東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 投稿しまーす。


 今回、滅茶苦茶ヤバイ伏線回収をしました。と言うか衝撃の事実が明かされる!!


 ぜひじっくり読んで、感想を聞かせてねッ!!


84 悪意たる所以(ゆえん)

 月の一角――。そこで決したはずの勝負が、再開される。

 龍神は自らの固有結界が分解されている光景から目をそらし、倒れていたはずの『臘月』へと目を向けた。『臘月』は黒い泥のようなものに全身を包みながら、関節を曲げずに起き上がった。まるでキョンシーのようだ。

 

 

「ようやく出てきたか」

 

 

 しかし、龍神の反応は意外なもので、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その泥――否。それは泥と呼ぶにはあまりにも異常なものだった。『悪意』を連想させる文字に満ちた泥だった。

 『悪意』は『臘月』を包み込み、機械的な見た目へと変貌させた。

 

 黒一色のボディ、片方しかないアンテナ、左目が剥がされたかのようなマスク、禍々しく輝く赤い瞳。

 左半身は胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど、無理やり剥がされたかのような痛々しい外見。

 

 そんな不完全・未完成をそのまま形にしたような見た目だが、そんなことはない。これが彼の完成形の姿なのだ。

 そして、目の前の『悪意』が喋りだす。

 

 

『ほう…私の存在に気付いていたか』

 

 

 男の声だった。男特有の低い声。しかし魅了されるような虜になってしまうような甘いハニーボイスのように聞こえなくもないその声。

 その声の主は、存在がバレていたことに驚いているようで、落ち着いている。感情を感じさせない無機質な声でもあった。

 

 

「神を舐めるな。あの男の魂の色を見て、すぐ分かったぞ。貴様の存在をな」

 

『さすがは神…とでも言うべきか?では、私がどういった存在なのかも、把握しているのか?』

 

「無論だ。ならば今この場で答えてやろうか?」

 

『いいだろう…。言ってみろ』

 

 

 『悪意』が了承し、龍神はフルフェイスの兜で隠れた口を動かした。

 

 

「貴様の名前はアーク。そしてその姿の名はアークゼロ。とある世界で『悪意』の人工知能として()まれ、人類の敵として、最後に破壊された…違うか?」

 

 

 皮肉を込めての評価を炸裂させる。無論龍神にそんな意図はない。ただ、彼にとって認めた相手以外の対応がこのようになってしまうだけだ。

 

 そう。かの存在はかつて『ゼロワンの世界』にて悪意の人工知能として悪行の限りを尽くし、最後に【仮面ライダーゼロツー】によって倒された【通信衛星アーク】。

 なぜか臘月の精神に寄生し、その体を乗っ取ったアーク。その理由は不明だ。

 

 

『やはりその力、侮れないな。全てを見通す目…それも神である貴様の力か?それとも、『才能(スキル)』の力か?』

 

 

 アークは淡々と、『スキル』について語った。それは本来転生者などのイレギュラーか準イレギュラーしか把握していないことだ。

 しかし、権能持ちの臘月の精神に寄生していたため、そういった情報を持っていても不思議ではない。

 

 さらに龍神の力の一つとして、『真実の眼』と言うものが存在する。まぁ要するに【鑑定眼】みたいなものだ。それを通してみることで、知れる限りのすべての情報を閲覧することが可能。要するに地球(ほし)の本棚と同じである。

 

 

「たわけ。あんなまやかしの力に我が縋るわけなかろう。今ある者で十分だ」

 

『傲慢だな。しかし、それも一興と言うものだ。私の力のすべてをもってして、貴様を滅ぼすとしよう。全ては、我が意思のままに』

 

「貴様の目的は、相も変わらず人類滅亡と言うことか?」

 

 

 初対面のはずの二人。しかし、会話は完全に知り合いのソレである。第三者が見たら確実に戸惑う光景だろうが、その第三者たちは現在赤い騎士と乱戦中である。

 

 

『そうだ。それこそが私の存在意義。そしてそれを完遂するためには龍神。貴様が最大の障害と見た』

 

「――なるほど。だがしかし、貴様の予測も大したことがないのだな」

 

『――なに?』

 

 

 その言葉は聞き捨てならないと、アークの声がさらに低くなる。しかし、龍神は口を止めることはない。もとより、これが彼の平常運転だからだ。

 

 

「貴様は【ゼロツー】なるものに予測能力で負け、さらには自分の存在意義たる『悪意』で手足に裏切られ身を滅ぼした。そんな程度の能力だからこそ、私を“最大の障害”などと抜かしたのだろう?

 

『ほざけ。私が知らぬとでも?ヤツは現世への直接介入はできん。せいぜい()()()のような刺客を送り込む程度。警戒など、する意味がない』

 

 

 アークゼロの悪意に満ちた返しに、龍神はピクリと反応する。

 今の龍神にとって、「あのお方」を侮辱されるのは許し難いことだ。しかし、小さな深呼吸をすることによってその怒りを鎮める。

 

 

「それはそちらの方も同じだろう。あの男や貴様を送り付けている時点で条件はこちらと同じだ」

 

『――――』

 

「よもやこれ以上の言葉の交わし合いは無用。貴様ごとソイツを、スクラップにするとしよう」

 

『その前に、私が貴様を滅ぼしてやる』

 

 

 龍神が二対(につい)の刀を構える。その刃に緑色のオーラ――『神力』を纏わせる『神力纏い』を行う。

 アークゼロはその姿をとらえ――

 

