東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 どうもお待たせしました。東方悪正記、投稿完了。今回はいつも以上の大ボリュームですよ。

 15000文字もいっちゃいましたからね。

 つーわけで見て行ってください。90話を!



90 決着?

 

 

『「おらおらッ!細切れにしてやるッ!!」』

 

『チョコマカト鬱陶シイ!!』

 

 

 月の一角で、無数の斬撃が生み出されていく。そしてそのあとには必ず一直線の紫紺の剣痕(けんこん)が宙に描かれていく。そしてそれは数秒後に消えていく。それはまるで一種の芸術――星空のようだった。

 

 今の人格は蒼汰だ。蒼汰は右手に刀、左手に鞘を持ち、霊力と妖力を混合してそれぞれに纏い、耐久力や攻撃力を尋常でないくらいに強化している。

 その武器を振り回して、ゲレルに着々とダメージを与えている。ゲレルに反撃をする暇など与えない。

 しかし、ゲレルの回復力も尋常ではないため、すぐに回復される。

 

 

『何度ヤッテモ無駄ダトイウコトガ分カラナイノカッ!!』

 

『「それはお前が決めることじゃないッ!それを決めるのは、俺たちだッ!!」』

 

 

 今度は紅夜の人格に切り替わり、紅夜は左手の鞘をもってしてゲレルの脳天へと直撃させた。その勢いでゲレルの下半身が地面に埋まり、その衝撃で地面に巨大な亀裂が走る。

 

 

『コンナモノデ、コノ俺ヲ封ジ込メラレルト思ッテ――』

 

『「そもそも、封じ込めようなんて思ってないッ!」』

 

 

 紅夜は地面に手を付けると、紅色と蒼色のオーラが広がり、【タンザナイト】の権能――磁力操作が発動する。ゲレルの体が磁力によって反発し、空高く宙を舞った。

 

 

『グォアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 空中に投げ出されたことで平衡(へいこう)感覚を失い、ゲレルは雄叫びを上げる。上下左右が分からなくなり、ゲレルは次の行動への判断が遅れる。

 その隙に、紅夜は飛来した無数の瓦礫のうち、足場になる大きい瓦礫に、立っていた。無論、足場が不安定だが、そこはタンザナイトの権能で平衡感覚を保っていた。

 

 

『「お前を、空に追い詰めるための、布石だ」』

 

『「いや、そこは空の監獄って言った方がカッコよくないか?」』

 

『「今はカッコよさなんて求めてないし、さっきと言ってることと矛盾するでしょうが!!」』

 

 

 蒼汰はギャグを挟むことを忘れなかった。

 何も知らない第三者の視点からすれば、一人で喋っている危ない人だが、ここはそっとしておく。

 

 人格が蒼汰に切り替わる。

 

 

『「こういう場所での狙い撃ちは、得意なんでな。任せとけ!」』

 

 

 蒼汰の周りに、【トルマリン】が無数に出現し、それら一つ一つが雷を帯びていた。そこから宝石の大きさとは比べものにならないほどの巨大な雷が飛来し、一転集中でゲレルの体を焼き焦がす。

 

 

『ウガァ…!!』

 

『「次は俺に任せて。ヤツの体を、切り刻む」』

 

 

 足場の瓦礫を蹴り、瓦礫が崩壊する。その一瞬で真っすぐに移動し、ゲレルの左腕を斬る。そしてまた新しい瓦礫を足場にして、それを何度も繰り返す。

 

 そしてその速度は増していき、一縷(いちる)の光へと化す。そのわずかな光が線を結び、星空のような芸術を生み出した。

 対してゲレルもその圧倒的なまでのエネルギーで体を再生しているが、内心ゲレルは焦っていた。

 

 

(対応しきれないッ!!ハエのようにチョコマカと動き回りやがってッ!!だが、速すぎるとしてもこの斬撃は異常すぎるだろ)

 

 

 平衡感覚を失い、斬られた体を再生した直後にまた斬られる。これではこちらは一切攻撃できない。いくらエネルギーが()()にあるとはいえ、このままではまずい。

 そこでゲレルの短絡的な思考が導き出した結論が――、

 

 

