バイトやらなんやらで色々忙しくて、結局1月最後辺りまで伸びてしまいました。すみません。
しかし、ようやく投稿できましたので、どうぞ楽しんでいってください!
―――時は遡る。
時間軸は零夜とウラノスの戦いが終わり、そこに龍神が乱入してきたところから始まる。
何故彼がここに?様々な疑問を抱えながら零夜は第一声を発した。
『――龍、神?』
「……久しぶりだな、夜神」
天井を突き破って、龍神が姿を表した。
どういうことだ?何故月に彼が―――いや、良く考えれば答えなど分かる。あの回想で、龍神は『余程のことがない限り月にはこない』と言っていた。
つまり、今が『余程のこと』なのだ。そしてそれは―――親友である、
(まずいぞ…。いくらエボルの力でも、龍神に勝てるビジョンが全く浮かばねぇ!最悪の場合、
エボルは背中に隠していた手から、『白黒のトリガー』を取り出した。いつでも、それを使えるように。これで勝てるかどうかわからないが、やらなければならないことには変わりない。
『……何を、しに来た』
「決まっている。我が認めた数少ない人間……それをここで朽ちさせる訳にはいかない」
龍神は両腰に携えた
文字通り、花のない空間へと早変わりした質素な大広間。ただ、そこにある『龍神』と言う圧倒的な存在が目の前にあることが、部屋の異質さを際立てている。
深緑色のオーラを放ち、エボルを見据えるその深紅に光る眼に、恐怖すら覚え、固唾を飲む。
「お、おぉ!!龍神なのか!?久しぶりだな!早速で悪いが、こいつを殺してくれ!俺のことを殺そうとしてくるんだ!」
(こいつ…ッ!)
戦う前は龍神のことをヘビと蔑んだのに、この手のひらの返しようはなんだ。さっきまでバカにしていたのに、自分のピンチになったら助けを乞うその姿は、浅ましさしか感じない。
ただ、長い間親友として過ごした『
『――――』
零夜―――エボルは自らの武器である【トランスチームガン】と【スチームブレード】を合体したライフルモードを装備する。
いつでも、攻撃できるように。
「さぁやれ!龍神!俺の恨みを、晴らしてくれ!」
背中の外野がうるさいが、今は無視だ。こんな畜生よりも、今目の前の圧倒的存在感を放つ龍神の方が危険だ。
仮面の奥で、冷汗をかく。三年前の敗北が忘れられない。あの、完膚なきまでの敗北を。
『――――』
「――――フッ」
龍神が、小さな息を吐いたと、同時だった。エボルの目でとらえることのできない速度で移動されて、完全に見失ったのは。
(まずい、防御形態をとらないと――)
「グハァ!!」
(―――ッ!?)
だが、現実は180度反転した。
エボルへの攻撃が一切ないどころか、後ろの外野が悲鳴を上げた。急いで振り返ってみると、そこにはウラノスの首根っこを掴んで持ち上げている龍神がいた。
状況の整理が追いつかなく、困惑するエボル。
「―――」
「お、お前…ッ!俺を裏切るのか!?そいつにつくのか!?親友だった俺を捨てるのか!?」
そう悲痛な叫びを―――いや、ウラノスにその表現は勿体ない。ウラノスはふざけたことを抜かす。龍神との出会いを、時間を、『ごっこ遊び』と言い放ったウラノスに、慈悲はない。
そして、龍神がウラノスに向けて言葉を発した。
「黙れ、お前など
龍神の言葉は、非常なものだった。『地球の記憶』で、あれほど親密に会話をして、悲し気に別れたのが、まるで嘘だったように――。
「何故我の友だと貴様が抜かす?我が友に持ったのは、高潔な精神、真っ直ぐな心を持った、そんな男だ!だが、お前はなんだ?薄汚れ、嘘にまみれた小汚い男だ。そんな下郎は、我の『
声を大高にして、言い放った。そうだ、と零夜は思い出す。龍神は『魂の色』を見ることができるのだ。白と黒の二色で、悪人か善人かを見ることができる。