 

『結論を、予測』

 

 

 二人の立っていた場所の中心が、轟音を上げて爆発する。天が揺れ、地が揺れ、星が揺れた。砂埃がまき散る。

 アークの各種電子機器へのハッキング、ラーニングと情報の分析によって数億通りもの『事象に対する結論』を導き出す能力を用いて、龍神の行動を予測した。そのうえでの突撃だった。

 

 しかし――、

 

 

『なに…ッ!?』

 

 

 アークゼロの拳は、龍神の刀によって防がれていた。刃と拳がぶつかり合い、火花が散る。

 だが、そんなことはどうでもよかった。問題は龍神の行動はアークの予測から全て外れたと言うことだ。

 

 ほんの一瞬の出来事だった。アークはドライバーに格納されている流体金属を複雑怪奇なまでの棘山へと変換し、津波のように龍神へと仕向けた。

 流体金属の硬度や精密さをはじめ、全ての力を自分を寄生させたあの存在によって本来の何十倍も強化されている――はずなのに。

 

 

「…硬いな。強化されているのか?」

 

『バカな…ッ!私の今のスペックは、本来のものより何百倍も強化されているッ!だというのに、貴様は私の拳を、刀で止めたというのかッ!!』

 

「うるさいぞ。耳が腐る」

 

 

 アークゼロの叫びも虚しく、龍神はもう片方の刀を振り下ろした。しかし、アークゼロはそんな見え見えの攻撃に当たるほど低スペックではない。

 アークゼロは照射成形機【ビームエクイッパー】で空中に【エイムズショットライザー】を大量製造し、ファンネルのように展開する。

 

 ショットライザーの射撃が、一斉に龍神へと迫った。

 その間、何もしないアークゼロではない。ショットライザーの弾が龍神に着弾するまでの刹那の時間、攻撃に転じていた。集中銃撃はただのブラフでしかない。本命は、首だ。

 

 アークゼロは龍神の首を掴み、両肩に内蔵した粒子加速器で手のひらを砲口とした荷電粒子砲を全力で放つ。ゼロ距離での確殺技。死なないはずがなかった。

 龍神が集中砲火如きで死ぬ可能性なんて、アークゼロにはその予測は一切存在しない。それはアークゼロの予測を上回れたときからすでに“手加減”をする思考はすでに切り捨てられている。このような苦渋を飲まされたのはゼロツー(ゼア)に自分の予測能力を超えられ、最終的に倒された時以来だった。

 

 

『貴様は強い。それは認めよう。だが、避けようのない攻撃ならば、貴様も無事では――』

 

「誰が、無事で済まない、と?」

 

『なにッ!?』

 

 

 掴んでいたはずの龍神の首元から手が離れると、今度は逆に自分の首元を掴まれて、地面に叩きつけられた。

 アークゼロは顔面を地面に叩きつけられ、半径50メートルレベルで地面に亀裂が入る。

 

 バカな、あり得ない。また超えられたッ!自分の予測能力から、逸脱されたッ!今のアークゼロはあの存在によってゼロツーをも超える予測能力を手に入れている。強化されているはずだ。それなのに、目の前の敵すら、倒せないなんて。

 

 

「確かにこの距離での攻撃は避けようがない。だが…傷がつかなければ、なんの問題もない」

 

『化け物、め…ッ!!』

 

「心を持たない人口知能風情に、化け物呼ばわりされるのは心外だなッ!!」

 

 

 本来のスペックよりも何十倍も強化されたアークゼロに化け物を言わしめるほどの力を持った龍神。その超えられない壁を持ってして、アークゼロに()()()()()()()()()()()()が芽生えた

 

 

(予測だ。予測だ。コイツを倒すシュミレーションを繰り返せ。何億、何十億、何百億、何千億と、繰り返すんだ)

 

 

 全システム、全知能、全行動を投げ売って、アークは龍神を倒すシュミレーションを開始する。

 

 

――一回目。駄目。破壊される。

――十回目。駄目。破壊される。

――百回目。駄目。破壊される。

――千回目。駄目。破壊される。

――万回目。駄目。破壊される。

――億回目。駄目。破壊される。

――兆回目。駄目。破壊される。

 

 

 駄目だ。駄目だ。駄目だ。

 何度も何度も何度も何度も。別々の行動を組んで、シュミレーションを行っているというのに!!この化け物(りゅうじん)に勝てる要素が、まるで見当たらないッ!!

 

 

――怖い。

 

 

「なんだ、この、データ、は…!?」

 

 

 いや、そもそもこんなデータ存在していない。ならばなぜ、そんなことを思ったのか?

 アークゼロは『悪意』の塊たる人工知能だ。ゆえに『感情』など持ち合わせていない。だったら、何故…。

 

 そして、導き出された“結論”

 アークの高スペックによってもたらされた、自分の不可解なデータの真相。

 

 そういえば、この男の体を乗っ取ってまだ時間が短いとはいえ、不可解なものを感じてはいた。感情の籠った言葉を使っているようだった

 それも、これも、どれも―――!!

