↑ 今思ったんだけど、『臘月』って普通に作者以外なんて読むかわかんなくね?と思って書いてみた配慮。
お待たせしましたー。
ネタバレ祭なので、かなりの大ボリュームに!もう少しで20000生きそうだった…。なんか微妙な文字の終わり方だけど、気にしないッ!!
それでは、どうぞッ!
「始めようか。最大で最高なネタバラシを」
そう言い、シロ――もといヤガミレイヤは高らかに宣言する。
長く隠されていたベールがついに晒された。彼の素顔を見て驚愕したのは依姫だけだ。今の依姫は未来の依姫の魂と融合した状態ゆえ、未来の記憶が存在する。もちろん、自分が死んだときの記憶も。融合故にしばらく情報の整理で頭痛が酷かったが、すぐに現状を理解して今この場に居る。
未来で見た、黒い服で全身を包んだ男の顔。その顔と、双子と見間違えるほど瓜二つだったら、そりゃあ誰だって驚く。
そんな彼女の驚きを他所に、臘月が怒声で「ネタバラシ」を邪魔した。
「ふっざけんなっ!なにがネタバラシだッ!!んなもんどうでもいいんだよッ!!それに、冤罪吹っ掛けてんじゃねぇ!!俺がアイツを拾った時は既にボロボロの廃人だったんだよォ!!あの残状を俺のせいにしてんじゃねぇ!!むしろ餓死しねぇように拾ってやったことを感謝される身なんだよこっちはよォ!!」
「―――。黙れ。だったら今の圭太はなんだ?服もボロボロで、言葉もまともに話さない。ただお前の言うことだけ聞く人形だ。ボロ雑巾のように使い古して、あまつさえ――」
未来のあの出来事が鮮明に思い浮かぶ。自身の盾として圭太を使い、そして直撃してこちらが放心してしまっている隙を狙って圭太を貫いて攻撃された、あのときを。
「感謝だと?ふざけるな。どうせお前は圭太を都合のいい駒としか思っていないクセに、戯言を抜かすんじゃねぇ!!」
「知るかよッ!こっちは拾ってやった上に仕事を与えてやってんだ!とやかく言われる筋合いはねぇ!!」
「……そうか。そうだよな…お前は、そんなヤツだよな。口論してた自分が恥ずかしくなるよ」
レイヤは今更ながらこんな男と口論になっていた自分が恥ずかしくなる。
「んだとてめぇ!!」
チンピラみたく挑発に乗って攻撃を仕掛けた。
臘月が屈んで地面の砂を拾うと、それを投げつけた。ただの子供の攻撃としか思えない攻撃。しかし、臘月がやった場合それは即死の弾丸――当たればハチの巣になることは必須の即死攻撃だ。
しかし、シロはすぐさま空間の権能の力で禍々しい剣と二冊の本を取り出して、読み込んだ。
剣は毒のオーラを纏い、剣を地面に突き刺した。すると紫色の円状の壁がレイヤの目の前に出現し、砂の弾丸を受けとめた――いや、時が止まった。
砂の弾丸が、だんだんと紫色に変色していき、地面にポロポロと落ちていく。
そして臘月の四方八方の地面から紫色に変色した蜘蛛の糸が飛び出し、臘月の四肢を拘束する。
「な、なんだこれは!?それに、力が、抜けて、いく、だと…!?なにしやがったてめぇええええええ!!!」
「これのおかげだよ…【猛毒剣毒牙】。てんs――いや、【権能キラー】とでも呼んでおこうか」
レイヤは高々にして猛毒剣毒牙を見せつける。その剣は神々しさも毒々しさも禍々しさも兼ね備えており、矛盾をそのまま形にしたような剣だった。
「権能キラーはその名の通り、権能を持つ相手に対して強力な特攻を発動する力…。対権能用に創られた、特別な剣だよ」
「はぁああああああ!?ふっざけんなよ!!そんなチート使いやがって!ずりぃだろ!!すぐに外せッ!!」
「そう簡単に離すわけないだろ…ちょっとの間お話しようぜ。俺も長くはもたないからな」
そう言うレイヤの猛毒剣毒牙を持つ右手はジュクジュクと音を立てながら毒に浸食されていた。
その右手を見て依姫が反応を示した。
「それは…ッ!」
「そう。猛毒剣毒牙は権能キラー。だから必然的に俺にも効果あるんだよねぇー。つまり諸刃の剣ってわけ。俺の
サダルメリク・アクエリアス。レイヤの11番目の権能だ。サダルメリクは【王の幸運】の意味を持つ水瓶座のアルファ星であり、【回復】の権能を有している。
猛毒剣毒牙の権能キラーを耐えることができるのも、この権能のおかげだ。
「はっ。自分の武器にやられてちゃ世話ねぇなぁ」
「そんな恰好で威張れるお前もどうかと思うがな」
「クソが…ッ!!」
臘月の嫌味を嫌味で返す。
正直言って今猛毒剣毒牙の力で臘月の力が弱体化している今、すぐにでも殺したい。しかし、それでは意味がない。コイツの罪を洗いざらい吐くまでは。
猛毒剣毒牙をしまって、臘月に語り掛ける。
「じゃあまず、お前が犯してきた罪から暴露していこうか?」
「は?俺はなにもしてねぇっつの!まさか、さっきの話の掘り返しかよ。あんなのは罪でもなんでもねぇ。何度言えば分かるんだかなァ」
「うるせぇ。まずは――依姫」
「――――」
レイヤが依姫を指定すると、依姫はこちらを向いた。今だに依姫は臘月を殺さんとばかりの眼で睨んでいるが、一旦落ち着きを取り戻して、レイヤの言葉に耳を傾けた。
レイヤは気を取り直して一回手を叩く。
「この月でさ、怪奇事件みたいなこと、起きてるよね?」
「……本来なら答える義理などありませんが、あなたには借りがあるので…。えぇ。あります。人が突如として豹変すると言う不可解な事件が」
「ちょ、依姫ッ!?」
義理のない相手に月の内情を喋った依姫に驚いた豊姫。しかし、依姫の“あなたには借りがある”という部分から、自分の妹の不自然な部分の理由をすぐに理解した。半分正解で、半分間違いの。
「あなた…この子に憎しみ以外のなにを吹き込んだの!?」
「ん?別に“憎しみ”だけとは言っていないだろう?」
レイヤは平然と豊姫の疑問を肯定した。つまり、憎しみ以外にまた別の記憶を埋め込んだことになる。
相手は他人の記憶に干渉できるほどの敵だ。だったら、捏造した記憶を埋め込んでそれを本当のことだと思わせる洗脳のような芸当ができたとしても不思議ではない。