『空真』は限りなく白に近い善人だった。だが、今の『
「お前の魂の色は……どこまでも濁った『黒』。お前は、我の友ではない」
「―――ッ!!ふざけるなよ、ヘビ風情が!少し仲良くしてやって調子に乗りやがって!」
『空真』としてのメッキが剥がれ、『ウラノス』と言う人物が全開で表に出た。
「お前なんて、所詮穢れた神の名を持つことすらおこがましい卑しき存在だ!そんな奴が清浄な俺と一時仲良くなれたんだ!むしろ感謝して欲しいものだな!」
「――――」
どこまでも腐った言動に、ついに龍神はキレ、圧倒的なオーラを放つ。それでも、ウラノスは怯まない。どこまで面の皮が厚いのか――。
『オイこら。さっきから聞いていれば……「お前はどこまで腐ったんだ空真ァ!!」
そんなとき、我慢できずに変身を解除した零夜が叫んだ。
『地球の記憶』で二人の嘘偽りのない仲を見ていたからこそ、怒鳴れた。ここまで怒りを持てたのだ。
「お前がどうしてそうなっちまったかは、永琳からある程度聞いている。あの事件で、どうしてお前が変わったのかは詳しい事は俺にも分からねぇ。だがな、ソレがお前の本心か?」
「なに…?」
「少なくとも、お前がまだ地上にいた頃はこいつとかなり仲が良かったはずだ。それなのに……お前はどうしてそんなことを言う?龍神の特性から、当時は嘘偽りのない清らかな関係だったはずだ。お前はどうしてそなった?ウラノス・カエルム―――いや、空真!!」
「そんなの、決まっているだろう!月が、この穢れなき世界が俺を変えてくれた!『穢れ』と言う概念がある地上は、地獄そのもの!我々は天国の住民なのだ。むしろ、今までがおかしかったのだ!我々は、『天国』に来て、ようやく目覚めたのだ!」
「――――」
駄目だ。いくら言葉を放っても、説得しようとしても、ウラノスにはなにも響かない。『あの事件』で空真がウラノスになってしまったことを知ってしまった以上、ただの悪人として殺すのは気が引ける。
一体、どうすれば―――、
「いいのだ、夜神」
そう考えていると、龍神がそう声をかけた。
「龍神…」
「夜神。やはりお前は『悪』ではない。清らかな心の持ち主だ。もっと自分に自信を持て」
「――――」
なにも、言えない。零夜は『自称:悪人』だ。それをモットーとして、『光闇大戦』で無自覚の虐殺を行えた。むしろ、自分を『悪人』と定義することで、ある意味現実から逃げていた。
それでも、薄々気づいてはいたのだ。本物の悪人は、わざわざ自分の命を賭けてまで、他人の幸せのために動かない。そんなの、本当の『悪人』じゃない。
でも、なろうと思っても、『過去』がそれを邪魔する。『極悪人』に、強い忌避感を覚えているのだ。矛盾した考えが、零夜の脳を交差する。
「―――さて、もう話は終わりだ。ウラノスとか言ったか…?もう、その顔と声で卑劣で汚濁な言葉を話すな。
「―――待て、今、なんて言った?」
龍神の含みある言葉に、零夜が疑問に思い口にする。
ウラノスのことを『寄生虫』と言った。その言い方、まるで――、
「その言い方だと、『ウラノス』が『空真』に寄生しているように聞こえるぞ?」
「そう聞こえるもなにも、事実だ。このウラノスと言う愚図は……精神生命体だ」
「―――ッ!!」
龍神のカミングアウトに、零夜は困惑した。なんだって?ウラノスが、精神生命体で、空真の体に寄生している?そんな話、急に言われても納得できるわけがない。
だがしかし……確かにそう考えれば納得だ。人が急に変わるわけがない。あり得るとしたら、人格の変化のみ。『あの事件』で拉致られたウラノスは、何者かに『ウラノス・カエルム』と言う精神生命体を植え付けられた。
そう考えれば、全ての辻褄が合う!
