東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 ※注意!

 この話には“性暴行”のシーンがあります。嫌だという人はブラウザバックを推奨。




 今更ながらゲレルのちょい設定。


 3話の初登場時。

 天然パーマの金髪。赤い瞳。
 顔立ちは紅夜をより男っぽくした感じ。

 能力は『光支配』


 タケトリモノガタリ 兼 光輝&デンドロン の時

 ストレートパーマの黒髪青瞳。
 顔立ちはどこにでもいる普通の好青年

 能力は『変化』


 どう考えても違くね?





85 ゲレル・ユーベル

 ゲレル・ユーベルと言う人物についての話をしよう。

 まず最初に厳密にいえば、ゲレル・ユーベルと言う人物はこの世に存在しない。それもそのはず。何故ならゲレル・ユーベルは【綿月臘月】によって創られた人口生命体――『精神生命体』だからだ。

 

 ゲレル・ユーベルと言う人物の言い方を変えれば、“実験番号1”だ。ゲレル・ユーベルは臘月の精神生命体創造の第一号の生命体だった。

 臘月が“光輝”に“ゲレル・ユーベル”と言う名前を付けた理由――そこに得に意味はない。強いていうなら臘月はモンゴル語:光の意味のゲレルとドイツ語:卑劣の意味のユーベルを合わせただけで、得に意味など考えていなかった。

 

 ゲレル・ユーベルは臘月(おや)にとても似ている。“子は親に似る”と言われているが、この二人はその典型(てんけい)だ。臘月の悪意の裏には、悲しい過去が存在した。しかし、ゲレル・ユーベルにはそれがない。

 これは臘月も知らないことだが、臘月が生み出す精神生命体の思考回路は、()みの親である臘月の思考パターンに依存する。逆に臘月が知っていたのは思考回路をある程度自由に設定できるということのみ。『精神生命体』は50%以上が宿主の思考回路に依存しているため、結局は臘月寄りの生物が生まれるだけだ。

 

 さらには、臘月の創る精神生命体は、創ったらすぐに稼働するわけではない。元の体の持ち主の人格を上塗りするのにも時間を要するし、何よりその人物の記憶を全て引き継ぐため、それらの整理などに時間を要するのだ。

 失踪した人物が数日後に突如人格変貌して戻ってくるという真の真相は、これである。ただ単に時間が必要だったのだ。

 

 そして、ゲレル・ユーベルもその例に洩れなかった。

 臘月は一番最初の精神生命体を創る際の素体を探していた時、そのお眼鏡に叶った憐れな犠牲者が、光輝だった。理由は割愛するが、光輝を呼び出した臘月は、すぐさま光輝に『固定』の権能の力で『精神生命体(ゲレル・ユーベル)』を創りだした。

 

 しかし、成功だったはずの実験は、臘月の思い込みで失敗と言うことになった

 精神生命体が生まれてから稼働するまでのタイムラグを当時まだ知らなかった臘月は、これを失敗だと決めつけ、それをそのまま放置。臘月良くも悪くも前向きだった。それゆえに【ゲレル・ユーベル】と言う存在は臘月の中で消えていった。

 だが、しっかりとゲレル・ユーベルは生きていた。宿主の記憶、そして自身を創んだ創造主すべてのことを数日と言う時間を持って理解し、彼が感じた初めての感情は怒りではなく歓喜だった。

 

 宿主が自分のことを忘れていることは、勘で理解していた。何せ、ゲレル・ユーベルの思考回路のほとんどが臘月に依存していたからだ。それはほとんど本人と言っても差し支えない。自分の思考だからこそ、理解が簡単だった。

 状況を完全に理解したゲレルは好き勝手生きることに決めたが、そうは問屋が卸さないのが臘月の思考による影響だ。臘月は粗雑に見えてかなりの慎重派だ。その考え方もまるっきりゲレルに移っていた。自分の性欲のまま行動しても、処刑されるのがオチだと、光輝の記憶から理解していたからだ。

 ゆえにしばらくは光輝のふりをして生活していた。猫かぶりの生活はかなり辛かった。しかし、オリジナルにできて自分にできないはずがないと自分を自制し続けた。そんな生活を続けているうちに、月から地上に行く方法を見つけた。

 

 【天の羽衣】と言う玉兎がよく使う地上への道だ。玉兎しか使わないから調べるのが大変だったし、表で探すわけにもいかなかった。ここの住民たちは地上を地獄として見ている傾向が強いため、個人的な用事で地上に行きたいなどと呟けば叩かれることは間違いなかったからだ。

