――意味が分からない。零夜やルーミアが最初に思ったのはその一言だった。言葉の意味は理解できる。だが、それらの事実がキャパオーバーしすぎていて、脳が理解するのに時間を要した。
あの黒髪碧眼の美少年の名前が【暁 蒼汰】と言う名前で、【紅月 紅夜】の前世の人格で、“神の声”である【ウォクス】の正体であり、持っている才能が“シリアスブレイカー”。
「いや意味わからん」
この単語を箇条書きで何度も
「お前が、紅夜の前世の人格で、ウォクスの正体?」
「
それは今聞いてないし、それはある意味問題である。一つしかない才能の枠をなんてことに使っているんだ。
迫りくる情報量の多さに、零夜はなにもできずにいる。ただでさえ血液が足りずに頭が回らないのだ。零夜はこの短期間で失血で頭が回らない経験を何度も体験している。自分から進んでやっている結果とはいえ、もう少し頻度を減らしたいと思う。
しかし、零夜は頑張ってその情報を一旦整理し、一番重要な部分に気付く。
「紅夜が、“才能”の枠を獲得している?それってつまり――紅夜が完全に、権能に覚醒したってことか!?」
零夜は知らない。紅夜が一部とはいえ権能に覚醒していたことを。そもそも零夜は目覚めた後すぐに月へと移動したのだ。説明する暇もなかったから、知らないのも当然だった。
「あ、そういえば零夜はまだ知らなかったわね」
「そういえばそうだったな」
ルーミアもライラも知っていた。自分だけ除け者にされている感覚だったが、いろいろあったため説明する暇もなかったなと思い出した。
「しかし、なんでまた急に…?」
「そりゃアレだ。紅夜が最後の条件を達成したからに決まってんだろ。まぁ最初限定開放だったのは俺がアイツの心にブレーキ掛けてたからだけどな」
つまり、紅夜はこの戦いでその最後の条件を達成したというのだ。零夜ですら未だに達成できていない条件を見つけて、それを達成した。
彼の中で焦りが生まれる。次々に周りが権能に覚醒しているのに何故自分だけ――と言う焦燥感に。顔を俯いていると、蒼汰から声がかかる。
「なに俯いてんだ。まぁなに考えてるかは顔見りゃ一目瞭然だが…。おい零夜。……あーやっぱアイツとかぶるな。夜神、でいいか。オイよく聞け」
「―――?」
「条件はもうお前のすぐ近くにある。それに気づかずに見て見ぬふりをしているだけだ。お前は」
紅夜の言葉に零夜は首を傾げることしかできない。条件がすぐ目の前に転がっているのに、自分はそれに気づいていない。知りたい。一体それは何なのか。しかしレイヤ――シロの言葉を思い出す。“その条件は知れば余計に難しくなる”と。だが、知らなければ達成のしようがない。知りたい気持ちとそれを抑えこむ気持ちに苛まれる。
「まぁこれでも体にかけたり飲んだりして回復しとけ。あとこれも。レイヤからお前に渡しとけってな」
そういい蒼汰はルーミアに数本の無色透明の液体が入っているペットボトルと蒸されたタオルを投げ渡した。
「えっ、あっつい!なにこれ!?」
「ペットボトルの方は俺の【サファイア】の力で生成した回復水。蒸したタオルは目に当てて目の回復に
使え」
「アイツ…なんでも知って過ぎだろ。
双子座の権能。アレならば自分に知られずに自分の現状をリアルタイムで知ることが可能だ。それで能力の使い過ぎで目が疲れていることを知って用意したのだろう。準備が良すぎる。
「つーわけで。あんたらは少し休んでてくれ。あ、でも夜神は別だかんな?ある程度回復したら前線戻って来いよ。俺の権能じゃあの供給道を破壊するのはむずいからな」
「……あぁ」