「だが、どうして分かったんだ?俺やシロですら気づかなかったんだぞ?」
そう。問題は零夜やシロですらそのことに気づけなかったことだ。
未来で殺して魂を回収した時でも(
「夜神。お前、空真と同じ状態の奴を殺して、その魂を確保したか?」
「なんで知ってんだよ…。まぁそう言う能力はあるにはあるが、何故なんだ?」
「精神生命体は宿主から離れると存在が保てず自動的に消失する。
「なるほど、道理で…」
回収した際になんの違和感も感じなかった理由はこれか。
「待て。今の話し方だと、やっぱりこいつを創った黒幕がいるってことだよな?」
「そういうことになるな。さて、話の続きだが、我が見破られたのは、魂の色を見れるからだ」
「魂の色を見れるだけだろ?それがどうして精神生命体の存在を見破るのに出てくるんだ?」
「魂の色を見れると言うことは、『魂の状態』を見れるということ。『魂の形』を見ることだってできるのだ」
「魂の形…」
人にはそれぞれ、魂に形がある。よく漫画やアニメなんかでも、肉体の形は魂の形に引っ張られると言う設定がある。
魂の形がそれぞれ別々だから、人の顔もそれぞれ別なのだと言う解釈も存在している。
「魂の形は個体によって違う。と言ってもそこまで激しいわけじゃない。違うのは、分かりにくい細部のみだ」
「要するに、そう簡単には判別しにくいってことか…」
「だが、精神生命体は特殊でな。元の魂を包み隠すような立法的な四角。だからすぐに分かる」
「なるほどな…だから寄生する魂。名付けるとすると『
『魂の色を見る』力は、『魂の状態を見る』能力であるらしい。つまり、形の状態も見ることが可能だ。その魂の形を知ることで、見破れることができたのだ。
寄生する魂では言い辛いので、暫定的に『寄生魂』と名付けた。
一通り説明を終えた龍神は、『
「……そして、空真に寄生している
零夜のネーミングを採用してくれた龍神は、濃厚なまでの殺気を放つ。それに少し臆した零夜だが、持ち前の胆力で凌ぎ切る。
「だけどよ、どうやって剥ぎ取るんだ?」
「そこが問題なのだ。方法はあるにはある。魂に強烈なまでの衝撃を与えて、融合している空真の魂と『
「でも、それをどうするか……あ、そうだ」
一つ、方法があった。
自分にはできないことを、平然とやってのける男がいる。その男に任せればいい。
「ちょっと待ってろ。―――シロ、今どこに………って、デンドロンが?しかも『権能』に?どういうことだ…?とりあえず分かった。なんの心配もないってことだな。……すまん。今からそれに詳しいヤツと変わる。あとはソイツと話をしてくれ。じゃあな」
別れの言葉を告げると同時に、零夜は姿を消して逆にその場所に全身を白い服装で固めた男性が零夜と入れ替わるように姿を表した。
しかし、その姿が戦場を通って来たかのようにボロボロで、その証拠に右腕の部分の服が破り捨てられたかのようになっており、そこからは大量の傷跡が垣間見えている。他にも全身が砂埃で汚れている。
だが、そんなのは龍神にとって些細なことだ。問題は、この男はあの時自分の宝を盗んだ犯人だと言うことだ。
「――久々、だな」
「……君は?」
龍神が話かけると、白服の男性――シロは首を傾げた。まるであったことのない初対面かのように頭にはてなマークを浮かべた。
それと同時に、警戒の色も。初対面の相手を信用しないことは確かに当たり前のことだが、龍神はそれ以前に忘れられたことを不愉快に思った。
「……忘れたか?三年前、我が宝たる宝玉を盗んだお前が、我を?」
「―――え?お前まさか龍神?龍神なの?えっ、えっ!!?」
目の前の人物が龍神であると言う事実に驚愕を示し、あたふたと困惑している。それが数秒続き、シロは深呼吸をして思考を整える。
「ハァ…フゥ…ホォ…。よし、落ち着いた」
「本当に忘れていたのだな…。死にたいか?」