 そんなタイミングを見計らう日々、ついにゲレルは休暇を手に入れることができた。光輝はもともと戦闘ではなく裏方――回復薬を創る部署の人間だった。ゆえに戦闘もほとんどないため、無事取れた。と言うか大分前から休暇はもらえていたが、その時間のほとんどを地上への行き来の方法を探っていた。

 

 ゲレルはこの休暇を利用しまくった。5日間の休暇。今までの中で最も長い休暇だ。これを利用しない手はなかった。

 【天の羽衣】の位置は特定済み。あとはそれを盗むだけ。これに一日を労した。地上に行く手段とあって、管理が厳重だったことを記録しておく。しかし警備が厳重な割には管理が雑だったことは気にしないでおくことにした。

 

 周りに残りの時間は部屋から出ないという旨を伝えた。理由としては読書をしていたいからと誤魔化した。光輝は読書が趣味だというのは同じ研究者の間では周知のことだったので、存分に利用させてもらった。

 カモフラージュのために図書館から薬学の本を大量に借りて、保存食も大量に買っておいた。さらに光輝は宿屋の部屋を借りて不在をアピールした。部屋は完全防音機能(オンオフ可能)と風呂とトイレもついている完全な個人部屋を選択した。こればっかりには月の技術に感謝したものだ。

 宿屋の職員にも4日間部屋に閉じこもるという旨を伝えたため、準備は万全だ。休暇2日目の夜にゲレルは月を脱出した。

 

 このときばかりは、歓喜で埋め尽くされた。

 

 

 休み3日目。

 

 

 この日はまさに運が良かった。

 ゲレルが降り立ったのは、緑が茂る森の中だった。そんな中をぶらぶら散策していたら、偶然裸体の女性を見つけた。しかもかなりの豊満スタイルで、ゲレルの好みドストライクだった。

 

 早速自分勝手な理屈を並べながらその女を犯そうと思った瞬間、別の女に邪魔をされた。

 ただでさえこの女が抵抗して、3日目が無意味に潰れそうになり、憤っていたところのお預けだ。怒らないはずがなかった。

 

 しかし、本来そう思うべきはずなのに、邪魔した女もゲレルの好みにピッタリハマっていた。長い金髪にサラシに紅い法被、長いパンツと言った騎士のような女だった。

 

 その女とも戦闘になり、勝利した。もう片方の女の方には逃げられたようだったが、もうどうでもいい。今すぐにでも目の前の女をグチャグチャになるまで犯したくなった。

 絶望に染まった顔の女の服を裂き、貪る。ゲレルも光輝も、女性経験がなく、これが始めてだった。ゲレルは決めた。残り2日は、決定的にこの女を落とすと。

 

 

 休み4日目。

 

 

 あれから、ずっと、ずっと、ずっと、目の前の女を貪り続けていた。誰にも見つからないように、巨木に自分たちが入れるくらいの穴を空けて、そこでずっと、ずっと、ずっと―――。

 休みなど与えるつもりなどない。最初は大声で叫んでいた女も、今じゃ何も言わない。そんなことを続けているうちに、ゲレルを、とある感情が支配した。

 

 

この女を何度も復活(なお)して絶頂(こわ)してやりたい

 

 

 はっきりと言おう。ゲレル・ユーベル。彼は生粋のドSだ。だからこそ、被虐心が心の底から湧き上がってくる。

 かれこれ一日中、彼女の(ナカ)に自分の子種を注ぎまくった。だからこそ、受精(デキ)てなくてはおかしい。

 

 話は変わるが、彼の能力は『変化』だ。この能力は扱いがとても難しく、繊細さを要求される能力だ。一歩間違えれば必要以上に変化させてしまい変化させたもの全てをオジャンにしてしまう可能性があるからだ。だからこそこの体の本来の持ち主である光輝も自身の能力の使用を躊躇っていた。

 

 しかし、ゲレルは粗暴で野蛮な性格とは裏腹に能力の扱いがとても長けていた。だからこそ彼女の体を変化させるなど彼にとっては子供向けの16ピースほどのパズルを完成させる程度に等しかった。

 最初に変化させたのは、彼女の子宮に存在する新たな生命の成長速度だった。ただ能力を行使する。それだけの行為で目の前の女の腹が膨れ上がる。なんと愉快(ゆかい)なことだろうか。