「よーしッ!じゃあいっちょやりますか!!」
『俺ヲ無視シテ話シ込ムトハ…ヨホドノ自信ガアルミタイダナ』
ゲレルの顔には青筋が立っていた。自分が蚊帳の外にされて相当切れているようだ。ゲレルを無視して完全に話し込んでしまった。これもシリアスブレイカーの力なのだろうか。戦意や集中力が削がれてしまう恐ろしい力だ。これだけは敵に使ってほしい。
「今まで待ってくれてありがとう。そのお礼として――“俺が”全力で相手してやるよ!!」
蒼汰が右手に刀、左手に鞘を持つと、二つの武器に蒼色の回路のようなものが浮かび、全体に透き通っていく。そして、蒼いオーラが炎のように燃え上がり、武器に纏わりついた。
あの力は――。
「霊力…!?」
人間の象徴ともいえる力――『霊力』だった。
何故妖怪であるはずの紅夜の体から『霊力』が?いやまて、落ちつけ。もうすでに答えはあるはずだ。答えを知っているはずだ。
あぁそうだ。何故今まで気づかなかったのか。すでにピースは揃っていたはずだ。あとは繋ぎ合わせるだけだったのに、何故それをしなかったのか。
紅月紅夜は、彼は――、
「種族、人間。暁蒼汰。シュパッっと参上ッ!!」
* * * * * * * *
紅月紅夜は半人半妖だ。これは明確な事実であるのだが、周りがソレに気付いたのはつい先ほどのことだ。
よく考えてみてほしい。零夜とルーミアの知っているゲレル・ユーベルは金髪紅瞳の妖怪だ。だがしかし、目の前にいるゲレル・ユーベルは決して人間の見た目をしていないが、黒目黒髪の人間なのだ。どう考えてもおかしい。
しかし、そんな分からないことをいくら考えても無駄だ。
さらに、紅夜の前世の人格を名乗る蒼汰なる謎の人物から発せられる力――あれは間違いなく人間の象徴である『霊力』そのものだ。逆に紅夜から発せられていた『妖力』は鳴りを潜めているどころか一変たりとも感じ取れない。まるで、そこにいるのが本当に人間のようだった。
「ライラさん。今まで時間稼ぎご苦労様でした。ここは俺の番ですよ。ここからの時間稼ぎは俺に任せちゃってください」
「……頼んだぞ」
「でも、仕事はしっかりしてくださいね。あの供給道をぶっ壊すのが前提ですから」
「分かっている。夜神のおかげで、私もあの柱が普通に見えるようになったしな。まぁ壊せるかは別の話だが…」
「ちょっと待て!?あの光の柱が見えるようになったのか!?一回視界を貸しただけで!?」
これには物申したい。零夜でさえ『
それを、一回視界を貸しただけで視れるようになり、ましてや破壊ができるようになったことを示唆した。
「あぁそれは『俺ヲ無視シテンジャネェヨッ!』まだ説明途中だろがいッ!」
しかし、ゲレルはそれを待ってはくれなかった。超高速で移動したゲレルは蒼汰とライラに向かって拳を放つが、二人はそれを軽々と避ける。
蒼汰はゲレルの背中へと移動して、『霊力纏い』で強化された蒼いオーラを纏った刀の鞘でゲレルの背中を強打した。苦悶の咆哮を上げながら、ゲレルは前方へと吹き飛んでいく。
「たく。空気読めっての。そんなんだからモテねぇんだよお前は。まぁ女を道具扱いしているお前を好きになるやつなんているわけねぇけどな」
「雑談はそこまでにしろ。敵から視線を逸らすなッ!!」
ライラが追撃で光の斬撃を放った。ゲレルのスピードと光の斬撃のスピード。どちらが早いかは一目瞭然だ。吹っ飛んでいるゲレルに光の斬撃が貫通して、ゲレルの体を斜めに真っ二つにする。下半分がズルッ…と音を立てながらズレて落ちる――瞬間に細胞が再生して肉体を繋ぎとめた。
