いざ出すとなると緊張するわー。
それでは、どうぞッ!!
散策する。記憶の波を。調べ出す、自分ではない、赤の他人の記憶を。
見つけ出す、その記憶を、魂から。
魂とは、その人物の全てだ。その人の見た目も、声も、在り方も、すべて魂で決まると言っても過言ではないかもしれない。
故に、魂は『記憶』を『記録』として保持している。『記憶』も、その人物の在り方を形成する一つの要素。
シロは権能――【
ネメアの獅子はギリシャのペロポネソス半島にあるネメアの谷に住むとされていた人喰いライオンである。それゆえに、多くの生命を殺した怪物として書かれている。
生命を殺した=魂を肉体ごと捕食したともとれる故、ネメアの獅子の力は【魂】を操り、操作する力に長けている。
操作する力に長けていると言っても、それは肉体のある魂を操作できるわけではない。ネメアの獅子が操れる魂は、肉体を保有していない魂限定だ。つまり、生者を操ることは不可能だ。
まぁ、操れなくとも多少の干渉は可能だが。
その権能を使い、シロは見つけていた。
臘月の『権能』の秘密の一部を。
下っ端などは論外。やはり一番は【蓬莱山輝夜】【八意永琳】【綿月豊姫】【綿月依姫】【綿月無月】の魂だ。あの戦いの後、肉体を失った魂はほとんど回収した。デンドロンと臘月は無理だったが。
その五人の魂を、自身の魂に影響がないよう、ゆっくり、ゆっくりと探索していく。いらない部分は端折って、重要な部分のみを。それでも他人の記憶を見るのは他人と自分を重ね合わせてしまう危険性があるため、いくらシロでも慎重に動かざる負えなかった。
だからこそ、五人の記憶を視るだけで約一年もかかった。全部を全部、その記憶を視る時間に費やすわけにもいかなかたったため、ここまで時間が掛かった。
昼などは戦力増量のため、ライラと一緒に紅夜や零夜、ルーミアの稽古をしていたりした。途中でマクラも混ざったり混ざらなかったりしたが、アレはマジですごかった。
零夜も色々なライダーへと変身して戦ってはいたが、肉弾戦でキルバスと同等だ。一筋縄ではいかなかったのが記憶に新しい。見ているだけでもかなり眼福だった。
五人の内の一人――綿月豊姫の『記録』に、かなり重要な情報があった。
それは臘月の『能力』だ。臘月の能力。それは『保存』と言うあまり戦闘向きとは言えない能力だった。
いつから権能に覚醒していたかは知らないが、今の臘月の権能が『保存』の能力が昇華したものだと言うのはかなり有益な情報だった。
そもそも権能への変化パターンは二種類ある。それは『昇華』と『混合』、つまるところ『進化』と『合成』だ。
『昇華』はそのままの通り、能力が一つだけの場合、その能力をベースにして劇的なまでに進化させて無理やりこじつけとも言えるレベルで戦闘向きの権能にするパターン。
『混合』の場合は二つ能力がある状態でその能力が合成され、全く新しい力――権能へと至らせるパターン。ちなみに、こちらもこじつけレベルで戦闘向きの能力へと改造される
臘月の場合、前者だろう。いや、もう一つ能力を隠していた可能性を含めて、後者である可能性も捨てきれない。しかし、さらに考えるためにはもう一つの可能性を斬り捨てなければならない。
臘月が前者だった場合――『保存』と言う非戦闘員向きの能力を戦闘向きの権能に昇華するならば…。
シロは思案する。権能、【
この権能は蟹と言う明らかにハサミが武器なのだろうと誰もが思う戦闘向きな力だが、シロの場合は違う。
大体権能に進化する際の力はこじつけがほとんどである。コレの場合は『思考加速』や『演算処理』などと言った処理能力の力だ。分かりやすく言うと脳をゲーミングPCレベルにまで爆上げしている。無論、冷却装置などは―――どうしているかは、不明だ。ともかく、これでいつでも新鮮な情報を収集してそこから状況把握をしている。この権能は、とても使い勝手が良いのだ。
この権能を使って考えた、臘月の『保存』から始まった権能の可能性。それを思案して――ついに、一番近いものを二、三個に絞ることができた、が、そこまでだった。
しかし――、
『―――臘月様は、私と出会った時、何故か恐怖の波長を出していた』
レイセンの証言で、足りなかったパズルのピースが完全にハマった。
一番単純で、一番わかりやすかった。だが、“そんな単純か?”という思考が邪魔していた。臘月の権能は、字面だけ見れば単純だが、実際の能力はそんなに単純じゃない。もっと凶悪で、多様性に長けていた。
そもそも『保存』と言うのは一般的に食べ物が腐らないように腐ってしまう時間を延長させることを言う。つまり時間を延長させると言う行為だ。
ならば、その“時間延長”を進化させれば?
