目がやられない限りは。ブルーライトカットのメガネ、百均で買ったし、あとは指がどこまでもつかなだな。まぁ限界に近いけど。
それでは、どうぞッ!
絶望だ。絶望だ。その言葉が何度も頭の中に打ち付けられて、無理矢理払う。
目の前にいるのは【デンドロン・アルボル】と言う獣だ。最強・最恐・最狂。三つのサイキョウの称号を授けるに相応しいと言えるほどの凶悪なシロの『権能』。それが、敵であるデンドロンが使っている。戦意喪失してしまうのは仕方のないことだ。
「嘘だろ…よりにもよってアイツのかよ…」
「そうだとしても、現実を受けとめる他あるまい。――来るぞ!!」
「ジデッ!!」
デンドロンが右手を突き出すと同時に、強力な衝撃波が生まれ、二人を吹き飛ばそうと暴風のように荒れ狂う。
―――そんなとき、零夜の懐から青い光が飛び出し、それが人の
「なんだ…?」
「――ッ!?お前は…ッ!!」
「久方ぶりだね。零夜くん」
その人物――もとい幽霊に、零夜は見覚えがあった。かつて、月面で一時を共にした英雄――。
「ニュートン…!」
「あぁ。アイザック・ニュートンだとも」
万有引力を発見した英雄、アイザック・ニュートンだ。パーカーゴーストであるニュートンが、何故か急に姿を表した。
「どうして…!?」
「なに。大したことではない。アレは私の専門分野…あの攻撃の対処は、私に任せてくれ。ソレに、あまり時間がない。無理やりこの
前を向いたニュートンが、再び右手を突き出すと、デンドロンが苦しそうに押し出されていく。その隙にニュートンは二人に語る。
「これで少しは時間稼ぎができる。このうちに、一つ言って置くことがある。いくら相手の能力を取り込んだところで、『権能』などと言う埒外の力をそのまま取り込むなんて不可能だ。それにね、私は知っているのだよ。彼の――シロ君の能力を」
「なにッ!?」
「あいつの、能力を!?」
ここで途轍もないカミングアウトに驚愕を見せる二人。二人はシロの『権能』の詳細どころか『能力』だった頃も知らない。
そんなトップシークレットとともいえるシロの情報を知っていると言うのだから、驚くのも無理はない。
「なんでお前が知っているんだ!?」
「何度も語り明かしたからさ。万有引力についてね。当時、彼が二つの能力を持っていたことは知っているかね?」
「あぁ…それは聞かされた。でも内容までは知らん」
シロが『権能』について語った時に『権能』とは二つの能力が統合されたことによって生まれる偶然の産物ともとれる代物だ。実際はどうなのかは知らないが、シロの説明だとこういうことになる。
「彼の『能力』の内の一つ……それは私が今言ったように万有引力に関係するものだ」
ニュートンの万有引力―――リンゴが落ちているところを見たことで『重力』と言う法則を発見すると言う偉業の代物だ。来世に語り継がれ、書物となり、今や知らないものは誰もいないほどの有名な法則。
その法則に関係する能力、それは―――
「重力か!!」
「そうだ。『重力を操る力』。それが彼が当初持っていた能力の一つだ。実際私も直接聞いたことはないが、私にこの話を聞くと言うことがあったのでね。片方はそれで決まりのはずだ」
ニュートンがそう淡々と口にしたその理論は、曲がりなりにも合っていた。事実、シロが『権能』になる前の能力の一つとして、『重力操作』が存在していた。それともう一つの能力が統合したことによって、今に至っている。
確かに、重力について聞きたいのならばすぐ近くに重力と言う概念を発見した張本人がいるのだから、相談すると言うことは不思議ではないが――。よりにもよってこんな筋から彼の能力の一つが判明したことでやるせないというかなんというか――。