「知ってはいたが、キモイほどの再生スピードだな。斬った瞬間再生って、どっかの鬼の親玉かよ」
「誰のことを言ってる?紅夜を鬼と戦わせたことなどないぞ?」
「紅夜じゃなくて俺の経験ね。経験つっても漫画だけどな!」
漫画の経験を出してくるな。ていうか経験でもなんでもないだろソレ。そう思ったが口には出さなかった。
「ゲレルにエネルギー与えてる野郎と『権能』と言う概念は切っても切れない関係にある。
「なに――!?」
蒼汰の口から出た衝撃の関係性。零夜は正直そっちの方が気になった。
零夜も正直言って権能についてはシロに教えてもらったことくらいしか知らない。自分が権能を持っていないというのも理由だが、とにかく権能については謎が多すぎる。
そんな“権能”とゲレルに力を与えているヤツの関係性。気にならないはずがなかった。
「そもそも権能にはそういう機能が備わってんだよ。俺も、【アメジスト】の力で解析して
「待て待て待てッ!?そりゃどういうことだ!?」
零夜はすでに情報量がピークを迎えていた。迫りくる情報にもう対応しきれなかった。アメジスト?ポケモンのタイプ?なんだそれ。と言った具合で混乱してた。
「今説明している暇はねぇよ?正直俺もわけわからん。整理が必要だ。だが、その整理はこれが終わったらいつでもできるッ!」
「――そうだな」
これ以上考えても結論なんて出てこない。なら、今は目の前のことに集中すべきだ。知ることなんて、あとからでもできる。
『無駄ダト言ッテイルダロッ!俺ヲ傷ツケルコトナンテ不可能ナンダヨッ!』
「他人の力に依存してる癖に粋がりやがって…。恥ずかしくねーの?サノバビッチくん」
「お前は毎回煽らないと気が済まないのか?」
ライラが全員の言葉を代弁してくれた。この短時間で、暁蒼汰と言う人間の人物像が理解できてしまうほどに濃い人物だ。貴重な一つだけの才能の枠をシリアスブレイカーなんてふざけたものを入手してしまうのだから、変人であることには間違いはない。
あと性格も悪い。
「うっせぇわ。余計なお世話だっつの」
「本当に紅夜とは正反対だな。未だにお前が紅夜の前世だということ自体が信じられん」
「いやライラさんに言ってないから。『文章』の方に言ってるから」
「――――?」
ライラはもはや訳が分からずに首を傾げる。もうこの男の言ってること自体理解できないと悟ったのだろう。
ちなみに、シリアスブレイカーの効果の一つとして、『第四の壁の認識』が可能である。つまり
「まぁいい。行くぞッ!!」
「了解ッ!!」
ライラは『妖力』――紅色のオーラを、蒼汰は『霊力』――蒼色のオーラを全身に纏い、ゲレルに突撃する。その速度は両方とも音速を超えた。
だが、同時にゲレルもその速度を視認できていた。二人が自分に近づく間に両手を刃のように変形させた。
ライラは一刀流、蒼汰は鞘を含めた二刀流。3本の攻撃をゲレルは無茶苦茶な剣技で対処する。無茶苦茶なため、攻撃も当たるのだが、即座に回復される。自分の怪我を顧みないが故の攻撃方法だ。
「くッ!ならばこれでッ!」
ライラは一旦ゲレルと距離を取り、『光操作』の権能で光の槍を複数生成。それを飛来させ、ゲレルの四肢や体を貫く。
『コンナモノ、俺ニ効クワケガ…!』
瞬間、光の槍が熱を帯び、ゲレルの体を蝕んでいく。ゲレルは叫び声をあげ、地面に膝をついて苦しむ。
『ナ、ナンダコレハ!?』
「知っているか?光は熱を帯びている。そのままの意味で、お前を中から苦しめる技だ」
『ダッタラ、抜ケバ――』
ゲレルが自分に突き刺さっている光の矢を掴む。そこから煙が出ていても、お構いなしだ。
