金色のラインが施された漆黒の鎧を持った異形。その異形は闇に染まった複眼で、
「――なんで、私のことを…?」
『あ?』
ルーミアは、枯れた声で異形にそう告げるが、異形はルーミアをその複眼に映さない。
何故、先ほどまで殺そうとして、逆に殺そうとして、逃がした相手を助けたのか、ルーミアには理解できなかった。
『―――考えてた』
「…え?」
異形から返ってきた答えは、予想の斜めをいくものだった。
異形は一体なにを考えていたのだろうか、とルーミアの頭の中は疑問であふれる。
『何故、俺がお前を殺せなかったのか』
「殺せなかった…?」
理解できない。
だって、最初に会ったときは、あんなに血の匂いを漂わせていたのに。出会い頭に手を吹き飛ばしたのに。戦って、あんなに殺意をまき散らしていたのに。最後になったら、殺すことを躊躇った。それが、理解できない。
『それを考えて、やっぱり、
「そうだった…?」
異形の言う、「そうだった」の意味が分からない。
一体、異形のこの言葉に、どんな意味があるのか。それは、異形にしかわからないだろう。
『まぁもういいだろ。で』
「――?」
『で、結局のところ、あいつはなんなんだ?』
「ただの変態のクズ野郎よ」
『あぁ…ある程度理解した』
そういい、漆黒の異形【クウガアルティメット】は金髪の美女、【ルーミア】へと視線を動かす。
『この姿で負けたならともかく、お前ほどならそこら辺のヤツには負けないはずだが…』
「あんたに言われたらただの皮肉にしか聞こえないわよ」
実質、自分を圧倒して見せたクウガからその言葉が出れば、それは皮肉にしか聞こえない。
『にしても、大分やられたな。それにその服の焦がされ方…。熱か』
「えぇ。あいつの能力は光を司る力。操るだけの私じゃ…!」
そうルーミアは唇を噛んだ。
それでも、相手の能力のことを知れただけでも良しとしたクウガは、ただ、相手が来るまで待っている。
そして、それを予期したように、男は目に見えないスピードでその場所に舞い戻る。
「―――――ッ!!」
男は凶悪に歪んだ形相でクウガを睨みつける。
男の顔は
そして、あれほどの時間があったのに対して、怪我が治っていない。つまり、再生能力はそれほど高くない。
「嘘…ッ!?これだけの攻撃を喰らってもあれだけだなんて…!?」
『まぁその割には頬の骨がやられてるけどな。あいつの再生能力はそう高くはない。高いのは戦闘能力だけ…と見ていいだろう。再生能力なら弱小妖怪と一緒だ』
「貴様ァ……!急に現れて何様のつもりだ!?今からその女を壊れるまで犯すつもりだったんだぞ!?俺は楽しみにしてたんだ!その女が泣くところを!その女が泣き叫ぶところを!その女の体を汚すところを!その女の心が穢れるところを!その女が「もうやめて」と悲願する様を!その女が孕むまで犯すのがなぁ!!!どう責任を取るつもりだゴミムシ野郎!!」
「ちッ!」
『……とことん見下げたクズだな。これが悪ってヤツか。……正直こういう風にはなりたくねぇな』
「あのさぁ!俺を無視して話を進ませるのやめろ!ていうかさ、悪ってなに?なに勝手に俺のこと悪人だって決めつけてんの?ブーメランって言葉知ってる?お前の方がよっぽど悪人だろぉよぉ!その力!その闇!その悪意!その見た目!その化け物たる姿!その容赦のなさ!その無慈悲さ!その勝手な価値観で人を!妖怪を決めつける、お前の方がよっぽど悪だろ!!」
『――――――(クズだな)』
「……あいつ、クソにも程があるでしょ」
二人の思考がほぼハモる。
ヤツは言葉は『言葉のブーメラン』。それがピッタリとハマる言い方だ。
先ほど容赦なくルーミアを攻撃し、焦がした。そんなヤツが言えるような言葉ではないのはルーミア自身がわかりきっていることだ。
「ていうかさ、お前さっき俺をそこら辺の価値どころか存在する価値すらない弱小妖怪ごときと一緒にしたよな?これってどういうこと?俺は神をも超える存在なんだよ?そんあ俺を弱小妖怪と一緒にするなんて失礼だと思わないの?」
