東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 今回は零夜&ライラVSデンドロンの回です。
 ウィザードとオーズの活躍を期待していた人たち、ごめんなさい。いずれちゃんとやりますんで。


74 暴食変異の獣(デンドロン)

「グオオォオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 暴威の怪物が、獣の如く咆哮を上げる。()の者の衣服は既に所々がボロボロになり、まるで亡霊のよう。身体(からだ)も傷が至るところに存在し、皮膚の色も再生が追いつかないのか黒く変色している。全ての歯も犬歯のように全てが尖っていると言う歪な並びで、瞳の瞳孔も黒くなっており、それは最早“人”とは呼べない別のナニカになっていた。

 

 

「ありゃぁ…完全に獣になってんな…」

 

「それだけじゃない。マクラの縄で捕縛していたはずだ。マクラの糸の縄を引きちぎったと言うのか…!?」

 

「マクラの糸か、納得だ。正直言えば、アイツは縄を引き千切ったというより、自分の腕を引きちぎったようだぞ…?

 

「なに?」

 

「ほら、よく見てみろ」

 

 

 零夜の指摘でライラの目線は目の前の(デンドロン)の左腕へといった。その左腕には、まるで引き千切ったような跡が確認できた。再生はしているが、余程手荒な方法だったようで、傷跡がクッキリと残っていた。

 

 

「まさか、自らの腕を引き千切って、隙間を作ったのか…!?」

 

「今のアイツならやりかねない…ていうか絶対やる。シロの野郎…亀甲縛りでもやっとけば良かったものを…!」

 

「いや、アレを縛ったのは私だ。二人で協力はしたが、アイツにはあの不思議な空間にマクラの縄を入れてもらっていたから、あの程度のことは私がやろうと…」

 

「そうかよ…」

 

 

 あの時、二人でデンドロンを縛ることを協力して行ったが、正確に言えばマクラの糸の縄を持っていたのがシロで、縛ったのがライラだ。持ってくれていたと言うことでライラが縛ったのだが、この時代の存在であるライラが亀甲縛りなど知るはずもなく、デンドロンに脱出の機会を与えてしまったのだ。

 

 

「とにかく、今確かなのはアイツをもう一度無力化する必要があるってことだ」

 

「良くも悪くも、アイツは完全に理性を失っている。いや、理性があるときをほとんど変わらないか…」

 

 

 正直、デンドロンに理性があろうがなかろうがあった時でさえあの様子だったのだ。なくてもあまり変わらない。それが正直な感想だった。

 

 

「行くぞ。相手方は待ってくれないからな」

 

「あぁ」

 

「クロロロロロロロロ…!!」

 

 

 警戒心全開でこちらを見ているデンドロン。既に本能から獣として覚醒しており、人だった面影は最早微かに残る見た目のみ。

 

 

「変身」

 

 

 炎と共に腰に【ガオウベルト】が出現し、パイプオルガンに似た変身音が流れ、【マスターパス】を取り出すと手から離れて自動的にベルトにセタッチされた。 

 

 

GAOH FORM

 

 

 ベルトの中心から【フリーエネルギー】がプラットフォームを形成し、零夜の体に纏われる。【オーラアーマー】が鎧として形成され、ワニの電仮面が複雑に変形する。

 

 仮面ライダーガオウ。時の捕食者に変身した零夜は、【デンガッシャー】を組み立てて剣へと変形させる。

 

 

『さて、行くか』

 

「――――」

 

『どうした?』

 

「いや、なんでも…」

 

『ハァ…なんて思ってるかなんとなく想像がつく。だからこそ言っておくが、これは弱者なりの工夫だ。弱者が陶打される弱肉強食の世界で、弱者は強者の枠に入らなければならない。俺の()()は、その抵抗に必要なんだ』

 

「――――」

 

 

 ライラに向けられた視線。それは限りなく少なく向けられたが、誤魔化しようのないほどの『軽蔑』だった。

 零夜の強さは“仮面ライダー”という別物の力だ。自分の力だけで『権能』にまで至ったライラとしては、別物の力を使っている零夜に少なからず『軽蔑』の念を向けていた。

 

 

『それに誤解しているかもしれんが、コレはただの“防御力”と“攻撃力”などの基本的能力値の向上に過ぎない。勝つか負けるかは、単純に己の力量次第なんだよ』

 

「――――」

 

