面に突き刺さっていた。
「なんだ…!?」
暗闇の奥から、複数の雷の光が漏れ出る。その光はやがて近づいてきて、臘月を襲う。
「これは…矢!?」
その正体は、矢だった。しかも雷を纏った一つ一つに常人が触れれば感電死するであろう放電量だ。それが、雷の矢の雨となって臘月を襲う。
「こんなの、聞くと思ってんのか!!」
「聞くとは、思ってねぇよ!」
臘月の目の前の空間が歪曲してそこから炎を纏った巨大な斧を持ったシロが現れた。斧の大きさは成人男性の身長を軽く超えており、二メートルはありそうだ。
そして、加えて炎の力が加わった斧。その刃が、臘月の脳天に直撃した。
「―――」
「――ビックリしたじゃねぇか!」
だが、特に痛がる様子を見せず――と言うより無傷で済まされている臘月がいた。怒号を叫び、臘月は手をチョップの形にして、まるで刃のように扱った。
肘でガードしようとしたシロだったが、嫌な予感がして、その直感が当たった。
手のナイフによって、シロの右腕が鮮血を散らしながら舞い散った。ボトッと音を立てながら、地面に落ちるシロの腕。
「―――ッ」
「はははははッ!!お前、打撃より斬撃の方が効くらしいな。だったら、もっと痛めつけてやるぜ!」
打撃より斬撃の方が通用すると認識した臘月は、手刀で何度もシロを切り刻む。後ろに後退していくシロも、服が破れ、白い服が少しずつ赤く染まっていく。
「どうしたどうした!?さっきまでの威勢はどこに行ったんだ!?」
「――――」
完全に委縮した者だと思い込み、臘月は完全に調子に乗って高笑いをして勝利を確信した。だがしかし、臘月は気付かなかった。
もう既に、シロの策略にハマっていることに。
「―――空間歪曲」
そう呟いた瞬間、シロの姿が掻き消える。
「どこ行きやがった!?あの野郎―――」
臘月の言葉が、途中で無理やり中断される。理由は、上空にあった。四方八方を見渡すついでに見つけてしまった、狂気の雨の全貌。
上空には、無数の剣、刀、矢、斧、槍などの武器が無数に縦横無尽に張り巡らされていたのだ。それも、月明かりが完全に遮られるほどに。
「まさか――ッ!!」
臘月はとある場所、妹紅が倒れている場所へと目を向けた。―――いない。あの少女が、自分が無理やり『蓬莱の薬』を飲ませたあの女がいない。
やられた、やられた!!あの一瞬で、能力を使ってあの女ごと逃げられた!それに、こんな最低な置きみやげを残して。
「畜生ォオオオオ!!!」
凶器の雨が、臘月に降り注いだ。
―――。
――――。
―――――。
――――――。
「はぁ、はぁ」
シロは白髪になってしまった妹紅を担いで、その場から離脱する。本来ならば、あのまま戦い続けていたかった。
そして、臘月を殺したかった。この怒りが尽きないうちに。だが、冷静でいられるのも今の内だ。妹紅を安全な場所――【アナザーデンライナー】に運ぶ。
(くそっ、まさか妹紅がこんな形で狙われるなんて…。どうして臘月は妹紅を狙った?実験と言ってはいたが…)
妹紅に張っていた今出せる本気の結界をもってしても、臘月に破壊された。本調子でないことが、こんなところで裏目に出た。
ともかく、今は妹紅を運ぶことが先決だ。怪我も、破損した右腕も回復の『権能』によって修復済みだ。終わったら、すぐに戻らなければ。
シロはアナザーデンライナーの位置を特定する。
「―――どういう、ことだ!?」
アナザーデンライナーの位置を特定して、その場所を知って愕然とした。
「場所は…地上?……まさか、墜落しているのか?」
その予想は、予想外中の予想外で―――。
事態は、訳の分からない方向へと、進められていく。
―――。
――――。
―――――。
――――――。
「あークソッ!!あの漂白野郎!面倒なことしやがって!!」
大量の武器が地面に刺さっている地獄絵図の真ん中。臘月はそこから身を起こし、腕を振りかぶった。そこから発生した暴風が、周りの武器たちを木端微塵に粉砕する。
ちなみに、漂白野郎と言うのはシロのことである。
「あの漂白野郎!次はあの白い服を完全に赤く染めてやる!」
勝ち逃げされた。その事実が臘月を腹立たせ、冷静さを失わさせた。そんな時、彼の懐から着信が鳴る。
「あぁ!?なんだよ!今俺は猛烈に機嫌が悪――なに?月の都が襲撃されている?……寝てて気付かなかった。それで?……避難しろ?いや、ちょうどいい……。俺がソイツの迎撃に向かう!ちゃんと持ちこたえろよ!!」
臘月は通信機の電源を乱暴に切る。
「こんな時に襲撃たぁついてねぇ…。だが、ちょうど良かった。あの
臘月は懐から『月の羽衣』を取り出して、飛翔する。自分の楽園を犯す、侵略者を排除することを目的に―――。
* * * * * * * *
『―――』
長く暗い廊下を、歩く、歩く、歩く。
心電図のような線が入ったゴーグルから覗く鋭い目付きに唇が厚く細かい牙がずらりと並んだ、わかりやすい嘲笑うような顔つきの悪人面。