「依姫ッ!目を覚まして!!それはあなたの記憶じゃない!!臘月が憎いって言うのも、全部嘘「違うッ!!」ッ!」
「お姉様…これは誰かの記憶でも、嘘の記憶でもなんでもない。これは、私自身が体験して、私自身が見た経験そのもの!私は、今すぐにでもあの男を殺したい…!!」
依姫は臘月を抹殺せんと鋭い眼光で睨む。そこから放たれる殺気は場の雰囲気に押し負けてさっきから黙っているレイセンと説得していた豊姫すら後ずさりするほどのものだった。
臘月はそんな状態の依姫を見て、鼻で笑った。
「おいおいお前さんよォ…。俺の事散々クズだの言ってたが、お前だって変わらねぇじゃねぇか」
臘月はレイヤのことを侮蔑する。これには、流石の臘月にも軍配が上がっていた。
真実は違うとはいえ、今のレイヤは偽りの記憶を女性に埋め込んだ悪人だ。流石の正論に、レイヤは口を閉じ――ない。
「あぁそうさ。確かに俺がやってることはクズだな。だが、お前とそう変わらない。俺の感情は所謂“同族嫌悪”ってやつだ」
「はぁ?」
「それに俺言ったよなぁ。クズはクズにしか殺せないって。そのために、俺は喜んでクズになった。だから分かるか?お前も俺と、そう変わらないってことが」
「知らねぇよ!!大体なぁ、俺がクズなら周りの奴等はもっとクズだぜっ!!俺なんて生易しい方だ。むしろ、俺はこんな人で良かったって安堵されるべき人種なんだよ!!」
――と、冗談なのか本気なのか知らないが……いや、割と本気で本人はそう信じているらしい。
臘月の言い分に、さらに依姫は殺気を増した。
「お姉様。あんな害悪生かしていてもなんの得にもなりません。殺します」
「落ち着いて依姫ッ!!臘月は、今きっと少しおかしくなってるだけ!!本当の敵はアイツよッ!!」
そう言い、豊姫は相変わらずこっちに敵意を向けてくる。レイヤは彼女の感情が真っ当であるがゆえに何も言えない。いや、言わない。
豊姫なりの状況判断からすれば“臘月も依姫と同じ洗脳を受けている”扱いなのだろう。レイヤは何度か豊姫の様子をちらちら見ていたが、臘月の豹変ぶりに驚いているようだった。
どうやらこの男、普段は猫を被っていたようだ。
そしてその本性がさらけ出した瞬間が、レイヤと言う洗脳能力を持つ敵の目の前だから、豊姫はこれが臘月の本性だと言うことに気付かない。
本題は、どうやってこれがこの男の本性だと言うことを豊姫に納得させるか、だ。
「じゃあ―――」
レイヤは豊姫と依姫の間でどちらの味方をすればいいのか今もあたふた困惑しているレイセンに視線を向けた。
「レイセンちゃん。君の疑問に答えてあげよう」
「えっ、私ッ!?」
急に話を振られて困惑するレイセン。タダでさえ今の状況にあたふたしているのに、さらに爆弾を抱えて彼女の頭はパンク寸前だ。
「ずっ~と、不思議に思っていたことであろうことさ。それを、今この場で暴露する」
「そ、それって…?」
「ずっと不思議に思っただろ?臘月が君に向ける感情について」
「―――ッ」
その時、レイセンは度肝を抜かれたような表情をした。その言葉に、豊姫と依姫は一斉に視線をレイセンに映し、臘月は殺気の籠った眼でレイセンを睨んだ。
「ヒッ――!」
臘月の殺気に怯えた瞬間
「ハッ!!」
「ガハッ!!」
レイヤのボディーブローが、臘月の腹に直撃した。猛毒剣毒牙の効力が未だに続き、拘束されている状態の臘月には権能持ちのレイヤの攻撃はクリティカルヒットだ。臘月は口から吐血した。
「臘月――」
「サビク・オフィウクス」
この瞬間、豊姫はヘビに睨まれた蛙のように動けなくなった。これほどまでに“死”という概念を感じたことはなかった。
サビク・オフィウクスはイェド・オフィウクス同様【蛇遣い座】の権能だ。レイヤの権能は一つの星座につきひとつの権能しかないが、蛇遣い座は黄道十二星座に該当しない例外の星座だ。だからこそ、例外故に2つの権能が存在する。
サビクは蛇遣い座の
基本は雑魚用だが、自分より強い相手にも聞く。ただし、力だけのチキン野郎にだけだ。本物の強者とは心も強いものだ。自分より実際の力が弱くとも、心が強かったら効果が出にくいと言うのがこの権能の分かりにくいところだ。
さて、その間に、依姫は豊姫に対して申し訳なさそうな顔をして、レイセンに問い掛ける。
「レイセンッ!!今の話、詳しく聞かせなさい」
「で、でも「早くッ!!」は、はひっ!!」
レイセンは依姫の気迫に怯えながらも話した。臘月と自分が初めて出会った時、何故か臘月が自分に対して『恐怖』の感情を抱いていたことに。
「本当に、心辺りなんてないんです。始めて出会ったのに、なんでこんなに怖がられてるんだろうって、ずっと不思議に思ってて」
「確かに…これはどういうことですか?」
「簡単な話さ。あの男の恐怖はレイセンと言う個人に向けられていたものじゃない。
「―――ァアアアアアアアア!!!」
そう言った瞬間、咆哮とともに臘月の暴れる力と怒りの形相が深まった。ジタバタと暴れるが、【権能キラー】の力に権能持ちはどうすることもできない。
ネタバレをすれば、そもそもあの糸はある一定の筋力があれば普通に切れる。それができないとなると、臘月がどれほど権能に頼っていたのかが伺い知れる。
まぁもっとも、権能持ちであろうがなかろうが蜘蛛の糸の毒でやられて大抵はお陀仏するが。むしろこの拘束方法は権能持ち以外にやると普通に死ぬ。耐えられるのは権能持ちのみだ。まぁ不老不死や強力な耐性を持つ相手なんかの例外も存在するが。
「図星か…。だったらさらに追い詰めてやる。お前が玉兎に怯えている理由。それは――」
「やめろぉおおおおおお!!!!おい、アイツを黙らせろォオ!!!」
弱点の露見を阻止するために臘月は圭太に命令する。自分が動けない今、使えるのは彼だけだ。喉がはちきれるであろうほどの声量で叫ぶも、圭太はなにも反応しない。