「彼の先ほどの衝撃波も、『斥力』によるものだ。だからこそ、こっちも今『斥力』で攻撃している」
「じゃあつまり……今デンドロンが使っているのはシロの『権能』じゃなくて『能力』なのか!?」
「そう言うことになるだろう。現に決定的な証拠として、彼の権能の一つである『絶対命中』がない」
「『絶対命中』…?」
「そうだ。『絶対命中』はその名の通り攻撃を必ず当てる力。だが先ほどの奴の攻撃はそうじゃなかった。故に、彼が『権能』ではなく『能力』を取り込んだと言うのは自明の理だ」
そこで零夜は、ある光景を思い出した。それはレイラと戦ってた際に、シロがモーニングスターを振り回して零夜に当たりそうになった時、あり得ない軌道変更が目の前で起こった場面*1だ。
あれも『権能』の効果の一つだとすれば――。
「確かに説明は着くが、どうしてそんなことを知ってるんだ?」
「……そろそろ抑えるのも辛くなってきたから一言で言おう。私は、ずっと君の懐で見ていたさ」
「――なるほどな!行くぞライラッ!!」
「あぁッ!!」
二人は一斉に飛び出して左右からデンドロンを責めるべく旋回する。ライラは刀を、零夜は『離繋』の能力で取り出した【ブラックライジングタイタンソード】と【オーガストランザー】を両手に持って突撃する。
「オラッ!!」
掛け声とともに、ブラックライジングタイタンソードを振るって、漆黒の電撃を放つ。直接ダメージを与えることはできなくても、痺れさせることくらいならと、放った。
「ギグゲ!!」
が、デンドロンは『斥力』の中、右手を地面に向けて『斥力』を放った。空に撃ち出されたデンドロンは電撃を回避。再び右手を零夜の方に向けると
「ビネ゛!!」
「お前がな」
瞬間、光の速さで通り抜けたライラが右腕を切断し、電気が散乱する。デンドロンがシロの『能力』発動を可能としているのはあの右腕によるものだ。それゆえに、その腕さえ切ってしまえば――。
「マダバダ」
瞬間、血が散乱する前に血が収縮すると同時に右腕がくっついた。
「なにッ!?」
それはライラが通り過ぎる直前の出来事で、今までとは違う再生スピードにライラは後ろを振り向いてそれを確認すると、驚愕の声を上げた。
「だったらこれで!」
オーガストランザーの
「バダルガッ!!」
右手を突き出すと、オーガストランザーの勢いが殺された。それだけではなく、オーガストランザーが半回転して零夜の方に向いて、『斥力』でこっちに矛先を向けて飛んでくる。
「ちッ!!」
空いた左手で即座に『
オーガストランザーが地面に突き刺さると同時に轟音が響き渡り砂ぼこりが舞う。
「クソ、前が見えな――」
そう言いかけた瞬間、砂ぼこりが一か所に凝縮される。その箇所は、デンドロンの右手の掌の上だった。あの量の砂が掌の半分くらいまでに濃縮され、その凶悪な玉を、弾丸のように零夜に向けて発射した。
「こちらを忘れていないかね?」
ニュートンが今度は『引力』で向かってくる砂の玉の勢いを殺した。そして今度は自明の理として砂の玉がニュートンに向かって飛んでくる。
「対処は任せろ」
いつの間にかニュートンの目の前にいたライラが居合の構えで、一閃。砂の玉は真っ二つに割れて霧散する。そのスピードのままデンドロンへと突撃する。
「ゲヒッ」
「―――?」
デンドロンが下種な笑みを浮かべた。デンドロンが右手を地面に向けて振りかざすと、地面から分厚い氷の壁が形成された。
「そんなもの、斬ればいいッ!!」
案の定と言っていいか、ライラは持ち前の刀で行く手を阻む氷の壁を横に一刀両断した。横にずれていく氷の壁を横切って、目の前の敵を見定め――、
(―――いない?)
