いや、前回も皆さん少し困惑したでしょ?本当ごめんなさいね。
それでは、どうぞ!!
「けほっ、けほっ。なんなのよ、急に…!?」
時は少し遡る。過去の自分と剣を交えた瞬間、どこからか洪水が流れて来て、二人ともども流された。今自分がどこにいるかすら分からない。
一体、あの洪水はなんなのか―――、
「いや、確実にシロのやつね…」
既に、バレていた。ルーミアには洪水の犯人がシロだと言う確証があった。と言うのも、簡単だ。
水を扱う能力者が、今のところシロしかいないからだ。他の第三者の介入と言う線も考慮されるべきだったが、生憎今のルーミアはそこまで思考は回らない。
だからこそ、簡単に正解にたどり着けた。
「あの洪水で確実に見失った…どこに行ったのよ、『私』…」
あの洪水のせいで、『私』を見失った。あの『私』は紅夜を殺すために行動する。自分の過去のトラウマの克服のために。
過去の自分ならそれを許しただろうが、それを自覚し、清算すると決めている今のルーミアにとっては、それは間違いだと言う認識だ。
だからこそ、いまするべきは紅夜の捜索と『私』の捜索。それを同時に行わなければならない。
「寒っ…」
そこで、ようやく体の感覚も戻ってきた。今は夜。つまりは冷える時間帯だ。それに、服が全身びしょ濡れになり、体の体温が急速に奪われていくのを感じる。
このままでは、負ける以前の問題になる。
「仕方ないけど、脱ぐしかないわね…」
ルーミアは自身の白いブラウスと黒いスカートを自身の闇の中に脱ぎ捨てる。ちなみに余談だが彼女の下着は上下とも黒である。
半裸になったルーミアは、闇に手を突っ込むとそこから新しい服を取りだし、着用する。
実は、何気に同じものをもう1着持っていた。零夜監修の服と言うこともあって気に入っており、全く同じものを持っていたのだ。
唯一の違いは、素材である。この服はすべて、マクラの糸で編まれているため、下手な防護服より頑丈である。
「まだ冷たいけど、あのままでいるよりはマシね。さてと、とりあえず紅夜を見つけなくちゃ!」
彼女は夜の森を駆ける。守るべき
* * * * * * * *
「―――。一体、何がどうなっているんだ」
現在進行形で走っているマクラの上に乗って考え込む青年――紅夜。あの出来事だけで、紅夜の脳内はキャパオーバーを起こしていた。
“どうしてルーミアが二人いるのか”“ルーミアの犯した罪とは一体?”これだけでも彼の脳はいっぱいだ。
「ねぇマクラ。なにがなんだか、もう分からないよ…」
「(。´・ω・)?」
「…そう、だよね。マクラに聞いても、分かるワケないもんね」
自分は何を言っているのだろうと、自虐する。自分の分からない答えを、知っているワケのない親友に効く自分の方が間違っていると。
それでも、今自分がすべきことはなんなのかを模索する。二人のルーミアのことは後回しだ。
(大丈夫…ルーミアさんは強いんだ。だから……いや、でも…)
だが、それでも考えてしまう。
あれはどう考えてもルーミアだ。同じ存在が二人。それはどう考えてもあり得ない。なんらかの異常事態だと認識すべきだ。
いくらルーミアが強くても、相手は自分自身。勝てる保証なんてどこにもない。
それに、あちら側のルーミアは何故か自分を狙っていた。そして、自分の知っているルーミアは過去ルーミアが自分を狙う理由を知っていそうだった。
「一体、なんだってんだよ…!」
―――そんな時だった。強大な音共に、広大なまでの洪水が紅夜とマクラを襲ったのは。
「マクラッ!」
「(; ・`д・´)」
