東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 この話で、ちょっと過去の回想入るよ、具体的に言うとね、ゲレルの回想で地上から飛び立ったあとのお話。

 今回も、じっくり見て行ってくれ!


87 因縁の対決

「ライラ…」

 

 

 突如として現れた援軍に、零夜は言葉を零した。

 何故彼女がここに?と言う疑問をすっ飛ばすほど、ありがたい援軍だ。しかし、そんな呟きは虚空の彼方へと捨て去られ、この場の発言権は完全にライラとゲレルの手中にあった。

 

 

『ライラ…?俺ガ犯シタ女ト一文字違ウナァ。誰ダオ前?』

 

「――貴様の耳は節穴か?私は言ったはずだ。敵討ちだと。私の妹な」

 

『妹…ソウカ。アイツニ姉ガイタノカ。ソウ言エバ、俺ガ帰ルトキニオ前ト似タ声ヲ聴イタナァ』

 

 

 間違いを訂正しても、ゲレルの声の振動はなんの変化も起きていない。気にもかけていない証拠だ。

 ゲレルにとって、双子の姉妹とか、そんなことはどうでもよかった。ただ、どっちも女なのだから。

 

 

「覚えているか…。ならば話は速い。その命、刈り取らせてもらう」

 

『ハッハッハッ!俺ヨリ弱イヤツガ何ヲ言ッテモ無駄ダ!オ前モ権能ヲ持ッテルミタイダガ、俺ノ足元ニモ及バナ――』

 

 

 瞬間、光の一閃によってゲレルの体が複雑に切り刻まれる。

 手も足も、胴体もなにもかもが切り刻まれ、ゲレルは全てを言い切る前に体が粉みじんになった。残ったのは頭部だけだった。

 ライラもいつの間にかゲレルの後方側へと移動しており、零夜とルーミアは相変わらずライラを視認することができなかった。彼女は光の速度で移動している。常人なら見えないのは当然だ。

 

 

「無駄話が多い。その不快な声を私に聞かせるな」

 

『驚イタジャネェカヨ。イキナリ斬リカカッテ来ヤガッテ…』

 

「なに!?」

 

 

 バラバラになったはずの死体から声が聞こえたことに驚いた。

 そのまま、ライラは信じ互い光景を目にする。斬り損ねた――特別に硬くて一気には斬られなかった頭部が浮き上がり、そこからバラバラにしたはずの骨、肉片、血が宙に浮きあがり、そのままゲレルの悪魔的な体を形成していった。

 その生物としてあり得ない構造に、ライラはただただ驚くばかりだった。

 

 

「心臓も細切れにしたはず…。貴様の弱点は頭部か」

 

『ソレハドウカナ?ヤッテミレバイイ』

 

「調子に乗りおって…!」

 

「待てライラ!ソイツは――」

 

 

 零夜の叫びも虚しく、ライラは次の攻撃を開始していた。

 光の速度で一瞬でゲレルに近づいて、刃に“妖力纏い”を発動させる。この技術はとても難しいだけで、ライラは一言も“できない”と言ったことはない。ゆえに使用可能だ。

 そのまま強化された刃を光の速度で何度も振るい、今度は頭部を細切れにした。ミンチをも超える細かさで切り、再生できないように斬り、今度は零夜たちの隣に着地した。

 

 

「これならば――」

 

「いや、無駄だ」

 

「なに?ヤツの再生核は細切れにしたはずだ」

 

「そんなの、無意味なんだよ」

 

「どういうことだ?」

 

「ああいうことだ」

 

 

 そのまま零夜はゲレルの首なし死体を指さすと、今度は首から下からゲレルの頭部が生成されていく。その生々しい光景は、ルーミアの顔を歪め、ライラは舌打ちをした。

 

 

「どういうことだ…。頭部がヤツの再生核ではないのか!?」

 

「そもそも、今のアイツに再生核なんてもんは存在しない!それを分かりやすく伝えるために、俺の視界を貸してやる

 

