東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 今年最後の投稿ですね。
 そして締めにふさわしいとも言える、『ルーミア』とのバトル最終回…。

 ぜひ、皆さんの心境を感想に欲しいところです。

 それでは、どうぞ。


――今年ガキ使やらないのマジ残念。ちなみに30日の晩御飯はすき焼きでした。


76 「―――ごめんなさい」

 

 

「邪魔よッ!そこをどきなさいッ!!」

 

 

 『ルーミア』が攻防を続けながら遅いかかってくる二人の戦士に声を荒げる。

 白銀の戦士――ウィザードと黄色の戦士――オーズはそれに反論する。

 

 

『悪いな。そう言う訳にもいかないんだ!』

 

『彼を守らないといけないからねッ!』

 

 

 紅夜を守りながらウィザードが【アックスカリバー】と呼ばれる剣にも斧にもなる武器で、【カリバーモード】でルーミアを攻撃する。

 そして、横からもオーズのトラクローによる攻撃が『ルーミア』を襲う。『ルーミア』は二つの攻撃を両腕で掴み、投げる。

 

 

『なるほど。一筋縄じゃいかないようだな』

 

 

 と、ウィザードがそう言うが今の彼の言葉は『ルーミア』にとって皮肉でしかない。そして、『ルーミア』もそれが未だに皮肉だと気付いていない。

 ―――気付くのは、今からだ。

 

 

『仕方ない。少し力を使うか』

 

「何を言って―――」

 

 

 その瞬間、ウィザードの姿を目で追えなくなると同時に、体に複数の切り傷を負った。

 

 

「え―――ッ?」

 

 

 見えなかった。『ルーミア』はあの攻撃が全く見えなかった。まるで瞬間移動したかのように、動きを捉えることができなかった。

 

 

「一体、どうやって…!?」

 

『それ、教えてやってもいいが、いいのか?相手は俺だけじゃないぞ?』

 

「しまっ―――」

 

『ハァッ!!』

 

 

 今度はオーズの爪、【トラクロー】によって大ダメージを受けた。左腕の肉をゴッソリと持っていかれ、再生は行っているがそれでも繋げるまで時間はかかる。

 本来、トラクローは強化コンクリートのビルの外壁も切り裂くほど強力な威力を持っている。そして何より不可解なのは、躊躇いもなくそれを行ったことだ。

 

 第三者の目―――【火野映司】と言う男のことを知っている人間ならば尚更だ。彼は過去に“少女を救えなかった”と言うトラウマを抱えている。だからこそ無欲になった。だと言うのに、中身は化物レベルの力を持っているとはいえ、見た目は華奢で妖艶な美女だ。人間の見た目をしている相手を、【火野映司】と言う男が躊躇いもなく攻撃出来ること自体、おかしい。

 

―――これも、“本人”寄りの“別人”ということ(ゆえ)なのだろう

 

 

『オーズ!合わせられるか?』

 

『無論だよ!行くよッ!!』

 

 

 瞬間、二人の姿が掻き消えると同時に、『ルーミア』に真新しい無数の斬撃跡(ざんげきこん)が出来上がる。負傷と再生が繰り返されるが、どう考えても負傷の数が多く、再生が間に合わなくなっている。

 

 二人は、ただ単純に高速で移動しているに過ぎない。

 オーズは【チーターレッグ】の三つの機能によって、超高速を可能としていた。

 

・チーターラムジェット

 

 チーターレッグ内部の特殊筋肉が生む膨大な熱が身体そのものを融解させるのを防ぐため、余分な熱をここから蒸気のように輩出する。

 排熱と同時に補助的な推進力を生むため、脚力を上回る更なる加速が可能となる。

 

・チーターアグソール

 

 身体を支え、疾走時には地面を確実に捉えることが出来る。

 内部には特殊筋肉が網目状に張り巡らされており、隠密行動時には足音を消すことも可能。

 

・チーターアンクルトゥ

 

 足首部分を保護する強化外骨格。

 超加速する際、爆発的なパワーで地面を蹴ることで発生する圧力と、脚部への負担を分散する。車のサスペンションにあたる衝撃緩衝機構の役目を果たす部位。

 