 

 しかし、そうなればその生命に栄養が行ってしまい、母体が死んでしまう可能性も十分あった。仮にも光輝(ゲレル)は人の命を扱う薬品を作る部署で働いているのだ。その程度の知識もなければあそこではやっていけない。

 幸い、食料はたくさん持ってきている。この買いだめも、あの設定が役に立った。

 

 女に口移しで食事を与え、栄養を取らせる。消化、吸収も『変化』の力で即座に執り行った。そしてその栄養が生命へと向かっていく。このスパイラルが、10か月レベルになるまでずっとずっと続けていく。

 強制的な消化と吸収速度上昇による体の負担など、ゲレルにとってどうでもよかった。ただ、自分が愉悦(たの)しめればいいのだから。

 

 

 休暇5日目

 

 

 今日で終わりの休暇。もう2日も続けて動き続けている。流石に自分の体力も限界が近づいてきた。そう思うと、体の体臭が酷い。ずっと夢中で自分の匂いにすら気づかなかった。この独特な匂いが空間中に霧散して、とても不快だ。よく嗅ぐと、女の方も臭かった。

 

 

「くっせぇな…。確か近くに湖があったな。あそこで洗うか」

 

 

 その悪臭の原因は間違いなく自分にあるというのに、棚に上げて女を姫様抱っこで持ち上げた(ゲレル的には重身の女を担ぐにはこの持ち方が一番楽と言う持論である)。とても重かったが、御自慢の筋肉でなんとかなった。

 光輝はなぜかインドア派でデスクワークが主な仕事のはずなのに筋肉がついていた。何故かと考える余裕はなかった、と言うより考えるのが面倒臭かったので思考を放棄した。

 

 ゲレルは女を乱暴に湖に投げ、浅瀬の部分に投げたため、体の上半分が水に浮かぶ。

 二日ぶりの洗体だ。水が冷たいが、体を清められるなら我慢できる。ふと水に体を浮かばせている無心の女を再び目に入れる。なんだろう、この気持ちは。この体を、二日間も貪って、犯して、堕としてきたというのに、まだ足りないのか、まだ尽きないのか、俺の欲望は。

 

 気づけばまた女を貪っていた。低い水温と高くなる体温がミスマッチなのかベストマッチなのかはわからない。

 ただ、女を貪りたいその一心で、体を動かし続けた。

 

 

――そんなとき、

 

 

「ヴッ!!」

 

「あ?」

 

 

 女が突如として腹を抱えた。とても苦しそうな顔に、流石のゲレルも戸惑い女から離れる。さっきまで無心で、表情一つすら変えなかった女が、突然お腹を押さえて苦しみ出した。つまり、これは――、

 

 

(おいおい、今かよ。せめてタイミング考えろよ…)

 

 

 ゲレルがその状況を完全に理解した後に出てきた感情は、呆れ、だった。

 せめて自分が完全にイったときに陣痛が来て欲しかった。これでは不完全燃焼だ。そう呆れていると、ゲレルの耳から徴収される音に、とある変化に気付いた。

 

 

(なにかが近づいてきてやがる…。新手か?しっかしこいつはどうするか…。まぁいいや。捨ておこ

 

 

 ゲレルは放置を決めた。

 今の自分はただでさえ2日間も動き続けて疲弊しているのだ。もし近づいている存在が自分に友好的かつ自分と同じ思考の持ち主だったとしても、これはもう自分のものだ。くれてやるつもりもない。しかし、持って帰るということもできない。

 どうしたものか、こう考えているうちにも足音の存在は近づいてくる。

 

 そんな中、ゲレルがとった選択は――、

 

 

(……帰るか)

 

 

 帰還(かえ)ることだった。

 これ以上地上にいれば、浄化が困難なほどに穢れがこびりつくだろう。残りの時間は、体にこびりついている穢れの除去をすべきだ。

 そう考えたゲレルは、『変化』の力で体の体温を上昇させ、水を乾かす。そのまま服を着て、天の羽衣で宙に浮かび、そのまま月へ向かってまっしぐら。

 

 どんどん遠くなっていく地球。

 その時かすかに耳に入った、女の声。

 

 

「――レイラッ!!」

 

 

(へー、あの女、レイラって名前だったんだ。まぁ、どーでもいいが)

 

 