「それは一体どういう――」

 

 

 零夜は問答無用で『離繋(りけい)』の能力を発動する。

 自身が見ている光景を無理やりライラの視界と繋ぐ。ライラに負担を負わせるわけにはいかないので、特別なものを見る際のデメリットは全てこちらで肩代わり。目が物凄く痛いが、少しの我慢だ。ライラにも見えたのだろう。あの忌々しくも輝かしい光の柱が。ライラは困惑で頭がいっぱいのようだ。

 

 

「なんだあれは…。私の見間違いか?あのような力の柱…今まで見たこともないぞ?それに、私はなにも感じない」

 

「残念ながら現実だ。あのバカみてぇな再生能力の要因も、あの柱がエネルギーの供給道なんだよ。隠蔽能力が高い癖に供給量はバカみてぇにある。アレを絶たない限り、アイツを何度傷つけたところで永遠に回復し続ける」

 

「ならば、あの供給源が切れるまで攻撃し続ければ――」

 

「それも無駄だ。アイツ、さっきっから必殺技レベルの攻撃をバカスカ水鉄砲のような軽さで撃ちまくってきやがる。あのエネルギーが切れるまで戦闘(たた)かい続けるなんて、無理がある」

 

「ではどうしろと言うのだ!?このままただ敗けろとでもいうつもりか!?」

 

 

 ライラは憤慨して叫ぶ。確かにアレほどのエネルギーの供給、アレがある限り勝つなどと言う発想は常人にはまず浮かばない。

 だが、ライラには負けられない理由がある。それがレイラの敵討ちだ。目の前に妹の仇がいるというのに、手も足も出せないという事実は、ただただ怒りが募るだけだ。

 

 

「んなわけあるか。俺たちの勝利条件はただ一つ。あの供給道をぶっ壊すことだ」

 

「でも!さっきそれを壊そうとして、大爆発したじゃない!」

 

 

 そう。零夜は先ほどその供給道を破壊しようとして、結果的にそこが爆発した。強大なエネルギー同士の衝突による大爆発だった。

 しかもあの供給道の柱に触れられるのは現状『離繋』の能力を持つ零夜のみだ。ライラではその突破方法がない。

 

 

「だが、アレを壊さないことには話は進まない。アレを破壊できるほどの一撃必殺が欲しいところだが……アイツが待ってくれるかも、問題なんだよな」

 

『話シ合イハ終ワッタカ?ナラサッサト死ネ!!』

 

 

 ゲレルが口を大きく開くと、そこから極太のレーザービームを放ってきた。それは霧雨魔理沙のマスタースパークのような程、強烈な一撃だった。

 それを避けるために三人全員で散らばった。着弾した場所は爆心地となり、大きな爆発を生んだ。それから、ゲレルは四つの腕からそれぞれ光の玉を生成し、何度も何度もそれを繰り返して三人へと放つ。

 

 この攻撃にライラとルーミアは持ち前の武器で弾き、いなし、回避しているが、零夜はそうはいかない。ただでさえ大ダメージを負っていて、能力を使って目に疲れが来ていて視界がうまく定まらない状況だ。零夜はただただ逃げるしかなかった。

 

 

「クソッ!」

 

 

 体力も危ないくらいに尽きている。それでも体を動かせているのは、根気と気力によるものだった。しかし、ゲレルからの攻撃は止むことがない。

 そんなとき――

 

 

「うぐっ」

 

 

 視界が揺らいだ。代償がここで作用してしまった。『離繋』による通常見えないものを見えるようにする能力の代償である長時間ブルーライトに目を当てたような痛みを2回も受けた。それは視界が安定しない要素としては十分すぎた。

 結果、零夜は石ころに躓きこけてしまった。目前には、光の玉の群れが。

 

 

(ヤバ――)

 

 

 そう思った時、自分の体が高速で移動した。突然のことに驚いたものの、結果的に助かった。感覚が戻った。誰かに担がれているようだ。担いでいる人物を見ると、それはライラだった。