 超高速を生み出すこの三つの機能で、オーズは高速移動を可能としていた。

 

 ならば、ウィザードの高速移動の秘訣はなんなのか。答えは単純明快かつ、複雑怪奇なものだ。

 

 それは時間操作だ。インフィニティースタイルのウィザードは時間に干渉することによって高速移動を可能にしている。

 そして武器であるアックスカリバー・カリバーモードでもそれは同じだ。アックスカリバーにインフィニティーリングを使用すると時間への干渉が可能となる。

 

 だが、そのトリックなど知るよしもない『ルーミア』は、窮地に立たされる。そこで彼女が出た行動は――、

 

 

「調子に乗るんじゃないわよッ!!」

 

 

 すべてを闇に包み込むことだった。闇は『ルーミア』にとっての絶対領域。暗闇の中で、彼女に勝る存在はいない。そして、それはウィザードとオーズも同じことだった。

 何も見えなければ、何もできない。

 

 だがしかし、『ルーミア』には二人のことがバッチリと見えている。

 

 

(まずはあなたからよ――ッ!!)

 

 

 最初に狙ったのはオーズだ。先ほどの腕を抉ってくれたお返しをしくてはならないと思ったからだ。

 そんな時、後ろで変な声が聞こえた。

 

 

ライト プリーズ

 

 

 謎の機械音と共に、強烈な光がウィザードを包み込んだ。

 

 

(嘘でしょ…!?)

 

 

 “馬鹿な…!?”そう『ルーミア』は何度も心で復唱した。

 ルーミアの闇は光すら奪う。そもそもこの闇は魔法の闇で、松明など内部の光源をも無効化してしまう闇だ。だが、相手は『ルーミア』と同じ魔法使い。“闇の魔法”より強力な魔力で発動した“光の魔法”で闇を搔き消したのだ。

 

 光の魔法で闇の魔法を掻き消せないなど、そんな道理は存在しない。もしそれがあるとすれば、埒外の力のみ。だが、『ルーミア』はその枠には入っていなかった。

 

 

『見つけた』

 

 

エクステンド プリーズ

 

 

 白銀の魔法陣が、アックスカリバーに吸収される。アックスカリバーをウィザードが振るうと、剣が鞭のように伸縮して『ルーミア』の体を傷つけた。

 

 

「私の闇が…ッ!そんなことあり得てたまるかッ!」

 

 

 だが、目の前の現実を直視できないルーミアは再び闇で一帯を包み込んだ。この闇の魔法は先ほどよりもより強力な魔力を注ぎ込んで形成した闇だ。いくらこちらが連戦で疲弊しているとはいえ、魔力にまだ少しは余裕はある。

 

 

(この隙に、アイツを片付けるッ!!)

 

 

 標的をオーズからウィザードに変更した『ルーミア』。最初からこうすれば良かったんだ。ウィザードからは魔力を感じるが、オーズからは全く魔力の「ま」すら感じない。ならば、本当に先に倒すべきはウィザードだ。

 

 闇はルーミアの絶対領域。この領域にいる限り、攻撃は外さない。またさっきの様な光を出す前に、決着をつける。

 ウィザードを中心に360度全体に闇で形成した武器を設置する。紅夜を追い詰めたのと同じ方法で、ウィザードを潰す!

 

 

(これで、終わり――)

 

『ウォオォオオオオオオオオッッ!!』

 

 

 突如として、オーズの雄叫びが『ルーミア』の背後から聞こえてきて――灼熱の閃光が『ルーミア』の体を焦がした

 

 

「熱いッ!」

 

 

 光は問題ない。問題はその光から発せられた熱だ。

 オーズの(たてがみ)【ライオネルフラッシャー】は光を乱反射させ、敵の視覚を麻痺させる力を持つ。さらにコンボ特性によって【高熱放射】を得たことによって、さらにその光は凶悪性を増していた。

 

 咄嗟に『ルーミア』は闇の領域を解除してしまう。地面にへたり込み、焼けた皮膚と肉を再生される。しかし、精神的ダメージはまでは回復できず、目の焦点が合わず、無意識的にヨダレも垂れる。これは、食欲よるものではない。痛みによるものだ。