「いやいや。正直君とここで事を構えるのは僕としても嫌だ。いやぁね、正直言うと君のことはもちろん覚えてたし、ここにいるってことも零夜から聞いてたよ?でも見た目からそんなに変えられると分からないって言うか…」
どうやら、シロは完全に龍神のことを忘れていたわけではなくこの姿だからこそ分からなかったようだ。シロは一回もこの姿の龍神を見たことがなく、零夜からも見た目の詳細は聞いていなかった。
「いや、正直君を僕らの同類かと疑ってしまってね…」
「お前と同類だと?笑わせるな」
「そうはいかないでしょ。僕らしか出せないオーラ出しておきながら…」
「知らん。さっさと本題に入るぞ」
「はいはい。それで、ソイツから『寄生魂』を引き剥がすんだったな?」
シロは目の前で今だに龍神に首を絞められているウラノスを見て言う。
ウラノスは泡を吹いて失神寸前まで陥っている。
「その前にいい加減に離してやれよ。ウラノスも空真も死ぬぞ、それ」
「あぁ…。頭に血が上った」
龍神はウラノスを解放する。荒い息遣いで少しずつ呼吸を取り戻す。涙目と鼻水を垂らしながらウラノスは龍神とシロを睨んだ。
「おぉ。まだそんな力が残ってたなんて。驚きだ」
「下らないことを言ってないで、さっさとやれ。お前はこの手の専門なのだろう?」
「はいはい。手順は
「ぎざまぁ…!!俺に、なにを、ずるぎだ…!」
殺気が籠った目で近づくシロを睨む。
だが、その質問をスルーしてシロはウラノスの頭を掴んだ。
「ばなぜ…!!」
「言葉の
その瞬間、シロの手から淡い水色の光が発生し、その光がウラノスを包み込んでいく。その光は、少し前にシロが依姫に対して行ったことと同じものだ。
「アァアアアアアアア…!!」
大きくもなく小さくもない悲鳴を叫びながら、ウラノスは気絶した。
それと同時に、シロはウラノスの頭から手を放すと、その手の上には白いモヤのようなものが残留していた。
「…どうかな?こういうの初めてだからちゃんとやれたか不安なんだけど」
「驚いた。まさか本当に成功させるとは…」
龍神は一回で成功させたことに驚きを隠さずに驚嘆した。
「なんだよ。期待してなかったの?」
「我も魂を視ることはできとも干渉することはできん」
「……神なのに出来ないんだ」
「馬鹿者が。我は全知を自負してはいるが全能ではない。そういうのは他の神の仕事だ」
「ふーん…」
シロは大層興味もなさそうにウラノスから取り出した白いモヤを見る。そこには一見なにもなさそうに見えるが、彼の掌には確かに存在する。普通目には見えないものが。
「でも、本当にこれが【ウラノス】なのか…」
何もない掌を見て、シロはぼやいた。
手のひらのモヤ。それは【ウラノス・カエルム】と言う存在そのものの集合体だ。手始めに空真の魂を囲っている【ウラノス】の魂を空真の魂ごと
つまり、完全に空真とウラノスが分離された。
「とりあえず、
シロは、手を握った。それと同時にモヤが霧散して、手を開くとそこにはなにも残ってなかった。
今ここで、【ウラノス・カエルム】は完全に死んだ。
何も残らない手から目を背けた。
龍神は倒れている【空真】向けて歩み寄り、その体を担いだ。
「それで、偉大なる龍神様はどういったご用件でこんな場所まで?」
「――なにやら地上が騒がしかったので、何事かと思って様子を見てみれば…夜神の気配がここ、月にあったのでな。
「どんだけだよ気配察知能力…。まぁそれは良いとして、お前が動かざる負えない状況になってるってどういう意味だ?」
龍神の気配察知能力も十分驚嘆に値するが、それとはまた違う、“龍神が直接動く事態”というのがシロには気になって仕方なかった。
「お前はすでに理解しているはずだ。我も、お前も、そしてあの
「―――」
龍神のその一言で、シロは完全に黙った。第三者が聞いたら訳の分からない文章で困惑するだろう。だがしかし、シロはそれを完全に理解していた。
それに、龍神は基本的に敬語を使うことはまずない。そんな彼が、“あのお方”と呼ぶほどの人物とは、一体…?