マクラが急停止をすると同時に、紅夜は地面の岩をドーム状にして自らを包むように包囲した。そして、あえて天井だけを能力で開けて、そこからマクラの糸が噴射される。マクラの糸はドーム状の岩に纏わりつき、白いドームへと変化する。
能力で天井の穴を閉じて、完全な密室へと変化させる。
「「――ッ!」」
それとほぼ同時に、洪水は到達した。岩の内側からも聞こえる、巨大な水音。何が起きたか分からないまま、二人で水音が止むまで動かない。
時間は約1分くらいだろうか?水が完全に引いたのを確認して、紅夜は岩のドームを解除した。
「フゥ……助かったよ。ありがとうマクラ」
「(`・∀・´)エッヘン!!」
マクラが出したあの糸。あの糸には『撥水』効果が施されており、それで迫りくる水への防御力を増幅させたのだ。
あの岩のドームだけでは、水圧で決壊する恐れがあった。だから、水を受け流す力が必要だったのだ。紅夜一人では、あの波に巻き込まれていただろう。
「とりあえず、今のでルーミアさんは流されたはずだ。戦いの最中だったし、防御する余裕はなかったはず…」
「うッ…」
「ッ!」
そんな時、自分とは違う第三者の声が真後ろから聞こえ、二人は後ろを振り向いた。そこにいたのは、びしょ濡れになって倒れているルーミアがいた。
「ルーミアさん!」
紅夜はすぐに駆け付けて、ルーミアの脈を図る。脈は乱れているが、命に係わるほどではない。無事であったことが確認出来て、ほっとした。
「マクラ、ルーミアさんを運ぶの手伝って―――」
『マスター!彼女から殺意を検知!今すぐに離れてください!』
突如鳴り響いたウォクスの警告。
その時、マクラが自らの糸を噴出して紅夜に巻き付けて、自分の元へと引き寄せた。
「何―――」
それと同時に、闇の刃が自分の目の前を真っ直ぐ通り過ぎて行った。マクラが移動させてくれなければ、そのまま縦に真っ二つになってもおかしくなかった。
それを認識して、マクラのもとにたどり着くまでの約1秒の間、紅夜は自分のミスに気付いた。
(服装が違う…!)
そう、自分の知っているルーミアと目の前にいるルーミア。二人は服装が違っていた。よくよく考えれば、あの時二人が並んだ時も、服装に差異があった。
洪水が収まってからそんなに経っていない。それに着替える暇もない。だから必然的に、このルーミアは“自分の命を狙うルーミア”だった。
(最悪だ!よりにもよって俺達のところに流れてくるなんて!)
おそらく、流されてきた時にあの岩のドームに衝突して、そのまま洪水が収まるまであぁなっていたに違いない。
マクラの糸のカバーと洪水の音で衝突した音に全く気づけなかったことも、ミスの原因の一つだ。
ウォクスのカバーとマクラの擁護が無ければ危なかった。
「見つけた…殺す。あなただけは、殺す」
「どうして!どうして俺を殺す必要があるんですか!?」
思ったことをそのまま率直に言う。事実、紅夜には自分が殺される筋合いも理由もない。自分の知っているルーミアだって、自分に敵意は向けれど殺意を向けたことは一度もなかった。
あれは自分の愚行だとしても、それでも殺される理由としては弱い。それに、この『ルーミア』と自分の知っているルーミアが同一なのかも疑問だ。
『ルーミア』が口を開いた。
「殺す意味?そんなの一つに決まってるじゃない。あなたがあの男の子供だからよ!!」
「―――ッ!!」
『ルーミア』が闇の剣を上に振り上げると、闇の斬撃が波を作り地面を
(俺があの男の子供?ってことは、俺の父親となにか関係があるってことか?)
