東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 どうもー、お久です。
 バイトとかが忙しくて投稿が…ご了承ください。ちなみにこの後バイトあります。

 さっさと投稿!して、バイト終わりに感想を見て疲れた心を潤したい今日この頃。

 それでは、どうぞッ!


82 龍神(カミ)の断罪劇

「龍神…」

 

 

 突如として現れた心強い援軍に、心を震わせたレイヤ。いや、それよりも、龍神は月夜見の足止めをしていたはずだ。それだけじゃない、確か――。

 

 

「龍神だと…?あぁ名前だけは聞いたことはあるな。まぁそれだけだが」

 

 

 突然現れた人物に動揺しながらも、その正体を知るや否やあからさまな余裕を見せてきた。

 目の前の人物が『神』だと知っての余裕だろう。何せ、臘月(かれ)には神すら命令で屈服させる、『権能』持ちなのだから。

 

 しかし、臘月の余裕を見ることなく(無視して)龍神が、こちらの方を向いた。

 

 

「貴様…やはり夜神と同列の存在だったか」

 

「それは今はどうでもいいんだ。ところで、依姫達は大丈夫かな?」

 

「あぁ…あの小娘どもか。突如として出現したため少し驚きはしたが、問題ないだろう」

 

「そっか。ありがと」

 

 

 なんの話をしているのかと言うと、依姫達を転送した場所のことだ。

 実はレイヤは依姫達の転送先に龍神のすぐ近くの場所を指定したのだ。臘月の創った精神生命体に汚染されている人物が全体的に把握できていない今、確実に信用できる場所へと転送する必要があった。

 

 

「おいてめぇらッ!!俺を無視してんじゃねぇよッ!」

 

 

 臘月が獣のごとき咆哮を上げた。

 自分の発言を無視されたことにキレたらしい。

 

 

「神の分際で俺を無視しやがって…龍神だかなんだか知らねぇが、俺の『権能』の前では、神でさえ俺の手足だッ!命令だッ!そいつらをぶっ殺s――」

 

 

 瞬間、時間(とき)が止まった。しかしそれは、実際は比喩だ。ここにいる全員が、まるで時が止まったかのような体感をした。

 レイヤとバロンを挟むように立っていた龍神の姿はどこにもなく、代わりに臘月の背中の方向に龍神がこちらに背中を向けて立っていた。

 

 あの一瞬で、レイヤにすら視認できないレベルで、移動していた。その移動の合間に――、

 

 

「あ、がッ…!!」

 

 

 臘月の右肩から左の腹脇にかけて、切り傷が生まれていた。

 レイヤとバロンが龍神の現在位置と臘月の傷を視認できた瞬間、鮮血が臘月の体から飛び出た。

 

 傷ができた時間と、血が飛び出た時間。それは少なからずタイムラグが存在した。龍神は、臘月の体が傷ついたという認識すら遅らせる速度で、臘月を攻撃したのだ。

 

 

「なんだ、今の速度は…。とてもじゃないが、人間技じゃない」

 

「当たり前だよ…。だって、彼は最高位の神だよ?」

 

「神…か」

 

 

 バロンもあまりの衝撃で、言葉は少なかった。

 痛みで膝をついた臘月は、口からも吐血する。

 

 

「あがァアアアアアアアアッ!!ば、バカな…ッ!!どうして、俺の体に傷が…ッ!!力のほとんどを、防御に回しているはずなのに…ッ!それだけじゃないッ!!なんで、権能を持っていないお前が、俺に攻撃できるんだッ!?

 

 

 臘月と龍神の違い―――それは圧倒的に、権能の有無だろう。

 それだけで、戦局は大きく違ってくる。しかし、龍神はその違いをねじ伏せた。

 

 困惑していると、レイヤが一歩前に出てきた。

 

 

「はァ…まだ気づかないのか。臘月」

 

「なにッ!?」

 

「そもそもお前は勘違いしていたんだよ。確かに『権能』は神への命令権という途轍もない力を持っている。……だからと言って、いつから神が『権能』を持てないと誤解していた?

