東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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72 (けわ)しく硬く、輝く道

あなたの母親を、見捨てて逃げたこと。それが、私の、私たちの罪よ!!」

 

「―――え?」

 

 

 ルーミアが告白した罪――、それは紅夜にとって耳を疑う事実だった。“自分の母親を見捨てた”。それは言い換えれば自分の母親の仇?とも言えるからだ。

 

 

「……やっぱり、あの時の“女”の子ね?そう…分かってはいたけど、結局そうなのね」

 

 

 『ルーミア』が悟ったかのように、まるで最初から分かっていたかのような反応をする。二人のルーミアには事実であり、理解できていないのは紅夜一人のみ。

 それが、また紅夜を困惑に導く。血を失っているから、頭も回らなくさらに混乱が強まる。

 

 

「ど、どういうことですか?ルーミアさんが、『ルーミア』さんが俺の母親を、見捨てて逃げた…?」

 

「えぇ。もう何十年も昔の話になるわ。出来ればすぐに話したいけど―――」

 

「ハァッ!!」

 

 

 『ルーミア』が話の途中で突撃してきて、ルーミアの話を遮った。その形相はまるで鬼のようで、言い換えれば言われたくないことを無理やり止める子供のようだ。

 剣で攻撃され、同じく剣でその攻撃を防いだ。

 

 

「その話をするなぁ!!」

 

「そうよね…私だって、正直こんなこと晒したくない。だけど、これ以上過去から逃げたくない!」

 

「黙れ!言うな言うな言うな言うな言うなァアアアアアア!!」

 

 

 よほど言われたくないのか、『ルーミア』は子供のように喚く。押す力も段々と強くなっていき、彼女がどれほど興奮しているのか、ルーミアはしっかりと伝わってきていた。

 ルーミアは後ろ(こうや)の方向を向いて、叫んだ。

 

 

「詳しくはこれを割りなさい!」

 

 

 そう言い、ルーミアは紅夜の近くに『影』を自分の『闇』に繋げて、青く光るガラス玉を紅夜の近くに転がした。

 

 

「これは…?」

 

アイツ(シロ)の便利アイテムの一つで、【記憶玉】ってアイテムらしいわ。効果は割ると複製して内包された記憶を使用者に見せること!それで観なさい、私の記憶を!」

 

「させるかァアアアアアッッ!!」

 

 

 そのアイテムの効果を聞き、なんとしてでもそれを阻止しようする『ルーミア』。先ほどまでは聞くことが嫌だったと言うのに、どうやら聞くのが嫌なのではなく、その話題自体が嫌なのだろう。紅夜を守るために、ルーミアは防御で手一杯だ。その間にも、『ルーミア』の猛攻は続く。

 そして、紅夜も選択を(せま)まれた。ルーミアと『ルーミア』の罪とは何なのかと言う知りたい気持ちと、知らなくてもいい事実を知ってしまう危険性を天秤にかけていた。足りない血液を全力で回して、選択を()く。その結果、導き出した答えは―――、

 

 

「アァアアアアアアアッッ!!!!」

 

 

 【記憶玉】を掴んで、思いっきりその握力で砕いた。その瞬間、【記憶玉】から青い光が失われ、紅夜の意識が、暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここ、は…?』

 

 

 紅夜が目を覚ますと、そこは美しき森の中だった。上から、赤い太陽の光が差し込み、微妙に眩しい。いや、眩しいはずなのだ。それだと言うのに、なにも感じない。太陽の光に当たったと言う感覚も、全然しない。それに今の時間帯は夜。夕方の太陽が出ているのはおかしい。

 すぐ近くにある泉にも触ってみる。触っているはずなのに、濡れていない。

 それだけではない。自分の体が、半透明になっている。こんなこと普通あり得ない。

 

 ルーミアがこの場所に来る前に行っていた、他人の記憶を見る玉。おそらくこの状況がそうなのだろう。この情報だけで、この場所が疑似的なものなのだと自覚するには十分だった。

 

 

『じゃあこれは、ルーミアさんの記憶…』

 

 

 太陽は落ちかけ、夜に入ろうとしている。一体この場所で、何があって、何が起きたのか。紅夜は精神を研ぎ澄まして、この先にある事実を、一言一句聞き逃すつもりはない。その決意と覚悟を胸に秘め、記憶の時間を過ごす。

 

 

『木にもすり抜ける…この世界じゃ、物理的干渉は不可能か…。当たり前だけど…』

 

 

 しばらくの間、なにも起きなかったため、この記憶の世界をよく知るためにあらゆる物に触れてみたが、結果はすべて同じ。“すり抜ける”だ。

 やはり現在精神体である紅夜に、現実のものは触れられないようだ。過去の記憶の世界を現実と言うのも、おかしいが――。

 

 

『次は周りの探索っと』

 

 

 次に行ったのは周りの探索だ。周りには木々や岩に生えている苔、大小の凹凸(おうとつ)の地面だけで、ザ・自然と言った風景だった。

 唯一目立つ場所はこの小さくも大きくもない中くらいの泉。

 

 そんな時、一つの発見をした。

 

 

『痛って!』

 

 

 奥に進もうとしたとき、()()()()()()()()()()

 

 

『なんだこれ…景色は続いてるのに、奥に進めない…?』

 

 

 景色は続き、その先に行けてもおかしくないはずなのに、見えない壁に阻まれ先に行けない。これについては一瞬謎に思ったが、すぐに結論が出た。

 大前提として、この世界は記憶の世界だ。だから、複製された記憶の中心から一定の距離しか再現できず、奥の景色も一種の飾りでしかないのだろう。つまり、この壁は一種の深層心理の壁だ。