はい。その可能性が高いと思われます
頭の中でウォクスが肯定する。正直、ウォクスに言われなくともあの言葉で答えはすぐに出る。今まで聞いたことのない自分の父親のことについて。
その考えが、紅夜に動揺を生んだ。
正直言って、紅夜はライラとの血縁関係を疑っていた。言葉などが理解できる年頃になって、自分の父親と母親のことについて聞いたことがある。だが、その時のライラの返答は“知らない”の一点張り。自分を拾った『捨て子』と言われていた。
当初はそれを信じたが、考える力が強まるごとに、疑念と欺瞞は拡大していった。
水面に映る、自分の顔。いつ、どう見ても
だからこそ、少ない情報から紅夜が導き出した結論はこうだった。
師匠のライラは実は母親であり、何等かの理由で自分を『捨て子』と偽っているのだと。
事実は違うが、当初情報量が少なすぎたための紅夜が導き出した結論だった。だが、その間違いも納得できる理由が揃っていたのが、間違いを増長させるきっかけだった。その理由の一つが、顔の造形の酷似していることだった。
だから紅夜は正直夢見ていた。ライラのことを、『師匠』ではなく『母さん』と呼べることを。だが、理性と現実がそれ許さなかった。
自分のことを『捨て子』と偽っている以上、自分の父親と何からしらのトラブルがあったのだと考え、切り出すことができなかった。
だが今はどうだ。更なる確証材料である自分の父親が“ロクデナシ”だと言う『確信』が深まった。
そうでなければ、目の前の『ルーミア』がここまで自分を恨む理由について検討がつかない。自分ではなく、“血縁者”関連での恨みだと考えれば、ある程度理解できる。
今思えば、
それに、第一前提に戻れば、あれほど警戒心の強い『
これで『ルーミア』が自分のことを殺そうとしている理由が分かった。自分の父親と何かしらのトラブルで、自分のことを恨んでいるのだと言う、結論に至った。状況情報からすぐにわかることだが、それでも紅夜にとっては衝撃すぎる案件だった。
「だからって…死ぬわけにはいかないだッ!!」
だからと言って、そんな理由で殺されるほど紅夜は優しくない。刀を抜刀し、刀身に紅色の
これも、ウォクスのサポートの賜物だ。互いに近接戦闘を行使し、刃が激突する。
一撃目、二撃目、三撃目と、一瞬のうちにお互い引けを取らないスピードで打ちあう。あちら側は最初から本気で剣を振ってきている。
対して紅夜は、今だに本気を出せずにいた。理由は明白だ。ルーミアと同じ姿をしているから。
「く…ッ!」
いくら別人だとわかっていても、本質は本物同然。これくらいは分かる。実際、紅夜は自分と戦っているルーミアが“この時代のルーミア”だと言うことを知らない。
紅夜の認識ではこのルーミアは“本人と分離したルーミア本人”と言う自分でもよく分かっていない認識をしていた。
これはルーミアの説明の仕方に問題があった。このルーミアを『過去の私』とそのままの意味で言ってはいたが、それを知らない紅夜からすれば、“意識が分離して二人になった”という説明の方がまだ納得できた。そこに理由も理屈も理念もない。その情報完結の終点は、混乱を避けるためのただの憶測に過ぎない。それでも、考える暇のない紅夜には十分な結論だ。
「―――ッ」
すぐに距離を取って、少し開けた場所で立ち止まる。腰から鞘を引き抜いて、地面に勢いよく振り下ろした。地面の岩盤が一斉に瓦解すると同時に、岩盤が割れたできた無数の大小それぞれの岩が紅夜の周りを浮遊する。
「喰らえッ!」
ならば、迎え撃てばいい。それを体現するかの如く『ルーミア』は前に出て地面に手をついた。『闇』が地面に広がり、壁のように『ルーミア』と紅夜を隔てた。
岩礫は闇の中へと浸透すると同時に、闇が消失する。無論、岩礫は闇の中へと消えた。
「いないッ?」
闇の壁が消失すると同時に、ルーミアも姿を消していた。逃げたと言う可能性はまずない。そこで、紅夜はルーミアの能力の詳細を思い出していた。
大分前に、ルーミア自身に能力について教えられた。彼女の能力は『闇を操る能力』。闇を自分で創り出すこともできるし、能力の応用で『影』に潜り込むことも可能だと―――、
「マクラ!『影』に集中しろ!」
「Σ(・ω・ノ)ノ!」
二人(?)で背中合わせ(?)になって全体を警戒する。ルーミアと全く同じ能力を持っているならば、『影』に潜ることなど造作もないはずだ。
そして、その警戒は正解した。二人の横の影が盛り上がり、それが人の形を成した。
「( ゚д゚)ハッ!」
それに先に反応したのはマクラだった。マクラはルーミアと同じ高さまでジャンプすると、前足を拳の如くルーミアの顔に打ち付けた。