『お前、もう喋るな。煩わしい。お前の言葉一つ一つが不快だ』
「は?お前に俺の発言をやめさせる権限がなんてねぇよ。俺より格下のヤツがさぁ。特別に教えてあげるよ。この世のヒエラルキーってやつをさ。まず、一番下は女。これだけは絶対に変わらない。なにせ女と言う生き物は男と言う人間を産むための道具でしかないからだ。男に快楽を与えることしか能がない連中だ。そして、その上が俺の言い分を聞かない男。まぁつまりお前だ、黒いの。お前は俺の考えをちっとも理解しようとしねぇ。そんなヤツ奴隷辺りが妥当だろうよ。安心しろ、お前は殺したりはしねぇよ。今言った通りお前は俺の奴隷としてこき使ってやる。そして、その上は俺の言い分をちゃんと聞く男。これは地位的には民。俺の言うことを聞いてくれる男はちゃんと使ってあげないと。それ相応の対価ってやつだよ。そして、もちろんこのヒエラルキーピラミッドの頂点は俺。将来はこの力でこの世界を征服して俺が認めた女で囲んで楽しく過ごし―――」
『んあ゛ぁ゛!!!』
――刹那。男に向かってクウガが炎状のエネルギーを拳ごと突き出し、男の言葉を中断する。
炎状のエネルギーは再び一直線上の広範囲に広がり、男を周りの地形ごと飲み込む。
「…………」
これにはルーミアも言葉が出なかった。
「あなた…さっきから思ってたけど、容赦なさすぎでしょ」
『あ?あいつの言葉聞いてるだけで吐き気がすんだよ。しかもあんなクズの言葉、最後まで聞いている理由なんて――」
「あのさぁ……人が話している途中で撃つなんて、どういう教育されてきたの?」
「『ッ!!?』」
二人の言葉も、あの男の声によって中断された。
煙が晴れる。そこには、無傷の男が立っていた。しかも頬の傷もちゃっかりと治って。
周りの地面は抉れているのに、男の立つ場所と、その後ろ。そこだけが地形変化を起こしていなかった。
「俺さ、今話してたよね?なんで途中で殺そうとするのかなぁ?バカなの?いやもうバカ通り越してクズだねクズ!もう決めた!!お前は奴隷になる価値すらない!!殺す!絶対殺してやる!内臓引きずり出して目ん玉ほじくって心臓握りつぶして血管爆発させてチ○コ引きちぎって拷問してやる!!」
軽々と下品で淫猥なことを言い放った。
その言葉に顔をしかめるルーミア。仮面越しでわからないが、不機嫌な顔をするクウガ。
『もういい。お前はここで殺す』
「は?お前が俺を殺す?なにバカ言ってんの?お前自らが作った結果蔑ろにしてんじゃねぇよ。お前の攻撃じゃ俺は死ななかっただろ?分かったか?光と闇は対極でお互いを打ち消しあったとしても、俺は光を司る!闇を操るお前とは存在の格自体が違うんだよ!」
『…………』
「さっきは不意打ちを喰らってしまったが、お前の存在を認識している今、もう攻撃を喰らう要素はない」
ここで、この男は一つ勘違いをしている。
なにせ、このクウガはルーミアとは違うのだ。闇を操るルーミアとは違うのだ。
なにせ、このクウガ―――アルティメットクウガは――光を一切受け付けない、究極の闇なのだから。
「栄光に思え!この俺、【ゲレル・ユーベル】様に殺されることをなぁ!!」
初めて名乗ったこの男―――ゲレル・ユーベルは、瞬時に光の魔力を帯びる。そして、能力で作った
そして、それに対応するかの如くクウガも【ブラックライジングドラゴンロッド】【ブラックライジングタイタンソード】を構え、瞬間2人の姿は消える。そしてその中心で2人が姿を現した。一瞬の出来事だった。2人の距離が一気に縮まるまでは、0.1秒もかからなかっただろう。2人の武器は激突し、そこを中心に衝撃を生み出した。