しかし、目の前にデンドロンはいなかった。零夜かニュートン。どちらかを狙っているのかとすぐに情報を整理して、一番襲われる可能性のあるニュートンに視線を送った。彼はデンドロンが取り込んだシロの『能力』である『重力操作』の相殺を担当している。何者なのか分からないが、味方であることは分かり、そして重要な役割を持っている。
それに、さっきまで獣のようだったデンドロンが少しずつだが理性を取り戻して言葉を喋るようになってきている。シロの『能力』は思考を働かせないと使えないようなものばかりだ。故に、その可能性は大きい。というより確実だろう。
「ニュートン殿ッ!気を付け「ライラ、上だッ!!」なッ!?」
零夜の大声で自分の上を見た瞬間、固まった。デンドロンがいつの間にか自分より高い上空を取っており、凶器とも言えるほどの巨大な氷の塊を持っていたからだ。
「ジョゴデオドナジグジデイボ!!」
言葉ともとれる言葉とともに氷の塊を落とした。回避が間に合わずそのまま氷に押しつぶされる。
「ライラァアア――――ッッ!!」
零夜の叫び声とともに、無慈悲にもその上に凍えるような冷気が氷を包み込んで、脱出不可能な氷の箱を造ってしまった。
「~~~~ッ!!」
「やられてしまった…少し考えれば分かることだった。最初に狙うべきは私でも零夜くんでもない。自分に攻撃出来る彼女を先に潰すべきだと…」
やられた。ニュートンの言う通り、デンドロンにとって最優先に排除すべき敵はライラだ。この中で唯一自分にダメージを与えることの出来る人物。デンドロンの知能が欠如してしまっていたから、考えることを放棄していた。それを見過ごしてしまい、一番懸念すべき事態を引き起こしてしまったのだ。
「アァー、アァー、アァ―。ボーヤク……ゴーヤク…ヨーヤク。ようやく。ようやく排除できた…。排除すべき敵をなァッ!!」
氷の壁の上に乗って、醜悪な笑みを浮かべながら零夜とニュートンを見下ろすデンドロン。最悪なことについに言葉と知能を完全に取り戻し、さらに難易度レベルを上げてきた。
「デンドロン…ッ!!」
「あぁそうさ!『俺』が、ようやく帰ってこれたのさ!さぁ、拍手喝采をしろ!」
今度のデンドロンは自己顕示欲の塊のような印象を受けた。ここで出会った時から狂人のように狂って性格や一人称がコロコロと変わっていた。今度はそんななんだなと閉口する。
「どうした?どうして喜ばない?俺様の帰還だぞ?」
「敵が帰ってきて喜ぶかよッ…」
「あぁそれもそうか。しっけーしっけー。それにしても、良い“おみあげ”ができた」
「……おみあげ?」
「あぁそうさ。この女のことさ。この女を献上すれば、大層お喜びになるだろう」
「―――ッ!!」
それを聞いた途端、零夜は歯ぎしりをする。今までのデンドロンも形容しがたいほどの異常者だったが、今度の性格のデンドロンはかなりムカつき精神を逆なでさせる言動をする。
ライラのことを“おみあげ”と言い放ったデンドロンの顔は、酷く笑顔で歪んでいた。
「そこで一つ聞きたい。この女は処女か?その方が価値が高いんだがなぁ」
「――もういい。それ以上喋るな」
血管が浮き出るほどの怒りが湧き出た零夜は、ブラックライジングタイタンソードをその場に捨てる。
腰に黒い
「ニュートン。やるぞ」
「やれやれ…人使い、もとい英雄使いが荒いな君は。しかし、そろそろ時間だったのは事実。私の力、思う存分使うがいい」
ニュートンがアイコンへと変化し、零夜の手へと渡る。
ドライバーのカバーを開き、中に装着し、カバーを閉じる。瞳からニュートンゴーストが出現し、零夜の周りを旋回する。
「変身ッ」
怨嗟の混じった声の、「変身」を声にした。
【仮面ライダーダークゴースト・ニュートン魂】へと変身した零夜は、右手を地面に向けて『斥力』の力で跳躍する。同時に『引力』をデンドロンに向けてこちらへ引き寄せる。