 

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ…なんとかな。だが、正直言って辛い。が、弱音を吐いちゃいられねぇ」

 

「……安心しろ。お前が無理をしてまで、アイツを倒すことを、私は望んではいない」

 

「どういう、ことだ?」

 

「お前は少し休んでろ。私が時間を稼ぐ」

 

「無駄だ!アイツに時間稼ぎなんて、意味がない!」

 

「黙っていろ。それにそもそも、私の目的は時間稼ぎだ

 

「な――?」

 

 

 零夜が疑問を口にする前に、ライラは突撃していき、ゲレルを一方的に切り刻んでいくが、攻撃した瞬間に再生が始まっており、どう見ても効果があると思えない。それに、ライラの言っていたことが気になる。時間稼ぎ?一体彼女は、なにを待っているのだ?

 

 疲労した目で目の前の戦いを見ているとルーミアがこちらに飛んできて、零夜を介抱する。

 

 

「大丈夫?」

 

「ああ大丈夫だ。だがしかし、一体どういうことだ?ライラは何を待っている?」

 

 

 あのような攻撃を繰り返しているところで、ゲレルに致命打を与えることなど不可能なことはライラとて分かっているはずだ。それなのに、一体時間稼ぎをしてなにになるというのか。

 

 

「時間稼ぎ…。一体、なにがあるってんだ?」

 

「……零夜」

 

「どうした?」

 

「何かがこっちに近づいてくる」

 

 

 ルミアのその言葉を聞いた瞬間、零夜は辺り全体を疲弊した目で見渡す。だがしかし特に変わった様子は見受けられない。

 だが感知能力は自分より高いルーミアがそう言っているのだ。確実にここに何かが来ているのは明らかだ。

 

 

「まさか…ライラが待っている何かなのか?」

 

 

 逆に、そうとしか思えない。

 ライラの目的は時間稼ぎだ。今の現状ではゲレルを倒せないがために、自分が時間稼ぎをして、その人物を待っている。その謎の人物が今、この場に現れようとしているのだ。

 

 ライラはライラで、その人物の登場を感知したのか、その場から一旦離脱して零夜たちの隣に着地する。

 

 

『ドウシタ?モウ力尽キタノカ?』

 

「阿呆が。そんな風に見えるか?……さて、雑談をしようか。ゲレル・ユーベル」

 

『雑談?何言ッテンダテメェ?』

 

「いいから聞け。十数年前、お前が凌辱したことで死んだレイラは…一つの生命を産み出して、死んでいった。衰弱死だったよ」

 

『アァ…俺ガ孕マセタガキカ。驚イタ。マサカ生キテルトハナ。テッキリモウ死ンダモノカト思ッテイタゼ』

 

 

 あの日あの場所で、レイラは一つの生命を産み出して、その生命を枯らして、死んだ。

 当時、ライラは目撃したのだ。その生命が産道から排出(でて)くる瞬間を。その瞬間を見ただけで、大切な妹がどんな目に会っていたのかを瞬時に理解した。してしまった。

 

 

 あの時のことが、未だに忘れられない。

 

 

 

―――。

 

 

――――。

 

 

―――――。

 

 

 

 夜中。冷たい風が吹雪く、夜の樹海。ライラは地面を駆けた。途中、ぬかるんだ地面に足を取られ、転んで服を汚すこともあった。しかし、そんな汚れなどどうでもいいと、ライラは走ることをやめない。

 

 

「レイラ!」

 

 

 目についたのは、大きな湖。そこにいる。慣れ親しんだ、唯一の肉親である妹の存在の気配が―――!

 

 

「レイラ、どこだ!!」

 

 

 森を抜け、その湖の全体が見渡せられるようになった。この湖は背景は、とても綺麗だ。現代であれば、有名スポットになるほどの美しさを、誇っていた。

 だがしかし、そんな光景を汚す、絶望的なものが視界に移ってしまった。

 

 

――ウェエエエエエン!!