 

「―――ッ!!まさか!!」

 

「そう、その通りさ」

 

 

 レイヤは余裕を持ってそう答える。

 そもそも、その事実(こたえ)に気づいたのは龍神と零夜の初戦闘の時だ。無視したくてもできないほどの、強大な力。それは無論隣にいたライラも感じていただろう。あの圧倒的な力の波動を――。

 

 思わず、冷や汗が垂れたほどのだった。彼の――『権能』は。

 

 

「龍神。彼も権能に覚醒していたんだよ」

 

「ば、バカなこと言うなッ!!『権能』は転生者(オレ)の特権なんだぞッ!?なんで既存の神ごときが、権能に目覚めてんだよォおおおおおおおッ!!!!??」

 

「お前だけの特権じゃねぇだろ。正確(ただし)くはイレギュラー(俺たち)の特権だ。龍神は空真の存在と邂逅を経たことで性格と思考に影響が出た。そこで既に正史とずれ(イレギュラーになっ)た。これだけ言えば、あとは言わなくても分かるだろう?」

 

「まさか…ッ!!」

 

「おっ、思考までは停止してないみたいだな」

 

 

『なるほどな。貴様らの言う『正史』から外れた時点で、『権能』に覚醒(めざ)める素質を持ち合わせることになるということか』

 

 

 以外にも、話を纏めたのはレイヤの隣にいるバロンだった。

 その纏めを、レイヤは肯定する。

 

 

「どこだッ!?どこで狂ったッ!?どこで俺の計画がッ!!狂っちまったァああああああッ!!」

 

 

 自暴自棄になった臘月は、叫んだ。ただただ、悔しさのあまり叫んだ。今だにレイヤの手にあるドローンで撮影されて、現在進行形でその無様な姿を映像(うつ)されていることを知りながら。

 

 

「強いて言うなら最初からだよね」

 

「なん、だと…!?」

 

転生者(俺たち)という存在がいる時点で、その歴史はとっくに本来の道筋とはずれているのさ。

 

 

 世の中には【タイムパラドックス】という単語が存在する。

 過去にタイムスリップし、後の時間に起こる事に符合しない影響を与えてしまった場合、未来は変わってしまうことになる。そしてその結果がタイムスリップ行為そのものに影響を与えた場合、矛盾が生じる現象のことである。

 

 それと同じく転生者という存在が生まれた時点で、その正史からは外れていく。ここはすでに『正史(げんさく)』とは乖離した世界だ。

 

 

「お前という存在自体が、龍神と空真を引き合わせる一因になった、のかもしれないな。理屈や理論は俺にはわからんが」

 

「そんなの…認めるかッ!俺は認めないぞッ!!俺の計画が俺のせいで狂ったなんてッ!!なんで、どいつもこいつも俺の邪魔ばかりするんだよッ!どうしてそう易々と俺の聖域(らくえん)を土足で踏み荒らすッ!?」

 

 

 臘月は頭を、腕を、顔をかきむしり、ただただ怒りのままに叫んだ。

 

 

「お前は単純にやりすぎたんだよ。大きすぎる欲望はいずれ己の身を滅ぼす。最低でも、今の地位で甘んじて、あくどいことをせずに生きていれば、良かったんだよ。お前は、自身の性『欲』を抑えきれなかった。これがお前が踏み間違えた道の分岐点だ

 

 

 ここから、近くも遠い未来――。臘月と豊姫の間には【無月】という一人息子が生まれていた。【無月】はよくも悪くも父親である臘月に従順で、家族愛が感じられた。

 だというのに、「欲望」に染まりすぎたこの男は肉親である息子の体のほとんどを機械に改造、そして確定事項だが未来のトヨヒメも豊姫に「トヨヒメ」という名前を付けたことによる精神生命体による本体の汚染だったはずだ。

 

 レイヤは力説する。“お前は欲に溺れ、道を踏み外さなければ、お前の聖域(らくえん)凌辱(けが)して、破壊(こわ)す必要なんてなかったんだ”と。

 

 

「そして、お前は俺の大事な人を――【圭太】の権利すべてを略奪(うば)い、あまつさえ圭太を()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺がお前という存在を許すことは――決してないッ!!」

 

 

 自らの欲望のために、他人の人権すら己の都合で剥奪し、自分の人形(コマ)として扱ったこと。それだけでは飽き足らず、自分の肉親(こども)でさえも利用しようとする悪辣(あくらつ)さ。

 そして、圭太のこと。決して許せることではない。

 

 最後に、唯一気がかりだった何故このような男がデンドロンとは違い正規(ただ)しい手段(ほうほう)で覚醒条件に必要な“あの感情”を心の底から抱くことができたのか“あの一言(ことば)で、理解できた気がした。

 

 

「―――黙れッ!!黙れ黙れ黙れッェエ!!いいさッ!やってやるよッ!!俺の楽園(せかい)は俺が創るッ!!今度こそ誰にも穢されない、俺の、俺だけのッ!!俺という無敵の番人が、俺の楽園(せかい)を守るッ!!誰にも、邪魔はさせるかァアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 臘月が足踏みをすると、衝撃波が広がり辺り一帯を覆い隠す。