『事実、俺もコレの意味は良く分からんが、使える物は使う。それだけだ』

 

「…そうか」

 

『それに、今はそんな個人の感情を優先するときか?俺達はこの戦いに勝たなければならない。負ければ失うものだってある。そのためにも、俺はどんな力だって使う。なにか間違っているか?』

 

「―――いや、何も間違っていないな。すまなかった。今は、コイツを倒すことに集中するとしよう」

 

 

 こうして、完全にライラの注意はデンドロンへと向いた。

 正直、ライラのこの感情は大分前から勘づいていた。だが、いつその話を切り出してその考えを払拭させるか迷っていた。

 仕方ないが、この状況を利用させてもらった。零夜にもライラにも、守りたい“今”がある。自分の感情と、どちらを優先させるべきかは、自明の理だ。

 

 

(こういうのは、早期に片付けておきたかったんだがな…。今思えば、良くこの3年間なんのイベントもなく終わったな)

 

 

 そう考えながらも、零夜―――ガオウは行動に出た。デンガッシャーを構えて真っ先に突撃する。

 

 

「ガァアアアアアア!!!」

 

 

 咆哮を上げて時を同じくして突撃するデンドロン。デンガッシャーを振るってデンドロンを押し出すが、それとはお構いなしにデンドロンは獣のごとき爪でガオウの鎧を傷付けた。

 

 

『――ッ』

 

 

 ガオウの鎧に、獣の爪痕のような傷がクッキリ残る。普通、ただの人間の攻撃でライダーの装甲は破れない。単純に攻撃力が増加しているのかと思ったが、その考えはすぐに払拭された。その理由は、デンドロンの己の装甲を傷付けた手にあった。

 

 

「気をつけろ!あいつの腕…獣のものに変質しているぞ!」

 

 

 ライラの叫びで、それが決定した。デンドロンの腕が、全く別物の生物の腕に成っていた。その腕は異常なまでにデカい熊の腕だった。傷口とその大きさが全く比例していないが、どうやらこの攻撃かかすり傷の部類だったようだ。

 

 それでも結構痛いが。

 

 しかし、デンドロンの変化はそれだけではなかった。

 腕だけではなく、全身が変化していく。顔はワニのように、胴体はゴリラのように、足はバッタのようになる。それぞれ違う生物の特徴を無理やりツギハギさせたようなグロテスクな見た目へと変貌した。

 体のサイズも阿保かと言えるレベルで肥大化し、零夜の身長の2倍は優に超えていた。

 

 

『なんだよこれ!?もう別の生物になってんだろうが!暴食の悪魔かッ!!』

 

「変化…。変貌…。まさか、あの合間に喰った妖怪の特徴をそのまま取り込んだのか!?喰ってその情報を取り込んだと言うのなら、十分説明はつく」

 

『だとしても頭がワニで胴体がゴリラっておかしいだろ!日本にワニとゴリラはいねぇよ!』

 

 

 そう、この時代の日本に、というかそもそも日本にワニとゴリラは生息していない。ワニは亜熱帯、ゴリラは多湿林に生息している。どちらとも日本生まれではない。

 

 

「そのワニとかゴリラとかと言う生き物のことは知らんが、妖怪は色々存在する。この国以外の生き物の(かたち)を元にした妖怪がいても不思議ではない」

 

『そう言うもんか?俺も妖怪に関しては詳しく知らんからな』

 

 

 実際、この世界(東方project)の妖怪の明確な定義は存在しない。広い意味では妖精や幽霊や神なども含めて人外はみんな妖怪。少々狭い意味なら、魔法使いや妖獣などを含めて妖怪。一番狭い意味では、幻想郷縁起にも「種族:妖怪」としか書かれないような妖怪。

 

――など、良く分からない。

 

 だが一つ確かなのは、妖怪は人間の(おそ)れが必要な存在だ。その恐れが具現化したのが妖怪と言ってもいい。

 

 

『だとしても、この時代でまだゴリラは見つかってねぇだろ…?』

 

 

 ゴリラが見つかったのは1846年だ。二人のアメリカ人宣教師によって発見された。この時代から約千年後のことだ。それだと言うのにゴリラがいるのは普通に考えておかしい。

 

 

「そんなことはどうでもいい!来るぞ!」

 

「ブゴォオオオオオオ!!!」

 

『せめてワニの声で鳴けッ!!』

 

 