 

 

アイツかァ…ッ!!私に、『感情』などと言う不愉快極まりないデータをインプットしたのかァッ!!』

 

 

 アークはこの場にいない人物に叫ぶ。だがしかし、アークには分かる。アイツは今、確実に、自分のことを見下ろして、嘲笑っている。まるで見世物を見るかのように、笑っているのだ。

 

 アークは人工知能だ。ゆえに人間の持つ『感情』などと言うのは無縁の存在。アークと言う人口知能であれば尚更だ。

 アークとて、人口知能に『感情』に芽生える可能性は認知していた。シンギュラリティと言うものだが、アークにとっては不愉快でしかなかったためにその概念事ヒューマギアも人間ごと破壊しようとした。

 

 自分とは無縁であるはずの、あったはずの『感情』。それを本人が気づけなかったほどのレベルで隠蔽し、尚且つそんなことをできる存在が、自分を嘲り笑っている。

 

 

『許さん!!許さんぞッ!』

 

「独り言で激昂しているところ悪いが、連れの足音が聞こえてくるのでな。そろそろ終いにしよう」

 

 

 アークは激昂する。自分はそんな理由ですぐに終わらせられるのか?そんなことが許せるはずがない。

 しかし、龍神にとってそんなことは知ったことではない。龍神はアークゼロを自分の頭上に空高く投げ飛ばした。

 

 

『わざわざ自分の頭上に投げてくれるとは…。私を侮辱するかッ!』

 

 

 アークゼロはビームエクイッパーで武器を大量生産した。

 【アタッシュカリバー】【エイムズショットライザー】【アタッシュショットガン】【アタッシュアロー】【サウザンドジャッカー】【プログライズホッパーブレード】【メタルホッパーブレード】が大量生産される。

 その全てに黒いエフェクトを纏い、龍神に向けて一斉発射される。

 

 その刹那の間に、アークゼロが【アークローダー】と呼ばれるボタンを押し、必殺技を発動し、エネルギー足に貯めた。

 

 

 

オールエクスティンクション

 

 

 

 アークゼロは悪意のオーラをその身に纏い、必殺のキックを繰り出した。

 その光景を、真下から見上げていた龍神は――回転した。

 

 

剣閃(けんせん)―――勅龍乱舞(ちょくりゅうらんぶ)

 

 

 二つの刃が龍神の体とともに一回転し――周りの風、空間全てを巻き込み、全てを切り刻み、存在すらも許さない断絶された斬撃の空間を生み出した。緑色の斬撃の風は頭上にあった武器、発射された弾丸すべてを飲み込み、灰塵へと化し、塵すらこの場に存在することを許されなかった。

 

 アークゼロも、例外ではなかった。

 1秒で千回ほど刻まれるような感覚に、アークゼロは何もできない。すでに悪意のオーラも全て消去された。彼に待つ未来は、消滅のみ。

  

 

『こんな結論は、あり得ない…ッ!それもこれも、『感情』などと言う余計な要素がなければ、私の予測が、狂うことなど―――うおぉぉぉぉっ……!!!』

 

 

 その言葉とともに、アークゼロと言う存在は消滅した。

 変身が解除され、臘月の体が残るだけだった。それと同時に斬撃の風は消滅し、臘月の体がゆっくりと落ちてくる。ここは月だ。地球の6分の1の重力のため、落ちてくる速度がゆっくりだ。ゆっくり押してきた臘月の体を乱暴に回収し、生きているかどうかを確認する。

 

――脈はちゃんと確認できた。生きているようだ。

 

 

「貴様にはまだ確認したいことがあるからな。それまで生きてもらうぞ」

 

 

 龍神は空を見上げる。アークゼロが消滅した、この空を。

 唯一の、答えが分かっている、疑問を述べて。

 

 

「あの存在はヒューマギア(からくり)にしか寄生できないはずだが…。存在定義をアイツに歪められたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ程度ではあの神に勝てないか…まぁ分かりきった結果だな。余興としてアイツに“感情”を足してみたが…無駄だったようだ。これなら漫画を見ている方が何百倍も暇つぶしになる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

「――あぁ…?」

 

 

 頭が熱い。目覚めてから浮き上がった思想は、それだった。その次に、“痛み”が襲っていた。全身が痛い。まるで業火に焼かれているかのような痛みだ。しかし、こんな痛み、耐えられる。

 ゆっくり、ゆっくりと、視界が広がる。そこには森と夜空と――

 

 

「あ、零夜ッ!」

 

 

 金髪の美女がいた。

 彼にとって、彼女はとても見慣れたもので、その美女の名を呟いた。

 

 

「…ルー、ミア」

 

「よかったッ!起きたのねッ!!」

 

 

 金髪の美女――ルーミアは涙目で零夜に抱き着いた。

 そのことに戸惑いながらも、自分の状況を確認する。確か自分は、ライラを氷の檻から救うために自分ごとデンドロンを集中攻撃して、気絶したはずだ。

 

 ―――今こうして、彼女の胸に埋もれているということは、うまくいったということだろうか。

 

 

「それはそうと、息苦しい。あと痛い」

 

「あっ、ご、ごめんねッ!?」

 

 

 ルーミアは慌てて零夜を離す。零夜はルーミアの手を借りてゆっくりと起き上がった。自分の体をよく見てみると、全身が痛々しい地に濡れた包帯が巻かれていた。手、腕、足、胸、頭。全身の至る所の包帯を見て、『ミイラかよ』と思ってしまう。これも、ある程度終わったことによる安寧によるものだろう。

 

 

「夜神ッ!起きたのかッ!?」

 

 