「―――ッ、この虫風情が!!私の邪魔をするな!!」
殴打されて顔が一瞬赤くなりながらも、その再生能力ですぐに回復。拳に闇を纏ってマクラへとその拳を向ける。
が、二人(?)の間の地面から細長い岩が隆起して、ルーミアの腕に直撃する。そのせいで腕の軌道を変えられ、攻撃は不発となった。
「ハァッ!」
「―――ッ!」
斜め一閃。妖力纏いで強化された刃を斜めに振って、『ルーミア』の服を斬った。肉までは届かなかった―――いや、
「なかなかやるみたいね。忌々しいわ…」
「優秀な
「それに
「――――」
『ルーミア』の怒りが、直で伝わってくる。その度に、自分の父親がどれほどのロクデナシなのかが一言一句耳に入ってきて、雑音のように変換される。それは多分、脳がそう処理しようとしているのだろう。
だが、紅夜の意識はそれを許さなかった。血族のことは、決して無関係とは言えない。だからこそ、自分の父親がどのような“クズ”なのかを知る義務を、紅夜は自身の中で自ら発行していた。
それに、先ほどの斬撃。アレは正直言えば手加減していた。それだけは正しかったから、なにも言えなかった。別に、そこに特別な理由など存在しない。あるのはただ、
この言葉を何度も聞かされ、育ってきた。
今思えば、あの言葉の真の意味は、自分が父親のようにならないための、一種の刷り込み――洗脳のようなものだったのだろう。
それを今さら知ったところで、どうこうなるわけでもない。事実、紅夜だってその認識は正しいと思っている。
だからこそ、『ルーミア』相手に本気になれない。自分を殺しにかかってきている相手だとしても、
「正直……俺は父親のことは全く知らない。
「だからなに?それで無関係を突き通すつもり?そんなの無理。だってあの男の血筋は全部
ハイライトのない瞳で、真っ直ぐな瞳でそう言われ、紅夜の胸は掴まれたかのように苦しくなる。
自分のことではないのに、自分のことのように胸が苦しくなる。でも、もう心に決めたことが、一つだけある。
「でも、その因果から…逃げるつもりはない。俺の父親が、どんなロクデナシで、どんなことをしたのか知らないといけない。それを知った上で、どう生きるか決めなくちゃいけない。だから、死んでたまるか!」
「なにここから生きて帰ること前提で話進めてるの?生かさないって言ったよね?」
『ルーミア』が闇の剣を地面に落とし、それが闇へと帰して無へと散る。そして再び闇が形を成し、『ルーミア』の両手へと収まる。
それは、二対の闇の短剣だった。
「―――ッ」
短剣には長所と短所がある。短所は、リーチが短いこと。刀身が短いため、完全に近距離攻撃を強いられることだ。
だが、『ルーミア』にとってその短所は長所へと変わる。既存の長所は刀身が短い故に扱いやすいと言う点だ。それを『ルーミア』の『影』に潜る力を統合すれば、完全な暗殺者スタイルへと早変わりする。
それに、今の時間帯は夜。『ルーミア』の独壇場だ。
『ルーミア』が再び、闇の中へと姿を消した。
同時に全体を警戒する二人(?)。先ほどのように近接戦に持ち込んでくることは確実だろうと思ったため、近くにより警戒を集中した。
事実、短剣は近接専用武器。その認識は間違っていない。ただ――短剣が彼女の能力で創られたものでなければ
マスター!右下斜めから高
「―――ッ!!」
ウォクスに言われて、右下斜めに目線がいった。ウォクスの力を借りて、目に妖力を細部にまで渡らせて、暗闇の中でも見えるように目の力を極限にまで高める!
段々と景色の色の違いが分かって来た。そして、そこに在ったのは―――、
「死ね」
中距離辺りで宙に浮いた『ルーミア』が無数の闇の短剣を顕現させ、それを紅夜とマクラへ銃弾のように発射した状況だった。
別に不思議なことではない。紅夜の岩を操る能力で念動力の如く岩を浮かせられるように、自身の能力に関係するものならば、念動力の如く動かすことは可能だ。
それと同じ要領で、今度は紅夜に牙が向いた。
「マクラ!」
「ァィ(。・Д・)ゞ」
マクラは周辺の木々を使って、超巨大でぶ厚い蜘蛛の巣を設置した。闇の短剣が一斉に蜘蛛の巣にとびかかり、まるでゴムのように伸び、円錐形になるまでの攻撃が一点集中する。
互いにそろそろ限界だと感じ、別の場所へ移動しようとしたそのとき、
マスター!周辺360度、上空からも
「なにッ!?」
気づいたときにはもうすでに遅く、囲まれていた。
『妖力纏い』で極限強化された視力で周りを見ると、それが真実だったことが分かった。左右にも、斜めにも、上空にも、同じ短剣が無数に散りばめられ、紅夜とマクラにその
(ウォクス!回避方法は!?)