 今ここに、ワニとワニの頂上決戦が始まった。ワニの強力な顎の力とガオウの刃が激突する。ともに協力な切れ味を誇り、どちらが先に壊れるか、それこそ決着をつけたくなるような内容だ。

 だがしかし、これは持久戦ではない。だからこそ、この硬さ比べの決着はつかない。

 

 

「後ろが、がら空きだ!」

 

「ガァアア!!」

 

 

 光の速さで移動したライラがデンドロンの背後に跳んで、背中を斬りつけた。そこから血が噴出するが、もののコンマ一秒レベルで再生した。

 

 

「―――(速いッ!この速度で再生など、どれほどの獲物(生き物)を捕食した!?)」

 

 

 デンドロンの再生には捕食して獲得した栄養を『変化』の能力で急激な速度で体の再生に反映していることで可能としている技術(わざ)だ。

 だが、あの時は栄養不足でシロの右腕を喰らうと言う凶行を行ったが、今回の場合は野良の妖怪を大量に食すことでその栄養を補っていた。だが、ここまでの再生能力はなかった。一体、どれほどの数をあの短時間で食べたと言うのだろうか――。

 

 

「ウゴォ!」

 

『な――ッ!』

 

 

 デンドロンはバッタの脚になった自身の足の脚力を用いて空高く飛翔した。そのままワニの頭でガオウをブンブンと上空で振り回し、顎の力を緩めてガオウを空に放り投げた。

 

 

『グ…ッ!』

 

「ウガァ!!」

 

 

 そして肥大化した筋肉の腕――ゴリラの腕でガオウを地面に向けて殴り飛ばす。ガオウは勢いよく地面に激突して、砂ぼこりが舞う。

 

 

「夜神ッ!」

 

 

 ライラが光の速度でガオウを回収して、木の物陰に隠れる。

 

 

「無事か?」

 

『あぁ…なんとかな。あの野郎、また変わったタイプの『変化』を見せつけてきやがって…対処しずれェ。ガオウに変身したのは失敗だった』

 

「その失敗は打開すればいいだけの話だ。それよりも…アイツ、いつまで空に…なに!?」

 

『あ…?……マジかよ』

 

 

 二人が見たもの。それは白い一対の翼が生えているデンドロンの姿だった。今だに滑空して、一ミクロンも動いていない。

 

 

『アイツ、鳥も喰ってやがったのか…。割とマジで暴食の悪魔だな』

 

「その暴食の悪魔と言うのは分からんが、今まで以上に厄介なのは変わりないぞ?『変化』の権能の可能性を見誤っていた」

 

『…ん?今変な単語が聞こえた気がするんだが?『変化』の『権能』だと?』

 

「ん、まさか…シロから聞いてないのか?アイツ、『権能』に目覚めてるぞ」

 

『…アイツ…何故それを言わなかったんだ…』

 

「いや、私もシロもあそこでデンドロンのことは無力化できたと思っていたからな…。わざわざ教える必要もないと思っていたんだろう」

 

『――納得だ』

 

 

 居場所を入れ替える前にある程度渡された情報。その中にデンドロンが『権能』に覚醒したと言う情報は入っていなかった。

 それもそのはず。二人はデンドロンは無力化できたと思い込んでいたから、わざわざ言う必要もなかったのだ。つまり、これに関してはシロは悪くない。

 

 だがしかし、状況は最悪なことに変わりはない。相手が『権能』持ちであるのならば、零夜は実質この戦いでは役立たずである。

 

 

『ライラ。この戦いはお前を主軸にする。いいな?』

 

「構わん。お前はどうする?」

 

『無論。お前の補助だ。そのくらいさせろ』

 

「了解だ!着いてこい!」

 

 

 ライラはジャンプして、空中で一回転すると着点がガオウになるようにした。その意図を理解したガオウはライラの両足を掴んで、遥か上空へと投げ飛ばした。

 滑空しているデンドロンの高度を遥か超えて、スピードに物を言わせて超高速で落下して刀を構えた。

 

 

「ゴロロロロ…」

 

 

 迫ってくるライラの姿を確認した時、デンドロンの頭に変化が起きた。ワニの頭からサイの頭へと変化したのだ。

 そのサイの角が、ねじれた角に変化する。

 

 

地球(ほし)の本棚ッ!!――――【ジャイアントイランド】の角かッ!』

 

 