それは、コントローラーを持っていないラジコン同然に。
「おい!!動け!!あいつをぶっ殺せ!!聞いてんのかよおい!!」
「無駄だよ。今、圭太は誰の声も聞こえてない状態だからな」
「どういうことだッ!!」
「今も圭太は、これで耳が聞こえない状態なんだ」
そう言ってレイヤが懐から取り出したのは――、
「耳栓…?」
「そう、耳栓。お前らが俺の話に夢中になっている際にこっそり付けさせてもらった」
「ふざけんなッ!!そんな暇なかっただろうが!!」
「ざんね~ん。俺には【カウス・メディア・サジタリウス《絶対命中》】の権能があるんだよ。それで耳にスポッ、ってわけだ」
カウス・メディア・サジタリウスの権能、絶対命中の力で耳栓を誰にも気づかれずに圭太に取り付けた。その事実を知った臘月は歯ぎしりと怒りの形相は止まらない。
罵倒、罵倒、罵倒。罵倒のコンボが続いていくが、レイヤはその情報を完全にシャットアウトして、暴露を決行する。
「臘月の弱点それは―――」
そもそも、ずっと疑問に思わなかった。しかし、レイセンの証言でそれが疑問に思えた。
未来の月で玉兎が
だが、そこにもう一つの理由があったとすれば?それが―――。
「玉兎と言う存在自体が、お前の最大の弱点だったから、だろ?」
「な…ッ!?」
「え…ッ!?」
「…どういう、こと?」
「クソがぁあああああ!!!」
言った瞬間、臘月の暴れる力が強まる。自分の弱点を完全に露見された。それへの怒りで、だ。
依姫とレイセンは臘月の弱点が『玉兎』であることに驚き、豊姫はまだ話についていけてなかった。
「まさか、臘月があの制度を強制的に通したのって…!!」
「…ど、どういうことですか?」
臘月が未来で玉兎の奴隷化を進めた真の理由。それは自分の弱点を完全に潰すことだった。玉兎を奴隷化することで自分に反逆する微かな可能性を完全に打ち消したのだ。
無論、玉兎が反逆などすれば自分が出る間もなく終わるし、そもそもしない。臘月は大胆ながらも心配性な一面も持っていた。
そして、未来で悦に浸っている最中に、【猛毒剣毒牙】と言う完全なイレギュラーによって、死亡した。
「依姫、どういうこと?臘月が強制的に通した制度って…?」
「あ…っ、お姉様やレイセンには全く関係のない話です。それに、そんなものは存在しません」
「え…?」
二人は訳が分からず首を傾げる。依姫も咄嗟に誤魔化したが、別に嘘は言っていない。この時代に、その制度はないのだから。
「―――話を戻そう。何故臘月にとって玉兎が弱点なのか。それは玉兎共通の能力が関係している」
「玉兎共通の能力って…【波長を操る能力】のことですか?」
「そう。頭良いじゃないか」
レイセンの回答を、レイヤは高らかに肯定する。あっさりと肯定されて褒められも、玉兎の【波長を操る】力は共通の能力だから逆に馬鹿にされているようにしか聞こえなかった。
「その【波長を操る】力こそ、臘月。お前の弱点だ」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞッ!!出鱈目いいやがって!!名誉棄損で訴えてやるッ!!」
「ははっ。ここをどこだと思ってるんだ?現代日本でもあるまいし、そんな法律あるワケないだろ。少しはその
「てめぇ…ッ!!」
臘月は変わらない般若の能面でレイヤを殺さんとばかりに睨む。特に、停滞した脳細胞と言う部分に、かなりの動揺を見せていた。
「さぁ、ネタバラシの続きと行こう。何故玉兎共通の能力である【波長を操る】ことが臘月にとって最大の弱点なのか。それは臘月の権能が関係している」
「権、能…?」
「なによ、それ」
レイセンは聞き慣れない言葉に首を傾げた。そして、今まで乗り気ではなかった豊姫も、耳を傾けてきた。
よし、着実に、事態はレイヤの期待通りに動いてくれている。
「権能とは、
「なにそれ。全然意味分からないわ」
「まぁ当然さ。地上人にフェムトファイバーの説明をするようなものだからね」
そんな説明をすると、豊姫も口を閉じた。彼女もフェムトファイバーの説明を地上人に説明しても理解できないだろうと言う考えを持っているのだろう。納得できてもらってなによりだ。
「そして、権能に進化すれば、能力者なんて蚊帳の外さ。なにせ、権能持ちの攻撃以外を完全にシャットアウトするからね」
「「「ッ!?」」」
権能の恐るべき力。その実態を知って、3人の顔が強張る。
レイセンと豊姫は“そんなものが存在するのか”と驚いている様子だったが、逆に依姫は心底悔しそうだった。
未来で、臘月への攻撃が一度も当たらなかったからくりが、そんなズルとも言える力によるだったのかと言う怒りで、刀を持つ手の力が強くなっていっている。
「で、でも!!臘月様がそんな力を持っているのなら私や他の仲間たちを警戒する意味なんてないじゃないですか!!」
レイセンの言葉はもっともだ。そんな力があるなら、自分を警戒する必要も、怯える必要もない。なのに、何故――。
「あー違う違う。その先入観が間違っているんだよ」
「え…?」
「そもそも、権能は確かに強力だが、そんなに万能じゃない。よく覚醒したての初心者がやらかすミスだ。確かに権能は能力などの権能以外の攻撃は無効化するけど、それは“肉体系ダメージ”を無効化するのであって“精神的ダメージ”を無効化するわけではないのさ」
そう、権能持ちが良くしてしまう勘違い。確かに権能は権能持ち以外の攻撃を無効化するが、それは肉体ダメージを無効化するのであって精神ダメージを無効化するわけではないのだ。
実際に精神ダメージを喰らわないと気付かないミスだが、受けると大抵困惑して行動できなくなったりする。
つまり、臘月が玉兎に怯えている理由は――、
「精神を操作して精神攻撃することに長けている玉兎が、権能持ちの攻撃すら受け付けないお前の、最大の弱点だ。そりゃあ怯えるし、隠し通したくもなるよな。だってお前は、自分の優越感を満たすために『無敵』でいたいもんなぁ!!」