 

 

『仕方ない…あの泉に戻るか』

 

 

 木々を掻き分け、暗い夜道を進み、泉へと戻る。そして、変化は起きていた。紅夜の目の前――泉の景色に変化が起きていた。

 その変化とは―――豊満な女の裸体だった

 

 

『――え?』

 

 

 泉から上がって来た水に濡れたその長髪と豊満な肉体は、夜の森をバックにしても、逆に美しく感じる一種の芸術とも言える光景だ。

 その()()()()(したた)る水分を両手で絞り取り、誰にも見られていないことを良いことに背伸びをして、その裸体を森の中に晒していた。

 

 

『ん――――…』

 

『ハワワワワワ……』

 

 

 が、彼女は気が付いていない。この記憶に潜り込んできた異性がこの場にいることに。まぁ当然だが。

 その当人である紅夜は、両手で顔を隠して後ろを振り向き、裸体を見ないようにしていた。

 

 

『いつの間に…!?いや、そんなことより、この人――!』

 

『やっぱり、体を洗うのは気持ちいいわねぇ~…』

 

(ルーミアさん…!?)

 

 

 そう。この裸体の美女こそ、ルーミアその人だった。何故ここにいるのかと言う疑問も、ここが彼女の記憶の中だからだと言う理由だけで説明はつく。が、しかし。一体いつからここにいたのかが分からない。泉から離れた時間だど、たかが数分程度。その間で、入浴が終わるとは思えない。

 

 

(いや、よく考えれば水は冷たいし、すぐに終わるのも頷けるか…?)

 

 

 そう考えれば、色々納得がいく。紅夜も、岩で疑似的な風呂を造ってそこにちょうど良い湯加減のお湯を入れて入る。それを知ってしまえば、水に浸かろうとも思えない。まぁ、汗をかいたときに浴びたり拭いたりはするが、流石に全身浸かると言うのは考えられなかった。

 

 が、次のルーミアの一言で、彼の常識は破壊された。

 

 

『久しぶりに入ったから、もう四刻*1も浸かっちゃったわ~』

 

『四刻!?』

 

 

 その時間の長さに、後ろを振り向きながら紅夜は驚いた。約2時間も冷たい水の中に浸かっていられるなんて――。いや、そんな問題じゃない。紅夜はこの世界で目覚めた時真っ先に泉を見たが、人影なんてなかった。それだけでは飽き足らず衣服の類も見なかった。なら、一体…?

 

 

『それにしても、いくらなんでも潜り過ぎたわね。ここいらで辞めといて正解だったわ』

 

(潜ってた!?)

 

 

 はたまた新たな新事実が更新された。確かに泉は少し触れて表面全体を確認した程度で終わっていたが、まさか水中に、しかも二時間もいたとは誰も考え付くまい。いや、そうだとしても二時間も酸素が持つのかという疑問もあるが…そこは考えないでおこう。

 

 

(この人、どこか抜けてるところがあるのは知ってはいたが…まさかこんな昔から解放的だったとは…あぁ、気が抜ける…)

 

 

 完全に泉から上がり、体の水分を乾燥させるためか、そこから一歩も動かない。目のやり場に困り、どこか別の場所を向いたとき―――異変に気付いた。

 

 

『お、ちょうどいいところにイイ女が。これも神が俺の勤勉なまでの義務行動へのお礼なのかもしれないなぁ。』

 

『は?』

 

 

 そこから出てきたのは、霞とモザイクをごちゃ混ぜにしたような顔の男が現れた。顔の分からない男は、ルーミアを見つけると、その体を舐めまわすような言葉でルーミアを見た。

 紅夜も顔は分からないが、この男がまともなヤツではないと言うことだけは、本能的に理解した。

 

 

(なんだコイツの顔…?まるで(もや)にかかったかのように分からない。いや、こんな顔のやついるワケがない。……待てよ?ここはルーミアさんの記憶…。つまり、ルーミアさんがこの男の顔を思い出すことを拒絶している?)

 

 

 この仮説が、男のモザイクの理由としては一番明快な答えなのではないかと思う。ここはルーミアの記憶の世界。本人が拒絶している、はたまた覚えていない部分があれば、それは当然何かしらの要素で補完される。あの水晶玉の力で覚えていない(拒絶している)男の顔をモザイクで補完しているのだろう。

 

 

『誰あんた?なに急に?』

 

『俺が誰とか、別にどうでもいいだろ。お前がこれから辿る運命はたった一つ。俺の性奴隷(オモチャ)になることなんだからさ。それは義務であり運命。逃れられることのできない宿命とも言える。今宵、お前は俺の相手として選ばれた。誇りに思ってくれていい』

 

 

 急に現れ、急に長ったらしい自己顕示欲の強い発言を第一声とした顔がモザイクの男は、おそらく下種な笑みを浮かべながらルーミアの美しい裸体を見ているのだろう。

 この男が現れてからすぐに己の体の一部を両手で隠して、すぐさま行動に出る

 

 

『急に現れて、なにほざいてんのよ。死にたいの?』

 

 

 その瞬間、ルーミアの体が闇に包まれ、闇が晴れると一瞬にして紅夜の知っている『ルーミア』の服装になり、その右手には闇の大剣が握られていた。黒く輝く闇の大剣の剣先を、男に向ける。

 

 