「お前いい加減やられろよ。俺の手を煩わせるな。あのさぁこんなことしてる合間にも、俺の貴重な時間がどれだけ割かれているかわかってんの?もうちょっと協調正ってもんを知らないとね。あの女を犯す時間が長引くじゃないか。一体いつになったら俺を気持ちよくしてくれるんだ?早くあの女の服を全部破いて、綺麗で穢したくなるあの体、早く欲しいんだよ」
『ペラペラと戯言を語ってんじゃねぇよ!!』
クウガの振り上げたタイタンソードが、ゲレルを襲う。ゲレルはその瞬間に、光で創造した即席鎧を生成し、ガードする。そうしている合間にもクウガがドラゴンロッドで突きをする。ゲレルは膝を上げ、ドラゴンロッドを上に打ち上げた。
『――ッ!』
「これでもくらえ、ゴミ!」
ゲレルの光槍が、クウガの脇腹辺りを襲う。クウガはすぐさまバク転に似た動きをし、打ち上げられたドラゴンロッドを後ろに蹴った。ドラゴンロッドはそのままゲレルに向かって行くが、ゲレルはロッドを光の鞭を創り、それを跳ね返す。
一回転し終えたクウガは、ゲレルに向かって斜め上に飛び、その過程で宙を舞っているドラゴンロッドを回収する。
『燃え尽きろ!!』
瞬間。ドラゴンロッドとタイタンソードに炎が点火される。
この武器は元々アルティメットクウガには素材となるものを必要とせず、ただのエネルギーだけで形成されている。もし途中で武器の方が燃え尽きたとしても、また創り直せばいいだけだ。
ゲレルに向けてタイタンソードを振るう。
「燃え尽きるのはてめぇだよ!!光の力が光るだけだと思うんじゃねぇ!!」
突如、ゲレルが地面にある砂を持ち、クウガに向けて投げた。
それは普通に無意味な行動だ。砂程度でクウガの鎧どころか人間の体にダメージすら与えることはできないのだから。
『てめぇふざけてんのか!』
これにはさすがのクウガでも怒り、タイタンソードを持つ力が強くなる。
だが、その次の時、その意味を知ることとなる。
――突如、クウガの体が横に移動した。
否、正確に言えば横から衝撃を感じて吹き飛ばされたのだ。
突然の事態に困惑するクウガ。そして、転がっていき、木に激突し、木が倒れ倒れ倒れ倒れて……、ようやく威力が殺された。
『な、なんだ、今のは…!!?』
「さぁて?なんだろうねぇ!!?」
声高にそう叫ぶゲレル。ゲレルは砂を拾っては次々とクウガに投げ、クウガの周りに投げる。
そして、その数秒後に先ほどと同じ衝撃がクウガを襲う。
『――――……ッ!!』
クウガは腕をクロスして、顔だけはなんとしても守っている。
真上、真下、右、左、斜め、後ろ、後ろ上、後ろ下、すべての全方位から謎の弾丸が迫り、クウガを襲う。
「ほらほら!!どうしたんだよ!?たかが砂ごときダメージを喰らうなんてどうかしてるんじゃないの!?それともそれほど脆いんだ!あれだけ粋がってたくせに!?本当に笑えるよ!本当にどうかしてるよ!本当に哀れずにはいられないよ!本当に―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!違う違う違う違う違う!!俺がやりたいのはこれじゃねぇんだよ!!俺があの女を一刻も早く犯したんだ!そのためにはお前が邪魔なんだよ!だからさっさと死ねよさぁ!!俺が死ねっつってんだよ!!耐えてねぇで死ねよ!!死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
酷く自分勝手で独りよがり。他人に死を強要している。
そんな異常性しか見つけられない男が、狂いながら叫ぶ。
『――ッるせぇ…』
「あ?」
『せぇんだよ…!』
「聞こえねぇって。俺はこれでも耳の穴かっぽじってよーく聞いてるんだ。そんな心の広く配慮された俺の期待に応えてもっとわかりやすくいえ。あぁやっぱいいや。お前程度の言葉聞くだけ無駄だった。いやぁ~こんな配慮して損した。配慮ってのはもっと価値のあるヤツにやるべきなんだよなぁ。あぁでも、そんな価値のないやつに少しでも配慮してやって俺ってもっと褒められるべきじゃね?そんな俺にすべてを捧げるべきじゃね?だったらさぁ…お前の命よこせよ!!ほらほら!俺が!この俺が!お前の命が欲しいんだよ!!ほら早くよこせよ!!命ってのは質量がないけどさぁ!!せいぜい死体くらいは妖怪の餌として有効活用してやるよ!俺って優しいだろぉ!?だったらさっさとよこせよおらぁ!!!」