「あーなるほどね。完全に理解したわ…。さっきの理由はもしものときの建前か。どうすんの?俺が“『ミク』のシモベ”じゃなくてあの“クソ野郎”の方のシモベだったら?」
「我とて神だ。そのくらいの区別はつくわ。そんな間違いをするのは覚醒したての三流か研鑽を怠った愚か者だ」
「ふーん…。そっか。なら、配下同士仲よくしようよ」
シロは右手を差し出して、握手を求めた。しかし、龍神はその手を払いのけた。
「阿呆が。貴様なぞと仲良くなりたくもない。我が宝を強奪したことは今でも忘れておらんぞ」
そう、龍神がシロと仲良くしない理由は彼に自分の宝を奪われたから。自分の大切なものを無理やり奪った人物と仲良くしようと言う方が無理だろう。それに、彼はそのことを反省していないから尚更だ。
「―――あぁ、そんなことあったね」
「貴様…完全に忘れていたな?」
「いやいやまさか。今の間はジョークだよジョーク」
ヘラヘラと笑いながら講義?のために手を振る。やはり反省も後悔もしていないようで龍神のシロに対するストレスゲージは溜まっていくばかりだ。
「それと、そのことについては
「――そうか。ならば自分で気付くまで待つか…」
謎の会話を終わらせ、シロは一回手をパチンと叩いた。
「さてと。君がここにいる理由が“彼女”の命令だと言うことも分かった。その上で聞くよ?これからどうするつもりだ?」
「ひとまずはお前に着いていく。……不快だがな」
「率直な感想ありがとう。それじゃあ行こうか」
雰囲気は斜め下がりのまま龍神の同行が決定した。タッグを組めと言われれば無理な面子だが、戦力としては過剰と言っていいほど心強いメンバーだ。
「それで、空真はどうするの?」
「心苦しいが、連れてはいけない。どうにかしなければ…」
「だったら、彼女に任せるといい。彼女なら安心して彼を任せられるだろう」
「あぁ…敵ではないのか?」
「な――ッ」
二人の言葉に驚いて、物陰に隠れている謎の女性は驚きの声を上げた。ここにいるのがバレてしまった――もとよりバレていたことで隠れる意味もなくなったと観念した彼女は、物陰から姿を表した。
その女性は、ボロボロの鎧姿で、零夜にやられて気絶させられていたはずの女性だった。
「えっと…確か君は、アヤネ、だったよね?」
シロが確認すると、女性は肯定した。彼女――アヤネは体の軸が定まらずにフラフラと体を揺らしながら近づいてくる。
「いつから、気づいていた?」
「最初っから。君、俺がここにいる時点で既にいたでしょ?」
「……そこまで気が付いていて、どうして今まで無視していた?」
「だって、気に掛けるまででもなかったから」
「…そうかい」
相変わらずデリカシーのない発言で、アヤネは一瞬落ち込む。しかし、すぐに無理やり立ち直った。この程度の言葉で凹むほど、彼女の精神は脆くない。
「女。……お前の名前は、アヤネと言ったな?」
「そうだよ。まさか偉大な龍神様に名前を呼んでもらえるとは予想もしてなかったけどねぇ」
「なに。空真の話によく出ていたから、覚えていただけだ」
「―――空真の?」
アヤネは今だに龍神の腕の中で気絶している空真を見た。その目は、怪訝のような、慈しみのような目だった。
「手がかかるが、良いヤツだといつも言っていた。愛されてるじゃないか」
「―――別に、そんなんじゃない」
彼女は悪態をつくが、その言葉に悪感情はない。むしろ、“こんな自分をそう思ってくれていたのか”という少しの喜びと驚きがあった。
「まぁまぁ。それで、頼まれてくれるかい?」
「…ちなみに、拒否権はないんだろ?」
「もちろんさ」
「…ハァ。いいさ。コイツのことは任せな」
アヤネは龍神から空真を渡される。予想はしていたが、重い。鎧が破壊されているとはいえ、男性の体は普通に重い。しかし、鍛えているアヤネにとってはそれも少し重い程度だ。
「…それとさ。話は聞いてたよ。要約すると空真とその他野郎どもの性格が突然変異しちまったのは、その『寄生魂』ってやつのせいなんだろ?」
「あぁ。そうだよ」
「そしてその『寄生魂』を人工的に作ったクソ野郎がいる…。ここまで合ってるか?」
「合ってるとも」
「だったら…コイツのこと預かる代わりに、黒幕必ずぶっ殺せ」
「――無論さ」
アヤネの殺気の籠った言葉に、シロは平然と返答した。それは彼の胆力故か、はたまた同じ感情を偉大ている故か――。
