東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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51話を改稿しました。『権能』の設定とか微妙に変えているので、乗り遅れないように見て行ってください。




70 不死鳥暴走注意報※

――痛い。最初はそれだけを感じた。

 痛くないはずなのに、痛い。なんで?どうして?いや、違う…。痛いのは体じゃない。心が痛いんだ。

 でも何で?この三年間、暖かい人たちに囲まれて、笑って、怒って、たまに泣いてを繰り返して、本当に楽しい日々だったのに、なんで?

 

……痛い?違う、熱い。なんで?どうして?

 

 

「……え?」

 

 

 私はゆっくりと目を開けた…え?なんで!?どうして!?

 

 

燃えてる…私の体が!

 

 

 力の調整は出来ているはずなのに。「よくできたね」って、シロさんに褒めてもらったのに。どうして!?

 困惑して、髪が揺れる。……えっ?なんで髪の毛が白くなってるの?

 

 分からない、分からない、分からないよ!!怖い、怖い、怖い!!自分の体が怖い!自分の力を抑えきれないのが怖い!髪が白くなっているのが怖い!なんで、どうして!?ねぇ、誰かいないの!?

 周りを見渡しても、そこには誰もいない。……あれ?

 

 私は足元を見る。そこにはマクラの糸で包まれて顔だけを出している女の人が二人いた…。一人はかぐや姫…でも、最後の一人は()()()()()()()()()

 

―――怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

 

 でも、一番怖いのは…なにが怖いか分からない。どうして私はこんなに震えているの?どうして私はただ眠っている人をこんなに怖いって思うの?何に怖いと思っている分からないことが、一番怖い!!

 

 逃げなきゃ、逃げなきゃ!!

 

 私は走る。森の奥深くへと。怖いから、恐ろしいから、恐怖で染まっているから。そして、何故そこまで『恐い』のか分からない自分が、一番怖いから。

 

 

「ここまで、くれば…」

 

 

 そこで私は気付いた。燃える体で、私は逃げていたことに。

 火の消し方が分からない。とりあえずいつもの水辺に行けばいいかもしれないけど、闇雲に走って、私は迷子になった。

 

 どうしよう…怖い!炎のおかげで周りは明るい。でも、燃えているのに熱いと思えない自分も怖い

 どうしたら、どうしたらいいの!?

 

 

――ガルルル…

 

 

 そんな時、物陰から、妖怪が出てきた!

 

 

「キャアアアアアアア!!」

 

 

 私はあまりの恐怖に悲鳴を叫ぶ。この炎だ。この炎を目印に、妖怪が私の所に!なんで、どうして!?どうしてこんなことになっているの!?ねぇ怖いよ、誰か助けて!

 

 ……そうだ、あの男の人だ。血塗れの男の人を引きずりながら急に現れて、私に変な薬を飲ませたあの男の人!あの薬が、私をこんな風に…許せない。あの男の人が、許せない

 

 私は抜けた腰を立たせて、目の前の妖怪を見据える。そうだ……全部敵だ。

 全部、燃え尽きちゃえ!!

 

 

 

―――。

 

――――。

 

―――――。

 

 

 

 気づけば、私の周りは火の海だった。周りの木々は燃えて、あの美しかった緑は一つも残っていない。あるのは、黒と赤色だけ。

 これを……私がやった。そんな、そんな、そんな!?何で私、こんなことを…!?分からない、分からない、分からないよ、怖いよ!!

 

 

「アアァアアアアアアアア!!」

 

 

 私は悲鳴を上げた。こんなの、こんなの認めたくない!まるで、父親に散々言われた“化け物”そのものだ

 認めたくない、誰にも見られたくな―――、

 

 

「「―――――」」

 

 

 見られた。よりにもよって、あの二人に。シロさんに、ライラさんに!見ないで、見ないで!私を、そんな目で見ないで!

 お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い!!

 

 お願いだから―――こんな“化け物”の私を見ないで!!