『マトメテ死ネッ!!』

 

 

 自爆だった。

 その爆発の威力はガンマ線バースト*1にも匹敵するほどの威力だ。基本的には前と後ろの一直線に放たれるが、エネルギー源となる場所にはエネルギー球体が存在しており、そこにゲレルはいた。正直言ってこれは爆発と言うよりレーザーに近い。

 その技が放たれた瞬間、月は真昼よりも明るくなり、空間が揺れた。

 

 

『「とんでもねぇ技放って来やがったッ!紅夜!できるかッ!?」』

 

『「もちろんッ!――【デコイ】ッ!」』

 

 

 ペリドットの権能、【デコイ】が発動した瞬間、爆発の威力が全て紅夜たちの方へと集中した。

 先ほども説明した通り、この爆発はガンマ線バーストに匹敵し、ガンマ線バーストとは天文学の分野で知られている中で最も光度の高い物理現象だ。とてもじゃないが生物がまともに喰らって生きていられるわけがない。

 それを二人は感覚だけで直観していた。それでも、自分たちがやらないとヤバイし、月に直撃すれば文字通り月は消滅する。

 

 

『「【宝石の支配者(ジュエルルーラー)】。同時発動」』

 

 

 二人がそう呟くと、体から複数の宝石が出現する。

 

 

№1  ガーネット  【真実の瞳】  発動

№2  アメジスト  【思考長加速】 発動

№4  ダイヤモンド 【硬化】    発動

№5  エメラルド  【調整】    発動

№10 トルマリン  【電磁波操作】 発動

№11 トパーズ   【感情■■】  発動

№12 タンザナイト 【磁力操作】  発動

 

 

 体から出現した宝石の数は、()()。アメジスト、ダイヤモンド、エメラルド、トルマリン、トパーズ、タンザナイトの六つだ。そこに、ガーネットは存在しない。

 それもそのはず。ガーネットの権能は常時発動系のものだからだ。ガーネットの石は、紅夜と蒼汰の体の一部分がその役割を担っていた。それは“瞳”だ。

 

 ガーネットは基本赤色だが、ブルーガーネットと言う青色のガーネットも存在している。

 二人の瞳をガーネットに見立てて発動されているため、語弊が生まれる言い方だが、要はガーネットと言う宝石が二人の瞳なのだ

 

 そして肝心のガーネットの権能は、【真実の瞳(ガーネットアイズ)】。

 この権能はその名の通り、真実を視ることができる権能だ。要は相手の嘘を見抜ける。しかし、さとり妖怪のように心が読めるわけではない。ガーネットアイズで分かることは、“相手が嘘をついていること”“相手の弱点”“相手の状態”などである。

 相手の感情を読み解く力はトパーズの権能ですでにあるため、必要ない。

 

 そして、トパーズの【感情■■】。これは基本的に戦闘に使えなさそうな権能ではあるが、これをガーネットアイズと組み合わせて使うことで相手の攻撃パターンを把握するという未来予知にも似た力を発揮するのだ。

 

 

『「妖霊力、チャージッ!!」』

 

 

 半人半妖である紅夜だからこそ使える霊力と妖力。その二つを組み合わせた力を便宜上、“妖霊力”と仮称する。

 二人の持っている刀に、紫紺のオーラが纏われていき、それはやがて肥大していき、巨大な大剣を、オーラのみで形作った。

 この強大すぎる力をアメジストの力で“調整”し、自身の体と刀を“硬化”。“思考長加速”で対策の一手のために時間をかけない。おかげで目の前の景色がスローモーションだ。刀に“電磁波”と“磁力”を纏わせる。

 

 

『「ウォオオオオオオオオオオオッ!!!!」』

 

 

 縦に一気に振るい、爆発(レーザー)と直撃する。

 爆風と衝撃が一気に月中に広がり、近くにあった岩や石は衝撃波だけで跡形もなく消滅する。余談だが、この激突で月の都を守っていた防衛結界が無残にも破壊されたことは言うまでもない。

 

 激しいエネルギー同士のぶつかり合い。これ以上の酷いことが起きない――などと言う保証はどこにもなかった。ゆえに、そこからさらに巨大な爆発が、辺り一帯を覆った。

 