『急に出てきた挙句、私の水浴び見るとか…余程死にたいようね』

 

『運命に抗う女…実に健気で面白い。実を言うと俺、お前のような強情な女、ヒィヒィ言わせんのが楽しみなんだよなァ。俺は生き物としての義務を行っているからな、この程度の遊びくらいなら神も仏も許してくれるだろうさ。』

 

『どこまで私を不快にさせれば気が済むのかしら。第一、神や仏が実在するならアンタみたいな奴いないっての。もういいわ、死になさい!!』

 

 

 ルーミアが闇の大剣を振るうと、そこから闇の斬撃が飛んだ。強力な一撃。この一撃で撃沈するものだと思われたが――、

 

 

『弱いな』

 

 

 その時、闇の斬撃が男の体をすり抜けた。その様子に、目を見開き驚愕するルーミア。そしてそれは、男の近くでソレを見ていた紅夜も同じ表情をしていた。

 

 

(今、何が起きた?確かにルーミアさんの攻撃はこの男に当たったはず。それなのに、当たってないなんておかしい!)

 

『やっぱ、大抵の女は威勢だけは強いんだな。だからこそ、その自信を完膚なきまでにぶちのめすのは気持ちよくてたまらないねぇ。あぁこれだからこの仕事は怠惰ではいられないんだ!俺は今、この穢れた大地のために行動を起こしている!そう思うと、俺がどれだけ偉大な存在だと言うことが、実感できる!』

 

『減らず口を…!もうあんたの肉を食べる気にすらならない。そこら辺の雑魚に喰わせるのがいいわね』

 

『本当に威勢だけは強い。だからこそ、堕としがいがあるってもんだ!』

 

『ぶっ殺す!!』

 

 

 ルーミアが跳躍し、闇の剣を男に向けて振るった―――瞬間、紅夜の景色がブラックアウトする

 

 

『なんだ!?』

 

 

 景色が暗転し、なにも見えない。まるでルーミアの闇の中に囚われたかのように。

 なにも見えない、なにも聞こえない、なにも感じない。それが恐怖を生み、呼吸も荒くなる。あの時のトラウマが呼び起こされる。

 あの時は隣にマクラがいたから、まだ精神的に余裕があった。しかし、今は自分以外誰もいない。ここは記憶の世界。紅夜は言い換えれば侵入者だ。そんなところに、自分と同じ境遇の者などいるわけがない。

 

 

『―――ッ!』

 

 

 精神が限界に達しようとしたとき、再び景色は色を取り戻した。荒れた呼吸を整え、当たりの状況を確認する。結局、あの暗転がなんなのかは分からなかった。

 が、しかし。ルーミアの能力が『闇操作』である以上あの暗闇はあの男の視界を奪うための彼女の策略である可能性が高かった。

 

 あの暗転からの復活までの時間は、約5秒程度。この程度のレベルで済んだ紅夜は、落ち着いた後周りの状況を確認して――愕然とした。

 

 

『そんな…!?』

 

 

 周りの景色が、五秒と言う短い時間で、見るも無残な惨状へと早変わりしていた。

 単純に考えて、あり得ない。もしあの暗闇がルーミアによるものだとしても、たった五秒で決着などつくはずがない。あの何も見えない空間で、まともに動けるはずがない。

 

 そんなことを考えているうちに、紅夜は再びとある異変に気付いた。その異変とは、この疑問に核心――というより完全に答えを語っている異変だった。

 そもそも、その異変には真っ先に気付くべきだったのだ。そうでないと、おかしい異変だから。周りの凄惨な残状を見て、それすらも忘れていた。

 

 

『太陽が…沈んでいる!?』

 

 

 太陽が完全に沈み、夜になっていた

 ここに来た際の太陽は沈みかけで、時間帯は夕方だった。あの男とルーミアが戦い始めたのも、夕方だ。だが、今の時間帯は完全に夜。紅夜でも分かるほど、完全なまでのタイムラグが発生していた。

 

 周りの凄惨な現場と時間経過。そしてこの世界が記憶の世界だと言うことを踏まえて考えると、挙げられる答えは一つ。

 

 

『この場面も、ルーミアさんの記憶にはないのか…?』

 

 

 この世界の進行は、【記憶玉】に記憶を封じ込めた本人の記憶に左右されている。その本人が覚えていない場面は、どうあがいても再現しようがない。あの男の顔がモザイクで補完されていたように、この戦闘シーンも、『暗転』と言う形で補完されいた。

 

 それを自覚した紅夜は、真っ先に確認するべきことに気付く。

 

 

『そうだ、ルーミアさんは―――!』

 

 

 木々は倒壊し、泉は跡形もなく破壊され、地面の凹凸も激しくなっている。ただでさえ歩きにくいこの地形で、人を探すなど困難を極める。

 だが、そんなに時間はかからなかった。

 

 

『ウ、グ、…』

 

 

 少し離れたところから、女性の苦しそうな声が聞こえた。そこにすぐ駆けつけて、目に映った光景に驚愕した。

 ルーミアがボロボロにやられ、地べたに這いつくばっていた。そしてその光景をモザイクの男が見下して優越感に浸りながら眺めているところだった。

 

 

『ルーミアさん!』

 

 

 紅夜はルーミアを助けるために走って、ルーミアの腕を掴もうとするが―――すり抜ける。

 

 

『ッ!』

 

 