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

「アアァアアアアアアアア!!」

 

 

 

 目の前で暴走し、炎をまき散らす妹紅を見て、二人は唖然としていた。どうして妹紅がこのようになってしまったのか分からないからだ。

 

 

「どういうことだ…!?どうして妹紅が!?」

 

 

 目の前の状況が理解しきれないライラは、そう叫ぶ。ライラは、今までの妹紅に起こった惨劇を、理解しきれていない。

 何故髪が白くなっているのか、何故炎を扱えるのかを、ライラは知らない。

 

 

「力が暴走してる…妖術をコントロール出来てない!」

 

「それもおかしい!何故妹紅が妖術を扱える!?何故だ!?」

 

「……僕が教えたからだよ」

 

「―――なんだと?」

 

「僕たちの終着点までの道のりは危険だ。彼女の面倒をずっと見ているわけにもいかない。だから、一人でも生きていけるように教えておいたんだ」

 

 

 シロはこの三年間、妹紅が一人でも生きていられるように妖術を教えていた。その内容は、本来妹紅が、長い年月の中で妖怪退治を生業としてきたためか様々な妖術を独自に身につけていくはずの炎の妖術を、いち早く妹紅に教えていたのだ。

 本来の時間軸でも炎の扱いを得意としてきた妹紅だ。様々な妖術よりも、炎の妖術に関してのことを一点集中で教えることで、彼女の炎の妖術は更に完成度が高くなっていた。理由としては、現代知識も教えているからだ。

 

 だが、それが最悪な形で発現してしまった。暴走と言う形で。

 

 

「理由は分かったが…これが人間の幼子に出せる力なのか!?明かに異常だぞ!?」

 

「異常なんだよ!少なくとも今の妹紅は――半分人間を辞めているようなものだ!」

 

「意味が分からん。つまりは!?」

 

「要点だけ話すと、ある奴にとある薬を無理やり飲まされて、そのせいでああなった!以上!」

 

「分からんが…とにかく分かったことにする!今は、妹紅を止めるぞ!」

 

 

 要は蓬莱の薬の影響で妹紅の体は霊力(エネルギー)容量が底上げされ、ライラたちと同様の力を持ったことになるのだ。

 そして、その力が感情が安定しないことによって極限まで暴走を起こしている。

 

 このままでは、妹紅の体が強力な霊力(エネルギー)に耐えきれず、いつ爆発してもおかしくない状態だ。

 

 

「そのためにも、まずはこの山火事を消すか!」

 

 

 シロが頭上に手を挙げると同時に、この燃え盛る森の中で、一滴の水滴が落ちてきた。

 

 

「なんだ…?」

 

 

 ライラが頭上を見ると、そこには巨大なまでの水球が存在していた。そのサイズは、燃えている部分を完全に覆い隠せるほど、巨大な水の塊だった。

 

 

「お前、まさか――!」

 

「落ちろ!」

 

 

 殺戮の滝が、灼熱の森へと投下される。死の滝は炎を浄化し、沈静する。

 そこに残ったのは倒壊した黒ずんだ木々のみ。その中心には、毎度の如く濡れていないシロが佇んでいた。

 

 

「やっぱ、広範囲を消火するにはこの方法が一番だな」

 

「おい……私まで潰す気か!おかげで服がグチャグチャだぞッ!」

 

「あぁゴメンゴメン。許して―――」

 

 

 その瞬間、シロは固まった。呼吸が、思考が、体の動きが、目線が。そんな時でも、シロの目線はある一点へと注がれていた。

 先ほどの水爆弾で半径3キロの木々は倒壊した。それほど水圧が強大だった証拠だ。当然、先ほど言った通りシロと言う例外を除いた場合、妖怪であるライラでも無事では済まない。――当然、『服』も

 

 

「ん?一体どこを見て―――」

 

 