「黙れ黙れ黙れ黙れぇええええええ!!!」
ついに、露見した臘月の弱点。これで何度臘月の怒りがピークを迎えたことか。
そう、この男は自身の弱点である精神攻撃を扱える玉兎たちを疎ましく思ったのだ。権能持ちの攻撃すら通さない臘月の権能は、臘月自身にとってかなり愉悦なものだっただろう。本当に自身を『無敵』だとおもえたのだから。
しかし、玉兎と言う弱点がある以上『無敵』ではない。この男のプライドが、それを
だからこそ、レイセンの逃亡を名目に玉兎を奴隷化して、臘月は
「ず~っと疑問だった。何故お前があそこまで玉兎を虐げていたのか。これが理由だったのか」
「うるせぇ黙れっ!!俺が玉兎を虐げた?そんなこと一回もねぇよ!!罪を捏造すんじゃねぇこのゴミクズ野郎!!」
「――罵倒のレパートリーそれしかないのか?知識を蓄える力も止まっちゃってるのか。つくづくお前を憐れに思うよ。臘月」
「てめぇ…!!」
「それじゃあ次のネタバラシと行こうか。次はいきなり行くよ。お前の、権能の詳細だ」
「―――クソがァ!!!てめぇ!!このクズ野郎!!人の知られたくない個人情報暴露して、そんなに楽しいか!?この人間の屑が!!」
「面白いか?……あぁ。面白いよ。特に、お前のと思えば、特に、ね」
「~~~~~ッ!!!」
罵声を浴びせながら糸を解こうとするが、どうあがいても解ける物ではない。それに、猛毒剣毒牙の毒は臘月の体力を常に奪って行っている。その状態で、あそこまでの声を上げられるだけ大したものだ。
「さぁ弾けようか!!胸が高鳴る!!気分が高揚する!!お前をここまで追い詰めることができた!!お前の権能。それは――!!」
「あぁあああああああああああ!!!!!」
臘月が声を荒げた。彼なりの抵抗だろう。しかし、そんな抵抗虚しく、あの男の権能の名が、ついに暴かれる。
「お前の権能の名前は、【固定】だよ。臘月
* * * * * * * *
「固定…?」
「それが、臘月の、権能?」
「なんか、拍子抜けと言うか…」
「字面に惑わされちゃいけないよ。これはかなり強力な力だからね」
3人が各々の感想を述べる。確かに、一見聞けば【固定】とはあまり戦闘向きとはいえない字面だ。しかし、字面だけでは惑わされてはいけない。
「おい!!てめぇら俺の権能がその『固定』なんて言うつまんねぇものだって確定してんじゃねぇよ!!確証も証拠もねぇのに、出鱈目言ってんじゃねぇぞ!!」
「じゃあお前の権能ってなにさ」
「バーカ!!そんなこと言うわけねぇだろ!!!聞いたらなんでも答えてもらえると思ってんじゃねぇぞ!!ガキかてめぇはよォ!」
「―――その焦り様、もう“それです”って言ってるようなものだぞ?」
「はぁ!?別にそんなつもりで言ってるわけじゃねーっつの!!この馬鹿が!阿保が!屑が!!」
「罵倒が幼稚園生レベル…。まぁいいや」
臘月の罵倒をひらりとかわして、レイヤは説明を始める。
「お前の権能【固定】は、文字通りありとあらゆるものを固定する力を持つ」
「そうか、だから…!」
「そう。俺の攻撃も通らなかったってわけ」
依姫が気づき、レイヤは補足する。
臘月は【固定】の権能を使って自らの体の状態を固定して、体の
大分前の話になるが、ルーミアが言っていた。ウラノスが変なことを言っていたと*1。
もう穢れに怯える必要がないと。これが理由だったのだ。臘月の固定の権能があれば、月が『穢れ』で蔓延しても人々が『穢れ』で穢れることはなくなるのだから。
しかし、臘月が他人のために力をすべて使う訳がない。臘月が止めていたのは個人個人の『老化』だろう。それならば、辻褄は合う。
「でも、そんな力を持ってたら、精神の方も固定すれば、まさしく『無敵』になるんじゃ…?」
「はい0点。赤点以下だね。そんなことをすれば心の方も止まって中身のないただの肉人形になるだろうが」
「あっ、そっか…」
臘月が精神面を『固定』しない理由。それは単純明快だ。精神まで固定してしまえば心も動かなくなる。つまり脳が停止すると同義なのだ。
やらないのではなくできない。それが正しい回答だ。
「お前はその『固定』の権能で『無敵』を手に入れていたようだが…残念だったな。お前はもう『無敵』じゃない」
「アアアアアア!!!」
「咆哮もそれしかできないのか?お前は頭の回る馬鹿だと思ってたが、ただの馬鹿だったみたいだ」
「ふざけんなよ、クソがァアアアアアア!!!」
そのとき、臘月を束縛する強靭な毒糸が――千切れた。これには傍観していた3人も驚き、レイヤですら同様した。
自由になった体で瞬間的に臘月は動いた。固定された体は空気抵抗などのあらゆる法則から解放され、常人ではあり得ないスピードでレイヤへと迫る。
しかしそんな状況で、レイヤの口元は――笑っていた。
「残念でした」
レイヤの左腕の
レイヤが本を開いたその
体が固定されているはずの臘月が、雪に囚われることなど決してない。ならば、この雪は普通の雪ではないと言うことだ。
「なんだ、この雪は!?」
「猛毒剣毒牙の能力の一部。…白雪姫の本の力だよ」
「はぁ!?白雪姫は名前だけで雪の要素なんて一つもねぇだろうが!!」
「おいおい。ただでさえ権能が覚醒する際は非戦闘能力でも戦闘の権能に変化するんだ。これくらいのこじつけ、どうってことないだろ」
「それとこれとは話が別だ!!なんなんだよ、これはァ!!?」
臘月はジタバタと雪を掻き分けて進もうとするが、権能が十分に発動しない。この感覚は、先ほど嫌というほど味わった。
コレは、つまり…。
「今言っただろ?【猛毒剣毒牙】の力…つまり【権能キラー】の力だってな」
「クソっ!!この卑怯者がぁあああああああ!!」
「卑怯?はっ。よく言われるね。けど、俺は俺の持てるすべてを出しているに過ぎない。卑怯者って言うのは、背中から不意打ちするようなやつだよ?