 すると、ライラが目の前から駆け寄ってきた。ライラの綺麗な肌も傷だらけだが、流石妖怪。すでにほとんどが治りかけている。治癒力が半端ない。

 

 

「ライラ…。無事だったか」

 

「自分の心配をしろ馬鹿者ッ!ほんと、無茶しおって…」

 

「無理無茶無謀は俺の専売特許だ。そう簡単にやめられるかよ。それより、紅夜は?」

 

「全くお前は…紅夜はあそこだ」

 

 

 零夜はライラが親指を向けた方向を見ると、手当て済みの紅夜と妹紅がマクラをベットにして眠っていた。ちなみにマクラもところどころ包帯が巻かれているが、この中の誰よりも軽傷だ。妹紅も大した怪我をしていない。そのマクラもすやすやと眠っており、何も知らない人から見れば“蜘蛛の大型人形で眠っている美少年と少女の図”にしか見えない。

 

 ちなみに、その隣には輝夜がマクラを背もたれにして眠っていた。

 

 

「気持ちよさそうに寝てんなー。羨ましい限りだぜ」

 

「ほんとにね」

 

『そんなお前も、さっきまで気持ちよさそうに寝てたけどな』

 

「――は?」

 

 

 突如として聞こえた、聞いたことのある第三者の声。その声は後ろから聞こえ、ゆっくりと後ろを振り返ってみると――永琳と黄色いエレキ宇宙教師ライダーがいた。

 

 

『よっ』

 

「――はぁッ!!?フォーゼ!?」

 

 

 零夜の後ろにいたのは、まぎれもない【仮面ライダーフォーゼ・エレキステイツ】だった。突然のライダーの登場に零夜の体は強張(こわば)り、体に苦痛が針のように襲ってくる。

 

 

「ッ!!」

 

『あー!まだ動いちゃダメだっての!一応治療はしたけど、ひどすぎたから手間取ったぜ、ほんとによー』

 

 

 フォーゼは頭をかいて、本当に手間取ったような感じを見せた。

 しかし、零夜にとって一番の問題はそこではない。何故ここにライダーが?変身者は誰だ?しかし、その声から変身者は心当たりがありすぎて――、

 

 

『あっ、目が覚めたみたいだね』

 

『よかったな。少し心配したんだぜ?』

 

『心配なんてする必要ないだろう。あれほどの減らず口を叩けるのならな』

 

 

 さらに聞きなれた三人の声が聞こえ、零夜はその方向を向くと、オーズ、ウィザード、ブレイドの三人のライダーがこちらに向かって歩いている姿が確認できた。

 零夜の頭はあまりに予想外の状況すぎてパンク寸前だ。しかし、ただでさえ大怪我をしているのに頭を使うことを躊躇った零夜は――、

 

 

「……ライダーがいっぱいだな」

 

「零夜!?」

 

 

 考えることをやめた。

 うん。これは考えた方の負けだ。そう思うことによって心の安寧を享受して――、

 

 

「驚いただろう?私も驚いたぞ?こいつらが、いきなりこの紙切れから召喚されたからな」

 

 

 そういい、ライラが胸の谷間の間から――いや待て、どこから出した?零夜は内心突っ込んだ。そこからライラは二枚のカードを取り出した。ライラが取り出したのは【フォームライド:エレキステイツ】と【キングフォーム】のブランクカードだった。

 

 

「おま、それ、どこで――」

 

「シロからもらった。“もしものときのためのお守り”だとな」

 

 

 零夜は心の中でシロに悪態をつく。そういうことは事前に行っとけよ、よ。もう何度目かわからない同じ悪態で呆れ、零夜はライラの言葉に耳を傾ける。

 

 

「ちなみに、紅夜にも渡してたみたいだぞ」

 

 

 そういい再びライラは谷間からカードを取り出s「いやちょっと待て」

 流石に我慢できずにツッコミを入れた。

 

 

「なんだ?」

 

「なんだじゃねぇよ。なんでそんな際どいところに収納してんだよせめて懐に入れろや」

 

「一気に言うな。反応に困る。こういう薄いものを入れるには、胸がちょうどいいんだ。こういうところは、無駄にでかいこの邪魔な乳も、役に立つというものだ」

 

 

 そう淡々と述べるライラの手にあるのは、【フォームライド:ラトラータ】と【インフィニティスタイル】のブランクカード。なんでもなさそうなライラを零夜は白い目で見た。そして告げた。忠告として。

 零夜は見たことがある。よく異世界もので、こういう展開を。

 

 

「お前…妹紅とか輝夜とかの前では言うなよ?」

 

「あなた、さりげなく姫様のことを“貧乳”とバカにしたわね?」

 

「げっ」

 

 

 ライラへの助言のつもりだったが、思わぬところに飛び火してしまった。永琳の顔を見ると、笑顔だが顔が笑っていない。わけわからないが、本当にそうだ。

 

 

「いやいや。俺はただのちの騒動の火種を潰そうとだな…」

 

「あら残念。今、この場で新たな火種が燻って、発火したわ」

 

「…畜生」

 

「――でも。今回は見逃してあげる」

 

 

 永琳は怖かった顔をもとのデフォルトの顔に戻した。

 

 

「え、なんで…?」

 

「あなたはそんなになるまで私と姫様のために尽くしてくれた。だから、それでチャラにしてあげるってことよ」

 

「別にお前らのために頑張ったわけじゃねぇんだけど…」

 

「あら?そうなの?じゃあ…彼女さんのため?」

 