 

 オーズとウィザードは現在進行形で溶けかけている紅夜を包み込んでいる氷の塊へと集まる。

 

 

『そろそろ、コイツの熱も引けてきたみたいだな。それにしても、お前も趣味悪いな。あんなことしなくてもお前の複眼()なら闇の中で自由に動けただろうに。俺の氷がほとんど溶けかかってるじゃないか』

 

 

 そう、オーズの【ライオンヘッド】は眼部の【ライオンアイ】によって受け取る光量を調整し、ライオネルフラッシャーでの自滅を防ぐ他、暗闇の中でも視界を確保することが可能なのだ。

 それだけでなく、風などの音を三次元的に聞き取って周囲を把握し、人間に聞き取れない音波にも対応する聴力の高さも持ち合わせている。

 

 【ライオンヘッド】があれば、わざわざライオネルフラッシャーを発動する必要もなく、何不自由なく動けたはずなのだ。

 

 

『ごめんね。彼女に的確なダメージを与えるにはこっちの方がいいかなって…』

 

『それに、アレ俺に当たってたらどうすんだよ』

 

『それも大丈夫でしょ?防御力高いんだから』

 

『防御高くても熱からは守れないっての…』

 

 

 まるで中学生同士の雑談だ。だが、その内容は生々しい。攻撃した彼女のことを気にかけているようで全く気にかけていない。いや、敵に対しては正しい対応なのだろうが、彼らの性格的に、おかしい。

 

 先ほども言ったように【操真晴人(そうまはると)】と【火野映司】らしからぬ言動。まるで本来のカードの所有者のようだ

 

 

「クソっ…!!」

 

 

 忌々しそうに二人を睨む『ルーミア』。

 

 

「調子に乗るんじゃ――」

 

 

 その時、ルーミアの背中から複数の電気の斬撃が直撃した。

 

 

「ガハッ!?」

 

『―――いてッ』

 

 

 予期せぬ攻撃に完全に当たってしまった『ルーミア』は感電する体で思考する。あの二人が動いた気配はなかった。自分があの二人の攻撃を単純に認識できなかっただけかもしれないが、それはない。なぜなら―――。

 

 

『なんだ、今の?君がやったの?』

 

『いやいや、俺じゃないぞ?そもそも俺に当たったでしょうが』

 

 

 あの攻撃は白銀の魔法使いにも当たったからだ。『ルーミア』と違って防御力が高すぎるためにノーダメージではあるが。つまり、あの電撃は第三者による攻撃。あの蜘蛛妖怪?アレはどう考えても電撃系の能力を使うヤツではない。もう一人のルーミア?それも違う。彼女の能力は自分と同じだ。

 だったら、一体誰が…。

 

 『ルーミア』は今だに痺れる体で立ち上がる。

 

 

「これで…終わったと思うなッ!」

 

 

 『ルーミア』が闇の大剣を造り、闇の斬撃を放った。

 ウィザードが前に出て、魔法を行使する。

 

 

サイコキネシス プリーズ

 

 

 念動力を行使するサイコキネシスの魔法で、『ルーミア』の斬撃は180度回転して『ルーミア』の方向へと方向転換した。

 

 

「グっ!」

 

 

 弾き返すほどの余裕もなく、『ルーミア』は体を逸らして攻撃を避けた。屈辱だ。この屈辱はあの時以来だ。それを思い出すだけでも背筋が凍る。

 

 

「今に見てなさい…あんたたち全員ぶっ殺して、ソイツも殺すから…!」

 

 

 最早の呪いとも言える執念で、ルーミアは武器を構えた。同時に二人も構える。

 

――それとほぼ同時だった。

 

 

「これ、どういう状況…?」

 

「(。´・ω・)?」

 

 

 倒壊した木々の奥から、ルーミアとマクラが姿を表したのは――。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことなの、これ…?」

 

 

 時間は少し巻き戻り、ルーミアとマクラがオーズとウィザードと合流したところから始まる。

 ルーミアは目の前の状況が理解できず、困惑していた。そして、それは二人も同じだった。

 