 分かってはいたことだ。ここは記憶の世界。とっくに過ぎた過去の世界。そこに現実の存在が介入できるわけもない。だからこそ、この結果は当然だった。

 だが、紅夜の性格上、目の前で大惨事に見舞われそうな女性を見捨てることはできない。だから、その無意味な行動を辞めることができない。

 

 

『クソッ、クソッ、クソッ!!』

 

『まぁ女にしてはかなり抵抗できた部類だな』

 

『アンタ…私に、恨みでもあるワケッ!?』

 

『恨み?いや、違うに決まってんだろ。俺はただ、お前に“女としても義務”を全うさせるだけさ。そんなことも分からないのかい?』

 

『義務…?』

 

『分からない?うっわあり得ない。何度も言っているだろう?君って大人でしょ?なんで分からないのかな?いや、ただ普通に分からないフリしているだけでしょ?まぁ分からなくはないよ。羞恥心ってものがあるしね。でも心配いらない。ここには俺とお前しかいないんだ。俺は優しいから、ゆっくりといたぶって、凌辱してやる!』

 

『あんた、まさか…、オモチャって、そう言う――!』

 

 

 ルーミアはようやく、この男の言っている意味を理解した。最初は虐待趣味の変態と思っていたが、“女の義務”と“凌辱”という言葉で、自分が辿ってしまう道をようやく理解した、してしまったのだ。

 

 

『や、やめ――ッ!』

 

(こわ)がるな、(おそ)れるな、作業だと思えばいいんだ。なにせ、女は子供を孕むのが仕事だからな

 

 

 醜悪な笑みを浮かべているのだろう。男はそう言うと、ルーミアの顔が恐怖で歪んだ。逃げようとしても、よほどの恐怖なのだろう。逃げ出せないのだろう。

 紅夜には、あのブラックアウトの間に何が起こったのか分からない。たぶん、逃げられないほどに痛めつけられたのだろう。

 

 

『やめろッ!やめろッ!やめろッ!!』

 

 

 紅夜は一心不乱にモザイクの男に拳を振り続ける。しかし、空ぶってすり抜けるだけ。何度も言うように、この世界は記憶の世界で過去の世界。とっくに確定してしまっている時間だ。

 それでも、目の前の悪行を放っておけない。その心構えが、紅夜の心を締め付けた。

 

 

『とりあえず、その邪魔な布切れを剥ぎ取らないとなァ―――!!』

 

 

 ルーミアの服に男が手をかけて、それを思いっきり引っ張ろうとしたその時。

 

――どこからか飛来したカマイタチ(斬撃)が男に向けて飛んできて、その行動を中断させた。

 

 

『誰だ!?俺の大事な時間を邪魔しやがって!出てこいよ!』

 

『彼女から離れろ。下郎め』

 

 

 斬撃が飛んできた方向を二人が見ると、そこには長い金髪に胸に晒サラシを巻いて紅い法被を身に纏い、長いパンツをはいている女性が、刀を持って丘の上から男を見下ろしていた。

 そしてその女性の顔は、紅夜にとってはあり得なく、信じられないものだった。

 

 

『師匠…!?……いや、少しだけ、違う?』

 

 

 その女性は自分の師匠であるライラにそっくりで、着ている服も師匠と全く同じものだった。それだけじゃない、必然の如く、彼女は自分に似ていた。ライラよりも、彼女に似ていた

 

 

『そんな、まさか…!?』

 

 

 彼女の出現と、今までの状況情報から、ある一つの答えが推測できた。認めたくない、信じたくない。それじゃあ自分は、と。嫌で不都合で目を背けたくなるような事実のみが押し寄せてくる。

 それでも、逃げられないと自覚して、思わず口に出てしまった。

 

 

『俺の、母さん…?』

 

 

 思わず口に出たその可能性は、十分あり得る話だった。今まで、自分の母親はライラだと思っていた。彼女の存在なんて、知る由もなかったから。

 だけど、目の前の女性はライラにそっくりで、自分にもそっくりだ。その可能性は、十分にあり得た。

 

 

『はぁ~俺は、運がいいんだか悪いんだか。良いところを邪魔されて怒るべきか?それとも、また新しいい獲物(オモチャ)が転がりこんできたことを嬉しく思うべきか?どっちの感情を優先すべきだろうか…。あァ…迷う』

 

『減らず口を叩くとは余裕だな。その傲慢、悔い改めろ』

 

『傲慢?違うね。これは余裕と言うんだ。いかなる女も、俺の前では何もかも無力へと陥るからな。何故だか知りたいか?』

 

『別に聞きたくもない』

 

『まぁ聞け。いかなる女も俺の前では無力になる理由―――それは俺が圧倒的強者だからだ』

 

『は?』

 

『獣畜生でも当たり前のことさ。強い(オス)(メス)が惹かれ、繁殖する。それは何故か?雌が強い雄の遺伝子を欲しているから。つまり、こいつも、お前も、俺と言う圧倒的強者の前では俺が勝つしかなくなると言う結果だけが残る。女ってのは、ただそうやって男に服従していればいいんだ』

 

『『『――――』』』

 

 

 あまりのナルシス根性に、三人とも引いた。これを見ている紅夜でさえ、“それだけは絶対にない”と思っている。彼の恋愛基準は、愛し合うことが第一前提だからだ。まぁ当然のことだが。

 

 

『――お前が自分大好きな変態だと言うことは分かった。それとお前を生かしておいても害悪にしかならないと言うこともな』

 