 本人が名乗った名前すら、ゲレルにとっては忘れてもいい程度の価値でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと、穢れを完全に除去することができたゲレルは、何事もなかったかのように宿屋の扉から姿を表す。天の羽衣も無事返還したし、問題ない。いつも通り光輝の皮をかぶって仕事に励む毎日だった。

 

 しかし、あれ以降欲求不満が続いていた。本物の味を知ってしまった以上、もう自慰行為だけでは満足することはできなかった。

 だからこそ、数を増やした。天の羽衣を盗み、地上の女を貪り、犯す機会を。1年に数回を、1ヵ月に1回するようになった。本当は一週間に一回くらいにしたかったが、仕事の都合上することができなかった。こればっかりは自身の役職を恨んだものだ。

 

 

 そんなある日、あの時から十数年ほど経った後の話だ。

 地下の空間に『変化』が感じられた。他人ではわからないほど微弱なまでの『変化』。これは『変化』の能力を持つ光輝(ゲレル)であったからこそ分かった変化だった。

 

 

(まぁいいか)

 

 

 この変化は、見逃した。別に告発したからと言って自分になにか利益があるわけでもないし、何より犯人が分からなければ意味がない。そんな意味のない行為をするほど、ゲレルは暇ではなかった。

 

 そんな日々を過ごしているとき、臘月から直接呼ばれた。その呼び出しに驚いたが、断ると面倒そうなので、素直についていくことにした。

 

 

(今更になってなんのつもりだ?今になって俺のことを思い出したか?なんで今になって?……どっちにしろ、なんだか嫌な予感がすんな)

 

 

 そのゲレルの嫌な予感はあたっていた。ゲレルは臘月の部屋に入ってすぐ臘月にこう宣言された。

 

 

「宣言する。今日からお前の名前は【デンドロン・アルボル】だ」

 

「―――は?」

 

 

 思わず素が出てしまった。――その瞬間、ゲレルの意識がどんどん暗転していく。

 しまった、忘れていた。これはあれだ。自分が作られたときの状況そのままじゃないか。この男が自分のことを忘れているのは想像がついていた。だが、しかしそれに重ねてまた新しい人格を作ろうとしているなんて、さすがのゲレルでも予想が付かなかった。

 

 

(まずい。オレの意識が、どんどん遠ざかって…。クソ、が……)

 

 

 ここで、ゲレル・ユーベルにデンドロン・アルボルが上書きされた。

 ゲレルの意識はしばらくの間、何年だろうか、ずっと、ずっと眠っていた。

 

 しかし――、

 

 

 デンドロン・アルボルの意識が、希薄になる。その瞬間に、上書きされていたゲレルの意識は覚醒した。

 

 

「……あ?」

 

 

 目が覚めた時、感じたのは痛みだった。激痛が体に走る。同時に、脳にもだ。同じだ、あの時と。自分が初めて生まれたときに、光輝の知識や記憶をインプットしたときと。光輝の知識は数億年と長く数日の時間を要したが、デンドロンの知識はたかが数年。インプットにそう時間はかからなかった。

 その瞬間にゲレルは全ての状況を把握した。

 

 

(そうか…俺が眠ってる間に、そんなことがあったのか。だったら、まず最初にするべきは…敵戦力の確認だな)

 

 

 ゲレルは物事を冷静に対処できる頭脳は一応持っていた。この性格も、完全臘月譲りだが。

 だから、最初は目の前の敵――黒い男と自分が最初に犯した女と戦った。完全にデンドロンになり切れていたと思う。

 

 この『とある存在』によってデンドロン・アルボルの理性を生贄にして無理やり覚醒されていたようだが、使えるものは何でも使う主義だ。そいつがなにものであろうと関係ない。

 

 そもそも、デンドロン自体、キャラが定まっておらず、キャラが大分変わっても不思議に思われなかったのが不幸中の幸いである。

 

 おかげで、あの二人は完全に自分をデンドロンとして扱っていた。それにそのおかげで、敵戦力のことも調べることができた。

 最初は大怪我で呂律が回らなかったが、なんとか喋ることができた。

 

 

「アァー、アァー、アァ―。ボーヤク……ゴーヤク…ヨーヤク。ようやく。ようやく排除できた…。排除すべき敵をなァッ!!」

 

 

 これが数年ぶりにまともに話せた言葉だった。

 その途中まで自分の体を獣のものに変質させるという体質を会得していたのは自分でも若干引いた。女を喰い(おかし)に別の国に行った際、食料調達でその辺にいた動物を狩って食したことはあるが、まさかそのまま使われるとは思っていなかった。