 

『ど、どういうことだ?』

 

『同じ妖怪(ヒト)が二人も…どっちかが、偽物ってこと?』

 

「あ、困惑しているところ悪いんだけど……どっちも本物なのよね…」

 

 

 とりあえず間違った認識を訂正するためにルーミアはそう言う。しかし、事情を知らない二人からすれば普通に困惑する。

 

 

『えっ、なに?つまり同じ妖怪(ヒト)が二人いるってことなのか?』

 

「そ、そう言うこと…って、紅夜はッ!?」

 

『彼なら、ここにいるよ』

 

 

 ルーミアとマクラは、ウィザードの氷に包まれている紅夜を見て、すぐに駆け寄った。と言ってもほとんど溶けているが――。

 

 

「紅夜、大丈夫!?」

 

「( ;´Д`)」

 

「――――」

 

 

 紅夜からの返事はない。完全に気絶している。

 

 

『今、彼は気絶している。むやみやたらに触らない方が良い』

 

「それでも、なにもやらないよりは、なにかやった方がマシよ」

 

『そうだけどなァ…アッチと全然違うね、君。双子かなにか?』

 

 

 オーズの意見も最もだ。二人のルーミアの違いは、紅夜に向ける敵意の有無。目の前のルーミアに紅夜に向ける敵意などは全くないが、『ルーミア』の方は紅夜に途轍もない敵意を超えた殺意を見せていた。

 現に、二人がルーミアを紅夜に近づかせることに邪魔しなかったのは、このルーミアに紅夜に対する敵意が全く見られなかったからだ。

 

 

「違うわよ。それよりも、アッチを何とかしないと…」

 

『それは俺達に任せておけ。この際だから聞こう。あの子、どうする?捕縛するのか?それとも―――殺すのか?』

 

 

 ウィザードから告げられる、究極の二択。そして、ルーミアの選択は一つだ。

 

 

「殺さないに決まってるでしょ。馬鹿じゃないの?」

 

『おっと。かなりの毒舌。凛子ちゃんみたいだな』

 

『まぁそうだと決まれば、少し手加減しなきゃいけないけど、仕方ないかッ!』

 

 

 二人は己の武器を『ルーミア』に向けた。その『ルーミア』の目元はとてつもなく――闇で隠れていた。

 突如、『ルーミア』が微笑を浮かべた。

 

 

「手加減?私を相手に?そこまでの大口を叩かれたのは…始めてよッ!!」

 

 

 今迄のこともあってプライドをこれで完膚なきまでに粉々にされた『ルーミア』は、怒りの形相で巨大な闇の矢を作り、自身の横一列に並べる。

 

 

「風穴を空かせてあげるわッ!!」

 

 

 一つ一つの太さが通常の木ほどある矢が、オーズとウィザードを襲った。飛んでくる矢も、絶えず補充され留まるところを知らない。

 

 対してウィザードがアックスカリバーを振り回して闇の矢を弾く。その剣技で剣が振るわれる度に、白銀の魔法の粒子がちりばめられ、芸術すら感じられる。

 オーズはトラクローで闇の矢を撃沈させるが、終わりが見えない。

 

 そんなとき、オーズとウィザードの後ろから『ルーミア』と同じ闇の矢が無数に放たれた。闇の矢同士が激突し、霧散する。効果は同じようだ。

 

 二人が後ろを振り向くと、ルーミアが右手を突き出して闇の矢を生成しているシーンだった。

 ちなみに、その後ろではマクラが一生懸命に紅夜を糸で手当てしている。

 

 

「『私』に出来て、私にできないことはないわ」

 

「この…ッ!」

 

 

 『ルーミア』にできてルーミアにできないことはない。確かに道理は通っている。

 

 

『ありがとな、お嬢ちゃん』

 

『これである程度楽になったよ』

 

「お礼はいいから、さっさと行ってッ!連戦が続いてたから、長くはもたない…ッ!!」

 

『そうか。だったら遠慮なくッ!』

 

「させるかッ!」

 

 