卑怯者と言われ、あったことのない
その人物にはとても共感を覚え、カッコイイと思ったほどだ。【仮面ライダー】と言う知識を蓄えようと思わなければ決して芽生えることのない感情だっただろう。
「さて、話の続きと行こうか」
「おい!!もういい加減にしろやッ!!」
「しねぇよ。いいから黙って聞いてろや」
臘月の後ろからレイヤの
この力は
「ん――――ッ!!」
「うん。さっきよりはうるさくなくなった。それでは話を戻すとしよう。話題は一番最初の『性格改変異変』だ」
「何故最初の話に……まさかッ!!」
「そう。そのまさか。その『性格改変』も、コイツの権能の力だ」
レイヤがそう告げて親指で臘月を指さすと、三人は唖然として驚いていた。まぁ、この反応は予想できた。そして、次に来る反応も。
「ふざけないでッ!!大体、『性格改変』と『固定』はなんの関係も関連性もないでしょう!?」
豊姫だ。彼女は今だに、夫として、肉親としての臘月への信用を捨てきれずにいる。確かに、今までの暴露では豊姫の臘月への信頼を断ち斬るには不十分だ。しかし、これで完全に
「そうだね。『固定』と『性格改変』は、どうあっても繋がりがない」
「だったら「でも、二つの要素を繋ぐもう一つの要素があれば、話は変わるよね?」…どういうこと?」
豊姫が顔を顰める。信じていないようだが、一応聞いてくれるだけありがたい。レイヤは微笑を浮かべて喜々として語る。
「まず『性格改変』の餌食になった一人…、空真。彼の魂から非常に興味深く…不愉快な存在が検出されたんだよねぇ」
「不愉快な、存在…?」
「そう。言い換えれば『精神生命体』かな?」
「精神生命体…?」
聞き慣れない言葉。しかし、言葉の意味だけは分かった。精神だけの生命体だ。それが、『固定』と『性格改変』の間に挟まっている。
だが、精神生命体と聞いてすぐに『性格改変』の理由が分かった。
「まさか、その精神生命体が乗り移ったのが、『性格改変』の原因!?」
「グッド。正解だよ。その精神生命体が油汚れのように空真の魂にこびりついていてね。それを引き剥がしたら空真が元に戻ってウラノス・カエルムは完全に死んだ」
「……その精神生命体が『性格改変』の元凶だとしても、そこに空真の『固定』が入ってくるのが理解できない!そこはどう説明するつもりなの?」
「簡単だよ。実に簡単。『固定』の権能で精神生命体を作り出したんだよ」
「精神生命体を」
「作り出した…!!?」
あまりにもこざっぱりとした、無知蒙昧とも言える回答に、豊姫は顔を顰める。依姫とレイセンは十分に驚いてくれているが。
ネタバレをされて暴れまくっている臘月は、無視だ。
「そんなわけないでしょ!!『固定』となにも関係ないじゃない!!」
「ところがどっこい。あるんだなー関係が。そもそも権能への覚醒による変化がこじつけレベルだし。理論は簡単だ。空真で例えると『固定』の権能で『
そう。『固定』の権能の恐ろしい真価。それは『上書き』だった。体の情報と言うデータを新たなデータで上書きして、全く新しい人格を作りだす。それがタネであり、『固定』の恐ろしいところだ。
「でも、私が見た限り、全員波長に可笑しなところは―――」
「あれは完全に融合して溶け込んでた。玉兎の能力でも認知するのは無理だ」
レイヤはばっさりと切り捨てる。レイヤですら龍神の指摘があってようやく気付けたのだ。玉兎如きに気付けるはずがない。
「全く恐ろしい権能だよ。名前ってさ、その人物を形成するのに一番重要な要素なんだ。その人の全てと言っても過言ではない、『名前』。臘月の『固定』の権能はそれを上書きする力を持っている。精神生命体は、おそらくその結果による副産物だと俺は思っている。まぁそんなことをすれば生まれるのは必然なんだけどね」
その人物がこの世に生まれ落ちて一番最初に与えられるもの、それが『名前』だ。『名前』はその人物を構成する大事な要素。それがなかったら、その人物は『誰でもない何者か』になってしまう。だからこそ、名前は大事だ。
しかし、『固定』の権能はその大事な要素を踏みにじり、嘲笑うかのごとく上書きする。恐ろしい力だ。
「だけど、そんな上書きの力があるのなら、最初から俺や仲間に使えばいいだけの話…。それをしない理由を考えると、使用するのになにかしらの条件があるのか?」
こんなチートレベルの洗脳――いや、ホムンクルスやクローンと同レベルで悪質で、生命の神秘を蹂躙する悪魔の権能だ。何かしらの条件がないとか、それこそおかしい。
「どうなんだよ、臘月。答えてみろよ。俺が話すことは全て話した。あとはお前の返答次第だ」
レイヤがそう呟くと、臘月の口を塞ぐ鎖のみを外した。
ここでレイヤは、即興の罵倒を予想していた。短絡的でプライドの高い男が、すぐに喋るわけないと。だからこそ言い逃れできないレベルで追い込んだ。
結果は――、
「あ~あ。まさかそこまでバレてるなんてな…。面倒ごとが増えたじゃねぇか」
男は、臘月は、否定もせず、ただただ肯定した。ただ冷静に、これから行うことを面倒臭がる、ただの人間の素振りを見せた。
しかし、その態度による答えの捉え方は、それぞれだ。
「ついに、認めたな…ッ!!」
「そんな…」
「嘘でしょ、臘月…?」
レイヤの指摘を全て認めた臘月の態度を見て、依姫は怒りに燃え、レイセンは驚愕の色を示し、豊姫はショックのあまり膝から崩れ落ちた。当たり前だろう。信じていた人間に、間接的にとはいえ裏切られたのだから。裏からの月の征服と言う形で。
「お前にしては随分案外あっさり認めたな」
「あそこで言い訳したって、あの出来事が帳消しになるわけねぇだろ。普通に考えて。お前やっぱ馬鹿だろ」
「なんだ。お前冷静に状況を分析できる程度の脳は持ってたんだな」
「チッ。調子に乗れんのも今の内だ」
「ハッ。そんな状態で何が―――」
そのとき、臘月を拘束していた鎖が全て砕け散った。――いや、この場合、潰れたと言う方が正しいだろう。
臘月は『固定』の権能で鎖を重力と固定して、圧縮させたのだ。
「な…ッ!!」
「驚くのはまだはえぇよ」