――答えは一つだ。
その答えを持ってして、彼は今、戦場に立っているのだ。
* * * * * * * *
シロは【
【スピカ・ヴィルゴ】。スピカとは『稲穂』を意味する星座の一部である。稲穂は生え、増やすことができる。それを戦闘向きにすることによって、ありとあらゆる武器や防具の生成が可能となった。
しかし、『一定以上の数を生産すると次の生産にタイムラグが必要となる』と言う欠点が存在している。
だが、そんな欠点を解決する権能が【アルゲティ・カプリコーン】だ。アルゲティは『
故にありとあらゆる武器を一個ずつスピカ・ヴィルゴで創り、アルゲティ・カプリコーンの力でそれらを複製すれば武器畑の完成だ。
さらにアルゲティ・カプリコーンには複製の制限がないため、実質無限に創ることができるチート。無論、力の本質は『複製』のため、武器以外の複製も可能だ。しかし、今は関係ない。
「――――」
白い悪魔が、月の地面を大股で歩く。精製された大量の武器が月の地面へと突き刺さり、その背景はまるで戦場跡地のようだ。
突き刺さった二つの剣、神々しく輝く聖剣を左手で、禍々しいオーラを放つ魔剣を右手で地面から抜いて、その紅き眼光で臘月を捉える。
「この…コケ脅しがッ!行けッ!」
「―――」
圭太に命令すると、圭太は両手に雷を纏い地面を蹴って跳躍しシロとの距離を詰める。
その刹那――シロは聖剣を振るった。聖剣と雷が互いにぶつか―――らなかった。
雷は実体を持たず、聖剣が纏う特別な力が二つの間で炸裂し、暴風が荒れ狂った。
攻撃:1→2
防御:1→2
速度:1→2
耐久:1→2
精神:1→2
霊力:1→2
魔力:1→2
「俺のこと忘れてんじゃねぇぞッ!」
そんな中、臘月がシロの後ろを取った。不意打ちだ。手の形を手刀に変え、それを振るった、が、右手の魔剣でそれを防がれる。
「ちッ!」
「不意打ちくらい読める。あんまり舐めんなよ?」
攻撃:2→4
防御:2→4
速度:2→4
耐久:2→4
精神:2→4
霊力:2→4
魔力:2→4
両手が塞がっていながらも、余裕を見せるシロ。
すると、突然圭太の足元から巨大な大柱が大量に突出して、柱の間に体が挟まるようになり圭太を拘束した。その隙に聖剣を手放して右手に生成したのは――ボウガンだ。
体を臘月の方向に向けて銃口を臘月の眼球に押し当て――トリガーを引いた。
残虐非道な即死の一撃だ。――普通ならば。
「あぁああああ!!てめぇ!!いきなりボウガンを眼球に押し当てて発射するとかマジでクズだな!!俺じゃなかったら死んでただろうがぁあああ!」
この男は、それでさえも死なない。むしろノーダメージだ。臘月の権能によるものなのか、権能持ちであるシロの攻撃が通じないのは、一切の謎だ。
しかしその謎も――ほとんど解けかかっている。
「死ねよ。むしろこっちはそれを望んでんだ」
「ふっざけんなッ!誰が死ぬかよ、お前が死ね!!」
魔剣と臘月の拳による連撃がぶつかり合う。互いに速度は拮抗している――と思われていたが、徐々に押す力も攻撃する力も、防御もシロの方が勝っていく。
その違和感に臘月も気づき始めた。
「どういうことだッ!?なんでお前の方が強くなってきてんだよぉオオオッ!!?」
「なんでだと思う?教えてやろうか!?」
「――ッ!いらねぇよッ!!結局てめぇが俺より弱いのは変わりないんだからよォ!」
この展開は、予想通りだ。“教えてやろうか?”と言われて教えられたら、それは臘月のプライドを傷つけることになる。自身のプライドを優先するタイプの人間に、これほど有効な手の隠し方はない。
その怒りによる隙を利用して、自身の権能の一つである念動力を扱う力――【