 地球(ほし)の本棚の力で最速で調べて情報が出た。『ねじれた角の動物』と言うキーワードで何件か見つかったが、サイの角から変化した角の形状に、その動物が一番近かった。

 【ジャイアントイランド】とは、中央アフリカ生まれの世界で最も大きなレイヨウだ。バリエーション豊富な角を持つことで通っている【ジャイアントイランド】だ。これならばとすぐ出た。

 それと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この動物も日本に現存しないのに、一体どうやってその情報を会得したのだろうか――。

 

 

「そんな角、へし折ってくれるわ!」

 

 

 ライラは体勢も速度も落とさず、迫りくるデンドロンにそのまま太刀打ちしようとしている。サイの突進力と翼による飛翔、そしてジャイアントイランドの角による合計されて突進してくる。

 そんな時、デンドロンの速度が急上昇した。

 

 

「なにッ!?」

 

 

 その秘密は、『変化』とバッタの脚にあった。『変化』で空気の層を作ってそれを足場にして跳躍。結果的に爆速とも言える速度を生み出した。

 その速度は一瞬だけだがライラを怯ませるには十分で、ジャイアントイランドの角が、ライラの胸を貫こうと――、

 

 

FULL CHARGE

 

 

 ベルトから発せられた機械音とともに、のこぎりのような刃がデンドロンのゴリラの胴体を斜めに斬り込まれた。『権能』のせいでダメージは傷は出来ていないが、それでも怯ませるくらいは出来る。一瞬の、瞬きの合間とも言えるあの一瞬で、今の動作を行ったガオウは、ライラに向かって叫んだ。

 

 

『今だ、やれ!』

 

「無論!」

 

「グゴォアァアアア!!!」

 

 

 ガオウの攻撃で怯んだデンドロンの隙を狙って、ライラは光の速度で無数の斬撃をデンドロンに浴びせた。

 デンドロンの攻略法。それは彼の蓄えた栄養を完全に消費させた状態にすること。そうしなければ何度も回復してキリがないからだ。

 

 ダメージを負って落下してくるデンドロンを見届ける中、変化が起きた。ガオウベルトのエンブレムが消失し、通常の電王ベルトになった。その次に、なんの動作もなく電王ベルトが紫色に光る。

 

 

『変身』

 

 

 黒いライダーパスをかざして、「変身」と口にする。

 

 

NEGA FORM

 

 

 新たなフリーエネルギーによってガオウの鎧を包み、プラットフォームへと変化する。そこからソードフォームと酷似したアルファベットの「N」をモチーフにした模様が描かれている紫色の【オーラアーマー】が装着される。

 それと同時に自動的にソードモードだったデンガッシャーがガンモードへと変形する。

 

 

『喰らえ』

 

 

――【仮面ライダーネガ電王】へと変身し、落下してくるデンドロンに銃口を向けて発砲する。

 ダメージは与えられてはいないものの、発砲されて再び体制を崩し、落下地点を変えられた。そして、その地点にいるのは――、

 

 

「―――」

 

 

 刀を構えてその場からじっと動かないライラがいつの間にかいた。しかし、落下している合間にも再生は続いており、一向に再生スピードが落ちる気配がない。だからこそ、追撃する。

 跳躍して銃を連射する。その衝撃で落下スピードが速まりながらダメージを負わせた。

 

 そして落下する寸前に、再びライラの連撃がデンドロンを襲い、まるで包丁風呂にでも入ったかのように細かな切り傷がデンドロンの体に刻まれた。

 

 

「グォオオオ!!」

 

 

 が、そこからの再生は一秒もかからず、瞬間的に再生が終わり空中で体勢を立て直しながら綺麗に着地した。

 そこから変化は再び起こる。頭は(タカ)、胴体は腕から背中にかけてまでカニになり、足はチーターになった

 さながらオーズの【タカ】【カニ】【チーター】の亜種形態、仮称:【タカータ】をそのままリアルな動物にしたような見た目だ。

 

 

『ホント、チーターなんてどっから仕入れてきてんだよ!』

 

 

 チーターも日本にはいない。一体どうやってチーターの遺伝子情報を手に入れたのか不明だ。

 しかしそんなことデンドロンはお構いなしに獣の唸りを上げてチーターの速度で移動する。

 

 

『チッ!』

 

 