「うるせぇって言ってんだよぉぉ!!!」
その瞬間、クウガの周りに、闇が形成された。
その闇は円形になり、衝撃波になり、半径1mの周りのすべてを消滅させた。
そこに残ったのはクウガとクウガの立っている地面のみ。のこりは円形状に凹んでいる。
『ずる賢い策使いやがって…こんなヤツが効くと思ってんのか!』
「お前。なんであれで体力まだ切れてないんだよ。あれで普通にやられるべきだろ?なんでやられないんだよ、クソが」
『そう簡単にやられてたまるかよ』
「やられろよ。俺がやられろっつってんだ。だからやられろよいい加減によぉ!!」
『誰もがお前の言いなりだと思うな』
「あぁそうかよ!だったら死ねよ!俺の言いなりにならないやつは皆死んじまえ!それによ、俺の攻撃の種がまだ割れてないのに、よくそんなことが言えるなぁ」
『――ッ』
確かに、ゲレルの言う通りだ。ゲレルの攻撃の種がまだ分かっていない。
砂が投げられてから、なにが起きたか全くわからない。あの攻撃の起点が砂だと言うことは分かっている。だが、それ以降がわからない。ダメージ自体はさほどないのだが、種は割っておいたほうがいいだろうとクウガは判断する。
「あぁ~~さっさと死んでくんねぇかな。早く犯らないと女の質が落ちるんだよ」
『どこまでも…!』
クウガは咄嗟に【ブラックライジングペガサスボウガン】を構え、発射する。
炎を纏った空気弾が、ゲレルを襲う。だが、ゲレルは能力で光を操ったのか、光熱で空気弾そのものが酸素不足になり消失する。
『……ッ!』
「お前さ、光がただ物を創るだけかと思ってんのか?んなわけねぇだろ!熱だって操れるんだよ!光を司るの舐めてんじゃねぇぞ!いわば神をも超える存在であるこの俺を、舐めたこと!万死に値する!」
コロコロと自分の意見を変える身勝手さ。
自分至上主義を掲げ、どこまでも自分の意見を押し通そうとする。俗に言うエゴイスティック*1だ。
『このエゴイスティック野郎が。どこまで堕ちたら気が済む』
「どこまでもこの俺をバカにしやがって…!!だが、俺のあの攻撃をここまで耐えたんだからさ。お詫びに、いいもの見せて死なせてやるよ!」
瞬間―――落雷が起きた。
『―――ッ!!!?』
空は快晴だ。雷など絶対に落ちるはずがない。だが、落ちた。
落雷が落ちた先は、クウガの真上。クウガに直撃したのだ。
クウガは膝から崩れ落ちる。
『な、なにを!!?』
クウガは驚愕を隠せない。
ゲレルの能力は光を司る能力のはずだ。熱は分かる。なにせ熱は光熱と言う例があるから理解できる。
だが、光を司る能力で雷を操るのは道理がおかしい。それこそ、なにか根拠がなければ―――
「感じて分かんないのか?バカなの?もうわかってるよね?そんな分かり切ったことをなんで俺の口からわざわざ言わせるのかな?あれか?自分の口から言うのが面倒くせぇのか!?ふっざけんじゃねぇぞ!」
『俺が聞いてんのはそうじゃねぇ!!お前の能力は光を司る力のはずだ!雷を操んのはおかしいだろ!』
「あ~あ~わかってんだよ。雷ね。ていうか、さっきのクールさはどうしたの?雷って聞いただけですげぇ焦ってんじゃん。マジ笑えるわ」
『うるせぇ!!』
クウガはゲレルの言う通り、先ほどの態度とは180度違い、焦っている。
クウガはタイタンソードを両手に持ってゲレルに突撃する。接近戦を選んだのだ。
「あ、もしかして、雷を使えば俺にも当たるって考えなのかな?残念でしたぁ~~!!」
ゲレルが手をかざすと、そこから横に一直線に伸びる電撃の一閃が放たれる。
電撃と言う速度と威力が重ね合わさった攻撃。一直線に向かっていたクウガは、それに直撃すると同時に全身に感電する。