臘月が、大股で地面を踏みつけようとする。あと少し、あと少しの所で―――臘月は、地面ではなく空を踏んだ。二歩、三歩と空を歩み、レイヤを見下ろした。
「まさか…『固定』で空気の層を作って、それを使って歩いているのか!?」
「正解だ。クズの分際で博識じゃねぇか。褒めてやるよ」
臘月が上から見下しながら喝采する。いや、そもそも空気層を作ったとしても乗ることはできない。しかし、それを可能としているのが『権能』だろう。
レイヤも『権能』で何度も非常識なことをしでかしてきた。これは、それと同じだ。
「それと―――」
臘月の視線が、今だに動かない圭太へと向けられた。今の彼は耳栓で周りの状況が全く把握できていない。唯一知ることの出来る眼も、虚ろな瞳で本当に機能しているのかと言うレベルで怪しい。
そんな意気消沈している圭太に、臘月は右手を獣の手のようにして振りかざすと、圭太の居たところに巨大な斬撃が放たれた。その威力は絶大で、五つの幅30cmほどの亀裂が生まれていた。
そんな攻撃を受ければ、当然圭太も怪我を負う。耳栓が跡形もなく消滅すると同時に、圭太は顔、耳、腕に大ダメージを受けていた。
臘月は、圭太ごと耳栓を外すと言う暴挙に出たのだ。そして圭太の傷は【再生の炎】で再生されていく。
「てめぇ―――」
臘月の暴挙に憤慨したレイヤが武器を生成して臘月に向かって跳ぼうとするが、その瞬間に強烈な重力に体が襲われた。レイヤの体が、強制的に地面に横たわった。
この一撃で意識が飛びかけ、【スノウホワイトワンダーライドブック】の力が消え去った。力を維持する者の力の供給がなくなったのだ。当然のことだった。
「ハハハハッ。滑稽だな!!どうだ?散々見下した相手に見下された気分はよォ!!」
臘月が上から見下ろしながら叫ぶ。その笑いには侮蔑が込められていた。嫌でも感じる。
「お前…ここまでの、力は、出せなかったはずだ…ッ!!」
「あぁ。『固定』のほとんどの力と集中を体の固定に回してたからな。だが、今は毒の停滞だけに留めてる。俺がなにを言いたいか分かるか?今までは全然全力じゃなかったんだよ!!」
「な――ッ!」
予想外の展開だ。まさか権能のほとんどを体の固定に集中させていたなんてこと、予想外だ。いや、よく考えれば当たり前だ。『無敵』を自身の存在の第一前提とする男が、自分の体に傷がつくなんて自体を赦すはずがない。防御に集中を回していても、不思議なことではなかった。
しかし、今の臘月は固定の権能を最低限にして、攻撃へ権能の力を回している。つまり必然的に攻撃の威力も精度も爆上がりする。
「ははッ!その顔、いいねぇ!!その無様な顔の褒美だ。さっきの質問に答えてやるよ。俺の『上書き』はある程度の信頼関係を築かないと使えねぇんだよ。まぁ今となってはそんなことどうでもいいがな」
臘月はにやりと地面と体が固定され強力な重力に押しつぶされてる状態のレイヤを嘲笑った。
「臘月――――ッ!!!」
そのとき、横から依姫の怒号が聞こえると同時に灼熱の斬撃が臘月を襲う。しかし、臘月は防御することなく直撃し、攻撃が霧散した。
「おいおい。さっきの話聞いてなかったのかよ。俺にお前の攻撃は通じねぇってことがよ」
「くッ、ならば、レイセン!!臘月の精神を狂わせなさい!」
先ほどの話を真に受けるのならば臘月の弱点である玉兎の能力【波長を操る】力で臘月にダメージを与えられるはず。その希望と期待を持ってして、依姫はレイセンの方を振り向いた。
しかし――、
「あ、あ、ああ…!!」
「レイセン…?どうしたのですか!!早く臘月をッ!!」
「う、う、え、あ…」
「レイセンッ!!」
レイセンは完全に腰が抜けて、涙目になっていた。いくら他の玉兎より秀でた才能を持っていたとしても、中身が強くなければ意味はない。
実際、レイセンは臘月の放つ殺気や威圧に耐えかねて、腰を抜かして言葉をまともに喋ることすらできていないのだから。
「臘月…どうして?どうしてこんなことを!!」
「あ?」
その隣で、豊姫の悲痛な叫びが轟いた。臘月は豊姫の方を見やると、鼻で笑った。
「そんなの、俺の、俺だけの楽園を築くために決まってるだろ」
「え…?」
「そもそもよォ。俺はこの月の風習自体気に入らねぇ。毎日毎日変わり映えのない生活。大した娯楽もなくただ憂鬱と過ごす毎日。それだけじゃねぇ。穢れ云々で発散できない『性欲』。こんなの牢獄と変わりゃしねぇ、だから変えてやろうと思ったのさ。月も、地上と同じように!!この『固定』の力を使ってッ!俺の、俺だけの楽園を創るためにッ!!」
「な――ッ、そんな理由で――!!」
権能が覚醒するはずがない。そう言いかけたとき、新たな考えが脳で巡る。権能覚醒に必要なとある“思考”。遠回しと言うか、前借りとも言うべきか、臘月は偶然にも権能覚醒の条件を満たしていたのだ。
臘月は、続きを喜々として語る。
「それから俺の計画はスムーズに進んだ。偵察で自分で地上に何度も行った。アレは良かった。平和ボケもねぇスリリングな時間。それにいくら妖怪や孤児の女を犯しても俺の『固定』の力があれば穢れもつくことも地上で問題になることもない。まさしく楽園だ。だから俺はここにもその楽園を作る。それが俺の目的であり、俺の全てだ!!」
今語ったすべて。それが綿月臘月と言う存在を確立した思考であり思想であった。言い換えれば満たされない『欲望』まみれの人生と言うことだ。
「そんな…洗脳、されていたんじゃ」
「阿保か。俺が洗脳なんてされるわけねぇだろ。少しは常識でもの考えろよ。でも、信じられねぇってのなら別に信じなくていいぜ。お前等四人とも、ここで死ぬんだからな」
「え…?」
臘月の発した言葉に、豊姫が唖然とした。いや、豊姫だけじゃない。腰を抜かしているレイセンもだ。依姫は顔を険しくし、体が動かないレイヤも真顔になった。
「どっちにしろ俺の秘密を知ったからには生かすつもりはない。お前等全員皆殺しだよ」
「「「――ッ!?」」」
「安心しろ。お前等の死は、無駄にしねぇ。理由もあいつに擦り付けとくしな」
そういい臘月はレイヤを見やる。その表情には嘲笑だった。