 

 正直言って、デンドロンを演じるのは滅茶苦茶疲れた。何がうれしくて自分を忘れて封じ込めた相手に極上の女を献上しなくてはならないんだ。

 しかし、デンドロンはそういう性格のため、耐えてきた。

 

 最後にはやられ縛られる末路になったが―――、今こうして、反撃の狼煙を上げることができた。

 

 臘月を喰った。意識を閉じ込めてくれやがった罰だ。それに、喰ったおかげでの存在を確立できた。精神生命体の指揮権も、今はゲレルの手にある。

 一番邪魔なやつも排除できて今はあの有様だ。『とある存在』のアドバイスでアイツ(シロ)から回収した“アレ”も、アドバンテージとして存分に利用させてもらう

 デンドロンの魂とついでに回収したアレも正式な権能獲得のために捧げた。アレについてはなにかは分からないが、更なる新しい力が手に入ると。『とある存在』に言われたんだ。なら、使うべきだと判断した。

 

 

 さらに目の前には、あの時犯し損ねた女が、極上の女がいる。あぁ犯したい。グチャグチャになるまで、犯したい。男どもをぶっ殺したら、嬲ってやるから、覚悟しとけよ。

 

 

 さぁ、蹂躙の時だ。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

「ゲレル・ユーベル…!?」

 

 

 忘れない。忘れられるはずがない。その忌々しい名前を。何度その名を聞いて不快になったか。数々の女性の命と尊厳を踏みにじった、存在悪。

 ライラとともに、存在を討伐することを条件にこの戦に参加してもらい、いずれ探すつもりだったが、まさかの場所で、出会ってしまった。この、最悪の状況で。

 

 

 そして何よりもこの場で唯一の権能持ちであるシロがこの状況だ。ヤツはこの状況を今まで狙っていた。自分以外の権能持ちを排除できるこの状況を。

 ライラは度重なる戦闘でこれ以上無理をさせることは躊躇われる。さらに零夜は紅夜が部分的とはいえ権能に覚醒したことをまだ知らない。今この場にいる唯一の権能持ちの圭太は気絶中。その治療をしているただの玉兎(レイセン)でさえ今の状況を理解できずにてんやわんや状態だ。

 

 

「そうッ!!俺こそがゲレル・ユーベルだッ!その反応、どうやら俺のことを知ってるっぽいな?どうせあのお前の隣にいた金髪の女から聞いたんだろ?分かるよッ!あの女は俺の童貞卒業(ハジメテ)の女だからなぁ!」

 

「てめぇ…ッ!!」

 

 

 あの時の状況(こと)を笑いながら語るゲレルに、零夜は怒りしか湧いてこない。しかし、なんだこの齟齬感は。その理由はすぐにわかった。ゲレルは、ライラをレイラと勘違いしている。

 あの姉妹は双子だ。知らなければ本人だと思っていてもおかしくはない。ゲレルの認識では自分と一緒にいたのはレイラと言う認識のようだ。その認識にはおそらく、レイラと同じ服装をしているというもの理由の一つだろう。

 

 しかし、気がかりなことがある。容姿(みため)が全然違う。始めてあったときのゲレルは天パの金髪紅瞳だ。しかし目の前の男性――ゲレルはストレートの黒目黒髪だ。どう考えても零夜やルーミアの知っているゲレルではない。

 

 だが、今はそんなことを考えている場合でない。ゲレルの感情はハイで、今でも流暢に喋り続けている。

 

 

「それにそこの女。俺が犯し損ねた女だ。これはもう運命だなッ!!いくら離れても、俺たちは運命と言う糸で結ばれてる証拠だ!!」

 

「――――」

 

 

 ゲレルが次に目に移した、金髪の美女――ルーミアは、いつの間にか手に握っていた闇の剣を強く握り締める。

 あの視線が気持ち悪い。不快だ、今すぐに逃げ出したい。しかし、逃げたくない。『自分』と向き合ったんだ。もう、逃げてたまるか。

 

 

「勝手に妄想決め込まないでよ、気持ち悪い。生憎とこっちにはもうお相手がいるの。あんたはお呼びじゃないのよ!!」

 

「へー。お前、男ができたんだー。あの時無様に逃げた女を好きになる男なんて、いたんだー」

 

「……?それって、どういう――」

 

 

 聞きなれない初めて聞いたことに、零夜が反応するが、その瞬間――零夜の口を、ルーミアの唇が塞いだ

 

 

「――――」

 

「―――は?」

 

「「「「えッ?」」」」

 

 

 瞬間、時が止まった。上から順に、零夜、ゲレル、女子勢である。このシリアスな場面での突然の接吻 (キス)。あまりにも場違いな行動に、全員の行動が停止した。

 長い口づけのあと、ルーミアはゲレルに言い放つ。

 

 

「こういうわけだからッ!あんたの入り込む余地なんて存在しないからッ!」

 

「へー、見せつけてくれるねー。なるほどなるほど。だったら、男の前でお前を犯したら、もっと楽しくなるかもな?