 その瞬間(とき)、ライラも固まった。その時のライラの感情は『困惑』―――よりも『羞恥』が勝った

 ライラのサラシが外れていた

 

 

「――――」

 

「ヒニャァアアアアアアアアア//////!!!」

 

 

 ライラは今までに聞いたことのない可愛らしい悲鳴を上げ、胸を手で抑え付けて赤面しながら後ろに振り向いて見られないようにする。

 

 

「み、見るニャァ!」

 

 

 さらに今まで聞かなかった可愛らしいネコみたいな声にシロは更に困惑する羽目になる。そして、『権能』による情報処理能力ですら5秒と言う時を有してようやく状況の整理ができたシロは、一言。

 

 

「以外とお前の胸ってデカかったんだな。90くらいあるのか?」

 

「ぶっ殺すぞ貴様!!」

 

 

 まさかのセクハラ発言だった。先ほどまでのシリアスはどこへ行ったのやら。確かにライラの胸はいつもサラシで見えなくて、不明だったが――。

 当然の反応が返ってきて、ライラの恥ずかし度はさらに上昇する。

 

 

「それに言葉が猫っぽく…。もう一回言ってくれないかな?」

 

「ふざけるのも大概にしろ!いいから早く隠せるものをくれ!なにかないのか!?」

 

「……サラシならもう一枚あるけど」

 

「じゃあそれをよこせ!今すぐに!」

 

 

 シロは懐からサラシを取り出し、ライラに投げ渡す。それと同時に、ライラは光の速さで己の胸にサラシを巻いた。

 

 

「―――///」

 

「いやー、災難な目にあったね」

 

「誰のせいだと思ってる!?」

 

「はいはい。良いでしょ別に。僕は眼福(がんぷく)になって妹紅の炎も消火できた。皆幸せ万々歳じゃないか」

 

「私には一個もいい事がなかったぞ!?」

 

「いいからいいから。とりあえず妹紅を探さなきゃ――」

 

 

 その時、ある一か所が燃え上がる

 

 

「「―――ッ!!」」

 

 

 その明らかな異常をすぐに感知した二人は、炎の奥を見る。そこには、一つの人影が炎の奥にあった。

 その人影は、妹紅だった。

 

 

「そうだった…!いくら炎を消しても、術者をどうにかしないと無意味だった。ライラのせいで忘れてたじゃないか」

 

「誰のせいだと思ってる!予告もなしにあのような水弾(みずだま)を投下するお前が悪いんだろ!?」

 

「いや、君のおっぱいの破壊力がデカすぎたからさ、それって結果論で君が悪くない?」

 

「なんだその責任転嫁は!?これが終わったら覚悟しろ!」

 

 

「アァ…燃ヤシテヤル。ナニモカモ、燃エ尽キチャエ!!」

 

 

 ―――が、その空気も暴走している妹紅には関係ない。

 瞳も炎のように燃え上がり、全身が炎で燃え(たぎ)り、まるで地獄の悪魔の化身のようだ。

 

 

「おっと。どうやらあちらは待ってくれないみたいだ…」

 

「…とりあえず、どうする?」

 

「怪我などさせずに暴走を抑え込ませたいし…一番の方法は、力を使い切らせることかな」

 

「つまり、耐久戦と言うことか。防御と回避に徹しればいいな」

 

「まぁ君はそうだね。いくら火傷しないとはいえ、服、燃えて全裸にならないようにね」

 

「もうその話を引きずるのはやめろ!クソっ、こんな奴に私の体を見られるとは…」

 

「まぁもうその話はいいじゃないか。『僕』は気にしてないし。それよりも――来るよ」

 

 

 瞬間、妹紅が両手から二撃同時に炎の渦を発射する。ライラは即座に抜刀して、炎の渦を二等分にして、ライラの後ろ両隣で爆発が起きる。そしてシロは、特に防御もすることなく炎の渦を間近に受ける

 

 

「な―――ッ!?」

 

 