ピンク色の頭部から生やした長い黒髪や所々入った金色の造形の入った意匠。
腕や肩に装備している刺々しい装甲などが特徴的で、更には全身の皮膚にまばらに発疹のような模様もあるなど、いかにも不健康そうな姿。
胸部の装甲にはEX-AIDの文字が、背中の仮面の黒い複眼には2016の数字とEX-AIDの文字が刻まれている怪物―――アナザーエグゼイドは、足音を鳴らしながら、歩く。
アナザーフォーゼから、アナザーエグゼイドに変わっている理由は、シロに言われたことを果たし終わったからだ。
アヤネを無力化した後、『未来での記憶』と『空真の記憶』を頼りにして、モニタールーム的な部屋を見つけた。幸い、内装は地上に建築されていたのとはほとんど変わっていない。まぁ突然変えたら困惑するのだから、当然と言えば当然か。
そこで仕事を終えて、『空真の記憶』で今、『最強の神』の元へと足を運ぶためだ。
『―――これは』
歩みを止める。アナザーエグゼイドの前には、巨大な扉が存在していた。取っ手が付いており、触れる。
『―――やはり、動かないか』
押してもダメ、引いてもダメ。もしやと思って横に引いてみたり、シャッターのように上に上げてみたり、逆に下に下げてみたりもしたが駄目だった。
どうやらロックが掛かっている上に単純に強固な壁のようだ。
『ならば!』
アナザーエグゼイドの能力を応用して、自身の体をデータ化する。実体を失った体は僅かなスキマからの侵入を可能とする。
再び粒子を一体化させて、室内に入る。
そこに広がっていたのは―――広大な花畑だった。
「ここは…。ッ!?」
その瞬間、頭に頭痛が走り――どこかの景色が、フラッシュバックする。
『すっげぇ花畑だな…』
『あぁ、花にはあんまり詳しくないけど、ここがすげぇってことは、本能的に分かる!』
『ありがとう。【―――】。【蒼汰】。そう言ってくれると嬉しいよ』
場所は……この景色となんら変わりない花畑。
だが、その場所には三角形になるように、三人の男性がいた。一人は零夜視点では後ろ向きで、顔は分からない。ただ、その男性が自分と全く同じ服装をしていると言うことだけは、驚いた。
今の零夜の服装は、白い半袖Tシャツと黒い長ズボンの上に大きめの黒く薄いコートを着込んでいると言う状態だ。白いTシャツだけは確認できないが、それ以外はなんら変わりない。
そして、顔が見える二人の男性。一人は全く知らない、初対面とも言える存在だ。【蒼汰】と呼ばれている男性だ。
黒くしなやかな髪質が特徴的な美青年で、腰には武器であろう『刀』が常備されていた。
――最後に、花畑を褒められて喜んでいる男性。その人物は……『圭太』だった。
『圭太…ッ!?』
どうして?と言う疑問をすっ飛ばして、『記憶』は流れていく。
『それで、この花畑は一体なんなんだ?』
『この花畑の効果はねぇ、この花畑の『権能』の『神』の二面性からとって、『味方には様々なバフを与えて敵には逆に強力なデバフを与える権能』らしいよ』
『かなり凶悪だな…。流石二面性の神。はんぱねぇ』
『確かに、敵にすると恐ろしい能力だね。でも、味方だと逆に心強い』
『ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ』
『でもよ、その『味方』と『敵』ってどうやって区別するんだ?』
『あぁ、それは
『まるで蒼汰みたいにな』
『あぁん!?誰が単純だこの野郎!この際だ、もっかいバトルして決めようじゃねぇか!』
『いいね。このフィールドの効果がどれほどか知りたいし、いいぞ。やってやろうじゃねぇか』
『二人とも……喧嘩はほどほどに、ね?』
???『今日こそ決着つけてやる!一番カッコいいヒーローのモチーフは、ドラゴンだ!』
蒼汰『今日こそ決着つけてやる!一番カッコいいヒーローのモチーフは、蜘蛛だ!』
『それ絶対今どうでもいいやつだねぇ!!?あと、やっぱり一番良いのはヒーローじゃなくて、白雪姫だと思うな俺は!!』
『『お前もそれ今どうでもいいじゃねぇか!!』』
『なにおう!?ていうか、今自分達の
『いいやドラゴンだ!ドラゴンは男のロマンだからな!』
『蜘蛛だろ!世間は見た目がキモいって言うがな、異世界もののマスコットやら、ヒーローになればめちゃカッコいいんだぞ!』
『話の収集が付かねぇ…。だったら、また戦争勃発だ!』
『よーしやってやる!勝つのはもちろん俺だがな!』
『そう言って、今まで決着ついたことないけど…とりあえずやろう!』
そうして、穏やかな花畑の中で、己の意地と意地のぶつかり合いが、勃発した。
目の前は、戦いの爆煙の中で見えなくなって―――、
「はッ!?」
零夜は、そこで目覚める。己の体を見ると、変身が解けており、尚且つ汗がぐっしょりだ。あの一瞬で、ここまで…?