 ネガ電王は一瞬デンガッシャーを離すと、空中で自動的にガンモードからアックスモードへと変化して、迫りくる巨大なハサミを防いだ。デンガッシャーと、圧倒的な腕力と膂力で、だ。

 デンドロンの猛攻はこれで終わらない。鷹の頭へと変化したその凶器とも言える(くちばし)で動けないネガ電王を狙った。

 ハサミを防ぐので両手が塞がっているネガ電王は動けない。だからこそ、必然的にライラが動いた。

 

 

「グ…ッ!」

 

 

 ネガ電王が掴んでいるハサミを土台にして、鷹の頭をその細腕からは予想できないほどの力で抑える。しかも片手で、だ。残った片腕で刀を掴み、その頭を貫こうとした。

 しかし、残っていたもう片方のハサミもデンドロンは忘れていなかった。その巨大なハサミで塞ぎ、両者状況が拮抗する形に収まった。収まってしまった。

 

 この状況をいつまでも続けるわけにもいかず、先に動いたのはネガ電王だった。

 

 

『ライラ…少し我慢しろッ!』

 

「なにを―――ひぐっ!?」

 

 

 それは一瞬の出来事だった。ハサミが閉じるのを抵抗する力の一切を抜いて、しゃがんでハサミの拘束から抜ける。その影響でそのハサミを足場にしていたライラの体勢が崩れる。ライラの服を引っ張ってそれと同時にデンガッシャーがアックスモードからロッドモードに自動的に変形して、ライラの股を通り抜けさせてデンドロンの鷹の頭へと刃が直撃する。

 

――と同時に、落下の法則のままライラは股からデンガッシャーに着地した。ちなみに「ひぐっ」はこの時の悲鳴である。

 

 

「ゴォオオオオオ!!?」

 

『鷹の声で鳴け!!』

 

 

FULL CHARGE

 

 

 パスをフルチャージし、必殺技を発動させる。デンドロンの身体デンガッシャーを押し込んで吸い込まれる。それと同時にライラも地面に落下する。

 デンドロンは紫色の亀の甲羅の様なマークが浮き出ると同時に動きを封じられる。

 

 

『死ねッ!!』

 

 

 そのままライラを飛び越えて、デンドロンの鷹の頭にデンライダーキックを炸裂させる。

 勢いのまま、デンドロンは木々を倒壊させながら遥か遠くへと吹き飛ばされる。その様子を見た後、ネガ電王はライラの様子を見る。

 

 

『おい、大丈夫か?』

 

「――大丈夫に、見えるか?」

 

 

 プルプルと震えながら股を両手で抑えるライラは、いつもの凛々しくも男気のある雰囲気とは真逆の女性らしい仕草をしていた。

 

 

「貴様…この一連のことが終わったら、覚悟しておけよ…」

 

『……善処しておく。立てるか?』

 

「……礼は、言わんぞ」

 

『いや、言わなくていいと言うか…うん』

 

 

 仕方なかったとはいえ、零夜が悪いだけにライラに何も言い返せない。いくらライラが男よりの性格をしていると言っても、体と本質は女。ていうか男も女も関係なく股に強烈なダメージが行ったら誰だって精神的に逝く。だからこそ、これは零夜が悪いとしか言いようがなかった。

 

 

『俺に回復系の力が使えれば良かったんだが…。悪いがすぐに戦線復帰してもらうぞ。アイツに俺の攻撃は効かないからな。ただ吹き飛ばしただけだ』

 

「分かってる…だとしても、少し待て…」

 

 

 今だにプルプルと震えているライラ。少し――とても可哀そうに思えてきていた。が、その次の瞬間だった。

 

 

『アガっ!!』

 

 

 突如として、デンドロンが吹っ飛んだ方向から長く生臭い赤いなにかが飛来してきて、ライラを庇うような形でネガ電王が前に出て、ライラごと後方に吹き飛ばされる。

 先ほどのデンドロンのように遥か後方へと吹っ飛ばされ、重力に従って地面に落下しそうになる。

 

 

『くッ!』

 

 

 咄嗟の判断でネガ電王はライラを頭を重点的に守るように抱き着いた。それと同時にネガ電王は背中から地面に落下した。勢いで回転しながら何度も何度も激突し、その度に痛みに耐える。

 やがて勢いが落ちて、ネガ電王が下、ライラが上になるような体勢の状態で勢いが死んだ。

 

 

『ア、グ…!』

 