 特に受け身の素振りも見せずにそのまま直撃したシロに絶句した。そのまま炎が消えるのを待つと、無傷で服がノーダメージ状態のシロがいた。本当に、いつものことだけど。

 

 

「ハァ!?」

 

「なに?驚いた?僕がこの程度でやられるわけないじゃないか。だって僕たち、『権能』持ちじゃないか」

 

「そうじゃない!なんで服が燃えていない!?」

 

「あぁそっちのこと?僕の『権能』は身に着けているものにも適応されるからね。『権能』以外の自然攻撃なら、完全に防御(ふせ)げるよ」

 

「……もう私要らなくないか?お前だけで妹紅をなんとかできそうだぞ?」

 

「いやぁいるよ。まず第一に―――」

 

「燃エロ!!」

 

 

 不死鳥を模った炎が、翼を閉じるようにシロを包んだ。その熱気は地面を溶かし、ガラス化するほど。近くにいたライラも、その熱気に押された。――そして飛び火して服に着火する。

 

 

「うわわわわ!!」

 

 

 すぐに服をはたいて鎮火して、飛び火しないように離れる。それが続いて約10秒のとき、炎の鳥が霧散して、温度も一瞬にして平常に戻る。

 

 

「―――ッ!?」

 

「暴走して忘れちゃったかな?君の力は僕には通用しない。……どうせならライラの服を燃やしてくれ

 

「貴様は私に恨みでもあるのか!!?三年前か!?三年前のあの洋館でのことをまだ引きずってたのか!?謝るからこれ以上私の服を燃やそうと画策してくるな!」

 

「あー……それ、一応3、4割程度の理由なんだよね。本当の理由は―――もっとふざけていたい

 

「斬るぞ貴様ァ!そんな私的な理由で全裸になってたまるか!」

 

「いいじゃんいいじゃん。正直、『俺』は、いつまで『僕』でいられるか分からないし

 

「―――」

 

 

 先程までのおふざけモードとは違った、言うなればシリアスモード。その顔はフードで分からないが、焦燥感や寂寥感、何やら寂しい雰囲気を感じさせた。

 『俺』はいつまでも、『僕』と言う化けの皮を被っているわけにもいかない。そう言いたげな顔だ。

 

 ライラもライラで、なにか事情を知っていそうな顔だった。洋館(キャッスルドラン)での出来事について、言っているのだろう。

 まだ、その時彼が付いた『嘘』がなんなのかは、分からないが。

 

 

「いや、だとしても私の服を燃やそうとしてくることなにか関係あるか?」

 

「―――」

 

 

 正論がシロに突き刺さる。確かに何かしらの事情があるとはいえ、女性の服を燃やそうなどと画策する理由にはならない。と言うやってること自体が最低だ。

 

 

「いや、正直言うとね。今だけ、今だけはシリアスとか完全に無視して、(ライラ)揶揄(からか)いたいんだ

 

「ふざけているのか貴様!」

 

「だってさ、君は服だけが燃えて僕は何ともない。実に見ごたえのあるシーンになると思うんだ!

 

「……お前には別の意味でゲレル以上に怒りを覚えそうだ…。―――ん?何故、妹紅は攻撃してこない?」

 

 

 阿保(アホ)みたいな会話が繰り広げられる中で、ライラは疑問にたどり着いた。何故か、妹紅が一向に攻撃してこないと言う事実だ。

 暴走状態で、会話など無理だった妹紅が、全く動いていない。疑問を感じずにはいられなかった。

 

 そんな時、シロが一歩前に出た。

 

 

「もう、いいんじゃないかな?」

 

「シロ―――?」

 

「君に、暴走なんて似合わない。そんな、恐怖に染まった顔は似合わない。僕には分かる。その炎の奥の君の顔は――悲しい」

 

「―――」

 

 

 妹紅は動かない。逆に、シロはどんどんと歩みを進めて、妹紅に近づく。

 

 