遠くに突き刺さっていた蛇腹剣を引き寄せて左手でそれを器用に操り臘月を束縛し、振り回して地面に叩きつける。次にイェド・オフィウクスを再び発動して周りにある無数の斬撃武器を持ってきて、刀身を浮地面に半分ほど埋まった臘月へと向けて――発射した。
無慈悲で無情な刃の雨は、留まるところを知らない。いくらダメージが通らないからといっても、その衝撃までは完全に掻き消せないだろう。
その内に、シロは柱に拘束
「トライデント…」
その槍の名を、シロは呟いた。
トライデント。それはギリシャ神話に出てくる【オリュンポス十二神】の
嵐や津波、洪水や風を操る力を持っているとされている、伝説上の武器。
圭太の三又の槍――トライデントが暴風を纏いながら周りに水が旋回する。その伝説の通り、風と水を操る力を持っていた。
「神器の力は【
シロは思案する。今の紅夜のように蒼汰の力を受け継いでおらず完全に【紅月紅夜】と言う人物の力のみで生きている場合もある。
自分の知っている親友のままで、嬉しさすら感じる。
「でもなぁ…その嬉しさは、お前を救ってから、噛み締めることにするよッ!」
イェド・オフィウクスで地面に置かれたガトリング砲を引き寄せる。今はこの権能で臘月を集中攻撃しているため、長時間は使えないがこれで十分だ。
ガトリング砲の回転力を全力まで上げて、自身の力で生成した弾は尽きることなくほぼ無制限に発射される。
小型弾の雨が、圭太を襲った。
「――――」
圭太は無言のまま、トライデントを凪ると暴風が発動し、弾を全て軌道変換して逸らした。―――が、そこで圭太は異変に気付いた。
銃弾一つ一つに込められた殺意が、まだ自分に向いていることに
「忘れたとは言わせなぜ、圭太。蒼汰はもういない。あの
カウス・メディア・サジタリウス。絶対命中の権能。それは言い換えればホーミング能力であり、敵を絶対に逃がさない追跡性を武器などに付与させることができる。
放たれた銃弾は既に千発を超えている。その銃弾が、一斉に軌道変換して圭太に襲いかかる。
圭太はトライデントを地面に突き刺すと、そこを中心に巨大な水球が生成された。さらに自分は安全になるように水のない空気が十分な空間を中心に作っている。
銃弾が水球の中に侵入するが、水圧で思うように進まない。それもそうだろう。トライデントの風の力で水流の流れを自作しているのも、一つの理由だろう。
圭太はそのまま、水圧を最大限にまで操作すると、ただでさえ小さかった弾丸が米粒より小さく圧縮された。水球を解除すると、弾丸だった金属が地面に散乱する。
「…自分の自由意志はねぇってのに、状況把握は自分でも可能…。やっぱ、『保存』から進化したのは、アレで間違いねぇってわけだ」
「―――」
前々からおかしいとは思っていた。圭太は臘月によって調教され、臘月の命令がないと動かない人形のように思えていた。だが、思い返してみると今のように圭太は自分で状況把握をして行動していた。これは明らかに矛盾している。しかし、臘月の権能がアレであるならば、その矛盾もまかり通る。
「それに、アッチもそろそろ限界か」
今だに臘月に向けて発射している無数の剣による突撃。それも限界に近かった。
後ろで剣が散乱する音が聞こえた。イェド・オフィウクスの効果が、完全に切れたのも確認できた。
「てめぇえええええ!!さっきからボカスカボカスカブッ刺してきやがって!!いい加減うざったいんだよォ!!」
「―――」
シロは今だに圭太のことを見ていて、臘月のことなど視界にも入れなかった。その行為が、さらに臘月のプライドを傷つけた。
「無視してんじゃねぇぞクソ野郎ォオオオ!!」
激高して血管を浮き出し、シロに向かって跳んだ。しかし、シロはそんな臘月に興味などなさそうにスピカ・ヴィルゴを発動した。スピカ・ヴィルゴのタイムラグはとっくに過ぎている。