『酷いな。害悪とは。むしろこの地上の発展に協力しているんだよ、俺は。地上と言うのは脆く儚いところだ。命は永遠ではない。必ずどこかで『死』が起こり、悲しみが生まれる。だからこそ、一人でも数を増やして、喜びを生もうと俺は努力しているんだ

 

 

 言葉だけ聞けば真っ当なことなのかもしれない。だがしかし、彼の碌でもない本性を既に知っている人物たちからすれば、彼の言葉は自分の欲を満たすための方便――言い訳にしか聞こえなかった。

 

 

『余計なお世話だ。いつ誰がお前に頼んだ。お前はただ、自分の下劣な欲を満たすための言い分としているに過ぎない。お前の中身は、何もないペラペラの布のようだな』

 

『―――あ~あ。今の言葉は、流石の俺でもキレたぞ?決めた。まずお前から“俺”で染めてやる。嬲って痛めつけて苦しめて犯して殺してやる!』

 

 

 彼女の言葉が、彼の逆鱗に触れたのか、彼から濃厚な殺気が放出される。負けずと、彼女からも強烈な力の波動が感じられた。

 精神体のはずの紅夜でさえも、まるで現実で起きているかのような威圧に襲われた。

 

 

(すごい力の波動だ!少し力を抜いただけで、気絶しそうだ…!)

 

 

『せめて、お前を滅する者の名を覚えておけ。私の名は【レイラ】。私が、お前に『死』を与えよう』

 

『上等だ!俺の名前は【ゲレル・ユーベル】。きっと、お前の最初で最後の“男”になるだろう男の名だ!あの世に逝っても覚えときな!』

 

『戯言をッ、口にするな!!』

 

 

 最初に動いたのはレイラだった。跳躍したレイラは、特攻とも言える無謀さでゲレルに刀を振るった。

 

 

『そんな単調な攻撃当たってたまるかよ!』

 

 

 当然の如くそれを避けたゲレルは、空中回転しながらレイラに足蹴りを炸裂させた―――と思った。それは間違いだ。ゲレルの足はレイラの体をすり抜けた。

 

 

『―――ッ!?』

 

『甘いッ!』

 

 

 自分の足が標的の体をすり抜けたことで判断が鈍ったところを、レイラは突いた。刃がゲレルの二の腕を貫通し、それを一気に下に向けて下ろすと、手と腕が二分した。

 レイラは距離を取って、鮮血が垂れるゲレルの腕を眺める。

 

 

『そうやって傲慢になるからそんなことになるのだ。やはり口だけだな』

 

『……本当にそうかな?』

 

 

 その瞬間、縦に分断されたはずの腕が気色悪い動きをしながら、ジュクジュクと音を立てて高速で再生し始める。その光景に、今度はレイラが驚いた。

 

 

『バカな!?なんだその回復力は!?お前、人間のはずだろ!?』

 

『能力だよ。のーりょく。お前って案外傲慢が過ぎるんだな。人のこと言う前に、まず自分の方を直したらどうだ?まぁ、俺の場合は直すところなど一つもないんだけどな』

 

『再生すると言うならば、再生が追いつかないほどに攻撃を与え続ければいいだけだ』

 

『その余裕、いつまで続くかね!?』

 

『それはこっちの台詞だ!』

 

 

 二人の激闘は、どんどんと白熱していく。元々ルーミアとゲレルの戦いで荒れ果てていた森が、さらに酷く凄惨になっていく。

 原型が留まっていなかった。

 

 

『――え?どういうことだ?』

 

 

 そして―――紅夜の思考も、原型を留めずにいた。では、何がそこまで彼の思考を崩壊させたのか?

 彼女の名前が【レイラ】で【ライラ】と似ていること?それはもうある程度予想は出来ていたことだ。そんなことではない。

 彼女は今、なんて言った?

 

 

『あの男が…人間?』

 

 

ゲレルと言う男が人間であると言う情報に、紅夜は驚きを隠せずにいた。

 普通なら、そんなに驚くことではない。だが、ここは過去の世界。結果は既に決まっている世界。だからこそ、否が応でも分かってしまう。理解してしまう。ゲレルが自分の父親であると

 

 『ルーミア』からの話でも、自分の父親は碌でもない男だと言うことは分かっていた。そして、そんな男から生まれる子供の大抵は、女性が望まずに産んだ子供だと言うことも。

 分かり切ってしまっている悲しく残酷な結末より、自分の摩訶不思議の状態が気になっていた。

 

 

『俺は…妖怪のはずなのに…親の片方が、人間?』

 

 

 その事実は、自分の種族がゲシュタルト崩壊を起こしたと同義だった。自分は『妖怪』だ。100%妖怪のはずだ。この身に流れる力も、妖力だけだ。

 それなのに、父方が『人間』?ここに確実は矛盾が発生していた。もしそれが事実なら、自分は半人半妖だと言うことになる。

 でも、妖力だけしかなくて―――。

 

 自分と言う存在が、なんなのか分からなくなってくる。

 

 

『―――ッ!?』

 

 

 そんな考えが頭に巡って来た時、自分の体が意思とは反対に二人が戦っている場所から遠く離れていった。

 この押し出される感覚、つい最近どこかで感じた。―――そうだ。深層心理の壁だ。その壁が移動して、自分を押し出している。

 

 

『一体何が…!?』

 

 

 その疑問も、一瞬で解けた。二人とは反対方向に視線を送ると、ルーミアが全速力で逃げていた。

 

 

『そうか…!!ここはルーミアさんの記憶の世界!彼女を中心に壁が形成されていたのか…!』

 