「さっきゴメン。まさか、アイツがあんなところで来るなんて予想だにしなかった。怖かったよね。無理やりそんな風にされて…。でも、僕は大丈夫」

 

 

 ついにシロと妹紅の距離は近づき、シロは妹紅をギュッと抱きしめた。燃えていることなど、お構いなしに。自分に炎が燃え移っていることなど、気にもせずに。

 

 

「こっちに帰っておいで。今みたいに、馬鹿なことやって、阿保みたいな会話繰り広げて、怒って、笑って、嬉し泣きする。そんな日常に帰っておいで」

 

「ア、ア……」

 

(反応した!?……まさかアイツ、このためにあえてあんなことを…?)

 

 

 そこでライラはようやく気付いた。何故シロはあのようなことをしたのかを。何故空気も読まずにあのような会話を繰り広げたのかを。

 あれの本当の目的は、暴走している妹紅を、日常に連れ戻すためにやったことだったんだ。

 

 

(いや…それでも許さん。とりあえずこの件が終わったらアイツの首を絞めよう)

 

 

 そう心の中で決意するライラの目の前では、優しい声で語り掛ける、シロの姿。

 

 

「もういいんだよ。だから、すべて解放して、眠れ。大丈夫。僕は―――『俺』は、絶対に死なない」

 

「ウ、ウアァアアアアアアアア!!!」

 

 

 妹紅の声と同時に、二人を中心として火柱が立った。その柱は天にまで高く上り詰め、漆黒の夜空を赤く照らした。

 

 

「こ、ここまでの力を、貯めていたのか!?これを全部まともに出し切っていたら、一体どのくらいかかったことやら…」

 

 

 シロの行動は、ある意味正解だった。時間がないこの状況で、無駄に時間を喰っている暇はない。だからこそ、一気に妹紅の力を消費させることで、解決しようという一種の荒業。

 そんなことをすれば、妹紅もただでは済まないが―――ライラには確証があった。それを軽減するために、シロはあえて近づいたのだと。

 

 

「―――――」

 

 

 炎の柱が立ってから、約1分。炎の熱の勢いは更に増し、炎に直接触れていない部分の地面でさえもガラス化するほどの熱量が放たれていた。

 ライラはそこから大分離れた場所で、柱を見守った。

 

 さらに数分後、炎の柱はついに崩れ落ちた。それを見届けたライラは、二人の元へと移動した。

 そこに立っていたのは、疲れて眠り落ちている妹紅を抱えている無傷のシロがいた。

 

 

「――――」

 

「やぁ、こっちは終わったよ」

 

「妹紅は…」

 

「見ての通り、ぐっすり眠ってるよ。悪いけど、もっててもらっていいかな?」

 

 

 シロは寝ている妹紅をライラに渡し、シロは目線を“月”へと向けた。

 

 

「―――あっちも、大分終わったようだけど、かなり面倒なことになってるね。まさか龍神が来てるなんて

 

「龍神?あの神がどうしたのだ?」

 

「いやぁー…まぁとりあえず。ポジションチェンジだね

 

「ぽじしょんちぇんじ?」

 

「あぁ、ライラには分からない単語だったね。まぁ簡単に言えば“立ち位置の変更”かな」

 

「―――?」

 

 

 訳の分からないまま、ライラはシロの行動を傍観する。

 

 

「零夜。そっちはどうかな?ん、あぁこっち。聞いてよー、デンドロンが襲撃かけてきてさ。さらには『権能』に覚醒してたんだよ?あり得ないくない?まぁ倒して捕まえたんだけどさ」

 

(夜神と会話しているのか…?相変わらず謎の原理だな)

 

「それでさ、そっちに龍神行ってるでしょ?それってなんで?へぇ~うんうん、それで?―――マジか。龍神サマサマだな」

 

(―――?)