シロの右手に鉤爪が精製され、そのまま振りかえって臘月を攻撃した。まるで金属を削るような音が響く。しかし、臘月に傷はない。
だがこれも想定の範囲内。今度はイェド・オフィウクスでバズーカ砲を引き寄せて、臘月が怯んでいる隙にバズーカを―――破壊して、自爆した。
中にある火薬をぶちまけてそれを炎を出して爆発させたのだ。
当然シロも巻き添えを喰らうが―――シロも無傷だ。ただ、その爆発で自身の体を移動させた。それだけだ。
そもそも、何故シロが大抵の自然系攻撃を無効化してしまうのか、それはまた権能の一つの力だ。
【
間違った解釈=『反転』と捉えてアンチ――抵抗の力。それがアンタレス・スコーピオンの力だ。
この権能は大抵の攻撃を無効化するほか、
火は完全に無効化して、体どころか服すら燃えることはない。
水は沈められても呼吸可能であり、水圧すら完全に無効化する。
風で体が斬れることもなく、また飛ばされることもない。
土で体が汚れることなく、埋められても呼吸可能であり、と言うより埋められても自身の周りに土を寄せ付けない。
今の今までシロの服にすらダメージが通らず、濡れず、汚れずだったのもアンタレス・スコーピオンあってのことだった。
体を自ら吹っ飛ばしたシロは少し離れた場所で着地する。その時に地面に巨大なクレーターが出来た。
「――今のステータスは…」
シロは眼を閉じて頭の中で今の自分のステータスを確認する。
攻撃:16384
防御:16384
速度:16384
耐久:16384
精神:16384
霊力:16384
魔力:16384
と、かなりのものになっていた。
さっきから現れるこの数値。これもシロの権能の一つだ。
権能の名は【
この権能は戦闘の最中のみ自身のすべての力を『1』と定義して一回の攻撃ごとに2倍に増やしていく力だ。
また、これはON&OFFも自動で切り替えることができる。自身に過ぎた力は体を破壊する。それゆえに体に支障がないようにここで留めているのが現状だ。
今の弱体化しているシロの体では、後二回ほど倍化すれば完全に壊れる。流石に自滅はゴメンだ。
「打ち止めにしてて正解だったな…」
シロは左手の裾をめくる。そこには、信じられない光景があった。
シロの左腕に、ヒビが入っていたのだ。
全体を強化すればするほど強くなるが、その強化に体が耐えられなければ意味はない。普段は最大でも16384の前の8192で留めているのだが、今ばかりは体のことなど気にしていられない。
しかし、強化し続けると体が壊れていくのも事実だ。
「……そう言えば、圭太が見当たらない。……まさかッ!!」
ラムダ・キャンサーを発動して脳をフル回転する。圭太にはまだ神器がいくつもある。そしてその内の一つに、この見当たらない状況を作り出す神器があった。
「たぁッ!!」
「――ッ」
右の死角となる場所。そこに違和感を感じてレーザーソードを生成して薙ぎ払う。何もないはずの場所。そこには何故か抵抗感があった。
徐々にその正体が露わになった。正体は圭太だった。
「やっぱりな…【ハデスの兜】と【タラリア】のコンボ。お前の得意な不意打ち方法だったよな」
ハデス。オリュンポス十二神の
というのも、ハデスには“姿隠し”の能力を持っているため、それに由来している。ちなみに、兜も透明化済みで触れることもできない。攻撃は防ぐと言う矛盾効果もあるが。
タラリア。【金術、道祖神、盗賊、商売の神ヘルメス】が履いている魔法の靴。
羽根が生えており、これを履いていると鷲よりも速く飛ぶことが出来るとされており、これで空を飛ぶこともできる。
この二つのコンボが、圭太の得意な不意打ち方法だった。
「どうやら、戦法も変わってないみたいだな。そこも見れて安心したよ。だからこそ――この戦い、俺が有利だッ!!」