 『ルーミア』はすかさず両手で生成した巨大な球体型の闇のエネルギー体を投げつけ、二人の近くが爆発する。

 爆発の影響の砂煙の中から、すかさずウィザードと【トライドベンダー】に乗り【メダジャリバー】を持ったオーズが飛び出す。

 

 

「グォオオオオオオオオオッ!!」

 

 

 トライドベンダーが咆哮を上げると、『ルーミア』は気圧(けお)され、闇の矢を中断してしまう。

 しかし、すぐに復活して闇の長剣二振りを持ち、小さな闇の球体を自身の周りに浮遊させながら突撃する。

 

 球体が発射され、ウィザードとオーズを追う。ウィザードは突進してきているため、オーズが弾のほとんどを引き付けている状態だ。機動力故だろう。

 

 『ルーミア』は次の行動に出る。自身のお腹周りに闇で作った小さな穴―――重力場の発生による小規模ブラックホールを生成し、ウィザードを引き寄せた。

 

 

『おっとッ!?』

 

「これで、私からは離れられないわよッ!」

 

 

 自身の力の全てを持ってウィザードを二振りの長剣で攻撃する。

 対してウィザードは己の魔法である【時間干渉】を発動しようとするが――、

 

 

(発動が停滞している!?―――そうか。今俺は空間的な影響を受けているから…!)

 

 

 “時間と空間の関係は密接”。この関係性が深いために発動できなかった。時間干渉でこのブラックホールに干渉することもできるが、裏を返せば『ルーミア』も空間系の技を使えるために時間に干渉できるのではと言う考えがよぎった。

 

 

(―――いや、違うな。彼女の力は闇を操ること。空間系の技はその副産物に過ぎない)

 

 

 もし彼女の能力が空間系だとすれば、自分の高速移動のトリックなどとっくに気が付いているはずだ。それが正しければ、彼女はまだ気づいていない。

 

 その気になれば無理やりこの状態から脱することもできるが、そうすれば――、

 

 

(生かして終わることができる保証がない。このまま続けるのが得策だッ!)

 

 

 強制的に時間干渉を発動し、剣技の速度を上げる。

 

 

「―――ッ!」

 

 

 ルーミアの体が後ろに倒れ損ねる瞬間を利用して、魔法を発動する。

 

 

コネクト プリーズ

 

 

 白銀の魔法陣を出現させ、そこに左手を突っ込み、引き出すと左手に【ウィザーソードガン・ソードモード】が装備されていた。

 『ルーミア』に対抗して自身も二振りの剣でルーミアと剣技を披露し合う。

 

 

「真似するなッ!」

 

『それは悪いね。だけど、いいのかい?君の相手は俺だけじゃないぜ?』

 

「今のアイツは遠くにいるってのに、なにを言ってグガッ!?」

 

 

 突如背中に何かが辺り、鈍器に当てられたかのような感覚に陥り、殴打の跡がクッキリ残る。

 なにかと思い後ろを振り向くと――、

 

 

『ハァッ!』

 

 

 トライドベンダーからメダル型の光弾が発射されていた。周りを見ると、自分の攻撃がすべてなかった。あの短時間で、全て一掃されていた。

 歯ぎしりをしながら『ルーミア』はブラックホールを解除して跳躍する。

 

 

「その獣から潰してやるッ!」

 

 

 遠距離物理攻撃ができるあの獣は離れてしまえば厄介だ。だから、アレをまず先にやらなければならない。正直、『ルーミア』にとって三体とも脅威だ。それでもまず、優先順序をつけなければやってられない。

 

 『ルーミア』は霧と同じ効果を持つ闇を生成して、トライドベンダーに投げつけ、ヒットした。すると、そこから煙のように闇が広がってトライドベンダーとオーズを包みこんだ。

 

 ルーミアの目的は、トライドベンダーを暴走させること。そうしてしまえば、少しでも戦力が減ると踏んだからだ。

 だが、『ルーミア』は知らない。知らなかったから実行できた。トライドベンダーは機械生命体の一種であると言うことを―――。

 

 

『ハァアアアア!!』

 

「嘘でしょ!?なんで!?」

 

 

