それでは、どうぞ。
「デンドロン…こいつが!?」
目の前に現れた、デンドロン・アルボル。その存在に驚愕し、声を荒げるルーミア。
彼女は顔を見たことはないが、この人物は間違いなくデンドロンだ。
「デンドロンってこんな発狂してる危険な奴なの!?」
「いいえ!私の知っているデンドロンはこんなのじゃない!なにか、様子がおかしい…!!」
既知である永琳の目から見ても、今のデンドロンの状態は異常だ。目玉をギョロギョロと動かしながら、一同を垣間見る。普通にキモい。
「えうぃり…ん、にィぃいいい……がぐがぁあああ!!みいつけたぁああああ!」
「キモッ!!なんなのコイツおかしくなってるわよ!?」
「私に分かりません!なにか変です!」
「そんなことは見ればわかるわよ!」
「お前等、武器を構え―――」
そうライラが言葉を発した瞬間、ライラは後方へと吹き飛ばされた。木々を抉りながら、勢いが衰えることなく後方へと。
「師匠ォオオオ!!」
「ライラ!!」
何があったのか分からないまま、事態は進んでいく。
デンドロンは弓を構え、小型ナイフを取り出した。
「ハハハハハハハハッ!!!!」
高笑いしながら、ナイフで自身の弓の木の部分を荒々しく削っていく。それでできたのは、刃の形状の弓だ。
木目も荒々しく、棘も出ていて完成度が高いとは言えない代物になった。ヤスリも使わず、乱暴に削ったそうなるのも仕方ない。
「あれでなにを―――」
するつもりだ。そう言いかけた瞬間、紅夜は地面を蹴り上げて永琳と輝夜を担ぎ、その場から離脱した。
「なにを――ッ」
そう言いかけた時、デンドロンは斜めに弓を振り下ろした。すると、さっきまで二人が立っていた場所を、デカい斬撃が襲った。
その爪痕は、まるで本物の獣が付けたかのように、荒々しい爪痕だった。
アレを喰らえば、重症は必須だっただろう。
「できたでキた!アタッチュアローかんじぇぇえええええい!!」
「うるさいわね!それに、なんなのよあれ!?弓を振っただけであの威力!?」
デンドロンの発狂を煩わしく思いながらもその威力に愚痴る。弓を振っただけであの威力だ。もしあの小型ナイフで斬られていたら、もっと酷かったかもしれない。
「デンドロンの能力を戦闘に応用した結果よ!あいつ、あの状態になってから、自分の能力を躊躇いもなくフルで使ってるわ!」
「だからなんなの!?デンドロンの能力って!?」
「いい?良く聞いて!デンドロンの能力は『
紅夜に担がれながら、永琳はそう叫んだ。
デンドロンの能力は―――『変化』。
先ほどの斬撃も、『威力』を変化させたものだ。物を振った際に発生する風。その『威力』を変化させて巨大な斬撃へと変えた。
それが、デンドロンの力のタネだ。
「それってヤバくない!?なんで一回目の時零夜とシロの目に止まらなかったのよ!?」
「デンドロンはヘプタ・プラネーテスの中で、唯一自分の能力を制御できていないの!だから、デンドロンも、光輝も、戦闘にはこの能力は使わなかったからよ!ヘタすれば自分にもダメージが行くから!」
デンドロン――いや、光輝は唯一自身の能力を制御できなかった。強力な能力は、制御できなければ諸刃の剣と化す。
それを体現している人物だったからこそ、『人格改変』後も無暗にその能力を使ってなかった――だから未来では易々と倒せたのか。
だが、
「ヒャハハハハハハハハハ!!!」
発狂している今のデンドロンは、そんなことお構いなしに能力を使いまくっている。そして、能力を制御できていないと言う証拠なのか、弓を持っている手の肌が斬撃の衝撃で裂けて、血が噴出している。完全に諸刃の剣だ。
痛みを感じているようには見えない。おそらく、発狂しているからアドレナリンが大量分泌して痛みを和らげているのだろう。
その斬撃を、避けながら大声で情報を共有し合う。
「あれじゃ、すぐ自滅して終わりじゃない!」
「いや、よく見てみて!」
「なにって……えっ!?」
よく見ると、出血しているところから怪我が修復されてきていた。一体どういうことなのか?