シロは圭太のあらゆる事情を知っている。故に、立ち回ることが可能だ。
シロは属性武器――炎の剣と氷結の槍を精製する。リーチの長さの違いで扱いにくいレパートリー
だが、そんなハンデ、シロにとっては造作もないことだ。
炎の剣を振るうと、
その攻撃にはまるで躊躇いなどなく、かつての親友に向けるものではない。
「―――ッ」
圭太は一旦距離を取った。その瞬間、傷口から炎が出現し、氷を溶かした。さらにその炎は圭太の傷口を焼くのではなく、逆に回復を促していた。やがて、傷が完治する。
「ヘパイストスの【再生の炎】…厄介だな。だが、お前の力を知っているからこそ、俺が手を抜くことは絶対にない。だから…全力でお前を倒す」
もうあの時のようなヘマはしない。絶対に、倒して、救って見せる。
「おいおい。なに茶番やってんだよ!!」
そんな時、水を差すように臘月が後ろから叫んだ。水を差されたことでシロが舌打ちする。実質挟み撃ちの状況に追い込まれた。
「それにしても、お前酷ぇな?友達なんだろ?助けにきた友達相手に殺す気で戦うとか…頭狂ってんなww」
「黙っとけ。お前には分からないだろうなァ。俺がどうしてここまで本気を出すのか」
「あぁん?」
「答えは簡単だ。俺は圭太を認めている。強いから、決して舐めてかかることはしない」
「――はっ、訳わかんねぇ。結局は自分大事ってことじゃねぇか」
臘月はシロの考えを一蹴する。しかし、シロの表情は――無。まるでその瞳は臘月を見ていない。
「言っただろ。臘月。お前には決して分からない。だから、ここで宣言するぜ臘月。今日、お前は何もかもを失い
「ははははッ!なに馬鹿なこと言ってんだよッ!失墜?この俺を!?冗談も休み休み言えッ!」
怒るどころか逆に爆笑し、静寂の空間を打ち破った。
しかし、シロの表情は相変わらず変わらない。
「別に冗談で言ってるつもりはないさ――。それに、目的の“時間稼ぎ”も終わったしな」
「は?なに言って――?」
そんなとき、突如臘月の背中に灼熱を纏った斬撃が直撃した。臘月は完全に不意打ちを喰らい、前に数歩前かがみになった。
臘月はゆっくりと後ろを見て―――その斬撃を放った相手を見た。見た途端、臘月の表情が怒りで染まる。
「おい……こりゃあ何の真似だ?……依姫」
臘月を攻撃した人物。それは依姫だった。
依姫は刀を振り下ろした姿勢で、鋭い眼光で臘月を怒りの形相で睨む。
「臘月ゥ…殺すッ!!」
依姫は殺意全開で地面を駆けた。
「
怒りで周りを忘れながらも神への礼節は欠かさず、依姫は全身に灼熱の炎を轟く雷を纏った。瞬間、依姫のスピードが極限まで上がり臘月との距離を一瞬で詰めた。
臘月は防御をしない。なにせ、ただでさえ権能持ちではない依姫の攻撃が自分に通じるはずないから。
しかし、臘月はとっさに攻撃を防いだ。いや、刀を掴んだ。
「おいてめぇ…どこ狙ってんだよ」
依姫の刀は、臘月の股間一歩手前で、臘月の手によって止まっていた。臘月がわざわざ攻撃を止めた理由。それは単純に自分の睾丸に攻撃されるがの嫌だったからだ。
「お前のそんなもの、潰れてしまえばいいッ!」
「キモめぇんだよ!俺の股間狙ってきやがって!どうしたんだよてめぇ!!」
怒りながら臘月は依姫の腹を蹴った。依姫は水切りの石のように何度も地面に体をぶつけて撥ねながら五回目で止まり、地面に蹲りながらも立ち上がろうとする。
「依姫ッ!!」
「依姫様ッ!!」
すると突如として依姫のすぐ近くに豊姫とレイセンが現れた。二人はボロボロになった依姫を介抱すると、豊姫はシロを睨んだ。
「あなたね…ッ、依姫を傷付けたのはッ!!」
とんでもない誤解だ。しかし、その誤解はすぐに解けることになった。
「離してくださいお姉様ッ!!私は、アイツを臘月を!!殺さなきゃいけないんですッ!!」