対してデンドロンは先制攻撃を奪われたと言うのに、余裕そうな表情をしていた。引き寄せられながらも、デンドロンは余裕そうに語った。
「無駄だよ!!俺の力はすでに生物の枠組みを超えたんだよ!半端者のお前の攻撃は、俺には届かない!」
デンドロンの余裕の起因は、零夜が『権能』に覚醒していないことが原因だ。“『権能』持ちにダメージを与えられるのは『権能』持ちのみ”と言う絶対的な格差が存在する限り、零夜がデンドロンに勝つことなど不可能だ。この場で『権能』に覚醒できればいいが、そんな都合の良い妄想はやってこない。
零夜の攻撃に何も抵抗しないまま、零夜の『斥力』のパンチがデンドロンに直撃する。
「弱すぎんだよ!出直してこい」
しかし、無傷。それに一向に『斥力』の押し出す力が作用していない。よく見ると、ダークゴーストの『斥力』より強力な『引力』でその場に踏みとどまっていた。
「重力の攻撃ってのは…こうやるんだよ。それで勉強しな」
侮蔑を込めた卑しい喋り方で右手をかざすと、強力な『斥力』の力で押し出され、吹き飛ばされる。地面を抉りながら遠くへと吹っ飛んで、吹っ飛んで、吹っ飛んで――。『斥力』の力で威力削減を行うにしても、限度がある。
途中、何故か倒壊していた木々を『引力』で引き寄せて臨時バリケードを設置して――激突。
『ア、ガ、グガギ…』
結果、止まることはできたが、全身打撲を患った。骨にも若干ヒビが入っているのが認知でき、動かすだけでも辛い。そこは『離繋』の能力で骨のヒビをなんどか繋ぎとめた。それでもかなり痛いが、なにもやらないよりはマシだ。
「どうしたどうした?もうへばったのか?いやぁー圧巻だなぁ。強さとは罪だ。なにせ、つまらなくなるからなぁ」
上空から、嫌な声が聞こえてくる。ダークゴーストが見上げると、デンドロンが空を飛んでこちらを見下していた。完全に舐めている目だ。侮蔑と侮辱の目だ。それを向けられるだけでも、零夜の数少ないプライドが刺激される。
『まだだ…』
「おっ、まだやるのか?強情だなぁ。まぁお前の身体だ。止めないが、こんなんで終わってくれるなよ?俺がつまらないからな!」
その時、見えない速度でデンドロンがダークゴーストの目の前に近づいてきて、腹に一撃を与えた。
『ガ―――ッ』
「どうしたどうした?よえぇな。そんなんでよく俺の相手を出来ると思ったな。もう詫びとして自害してみろよ。ホラホラよォ!」
「―――黙れ」
「あッ?今なんて言っ―――」
その時、デンドロンを中心に空間が歪んだ
「なんだ…?」
『俺とニュートンの混合技だ…』
「は?」
『俺の能力の『離繋』とニュートンの『斥力』と『引力』…。その本質は似たようなものだ」
「あ?なに言ってんだてめぇ?ついに頭が狂ったか?」
急に訳の分からないことを言う零夜を、ついに狂ったと認識した。本当に狂っているのはどちらなのかと言うレベルだが。それでも、ダークゴースト――零夜は淡々と言葉を続けた。
『押し出す力の『斥力』と『離す』ことは同義…。同じく引き込む力の『引力』と『繋ぐ』ことも同義…この意味分かるか?』
「は?」
『分からないよな。だからお前にでも分かるように簡潔に教えてやる』
「なにを――ッ」
デンドロンが憤慨しようとしたその時、空間の歪みがさらに強力なものになり、デンドロンを少なからず吸い込もうとするブラックホールと化した。
「なんだ、これは!?」
『排反する対極の力…。言うなればS極とS極、N極とN極!本来くっつかない二つの力を無理やり繋げることでそのエネルギーの衝突を利用して、空間に歪みを造る技だ!』
急に思い浮かびあがって来た、謎の利用方法。今までこんなこと試したこともないのに、突如として思い浮かんできた方法に賭けた。それが、
手が痛い。腕が痛い。筋肉が悲鳴を上げて、骨が軋む。空間系の能力、しかもそれを無理やり発動させるため、その負荷は計り知れない。それでも、やるしかない―――!