「え//ッ?!」

 

 

 すると今度は隣にいたルーミアが顔を赤くした。それを見て、零夜はため息をつく。

 

 

「はぁ…ルーミアを揶揄うのはやめろ。俺みたいな人間を恋愛的な意味で好きになるやつなんているわけねぇよ。いたとしてもそいつは同類的な意味で好きになってる変人だよ。アイツみたいにな」

 

「え?」

 

「は?」

 

 

 永琳の零夜が、ともに無言になる。永琳は冷めた目で零夜を見てくる。それは憐みと言うか、侮蔑と言うか、なんというか…と言うような何とも言えない表情をしていた。

 

 

「なんだよその目…?」

 

「いえ、ただ弱腰鈍感クソ野郎を見ているだけよ」

 

「なんだよそれ!?絶対それ俺のこ、ッ!!」

 

 

 大声を出したため、傷にきてしまった。零夜は傷口を抑え、それを見たルーミアが咄嗟に安否を確認する。

 

 

「はぁ、とにかく。私はここで姫様と彼らの看病をしているわ。あなたたちはどうするの?医者としては、そのまま安静をおすすめするけど…」

 

 

 永琳の発言は医者として、また逃亡者して打倒な選択だった。輝夜と永琳は脱走者扱いされている。それゆえに月に行くという選択肢はない。

 さらに医者としての意見で、零夜には絶対安静を推奨する。だが、彼の性格からすれば――、

 

 

「いや、俺はこのまま月に行かせてもらう。アイツを月まで送り届けなきゃな」

 

 

 そういうと、零夜の目線の先には、簀巻きにされているデンドロンが映った。デンドロンの姿は起き上がった当初からすでに視野に入っていたが、今までずっと無視していた。優先順位が低いからだ。

 

 

『全く。バカにもほどがあるだろ』

 

『まぁまぁ。無理したいって気持ち、俺にも分かるし…』

 

『おっ。さっすが先輩。俺もっすよッ!』

 

『まぁ無理はしても無茶はしなければいいんじゃないか?……聞き入れるかどうかわからないけど』

 

 

 ライダーたちからも賛否両論の意見をもらった。零夜は乾いた笑いを送り、ルーミアの肩を借りて立ち上がる。

 

 

「じゃあ、行ってくる。どうせすぐ戻ると思うが、その間ゆっくり、しといてくれ」

 

 

 零夜はボロボロの手をかざして、オーロラカーテンを出現させる。それを初めて見た永琳の驚きの表情を見て、心で微笑みながら、零夜はオーロラカーテンを操作して、最初にデンドロンを包み込み、そして二人ともその中へと消えていった。

 

 

「……消えた」

 

『別に驚くことじゃない。一種の移動手段だ。……ディケイドの力を、アイツも使えるのか』

 

 

 ブレイドはそう呟く。ライダー大戦の世界のライダーとして、かつて倒そうとした敵の能力を持つ者の手助けをするとは、皮肉と言うか、なんというか…。

 

 

「それで、お前たちはどうするんだ?」

 

『もう役目も終えたし、帰ろうと思います。元の世界に』

 

『ちょーレアな思い出作りだったぜッ!帰ったら仮面ライダー部のみんなに教えなくちゃなッ!』

 

『いやー、こんなバイオレンスな思い出は、言わない方がいいでしょ…』

 

 

 すると、四人のライダーの背中に、零夜が出現させたのと同じオーロラカーテンが現れる。

 四人は一斉に後ろを振り返り、迷うことなく、その身をカーテンへと浸食させ、その姿を消していった――。

 

 

「……む」

 

 

 ライラの手元にあった、四枚のカードが光る。その光が収まると、色を失くしていたカードたちに、色が戻ってきた。

 まるで、そこが自分たちの世界だといわんばかりに。

 

 終わった闘い。本来は喜ぶべきであろう出来事。それなのに――、

 

 

「シロ……お前は、その選択で、本当にいいのか?」

 

 

 悲しい表情で、夜空に輝く満月を見上げた。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

「――――」

 

 

 アークゼロが消滅し、その場に残ったのは臘月の体のみ。龍神は臘月の体を乱暴に担いで、足音の聞こえる方向へと目を向ける。そこには、バロンとレイヤが駆け寄ってきた。

 

 

「龍神、なんかあった?すげぇ爆音が響いたんだけど」

 

「大したことではない。それに、なにかあったとしても貴様に話すことなどなにもない」

 

 

 龍神はレイヤの質問をバッサリ切り捨てた。そもそも龍神にとってレイヤは自身の宝を盗んだ不届き者。自身と同じあのお方の配下でなければすぐさまに細切れにしていたところだ。

 

 

「おっと手厳しい。でも心当たりしかないから辛いところだね」

 

「自覚があるなら黙っていろ。……それで、貴様はどうする?」

 

『俺か?』

 

 

 龍神はバロンに話を向けた。

 バロン――駆紋戒斗は死者。それは別の世界の存在だとしても変わらない。神として、こういう異常事態は排除しなくてはならない。故に、答えを待つ。

 

 

『そんなの決まっている』

 

「ほう…して、答えは?」

 

『還るに決まってるだろ。俺は死んだ。無様に生にしがみつくのは性に合わん。何より、他人の体を奪ってまで、執着することなどないからな』

 

 