「依姫…ッ!?どうしたの!?急に医療室から飛び出して、さっきから様子が変よッ!?」
依姫の殺意が、あの白服の男ではなく身内である臘月に向いていることに、豊姫は驚きを隠せなかった。
その様子を見たレイセンは、あのシーンを思い出した。シロが依姫の頭を掴んで、水色の光が出ていた、あの場面を。
「あなた…依姫様になにをしたんですかッ!!?」
「そこで俺に矛先が向くわけね…。まぁ合ってるけど」
「やっぱり…!!」
豊姫はボロボロになりながらも臘月への殺意を緩めずに暴れる依姫を抑えている。しかしそんな豊姫も依姫を抑えながらシロを睨んでいた。
「単純な話さ。記憶を埋め込んだのさ。彼女に」
「記憶を、埋め込んだ…?」
「そう。俺の“臘月が憎い”って言う憎悪の記憶を、そのまま彼女に植え込んだ。結果的に、彼女は臘月を憎むようになったってことさ」
「そんなことを…ッ!!」
豊姫とレイセンがシロを睨む。
しかし、シロのこの発言は半分本当で半分嘘だ。
実際埋め込んだのは、シロの記憶じゃない。【綿月依姫】本人の記憶だ。
未来で依姫の魂を回収した後、ずっと保管していた。そしてあの時、今の依姫と未来の依姫の魂を融合させたのだ。
ここで使ったのはネメアの獅子。生者の魂を操作することはできずとも多少の干渉は可能なこの権能の力を使って二つの魂を、『記憶』を融合させた。同一人物の魂だ。うまくいかないはずがない。
だがしかし、記憶の完全継承のはかなりの時間を労するため、時間稼ぎが必要だった。
しかし、もうそんな必要もなくなった。
「あなたはどうして、こうも臘月様を憎むんですかッ!!」
レイセンが叫ぶ。その叫びを、シロは鼻で笑った。
「お前、アレが見えないの?」
シロが親指で指さしたのは、シロの真後ろに立ち尽くしたままのボロボロの服を着ている白いメッシュのある黒髪の美青年が目に映った。
「あの人は…?」
「親友だよ。俺の、大事な…」
シロは天を見上げて、ほそぼそと答えた。哀愁が漂う雰囲気に、レイセンは思わず押し黙る。
「ヤツは、俺から大事な人を奪った挙句、自由意志を奪った。そんなヤツを、みすみす許しておけるかッ!!だから俺は、成った!どんな極悪人にだろうと、大罪人になろうと、俺はなってやった!知ってるか?クズはクズにしか裁けないんだよ」
シロは両手の武器を手放すと、武器が霞のように消え去る。
手を広げ、大声を出した。
「それではッ、ようやく役者と観客が揃った!見てもらおうか、聞いてもらおうかッ!!俺がこれから話すすべてをッ!!」
シロは演説を始めた。急に始まった謎の茶番に、一同は困惑する。臘月すらも、怪訝とも言える表情で行く末を見守っていた。
それだけでなく、先ほどまで暴れていた依姫も表面上は落ち着きを取り戻してただ静かに彼の演説に耳を傾けていた。
「まずは自己紹介から始めようかッ!物語も、登場人物のことを知らないと見向きもされないからねッ!」
紳士のように一礼して、シロは――否。
「俺の名前は
シロは――ヤガミレイヤは、【夜神零夜】と全く瓜二つの顔で、ニコリと微笑んだ。その笑みは、とても黒かった。
はーい。ネタバレ祭、いかがでしたか?自分としてはかなり満足です。
今回のまとめ。
シロ(ヤガミレイヤ)
2【エルナト・タウルス】 牡牛座の権能
エルナトには『(角で)突くこと』と言う意味がある。
戦闘中にのみ自身のすべての力を『1』と定義して一回の攻撃ごとに2倍に増やしていく力。戦闘が終わればバフは消える。
また、これはON&OFFも自動で切り替えることができる。
4【ラムダ・キャンサー】 蟹座の権能
『思考加速』や『演算処理』などと言った処理能力の力。
脳をゲーミングPCレベルにまで爆上げできる。普通にやれば1時間かかる書類も10秒で完成できるレベル。