 

 よくよく考えれば、当然と言えば当然だ。この記憶の世界は彼女の記憶の世界。つまり、彼女を中心に回っている。むしろこの結果は、当然のことだった。

 

 あの場からどんどんと離れていき、ルーミアは木陰の闇に隠れていた。

 

 

『――――ハァ、ハァ、ハァ…』

 

 

 体は小刻みに震え、息も荒い。完全に恐怖で体が竦み、怯え、恐怖で染まっていた。

 

 

『ルーミアさん…』

 

 

 その様子を、隣で見る紅夜。彼女――『ルーミア』もこのような気持ちだったのだろう。記憶を見て、事情を知ったからこそ分かる。

 あのような恐怖に襲われ、無様にも逃げた。そんな過去を持ったら、誰だって精神が壊れる。『ルーミア』は、その成れの果てだったのかもしれない。

 

 ルーミアは、『ルーミア』のことを“過去の私”と言っていた。心の支えがあるルーミアと、何もない『ルーミア』。その心の差は歴然だ。だがそれ故に脆いころもある。あの顔面モザイクにブラックアウトがいい例だ。アレは、思い出したくないから生じたバグだから。

 

 そして紅夜も、思い立たされていた。自分の種族が妖怪なのか、半人半妖なのか、分からないこと。自分の正体すら分からないことに、恐怖を覚えていた。自分に対する恐怖。これはどうやっても自分だけじゃ拭うことはできない。

 紅夜も、迷いの渦に巻き込まれていた。

 

 

――あれから、1時間ほど経ったころ。

 

 

『もう、良いわよね…?』

 

 

 ルーミアは、何を思ったのか、行動に出たのだ。彼女の残っていたプライドがそうさせたのか、あの男が倒されているのかどうかを、知りたくなってしまった。

 彼女は立ち上がり、震える体を無理やり抑え込んであの地獄の場所へと再び足を踏み入れた。

 

 

―――踏み入れてしまった。

 

 

 一泡の希望を抱いていた。あの男が死んでいるのではないかと。

 だが事実は、現実は、その逆だった。

 

 

『この…殺、せ…』

 

『殺すわけないだろ?これから始まるだ。お楽しみがなァ。片方は逃げちまったし、お前が壊れるまで、ヤってやるよ!!』

 

 

 レイラが、あの男、ゲレルに敗北している場面だった。ルーミアが負けた時と同じように、服が半分以上服の意味を成していない状態で、木に背中をつけた状態で、ゲレルから逃げるように後ずさっていた。

 対してゲレルの方は服に多少のダメージはあるものの、肉体には傷一つついていなかった。

 

 

『―――ッ』

 

 

 もうダメだ。分かり切った流れをこのままここで見ているわけにもいかない。ここにいれば気付かれて、巻き込まれる可能性があった。それだけは嫌だ。だからルーミアは逃げようとした。だけど…

 

 

『――――』

 

 

 レイラが、こちらの存在に気付いてしまっていた。口では言わなかった。叫ばなかった。それでも、目で訴えかけて来ていた。助けてくれと。

 そこにもう意地もプライドもなかった。ただ一人の女としての危機から、救ってくれと言う一つの願望が、その瞳に込められていた。

 

 確かに自分の能力なら助け出せるかもしれない。だけど、もし捕まったら彼女と同じことをされる。そう思うと、足が(すく)んで動けない。

 結果、彼女が出した答えは―――、

 

 

『――――ッ!!』

 

 

 逃げることだった。

―――その後、どうなったのか、彼女は想像がついたが、それでも現実から逃げるために、あの日のことを極力思い出さないように、ただひたすら、逃げた―――。

 

 

 

 

『――――――』

 

 

 

 

 ここで、再び周りの景色がブラックアウトした。だがしかし、先ほどのブラックアウトとは違い、周りが暗闇ながらも見えていた。

 何故だかは分からない。でも、そんなことは今、どうでも良かった。

 

 これで終わりのはずの彼女の記憶。紅夜はこれらすべてを見て、困惑、焦燥、嫌悪、ありとあらゆる負の感情を感じているように思えた。

 

 アレが、自分が生まれてきた経緯。それを思うと、途轍もなく怒りが込み上げてくる。自分を望まずに産んだ彼女の気持ちは、何だったのだろう。そして師匠でありその家族であろうライラは、どういう気持ちで自分をここまで育てたのだろう。

 そして、自分は何者なのだろう。

 

 あらゆる感情が、紅夜を惑わせる。が、そんな感情で迷っているとき、突如として声が聞こえた。

 

 

このあと私は、一心不乱に逃げ出した

 

 

『―――ッ!?』

 

 

 突如聞こえた、()()()()()()()()。その声は、まるで頭の中に直接響いているようだった。ウォクスが自分に語り掛けてくるときの感覚と同じだったため、すぐに分かった。

 その声の主は、間違いない。ルーミアの声だった。モノローグの如く、次々に語り始める。

 

 

私はそれから四六時中あの出来事を忘れようと躍起になった

 

あの時の彼女(レイラ)の顔を思い出す

 

あの時、私が彼女と一緒に逃げていればって

 何度も考えるようになった

 

そしたら私も危なかったって、自分を正当化してきた

 

彼女の絶望した顔が、今になっても忘れられない

 

だから私は忘れたかった

 

 

『ルーミアさん…』

 

 

 これも記憶玉の効果の一種だろうか。彼女の本音であろう言葉が次々に紅夜の頭に流れ込んでくる。そしてその度に、胸が苦しくなる。

 