『一か八かだ…消えろ、デンドロンッ!!』
「貴様――ッ!!」
デンドロンがなにか言いかける前に、空間の歪みに完全に吸い込まれ、デンドロンの姿が消えて空間の歪みも消えた。いかなる『権能』以外の攻撃を無効化する『権能』だとしても、空間移動には耐えられまい。正直どこに移動したかもわからない。宇宙空間かもしれないし、はたまた別の場所かも。もしくは重力場―――ブラックホールの力で分子レベルで分解されているかも…。
『―――』
正直、何度も言ったようにデンドロンを殺すつもりはなかった。あんな狂人でも、とある事件に巻き込まれて性格改変をされた被害者なのだ。できれば救いたかった。だが、全てを救うなんてことはできない。それこそ偽善だ。『悪』を自傷する者にとって、とても考えてはいけないような思考だ。それゆえにすぐに振り払った。
とにかく、次に優先すべきはライラの救出だ。いくら死ぬビジョンが見えない『権能』持ちとはいえ、今行ったように死ぬ可能性だって十分あり得る。
それにこのまま放置していたら凍死していてもおかしくない。ただで連戦で体力が消耗していたんだ。これ以上長引けばライラの体が危ない。
正直あの技の反動で腕がほぼ機能しない。人間を超えた回復力を持っているとはいえ、この戦いの合間では完全に回復することは不可能だ。
しかし、そんなことは言ってられない。ライラを助けに行かなければ。
『クソッ、デンドロンの野郎、こんなところまで飛ばしやがって…』
幸い、あの氷の柱がなんとか視認できるほどに大きいためにそれが目印となってどちらの方角に行けばいいのかすぐに分かる。
『とにかく、急がねぇと――』
「驚いたじゃねぇかよ」
『ガッ!?』
突如、背中を蹴られて悶えると同時に先ほどと同じように遠くへと吹き飛ばされ、場所は氷の壁へ。壁に激突して、ようやく衝撃が殺された。
それに、あの衝撃を受けとめたと言うのに、びくともしない氷に驚くばかりだ。
変身解除一歩手前の所まで追い詰められ、状況が理解できないダークゴーストに、魔の手が迫りよる。
「ったくよォ。面倒なことしやがって。流石にアレは驚いたぜ?」
『な…ッ!?』
目の前から一人の男が歩いてくる―――それはまごうことなき、見間違えるはずがない。先ほど空間の歪みの中に放り込んだ【デンドロン・アルボル】だった。
『バカな…!?さっき空間の歪みに放り込んだはずなのに!!』
「人を産業廃棄物みたいに処理しやがって。抜け出してきたに決まってんだろ」
『馬鹿な…重力場の塊だぞ!?それを…』
「頭悪いなお前。言っただろ?俺の力はすでに生物の枠組みを超えたんだよ!半端者のお前の攻撃は、俺には届かない!……ってなあ」
『―――』
まさか、これも『権能』による格差だとでも言うのか?空間系の技も、『権能』持ちには届かない。それほどまでに、隔絶した実力差が、あると…?