「夜神!どうして私を――」

 

『当たり前だろ…アイツに攻撃通んのはお前だけだ。その方が合理的だ…』

 

 

 そのために自分が盾になった。それを聞いてライラは自分の不甲斐なさを痛感した。あの時、痛みに悶えていたとしても、自分が真っ先に気付いていれば――。

 倒れ伏すネガ電王だったが、次の瞬間キョンシーの如く飛び起きた。

 

 

「――ッ!?」

 

『このまま寝ていられるか。まだやれる…!』

 

 

 『離繋』の能力は磁石としても応用できる。それを使って地面から『離れて』まるで磁石の同じ極が触れ合ったかのように飛び起きることができた。

 

ネガ電王のベルトに金のエンブレムの意匠が施され、ガオウの変身音と似た音楽が流れる。ドーベルマンのような顔の意匠が施されているライダーパスを取り出し、パスを読み込ませる。

 

 

『変身』

 

 

 オーラアーマーが展開して、ネガ電王を包み込んだ。電王のプラットフォームと似た状態になると、パトカー型の電仮面が変形する。

 

 【仮面ライダーG電王】に変身したネガ電王は、デンガッシャーをオーラアックスが展開した状態のガンモードへと変形して、先ほどの攻撃を受けた方向へと発砲する。

 

 

「グギャ!!ウギャ!!ガァアアア!!」

 

 

 連続で赤と青のエネルギー弾を発射したことによって、その存在は姿を表した。カメレオンの頭、亀の甲羅(どうたい)にカマキリの(うで)、ゾウの脚の異形だった。

 

 

「ブゴォオオオオオオ――――!!」

 

 

 攻撃されたことでキレた異形――デンドロンは、ゾウの脚でドスドスと音を立てながら突進してくる。両手の代わりにカマキリの鎌がG電王に振るわれた。持ち前の筋力と腕力、膂力で鎌を鷲掴みにして、力比べをする。

 

 

『――やれっ!』

 

「あぁッ!」

 

 

 ライラの一閃が、デンドロンを斬った。だがしかし、手ごたえはあるがそれは硬いものに刃が滑った感覚だけだ。

 あまりの防御力にライラは冷汗が垂れる。

 

 

「硬い――ッ!」

 

『だったら別の所を狙え!頭でも、足でもいい!』

 

「だったらその頭を――」

 

 

 狙う、と言おうとした瞬間、デンドロンの姿が周りの景色と同化するかのように消えた。

 

 

「消えたッ!?」

 

『頭の動物の特性だ!あの頭の動物の名はカメレオンっつって、保護色で体表の色素を変化させて背景に溶け込む能力を持ってる!』

 

「なんだと!?まさか取り込んだ動物の特性までも取り込めるのか!?」

 

『いや、流石にそんな能力まではないはずだ!『変化』の能力で周りの景色と同化しているんだ!』

 

 

 それが零夜の導き出した結論だ。むしろ、それしかないと彼の中で確信する。自分でも最初はそうなのではないかと思ったが、流石にそんな能力まではないだろうと自身の中で否定した。

 デンドロンの能力は『変化』。カメレオンも保護色に『変化』するのだからこのくらいの芸当、できないとおかしい。

 それに、むしろ本当にそんな能力があったとしたら、絶望的だ。喰った物の特性をそのまま取り込んで能力を自由自在に扱うことができる。そんなことができるのは本当に暴食の悪魔くらいしか思いつかない。まぁ会ったことはないが。

 

 

『ライラ、伏せろ!』

 

「あ、あぁ」

 

 

パーフェクト・ウェポン

 

 

 ベルトにパスをかざすと、機械的な音声がコールする。すると、G電王とライラを囲うようにバリアが展開される―――と同時に死角の方角のバリアに衝撃が走った

 

 

『そこか』

 

 

 デンガッシャーガンモードの引き金を引くと、無数の赤と青のエネルギー弾が発射され、ホーミング弾の如く曲がりながらバリアを攻撃した対象にぶち当たった。

 

 

「グゲラァアアアアアアアッ!!」

 

 

 銃弾の圧で押されて、デンドロンは背中から倒れた――倒れてしまった。亀の体で背中から倒れる。それがなにを意味するかは、誰だって分かる。答えは、バランスを失う、だ。

 

 手足をジタバタさせながら、体勢を戻そうとするが、亀の甲羅の楕円型がそれを邪魔していた。

 