ずっとかくれていたと言うことは、シロと龍神の会話を聞いていたと言うことになる。それ故に、この事件の黒幕の存在を知った以上、怒りを向けるのは当然のことだった。
「それじゃあ、行こうか」
――二人は、通路の奥へと消えていく。
* * * * * * * *
コツコツコツコツと、床を踏み込み歩く音が響き渡る。豪華絢爛で高級感溢れる廊下を、二人が歩く。
「しっかし長い廊下だねー。もうどのくらい歩いたっけ?」
「知らん。時間など一々気にしていられるか」
あれからどれほど経っただろうか。シロは未来で覚えた地理を生かして動いたが、今だに着いていない。それもそのはず。シロは未来では極端な
だがしかし、今回はそれをするわけにはいかないため、必然的に時間が掛かると言うことだ。
(ここで結構時間喰ったな…地上の方は大丈夫か?こっちに集中するために零夜とのリンクは切っているけど…まぁでも、一応そのために二人にはカードを持たせてあるし…こっちに集中しよう)
地上の心配をしながら、目の前のことに精神を集中させる。
あのカードさえあればある程度の窮地は凌げるはずだ。それにあのカードからどんなライダーが出てくるかは完全にその時の状況で左右される仕組みになっている。
使えるか使えないかは、完全に状況次第だ。
(唯一の懸念は臘月だが…おそらく臘月は地上にいないはずだ)
シロは懸念材料である臘月が既に地上にいないことを考え当てていた。その理由としては月人の思想だ。“地上は穢れが蔓延した地獄”という認識の月に長くいることは流石にしない。長くいたらその分バレやすくなる。
それに今月はシロたちの侵略によりピンチに陥っている。それを、あの男が見逃すはずがない。
張り巡らした思考を一旦中断し、隣で歩いている龍神に声をかける。
「ところでさ、なんであの場で
「理由は一つ。『彼女』に“そろそろ自分の存在を仄めかすべきだ”と言われたからだ。『あの方』のの思考は我には理解できん」
「なるほど理解。『ミク』の考えなら仕方ないか」
「――先ほどから思っていたが、『あのお方』を呼び捨てとは不敬が過ぎるぞ」
横にいる龍神から、突如として濃厚で純粋なまでの殺気を受ける。これは冗談などで済まされるレベルではない。本当に、『殺意』と言う純情な感情を向けられたのだ。
常人どころじゃない。幻想郷でもトップを争う大妖怪たちでさえこの殺気を間近で受ければ怯んでしまうだろう。最悪、気絶か失神もあり得る。
だが、そんな殺気を受けても彼は――、
「いいんだよ『俺』は。『俺』だけは、それが許されている」
ケロッといつもと変わらない態度でそれを受け流した。今更だが、彼が常識を逸脱している一つの逸話が誕生した。
しかし、その態度が龍神の機嫌をさらに損ねた。
「どの口で――」
「それに、今はともに同じ戦場で背中を預け合う仲間だぜ?ここで潰しあうのは愚策だ」
「…あとで詳しく問いただす。今は、与えられた任務を遂行するのみだ」
「ふいふい」
「我は質問に答えた。故にこちらの質問にも答えろ」
「なんだいなんだい?」
「まず一つ。お前は何者だ?」
龍神のその問に、シロは動揺することもなく背中を前にして龍神に体の全面を向けた。それでも、歩みを進める足を止めることはしなかった。
「何者って、僕はシロだよ?」
「違う。そういうことを聞いているのではない。お前のその名はどう考えても偽名だろう」
「まぁね~。周りからもよく言われるよ。それで、何を聞きたいんだい?」
「単刀直入に言う。お前から、夜神の気配を感じるのは何故だ?」
その時、シロの歩みは止まらないが、唯一見える口元から笑顔が消えた。
「お前の気配は夜神のものとは大分違う。だがしかし…魂の本質が似通っている。これは親兄弟によく見られる「ストップ」」
シロは足を止めて龍神の顔のすぐ近くにまで手のひらを近づけて、ストップの合図を出した。
「そこから先は、関係者以外立ち入り禁止だよ?」
「――そうか。ならば貴様の口から直接聞くまで待っておいてやろう」
「おや、潔いね」
「お前の夜神の気配に免じて、だ」
「おやおや。ありがとね、零夜」
今この場にいない人物へと感謝を送る。リンクを切っているため零夜が今どうなっているかは知らないが、まぁ大丈夫だろう。
そう考えていると、龍神が再び口を開いた。