『―――』
「動かなくなった…絶望したか?したなぁ、したよなぁ!!ここで一つお前に教えてやるよ!俺は吸い込まれる瞬間、『変化』の力でそこら辺の石ころと自分の場所を入れ換えたんだよ!つまり、お前が吸い込んだのはただの石ころだったわけだ!!ヒャハハハハ!!」
『―――』
「ほら、もう一回使ってみろよ。もしかしたら今度は勝てるかもしれないぞぉ~?」
精神を逆なでする声で煽ってくる。しかし、その声のほとんどはダークゴースト――零夜の耳には届かない。
「まぁ?その腕じゃ無理ってもんだな!ハハハハハ!!」
――なぜなら、ダークゴーストはデンドロンの言葉より、背中の水分に意識が向いていたからだ。当初はマイナスの温度だったあの氷から、水滴が垂れていた。
そこで思いついた。一つの可能性を。
『(だとしたら…ッ!!)そうだな…だったら、最後に、これ、喰らえや』
「ん?」
ダークゴーストが壊れかけた左腕を掲げる。―――その瞬間、『引力』が辺り一帯を駆け巡る。範囲は、半径1キロ。
「どうした?負けを認められなくてついに暴挙に出たかぁ?そんなもんで俺を倒せるわけねぇだろ!?」
『やってみなきゃ、分からねぇだろうが…!』
すると、後ろから『ズザザザ…』と何かが引っ張られる音が聞こえて、デンドロンは後ろを振り返る。デンドロンが見た光景、それは周りの倒壊した木々が『引力』で引っ張られている光景だった。
「こんなんでどうするつもりだ?まさか、俺を窒息死させようってか!?無理無理!だってなぁ」
デンドロンは自分のではない右手をダークゴーストに見せる様に掲げると、右手を中心にデンドロンが風の鎧を纏った。
「これで、俺は無事。残念でしたぁ」
『それはどうかなァッ!!』
『引力』の力で木々を濁流のように引き寄せて、追加で『離繋』の力で『引力』の中心を
――木々が、一か所に衝突しあう。木が、泥がダークゴーストをデンドロンを包み込み、確認できるのは氷の柱のみ。
「無駄無駄」
余裕そうにデンドロンが自分を覆い囲う木々と泥を風の力で吹き飛ばす。案の定と言っていいか、デンドロンの服には汚れ一つすらついていない。というより、狂化時に服の半分以上を失っているためにそこまで被害はないのだが。
逆についに変身解除してしまった零夜の見た目は凄まじいことになっている。濁流の影響で服が泥まみれになっていて、あの空間の歪みを発生させた副作用による腕へのダメージも相まって、濁流によって流れ込んできた木々にぶつかったのか、打撲の跡が酷い。
「――――」
「最後は自滅か。呆気なかったな。……そうだ、この服貰うぜ。せめてもの情けとして、俺が使ってやるよ」
デンドロンはピクリとも動かない零夜から薄い黒コートを、コートが傷つかないように強引に脱がす。強引に脱がされた零夜の体は横にバタリと倒れる。
「うっえ汚ねぇ」
デンドロンは零夜のコートを放り投げると、コートを中心に水球が生成される。水球がまるで洗濯機の水のように高速回転して水球が泥で汚れていく。
水球の水分とコートの水分が地面に零れる。それと同時にコートが『火』と『風』の力によって熱風となりコートを乾かす。
「よしよし。これで良し。良かったな、最後まで自分の遺品使ってもらえて」
醜悪な笑みでそう言うデンドロン。
「このコートは、しっかりと使わせてもらうぜ。月に帰るまでなァ」
キチンと最後まで使うつもりがないところが、より下種らしい。倒れている零夜などは完全に無視して、今だに氷の柱に保存されているライラを見て、デンドロンは舌なめずりをした。
「さてと、あとはこいつを運ぶだけだが…味見、しちまってもいいよなぁ」
醜悪な思考を働かせて、デンドロンはこの後のことを想像する。「やめろ」と懇願して泣く、彼女の姿を。そして、堕ちていく姿を――。
「さてと、それじゃ早速―――」
「―――あ?」
突如として聞こえた、何かにヒビが入る音。その音を聞いて、デンドロンは歩みを、行動を止めた。その音の原因を確かめるためだ。
そして、その原因――聞こえてくる場所はすぐに特定できた。ライラを封じ込めた氷の柱だ。
「――なッ…!?」
ついに不穏な部分まで音が酷くなる。
あり得ない自分の氷結封印は完璧だったはずだ。氷点下レベルで凍らせたはずなのに、どうして――!?