まさか―――、
「あれはおそらく、自己修復力の力を『変化』させて傷を治しているんだわ!」
「そんなのあり!?」
修復力を『変化』させて体の傷を治す――。破壊と再生をほぼ同時に行っているため、体への負担と激痛はかなりのものだろう。
だが、デンドロンはそんなことお構いなしに攻撃を続けてくる。
「とりあえず、このままじゃジリ貧です!攻撃します!」
二人を一旦おいて、刀を抜刀してデンドロンに急接近する。紅夜が狙うは首一点。そうでもしないと、全員に身の危険が及ぶ。
斬撃を避けて接近し、そのまま刃を振り下ろした――、
「―――ッ!!」
その瞬間、紅夜は行動を攻撃から一転し、防御へと変更した。何事かと思ったその時、紅夜の体から
紅夜は後方に体を移動させ、そのまま地面に激突する瞬間、マクラが糸を吐き出してそれをクッションにして地面への激突を免れる。
ルーミアは紅夜のもとに駆けつけて、声をかける。
「大丈夫!?」
「はい…!くッ!」
出血が酷い。傷口は小さいが、数が多すぎる。修復にもかなりの時間を要するだろう。
自分のもとに駆けつけてくれたマクラに、傷口を塞ぐ糸を作ってもらい、それで傷口を塞ぐ。
「(/ω\)」
「ありがとう…でも、俺は心配ないから…!でも、それより師匠が…!」
「ライラなら大丈夫よ。
「――ッ、はい!!」
決意と覚悟の入った声で、そう叫ぶ。
三年前のあの出来事で、紅夜は師匠であるライラを『大事』にするのではなく『信頼』することを決意した。
ライラなら、きっと大丈夫だ。まだ生きている。だから、今は目の前の出来事に集中しろ!そう自分に言い聞かせた。
「それで何があったの?」
「アレは……アイツの『血』です」
「血…?血っての、あの体から出る、あの血?」
「はい。血が針状になって、俺の体を貫通したんです」
その攻撃はおそらく、諸刃の剣のあの攻撃で噴出した血を針状に『変化』させて、速度も『変化』させた即席の攻撃。
だが、その攻撃力は計り知れない。
遠距離にいては斬撃が遅い、近距離では血の針が襲う…。一体、どうすれいいのだろうか?考えが、混濁する。
「ごじょおぉおおおおおおおす!!」
そのとき、デンドロンの強烈な叫びに、現実に引き戻される。デンドロンを見ると、デンドロンは弓の弦を引き絞って矢を放とうとしていた。――輝夜と永琳に向かって。
「危ない!!」
紅夜がそう叫ぶと同時に、凶悪なまでの威力の矢が放たれる。
まずい!届かない!どうすれば――、
その時、二人の間から細長い何かが放出され、それが輝夜と永琳にひっつくと、粘着力があるのか二人の体がこちらに引っ張られる。
宙に浮く二人の体を紅夜はすかさずキャッチ。
「大丈夫ですか!?」
「え、えぇ…ありがとう。でも、今のは……」
永琳は自分に繋がっている細長い何かが繋がっている場所を見る。そこを見ると、マクラの口に繋がっていた。
細長いなにかの正体は、マクラの糸だったのだ。
「あなたの糸ね。ありがとう」
「(`・∀・´)エッヘン!!」
「すごく自慢してるわね。まぁいいけど」
「それよりも姫様。ここままやられっぱなしは性に合いません。反撃しても、よろしいですよね?」
「えぇ、私も参加させてもらうわ」
輝夜は蓬莱の玉の枝を、永琳は弓矢をデンドロンに向けて構える。
これで、5対1。数的には圧倒的に有利だが……正直不安要素が大きい。
いくら数で
「いくわよ!!」
そう、ルーミアが叫んでデンドロンへと突撃していく――、
「うッ!!」
「ひぐッ!」
「――えッ?」
その瞬間、両隣から二人の鈍い悲鳴が聞こえ、背中が爆音で支配された。