 しかし、龍神が刀を横に振るうと、その衝撃波が臘月の衝撃波を押し殺し、互いに霧散した。

 

 

「な――ッ!?」

 

「――綿月臘月よ。貴様に裁定を下す。その前に、貴様が今まで虐げてきた者たちの苦しみを、その身をもって味わえ。そこに、時間と空間の概念など持ち込まない。現在(いま)と過去と未来、そのすべての貴様の罪を、今ここで、凄惨させよう」

 

「未来だとォ…ッ!未来の罪まで償わされる筋合いなんざねぇよッ!!」

 

 

 臘月は地面の砂を広い、投げるつける。『固定』の力で止まったその砂は完全な凶器。しかし龍神はその砂を避けることなく、逆にその鎧で受けた。しかし、鎧は傷一つついていない。

 龍神は誰もいない、何もない場所で左手の刀を振るった。その瞬間、臘月の右足に切り傷が生まれた。

 

 

「うわぁああああああッ!!」

 

「その程度の傷で叫ぶか。精神(こころ)は幼子そのものか。貴様のような人間ごときが、我に傷をつけるということ自体烏滸がましい」

 

「ふざ、けんな…ッ!!今の俺は90%も防御に権能を回してるんだぞッ!?それを易々と貫通するなんて、できるわけがねぇッ!!」

 

「そのきゅうじゅっぱーと言うのは貴様の感覚での単位か?まぁ感覚位はお前に合わせてやろう。我の今の力は、全体の1%にも満たないのだがな

 

「なん、だと…ッ!!?」

 

 

 その圧倒的な力の差に、臘月は冷や汗を流した。それと同時に、自身は9割も防御に回しているというのに1%以下の力に負けたという事実が、彼のプライドを刺激した。

 臘月のおでこに、血管が浮かぶ。

 

 

「ふざけるなァ…ッ!!俺を、バカにしてんのかッ!!この、無敵で最強の俺をッ!!」

 

「貴様は無敵でも最強でも何でもない。我にとっては、ただそこらの惰弱な人間にしか見えん

 

「うがァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 その言葉にキレた臘月は権能の95%を攻撃に転用した。攻めこそ最大の防御。それを体現するかの如くだった。

 ちなみにレイヤとの勝負で空間を操れるようになるまでの『固定』の権能の攻撃力への転用率は65%ほど。残りの35%ほどは毒の『固定』と単純な防御に回していた。

 

 その力のほとんどを攻撃に回した。まさに捨て身の特攻。

 臘月の拳が龍神の腹を目掛けて直撃した。その衝撃波が辺り一面に広がり、あらゆるものを蹂躙する。もはやただの観戦者となってしまっていたレイヤとバロンにもその矛先は向いた。

 

 反応が一瞬遅れ、衝撃波だけでレイヤの手にあったドローンは一瞬でバラバラに分解された。

 

 

「しまった…ッ!!」

 

 

 時すでに遅し。ドローンはもう修復不可能なところまで壊れて、跡形もなく霧散した。能力で創ったもののため、こうなるのは仕方ない。

 レイヤは自身の身を守るために【アンタレス・スコーピオン】の『抗体』と【カウス・メディア・サジタリウス】の『絶対命中』の権能を応用して風の狙いを自分から外すことによって迫りくる衝撃波と暴風から身を守る。

 対して隣のバロンは、【バナナスカッシュ】を発動して地面にバナスピアーを刺すことによって自分の体を固定していた。

 可哀そうに思ったレイヤはバロンの体に触れることによってバロンも『権能』の対象になった。

 

 

「すさまじい威力だね…。なぜヤツはあれをもっと早く俺たちに使わなかったんだ?」

 

『おそらくだが、ヤツは無意識的に俺たちを舐めていたはずだ。さらに、ヤツは臆病者だ。自分の体に傷をつくことを最も恐れている。それゆえに力を防御に回すことを主としていたのだろう』

 

「とことん舐められてるね…俺たち。俺たちには『権能』の力の8割くらい攻撃に回さなくても勝てるだろうって思ってたのかね?」

 

『おそらく、それだけではないはずだ。どうもヤツは無敵やら最強やらに固執している。異常なほどにな』

 

「――そうだな」

 

 