『アガァアアアア!!!』
クウガはもがき苦しむ。
それはまるで、塩をかけられたナメクジのように。
「ははははははは!!!!なんだお前!雷使うくせに雷が弱点なのかよ!!いろいろといたぶろうと思ってたのに!!まさか雷が弱点だったなんてなぁ!!」
ゲレルは嘲笑い、嘲笑し、大声で笑う。
そして、この男がやることと言えば、もはや一つのみ。
『あがッ!ぐがっ!ウガァアアアア!!!』
その属性攻撃で、ただただ連続で攻撃するのみ。
ゲレルは雷の矢、槍、剣などを自身の周りに創り出し、それを倒れ伏しているクウガに向かって何度も何度もたたきつける。
「ほらほら!!さっきの威勢はどうした!?あれだけ調子に乗って、あれだけ優位に立って優越感に浸っていたお前はどこにいったのかなぁ!?弱点みつけられた途端にこれかよざまぁねぇな!!」
そうクウガを罵りながらも、攻撃をする手をやめない。
クウガは当たるごとに痙攣し、動けなくなっていく。
――――そして、完全に動かなくなった。
「嘘…ッ!?」
先ほどまで、あの闘いを見ていたルーミアもそう言葉をこぼす他ない。
両者攻防ともに凄まじかった。長年闘い続けてきた強者であるルーミアでさえも見惚れてしまうほどの(相手側の性格に問題があるとはいえ)。
そして、ゲレルは下衆な笑みでルーミアを見る。
「ふひひ…!これで邪魔者はいなくなった…!
「あんたなんかの言いなりになるわけないでしょ!!この下衆のゴミクズ野郎!!」
ルーミアは闇の剣を創り、構える。
自分の能力がヤツにとって無意味なのはヤツの能力の特性上分かり切っていた。
だが、このままやられるわけにはいかない。本能が―――否、女として、そこは絶対に譲れない。
「あのさぁ…。俺が命令してんだからさっさとやれよ。あぁもしかして、体制が気にくわなかった?そっかそっか。そりゃあごめん。じゃあお好みの体制言ってよ。それでやっからさ」
「どこまでも…!自分主義じゃないと気が済まないの!?」
「そんなの当たり前だろ。この世界は俺を中心に動いているんだ。もし逆に、俺が中心に動かない世界なんてあったなら、そんな世界ある価値がない。破壊した方が世のため人のため妖怪のため生きとし生けるものたちすべてのため」
「ハァアアアア!!!」
ルーミアは剣を持ち特攻する。
だが、その剣はゲレルに触れる直前に掻き消え、その瞬間をゲレルは嘲笑う。
剣での斬撃は諦め、今度は拳に闇を集中し、殴りかかる。それも、ゲレルの掌で寸止めされる。
そして、
「せいッ」
「キャア!!」
その方向からの、背負い投げ。
ルーミアは背中から地面に激突し、もだえ苦しむ。
「う、ぐぅ…!」
「さてさて」
ゲレルが、ルーミアを押し倒したような体制になる。
「は…離れなさい!」
「ダメダメ。今からとっても気持ちいいことが始まるんだよ?楽しめよ。俺とヤれるんだからさ」
「あんたのそのキラキラ、眩しいのよ…!」
「あぁ。体にかけてる魔法か。それはすまないことをしたね。まぁ体辺りは解除しよう」
ゲレルは、先ほどから―――ルーミアと戦っていたときから体から放っていた光の魔力。それを手と足だけ残し、残りは光を失う。
「(…?どうして手と足だけに魔力を残して…!?)」
「うーん。何度も思うけど、その微妙な感じ、ちょっと駄目だな。引き裂こう」
「まっ!やめっ―――!」
体に妖力を溜めて身体能力を上げようとするが、なぜか体中の妖力の循環がうまくいかない。
そ れに、丹田辺りでせき止められているような感じもしていた。
「力をあげようとしても無駄無駄。俺の光で君の闇の妖力はせき止めてるから」
「なッ…!!」
ゲレルは、妙なところで手が回っていた。
敵に油断し、自分が有利になれば相手を罵倒し、自分が不利になっても相手を罵倒する、まさに定型的なクズであるこの男も、ここにおいて抜かりはないということなのだろうか?