 躊躇いのない、強い言葉。それは明確なまでの強い意志表示だった。

 バロンはドライバーのロックシードを外し、ゲネシスドライバーとロックシードを投げてレイヤに返却する。

 バロンは駆紋戒斗の姿に戻ると、徐々にその体から光の粒が浮き出てくる。戒斗は拳を握り締め、呟く。

 

 

「…時間か。」

 

「どうやら、そうみたいだな。……ありがとな。いろいろと」

 

「フンッ。礼など言われる筋合いはない。俺は、俺の道に従っただけにすぎない」

 

「…お前らしいっていうか、なんていうかな…」

 

「出会って一時間もしない人間に言われたくもない」

 

「……そうだな。悪かった」

 

「―――一つ、言葉を送ってやろう」

 

 

 体から散っていく光の粒の量が増す中、戒斗はレイヤを指さして、言い放つ。

 

 

「貴様はもっと強くなれ。大切なものを奪われないほど、強くな」

 

「バーカ…。そんなこと、ハナッからわかってんだよ…」

 

「そうか。なら、それを心に留めておくことだな」

 

 

 そう言い残し、戒斗はレイヤと龍神に背中を向ける。それと同時に、最後の光の粒が宙を舞い――消えていった。

 戒斗――圭太の体は崩れ落ち、その場に倒れる瞬間、レイヤが抑えた。

 

 

「――お帰り」

 

 

 返事はない。だがしかし、大事な人が、仲間が、今自分の腕の中にいる。そう思うと、涙腺が緩くなってしまう。その涙腺を再び引き締めて、圭太の体を抱えて立つ。

 

 それと同時に、二人の隣に四人の人物が現れた。龍神は警戒態勢に入るが、レイヤが静止する。

 

 

「ちょ、ストップッ!私たちだってばッ!」

 

 

 その声は、豊姫の声だった。現れた人物は豊姫、依姫、レイセン、そして――、

 

 

「そいつは…?」

 

「彼女は玉兎のうちの一人です。ちょうど近くにいたので着いてきてもらいました。龍神様が、一人連れてこいと仰ったので…」

 

 

 問いに答えたのは依姫だった。どうやら、龍神がなにやら根回ししていたようだ。

 それよりも、レイヤが気になったことは―――この玉兎がただ玉兎(レイセン)だということだ。

 水色のショートヘアに、ロップイヤーのうさみみ玉兎。どう考えてもただの玉兎(レイセン)でしかなかった。なんという運命のいたずらか。

 

 

「まぁちょうどいいや。圭太の治療を頼む。これ、医療セットね」

 

 

 【アリエス・ボテイン】で医療セットを取り出してただの玉兎(レイセン)に手渡す。正直言って、赤の他人に圭太を任せるのは癪でしかないが、戒斗が憑いていたことによって生命活動が活発になり、状態もいい。【サダルメリク・アクエリアス】で回復もしてあるため、変なことが起きることはないだろう。

 

 

「は、はい…」

 

「ちなみに、圭太に変なことしたらマハー・プララるからな」

 

「なんですかその言葉ッ!?聞いたことないんですけど!?」

 

 

 ただの玉兎(レイセン)は叫ぶ。当たり前だ。だってこの言葉は知ってるヤツにしかわからないし、なにより前世でやっていたゲームキャラクターの必殺技だ。ただの玉兎(レイセン)が知っているはずがない。

 

 

「詳しく言えばお前を隔離空間に閉じ込めて、その空間を巨大な剣で真っ二つ。それと同時に内包されている莫大なエネルギーが中で一気に爆発する技、かな?」

 

「精いっぱいやらせていただきますッ!!」

 

 

 ただの玉兎(レイセン)はとても良い返事とともに圭太の体を抱えて、少し離れたところで圭太の治療を開始する。と言っても、包帯を巻いたり傷口の消毒などだが。

 大抵の傷は、【再生の炎】で癒えるが、今の圭太はハデスの権能で許容量がいっぱいいっぱいだ。ゆえに使えない。

 

 

 そんな時、全員の隣に、オーロラカーテンが出現した。

 

 

「よう。お疲れさん」

 

 

 オーロラカーテンが消滅し、そこから零夜とルーミアが姿を表す。

 零夜は辺りを見渡すと、二人の目の前には、知りすぎている人物がたくさんいた。

 

 最初に目が言ったのは、シロ――レイヤだった。彼がフードを外し、素顔を晒している。これには、隣にいるルーミアもびっくりしていた。

 

 

「おま…もういいのか?」

 

「あぁ。もういいよ」

 

「……そうか」

 

 

 零夜は興味なさそうにこの話を終わり、他の人物を見る(正確には痛みで追及する気になれなかっただけ)。豊姫、依姫、レイセン、縛り上げられボロボロな臘月、そしてそれを抱えている――

 

 

「また会ったな、夜神」

 

「龍神!?なんでお前がここにいるんだッ!?――ッ!!」

 

 

 なぜかここにいる龍神の姿に、零夜は驚き再び体を痛める。驚きのあまり自分が重体患者だということを忘れていた。

 それを見かねた龍神が、零夜に近づき、手をかざした。すると、緑色の光が、零夜を包み込んだ。

 

 

「これは…」

 

「三年前、お前に施したのと同じ術だ。前よりも強力だ、すぐに治るだろう」

 

 