「させるわけ、ねぇだろッ!」
ゲレルの体が、強力な力によってうつ伏せに倒れた。突然のことでゲレルは理解が追い付かない。何故急に倒れた?倒れた際、ゲレルはそれを認知していた。地面に引っ張られるかのように倒れたのだ。
事実、上になにかが乗っかっているわけでもないのに、起き上がれない。ゆえに、地面からなにか強力な力が作用しているのが原因だと思われた。
「すげぇだろ?俺も夜神と似たようなことできるんだぜ?」
『貴様カァ…!俺ニ一体何ヲシタ!』
「【タンザナイト】の権能。「吸引・反発」。まぁ“磁力”を自在に操る能力ってこった」
『磁力…ッ!』
ゲレルはこの力の仕組みを完全に理解した。この引っ張られる力は、磁石の力か。 地面と自分を磁場に変えてこの
タンザナイトの権能、「吸引・反発」は磁力を操る力だ。もともとタンザナイトの効果の一つに「引き寄せ」と言う幸運を引き寄せる
磁力で地面にくっついていて、尚且つライラの光の槍が地面に突き刺さって抜け出せない。それに体の内部から徐々に焦がされていく。まさに万事休すの状態だ。
「だから。こんなことだってできんだよッ!!」
蒼汰が地面に伏せた無防備なゲレルの腹を貫いた。ゲレルの悶絶した声が響く。そしてそのまま蒼汰はタンザナイトの権能を発動した。
『ウガァ…!!カ、体ガ、張リ裂サケイクヨウダ…!?』
「お前の
『マサカ…!』
「はじけろ」
蒼汰が握り拳を作ると同時に、ゲレルの体が爆裂四散する。内部爆発を起こしたゲレルの肉片は四方八方に飛び散り、原型を留めずグチャグチャになった。もともと人間の原型を留めてはいなかったが、もはや生物としての根幹すら残っていないほどバラバラになった。
しかし、再生速度が異常なためにもう頭部から再生を初めていた
『コノ俺ガバラバラニナッタ程度デ倒セルトデモ――』
「思ってねぇよ。ただ、
一瞬でゲレルの頭部へと近づいていた蒼汰は、足蹴りでゲレルの頭部を空中へと蹴り上げた。
「夜神ッ!!ゲレルの欠片全部アイツの頭部に
「なっ!?だがそんなことをしたら――」
「いいからさっさとやれッ!!」
「ッ!!どうなっても知らねぇぞ!!」
ゲレルの欠片を全部一か所に集めたら再生のスピード早めてしまう、そんな懸念を一切無視して蒼汰は零夜に指示を出し、零夜は能力を使い指示どうりにゲレルの頭部を中心に欠片を全て収束させた
『バカガッ!!部品ヲ集メテクレルタァ、随分ト優シインダナッ!!』
「んなわけあるかよ。ただ、一回で焼き焦がせる方がいいだろうが」
蒼汰は両手を合わせて、両手人差し指を重ねて突き出す。それはまるでカンチョーのポーズだ。
すると、人差し指を中心に電気が蓄電されていく。その勢いは増していき、真昼よりも明るく、過激になっていく。
その電撃が、極太のレーザー砲のように放たれる。手で銃の形を作り、雷を弾丸として放つ技――。
「
極太電撃砲が放たれ、ゲレルの体全てを飲み込んだ。今この日、永遠の夜空であった月の空が、地上の真昼を超えるほどの光に包まれた。
【トルマリン】の権能、「電磁波操作」による力だ。
トルマリンは微弱な電磁波を出すとされており、それを戦闘用に
本来であれば肉や骨すら残らずに消滅していたであろう攻撃。だがしかし、ゲレルの場合、無から復活してきてもおかしくないため、警戒は必要だ。
「よし。これで少しは時間稼ぎになるだろ」
蒼汰は地面を蹴って跳躍し、そのままライラの隣へと着地する。そのまま零夜とルーミアの二人にゲレルの復活を教えてくれるように頼み、ライラへ顔を向け、自分の胸に手を当てた。