目の前にいたはずの、デンドロンがいない。その可能性――いや、確定していた。しかし、なにが起きたか分からない故に、その可能性を無意識に否定してしまう。
だが、体は脳の命令を無視して、ゆっくりと後ろを振り向いた。
「―――」
「―――」
「ヒャハハハハ!!」
木に背中をつけて、血を流して倒れている輝夜と永琳の二人だった。
そして、狂気的に高笑いしながら輝夜の頭を掴んで木にこすりつけている、デンドロン。
「一体、なにが…!?」
「ルーミアさん、アイツの脚…」
「脚…?あッ」
紅夜に指摘され、ルーミアはデンドロンの脚を見る。良く見ると、デンドロンの脚から大量の血が噴出していた。
それだけではない。何故か足の服が弾けて、肌が見える状態になっており、そこから生々しく輝き、血で光沢を持っている筋肉と、所々骨が飛び出ていた。
超高速の代償と見える。しかし、そんな大怪我も『変化』によってみるみる内に治療されていく。
「まさか、自分の脚がメチャクチャになること前提で、アレをやったって言うの…?」
「……ルーミアさん。あいつに常識は通用しません」
紅夜の言う通り、もうデンドロンに常識は通用しない。自分の被害や怪我を顧みず、ただ目の前の敵を破壊し尽くすだけの殺戮兵器と化しているデンドロンには、もう全力で相手をしないと、勝てる相手じゃなくなっている。
「輝夜さんを放せ!!」
地面を蹴り、輝夜の頭を今だに掴んでいるデンドロンに、刀を振り下ろす。
刃が当たる瞬間、デンドロンは後ろを振り向いて刃を素手で掴み、血が垂れる。
「く…ッ!!」
「命令執行邪魔スルな。お前も殺して―――」
その瞬間、マクラがデンドロンの顔付近に急接近して、脚を拳のようにしてデンドロンの顔に直撃させる。
衝撃で体が浮きながら後方へと飛んでいき、木々をなぎ倒し砂埃を上げながら吹っ飛ばされていった。
「<(`^´)>」
「マクラ…ありがとう。そうだ、二人の怪我を繋ぎとめてくれ!!」
「(-_-)/~~~」ピシー!ピシー!
マクラは糸を放出して、包帯代わりにして二人の怪我を包む。
「二人は大丈夫なの?」
「……どうやら、気絶しているみたいです」
二人は気絶していた。
いくら不老不死の蓬莱人でも、気絶してしまえば動くことはままならない。そこをおそらくデンドロンは突いたのだろう。今のデンドロンにそんなことを考えることができるかどうかと言われれば不安になるが、偶然だとしても結果は変わらない。
「マクラ。二人を糸で包んで安全な場所まで運んでくれ」
「('◇')ゞ」
マクラは二人を蜘蛛の繭のようにして二人を包むと、担いでデンドロンが吹っ飛ばされた方向とは真逆の方向へと走っていった。
「これで、心置きなく戦えるけど、一気に戦力が減ったわね…」
「仕方ありませんよ。今は、目の前のことに集中しましょう!」
武器を構えて待っていると、デンドロンがゆっくりと歩いてきた。マクラにやられた傷が相当なのか、首をコキコキと鳴らしながら、不穏なオーラを纏っていた。
「ああああああああ!ころす!殺す!コロス!!あのクも、おレノかオをこンなニしヤッがテ!!」
顔を殴られたことで語呂や口調がおかしくなったのか、はたまた発狂によっておかしくなったのか、言葉がメチャクチャになっていた。
目を充血させて、握りこぶしからは血が流れる。頭を掻きむしり、強引に引っこ抜く。その様は、まさに恐怖だ。
「なにあれ……ホラー映画でももっとマシな絵面になるわよ?」
「……ルーミアさん、来ます!」
デンドロンは引っこ抜いた髪の毛を投擲する。それは一瞬にして針状に『変化』して二人を襲う。
それを左右それぞれに避けて、ルーミアは地面に手を付けて、デンドロンに向けて『闇』を広げた。