 

(……やっぱり、そう来るわよね。……上等よ)

 

 

 ルーミアは全員より前に出て、闇の剣を構える。その構えを見て、ゲレルは舌なめずりをする。もうどうやら、ルーミアに勝った後の妄想が止まらないでいるようだ。

 完全になめられている。

 

 

「なにが…どうなってんだ?」

 

「はは…僕を間にラブコメをしないでくれないかな…」

 

「シロッ!?良かった、まだ意識はあるんだなッ!?」

 

 

 レイヤがそう呟いて、零夜がレイヤの生存を確認できたことに驚いた。あの呟きは聞こえなかったが、とにかくまだ生きていたことに安堵するばかりであった。

 

 

「まぁなんとかね…でも、しばらくは動けそうにないや。だから、頼んだよ」

 

「だが、今この場に権能持ちはいない。いるにはいるが、全員が再起不能だ。今のアイツに、俺たちが勝つ手段なんて――」

 

「いや、まだあるでしょ?地球(した)に」

 

「……した?」

 

 

 した?下とは、地上のことを指しているのか?確かにあの場所には権能持ちがいる。だが、相手は驚異的なまでの回復力で全快しており、こっちはすでに再起不能者が多い状況。焼石に水にしか思えない。

 

 

懐かしい気配がしたんだ

 

「…え?」

 

あり得ないのに…。あの懐かしい気配が、近くにいるような気がするんだ。きっと、彼なら…

 

「お前、さっきから、何言って――」

 

 

「もうお話は終わりか?だったらこっちから行かせてもらうぜッ!!」

 

 

 ゲレルが地面の砂を掴むと、それをぶん投げる。砂の速度は『変化』によって過剰なまでの上昇し、弾丸にも等しい威力を保有していた。

 この技は臘月を喰ったことで手に入れた技だ。臘月を喰ったことで、彼の技そのままそっくり、コピーしている。『変化』の権能で再現できる範囲に限るが。

 

 

「遅いッ!」

 

 

 しかし、それよりも早くルーミアが地面に手を付け、闇の壁を生成し、砂の弾丸を全て防ぐ。

 

 

「なにッ!?」

 

「悪いわね。臘月の技はある程度とっくに対策ができてるの。それに……今の、いえ。これからの私は一味も二味も、百味レベルで違うんだからッ!!

 

 

 そう豪語するルーミアは、確かに最初のときとはレベルが違っていた。闘いになった途端に開放された妖力。それは今までの比でなかった。明らかに増えている。増えすぎている。たった短期間で、ここまで増えて、成長するものなのか?

 

 

「ルーミア、お前、なにがあった?」

 

「その説明はあと!零夜、戦える!?」

 

「―――もちろんだッ!!」

 

 

 腕に抱えているシロは他四名に任せる。シロにも回復の権能がある。時間が経てば回復してくれるはずだ。その回復に必要な時間がどれほどかかるのかはわからないが、やるしかないというのが現状だ。

 零夜はルーミアの隣に立ち、ゲレルを睨む。

 

 

「おー怖。そんなに睨んじまってよ、疲れねぇの?」

 

「そこらへんは大丈夫だ。ようやくお前をぶっ飛ばせると思うと、気分が高揚するからよ」

 

「はっ。短絡的な思考の持ち主か。いいよな気楽で。まだ俺に勝てるだなんて幻想を抱いているんだからよ。知ってるか?俺は今『権能』と言う圧倒的な力で全てを蹂躙し、格下からの攻撃を一切寄せ付けない“権限”を持っているんだ!対してお前らはその“権限”を持ち合わせていないッ!これが何を意味するか分かるか?お前らは俺に勝てないと言う無情なまでの現実なんだよ。わかったか?分かったならお前はさっさと死んで女の方は俺に体を売るのが正当なまでの現実――」