 

 

「――レイ、ラ……?」

 

「――――」

 

 

 見てしまった。目の前で、新たな命が産道を通り、この世に生まれる光景を。

 普通ならばそれは喜ばしいことなのだろう。だがしかし、彼女――レイラの残状が、そんな妄想を一瞬で吹き飛ばす。祝福どころか忌まわしき邪悪な儀式のあとのように、酷かった。

 痩せこけて衰弱しており、服などは一切つけていない生まれた姿のまま、股からは一本の線が飛び出ていて、その線につながれた赤子が、大声で泣き叫んでいた。

 

 ライラの瞳に、いつものレイラと今のレイラがダブって見えた。

 現実逃避だ。自慢の妹が、どうしてこんな状態に―――。

 

 ライラはすぐさまレイラに駆け寄り、その体を持ち上げた。服が濡れることなど、この際どうでもよかった。

 

 

「レイラ!?どうした!なにがあった!?」

 

「…ね、ねぇ…さ、ん…?」

 

「そうだ、ライラだ!どうしたんだ!お前の身に、一体なにがあったんだ!?」

 

「――――」

 

 

 そう問うが、なにが起きたかなんて一目瞭然だ。だがそれを認めたくない。現実から目を背けたい。でも、目の前の現実がそれを許さない。

 最愛の妹が、ただ唯一の、妹が、誰かも分からぬ男と――!

 

 

「まさか…そうなのか!?そういうこと、なのか…!?」

 

「……ねぇ、さん。おね、がいが、ある、の」

 

「喋るな!すぐに手当を――!」

 

「ま、って…」

 

 

 レイラの手が、ライラの服を掴んだ。その力はとても弱々しく、人間ですら簡単に振りほどけるほどの力しか籠っていなかった。

 

 

「私は、もう、だ、め…だから」

 

「そんなことない!今からでも処置をすれば――!」

 

「姉さん」

 

 

 弱々しく、小さな声が、ライラの魂に響く。

 小さな声のはずなのに、その声が魂に焼き付いて離れない。スピーカーで大音量で聞いたような、そんな感じだ。

 

 

「この子を…お願い」

 

「え…?この子供を、私に?」

 

 

 耳を疑った。ライラの視線が、浅瀬の水に浮く赤ん坊にいった。レイラは、この赤ん坊を、ライラに育ててくれと頼んだのだ。

 妹の頼みだ。普通なら引き受けるだろう。だが、今は状況が違った。

 

 

「無理だ!お前をこんな目に合わせた男の子を、私に育てろと!?そんなことできるわけない!」

 

 

 この赤ん坊は、レイラをこんな目に合わせた(ゲス)の子だとするならば、この赤ん坊はライラにとって負の遺産だ。最愛の妹に無理やり産ませた男の、子供。許せるわけがない、絶対に。許してなるものか。

 

 

「お前をこんな目にした男の子供の存在なんて、許せるわけがない!いますぐにでも殺して――!」

 

「ねぇさん……産まれてきた子に、罪はない

 

「―――ッ!」

 

 

 レイラにそう言われ、ライラが我に返る。

 正直、まだこの赤ん坊の存在を、許したわけじゃない。しかし、妹であるレイラが、「頼む」と悲願しているのだ。ライラにとっては負の遺産でも、レイラにとっては自分が生きた証。

 

 この赤ん坊を殺すことは、レイラの生きた証を自分の手で抹消するようなものだ。

 そんなことはできない。でも、今すぐにでもこの手で抹消したい。二つの感情が、天使と悪魔がせめぎ合う。

 

 

「――――」

 

 

 感情が交差する。より複雑になる。

 レイラの願いを叶えたい。だが、その根本をライラは許せない。この赤ん坊を殺して、レイラの忌まわしき敗北をなかったことにしたい。そして、その男に復讐したい。しなければならない。

 

 

「お願い、ね…?」

 