 綿月臘月という男は、どういうわけか無敵と最強に異常なまでの執着を見せている。無敵とはすなわち傷がつかないこと。最強とはすなわち誰にも負けないこと。

 その前提条件が既に崩れている今、臘月はそのどちらの称号も持っていない。それを取り戻そうと、狂うほど、求めている。

 

 あの狂気は、似ている。

 

 

夜神零夜の『悪』に対する異常なまでの執着と

 

 

 そんなことを考えている合間にも、砂埃は晴れていく。

 そして、二人の見えた光景は―――、

 

 

「な…ッ!!」

 

 

 臘月の必殺の一撃ともいえる拳が、龍神の左手によって阻まれていた。龍神の左手は臘月の右手をしっかりと掴んで離さない。

 

 

「たかがこの程度か。信念の籠っていない、ただの子供の駄々のような拳だった。貴様はふざけているのか?」

 

「黙れ黙れ黙れぇ!!!」

 

 

 瞬間、二人の目には映った。臘月の『権能』の力が体から拳にすべて移ったことに。臘月の拳には今、『固定』の権能のすべての力が宿っていた。

 そして至近距離から放たれる狂気の拳。一撃、二撃と喰らわしていく。足蹴りも行って、一撃一撃が即死の攻撃が、何度も何度も何度も繰り出された。

 

 そんな轟音と暴風が荒れ狂う空間の中、確かに聞こえた。はっきりと。

 

 

「煩わしい」

 

 

 その言葉とともに、あれほど煩かった轟音としつこかった暴風が一瞬にして止んだ。砂煙も晴れていた。

 何事かと見ていると、そこには龍神が左手で持っている刀で、臘月の体を斬っていた

 

 

「う、が、あぁ…ッ!!」

 

「悲鳴も上げられないか。もう少し耐えると思ったんだがな。手加減というのは難しいんだ。ただでさえ貴様ごときに利き手を使えないんだからな」

 

 

 臘月は再び体を斬られたことで、ショックを受けたのか片語しか喋れなくなっていた。

 だが、それだけが要因ではない。龍神は、今まで一回も利き手である右手を使ってこなかった。その事実が、臘月のプライドを何度も傷つけ、ショックを受けるか、怒るか、悲しむか、すぐに攻撃するべきか、脳がオーバーヒートを起こしていたのが真相だった。

 

 しかし、血の流れが止まっているところから無意識下で『固定』を使って止血しているのだろう。なんという無敵と最強への執念だ。

 

 

「さて、そろそろ――む?」

 

 

 そんな時、龍神と臘月を挟む空間に、異常が起きた。

 黒い渦が、出現した。その渦はどんどんと広がっていき、やがて成人男性ほどの大きさにまで成長していった。

 その中から、一つの影が飛び出した。

 

 

『ウォオオオォォォッッ!!!』

 

 

 飛び出してきた生物は、第一声に雄たけびを選んだ。

 赤い洋風の騎士のような洋風の外見に頭部の肥大化している角に両肩に2本の角が存在していた。それは一言で言えば怪物――化け物だった。

 

 

「な…ッ!!」

 

『アイツは…オーバーロードッ!!?』

 

 

 その怪物――オーバーロード。またの名をデェムシュ(進化体)

 その怪物は、赤い剣を持ち上げて、バロン見て、殺意を滾らせて叫んだ。

 

 

『猿ゥウウウウウッ!!貴様ハ、貴様ダケハ必ズ殺スゥ!!』

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 剣を振り上げ、襲ってくるデェムシュ。それを間一髪で避け、デェムシュを囲うような陣形になった。

 

 

 

「あり得ないッ!!どうしてここにオーバーロードインベスがッ!?」

 

『口を動かすなら手を動かせッ!!来るぞッ!!』

 

 

 デェムシュは一目散にバロンに襲い掛かった。その目は殺意で煮えたぎっており、レイヤなんて視界に入っていない。

 バロンは圭太の権能を駆使して、バナスピアーに【ケラウノス】を纏わせ、デェムシュの灼熱で燃える剣に対抗する。衝撃で、互いの立っていた地面がえぐれる。

 

 

『いける…。この力があれば、この姿でも十分貴様と渡り合えるッ!!』

 

『小癪ナァッ!!』

 

 

 どうやらデェムシュはバロンしか標的に入れていない。ならば、時間は十分にある。

 

 

「龍神ッ!一体何が起きている!?」

 

「我にも詳しくは分からん。だが、分かっている真実(こた)えを聞こうとするな

 

「くッ。そうだったな…」

 

 