「お前には最高で最悪の結末を見せてやるよ」
「な、に…!?」
レイヤの言葉を無視し、臘月は叫ぶ。――圭太へと。
「強い奴を降ろせッ!!とびっきり強い奴を!!こいつらを蹂躙できる力を持つ奴をッ!!こいつを、絶望させてやれっ!!」
「降ろす…なにを言って――」
「まさか…まずいッ!!」
臘月が圭太に命令すると、突如圭太が光の柱に覆われる。それはまるでスポットライトを真上から当てられているようだった。
圭太の体が光の粒に覆われ、やがて光が圭太を包む――。
「やめろぉおおおおおお!!!」
レイヤの絶叫が木霊する。しかし、それは届かなかった。光が徐々に強くなっていき、レイヤの顔が絶望へと染まっていく。
「アレが始まったらもう止まらないぜ。お前を束縛しても意味ねぇし、解放しといてやるよ」
『固定』の権能が解除されたと同時に『固定』で空気を固めた攻撃――
「大丈夫ですかッ!?」
依姫がレイヤに駆け寄って、無事を確認する。
レイヤは顔や体に傷ができ、血が出ているが、それでも今ある力で無理やり起き上がる。
豊姫とレイセンも駆け寄るが、元気がない。ほぼ放心状態と言ってもいい。ただ目の前の不可思議な現象を見るだけだ。
「なんなのですか、あれはっ!?」
「とてつもなく、嫌な予感がします…」
「その予感、当たってるよ…」
レイヤは苦笑いでレイセンの嫌な予感を肯定した。実際、レイヤにとって今の状況はよくない。というより非常にまずい。
あの光は、今の圭太にとって生死に関わる、途轍もなく危険な行為だからだ。
「あれは、もしかして…」
「あぁ、やっぱ君は気付くよね。逆に、気づいてなかったらおかしい。アレは、死者降霊だ…!」
「死者、降霊…!?」
「依姫の神降ろしと同じだ。冥府の神ハデスの権能…【死者の記憶】。アレは本来冥府の死者の魂から、魂を降ろしている間だけ記憶を読み取り技術や技をそのまま会得することができる、コピーの権能だ」
「コピーの、力…」
「確かに、達人なんかの魂を降ろされたら、厄介極まりないですね…」
「違うッ!!問題なのはそこじゃない!!」
レイヤは叫ぶ。本気で焦っているからこそだ。その焦り様に、三人は本気で焦っているのだと理解した。圭太を取り戻しに来た彼が本気で焦る事態。それは…?
「アレは降ろした魂が自分の魂より強すぎた場合、その魂に体を乗っ取られるんだ!!」
「「「―――ッ!!」」」
放心状態に近かった二人の顔が正気に戻った。
ここで三人はレイヤが何を言いたいのかを完全に理解した。魂の強さ―――所謂自我の強弱。それが降ろした本人の魂より強すぎた場合その魂に体を乗っ取られると言う危険すぎるデメリット。
さらに、圭太は今魂が極限まで摩耗している。そんな状態でハデスの権能を扱えば、その魂に体を乗っ取られることは100%確実だ。
レイヤは、それを危惧していたのだ。
「もうそろそろ、完全に…」
そう言いかけたとき、光の柱が霧散した。その時に衝撃波が360度に広がり、4人の体を少し吹き飛ばした。
「さぁ、完全に完成した。もう、こいつはあのカスじゃない。完全な別人だッ!!」
「あ、ああっ…!!」
「そうだよッ!!その顔だよ!完全に絶望に染まったその顔!大事な人を失ったんだもんなぁ!?そりゃあそんな顔にもなるよッ!!ヒャハハハハッ!!」
「臘月――ッ!!」
臘月は狂ったように笑い、発狂し、喜んでいる。レイヤの苦しんだ顔を見て、笑っている。依姫が憎み口を叩くが、彼女は何もできない自分が歯がゆくて拳から血が垂れていた。
それを目の前の男――圭太だった誰かはその様子を見て顔を顰めた。圭太だった誰かの顔や見た目は完全に変わっていた。
服装もだ。赤と黒を基準とした薄いコートのようなものを着用しており、その人物が生前にまで着ていたものだろう。何故服までも変わっているのかと言うと、それもハデスの権能によるものだ。レイヤはコレの他にも一回だけ同じ事態に立ち会ったことがあるため、知っている。
何故こんな姿になったのかは、魂を降ろしたからだ。肉体は魂の
その人物は、臘月から目を逸らして周りの景色を見渡す。
「不格好な場所だな。地球にこんな場所あったか?」
圭太だった誰かは第一声を発する。声もレイヤの知る圭太の声から完全にかけ離れており、完全に別人が乗り移ってしまっている確固たる証拠だった。
「よォ。調子はどうだ?」
「…誰だ貴様は」
「俺はお前のご主人様だ。その体の持ち主に、アイツらを殺すためにお前を降ろすように指示した!」
「降ろしただと?……なるほど。つまりこれは赤の他人の体と言うことか。しかし、何故赤の他人の体なら姿形は俺のままなんだ?それに同じ服を着ていたとも思えん」
圭太だった人物は当然のことを疑問に思う。圭太だった人物もそれが気になっていたようだった。
そして以外にも、その人物の疑問にレイヤが答えた。
「それはお前が原因だよ…」
「なに?」
「肉体はな、魂の
「――なるほどな。ある程度理解はできた」
圭太だった誰かは臘月の方に体を向ける。
「それで、お前は俺になにを望む?」
「あぁ?聞こえなかったのか?アイツらを殺せ!!あの女三人は一瞬で殺せ。せめてもの情けだ。だが、あの白服の奴は瀕死にまで追い込めッ!最後に俺が
「お前はあいつらの死を望むのか」
「そうだって言ってんだろっ!!耳悪ぃのかよ!!」
「……何故自分でやらない」
「は?」
圭太だった人物の質問に臘月は顔を歪めた。どうやら、乗り気ではないようだ。4人は、二人の口論をただ見守っているばかりだ。
「不思議なことだが、コイツの記憶を覗かせてもらった。一度もお前はこの体の持ち主を人と扱ったことがない。しかし、力だけならお前の方が上だ。わざわざ俺を呼びださずとも、お前がやればいいだけの話だろう。まさか、自分の手は汚したくはないと言う甘ちゃんではないだろうな?」
「うるせぇッ!俺はただ
臘月が手刀を繰り出すと、圭太だった人物の頬を掠る。圭太だった人物の頬から血が垂れ、その後ろで地面が爆散する。
その顔は怪訝で埋め尽くされ、醜悪な汚物を見るような眼へと変わる。舌打ちが聞こえる。