「……まだダメだ!レイラ、お前をこんな目に合わせた男は、一体どこのどいつだ!絶対に、私が、そいつを殺す!!」

 

 

 レイラをこんな目に合わせた、この赤ん坊の父親。決して許さない、復讐してやる。

 その心に決め、ライラは叫んだ。絶対に、許さない。

 

 その問いかけに、レイラは、小さな弱い声で。

 

 

「ゲレル、ユー、ベル…」

 

「ゲレル…?分かった。絶対に、ゲレルを殺して、お前の仇を取る!だから、死ぬんじゃない!私を、置いていかないでくれ…!!」

 

「ねぇさん。……最後に、この子の、名前…」

 

「最後なんて言わないでくれ!もっとずっと一緒にいてくれ!」

 

「―――」

 

 

 なにか、なにか言ってくれ。ライラは心の中でそう悲願する。

 分かってる。分かってるんだ。返答せずとも、レイラの体のことはレイラが一番良く知っている。だから、何も答えてくれない。

 

 

「私、でも、よくわからない。だけ、ど…この子の、名前。すでにね、決まってるの。紅い、月と、夜…。この子の名、は…【紅夜】。【紅月 紅夜(あかつき こうや)】。名前はね、私たちみたいに、紅い瞳だから…いい名前でしょ?」

 

「もういい!もう分かった!だから、もう喋らないでくれ!!」

 

「紅夜を、お願い…」

 

 

 低かった声が、さらにも、もっと、どんどん低くなっている。

 もうライラの耳に届かないほど、レイラの、彼女の声が、胸の鼓動が、小さくなっていくのが分かる。

 

 

「姉さん―――ありがとう

 

 

 レイラの体から、力が完全に抜けていく。

 それを見て呆気に取られ、またすぐに、その意味を理解した。

 

 

「……レイラ?…レイラ!?レイラァア!!」

 

 

 呼びかける。……返事はない。

 

 呼びかける。……返事はない。

 

 呼びかける。……返事はない。

 

 何度も叫んだ。何度も呼びかけた。何度も起きてくれと祈願した。

 それでもレイラは起きてくれない。目覚めてくれない。呼びかけに、答えてくれない。

 

 

「あぁああああああああッッ!!!」

 

 

 目から大粒の液体が零れ、それが決壊し、大粒の涙になった。

 涙が、地面に吸収されていく。

 

 後悔の念が、ライラの心を支配する。何故もっと早く来れなかったのか。もし早く来ていれば、レイラを助けられたかもしれない。もしくは、レイラの仇である【ゲレル・ユーベル】を殺せたかもしれない。

 

 それでも、過去は変えられない。すべてが遅かった。

 

 

「どうして、どうして!!!」

 

「ふぇええええん!」

 

「――――」

 

 

 やせ細った体に触る。冷たい。当然だ、外は夜。裸同然の恰好じゃ、冷えるに決まっている。それに生まれたばかりの赤ん坊は体温調節ができない。体を温めるために、ライラは赤ん坊を抱いた。

 そしてそのままレイラの体を抱いて、湖をあとにした―――。

 

 

 のちに彼女はレイラの墓を作り、彼女の衣服を繋ぎ合わせて再生し、自分が着た。全ては忌まわしき敵、ゲレル・ユーベルを探す旅に出た。

 レイラの願いを叶えるために、子供を着実に少しずつ育てていった。時にはパワハラレベルで“特訓”と言う名目で酷いこともしてきた。しかし、何年も一緒に暮らしていると、不思議と愛着が湧いてきて仕方がなかった。憎い相手の子供なのに、その子は自分の妹に似ていて、とても虐げる気になれなかった。

 

 そして時は立って。今自分の目の前には、待ちに待ち望んだ仇が、目の前に立っていた。

 

 ライラの心は今、最高潮に達している。

 

 

 

―――。

 

 

――――。

 

 

―――――。

 

 

 

「――思えば長くも短い時間だった」

 

『…ア?』

 