―――今現在急ピッチで模索中。少しの間時間を稼いでください
こんなの、初めての経験だった。あのウォクスが、結論を出すまで時間を必要とするなんて。だが、その理由も理解できる。
360度囲まれて、上空も退路を塞がれた。マクラの糸でも限界があるし、紅夜が岩の壁を作って『妖力纏い』で強化したとしても、それもいつまで持つか分からない。
それに、あの『ルーミア』がどこまで攻撃を続けられるかどうかすら分からない。完全にジリ貧だ。
「マクラ!悪いけど、少しの間、耐えられるか!?」
「(''◇'')ゞ」
「そうか、ありがとう!!」
こうして、完全なジリ貧の戦いが始まった。上左右から迫りくる闇の短剣を、自分の全力を駆使して避けて、躱して、対抗して、薙ぎ払って、弾いて、斬って、防御して、転んで、守って、撃つ。
それを何度も何度も何度も何度も繰り返す。
腕の感覚がきつい、足の感覚がなくなってきている。乳酸が筋肉に溜まってきている証拠だ。体中から汗がにじみ出て、息もあがる。意識が動転しそうになるのをぐっと堪えて、唇を噛み締める。
「ハァ、ハァ、ハァ…!!」
「(´Д`)」
瞳に汗が入る。汗を袖で拭う。だが、袖すらも汗でびしょ濡れになっており、意味がない。
紅夜もマクラも、すでに疲弊している。このままでは時間の問題だ。
「よく耐えるわね…でももう限界。いい加減に死になさい」
「―――」
もう、言葉すら出せないくらいに疲れ切り、意識が朦朧とする。そんなときだった。
マスター。模索の結果が出ました…
それは、天からの恩恵にも等しい言葉―――ではなかった。その声には力はなく、今までこんなことはなかった。
最悪の可能性が頭によりぎりながらも、紅夜は答えを求めた。
「ウォクス…その、答えは…?」
答えは……“ありません”。完全な詰みです
「―――――」
その言葉に紅夜は、怒りも、悲しみも、呆れも、しなかった。そこにある感情は―――諦め。この一点しかなかった。
なんとなく予想出来ていた答えだった。だからこそ、この感情へと帰結したのかもしれない。
「それ、でも!!」
「――?」
「諦めて、たまるかぁ!!」
それでも、何かしらの突破口があると信じて、それに向かって、紅夜は足を一歩前に踏み出す。
「無駄なことをご苦労様。でもそんなに熱くなると―――下を見忘れるわよ」
「えッ」
そのとき、自分の刀を持っている方の腕――右腕の二の腕辺りに、激痛が走った。その正体は――、自分の影から飛んできた闇の短剣だった。
(しまった―――ッ)
完全にやられた、まさか、自分の影を発射地点にしてくるなんて。いや、違う。多分前々から計算されていたんだ。
上、右、左、斜め、ここから短剣が飛んでくるのに、下からも来ないなんておかしいと思うべきだった。いや、普通思わない。だが、彼女の能力は【闇を操る】こと。『影』から短剣を発射するなんてこと、造作もないはずだ。
これが、地獄の連鎖の始まりだった。
この一撃が隙間となり、背中、肩、太もも、様々な場所に闇の短剣が刺さっていく。
「―――ッ!!」
「Σ(゚Д゚)」
マクラがすぐにその傷を塞ごうと糸を放出するが、
「邪魔よ」
「(>_<)」
一瞬のうちに近づいてきた『ルーミア』に横から蹴飛ばされ、マクラは遥か遠くへと吹っ飛んでいった。
血だまりで震え、横たわりながら今出せる力の全力で起き上がろうとするが、『ルーミア』に背中を踏まれて、「ガッ…!」と血を吐いた。
「よく頑張ったけど、これでおしまい。ようやく殺せる。これであの時の雪辱を晴らせる。これで私は解放される…!安心して?あなたに勝てると分かった以上、
「グっ……!!」
あの言葉で、分かった気がする。『ルーミア』が自分を殺そうとしてきた目的を。ただ単に父親に恨みを持っているからだけではない。
彼女は、
「うゥ…!」
悔しい。無力な自分が、何もできない自分が。今、皆は戦っている。それなのに、自分一人だけ死んで、恥ずかしくないのか?