 闇の中だと言うのに、平然と動いて走行しているオーズとトライドベンダーに驚愕した。ウィザードは自分と同じ魔法使いだから聞かないにしても、オーズからの視界は奪えるはずなのに…。

 

 すると、自分の下からウィザードの声が聞こえてくる。

 

 

『嬢ちゃん。さっきの俺達の話、聞いてなかったのか?』

 

「なにを…ッ!?」

 

アイツの複眼()は暗闇の中でも動ける特別な複眼()だって、言ったろ?』

 

「―――ッ!!」

 

 

 そうだ、確かにそう言っていた。あの時は背中から急に来た電撃のことで頭がいっぱいで、そのことを失念してしまっていたのだ。

 だからと言って、敵は待ってくれない。自身へも怒りを感じた『ルーミア』はその怒りを二人にぶつける結論に至った。

 

 

「畜生ッ!!」

 

『女の子が、そんな言葉使っちゃいけないよッ!』

 

「な――ッ!?」

 

 

 オーズの声が聞こえた方向を向くと、トライドベンダーを足場にここまで跳躍して、【メダジャリバー】を持ったオーズ自分の頭上にいた。

 オーズは飛翔中にセルメダルを三枚入れて、【オースキャナー】で読み込む。

 

 

トリプル・スキャニングチャージッ!!

 

 

「そんな攻撃、当たるワケ――」

 

『セイヤァァアアアアアアア!!』

 

「しまっ――ッ!グハッ!」

 

 

 追加でライオンヘッドによる太陽のような発光で、視界を奪われた『ルーミア』はその隙を狙われる。

 

―――白き一閃が、『ルーミア』の右足と右腕を、木々を、地面を、空間を、一直線に断裂された。

 空間が歪み、右両手足の、木々の、地面の、空間の境界線がズレる。

 

 『ルーミア』以外のずれた空間が、元通りになる。

 

 

「ア゛…ッ!!」

 

 

 空間ごと断裂された右手と右足は、すぐには戻らない。その一瞬を、オーズは見逃さない。

 メダジャリバーを地面に捨てたオーズは『ルーミア』の両肩を掴んで、敵にしがみついた状態で連続蹴りを繰り出すチーターレッグの技【リボルスピンキック】を繰り出した。

 

 

「アガッ!グガッ!ギグッ!!」

 

『ハァァアアアアアアッ!!』

 

 

 右手両足が斬られた直後のきつい連続攻撃が、『ルーミア』の精神を摩耗させる。

 連続蹴りが腹に何度も直撃し、『ルーミア』は胃袋から逆流しかけるが、オーズの攻撃がそれを許さない。結果、中の物が食道を言ったり来たししている。

 

 

『ハァアッ!!』

 

「アァッ!!」

 

 

 トドメに、強烈な蹴りを一発喰らい、『ルーミア』は地面に擦られながら落下する。

 

 

バインド プリーズ

 

 

 地面に横たわる『ルーミア』を取り囲むように白銀の魔法陣が複数出現すると、そこから鎖が飛び出して『ルーミア』を拘束し、無理矢理立ち上がらせた。

 だがしかし、再生は少しずつだが進んでいるため、そう言った能力は封じられていないようだ。

 

 利き手が失われているとはいえ、この程度の拘束を切り抜けられなければ、大妖怪の名折れだ。

 

 

「この程度で、私を捕まえられるとでも――」

 

『セイヤァァアアアアアアア!!』

 

「アグッ!!」

 

 

 突如、『ルーミア』の脚が凍った。氷は足から腰までかけて広がっていき、その氷点下とも言える温度で『ルーミア』の残り少ない体力を奪って行く。

 

 

「なに、これ…!?」

 

 

 氷点下によるしもやけにも似た症状が『ルーミア』を襲う。

 一体なんなのか、『ルーミア』はこの氷獄(ひょうごく)の出発地点を見た。

 

 そこには、【メダガブリュー】を持ち、地面を砕くように振りかざしているオーズがいた。そのメダガブリューから自身を包む氷が発生していた。

 

 

『そろそろ終わりにしよう』

 