 わからないふりをしておきながら、レイヤはある程度予想はついていた。

 原因は確実に先ほどの臘月と龍神の攻防によるものだ。あれほど強力な力のぶつかり合いだ。空間の境界に影響が出ないわけがない。その結果が、デェムシュというオーバーロードの出現だった。

 

 おそらく、どこかの世界線のデェムシュが、先の攻防で空いた空間の穴にクラックと間違えて自ら入ったか、もしくは巻き込まれたか。どちらにせよ面倒なことになったことに変わりはない。

 

 それにデェムシュのバロンに対する執着から察するに、おそらくどこかの鎧武の世界線で鎧武が極アームズに変身する前の時間軸から来たはずだ。

 

 

「龍神ッ!!お前はどうするッ!?」

 

「あの程度の俗物。我が直接手を下すまでもない。貴様らで何とかしろ」

 

「あーもー分かったッ!その代わり、そいつ、ちゃんとやれよッ!!」

 

 

 そう言い残してレイヤはバロンとデェムシュの方へと走る。

 この時間で、臘月はある程度回復していたようで、こちらを睨みつけていた。しかし、龍神はそれを完全に無視していた。

 

 

「フン。誰にものを言っている。では始めようか、断罪を。【魂の審判】

 

 

 龍神がその言葉を発した瞬間、周りの空間が一変した。

 二人は、天秤の上に立っていた。その巨大な天秤の片方に、臘月と龍神の姿が見受けられた。

 

 

「立て」

 

 

 臘月はいきなり知らない場所に連れてこられて、かなり困惑している様子だった。

 

 

「ど、どこだここはッ!?」

 

「まだ叫ぶだけの元気はあるようだな。ここは我の独壇場。お前に分かりやすい呼び方をすれば【固有結界】というものだ。ここで、お前の罪を裁く」

 

「てめぇに裁かれる筋合いなんてねぇよッ!!」

 

 

 臘月は己が放り込まれた場所のことについて理解した途端に龍神に攻撃を仕掛けた。真正面からの拳による攻撃だ。しかし、すんなり躱され逆にカウンターを喰らい地面に伏せる。

 

 

「がはッ!!」

 

「いい加減学習しろ。我には勝てないと。それにこの空間は貴様の罪を裁くもの。故に罪の重さが重ければ重い程貴様は弱体化していく。逆に、その罪を心の底から反省し、悔い改める心を持てば軽くなっていき貴様を縛る(くさび)は切れて本来の力を取り戻すことができる空間だ。裁きの心得はあのいけ好かない女神に学んだ。不本意だったがな。だから、裁判に関しては、なにも心配することはない」

 

 

 その時、龍神の頭の中にあの赤髪にも青髪にも金髪にもなれる地獄の女神を思い浮かび「誰がいけ好かないクソダサTシャツ女神ですてぇええええええッ!?」という幻聴が聞こえた気がしたため、彼は「そこまで言ってないが、事実だろ」と心の中で返しておいた。そのあとも幻聴がうるさいため強制的にシャットアウトした。

 

 

「これより、綿月臘月の審判を、開始する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁッ!!』

 

『フンッ!!』

 

 

 バロンとデェムシュの攻防が、あたり一帯を埋め尽くした。

 雷を纏うバナスピアーと灼熱の炎を纏う【シュイム】と言う()の剣がぶつかり合い、衝撃波を生み出し辺り一帯がたった二人によって激戦区と化した。

 

 互いに傷をつけることができず、力でもほぼ同格なこの状況で、状況を変える一手をバロンが繰り出した。

 バロンは蹴りをデェムシュに喰らわせデェムシュから距離を取り、ポセイドンの権能をバナスピアーに纏わせて水と風で構成された攻撃が縦に伸びてデェムシュに直撃する。

 

 

『グァアアアアアアッ!!』

 

 

 デェムシュはその威力の攻撃に直撃してそのまま転ぶ。

 立ち上がり、目の前のバロンに憤慨する。

 

 

『猿如キガ。コノ俺ヲ地面ニ…許サンッ!』

 

『貴様のその性格は相変わらずだなッ!!』

 

 

 自分にも言えることだが、そんなことはバロンの頭にはない。

 バロンは変身前に履いていた靴の力を発揮する。神速を発揮する神器の靴『タラリア』による高速移動でデェムシュに防御の隙を与えることなく攻撃を仕掛けた。

 

 デェムシュが膝をついたと同時に、バロンは高速移動を止める。

 

 

『一度トナラズ二度マデモ…貴様ハタダデハ死ナサンッ!!』

 