「『ルーミア』さん…」
「――なに?遺言なら聞いてあげる。実際、アナタ
「――俺って…産まれてこない方が良かったんですかね?」
「――――」
自分は気付けなかった。師匠の心の闇に。歪みに。自分をどんな気持ちで産んで、どんな気持ちでここまで育てたのだろうか。
絶対何度か恨んだはずだ。自分の父親の人物像は『ルーミア』から聞いてもう把握できている。そんな
だからこそ、自分は生まれないほうがよかったんじゃないかと言う思考に陥った。
「…そうね。母親のためにも、
「―――そうか」
マスターッ!?
絶望の一言。その一言だけで、紅夜は全身の力が抜けた。もうウォクスの声も、聞こえるようで聞こえない。それと同時に、『ルーミア』の闇の剣が紅夜に向けられ、そのまま突き刺さる。
「諦めるんじゃないわよ、この馬鹿!!」
が、そのとき「ルーミア」の声が聞こえた。紅夜が上を向くと、そこには、もう一人の――いや、紅夜の知っているルーミアがいた。
「ハァ!」
「チッ!」
ルーミアは剣で『ルーミア』の剣を弾き、『ルーミア』は跳躍して距離を置いた。ルーミアは紅夜の方を向き、紅夜に向けて言葉を投げかける。
「大丈夫!?」
紅夜は見た。彼女の顔には大量の汗がにじみ出ており、自分を探すのにどれだけ苦労したのかが分かる証拠だった。
「傷、さっさと回復させてここから逃げて。ここからは、私が相手するわ」
「どこまでも邪魔を…!どうしてソイツを守るの!?」
「決まってるでしょ。守らなくちゃいけないから!理由はそれだけで十分よ!」
「やっぱり、あなたとはどこまでも分かり合えないみたいね…。決めたわ。あなたを殺して、そいつも殺す!」
ルーミアと『ルーミア』が、
しかし、そうしないのが、一人いた。
「――ルーミアさん」
「紅夜!?逃げてって言ったでしょ!?」
それは紅夜だった。紅夜は先ほどの傷を少しずつ回復し、なんとか立てるようにまではなっていた。フラフラの足を無理やり立たせ、ルーミアの隣に立った。
「いいえ、逃げるわけにはいきません。自分の、俺の、父親のことを、知るまで…!」
「――ッ」
「ルーミアさん。話は全部、『ルーミア』さんから聞きました。俺の父親が、とんでもない“ロクデナシ”だってことも」
「紅夜…」
ルーミアは驚愕しながらも、どこか納得していた。ハイライトがない自分でも、話は十分出来ていた。だから、『ルーミア』がゲレルについて話す可能性だって、十分にあった。
「だから、聞かせてください。言いましたよね?ルーミアさんの罪…。それを、聞かせてください」
「―――」
「俺にも関係してるんでしょ?だったら、俺にだって知る義務がある!」
「……分かった。いつかは言うべきだって思ってたし。それが今になっただけ。私の犯した罪。償わなくちゃいけない罪。それは―――、」
一目置いて、息を飲む。そして彼女は、重い唇を、覚悟をもってしてこじ開け、その罪を告白した。
「あなたの母親を、見捨てて逃げたこと。それが、私の、私たちの罪よ!!」
はーい。今回はここでおしまい。ここで衝撃の展開。なんと、ルーミアはこの時代の少し前に、レイラを知っていた。そして、そのレイラを見捨てて逃げていたと言う事実が発覚!
一体どういうこと?この時代のときのこと覚えてないって言ってたじゃん。レイラと会ったことあったの!?
いろいろと疑問な今話。その疑問も、次話に明かされるでしょう。
次回をお楽しみに!
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