『行こう、ウィザード』

 

『あぁ』

 

「ふざけんじゃ…ないわよッッ!!『私』は終わらないッ!!終わっちゃいけないのッ!!ここで負ければ、彼女(レイラ)が報われないッ!!ソイツを、ソイツを殺さなきゃッ!!」

 

 

 『ルーミア』の憎悪は、現在進行形でルーミアとマクラが介抱している紅夜へと向けられる。

 レイラの汚点、自分の黒歴史の物的証拠。それを取り除かない限りレイラが報われないと言う固定概念に囚われている彼女は、どんな理論も理屈も無視して、ただ己の正しいと思ったことに向かって突き進む暴走列車だ。

 

 

「ふざけないでッ!」

 

 

 その時、ルーミアの怒号が『ルーミア』に向けられた。

 

 

「ふざけないで…?私のどこがふざけていると言うの!?あんな状況証拠を信じろと!?彼女(レイラ)の姉がちゃんと育てただけで、彼女自身はソイツが生きてることを望んでないかもしれないでしょ!?」

 

「そうやってあんたは自分に都合の良い理由並べて、結局は自分のことしか考えてないッ!!本当はただ自分の汚点を抹消したいだけでしょうが!」

 

 

 その瞬間(とき)、『ルーミア』は心臓に杭でも刺されたかのような痛みに悶える。それは物理的な痛みではない。精神的な痛みだ。

 目の前の女性は、自分自身だ。だからこそ、自分のことについて一番よく理解している。

 

―――本当は、心の奥底のどこかで、“それは違う”ともう分かっていたのではないかと思う。でなければ、こんなに心臓が傷まない。

 それでも理性が感情を塗りつぶす。恐怖はそう簡単には消えない。

 

 同じ存在でも、同じ感情と思考を持っていたとしても確執が存在する。

 その時点で、『ルーミア』にとってはルーミアは別人だ。

 

 

「アァアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

 結果、彼女が選んだ結末は、感情と思考がストップした世界――暴走だ。

 何も考えず、ただただ目の前のものを破壊することを選んだ彼女の感情の高まりによって――リミッターが外た。

 妖力が限界値を超えた『ルーミア』の妖力が体外に大量放出される。氷も破壊され、衝撃波が飛ぶ。

 

 

『これまた随分と分からず屋みたいだね…』

 

『やっぱ、見た目と中身は違うってことか…』

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!どうするのよ、アレ!!」

 

 

 こうしている合間にも、『ルーミア』の妖力値はどんどん上がっていく。その(あたい)は、ルーミアを遥かに超える。

 

 

「コノママジャ終ワラセナイ!私ゴト、コノ辺リ一帯全部吹キ飛バシテヤルッ!!」

 

 

 『ルーミア』の頭上で魔力が沈殿する。魔力は闇へと変換され、全てを飲みこむ重力場へと変換される。

 

 

『不味いな。このままじゃ、ここら一帯が更地になるどころか、大穴が空くぞッ!』

 

「死ネッ!全部ぜんぶゼン――」

 

 

 投下される瞬間――どこからか黄金の剣(オーガストランザー)が飛んできて、『ルーミア』の横腹に突き刺さった

 鮮血が舞い散り、『ルーミア』はバランスを崩した。

 

 

『今だッ!』

 

 

テレポート プリーズ

 

 

 巨大な白銀の魔法陣が重力場の塊の球体の頭上に生成され、ゆっくりと重力場が通過して――最後には、そこに何も残らなかった。

 

 

「なにが、どうなったの…?」

 

「(。´・ω・)?」

 

『安心しろ。あれは遥か遠くの宇宙に捨てた

 

「それなら安心?なのかな…?」

 

 

 安心できるかどうかわからないが、とりあえず無害な宇宙に放り投げたと言うことは、安心していいのだろうか?

 そして、自分の最大の技が無力化されたことで、吐血しながら呆然とする『ルーミア』。

 

 

「そんな…私の…私の…ッ!!」

 

 

ゴックン!!ラトラーターッ!!

 

トリプル・スキャニングチャージッ!!

 

スキャニングチャージッ!!