 

それが空真たちの性格改変の真相か…!道理で腑に落ちなかったワケだ。謎はすべて解けた!じゃあ今からそっちと交換するから」

 

 

 そこで、シロは通信を切った。先ほどの話の内容から察するに、何やらこちらにとってかなり有利な情報が入手できたようだ。

 

 

「なにか、いいことでもあったのか?」

 

「良い事どころの騒ぎじゃない。龍神からの情報と、妹紅に触れて見つけた、ヤツ(臘月)の『権能』の残滓(ざんし)から統合するに、ヤツの『権能』は―――アレだ」

 

 

 全てのピースがハマったような表情を見せているのだろうが、フード越しでそれは分からない。だが、今までにない愉悦(えがお)で満たされていることは間違いない。

 

 

「臘月の奴、墓穴を掘ったな。自ら自分の権能の正体を明かしてくれるなんてなァ…。となると、奴がレイセンを含めた『玉兎』を虐げていたのも、他に理由があったからか!

 

(どうやら、私が入り込む余地はないみたいだな…)

 

「それじゃあ行ってくるよ。ぶっ殺してやる、臘月ッ!!」

 

 

 対象への殺意を剥き出しにしながら、シロはその場から姿を消し、逆に白いTシャツと黒いズボンと薄長い黒コートを着用した男性へと立ち位置が入れ替わった。

 シロと入れ替わった零夜は、隣にいたライラを見て、すぐに駆け寄った。

 

 

「やれやれ…殺意マシマシだったなぁ、シロのやつ。ここまで声が聞こえたぞ?」

 

「そうだな…。途中で会話が分からなかったが、どうしたのだ?」

 

「さぁ?俺には分からん。だが、俺にやれることはやった。こっちでの不安要素を限りなく無くしとくことに心血を注がないとな。デンドロンはどこだ?」

 

「あっちで簀巻きにしてあるはずだ。何重にも縛ったから、抜け出せないはずだ」

 

「そうか…。なら、行ってみるか。ルーミアと紅夜は?」

 

「あの二人なら遠くに逃げてるはずだ。問題ないだろう」

 

「そうか」

 

 

 とりあえず安心した零夜とライラは、デンドロンが縛られている場所へと向かう。

 

 

―――としたその時、一匹の狼妖怪が燃え尽きた木々を掻き分けて飛び出してきた。

 

 

「「―――ッ!!」」

 

 

 即座に武器を構えようとした二人だったが、一瞬にして動きが止まった。

 

 

「「――――」」

 

「グ、ガ、ガガ……」

 

 

 動きが止まったのは、零夜とライラだけじゃない。妖怪の動きも、止まったのだ。

 そして、止まったと思った瞬間に動きがあった。妖怪は、前ではなく後ろに引っ張られていった。

 

 倒壊し、燃えた木々が景色を遮り、奥が見えない。だが、聞こえてくる、咀嚼音。

 

 

クチャ クチャ グチョ バキッ ゴキッ ゴリッ

 

 

「「――――ッ」」

 

 

 この奥に、捕食者がいる。ここからあそこまでの距離は、かなりある。そこまで腕?尻尾?舌?とにかく体を長く伸ばせる捕食者がこの奥にいて、既に自分達がロックオンされている可能性が高い。

 それに、逃げるつもりなどない。

 

 緊迫した空気が周りを包み、固唾を飲みこむ。やがて、その捕食者が姿を表した。

 

 その捕食者の姿を言い表すなら、人型の獣だ。体中に捕食した獲物の体液やら肉片やらがべっとりとついており、血生臭い。途轍もない数の獲物を食したことが伺える。

 体も猫背で、手もぶらんッと力が抜けているように見える。だが、その爪は刺々(とげとげ)しい。その爪で獲物を掻っ捌いた形跡がある。

 

 

 その獣の名は――――

 

 

「グゴォオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

「デンドロン…!!」

 

 

 