「―――チッ。貴様のような男を見てると【戦極凌馬】を思い出す。非常に不快だ」
(戦極凌馬?まさか、あの男…)
臘月への怒りやら圭太をまた失って悲しみやらで頭が回らなかった。しかし、あの男は確かに言った。【戦極凌馬】と。その名前を知っている時点で、【仮面ライダー】の関係者であることを理解した。
「さぁ!!さっさとやれっ!」
「―――貴様の命令など知ったことか」
「はぁ!?ふざけんなッ!お前は俺の命令を聞いてりゃいいんだよッ!」
道具としか思っていない人間の口から自分の命令の否定を聞いて、怒鳴り、喚き散らす。それはまるでオモチャを
「何故俺がお前の命令に従わなければならん。だが、俺がやることは、今も昔も変わらない」
圭太だった人物がこちらを向く。その顔にはとても迷いなどなく、真っ直ぐ4人の方を見ていた。あの顔には、迷いや迷走の感情などは一切感じられない。
その瞬間悟った。あの男は、やろうとすれば必ずやる男だと。
圭太だった人物は、懐から【ドライバー】と【錠前】を取り出した。ドライバーを腰につけ、ベルトが飛び出して装着される。圭太だった人物は懐から錠前を取り出して開錠する。
「変身」
圭太だった人物の頭上にクラックが現れ、そこから【バナナ】が降って来た。
「えっ、あれ、バナナ、バナナですか?バナナですよね!?」
「レイセン…少し黙っていてください。しかし、何故バナナ…?」
「まさか……なんか少し見覚えあるな、とは思ってはいたけど…あの男とは、ね…」
レイヤが納得したかのように頷く。あの錠前、ベルトを使うのは、世界でたった一人だけだ。
圭太だった人物が錠前――【バナナロックシード】を手でクルクルと回してセットして、錠前を閉じる。
ファンファーレの音が流れる。そして――ドライバーの刃、【カッティングブレード】を降ろした。
圭太だった人物にバナナが頭から被さり、アーマーが装着。そのままバナナが展開して、鎧となっていく。
黄色の果汁が散乱し、赤と黄色の戦士が顕現した。
皮を剥いたバナナ型の槍【バナスピアー】を持ち、黄色の複眼で4人を捉える。
その戦士――仮面ライダーの名を、レイヤは呟いた。
「仮面ライダー……【バロン】…」
『俺の名は
かつて自身の信念と正義と理想を最後まで貫き通した罪無き人々の平和な生活を脅かした悪を滅ぼした末に平和な世界を作ろうとした仮面ライダーと世界への復讐の為に人間を捨て人類を裏切り戦争を目論んだ魔王。その二面性を持ち、戦友の手によって敗れた男――。
――駆紋戒斗。
その男が、再び現世に舞い戻った。
そして戦闘態勢に入った男――戒斗を見て結局彼は自分の傘下に降ったとご都合解釈を行った。
「チッ。最初からそうすりゃいいんだよッ!お前があの“カス”より使えたら、もっと優遇してやるよ。せいぜい、俺の期待を裏切るようなことはするなよ。現世に留まっていたければなァ!!」
悪態をつきながら罵倒をする臘月。そこに悪びれなど存在せず、圭太のことを“カス”と罵ったことになんの疑問も疑念も抱いていない。当然と言えば当然だろう。
そして、臘月は知っていた。死者は大抵再び現世に舞い戻って猛威を振るいたいやつばかりだと。昔の強者やら知識が膨大なものは、永遠に自分が優位に立たねばその欲を満たせない貪欲なやつばかりだと。
事実、彼は、駆紋戒斗は『力』を求め、敗北した。しかし――、
『ハァッ!!』
――駆紋戒斗は、そのような強者とは違う。
その時、世界が止まった。否、それはその場にいる人間の錯覚に過ぎない。正確には、そんな風になるほどのショックを、全員が受けたと言うことだ。
4人の視線は、バロンと臘月に向いている。しかし、臘月の視線は――自身の腹に向かっていた。
「あ、がが…?」
『―――』
その光景は、バロンがバナスピアーを逆さに持って、臘月の腹に突き刺している光景だった。
臘月の口からは血液が垂れ、瞳もギョロギョロと気持ち悪い。理解できないと言った表情だった。そんな
『脅迫などで、俺が貴様に下るとでも思ったか。貴様のような
なぜなら、彼が『強者』として求めた理想は、強さと引き換えに優しさを捨て去り、弱者に己の都合を一方的に押し付けて力づくで踏みにじる冷酷な強者も、強さを求めず他人を騙して食い物にする卑怯な行いを始めとした悪事を、弱さを免罪符にして正当化する弱者もいない弱者が踏みにじられない世界。
それが彼の理想。
この男は、前者のタイプだ。故に、『弱者が踏みにじられない世界』を穢し、正々堂々と戦わずに心から蝕もうとする悪劣。すなわち、彼にとって――
『お前は…俺の敵だ』
――『敵』である。
シロ
11 【サダルメリク・アクエリアス】
【回復】の権能を持つ水瓶座の権能。その権能は欠損部位すらも再生するほどの強力仕様。
この権能がある故に【猛毒剣毒牙】を持つだけでも毒に侵されるデメリットも緩和することができる。しかし毒が回る速度の方が早いので緩和するだけ。
他者にも使用でき、妹紅の傷を治したのもこの権能。
サダルメリクは【王の幸運】の意味あいを持つ。
圭太
【冥府の神ハデス】の権能。 死者の記憶。
死者の魂を自らに降ろしてその死者の技や技術をそのまま使うことができる権能。
しかし魂が自分より強いと体を乗っ取られる危険性があるため、使用は制限されていた。
『権能』
同じ権能以外の攻撃を無効化するやべー代物。しかし『肉体ダメージ』は通さないが『精神ダメージ』は通すと言う少しの欠陥あり。まぁこのくらいの抜け穴がなかったらマジでチートで歯が立たない。
【固定】の権能。
体を固定して時を止めることで権能持ちの攻撃すらも通すことのなかった
しかし『権能』自体の弱点をレイヤに見破られる。玉兎が扱う【波長を操る】などの精神に作用する能力が唯一の弱点。
能力のイメージはリゼロの【レグルス・コルニアス】
駆紋戒斗(仮面ライダーバロン)
まさかのまさかで登場。
圭太の体を依り代にして顕現した。鎧武本編となにも変わらぬ性格で『敵』である臘月に牙を向け、攻撃した。
次回がどうなるか、考案中。
ついに明かされた臘月の権能!
物語もついに佳境へ。
評価と感想よろしくお願いします。