 

――。

 

―――。

 

――――。

 

 

 爆発のあと、戦場は凄惨の一言に尽きていた。もともと更地の地面とクレーターしかなかった場所が、もはやそれを識別できないほどに凸凹(でこぼこ)に膨れ上がり、へこんでいた。

 空中で起きた爆発だったからこの程度で済んだものの、もしこれが地上で行われていたら、この程度では済まなかっただろう。

 

 大量の煙が舞う中、紅夜と蒼汰はそこにいた。周りに飛んでいた宝石もなくなっており、刀からオーラも消失していた。あれほどの攻撃を受けきったのだ。当然のことだろう。顔には汗が垂れ流れており、息も少し上がっていた。

 

 

 そして、その姿を見上げるものが、3人。

 

 

 零夜、ルーミア、ライラは瓦礫で生まれた影の中から、姿を表した。ルーミアの能力で影と言う闇の中に避難していたのだ。

 

 

「ひえぇ…やばすぎでしょ、アレ…」

 

「アレでなにが「俺たちだけじゃ無理だ」、だ。あんな攻撃受け止め切ってる時点でヤバイだろ。……アレが権能、か」

 

「紅夜のやつ…とんでもない才能を隠し持っていたようだな」

 

 

 3人から歓声をもらっていたが、そんなことを知る由もない二人は、未だに警戒している。ゲレルは()()することは理解しきっている。実際蒼汰はそれを見ている。

 

 

『「ねぇ蒼汰…アイツのエネルギーって、あとどれくらい切れると思う?」』

 

『「俺に聞いても指標(しひょう)になんねぇぞ。だがそうだな。今のあのクズが供給できるエネルギー量は、さっきのレーザービーム10回分ってくらいか?」』

 

『「じゅ…!ていうか、指標になんないなんて言っておいて、かなり詳しい数字だね」』

 

『「前にも言ったが、今のクズは弱体化してる。俺はあの後のことを知らないからな。詳しいことは知らんが、最初に会った時より明らかに弱体化してるのが実際眼に視えた」』

 

 

 紅夜は固唾を飲んだ。

 今のゲレルに力を分け与えている謎の存在。蒼汰が【クズ】と呼んでいるのとゲレルに力を貸している時点で【ゲレル】と同レベルかはたまたそれ以上のクズか、今の紅夜には分からない。

 ただ一つ分かることは、そのクズは今弱体化しており、全盛期のころはコレの比ではないという事実だ。もしそんな存在が本来の力を取り戻したらと思うと、ゾっとする。

 

 

『「ところで、全然ゲレルが姿を表さないけど…」』

 

『「油断すんなよ。不意打ち狙いだからな」』

 

『「分かってる。けど、なんか引っかかるような…」』

 

『「そうか?俺は何とも――って、まさかッ!!」』

 

 

 蒼汰が視線を下にすると、そこには零夜たちの姿があった。

 まさか、ヤツは――!!!

 

 

『「お前らッ!!今すぐそこから離れろッ!!」』

 

『残念だったなッ!!』

 

「――えッ」

 

 

 二人の声とともに、三人のいたところにゲレルが発生した。ゲレルはこれを狙っていたのだ。狙いは――小さな声を上げた女性――ルーミアだった。

 ゲレルの巨大な手が、ルーミアに掴みかからんと襲い掛かる――。

 

 

「そんなことさせるわけがないだろッ!」

 

『アベベ』

 

 

 しかし、ライラがいたことを忘れていたのだろうか。ライラによってゲレルの体は三枚おろしにされ、その場でゲレルの体が崩れ落ちた。

 3人は急いでその場から離れると、同時にゲレルの体が再生して、声を発せられるようになる。

 

 

『貴様…ドウシテ不意打チニ気ヅケタ!?』

 

「簡単だ。そもそも弟子が警戒しているのに、師匠である私が警戒しない方がおかしい。お前は短絡的ながらも頭は回るそうだからな。狡猾な知能も持ち合わせているだろう。ならば人質を取ったとしてもおかしくない。そしてお前にとって有益な人質に、私は論外。お前に攻撃できるからな。夜神は男だから当然論外。ならば消去法で、狙うならルーミアしかいない。そう結論付けただけだ。お前の思考は読みやすい」