「アぁ……?」
『闇』の沼に足がハマったデンドロンは、その場から動けなくなる。
「今よ!」
「はい!」
『妖力纏い』を発動し、刃に妖力を纏わせてデンドロンの首を狙って今度こそ斬りぬかんと振り払った。
だが、さらにデンドロンは狂気的な行動に出た。
「あぁあああ!!」
デンドロンは、
もっと分かりやすく説明すれば、口が開いている状態で、刃が口を貫き、後頭部から鮮血が垂れる刃が丸見えになる。
「―――ッ!!」
「あひゃぁぎゃぎゃがひゃ!!」
何を言っているか分からない。それよりも、デンドロンのとった狂気的行動に、言葉を失い思考が停止してしまい、次になにをすればいいのか分からなくなってしまっていた。
その隙を突いて、デンドロンは次の行動に移す。
――ザクッ!!
「ッ!?」
「嘘でしょッ!!?」
デンドロンは刃となった弓で闇の沼にはまった自身の足を斬り、無理矢理拘束から外れる。さらに斬った足を足場にして、跳躍。紅夜の頭の上空を掻い潜って背後を取りホールドされた。
「しまったッ―――グっ!!」
「げひひひひ!!ひゃはひゃは!!へへへへ!!」
刃となった弓の先端で、紅夜の体を何度も串刺しにする。鮮血が舞い散り、紅夜の苦痛の悲鳴が、ルーミアの鼓膜に響く。
一刻も早く彼を助けたい。だが、このまま攻撃すれば彼にもダメージが及んでしまう。ルーミアは、精一杯、困惑する頭を冷静にして、解決策を見出そうと―――、
「やられっぱなしで…いてたまるか!」
紅夜が叫ぶと、空中に無数の石礫が浮遊する。三百六十度、隙間なく。それを、自分ごと被弾するように発射した。
「ああああああああああぁあああ!!」
デンドロンの汚らしい叫びが響く。砂ぼこりが舞い、中がどうなっているのか、全く見えない。ルーミアは杜撰に、適当に妖力を手に纏わせて、腕を薙ぎ払った。衝撃で突風が舞い、砂ぼこりを一瞬にして晴れさせた。
埃が晴れたその場所には、膝をついた紅夜がいた。体の所々から血を流して、気絶しているように見えた。
「紅夜!!」
ルーミアは走って、紅夜の元へと駆け寄ろうとする。
が、しかし、焦りすぎたあまり、ルーミアは一つ重要な失念をしていた。
―――デンドロンがその場にいないということを。
―――ザクッ
「……え?」
突如聞こえた、鈍い、何かを貫く音。その音の出所は……自分の腹。なにが起きたかとゆっくりと見てみると、そこには見慣れた弓の先端が、自分の腹を貫いている現状だった。
状況が理解でき、ゆっくりとその場で倒れ伏す。
「バか、バカ、馬鹿なおばかさん……。まるで王子と結ばれなかった哀れなお姫様!!ひゃははははは!」
「デン、ドロン……!!」
そこには、服がボロボロになりながらも、『変化』の力で体の損傷が完全に回復しきっているデンドロンの姿だった。
「はいそうです、ヘプタ・プラネーテスの一人、デンドロン・アルボルです!!よろしくね可哀そうなお姫様!!ハハハハハ!!」
「笑ってんじゃ、ないわよ…!」
その笑い声を聞くだけで、虫唾が走る。気持ち悪い。今まで何度も生理的嫌悪を感じる嫌な男どもを見てきたが、デンドロンは別のベクトルで生理的嫌悪を感じる。
話が通じそうで、通じない。今までで一番厄介な相手だ。
「痛いですか?痛いですよね!!そりゃそうだ、腹に『木』がぶっ刺さってるのだから!」
「だから、なんなのよ…!!」
「だって、俺、『木』のヘプタ・プラネーテスですよ?『木』を使うのは当たり前じゃないですかアハハハハハ!!」
言ってることが、無茶苦茶で支離滅裂だ。言葉の主語が分からない。と、言うより何を伝えたいのか全く分からない。