 

パーフェクト・ウェポン

 

 

『ライラ、これを使えッ!』

 

 

 再びパスをかざすと、デンガッシャーがG電王の手から離れて空中で自動的にガンモードから十手(じって)モードに変形すると、デンガッシャーがライラの左手に渡る。

 デンガッシャーに赤と青のエネルギーが充填される。

 

 

「これは――」

 

「あの甲羅を割るには斬撃より打撃の方がいい。これであの甲羅をブチ割れッ!」

 

 

 意図を理解したライラは、右手に刀、左手にデンガッシャーを持ってデンドロンのお腹の上に乗る。十手モードのデンガッシャーを無慈悲に、思いっきりデンドロンの甲羅に叩きつけて、『ビシビシッ!』と言う亀裂音と共に、中の肉が露見していく。

 

 

「ウゴォアアアアアアアアア!!!」

 

 

 亀にとって甲羅が壊れること。それは人間にして言い換えればお腹の皮膚をそのまま剥がされて内臓が零れるようなものだ。それほどの強烈で残酷非道なことを、一瞬で躊躇もなく行ったライラは、さらに追い打ちをかける。

 “表面に”妖力を纏った状態の刀で、露見した内臓を中心的に切り刻み、デンガッシャーで内臓を傷つける。内臓などの再生は皮膚の傷などよりも多くの栄養を必要とする。だからこそ、外より中を傷付けた方が手っ取り早いのだ。

 

 痛みに悶えながらもデンドロンはその圧倒的で驚異的な再生能力で傷が再生していき、破壊されを続けていく。耐えられなくなったのか両腕の鎌をライラに向けて振るった。

 

 

『やらせるわけねぇだろ』

 

 

 が、G電王が当たる直前で鎌を両腕で掴み、先ほどと同じように綱引きのような押し出しあいが始まった。

 その隙に、ライラは内臓にダメージを与えることを辞めない。むしろその速度は激化していく。そして、その対象に心臓や肝臓などと言った重要器官だけを狙っていないと言うところも性質が悪いと言える。

 

 そもそも、二人にデンドロンを殺す理由はない。デンドロンも被害者なのだ。性格を無理やり変えられたと言う。だからこそ、殺さないように留めている。だが、それがデンドロンを苦しめていることには変わりないのだが。

 

 こんなことを続けて約3分。3分だ。ライラが光の速度で動けるため、1秒間に千回攻撃出来ると仮定しよう。単純計算で1080万回も攻撃したことになるのだ。それ程やって、ようやくデンドロンの回復スピードが落ちてきた。

 ほぼ動かなくなった―――というかほとんど既に動いていない。そろそろ潮時だと分かったライラは、攻撃する手を少し緩めずにデンガッシャーをG電王に返す。

 

 

『行くぞ!これで(しま)いにするぞ!』

 

「あぁ!」

 

 

パーフェクト・ウェポン

 

 

 ゆっくりと、ジワジワと再生していく亀の甲羅を見届けながら、G電王はパスをセタッチした。十手モードのデンガッシャーに赤と青のエネルギーが溜まり、構える。

 対してライラも、刀の“表面に”特大の妖力を纏わせた。

 

 

「これで、眠れッ!」

 

『ハァアアアアッ!!!』

 

 

 二人の武器が、無防備となった甲羅に振り下ろされ、決着が―――

 

 

 

「な…ッ!?」

 

 

『なんだ、これは…!?』

 

 

 

―――つかなかった。

 二人の攻撃が当たる寸前、なにかに阻まれたかのように二人の武器が動かなくなった。いや、違う。むしろ、押し出されている?

 

 

「なッ!?」

 

『ぐッ!?』

 

 

 突如として押し出される力が強まって、暴風にでも当てられたかのように二人の体が遠くへと押し出される。木に背中から激突して、(うずくま)ると同時にG電王の変身が解除された。

 

 

「なんだ、今のは…!?」

 

「なんかの力に押し出された…!?あれも『変化』の能力なのか!?」

 

 

 なんとか腕で体を起こしながら、目の前にいるデンドロンを見据えた。すると、デンドロンの体に再び変化が起き始め、ゴキゴキと体の中身も変化されながら、体の面積も零夜たちと変わらない通常サイズ――元のデンドロンの姿へと戻っていた。

 