『それは言葉ではなく力で証明したらどうだ?ヘルヘイムの果実を食べて力が上がっているはずだが、それでも貴様は俺に敵わんようだな?』

 

『貴様ァッ!!』

 

 

 突如としてデェムシュの体はゲル状になる。

 ゲル状の姿でバロンに突撃したデェムシュはバロンを翻弄し、バロンの背後で実体化してシュイムでバロンの背中を斬りつける。

 

 

『くそッ!この卑怯者がッ!!』

 

『卑怯?ソンナモノ闘イノ中デハ不要ナ言語ダッ!!』

 

 

 追加でシュイムでの剣撃を2,3回喰らい今度はバロンが地面を転がった。

 バロンの攻撃力は圭太の力も相まって生前よりかなり上がっているが、防御力は全くと言っていいほど変わっていない。つまり、今のバロンの弱点は駆紋戒斗本人の性格的に“不意を突かれること”だ。

 

 バロンがゆっくりと立ち上がると、バロンの背中から炎が燃え上がる。それに驚くが、その炎は自分を焼き焦がすのではなく、逆に傷を癒してくれていた。

 

 

『そうだったな…確か、【再生の炎】だったか』

 

 

 この体(けいた)の権能の一つ、ヘパイストスの権能【再生の炎】。己の傷を癒してくれる心優しい炎。それはまるで母親にくるまれたような温かさを感じた。

 徐々に傷が回復していき、バロンはデェムシュを睨みつけた。

 

 

『バカナ、アリエンッ!!ドウシテ炎ニ身ヲ焼カレナガラ立テルッ!?』

 

『少しはその足りない頭で考えたらどうだ?これは貴様の炎ではない。これは、この体(コイツ)の炎だ』

 

 

「そのとーり」

 

 

『なにッ!?』

 

 

 デェムシュの後ろから、見知った声が聞こえた。

 そこには、全身白装束の男がいた。白髪で赤い瞳をしている顔立ちの整った男性――レイヤがいた。

 

 

『貴様、今までなにをやっていた』

 

「俺に怒らないでくれ。少し龍神と話しをして、すぐにこっちに来たんだよ。こんな遠くに移動しているとそっちが悪い」

 

『そんな遠くに移動しているつもりはない。それに、貴様のスピードならこの程度の距離、すぐに来れるだろう』

 

「まぁそうだけどねー。ちょっと興味本位で、君が進化体のデェムシュ相手にどこまで渡り合えるか、気になってね。レモンエナジーでもなく進化体のデェムシュと互角に戦えるなんてすごいなーって思ってたら、つい」

 

『……貴様、黒幕か?』

 

「違うってッ!!確かに黒幕っぽい言い方であったことは認めるけどさぁ」

 

 

 デェムシュを挟んで、完全に二人の空間だけになっていた。

 しかし、デェムシュはその会話を最後まで待つほど心穏やかではない。

 

 

『俺ヲ挟ンデ会話ヲスルナッ!!猿ドモォオオオオオッ!!』

 

 

 デェムシュが左手を上に掲げると、高熱の火の玉が複数出現し、ホーミングして二人を襲う。

 

 レイヤは【スピカ・ヴィルゴ】を発動して武器を生成し、イェド・オフィウクスで武器を操って炎の玉をすべて切り伏せて消滅させる。

 対してバロンはその圧倒的な身体能力を駆使して火炎玉をすべてを切り伏せた。

 

 

『猿ガ、コノ俺ノ攻撃ヲォオオオオオッ!!』

 

「もうその常套句は飽きたんだよッ!!一気に行くぞッ、これを受け取れッ!!」

 

 

 レイヤはとあるものを投げつけ、それがデェムシュを通り過ぎ、バロンの手に渡る。

 それは二つのアイテムだった。赤いドライバーに、レモンの錠前。

 

 

『これは…ゲネシスドライバーッ!?なぜ貴様がコレをッ!?』

 

「悪いけど、今はそんな場合じゃないだわ。さっさと変身ッ!!」

 

『―――いいだろう。やってやる』

 

 

 バロンは戦極ドライバーを外して、ゲネシスドライバーを着用し、レモンエナジーロックシードの鍵を外す。ゲネシスドライバーに装着して、錠前を閉じた。頭上にクラックが開き、巨大なレモンが出現する。

 

 

レモンエナジーッ!

 

ロック オン

 

 

 右側にあるレバー、押し込んだ。

 

 

ソーダッ!レモンエナジーアームズッ!

 

ファイトパワー!ファイトパワー!