「――もう17年にもなるか?私があの子を育てて…。私の妹の子供だ。物覚えもよく、容量が良かった。だが、思い込みが激しく暴走するのが欠点でな。欠点そのままお前のものだ」

 

『ダカラナンダ?ンナモン俺ニハ関係ネェンダヨ』

 

「自らの責任から目を背けるな。貴様には責任も関係もある。あの子を産ませたという、大罪がな」

 

『ゴチャゴチャウルセェナ!!結局ハ一ツノ命ガ消エテ一ツノ命ガ生マレタダケノコトダロウガ!』

 

 

 ゲレルは自らの意見を変えない。ゲレルにとって男も女も、赤の他人は全て消耗品に過ぎない。この性格も、臘月の悪い部分の一つをそのまま反映している。

 自分以外の生命体も、すべて生まれて擦り減り消えるだけのおもちゃ。男は奴隷で女は玩具。それがゲレルと言う生命体の思考回路のすべてだ。

 

 

「そう。そしてお前が生んだ命が、お前の命を刈り取るのだ。ゲレル・ユーベル。お前の命を、な」

 

『ナニヲ言ッテ――』

 

「ほら、もう来た見たいだぞ?」

 

 

 

―――ブォオオオオオオオッ!!!

 

 

 

 突如聞こえた、猛々しい荒ぶるエンジン音。その音だけが、このこの領域を支配する。ライラ以外の全員の視線が、その音が聞こえる方向へと振り向いた。そこから、小さく、小さく、次第に大きくなっていく姿があった。バイクに乗る、謎の人物の姿が。

 バイクが近づくいてくると、その人物はバイクを足場にして勢いよくジャンプして、前方に爽やかに着地する。

 

 

「待たせたなお前ら。俺が来たからにはもう安しブベラッ!!」

 

 

 言葉を上げたその次に、エンジンがそのままで前進するバイクが背中から衝突するという被害者のいない加害者のみの人身事故が発生した。

 

 

 

「「「『――――』」」」

 

 

 

 この意味不明な状況に、敵も味方も関係なく、ただただ唖然とするだけだった。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

「あー痛って!誰だよバイクをそのままにしたヤツは!?」

 

「いやお前だろ」

 

「そうだ俺だったなッ!いやー参ったぜ!格好よく着地するはずだったんだが、バイクのことを視野に入れてなかった!」

 

 

 ガッハッハと豪快に笑う謎の男性に、全員何も言えない。いや、謎の男性と言う表現は正確に言えば間違えている。顔と声には、見覚えと言うか知っていた。顔と声は完全に紅月紅夜そのものだ。違うところと言えば、髪の色が黒色で、瞳の色が澄んだ蒼色であるということのみだ。服装も零夜が知っている紅夜の服装そのままだ。

 

 キャラ変か?それにしても変わりすぎである。

 

 

『オイ!ナンナンダオ前ハ!?イキナリ現レテハ事故ヲ起コストカ、バカナンジャナイノカ?』

 

「バカにバカ呼ばわりされる筋合いはねぇよ。強姦魔(レイパー)に言われちゃおしまいだ。ですよねライラさん!!」

 

「――お前、あんな登場の仕方でよく冷静?を保てるな」

 

「メンタルの強さは伊達じゃないんで!なんなら高校時代の二つ名“鋼のメンタル術師”なんで!!

 

「意味は分からんが、それは蔑称だろ」

 

「俺にとっちゃ名誉ある二つ名ですがね!」

 

 

 そしてまた笑う謎の男性。なんなんだこいつは。零夜とルーミアの思考が一致した。突然現れたと思ったら人身事故を起こしてそれでも平気で叫びながら会話し、高校時代の二つ名を暴露した。

 もうどこから突っ込めばいいのか分からないため、二人は思考を放棄することで解決した。

 

 

『オイ。俺ノコトヲ無視スルナ!!』

 