「これで少しは時間ができた。さて、準備はいいか?紅夜」
青年は今この場にいて、この場にいないはずの人物へと声をかける。だが、その会話は確実に成り立っているのだろう。なにせ、一つの体に二つの人格が存在しているのだから。
「あー…意見も聞かずに連れて来ちまったのは悪かったと思っているからさ。時間がなかったんだよ。それに、今の状態じゃヤツの力の供給源を破壊することはできない。今やれるのは、俺とお前だけだ。――変わるぞ」
蒼汰がそう呟いた瞬間、蒼汰の髪の毛の色が黒から金色へと変化していき、蒼かった瞳が紅色へと変化していた。
蒼汰――紅夜は目を閉じ、再び開く。その瞳に移るのは、自分の師匠であり、叔母でもある、ライラ一人のみ。
「師匠…」
「――そんな顔をするな。事情は全て、なんとなく察していたよ。ゲレルが人間だったと知った、その時から。そして
「そう、ですか…」
「――紅夜。私が今言えることは、ただ一つ。気をしっかり持てッ!!」
「―――ッ!!」
突如大声で怒鳴られて、萎縮する。怒られる――そう思った紅夜は、恐怖のあまり目を閉じた。しかし、次に待っていたのは痛みではなく、抱擁だった。
ライラに抱きしめられた紅夜は、意味が分からず硬直する。
「17年だぞ?私は一生懸命お前を育ててきた。人間の血が混じっていようが関係ない。今更と言うものだ」
「―――」
「確かに。確かに当初、お前が憎かった。最愛の
「師匠――ッ!!」
紅夜は大粒の涙を流す。
拒絶されると思っていた。否定されるのではないかと思っていた。その懸念が全て消え去ったことと、
今まで、蒼汰やライラが時間稼ぎに奔走していたのは、紅夜に考えさせる時間を与えるためだった。妖怪としての生を否定して、半人半妖として生きていく。つまり、妖怪として生きていた今までの生を捨てることに他ならない。それは自分と言う存在の基盤を捨てることと同義。並大抵の覚悟で決められることじゃない。
それでもここまで待っていたのは、必要だったからだ。
そして今、認められた。認めてもらえたことで、楔が外れる。力に制限をかけていた枷が、解き放たれる。
『ナニイチャコラシテンダッ!』
――そんなとき、ゲレルが
文字通り、竜巻や大地震のように発生したのだ。この言い方は、ある意味ゲレルに適していると言えよう。何もないところから突然発生した。一瞬の出来事だった。
流石のゲレルも全てを塵以下に替えられたら、再生に手間取るようだ。本当に無から発生してきた。
ゲレルの巨大な拳が二人に襲い掛かる。突然の出来事で、近くにいた零夜とルーミアですら反応できなかった。
このままでは当たってしまい、二人とも吹き飛ばされてしまう。
『「感動の
『グガァアアアアアアア!!!』
――しかし、それは懸念だったようだ。
紅夜?がゲレルの岩石より大きい拳を片手で受け止め、その上で【トルマリン】の権能でゲレルを感電させた。ゲレルから焼き焦げた独特な匂いが放たれる。そのうえで、自分とゲレルを【タンザナイト】の権能で磁力で反発させ、ゲレルを吹き飛ばした。
『「いやぁ。ありがとうございますライラさん。俺じゃ紅夜の説得は無理だったんで」』
「いや…私は本心を言っただけだ。それよりも、二人の、声が…」
ライラはあり得ないものを聞いて、困惑した。
二人の声が重なって聞こえてくる。幻聴などではない。確実に紅夜と蒼汰。二人の声が重なって発っせられているのだ。
『「大丈夫です、師匠。特に問題はないので」』
「紅夜!?紅夜なのか!?――いや、お前たちは今、どっちなんだ?」