「言ってる意味、全然、分かんないわよ…。もっと、分かるやすく言いなさいよ、このイカレ野郎…!」
「ハハハハハハ……って、俺、なんで笑ってたんだ?まぁいいや!命令執行、殺そ、殺そう、殺しちゃおう♪」
先ほどの会話の内容も忘れ、愉悦に浸りながら『命令』に従ってデンドロンは対象達を殺そうと足りなくなった頭で模索する。
だが、そんな頭でまともな案が出るワケもなく、
「んー、まぁどうでもいー!ていうか殺すって誰を殺せばいいんだっけ?………まぁ全員殺せばいいよな!」
ついには殺害対象であろう二人のことすら忘れ、全員を殺せばいいと言う思考に帰結してしまった。
「とりあえず、君から殺っちゃおう。えぇと…臘月様、確か言ってたなァ。女は凌辱して絶望させるのが一番良いって」
「――――ッ!!」
そのとき、ルーミアの全身に悪寒が走る。『凌辱』と言う言葉が出てきた時点で、女性がどのような結末に至るかは、目に見えている。
今すぐ、なんとかしてこの場を切り抜けないといけない。しかし、開いた傷がどうしても塞がらない。おそらく、『変化』の力で再生が遅延している。
「――――」
「………?」
「ねぇ」
「な、なに、よ…?」
デンドロンは、痛みで地面に伏しているルーミアの顔を見下ろしながら、尋ねた。
「凌辱って、なに?」
「――は?」
「だってだってだって……臘月様はそう
「な、何言ってるの、コイツ…?」
さらに増々意味が分からなくなる。言っていることと思考がバラバラでそこに自分の意思と言うのが感じられない。
だが、自分の意思で『凌辱』の意味を聞いているのだろうが、それでも不気味さは変わらない。
「どーすればどーすればどーすればァアアアアア!!!」
デンドロンは自身の頭を木に叩きつけて殴打する。その度に頭から血が噴出し、かなりエグい絵面になっている。
それを10秒ほど続けていると、ピタッと、デンドロンが自傷行為を止める。
「あー思い出した…。凌辱って、とりあえず全裸にさせればいいんだ」
「ひッ!」
「あ、もしかしてその反応、当たり?当たりだよな、正解だよな、間違ってないよなぁ!!やったやったやった!これで臘月様への忠誠が嘘じゃなくなった!さて、と……」
ギョロっと、デンドロンの瞳がルーミアに向いた。凌辱の意味の一部を理解した彼は、主への忠誠の証として、主の言葉をそのまま再現するために動く。
「うッ…」
恐怖で身がすくむ。今すぐにでも、この場から逃げ出したい。でも、それをすることはできない。このまま自分が逃げれば、紅夜が今度の標的になって、
そんなことにはなりたくない。その一心で、まだ回復しきっていない体を、闇の剣を松葉杖代わりにして立つ。
「うん、良いね。いいと思うよ。そうじゃないきゃダメなんだ。臘月様は言っていた。その目!その瞳!その反抗しようと抗う気概!臘月様は言っていた!そう言う女の方が堕とした時の快感がたまらないって!実行したい!やってみたい!その快感を、味わってみたい!!」
「やらせるわけ、ないでしょうがぁあああああああ!!!」
闇の剣を全力で振るって、目の前の敵を全力で排除すべく声を荒げて――、
「うあああぁああああああああああああああ!!!」
その時、ルーミアの両真横から視認できないほどのスピードで
「え……ッ?」
「すまない、ルーミア。諸事情で遅れた。良く持ちこたえてくれたな」
「さっきマクラとも合流した。彼女になら、妹紅も任せられるしね。それに、まだ誰も死んでいないようで安心した」
「あんたたち……来るのが遅いのよ…!!」
そこに現れたのは、金髪のサラシを巻いた女性と、全身を白装束で統一している男性だった。