「あぁ?ごめん。雑音過ぎて聞こえなかったわ。お前の声。それよりなんだよその見た目。キモいんだけど。具体的に言うと昔アンデットのダンジョンに入ったときの腐敗臭よりも酷いレベルで吐き気を催すんだけど。お前はまずマクラちゃんの可愛らしさを学んで出直してこい」

 

『フザケテイルノカ、貴様ッ!!』

 

 

 堪忍袋の緒が切れたゲレルは四つの手を繋げて花の花弁のような形をとった。そしてその中心にエネルギーの塊が生成され、次第に強大な力を秘めた光弾へと形を成していく。

 

 

『一瞬デ消シ去ッテヤルッ!』

 

「えっ、もしかしてかめ○め波撃とうとしてない?マジでか○はめ波?しかも四腕バージョン?倍くらいの効果が出るの?」

 

「お前の言ってることは全く意味が分からんが、さっさと構えろッ!」

 

「大丈夫大丈夫。あの程度の攻撃なら――」

 

『死ネッ!!』

 

 

 ゲレルから放たれる極太レーザー。そのエネルギー量はゲレルの感情が反映されているのか、途轍もない量になっている。エネルギー量を例えで表すならば、着弾すれば先ほどの水爆や核レベルの爆発へと匹敵するであろう力だった。

 今までゲレルは彼なりに手加減をしていた。理由としては相手を舐めているというのが一番の理由だが、他の理由としてはあまりにも破壊しすぎると最悪(ほし)の崩壊に自分が巻き込まれる可能性があったからだ。

 

 しかし、あまりの予想外の状況にゲレルは困惑し、紅夜?のふざけた態度に激怒したゲレルはそんなことお構いなしにマジでヤバイレベルの遠距離攻撃をぶっ放してきた。

 これが地面に着弾なんかすれば、月の崩壊は免れない。

 

 

「まずいッ!アレが当たりなんかすれば――!」

 

「まぁ任せてください、よッ!」

 

 

 男は、飛んだ。―――真上に。あのエネルギー砲に向かっていくという勇敢な行為をするわけでもなく、ただ真上にジャンプした。

 その瞬間、ライラ、零夜、ルーミアの脳裏によぎった言葉が一つにまとまった。

 

 

 

あ、逃げたなアイツ

 

 

 

 予想外の行動に呆気にとられる。すぐさま逃げた男に怒りしか湧かないが、今はあのエネルギー砲をどうにかするのが先決だ。ライラは冷や汗を流しながら刀を構えてた。

 

 アレをどうするか?実害のない方向に軌道を逸らすか?しかし、あの膨大なエネルギーの塊を自分一人でどうこうできる自信がない。なら威力を分散させるか。だがそれは受け止めることが前提であり、何より結局地面に着弾してこの場の被害もバカにならない。

 

 考えが巡り、巡り、巡り――、

 

 

 

「輝け!ペリドットの光よッ!!“デコイ”!!」

 

 

 

 男性の声が響くと同時に、男性の持つ紅夜の刀の刀身が緑色に輝く。すると、真っすぐ進んでいたエネルギー砲の軌道が、急に逸れて男性目掛けて一直線に進んでいく。

 “デコイ”とは、(おとり)と言う意味である。自信に意識を集中させ、おびき寄せる力。それは無機物でもあるエネルギーの塊でさえ対象可能とする、権能の力だ。

 

 

「俺が逃げるとでも?俺が逃げるのは、テスト勉強と受験勉強だァああああああああ!!!」

 

 

 カッコよくない言葉を叫び、エメラルドの力を使用して【妖力纏い】を発動する。そのままあり得ないくらいの腕力と膂力でエネルギー砲は上へと弾き、上空で大爆発を起こす。空気が震え、地面が揺れる。地面で直接爆発したわけでもないのに、爆発の波動だけで地上にここまで影響を与えるとは、あのエネルギー砲の威力が異常だという証明でもあった。

 

 

「この程度かよ。これくらいのエネルギー供給しかできないとなると…アイツ、本当に弱体化してやがるのか。いい気味だぜ」

 