「あれは……俺の記憶じゃない!誰の、記憶だ…?いや、あの情報量から、分からないはずがねぇ…!」
零夜は懐から【メモリーメモリ】を取り出した。このメモリの力じゃない。だったら、考えられる可能性は一つのみだ。
『蒼汰』と言う謎の人物―――好きな
どこかで聞いたことのある趣味だ。それもつい最近。細かく言えば、『三年前』…。
『圭太』―――好きな
彼についても良く知らない。だが、シロの大事な人物であるいうことは分かる。
さらに、あの映像と、なんら変わりない目の前に広がる現実の花畑。つまり、この時代では既に、圭太が臘月の手によって飼われていると言う現実の立証だ。
そして最後に―――回想の中に出てきた、零夜と同じ服装の人物。好きな
あれは――、
「『シロ』になる前の、シロ…ッ!?」
それしか考えられない。『
しかし、『共有』とは名ばかりのもので、最初は一方的にあっちがこちらの入手できると言う理不尽なものだったが、段々と、『共有』と言う名前の通りの力になってきている。
その『共有』が、この花畑を見た瞬間に発動した。つまり、あの過去は、シロの過去!
「それに、【ドラゴン】【蜘蛛】【白雪姫】って、どっかで聞いたフレーズだな…?いや、それよりも――」
―――ズリ、ズリズリ…
「―――ッ!」
その時、何かを引きずる音が聞こえた。その方向に、急いで振り返る零夜。
そこにいたのは、全身を絢爛な鎧で包み、重戦士を思わせるような姿をした男。その男は、巨大な大剣を地面に引きずりながら、にやけた顔で、近づいてきた。
「お前か。侵入者とは。俺の至福の時間を邪魔しやがって…覚悟できているだろうな?
「――――」
「どうした、恐怖で言葉も出ないか?」
「――――」
「無視か。ゴミのくせに。黙っているようなら、さっさと死ね」
男は大剣を持ち上げて、剣先を零夜に向ける。
あぁ、なんでこんなにも変わってしまったのだろうか。あれだけ部下に慕われて、神にさえ好かれていたあの男が、どうしてこんな風になってしまったのだろう。
そう思うと、怒りが込み上げてくる。
彼をなんて呼べばいいんだろう。前の名前で呼べばいいのか、今の名前で呼べばいいのか。だが、今の彼は昔の彼ではない。
だから、今の名前で呼ぼう。
「―――初めまして、だな。【ウラノス・カエルム】」
そして、恨めしくもあり、同情してしまう敵―――
はーい。今回のおさらいでーす!
今回は、アヤネが登場しましたね。回想の通り、随分荒れててご立腹…。常にキレている状態で、正常な判断力を失っているところが、早く勝敗を決しましたね。
そして、地上にて臘月とシロの邂逅。臘月は『実験』と称して妹紅に岩笠から『蓬莱の薬』を奪ってそれを無理やり飲ませた。実験とは一体なんなのか…?
そして、墜落しているかもしれないアナザーデンライナー。一体なにがあった!?
花畑――。この花畑は、未来でも出てきましたよね。この場所で、シロの圭太の『再開』が果たされたわけですが…。
ここで出てきたのは、ウラノスでした。しかし、この花畑がある時点で、圭太もこの時代にいることはほぼ確実。
さらにさらに、花畑を見て突如零夜の頭を突き抜けた『記憶』。あの『記憶』はシロのもので、あの花畑を見たから発動したんですよね。
それに、出てきた『蒼汰』と言う人物。好みが誰かに似ていませんか?
最後に、【ドラゴン】【蜘蛛】【白雪姫】って――――。
ちなみに、零夜の服装のイメージは【俺だけレベルアップな件】の主人公【水篠旬】の『
評価、感想をお願いします!