 

「うっせぇッ!!」

 

 

 零夜は手榴弾を『創造』してゲレルに投げつける。ゲレルの足元が爆音とともに爆発する。

 あの長話は毎度毎度のことで聞き飽きた。今思えば、臘月とゲレルは“長話”と言う点で似ていた。もしかしたら創造主と寄生体は似るのかもしれない。今となっては真相は分からないが。

 

 

「もうてめぇの長話は聞き飽きてうんざりなんだよッ!!20文字以内で簡潔にまとめろッ!!」

 

「そうかそうか……俺は優しいからよ。ちゃんとまとめてやるよ」

 

 

 爆風と土煙が晴れると、デンドロンの体は服がボロボロになり、体のところどころに傷ができていた。顔には青筋が浮かんでいて、明らかに怒りのボルテージがマックスであることを物語っていた。

 

 

「まずは女……てめぇは壊れるまで犯しつくすコースに変更はねぇ。」

 

「―――ッ」

 

 

 ルーミアの顔が強張る。何度も聞いている言葉でも、もしそれが現実になったらと言う妄想が止まらないのだろう。しかし、すぐに心の迷いが消えたかのようにまっすぐ目の前を見つめていた。

 しかし、ゲレルにはその顔は見えておらず、そのまま言葉を続けた。

 

 

「あそこの女どももだ。お前らも纏めて俺の性奴隷(オモチャ)にしてやる」

 

「「「「―――ッ」」」」

 

 

 次はゲレルの下劣な瞳が四人に向けられた。玉兎二人は完全に怯えきっており、豊姫と依姫は睨みながらも、冷や汗が止まっていない。力の差を完全に理解して、“勝てない”と言う潜在意識が浅層(せんそう)まで浮かび上がってきていた。

 

 

「そして最後に男ども…。あそこの瀕死のゴミどもはあとでじっくり殺す。そして黒野郎。てめぇは―――この世のありとあらゆる拷問(責め苦)で嬲り殺しにしてやる。そのあとに、てめぇの目の前でてめぇの女を、犯してやるよ」

 

 

 ゲレルは怒りが限界にまで到達していた。――しかし、それはこちらも同じこと。零夜とて、そこまで言われたら黙っているわけにはいかない。

 青筋が立ち、怒りボルテージが限界値なのは、零夜も同じだ。

 

 

「だからよ…てめぇの相手は俺じゃねぇ。来いッ!マリオネットどもッ!!」

 

 

 ゲレルがそう叫んだ瞬間、ゲレルが言ったマリオネットたちが姿を――、

 

 

「―――?」

 

「え?」

 

「「「「――――」」」」

 

 

「は?」

 

 

 しかし、なにも起きなかった。全員が呆気に取られている中、ゲレルにも予想外の出来事だったらしく、辺りを見渡している。

 

 

「どうした?何故来ない!?さっさと来い!俺の命令に従えっ!人形のくせにッ!!」

 

 

 喚き散らかすゲレルを視界の端で捉えながら、零夜やルーミアもこの謎の現象に戸惑っていた。

 マリオネットと言うのは、ゲレルと同じ精神生命体たちのことだろう。ゲレルの『変化』は喰った相手の能力をそのまま使うことができて、この場合『固定』は使えないが、精神生命体の支配権を獲得していたのだろう。

 しかし、その人形たちが一行に来る気配がない。

 

 そんな困惑が場を支配する中――、突如、豊姫の無線機が鳴る。豊姫は困惑しながら、無線機を取った。

 

 

えーこちら空真。豊姫様、聞こえますか?

 

 

 その声の主は、ウラノスではない、空真だった。

 突如聞こえた空真の声に、豊姫たちの表情が強張った。無理もない。豊姫達の認識では、臘月の精神生命体は死してなおゲレルの手によって支配下にあると言うことだったのだから。それが、空真が本来の自分を取り戻していたことに、驚きを感じ得なかった。

 

 

「空真!?どうして!?」

 

驚くのも無理はありません。私もアヤネから聞いたことですが、白服の御仁が、私を【ウラノス】から救ってくださったのです

 

 

 全員の視線が、シロに向く。シロはシロで大けがをしているが、視線程度に気付いているので、小声で「ジロジロ見ないでくれないかな…」と呟く。

 

 

あの映像、私も拝見しました。驚きを禁じ得ませんでしたが、いろいろ納得も行きました

 

「そんなことはどうでもいいッ!!他の奴らはどうした!?まさか、そいつらもアイツが…!!」

 

違うさ。光輝。いや、デンドロンと言った方がいいか?