「次に、貴様、さっきなにをしていた?」
「なにって?」
「あの女と別れてからなにやら服の中で
時は1分ほど前に遡り、アヤネと別れて見えなくなった後すぐ、龍神は見た。シロが自身の薄いコートの中、腹の辺りで何かを弄っていたところを。
実際、シロのコートの右袖は半分以上がなくなっているため、袖に腕が通ってない時点でなにかをしているとすぐに分かった。
「あぁ、分かっちゃった?まぁ当たり前か。あれはだね――あ」
「どうした?…む」
「話はあとにしようか。話している合間に、ついたみたいだしね?」
二人が歩みを止めると、そこにはどんな巨体の男でも入れそうなほど巨大な扉があった。それはまるで、魔王の部屋の入口の扉。
その扉の奥からは、想像を絶するようなほど禍々しい気配を感じ取った。しかし二人は――、
「それじゃあ開けるよー」
「早くしろ」
まるでそんなことなど関係ないと言わんばかりの態度で、“キィイ…”という建付けのよい扉を開けた。ゆっくりと開かれる巨大な扉。それが開かれると、床にレッドカーペットが敷かれている豪華絢爛な作りの部屋だった。
レッドカーペットを目で追って、その終着点を見た。その奥には見覚えのある人物が、王座と言わんばかりの椅子へと座っていた。
「――――」
「いたいた。やっぱボスはこんな部屋にいないと威厳ないしね」
「なにを言っているかは知らんが…」
龍神は数歩先へ出て、玉座に座る女性へと、顔を向けて、第一声を発した。
「久しぶりだな…【月夜見】」
「――――」
その人物。それは月の賢者の一人にして月を統べる神、【月夜見】だ。彼女は龍神に話しかけられたにも関わらず、無言を貫き通していた。
「おいおい。久しぶりの旧友同士の再会なんだ。もっとこう反応しないと――」
シロがそう言いかけたとき、
そして、シロはその状態のことを知っている。
「なるほどな。彼女、もうすでに『権能』の特性に呑まれてるね…」
シロがぼやいた。『権能』の凶悪な特性の一つとして、『神への命令権』が存在する。未来でも臘月はこの権利を活用して月夜見を封じ込めていた。
そして、今現在も――。
「あぁ…確か『権能』にはそんな効果があったな。遺憾なものだ。神が操られるとは…。しかし、我には関係ないことだ」
「君が例外なんだよ。ともかく、彼女を解放しておくか。権利を持って命ずる。正気に戻れ、月夜――」
その時、シロの体が“く”の字に曲がり、後方へと吹き飛んでいく。突如として腹部辺りに受けた衝撃に驚きながらも、それよりもっと別のことに驚いていた。
(嘘だろ?『痛い』ッ!!?)
それは、痛覚が反応したことだ。『権能』保持者であるシロには同類である『権能』保持者の攻撃しか通用しない。つまり、同類の攻撃でないと痛覚も反応しない。
そんな痛覚が反応したと言うことは――。
一瞬のことで、何より月夜見に気を取られていて気づくことができなかった。
シロはそのまま宮殿から外へと投げ出され、それでも勢いは止まることを知らない。やがては都すらも飛び越え、月特有のクレーターがあちこちに点在する更地へと景色が移り変わる。
「クソがッ!!」
シロは今だに自分の腹部を貫かんとしている攻撃に両手を掴んで振り下ろした。打撃が攻撃へと直撃し、その攻撃が地面に激突する。
荒い息を整えながら、シロは思考を重ねる。今感じた、違和感を。
(今の攻撃のとき感じたあれ…。あれは攻撃にしては質量がありすぎる。まるで、人の体を殴ったみてぇな感覚だ…)
思考の最中、シロの疑問はすぐに晴れた。突き落とした攻撃でできたクレーターの中から、ゆらりと一つの人影が現れた。
あの攻撃は、ただの攻撃ではなく人による突進だったのだ。
しかし、そんなことはシロにとっては些細なこと。問題は――その人物だった。
シロは渇いた声で、その人物の名前を口から零した。
「圭、太…」
「―――」
そう、その人物は謎の人物【
未来の圭太とは違い、彼の服装は『服』と言う概念がギリギリ存在していると言うほどのボロボロの服で髪の色も白色ではなく黒色が主体で白いメッシュが入っていた。
しかし、未来と変わらず瞳のハイライトは今も失われたままで、機械のようだった。無言で何も語らない、本物の機械のようだ。
「また会ったな。白服野郎」
「臘月…ッ!!」
そんな時、ヒョッコリと圭太の背中から臘月が体を傾けて姿を表した。いつの間にそこにいたのかは分からないが、シロにとってはどうでもいい事案だ。