「やっとだ…!その俺の光と同じように煌く金髪!そして、燃える深紅の瞳!まさに俺の求めているものそのものだ!それに、なによりこの顔、綺麗だ。だからこそ、汚したくなる」
「あんたなんかに言われても、ちっとも嬉しくないわよ…!!」
「はぁ。教育がなってないなぁ。男に押し倒されたら、大人しく身と心を授けるべきなのに」
「――――ッ!!」
ルーミアはゲレルを心のそこから憎み、睨む。
「あぁ。そういえば君には教育する人自体いなかったか。ごめんごめん。でも、大丈夫。君をちゃんと一人前の女として、加工してあげるよ」
ゲレルの、今までよりも醜く、汚く、穢れて、恐ろしい凶相が、ルーミアの間近で浮かべられる。
そして、ルーミアは―――
「ヒッグ…エグッ…」
涙腺が崩壊した。涙を流した。流してしまった。
今まで、ルーミアは最強の一角として君臨してきた。常闇の妖怪として生まれ、自由に過ごしてきた。
どんな敵も、もち前の能力で跡形もなく殺し、人間なら食し、妖怪なら文字通り跡形もなく消していた。
だが、自分の力ではどんなに本気を出しても、勝てない相手が、この短時間でそんな相手が二人も、現れた。一人は見逃してくれた。そして、助けてくれた。もう一人は、今自分を犯そうとしている。
精一杯の虚勢を張っても、もう無意味だ。
あのとき、逃げるべきだった。クウガが勝てると希望を持たなければ、自分はすぐに逃げていて、こんなことにはならなかった。今からされるであろう行為は、妖怪として、否、女としての尊厳をすべて失い、永遠に消えない心の傷を得てしまうことだから。そんなことは、絶対に嫌だ。なんとかして逃れようとしても、ゲレルの力が勝っており、自分の力だけではどうすることもできない。
「いいねいいねいいねぇ!!その顔だよ!!その顔が見たかったんだよ!本来こうして女が男に見せる顔!その顔をすることで俺の性欲はさらに嗅ぎたてられる!いいよ!さぁて、準備OKってことか。それじゃ―――」
ゲレルが、自分の服に手をかける。それはルーミアの心を少しでもじっくりと痛めつけるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと。恐怖に襲われ、ただ、こんなことを心の中で叫んでいた。
だが、自分の頭の中では分かっている。そんな都合よく、誰かが困ってるときに助けてくれる、調子のいいセイギノミカタが来るわけがないということを。
そして、ルーミアは、感電して倒れているであろうクウガの方をみた。
「あれ…?」
そのとき、ルーミアは異変に気付いた。
倒れているはずの、クウガの姿がどこに見当たらない。
視野は狭くなっているものの、あの姿がどこにもないのはおかしい。おかしすぎる。
じゃあ、一体どこに?
「なぁに、よそ見してるんだyボベッ!!」
そして、その行動を疑問に思ったゲレルが、血を吐いた。
真下にいたルーミアに、ゲレルの血が全身に降りかかる。
「な、なにが…!!!?」
ゲレルは、自分の痛みの箇所―――腹を見る。
その腹からは、ゲレルの血で濡れている【
そして、その手は急速に持ち上がり、ゲレルの腹から離れたと同時に、ゲレルは木に、木に、木に、どんどんと激突していく。
「………」
『大丈夫か?』
「あなた…その姿…?」
『これか。これは、クウガアルティメットじゃない』
黄金の鎧を持ち、黒き複眼を持った異形―――アルティメットクウガは、次にこう言った。
「俺は、【ライジングアルティメットクウガ】だ。」
そう、