 

 

 ゲレルの予測(もうそう)を、空真は即座に否定した。

 

 

「名前を間違えんじゃねぇ!!俺はゲレル・ユーベルっつー名前があるッ!そんなクソみらいにダセェで呼ぶな!」

 

なに?―――いや、そうか。失礼したな。ゲレル

 

 

 通信機越しからでも空真の困惑を感じ取れるには十分だった。しかし、あっちも軍隊長。情報処理は常人以上に早かった。

 

 

ではお前の質問に答えよう。お前の兵士たちは、全てこちらで無力化しておいた

 

「なに――ッ!!?」

 

 

 ゲレルの鈍い声が、辺り一帯に響いた。予想外の出来事が、辛くゲレルの胸に響いた。やがてその怒りはふつふつと彼の中で燃え上がり――、

 

 

「あ゛あぁあああああああああああッ!!!」

 

 

 雄叫びを――咆哮を上げた。

 自分の思い通りに事が進まないことによる憤り、自身のルートを崩されたことによる強い憤怒、それらをひとまとめの怒りへと変換したのが、この感情――怒りだ。

 

 

「クソがクソがクソがクソがッ!どうして俺のシナリオを書き換える!?どこに、その権利がある!?どうして主張する!?存在しない権利を!俺の邪魔をするなぁ!!」

 

権利?んなもん最初からてめぇーに存在してねぇだろッ!!

 

 

 今度は無線機から違う声が聞こえた。声の主は女性で、その正体はアヤネだ。

 

 

アヤネッ!?

 

ちょっと貸せ。おいこら聞こえてんなゴミカス

 

「てめぇ…ッ!!」

 

てめぇのお人形たちはこっちでぜーんぶぶっ潰したッ!要するにてめぇを助けるやつなんざ一人もいねぇ!!

 

「あの、野郎、ども…ッ!!」

 

 

 ゲレルの青筋がさらに酷くなる。そして、無線機の奥から聞こえてくる笑い声。この場は完全にアヤネの支配域だった。

 

 

ま、まぁと、いうわけだ。こちらはこちらでやっておくから、そちらで全力を出してくれ

 

「……あんがとな」

 

礼を言われる筋合いはないさ。これを機に、私の“ウラノス”としての汚名を(そそ)がせてもらう。我が名に賭けて、そちらに援軍を来させないことを、約束しよう

 

 

 ここで無線機が切れた。

 

 

「――と、いうわけだ。あとはお前だけってわけだ」

 

「調子に乗るなッ!!いくら強がっても、()()()()()の中途半端な権能のカスは、俺の敵じゃない!」

 

「わりーな。別に俺らがお前に勝つ必要はねぇんだわ。つーわけだ。行くぞ」

 

 

 亜空間から【ダークディケイドドライバー ver‐neo】を取り出し、ベルトとして装着する。左腰のライドブッカーから【ディケイド】のライダーカードを取り出す。左右のサイドハンドルを引くことで中央のバックルが回転、カード挿入部が露出する。

 ライダーカードを装填し、変身する。

 

 

「変身」

 

 

KAMENRIDE DECAED!

 

 

 2次元に封じられているライダーカードのエネルギーを3次元に解放し、それを纏う。

 零夜は【ダークディケイド】へと姿を変え、その圧倒的で禍々しい王者の風格を纏って、この場へと再び立った。

 

 ライドブッカーをソードモードにして、構える。ルーミアとダークディケイド。二人が並び、互いに剣先をゲレルに向けた。

 

 

「こけおどしが…。姿変えなきゃまともに戦えねぇクズが、俺に敵うわけねぇだろッ!!」

 

『だから言ったろ。俺たちがお前に勝つ必要はない』

 

「そういうこと。だから、さっさと終わらせたいの。あんたなんかに構ってるほど、私たちは暇じゃないってわけ」

 

「上等だァ…。犯して嬲ってぶち殺すッ!!」

 

 

 

 

――始まる。本当の、最終決戦が。

 

 

 

 

 

 

 

 





 ゲレルが対象に【精神生命体】を寄生させるためには本来、50%以上の信頼を得ないと発動しないという気難しい条件があります。


 次回はゲレルVSダークディケイド&ルーミア


 ルーミアの急な謎の変化は一体!?
 

 次回もお楽しみに!


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