 

そして私は無意識に、この記憶を『闇』に葬っていた

 

忘れていたのに、忘れていたかった。

でも、ずっとって訳にはいかなかった。

 

私は今、その記憶と向き合っている。

今度は逃げたくない。

 

 

だって―――私には頼れる大事な人がいるんだから

 

 

『――――ッ』

 

 

 ここで、彼女の言葉は完全に途切れた。そうだ、確かに彼女の行為は賛否両論分かれるであろうことだ。助けられるはずの人物を自分優先にして逃げ出した。自分を大事にすることは別に悪いことではない。だって、誰だって自分が一番大切だから。

 でも、それを良しとしないヤツだって必ずいる。ルーミア本人が、そうだったように。

 

 彼女のこの出来事は足枷として、今までずっとついてきた。そして、彼女は今本当の意味でそれを外そうとしている。

 だからこそ、彼は、紅夜は、今この場でじっとしているわけにはいかない。行かなければならない。目覚めなければならない。

 

 ―――現実へと。

 

 

『そうだ…ルーミアさんが現実と向き合っていて、俺が向き合わないわけにはいかない」

 

 

 過去のことも確かに大事だ。だがしかし、今立ち止まる理由にはならない。今困っていて、助けなければならない人を助けない理由にはならない。

 

 自分の種族が妖怪だろうと、半人半妖だろうと、それが今関係あるか?いいや、ない。この場ではそんなこと関係ない。ただ、誰かの、自分が守りたいと思える誰かの力に成れるのなら、そこに種族なんてどうでもいい陳腐な問題だ。

 決意と覚悟を胸にした紅夜は、再び立ち上がった。

 

 

『俺も一緒に戦います。そして―――進みましょう、未来(あす)へ』

 

 

 紅夜の視界が、光に包まれる。

 太陽の光を浴びて目が覚めるように、彼は覚醒する。その光へ突き進むその信念は、まるで光り輝く石のよう。

 

 “宝石”のように硬く輝かしいゴールのない光の道を、突き進んでいく。永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

覚醒条件の一部を達成しました。

 

『岩操作』と『繊細』の能力の一部を統合します。

――成功。これにより、

 

 

『権能』“宝石の支配者(ジュエルルーラー)”が限定解放されます

 

 

――気を付けろ。死ぬんじゃねぇぞ、紅夜

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

―――時は少し遡り、現実世界ではルーミアと『ルーミア』。二人が争っていた。

 紅夜が記憶の中へと入ってから約10分が経とうとしていた。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「そこをどけ。ソイツを殺さなくきゃ。早く、殺さなきゃ!!」

 

「させるわけ、ないでしょ…?」

 

 

 争う――と言えば良いが、実際はルーミアの防戦一方だった。なぜなら、現在気絶中の紅夜を守りながら戦っているからだ。一つのことに集中できず、意識が二つに分断され、苦戦を強いられていた。

 

 

「どうして…どうしてなの!?どうしてソイツを守るの!?」

 

「分からない?それがあの時逃げてしまった私がやらなければいけない、贖罪なの!」

 

「違う違う違う!!ソイツは殺すべきよ!あの時逃げてしまったこと…それを償いたいと言う気持ちは、私も同意する。けど!!守るんじゃない、殺すことが彼女(レイラ)への償いなの!」

 

 

 意見が対立する。同じ存在であると言うのに。

 紅夜を守って生かすことを償いとするルーミアと、紅夜を殺してレイラの傷の証である紅夜を殺すことがレイラへの償いだとする『ルーミア』。

 お互いの償いを実現するために、全力を出し合っていた。

 

 

「それは違う!そんなのレイラは望んでいない!」

 

「どうしてそんなことが言えるの!?あの彼女はあの男に無理やり産ませられたのよ!?そんな苦しみの権化みたいな奴、殺してなにが悪いの!?」

 

「確かに、そうでしょうね。でも、もしそう思っていたのなら、今彼がこの場で生きているはずがないでしょ!!

 

「――――ッ!」

 

 

 ルーミアが大剣を振るうと、その言葉に一瞬動揺したところを突かれ、『ルーミア』は胸の辺りにかすり傷を負った。

 

 そう、もしレイラが本気で紅夜のことを恨んでいたとするならば、この場で生きているはずがない。ライラも、当初は紅夜を殺すつもりだった。だが、レイラの遺言がそれを止めた。つまり逆に言えば、レイラは紅夜のことを恨んでいないと言うことだ。

 

 

「確かにこの子を産んだことでレイラは死んだ…。そして彼女の意思は彼女の姉が引き継いで、この子を育てた…それはなんでだと思う!?」

 

「―――まさか、本当だとでも言うの!?彼女は、本当にソイツを恨んでないって言うの!?そんなのおかしい!!だって、そんなの普通…!」

 

「さぁね。そこまでは私も分からない。私はレイラじゃないから。でも、あたなは私だから分かる。もういい加減認めさい。この子を殺す意味はないって!」

 

 

 『ルーミア』の思考が、極限まで回転して、混乱する。あり得ない。無理やり産まされた子供を生かすなんて。絶対にあり得ない。だけど、それだと今生きている理由だって説明がつかない。レイラもおかしいが、その姉もおかしい。どうして妹を殺した一因であるあの子供を生かすどころか育てられる?出会った時の状態を見るに、虐待などはされているようには見えなかった。まさか、本当に…。

 

 

「だから、もう意味はないの。武器を降ろして」

 