そう、ライラとシロ。
今ここに、二人の『権能』持ちが、集結したのだ。
* * * * * * * *
「大丈夫か?ルーミア」
「今傷を治すから、じっとしててね」
シロがルーミアの傷に手をかざすと、その傷がみるみると塞がっていく。『変化』の力を易々と破り、上書きするあたり、流石だ。
「シロ!紅夜も頼む」
「あぁ、もちろんだ」
シロがその場から紅夜に向けて手をかざすと、薄緑色の粒子が紅夜に向けて飛んでいき、その粒子がみるみる内に傷を治していく。
ライラは紅夜の元へ駆け寄り、肩を揺さぶる。
「おい紅夜!しっかりしろ!」
「ん、あ……師匠…?」
「あぁそうだ!よかった、無事で…」
「師匠こそ…ご無事で、良かったです。信じて、待っていたかいが、ありました…」
回復したばかりか、口調が今だに途切れ途切れだ。だが、喋れると言うことはそれなりに回復しているはずだ。
「馬鹿者め…。だが、それでこそ私の弟子だ」
ライラは珍しく、涙ぐんでいた。出かけた一滴の涙を指で拭く。
「感動路線に入っているところ悪いけど、まだ終わってないよ」
「おっと……そうだったな。回復したところで悪いのだが、ルーミア。アイツの能力がなにか、永琳から聞いていないか?」
「そうだったわ。アイツの能力は『変化』。あらゆるものを変化する力よ。それだけじゃなくて、アイツ自身も大分頭がイカれていて、自傷行為もしでかす奴よ」
「……僕の知っているデンドロン像と大分離れてるんだけど。前に見た時はそんな狂人チックじゃなかったんだけど?」
「困惑しているところ悪いが、ルーミアの言っていることは本当だ。一瞬だけだったが、アレは正気とは思えない。そして、その原因はあの力が関係しているはずだ」
「―――あぁ、そういうことか。道理で、デンドロンの魂が回収できなかった訳だ…。臘月はともかくだけど」
「え、え?」
ルーミアの知らないところで、二人の間でどんどんと話が進んでいく。正直、訳が分からない。
「少なくとも、デンドロンの件は
「……どういうことだ?」
その言葉に、ライラも首を傾げる。途中までついて行けたのに、この話題になった瞬間ついて来れなくなっていた。
正直、話の手順がもう曖昧で分からない。
「あぁ……もっと分かりやすく説明するとね、デンドロン・アルボル。アイツは『権能』に覚醒している」
「えっ、嘘でしょ!?」
ルーミアの顔が、驚愕で染まる。
『権能』。それは言い換えればバランスブレイカー、チート、反則だ。そして、ライラとシロが持っているものと同じである。
道理で、自分達の攻撃が通用しないわけだ。ルーミアは、この三年間で『権能』のについて詳しいことをシロと零夜から聞かされているため、話について行けている。無論、紅夜も同様だ。
そこに、回復した紅夜が話に参加する。
「『権能』って…シロさんと師匠の力と、同じ力、なんですか?」
「あぁ。だから、心配だったんだ。『権能』と『能力』の絶対的な力の格差がある以上、どれだけ耐えていられるか、不安だった」
「あんなイカれた奴でも、覚醒できるのね『権能』って…」
「『権能』に善も悪もない。まぁ、個人の考え方で変わるけど…」
『権能』は、覚醒の基準が個人によって変わる。故に、条件さえ揃っていればあとは基準を満たすだけで『権能』に覚醒できるのだ。
それを知って、その『基準』も知りたかったが、それを知ると逆に難しくなるからと教えられなかった記憶が新しい。
「それにだ。アイツの覚醒の仕方……明らかに手順を踏んでいない。『権能』に無理やり覚醒してやがる!」
「「ッ!?」」
「どういうこと、それ!?」