 

 

 そもそも、ゲレルは女好きだ。女を孕み袋とか性玩具くらいにしか思っていないコイツならば、必ずあとのことを考えて人質は女を選ぶだろうとライラは踏んだのだ。

 

 

「彼女に手を出そうものなら私が間に入ろう。彼女に指一本触れられると思うな」

 

 

 そういい、彼女はルーミアの前に立って刃をゲレルに向けた。

 

 

(かっこいい…でも正直、そのセリフは零夜から聞きたかったかな…)

 

 

 なんて、彼女が思っていたことは、永遠の秘密である。

 

 

『クソゥ!チクショウッ!クソガッ!!ドウシテコウモウマク行カナインダッ!』

 

『「当たり前だッつの。人生思い通りできてると思ったら間違いだから。」』

 

 

 ライラの隣に、蒼汰が着地する。

 

 

『「大方の説明はヘカちゃんから聞いてたけど、創造主がガキだと、その子供もガキだな」』

 

(ヘカちゃん…?)

 

『フザケルナッ!俺ヲアンナ不出来ナヤツトイッショニスルナッ!』

 

『「いや同レベルだろ。そういう自覚がないって面倒くさいよな」』

 

『ナンダト…ッ!』

 

『「…蒼汰。ちょっと、いいかな?」』

 

『「なんだ?……あぁ、分かったよ」』

 

 

 一心同体ゆえに、紅夜の気持ちを理解したのか、黙った。体の主導権が完全に紅夜に移り、一歩前に出て、ゲレルに問いかけた。

 

 

「ゲレル・ユーベル、だったな」

 

『ナンダァ?』

 

「俺の顔に――見覚えはあるか?」

 

『ハァ?テメェノヨウナガキニ見覚エナンテ――』

 

 

 ゲレルの言葉が、途中で止まる。顎に手を当て、考え込むような動作をして、数秒後。ゲレルの顔が歪んだ。もとよりガーゴイルのような見た目に変化してから、歪んだ顔つきだったが、その顔がさらに歪んだ。

 

 

『アァソウカ。思イ出シタゾ。ソノ女ノ妹ダッタカ。ソシテオ前ハアノ時ノガキカッ!最近物忘レガ激シイクテナァ。アァ段々ト鮮明ニ思イ出シテキタゾ。今デモアノ仏頂面(ぶっちょうづら)ガ泣キ(ひしゃげ)ゲタ、絶望シタ顔ニ変ワッタアノ時ノコトガガ忘レラレナイ…!アァ、今思イ出シテモ興奮ガ止マラナイ……!俺ガ初メテ抱イタ女ダッタカラナァ…!』

 

「貴様―――ッ!!!」

 

 

 ライラの顔が憤怒で歪む。

 完全にバカにされていた。忘れたと言っておきながら、忘れらないなどと言う戯言を口にされ、もとよりピークだったライラの怒りが、さらに上がっていく。

 

 さらには下品なことに、ゲレルの過剰膨張した筋肉――特に下半身。ナニとは言わないが、体に比例したバカでかい()()が過剰に膨れ上がっていた。モザイク必須レベルである。

 

 それを見たルーミアが「ひっ」と言う小さな悲鳴を上げて零夜の背中に隠れた。対して零夜も嫌悪感が顔に現れていた。

 

 

「それ以上、レイラを穢すのは――「師匠。ここは俺に任せてください」…紅夜」

 

 

 紅夜はゆっくりと、一歩、二歩とゲレルに近づく。左手で刀を強く握り締め、その手からは血が垂れている。

 

 

「もとよりお前を潰す覚悟はとっくにできてたんだ。でも、お前の口から直接聞いておきたかった。俺のこと、師匠のこと、そして…俺の母親のこと。お前がどんなやつなのか、とっくに理解してたつもりだったんだけど…お前への認識を、甘くしすぎていたようだ

 

 