 

ファイファイファイファイファファファファファイッ!

 

 

 レモンのアーマーがバロンの頭上に降りて展開し、バロンは【レモンエナジーアームズ】へと変身を遂げた。

 バロンはエナジー系の専用武器【創生弓ソニックアロー】を、レイヤは【蛇腹剣】を持ち、構える。

 

 

『来イッ!小癪ナ猿ドモォオオオオオ!!!』

 

「その猿に、無様に倒されろッ!!」

 

 

 レイヤの巧みな蛇腹剣による攻撃に、デェムシュは己の類稀なる剣技を駆使して弾く。しかし、技術はレイヤの方が上だった。微細な軌道変換でデェムシュを翻弄し、デェムシュの剣を持つ手に蛇腹剣を巻き付かせた。

 

 

『ナァッ!?』

 

「今だッ!」

 

『そんなことわかってるッ!!』

 

 

 ソニックアローの弦を引いて黄色のエネルギー矢を連続で撃ち放つ。矢のすべてがデェムシュの体に突き刺さり、デェムシュは悲鳴を上げる。

 その間にもバロンはすぐさま動き、デェムシュとの距離を一気に詰める。ソニックアローの刃の部分でデェムシュの体を斬りつける。

 

 

『クズ共ガァッ!!』

 

 

 デェムシュがもう片方の手で拳を作ってバロンを殴る。バロンは倒れそうになるが、踏み留まってデェムシュの腹の辺りにソニックアローの銃口(はっしゃぐち)を押し付けた。

 

 

『サセルカァッ!!』

 

 

 デェムシュがもう片方の手でそれを掴もうとするが――空間に空いた穴から鎖が出現して、デェムシュの手を巻き付けた

 

 

「させない?それはこっちのセリフ」

 

 

 それはレイヤの空間系の権能【アリエス・ボテイン】と念動力の【イェド・オフィウクス】によるコンボ技によるものだった。

 隙だらけのデェムシュに攻撃を仕掛けることは、容易かった。

 

 ゲネシスドライバーからレモンエナジーロックシードを取り外して、ソニックアローの中心にあるスロット部【エナジードライブベイ】にエナジーロックシードをセットし、弓を引いた。

 

 しかしそれだけでは済まなさい。追加で【ケラウノス】。そして――ソニックアローが銀色の弓矢型のエネルギーに纏われる

 

 

『はぁッ!』

 

 

レモンエナジーッ!

 

 

『グァアアアアアアアッ!!』

 

 

 矢とともにデェムシュが吹っ飛び、地面をバウンドしながら転がる。

 デェムシュが立ち上がろうとした瞬間、輪切りレモン型のエネルギー体が出現して、デェムシュを拘束した。

 

 

『コンナモノ…ウ、ウガァアアアアアアアアッ!!』

 

 

 デェムシュは拘束を解こうとするが、突如としてデェムシュの周りを銀色のエネルギーがバチバチと雷のように纏わりついて、デェムシュを苦しませる。

 

 

『使えるな』

 

「あれは…アルテミスの神器【銀の弓矢】か。結構エゲつないね」

 

 

 バロンがソニックアローの必殺技を撃つ瞬間に纏わせた銀の弓矢のエネルギー体。実はアレも神器の一種だ。

 月の女神アルテミスが使っていたとされる神器【銀の弓矢】は、女性を射抜いた場合、苦痛なく即死させることができるとされる。ちなみにそれと相反する神器もある

 その伝承に凶悪性を付け足すことで、女性は苦痛なく衰弱していき、男性は痛みとともに衰弱していくという形で収まったのが、この結果だ。

 

 今のデェムシュの現象は、『痛みとともに弱体化(すいじゃく)』という現象を目で見えるようにしたに過ぎないのだ。

 

 

「しかし、ナイス。まさかそこまでうまく使いこなせるとは思いもしなかった」

 

『まぁコイツの記憶もあるからな。それに、俺の技術をバカにするな』

 

「バカにした覚えはないんだけど…。まぁいいや。戒斗、ソニックアロー貸して」

 

『これか。別にいいが、確実に仕留めろよ』

 

「分かってるよ」

 

 

 バロンはソニックアローをレイヤに投げ渡すと、ゲネシスドライバーのシーボルコンプレッサーを三回押し込み、キックの構えを取る。

 対してレイヤは【アリエス・ボテイン】を使い空間から【レモン】【チェリー】【ピーチ】【メロン】【マツボックリ】【マロン】【ドラゴンフルーツ】のエナジーロックシードを取り出すと、【アルゲディ・カプリコーン】でエナジーロックシード分のソニックアローを複製する

 

 そこから【イェド・オフィウクス】でロック解除からロックオンまでの工程を一気に行った。

 

 そこからさらに【アルゲティ・カプリコーン】でエナジーロックシード装填済みのソニックアローを大量に複製した。

 

 

「一斉発射」

 

 

[[[[[レモンエナジーッ!]]]]]