「そのままの意味だ…。あの男は、無理矢理力を手に入れたようだ。私たちには分かる…。あの歪なオーラは、その証拠だ」
『権能』持ちにしか分からない、『権能』特有のオーラ。その歪で不快感すら感じるオーラ。正当な手順を踏んでいないからこそ感じる悪寒だと、ライラは言う。
「でも、そんなことが可能なの?」
「現状、そんなことが可能なのは、『俺』は二人しか知らない。でも、そこら辺の話はいつかするとして―――来るよ」
全員が目の前を見ると、ゆっくりとデンドロンが歩いてきていた。
「あぁ…痛い、辛い、苦しい!でも嬉しい、愉快だ、愉悦に浸れている!ぶっ殺せる奴が倍に増えたから!」
二人に殴られたデンドロンの顔の傷は、ゆっくりながらも完治に向かっていた。
ルーミアと紅夜の攻撃が効かなかったのは、デンドロンがすでに『権能』に覚醒していたからだ。二人が大怪我を負うのも、無理はなかった話だった。
今まで、デンドロンが怪我をした理由は自傷によるものだ。故に、『権能』と言う可能性を完全に捨て去ってしまっていたのも、一つの認識ミスの理由だ。
「それに、その力の波動!俺と同じだ、同一のものだ!私は嬉しい!俺も嬉しい!僕も嬉しい!嬉しさマックスでハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」
「分かってはいたけど、やっぱりキモい」
「奴の言動など気にしても無駄だ。アイツを相手できるのは、私たちだけだ。気合を入れていくぞ!」
一人称も何を伝えたいのかも分からないデンドロンの高笑いに、引くシロ。言動を無視してシロに喝を入れるライラの姿は、なんと男らしいか。
「それじゃあやろうかやりあおうか!」
デンドロンは背中にある矢筒から矢を取り出して、指と指で挟む。それを投擲すると、速度が『変化』して、剛速球の如く、二人の体を貫通させるために向かってくる。
「ふんッ!」
「よっと!」
ライラは刀で、シロは召喚した剣で薙ぎ払う。
進行方向がずれた矢は軌道が逸れ、森林を
「行くよ」
「分かっている!」
二人は己の獲物を手に取り、デンドロンに向けて武器を振るった。
――権能力者同士の戦いが今、始まる。
どうも、今回のまとめです。
キャラが定まっていないデンドロン参戦!スマブラ風に言ってみたけど、やっぱり異常だわ。
そして、デンドロンの能力――『権能』が『変化』であることが明かされましたね。ヘプタ・プラネーテスの中では
名前も、能力も、すべて『木』には全く関係ないのに、どうして臘月は光輝を『木』の席に据えたのか、今だに真意が分かりませんね。
未来のデンドロンは『権能』持ちじゃない零夜でも倒せていたので、『能力』止まりだったことが示唆されてますね(『権能』持ちでも自傷すればダメージは入る。事実、18話での紫の攻撃でシロが一度死んでましたけど、あれは『自傷』だったんですよね。
いつか言おうと思ってましたけど、いつ言うか迷ってたんで、今言いました。
デンドロンは精神面でかなりおかしくなった影響でアドレナリンが過剰分泌して痛みをほぼ感じない体質に変化しています。
そのせいで自分の体がどうなろうがお構いなしに『変化』を使いまくって破壊と再生を繰り返す【ヘルライジングホッパー】状態です。
これって、かなりまずいですよ。
最後に、デンドロンが無理やり『権能』に覚醒したことなんですけど、シロが言う二人はもう存在が明るみになってるんですよね。
覚えてましたか?
それでは、また次回!
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―――なんで、デンドロンはアタッシュアローのこと知ってるんだろう?