「―――認めないッ!!」

 

「ッ!?」

 

「認めてたまるか!あんな、あんなことがあって生かすなんて、あり得ない!どうかしてる!だから殺す!殺さなきゃ!!」

 

 

 迷いに迷い、彼女が出した答えは、思考の放棄だった。これ以上考えたら、自分が崩壊するかもしれない。そんな恐怖を抱き、彼女はその選択をしたのだ。

 

 

「あなたねぇ…!」

 

「もう違う!『私』とあなたは側が同じでも、中身はもう別物なの!私は、私の想うがままに行動する!」

 

 

 己の考えの境地に至った『ルーミア』は、闇の大剣を巨大化させる。その刀身は、ルーミアも紅夜もすべてを両断しようとする絶対的な意思が感じられるほど、巨大で存在感のある刃だった。

 

 

(あのデカさ…。避けられないし逃げられない。だったら、迎え撃つしかない!)

 

 

 『ルーミア』とは真逆に、ルーミアは小さな片手剣を闇で作った。疲弊している今、地上であのバカでかい剣を創る余裕はなく、圧倒的な質量の差がそこには存在していた。だがしかし、それとは真逆にそこに内包される妖力(エネルギー)量は平均を凌駕し、『ルーミア』の巨大な大剣とほぼ同格へと至った。

 

 

「死ねぇえええええええええ!!!!」

 

「―――ッ!!」

 

 

 『ルーミア』とルーミアの攻撃が、炸裂し、黒い雷と見間違えるほどの衝撃波が、辺り一面を覆った。風が舞い、この二人を中心に当たり一帯が倒壊を始めた。

 

 

「あぐ、う…!!」

 

 

 そして、このせめぎ合いで有利になったのは、『ルーミア』の方だった。やはり質量差と残量体力の差が、ここで現れてしまった。

 

 

「ここで、潰れろッ!!」

 

 

 『ルーミア』の剣を振り下ろす力が増していき、ついには耐えきれなくなる―――。

 

 

「もういいです、ルーミアさん」

 

「え…ッ?」

 

 

 そのとき、振り下ろされた巨大な闇の剣を手掴みで抑え込む手が、ルーミアの背中から現れた。その手は徐々に己の力で闇の剣を持ち上げ、逆に奪った。刀身を持った手の握力で、()()()()()()()()()()

 

 

「ありがとうございます。ここからは、俺が彼女の相手をします」

 

 

 ルーミアの前に出た青年は、今までとは違う異質な雰囲気を放ち、鋭き眼光で『ルーミア』を見る。

 

 

「―――ッ」

 

 

 その異質な雰囲気と威圧に、『ルーミア』は空中で一歩後ずさった。

 この雰囲気、前に感じたことがある。そう、あのとき―――自分が背を向けて逃げた、あの時の殺気!!。あの男と彼女の殺気が、二つに混ざって統合されたような、濃厚な殺気!

 

 

「ア、ア、アァ…!」

 

「宣告する。俺は、あなたを倒す。そこに、容赦を持つことはない。あなたが俺の仲間を傷つけると言うのなら、俺はそれを『意味』として、『理由』として、あなたを倒す!!」

 

 

 明確なまでの意思と理由を持ち、目の前の女性を相手に刃を向けた。今だけは、そして今後も大切な師匠の教えを一部、破ることになるだろう。でも、それでも。今守りたい人を守るために、その掟を捨てる。かなぐり捨てる。

 

 

これより、『宝石の支配者(ジュエルルーラー)』の権能の行使を行います

 

 

「頼むぞ、ウォクス」

 

 

了解。全力で、着いてきてください

 

 

「最初からそのつもりだよ。宝石の支配者(ジュエルルーラー)』解放!!

 

 

 紅夜の持つ刀の刀身が、六色の宝石の色に輝き――。今、この場で、蹂躙の刃が誕生した瞬間だった。

 

 

*1
現代時間で約2時間。一刻は約30分




 今回はここで終わりです。
 ルーミアの罪の内容がついに明らかになりましたね。この時代から十数年前にルーミアとレイラが面識あったと言う事実。

 ここで追加設定として補足をすると、『闇』に葬っていた記憶がまだ完全に復活したわけではないが、それでも結構復活しているのだ
 事実、ここでゲレルの名がちゃんと出ている理由は、ゲレルの名前を聞いて記憶に残っており、足りなかったパズルのピースのようにハマったからである。
 それから時を経て徐々に記憶を取り戻していき、(大きなきっかけはレイラのことを聞いてからである。実はこの時既にここまで思い出していた)。
 過去に行くことを志願したのも、自分の贖罪のためである。当時のことの説明と言うのはあくまで方便でしかなかったのだ。

 それと、当時ゲレルが人間だったと言う事実も判明したよねー。零夜とルーミアの知っているゲレルは妖怪なのに、なんでだろ?
 そしてそうなれば必然的に紅夜は半人半妖のはずなのに、完全に妖怪です。これも少しおかしく思えるなァ。
 それとさそれとさ、ゲレルの発言って、どっかの誰かさんたちと似てませんかね?

 そして、ついに紅夜が『権能』に覚醒!でも、限定解放だからまだ完全に開放したってことじゃないんだよなァ。一体、何が条件なんだろうね。そして、アレでどうやって条件達成したのかな?

 今の紅夜の『権能』はまだ不完全だけど、それでも『権能』持ちじゃない相手なら普通に勝てる。
 そんなわけで、次回もお楽しみに。




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