 

 

 背中から聞こえた派手な機械音。

 オーズがメダガブリューに四枚のセルメダルを噛み砕かせ、メダジャリバーにセルメダルを三枚入れてスキャン。

 さらにオースキャナーでスキャニングチャージ。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 『ルーミア』に続く3つの黄色いリングの道が出来る。全身から大熱波を放ち、右手にメダガブリュー、左手にメダジャリバーを持ったオーズは、リングをチーターレッグの加速能力で突き抜けて――、

 

 

「セイヤァアアアアアアッ!」

 

「ア゛…ッ!!」

 

 

―――『ルーミア』をX字に切り裂いた。

 圧倒的破壊力を誇るメダガブリューの斬撃に、空間を斬り裂くメダジャリバーのコンボが炸裂し、鮮血をまき散らしながら『ルーミア』の動きが止まる。

 

 

チョーイイネッ! キックストライク サイコォーッ!

 

「待って、ま゛っで…ッ!!」

 

 

 しかし、彼女の言葉は届かず、無慈悲にも魔法は発動する。

 終われない。終わりたくない。ここで終わったら、彼女の無念を晴らせない。死ぬのは怖くない。でもここで終わったら、私は()()()()()()()()()()()

 もう、ただ生きているだけなんて、嫌――。

 

 

(――嫌?ただ生きているのが、何が悪いの?)

 

 

 そこで彼女は気付いた。自分の掲げる理念の矛盾を。

 彼女のために動いているはずなのに、結局は自分のために行動してるじゃないか。何度も指摘されたこの矛盾。それでも認めるわけにはいかなかった。

 でも、いざ自覚してみると―――『ルーミア』の決意を揺るがした。

 

 

(そうよ。こんな嫌な思い出、さっさと忘れていればいいものを…。こんなの、私にとって不利益でしかない。それなのに、私は――)

 

 

 辛い事実(げんじつ)から逃げて正気を保っているルーミア。

 逃げられずに事実(げんじつ)に生きて狂った『ルーミア』。

 そこのどこに違いがあるのか。いいや、ない。あるとしても、五十歩百歩だ(かわらない)

 

 どんな生き物でも、生きる意味は必要だ。それが無ければ、ただの生きている機械だ。だからこそ、彼女はそう思っているが、無意識のうちにこう思っていたのかもしれない。“どんな理由でもいい。生きる理由が欲しい”と。

 

 例を挙げれば【八雲紫】。彼女は幻想郷を保つと言う(こころざし)を持っている。それは十分生きる理由として成り立つ。

 だが、彼女はただ人を喰らい生きると言うただの人喰い妖怪。大切な物もなければ、そう言った志もない。

 だからこそ欲していた。生きる理由を――。

 

 だからこそ捨てきれなかった。この生きる理由(ふくしゅう)を――!

 

 

(なによ…私も『アイツ』と同じ身勝手野郎じゃない…。生きていいんだって言う自分が生きる理由に縋って、現実から目を背けたただの馬鹿…。それが私よ…)

 

 

 『ルーミア』は一気に脱力した。元より、先ほどの攻撃でつける力ももうない。

 

 【キックストライクウィザードリング】をベルトにかざすと、ウィザードの足に白銀の巨大な魔法陣が浮かび上がり、魔法陣のエネルギーが足元に収束する。

 跳躍し、バク宙しながら身体を捻る。

 

 彼女は最後に、自分のせいで気を失っている紅夜を見て、微笑んだ。そして、一言。

 

 

「―――ごめんなさい」

 

「ハァァアアアアアアッ!」

 

 

 白銀の一撃が、動けない彼女へと――直撃した。

 

 

 

 





 今回はこれで終わりです。
 最後の最後で己の矛盾と向き合った『ルーミア』…。彼女はこのあとどうなるのか。ぜひ予想してみてください。

 そして、戦いの途中でオーズとウィザードを攻撃?援護?した電気の斬撃とオーガストランザー、アレは一体…?
 この戦いの裏で、一体なにが起こっているのか?それを次回やります。お楽しみに。

 できれば次回も明日に投稿したいなぁ…体、持つかな?


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