5【ネメアの獅子】 獅子座の権能
【魂】を操り、操作する力。
しかしすべての魂を操れるわけではなく操れる魂は、肉体を保有していない魂限定。だが肉体を持っている魂でも多少の干渉は可能。
6【スピカ・ヴィルゴ】 乙女座の権能
ありとあらゆる武器や防具の生成、精製する権能。
しかし欠点として『一定以上の数を生産すると次の生産にタイムラグ』が必要となる。
8【アンタレス・スコーピオン】 蠍座の権能
アンタレスの間違った解釈で火星に対抗アンチするものと言う意味があった。
間違った解釈=『反転』と捉えてアンチ、つまり抵抗の力。それがアンタレス・スコーピオン。
この権能は大抵の攻撃を無効化するほか、『火』『水』『風』『土』などの属性攻撃への完全耐性を発揮している。
シロの服が汚れないのもこの権能のおかげ。
9【カウス・メディア・サジタリウス】 射手座の権能
絶対命中の権能。投擲したり発砲した攻撃にホーミング効果を追加する。
この権能は少し前に【ニュートン】によって明らかにされていた。
10【アルゲディ・カプリコーン】 山羊座の権能
繁殖能力が非常に高い山羊をモチーフにし、『複製』の権能。
これでスピカ・ヴィルゴの欠点をカバーしている。
イメージとしては【衛宮士郎】の【投影魔術】。
13【イェド・オフィウクス】 蛇遣い座の権能
念動力を扱いことを可能とする権能。これで遠く離れた場所にあるものを引き寄せたりすることができる。
今回はスピカ・ヴィルゴとアルゲティ・カプリコーンの権能で生成し、散乱した大量の武器を自分の手元に引き寄せたり、大量の武器を一気に動かして集中攻撃も可能。
13【
79話では使われなかったが、【断章:輝夜姫の憂鬱】にて使用された権能。
この権能は「相手の戦意を喪失、現象させる」権能。どの程度喪失するかは相手の「覚悟」と「度胸」によって決まるため、どのくらい減少するかは使用された者次第。
簡単に言うと“蛇に睨まれた蛙”状態にする権能であり、雑魚専用である。
圭太
火と鍛冶の神ヘパイストス
【再生の炎】
鍛冶師は新たな武器や防具を作り、また新しく直す職人。その炎は燃やすのではなく治すために存在する。
治してやる。直してやる。何度でも、何度でも。その命尽きるまで、何度でも。お前が望む限り、何度でも、何度でも。
【ケラウノス】
オリュンポス十二神のゼウスが使用している実態を持たない雷の神器。通称【ゼウスの雷霆】。
雷の形を整えて武器にしたりすることも可能。
【トライデント】
オリュンポス十二神の海神ポセイドンが使用していた三又の槍。
嵐や津波、洪水や風を操る力を持っており、圭太は器用に水と風を操って攻撃している。
【ハデスの兜】
姿隠しの能力を持つ、オリュンポス十二神の冥王ハーデスの兜。効力の通り、透明化する能力を保有しており、気配を完全に断ち切るので奇襲を仕掛けることや逃走に使用可能であり、ある程度の強度も持ち合わせている。
また誰からも見えないように兜自体が透明化しており、圭太以外触れることは不可能。
さらに攻撃を通さずそれ以外を通すと言う矛盾を完全に確立しているオマケつき。
【タラリア】
オリュンポス十二神のヘルメスが使用していた魔法の靴。羽根が生えており、これを履いていると鷲よりも速く飛ぶことが出来るとされている。
常に圭太が履いており、これにより空を飛ぶことを可能としている。なお、羽の部分は【ハデスの兜】の力で透明になっており、通常では見ることも触れることもできない。
というのが今回の使用権能およびアイテムです。
次回もネタバレ祭の続きだよ!
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