 唯一の理性の皮を完全に剥ぎ取った、デンドロン・アルボルが、野生の本能を解放して、再び零夜達の前に立ちふさがった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 時はこれより少し遡り。ルーミアと過去ルーミアは互いに闇の剣を構えて、互いの様子をうかっがっていた。

 そんな中、先に動いたのは、過去ルーミアの方だった。――ただし、動いたのは、手ではなく、口。

 

 

「ねぇ?あなたは、誰?」

 

「――――」

 

 

 無機質で、なんの感情も入っていない機械的な声で、全く同じ声で過去ルーミアはルーミアに語り掛けた。

 その目は絶望しかない。そこに希望なんてない。あるのはただ、真っ暗闇の闇黒(あんこく)のみ。

 

 

「どうして私は二人いるの?ねぇどうして?」

 

「……せめて言えるとしたら、私が『希望』であなたは『絶望』の塊。そう言う解釈でいいわよ」

 

「じゃあ、あなたは私?私はあなた?」

 

「そう。あなたもルーミア。私もルーミア。同じ存在なの」

 

「だったら、なんであいつを守るの?アイツは殺さなきゃ。アイツは生かちゃいけないの。アイツが生きてたら、悲劇がまた繰り返される…」

 

「……矛盾してるわね」

 

「どういうこと?」

 

「私はあなただから分かるの。確かに『私』はあの男が怖い。今も正直怖い」

 

「だったら殺しましょう?そうすれば、解放されるのよ?」

 

「いいえ、あの子を―――紅夜を殺したところで、なんの解決にもならない!」

 

 

 そう豪語するるルーミアに、過去ルーミアは理解できないと頭を抱えながら叫ぶ。

 

 

「どうして!?どうしてどうしてどうして!?どうして私なのに分からないの!?なんでなんでなんでなんで!!?」

 

「……私にも、そんな自暴自棄な時期があったわね。でもね、言ったでしょ?今の私は『希望』で満ち溢れてるの。心の支えがある。人を食べることしか能がない、あなた(過去の私)では、絶対分からないことでしょうけどね」

 

「……そうか…あなた、偽物ね?おかしいと思ってたの。同じ存在が二人もいるはずないって。だから、あなたは偽物!!」

 

 

 高らかに叫んだ過去ルーミアは闇の翼を展開して、殺気を流出させる。完全に、殺る気だ。

 

 

「偽物じゃない。私は本物。あなたも本物!ただ違うのは、思考の違い。そして……守るものが、大切なものがあるかないかよ!!

 

「うるさいウルサイうるさいウルサイ!!黙れ黙れ黙れ!!」

 

「あなただって分かっているはずよ。本当に怖いのなら、目の前に姿を表すことすらできないって。あなたは内心分かっているはず。紅夜はゲレルと違うって!別人なんだって!

 

「ウルサイ!あいつに関わってるヤツは全員殺さなきゃならないんだ!そうしないといけないんだ!」

 

「……私が言うのもなんだけど、話が通じないわね。でもまぁ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど…」

 

「もういい!!殺さなきゃ!あなたを殺してアイツも殺さなきゃ!!」

 

「させない。絶対に、あなたと私が背負うべき罪を背負って、自覚して…そして償う!それまでは、絶対に死なせない!!」

 

 

 

――互いの闇の翼が(くう)を掴み、横に向かって飛翔する。闇の剣がぶつかりあって、衝撃波を生み出した。

 ここで、同一人物による戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

―――そして。

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!

 

 

 

 

 互いに、洪水に巻き込まれた。

 

 

 





 改稿したけど、やはり妹紅戦は短いところは変わらない。
 やっぱりアレはやりすぎかなと思って改稿したこの頃。あまり不自然がないように少しいじっただけだけどね。
 妹紅戦は、19話と20話でお腹いっぱいなのよ。だから短く終わった。以上。

 そして未来(いま)過去(むかし)のルーミアが、ついに激突。何やら互いに意味深なことを言っているけど、その意味は…?

 評価:感想よろしくお願いします。
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