 龍神の術が終わると、零夜の血濡れの包帯がほどける。零夜は体のところどころを動かして、痛みがないかを確認する。

 それはもうすごいの一言で尽きた。関節の一つを動かすだけであれほど激痛が走った体が、健康体と大差ないほどまでに快復したのだから。

 

 

「おー……2度目とはいえ、何度やられても慣れないな…」

 

「治してやったのになんだその言い草は」

 

「いやいや。これでも褒めてんだよ。ありがとな。……ところで、空真とは?」

 

 

 零夜は一番の疑問を口にした。あの後、空真がどうなったのかすらわからないまま地上に戻ってきてしまったため、事の顛末を知らない。

 龍神は一瞬黙った後、兜の奥にある赤い瞳を光らせた。

 

 

「――ッ」

 

「いや、怖がらなくていい。アイツとは無事、話もできた」

 

「……そうか。良かったな」

 

 

 ここで内容を聞くのは不躾だろう。数百、数千、数億年ぶりの親友(とも)同士の再開。その思い出に、水を差すようなことは無粋の極みだ。

 ゆえに、零夜は何も言わずに、その言葉だけを放った。

 

 

「さて、地上の神たる私がこれ以上月にいるのもまずい。私はこれにて失礼させてもらう」

 

「ん?もう行くのか?」

 

「あぁ。管轄外の場所に長くいると、いろいろと面倒なのでな。それに知りたいこともある程度引き抜けた

 

「お、おお…。そうか」

 

「さらにこの後、そこの男が強奪した私の宝を回収しなければならないからな

 

「あ……頑張れ」

 

 

 そういやそうだったな、と零夜は心の中で思った。

 

 

「そういうわけだ。夜神、機会があればまた会おう」

 

「……あぁ」

 

 

 龍神が後ろを振り向くと同時に、龍神は臘月を地面に投げ捨て、緑色の嵐に包まれ、その場から消えていった。

 文字通り、嵐のように消え去っていった龍神を、一同は無言で見届けた。その静寂が途切れたとき、シロは真っ先に臘月に近づいて、胸倉を掴んだ。

 

 

「さて、起きろ」

 

「あ、が…」

 

 

 臘月は言葉の呂律が回らない。龍神の攻撃を受けて、まともに喋ることもできなければ動くこともできない。権能を発動しても、この状態から変わらないだけだ。回復などしない、できない。

 臘月はすでにいろんな意味で退路が断たれていた。

 

 

「お前が喋る必要はない。ただ、お前の後ろにいる“ナニカ”。それを俺に見せてみろ」

 

 

 鬼気迫る表情で、レイヤの瞳が光る。

 レイヤは【ネメアの獅子】を発動した。魂に干渉する力、魂に詳しくなれる力。これならば、臘月の“魂に刻まれた記録”を直接視ることができる。

 

 こうもレイヤが臘月の後ろにいる“ナニカ”が気になっているのには、理由がある。自分の上司であり■であるあのお方が、臘月のことを知らない以上、別の存在がいるはずだと勘ぐったからだ。

 

 そこにいるのは誰だ。誰が介入している。まさk、

 

 

 

「―――あ?」

 

 

 

 枯れた声が出た。自分でも驚くくらい、枯れた小さな声が出た。その時、レイヤは吐血する。意味が分からない。どうして自分は吐血する?よく考えれば、自分の腹部が熱い。とても熱い。火傷しそうなくらいに熱い。その熱の原因を探るべく、レイヤは自分の腹部を見た。

 

 

腕が生えていた

 

 

 比喩でも何でもない。本当に、自分の腹から腕が生えていた。この腕の発生源は、自分の内部じゃない。外側からの干渉だ。その証拠に、後ろに気配を感じる。

 レイヤはゆっくり、その人物の顔を見た。

 

 

 

「―――デンドロン…?」

 

 

 

 そこにいたのは、レイヤの腹を貫いたのは、まぎれもない、ヘプタ・プラネーテスの一人、【デンドロン・アルボル】その人だった。

 デンドロンは恐悦ともいえる表情をしながら、レイヤの腹を貫いていた。その腕を乱暴に引き抜くと、レイヤの体から血液が大量に噴出する。

 

 

「キャアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 悲鳴を上げたのはレイセンだった。彼女は青ざめながら、腰が抜けた。

 しかし、その声はここにいる全員の脳を活性化させることにつながった。零夜とルーミア、依姫が武器である刃を振るい、豊姫が完全に閉じた扇子を振るう。

 

 デンドロンはその攻撃を爽快なステップで躱し、臘月を回収して全員と距離を取る。

 

 

「シロッ!!」

 

 

 零夜はレイヤに近づき、安否を確認する。幸い、まだ息はしているようだし、傷口から黄緑色の光が漏れていた。【サダルメリク・アクエリアス】の回復の力だ。しかし、光が微妙だし、脈が速すぎる。レイヤは『権能』以外の攻撃を受け付けないというだけで、人間だ。妖怪じみた回復力があるわけでもない。完全に『権能』頼りなのだ。

 そんな人間が、腹を貫かれたら、無事で済むわけがない。完全な奇襲だった。 

 

 一方、デンドロンは臘月のことをじっと見つめていた。

 

 

「おい…、俺の、こと、助、け、ろ…」

 

「――――」

 

「おい!聞いて―――」

 

 