 

 ニヤリと擬音が出そうなほど、笑みを上空に浮かべる男性。事実、彼の気分は最高だった。17年ぶりに、自由に動けるのだから

 

 

『オ前…一体何ヲシタ!?』

 

「あ?見て分からないか?弾いただろうが。この程度のことも分からないのか?」

 

『アノ攻撃ヲ弾ケルワケガナイ!!トリックダ!トリックヲ使ッタニ違イナイッ!』

 

「てめーが認めようが認めまいが事実なんだよ。学習しろや、悪魔野郎」

 

『貴様ァアアアアアアア!!』

 

 

 ゲレルがその背中に生えた巨大な翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。四本ある拳が、二本へと圧縮を始める。ただでさえ太い腕の二本分が一本へと圧縮されたため、腕一本で筋力や膂力は二倍へと増幅されている。

 その二本の腕での拳で、ラッシュで一気に攻めた。

 

 

「速いだけでただ出し引きしているだけのパンチじゃねぇか。んなもん、当たらなけちゃ怖くねぇ!!」

 

『グハッ!!』

 

 

 ゲレルの攻撃を全て避けてその上でカウンター攻撃で“妖力纏い”をした刀の鞘でゲレルの顔面を打ち砕く。メキョッっと鈍い音が響き、ゲレルは地面に落下した。

 それに合わせて、男性も地面に綺麗に着地する。

 

 

「はっ。てめぇのようなデカい図体の相手とは戦った経験はある。俺にとっちゃデカい的でしかねぇよ。」

 

『ウ、ググ…ッ!!オ前ハ一体何者ダ!!名ヲ名乗レッ!』

 

 

 膨大なエネルギーを使って回復、再生したゲレルはすぐに立ち直り、怒りの感情のままに喚き散らした。

 

 

「えー。人に名前を聞くときは自分から名乗るもんだってお母さんから教わらなかった?」

 

『バカニシテイルノカ!』

 

「してるしてる。でもまぁ、俺は優しいから?答えてあげちゃうよーん」

 

 

 バカにした態度のまま、男性は刀を鞘にしまった。そのまま右手の親指を自分に向けて、高らかに自己紹介をした。

 

 

「俺の名前は【(あかつき) 蒼汰(そうた)】。一言で言い括ちゃうと、【紅月 紅夜】の前世の人格で【ウォクス】の正体でーす!。つーわけでよろしくッ!!」

 

 

 紅月 紅夜の前世の人格――暁 蒼汰は、その真っ白な歯を輝かせ、見せつけながら、この場の注目を集めた。

 いろいろとはっちゃけたあと、彼はもう一言、叫んだ。

 

 

「ちなみに俺の『才能』は“シリアスブレイカー”ッ!どんなに緊迫した状況だってぶち壊して見せるぜッ!!」

 

 

 ある意味“最狂”な『才能』を獲得していたことに戦慄した。

 

 

 

 

 

 





 紅月 紅夜 プロフィール更新

 【暁 蒼汰】。紅夜の前世の人格にしてウォクスの正体。
 ちなみにこれはネタバレになるが紅夜が権能覚醒前に『才能』をすでに持っていたのは『隠蔽』の才能が蒼汰のものだったから。
 蒼汰の人格が表に出ると同時に、紅夜は権能に完全覚醒したため『才能』獲得が可能になった。しかし、その枠を蒼汰が無理やり分捕り、紅夜の枠に『隠蔽』を映して自分の枠をカラにしたあとに『シリアスブレイカー』を追加した。

 正直に言って貴重な『才能』の枠をなんてことに使ってるんだって話。


 権能

 ペリドット

 「デコイ」
 よくファンタジーであるモンスターの集中(ヘイト)を集める力。ペリドットの権能の場合、それは無機物にでも対応し、軌道を無理やり自分へと向ける。

 銃弾や弾幕などにも使用可能。完全なタンカー。



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