デンドロンの驚きとは裏腹に、どんどんと亀裂が大きく、激しくなっていき――、
氷の柱が割れて―――黄金の閃光がデンドロンを斬り刻んで通り過ぎた。
「―――ッ!」
傷が複雑に生まれ、再生に少し時間が掛かる。せっかく
そこにいたのは、血管が浮き出ているのほどにキレているライラだった。その左手には、気絶した零夜もいた。
「貴様…よくもやってくれたな…」
「てめぇ…どうやって俺の氷の檻を…。俺の技は完璧だったはずだッ!!」
「―――残念だったな。私の力は『光』を自由自在に操る。故に私自身も『光』の力に耐えられる体なんだ。『光』の熱で、中身からジワジワと溶かした。それだけだ」
「―――まさかッ!!」
デンドロンは憤慨した目と表情で気絶している零夜を見た。さっきの木々をこちらに向けて濁流させるあの荒業。アレは自滅前提の破れかぶれの技だと思っていた。だけど違った!!
アレは、流木をぶつけて溶けかけていた氷の柱をライラが自力で壊すために言葉巧みに細工したブラフ!!本命はそれで、自滅前提の技へと見せかけた、
「てめぇええええええええ!!!」
怒り狂ったデンドロンは再生のことなど忘れて自身の周りに四元素の塊を出現させて飛び込んだ。
「フンッ」
「アガッ!?」
――が、それよりもライラの方が何倍も、何十倍も、何百倍も速かった。不雑怪奇とも言える妙な斬り方で右腕をダイコンのように
「アァアアアアアアア!!!てめぇええええええ!!ぜってぇ許さねぇ!!泣き叫んで懇願するまでお前を貪ってやる!そうしないと気が済まねぇ!」
「絶対許さない…?それは私の台詞だ。その思考回路…会ったことはないが憎いヤツがいてな。そいつの思考回路とお前の思考は同一のものみたいだ…。私は今、途轍もなく“不愉快”という感情に支配されている」
「ハァ!?それはこっちの台詞だっつーの!!俺もここまでの感情を出したのは初めてだ!」
「貴様の感情など知ったことか……。私はお前を倒す。ただ、無事でいられると思うなよ…?」
「てめぇもなクソアマッ!!」
互いに一触即発の雰囲気を醸し出し、殺気が漏れ出る。
―――そんなとき、先に動いたのは…デンドロンだった。
「死ねッ!!」
デンドロンはなんとか再生したシロの右腕から発せられた『風』と『氷』の元素を集合させた。それがグチャグチャに混ざり合った手で“ちょうどその場に突き刺さっていたブラックライジングタイタンソード”を手にかける。
アレは、零夜が変身する際に地面に突き刺していた武器。最悪とも言える武器が、デンドロンの手に渡ろうとしていた――が、最悪なのはデンドロンにとっても同じだった。
(ぬ、抜けねぇ!?重い…!?)