 瞬間、デンドロンの頭が肥大化して、別の生き物(オオカミ)の頭になり、臘月の上半身を捕食した。

 そのあまりにもグロテスクな光景に、全員が息を飲んだ。全員の思考が停止する中、咀嚼音だけがこの空間に響いた。

 全部食べ終わった後、次の一口でデンドロンは臘月の下半身を口内に放り込み、咀嚼する。埒外なまでの悪食さに、もう声も出なかった。

 

 全てを食べ終わり、デンドロンはようやく口を開く。

 

 

 

「この時を待ってたぜ…。邪魔な野郎が消えて、コイツを喰える、今この時を!!」

 

 

 

 デンドロンの声は、愉悦でまみれていた。臘月を喰ったことに、最大限の喜びを感じていた。デンドロンの頭部が、デンドロンのものそのものに戻る。

 デンドロンの口元は臘月の血肉で汚れており、舌なめずりをすることによってキモさ倍増だ。

 

 

 

「ははは…ついに、ついにやったぞ。コイツを喰ったことで、俺はついに、完全な存在へと至れたんだ。コイツの存在を必要としない、一人の人間としてッ!!」

 

 

 

 デンドロンは待っていた。臘月を喰える今この時を。

 デンドロンと言うのは、臘月が創った嘘偽りの仮初めの存在にすぎない。創造主である臘月が死ねば、精神生命体であるデンドロンは、もちろん死ぬ。

 しかし、デンドロンと光輝の『権能』。それは「変化」。そして変化の権能の効果を、忘れてはいないだろうか?

 

 

食べたものの能力を、そのまま使える(能力止まりで)。

 

 

 こうすることによって、デンドロンは『保存』の能力を手に入れていた。しかしそれでは意味がない。デンドロンの自壊は免れない。――通常であれば。

 

 デンドロンは狂気に満ちた目で、天を仰いだ。

 

 

 

「さぁ今こそ貴様が望んだ展開だ!俺に力を寄越せッ!!【デンドロン・アルボル】を触媒に、『固定』の力を俺に寄越せッ!!」

 

 

 

 そのとき、天から一筋の光が、デンドロン――いな、“別の誰か”を包み込んだ。

 零夜は光に攻撃するも、全ての攻撃が弾かれてしまう。なにもできぬまま、光は消えていった。

 

 光に包まれた『何か』の服は、一新されていた。現世であれば誰でも手にいる長袖Тシャツにジーンズ。しかし彼の纏う雰囲気はあまりにも異質だった。

 

 

「……チッ。やっぱ生贄は寄生するだけの【疑似生命体】一体じゃ、『保存』の力を『精神生命体(おれ)』の存在を定着させる力だけで精いっぱいか。この体の持ち主も差し出せればよかったんだな

 

 

 どうやら、会話から察するに、【デンドロン・アルボル】は『権能』覚醒への生贄に差し出されたようだ。しかし、『精神生命体』一体だけでは、『精神生命体』の存在を定着させるだけで手いっぱいだったようだ。

 

 その異常すぎる光景を前にして、零夜は呟いた。

 

 

「お前は……誰だッ!?」

 

 

「あぁん?俺か?そうだな……名乗っとかないとな。俺はこの体の持ち主の光輝でも、『精神生命体』のデンドロン・アルボルでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名は【ゲレル・ユーベル】。ひと時の殺戮(ゆめ)乱交(うたげ)を、楽しもうじゃないか」

 

 

 

 




 アーク

 今回の最大の被害者 その1

 謎の存在(アイツ)によって臘月の精神の奥深くに寄生され、今回体を乗っ取って顕現した。
 しかし謎の存在(アイツ)の“余興”によってアークにとって最大限の屈辱である『感情』と言うデータをインストールされ、その弊害で“結論の予測”に不備が生じる(詳しく書けば『感情』があることによって“無慈悲さ”が薄くなり自分の行動選択のパターンが削減された)。
 だがしかし、謎の存在(アイツ)によって本来のスペックより何十倍にも引き上げられており、その時点で一人で幻想郷(龍神除く)を一人で相手できるレベル。
 だが、龍神にあっけなくやられ、龍神の強さを証明する引き立て役になった本当にありがとうございます。

 どうやら謎の存在(アイツ)に臘月の精神に寄生させられたときに、謎の存在(アイツ)謎の存在(アイツ)と同列の存在の情報をある程度インプットされていたようだ。


 龍神

 作者(龍狐)が認める公式チート。
 
 あのアークを赤子の手をひねるように破壊したマジヤバイチートキャラ。
 

 ちなみにアークを倒したあの技、全体の5%くらいの力で放ったらしい。



 綿月臘月

 今回の最大の被害者 その2
 アークに体を乗っ取られてボコボコにされた後に、デンドロン?に喰われる。




 デンドロン・アルボル(ゲレル・ユーベル)

 ゲレルは、『精神生命体』だった。
 衝撃の新事実。

 ちょっとした伏線回収。
 臘月はヘプタ・プラネーテスの名前を本来の名前に存在する漢字をギリシャ語とローマ語に直しただけだった。

 実は一番最初に寄生させた生命体はゲレルであり、【光輝】と聞いて最初に考え付くのはゲレル(モンゴル語で光)だった。当初はギリシャ語とローマ語で統一させるという考えを持っていなかった。ユーベル(ドイツ語で悪い、卑劣)は完全に面白がってつけた。
 あとから【デンドロン・アルボル】と言う名を付け足し、一つの体に三つの人格が宿った。それから基本的に体を動かしているのはデンドロンだった。





 正直言ってようやく出せてすっきり。




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