 

[[[[[チェリーエナジーッ!]]]]]

 

[[[[[ピーチエナジーッ!]]]]]

 

[[[[[メロンエナジーッ!]]]]]

 

[[[[[マツボックリエナジーッ!]]]]]

 

[[[[[マロンエナジーッ!]]]]]

 

[[[[[ドラゴンフルーツエナジーッ!]]]]]

 

 

『グァアアアアアアアッ!!!!!』

 

 

 レイヤの持つソニックアローの弦が放たれて矢が放たれた瞬間に、すべてのソニックアローから矢が発射され、デェムシュの悲鳴が響き、砂埃が舞った。しかし、爆発が起きていない以上まだ死んでいない。レイヤの記憶(鎧武本編)のデェムシュよりしぶとい

 

 

「それで決めろッ!!」

 

『はァッ!!』

 

 

レモンエナジースパーキングッ!

 

 

 バロンのレモンエナジーで放つジャンプキックの必殺技――キャバリエンドが放たれる。

 レモン色のエネルギーを纏ったキックに、デェムシュは直撃。当たった後、バロンは空中で回転しながら、レイヤの隣で着地する。

 

 当のデェムシュは、バチバチと体から火花を散らした。

 

 

「認メン、認メンゾ!貴様ラノ様ナ猿ゴトキニィイイイイイ!」

 

 

 レイヤの記憶(鎧武本編)と同じ断末魔を叫んだあと、デェムシュは派手に爆発した。その爆発で、デェムシュはこの世界からチリも残らず消え失せた。

 

 デェムシュの消滅を確認した二人は、武器を降ろした。レイヤの背中に展開されていた無数のソニックアローも消失する。

 レイヤはバロンに手に持っていたソニックアローを投げ渡した。

 

 

「ようやく終わった…。なかなかにしぶとかった」

 

『それにしても、あれほど強かったアイツを、こんなにも簡単に倒せるとはな…。拍子抜けだ』

 

「言っとくけど、それはお前の力じゃなくて圭太の力だからな?」

 

『そんなこと分かってる。他人の力を自分のものだと言い張るほど、俺は図々しくない』

 

「はいはい。予想通りの返答でした。じゃあ、龍神のところに戻るか。アイツのことだ。今頃とっくに終わってるだろ」

 

『―――そうだな』

 

 

 そうして、レイヤは一足先に龍神がいるであろう場所へと走っていく。

 

 

『――――』

 

 

 バロンは、走っていくレイヤの背中を見た後、デェムシュが爆死した跡を見た。

 その場には、もう爆発した後の砂煙以外なにも残っていなかった。そんな場所で、バロンは誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

『―――確か、権能持ち相手には同じ権能でしか攻撃が通らないはず…。なぜデェムシュ(アイツ)は俺に傷をつけられた?』

 

「おーい、早く来いよ」

 

『分かっている。急かすんじゃないッ!』

 

 

 バロンの――駆紋戒斗の疑問を残して、その場には誰もいなくなった。

 

 

 




 今回はこれで終わりです。
 いやー新たな謎が残って終わりましたね。

 突然の龍神の蹂躙劇にデェムシュの登場!!
 熱くなってきたなと思う。

 そして、なぜデェムシュは圭太の体を使っている戒斗の体に傷をつけることができたのか…疑問が尽きない。


 アルテミスの神器 【銀の弓矢】
 効果
・射った相手が女性の場合は苦痛なく弱体化(すいじゃく)させ、男性は痛みとともに弱体化(すいじゃく)していくという弓矢。

 本来は女性を苦痛なく即死させる弓矢。相反する神器がある。


 次回。
 
「俺の…俺だけの楽園(せかい)を創るッ!創ってやるッ!」

(もう苦しまなくていい…いいんだッ!!俺は、この楽園(せかい)の神だからな)

「俺の楽園(せかい)を穢す奴は、誰であろうと潰す」


「お前は見事に体現してくれたよ。臘月。夜神零夜のありえたかもしれない最悪の未来(けつまつ)を、な


次回――【綿月臘月(わたつきのろうげつ)


 次回予告作ってみた。


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