 ただ違うのは、右腕のみ。デンドロンの右腕――というか体全体はあれほど傷ついたと言うのに、嘘だろと思うほど傷口が綺麗に塞がっていて、まるで赤ん坊のようにきめ細かな肌だ。それも『変化』による再生の賜物だろう。

 だがしかし、デンドロンの右腕は、右腕だけはまるで歴戦の猛者(もさ)かのような傷跡が複数刻まれていた

 

 つまり、あの右手はデンドロンのモノではなく、別の誰かの右腕と言うことだ。

 

 

「グゴォオオオオオオッッ!!!」

 

 

 デンドロンがその右手を掲げると、デンドロンを中心に四つの元素――『火』『水』『風』『(いわ)』の塊が出現する。

 それらを一斉に投げつけられると、二人は互いに右と左に分散。元素攻撃が当たった瞬間、起爆地点から半径3メートルが、“燃えて焦げた”わけでもなく、“濡れた”わけでもなく、“風で刻まれた”わけでもなく、“岩の塊に潰された”わけでもなく、消滅していた

 

 跡形もなく、まるで破壊光線にでも当たったかのように地面が(えぐ)れていた

 

 

「嘘だろ…!?もう『変化』って言うレベルじゃねぇぞ…!?」

 

「流石にそれはないとは私も思ってはいたが…『権能』と言うのは底が知れない異物だな…」

 

 

 『火』『水』『風』『(いわ)』。これらはすべて『変化』で片付くようなものではない。『水』と『風』であるのならば、説明はつくだろう。『水』は『変化』の力で『酸素』と『水素』を融合すれば出来る。『風』も周りから集めれば済む話だ。

 だが、『火』と『(いわ)』だけはどうしても説明できない。あの右手の持ち主の能力と考えた方が納得だ。だがしかし、同時に納得したくなくなる。

 

 一度は否定したその可能性が、顕著に現れ、それが現実となった。

 

 デンドロンの『変化』の能力―――否。『変化』の権能はすでに生物の枠組みを超える力を持っていた。ライラの『光』の権能だってそうだ。『光』の速度に生物は耐えられない。それこそ、『権能』と言う埒外の異物によって成り立つものだ。

 

 デンドロンの『変化』の権能の真価――それは食したものの特性(のうりょく)をも取り込む凶悪性だ。

 あの生物の体への『変化』は、見た目だけかと思っていた。だが違った。

 それに、あの右手は――。

 

 

「まさか…!?」

 

 

 ここで、その答えにライラが気づいた。気づいてしまった。

 

 

「どうした?」

 

「夜神。一つ聞くが…今までヤツが『変化』してきた動物の部位は、すべてその動物とデンドロンの部位と一致しているか?」

 

「どういうことだ?もっと簡潔に言ってくれ!」

 

「つまりだ!最初にヤツの腕が『変化』した際の動物の腕は、あのようなものなのか?」

 

「当たり前だ!最初のデンドロンの腕は間違いなく熊の腕だ!それがどうした!?」

 

 

 今までデンドロンが『変化』してきた生物の部位とデンドロンの部位は合致していた。つまり腕は腕しか、足は足しか『変化』できないと受け止められる。

 だとしたら、デンドロンは喰っている。()()()()()()を―――。

 

 

「不味い…アイツの『変化』した腕……アレはシロの右腕だッ!!」

 

「なにッ!?」

 

「間違いない!あいつは、シロの右腕を喰らったッ!!」

 

「マジかよ!?だとすれば、不味いぞ…!?」

 

 

 零夜にとって少々いけ好かなくて、煩わしいヘラヘラしているが最も強い男。絶対に敵に回したくない男の右腕の『権能』。それが、今最も渡って欲しくない相手に、渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――絶望の第二ROUND(ラウンド)。スタート。

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回はこれで終わりになります

 ちなみにこの74話の時系列はルーミアが駆けつけて紅夜のジュエルルーラーが解放された時間帯です。
 『権能』の特性として『権能』特有のオーラと言うものを『権能』持ち同士感じ取れるのですが、紅夜の『権能』が半端に覚醒しているのと、場所が離れすぎているため、ライラは紅夜が『権能』に覚醒したことをまだ知りません。
 
 そして、明かされた『変化』の権能の凶悪性――。まるで暴食の悪魔のような力に、零夜たちはどう対抗するのか――。次回を、お楽しみに。


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