『「紅夜でもあり蒼汰でもあるって感じです。俺にもよく分からないんですけどね」』
そう言った紅夜の姿は、紅夜と蒼汰の見た目を半分ずつ分けたような見た目だ。姿は当初の紅夜のもので間違いないが、左側は紅夜を象徴する金髪と紅色の瞳、右側は蒼汰を象徴する黒髪と蒼色の瞳となっている。
そしてなにより、体に流れる力――オーラの量が今までの2倍となり、色が
紅夜と蒼汰。この二人が一つの体を操ることでなり得る、本気だ。
『「俺にもよくわからんが、多分俺がいるせいだろうな。霊力が俺で妖力が紅夜っていう括りが俺たちの中で完成しちまっているが故のもんだろ」』
蒼汰の言い分に、確かにと納得した。
紅夜は妖力を、蒼汰は霊力を使っているため、その両方――つまり本気を出すときには、二人の意識が一斉に浮上する仕組みなのだろう。本人たちも詳しいことは理解していないようだが。
『「まぁそういうわけですので、何も問題ありません。心配しないでください」』
「そうか。なら問題ないな」
『「任せてくださいよ。あぁあと夜神」』
「――なんだ?」
『「この戦い、多分俺たちだけじゃ無理だから。トドメは任せるぜ」』
「なッ!?それってどういう――!?」
『「俺が今言えることは、あとはお前の気持ち次第ってこった。気づく前に、失ったりしたら承知ししねぇぞ?」』
「何を言って…!?」
その時、頭のこめかみに激痛が走り、前かがみになる。
急に蒼汰がなにを言い出すのかと思い、声を出そうとした途端の激痛だ。
『○○○○○○。大好きだよ。ずっと。だって、私の大事な大事な、■■なんだから』
なんだこれは、記憶が疼く。記憶が、重なる。なんだ、これは。
夜神零夜は別に記憶喪失でも記憶障害を患っているわけではない。いたって普通の健康体だ。無論、消し去りたいほど忌々しい記憶があるが、零夜は忘れることはしない。何故なら、その記憶が今の零夜を突き動かす
(なんだこれは…。これは、俺の記憶だ。これはいつのころだ?俺は
突如つながった自分の記憶と蒼汰の言葉。これにどんな関連性があるのか、零夜は思い出せない。いや、分かっているはずなんだ。だが、それを、心が、拒絶している。それを分かってしまえば、今までの自分を崩すことに繋がりかねないから。
『「とにかく。零夜さんは少しの間休んでいてください。ルーミアさんも、あまり無茶はしないように、お願いしますね?」』
「――分かってるわよ」
『「あとライラさんは二人のこと頼むよ。俺たちの戦いの巻き添えで死んだなんてことになったら、洒落にならないからさ」』
「あぁ、分かった。任せておけ」
『「さてと。もう来たか。まぁあれだけ時間があったんだ。再生するのも、ワケないよな?」』
蒼汰が目の前を見ると、ゆっくり、ゆっくりと、視界の奥からゲレルが歩いてくるのが視認できる。傷も完全に治っており、減っているどころか増えているようだ、怒りが。
『許セネェ…。ブッ殺シテヤル…!!』
『「それはコッチの台詞だっての。さぁ夜が終わるまでに決着をつけよう。ラストバトルの始まりだぜッ!」』
正直自分でも書いて、戦闘中に感動シーンって必要か?って思ってましたけど、紅夜の場合“ライラに否定されるかもしれない”と言う不安が大きくて全力が出せないでいたので、必要です。
紅夜の全力がついに解放されたッ!
次回は紅夜と蒼汰の初邂逅のシーンから初めて行きます。
それでは、また次回もお楽しみにッ!!
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