臘月の顔は笑顔で、とても気持ち悪い。シロを出し抜いたと言う感情が、彼の優越感を満たしているのだ。
「月が襲撃されてるからって言われてすぐに戻って来てみれば…まさかお前だったとはなぁ。まぁいい。お前ぶっ殺した後お仲間さんも皆殺しにするからそれでチャラだな」
「…『俺』はまだ仲間がいるなんて一言も言ってないが?」
「阿保か。報告で侵入者は二人って既に知ってんだよ。それに襲撃のことを知ったのはお前を逃がしちまったあとだ。単純に考えて仲間がいねぇ方がおかしい」
「単細胞の癖に以外と頭が回るんだな。単細胞から猿に格上げしてやるよ」
「てめぇ…人のこと言う前に自分のこと治したらどうだ?よく言うだろ?バカって言う方が馬鹿ってなぁ」
出会って間もなく、口論による小競り合いが始まった。お互いを馬鹿にしているのか、それとも見計らっているのか…。
しかし、シロがそれを打ち切った。
「――余談はもういい。今すぐ圭太を解放しろ」
「圭太?誰のこと言って――――あぁ!!まさかコイツのことか!?ハッハッハッハッ!!なるほどな。お前らが侵略しに来た理由が、コイツの奪還ってことか!?笑えるなぁ!最高に!!」
「何がおかしい…!!」
目的のことを話すと、臘月は何故か大爆笑した。その行動が、さらにシロの怒りを蓄積させていく。
「だって笑えるだろ?月は最強だ。俺もいるから尚更な。それだと言うのに人一人の奪還のために命を散らしに来る馬鹿なんて、最高に笑えるじゃねぇか!!ハハハハハッ!!」
「――――」
「ちょうどいい!だったらこいつとお前で戦わせて――」
その瞬間、臘月の頬に剣が
爆熱と爆音と砂煙が二人の後ろで立ち込める。
「―――は?お前、なに急に攻撃してきてんだ?まだ話の途中だろ?」
「知るか。もう話すことはねぇ。最初から全力で行く。魂の根幹まで、磨り潰す」
爆風が吹き荒れ、熱気が当たり一帯を支配する中。風によって――シロのフードが外れた。
その顔はとても険しく、同時に凛々しい男の顔。白い白髪を爆風で揺らしながら、深紅の瞳で一人の敵を見つめる。
「今この場で、顔を隠す意味はない。だから…死ね」
「意味不明なんだよォ!!顔見たから死ねってどこぞの美女か!男がやっても意味ねぇだろうが!まぁ、お前なかなかイケメンじゃねぇか。ムカつくぜ。原型留めねぇくらいボコボコにしてやらァ!」
「―――やってみろ。【スピカ・ヴィルゴ】【アルゲディ・カプリコーン】――
その瞬間世界は武器で染まった。
剣、短剣、刀、槍、斧、薙刀、鎌、
聖剣、魔剣、属性武器、ガンブレード、レーザーソード、蛇腹剣、如意棒、パイルバンカー、ビームライフル、レールガン、荷電粒子砲などの架空の武器。
ありとあらゆる武器が三人のいる空間を包み込んだ。そして、それは一つだけではない。同じ武器が現在進行形で複製され続け、その空間の凶悪性をどんどんと上げていく。
「な、なんだァ!?」
「―――?」
「容赦もない。慈悲もない。ここから繰り広げられるは――単なる
慈悲無き塵殺ショーが、幕を開けた。
龍神の助言によって、【ウラノス】たちが『精神生命体』であることが判明しました。人工的な精神生命体は宿主の体から離れたら存在が保てず消失してしまうと言う新情報もゲット。
そして状況証拠からウラノスたちを作ったのは臘月ではないかと言う疑惑が。ますます彼の能力が分からない。
空真からウラノスを剥ぎ取ったことで空真は存命、ウラノスは消滅。彼らへの真なる対抗手段を手に入れたと言うわけですね。
次に龍神の謎の発言。シロから何故か零夜の気配を感じるそうで…。こういうの(魂の根幹が似ていること)は親兄弟によくある事例らしい。
シロって、一体…?
あと、シロが服の中でやってた何かも気になりますよね。
そして、臘月と圭太が登場。臘月の相変わらずのクズ発言でシロは完全にキレました本当にありがとうございます。
未来のこともあって手加減なしで最初から全力で応戦していきます。
最後に、シロの顔がついに露わに!顔の詳細は言えないけど、とても気になるよね!というわけで、次回もお楽しみに!
ちなみに少しネタバレになりますけど龍神が来ないのは臘月の命令で月夜見が全力で妨害しているからです。
次回―――【79
評価:感想よろしくお願いします!!