そう、ブラックライジングタイタンソードは、並半端な力では持つことすらできない。一本だけでトラック一台分の重さと言っても過言ではない重量だ。そんなものを、デンドロンが持つことなど不可能だ。
だからこそ、デンドロンは持ち前の知能で機転を利かせた。『重力操作』で筋力を誤魔化してデンドロンは右手でブラックライジングタイタンソードを持つ。これほど重い武器、当たれば一たまりもない。
「キヒヒ…今度こそ死ねッ!」
『風』『氷』に加えて、ブラックライジングタイタンソードの『雷』の力が加わった。その状態で、再び地面に突き刺した。
瞬間、そこを中心に風と氷と雷が波紋のように広がっていく。
「―――ッ!」
このスピードなら余裕で避けられるが、近くには零夜もいる。避ければ零夜に当たってしまう。ここは零夜にを掴んで上に逃げるべきだと、零夜に手を伸ばす。
「させるかよッ!」
が、デンドロンは右手で『風』と『土』の元素の力を使って砂ぼこりを発生させた。その砂が、ライラの目に入ってライラの視界を奪った。
「しま――ッ」
そのまま体勢を崩し、目で零夜の場所を追えなくなる。それに、このままではあの波紋の餌食になる。どうすればと、ライラの思考が加速する。
「これで、ジ・エンドだぁああああああああ!!!ハハハハハハハハハハッッ!!!」
「グゥ―――ッ!!」
突如として、ライラの懐が光った。
――黄金の斬撃が、波紋のように広がった三属性の波を薙ぎ払った。逆にその斬撃と波動によってデンドロンの体勢は狂い、尻からずっこけた。
砂ぼこりが立ち込み、視界を遮る。
「なんだ!?」
驚愕するデンドロン。だが、驚いてばかりじゃいられなかった。
「アガァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
その大声と共に地面に電流が走り、先ほどライラにやろうとしていた攻撃を、しっぺ返しを喰らうように逆に自分に帰って来た。
体に強烈な電流が走って感電し、膝から崩れ落ちて――片足で踏みとどまる。
「ふざけんなァア゛アアアアア!!誰だ!?どこだ!?出てこいよぉおおおお!!」
『どこにいるもなにも、俺たちはここにいる』
「あ゛ッ!?」
先ほどとはまた違う声が、砂ぼこりの奥から聞こえてくる。
徐々に砂ぼこりが晴れていき、目の前にはライラを守るように二人の戦士がそこに存在していた。
金色の重厚感ある外見。足に6枚、左腕に2枚、右腕に3枚と11枚の【アンデッドクレスト】が付いており、胸部がコーカサスの紋章になっている、黄金の剣士
左腕、右脚、左脚以外の部分が金色、複眼が青く、胴衣には雷神太鼓の意匠が施され、マスク形状やボディの光沢あるゴールドから月面着陸船イーグルを彷彿とさせる、ロッド状の武器を持った電撃の戦士だ。
「お前たちは…?それに、夜神と同じような恰好…?」
『俺達が誰かなんてどうでもいい。アレを倒せばいいだけだからな』
『俺と先輩に任せとけって!カーッ、燃えてきたぜ!』
『御託は良い。行くぞ後輩』
『うっす先輩!!』
『お前は、その男を守ってろ。アイツは俺達で片付ける』
黄金の戦士にそう命令される。命令されるのは正直癪だが、今は仕方がない故にそれに従って零夜の元まで歩く。
『待たせたな。さぁ、思いっきり戦い合おうじゃないか』
『宇宙キタァ――――ッ!!』
黄金の戦士は【重醒剣キングラウザー】を、電撃の戦士は【ビリーザロッド】をデンドロンに向ける。
「なんだよ!?なんなんだよてめぇらはよぉ!!??」
その暴言ともとれるデンドロンの困惑に、電撃の戦士が答えた。
『俺たちは仮面ライダー!!ダチを守るために戦うヒーローだッ!』
「仮面ライダーァアア!?開発途中の出来損ないじゃねぇか!そんなんで俺に勝とうとするなんて片腹痛いんだよォ!」
『御託は…俺達の強さを味わってから言え。行くぞッ!』
『タイマン張らせてもらうぜっ!!』
彼らの名は、
仮面ライダーフォーゼ・エレキステイツ
ほぼ同時刻で、ライダーの戦いが始まった。これは偶然か、必然か――。
今回はこれで終わりです。次回は一気に二つの場面の戦闘を繰り広げます。
正直、導入から戦力投入と言うのはいきなり過ぎたかなとは思ってますけど、後悔はない。もう書いたから。
今回出てきた【剣崎一真】はもちろん、【如月弦太朗】も“限りなく本人に近い別人”です。
評価・感想お願いします。
次回をお楽しみに!
―――デンドロンの“開発途中の出来損ないって…?”