 そのどす黒い声がどこから出たのか。一瞬でゲレルとの間合いを詰めた紅夜は、紫紺のオーラを纏わせた刃で、ゲレルの()()を横から斬り取った。

 ゲレルが苦悶の声を上げる前に、目の前でソレを細切れにした。

 

 

『クソガキィイイイイイイイイッ!』

 

 

 ゲレルが口を大きく開くと、そこから巨大な光が充填されていた。至近距離でのエネルギー弾を放つつもりだ。

 しかし、その直後に紅夜はゲレルの顔まで届く距離まで跳んで、ゲレルの巨大な顔を鷲掴みし、そのまま地面に叩きつける。

 

 

『ウガァアアア!!ド、ドコニソンナ力ガ…!?』

 

「黙れ」

 

 

 持っていた刀を逆手に持って、ゲレルの口内に突き刺す。追加で【タンザナイト】の権能「磁力操作」でゲレルの体を地面に固定する。

 

 

『アギアァアアアア!!』

 

「黙れと言っているのが聞こえないのか?」

 

 

 左手を(あいだ)の閉じたピースの状態にし、そこに妖霊力を流しこみ、エネルギーの刃へと形を形成した。

 真実の瞳(ガーネットアイズ)を発動する。視える、ゲレルの体の至る所に一点の光が複数点在しているところが。数は300カ所以上はあった。

 一瞬で、その300カ所全ての光を突いた。背中の方にあったものもあったが、そんなの関係ない。胸から一気に突き刺すだけだ。

 

 

『ウワ、グギ、アグアァアアアアアアアッ!!』

 

「やかましいなァ。なんでうるさいって言ってるのに。聞き取れないのか?」

 

 

 ゲレルは激痛に悶える。

 紅夜がついたのは、経穴(けいけつ)。一般的にツボと呼ばれるものだ。民間療法の一つで、押されると滅茶苦茶痛い。そんな場所を、刃なんかで貫通させたら、それは通常の何倍、何十倍もの痛みへと変わるだろう。

 

 

『ヤ、ヤメロ…!お前ハ俺ノ息子ダロッ!?父親ヲ痛メツケテイイト思ッテルノカ!?』

 

「誰が父親だ。そんなこと、微塵も思ってない癖にな!!」

 

 

 挙句の果てには心にもない言葉と懇願を言ってくる。それが嘘であることなど、先ほどの言葉で丸わかりだ。誰がそんな嘘を真に受けるか。

 こんなことをしても、ゲレルの傷はすぐに回復し、再生する。だからこそ、痛みを、激痛のみを与えることで、ゲレルへの報復とした。

 途中、再生することで何度も何度も経穴の位置が変わっていた。『変化』の権能によるものだろう。そこすらも変えることができるとは。だがしかし、真実の瞳(ガーネットアイズ)を持つ紅夜にはそんなことは関係ない。何度経穴の位置が変わろうと、そこを突くだけだ。

 

 

『おい紅夜、落ち着けッ!』

 

「落ち着いていられるか。コイツには痛みと恐怖を刻み込んでやる。二度と調子に乗れないように」

 

 

 自分の中で蒼汰が語り掛けてくるが、紅夜の心情は自分で抑えられるレベルではない。

 ここにきて初めてライラの心情を理解できたかもしれなかったからだ。実の妹を(なぶ)られ、凌辱され、犯され、どこの馬の骨かもわからない男の子を産まされたレイラ(母親)の心も、最後を見たライラの絶望も、紅夜には分からない。せいぜい苦しかったんだな程度しか思い浮かばない。それに、自分にはそれを理解する資格などないと紅夜は思っている。

 

 『ルーミア』の記憶で視た、レイラのあの絶望の表情が今でも忘れらない。あの後、なにが起こったのか想像に難くないが、それでも考えるだけでも反吐が出る。

 自分はこんなクズの血が流れているのかと思うと寒気がする。自分ですら、ここまで冷徹に拷問をできるなんて、思いもしなかった。

 

 

『そもそもコイツの供給源を断ち切らないと、何度も回復しちまうだろうがッ!』

 

「今となっては都合がいい。コイツを永遠に苦しめられる」

 

『お前怒ると本当に話聞かねぇな!そういうとこだぞ欠点ッ!』

 

「やかましい。今はコイツを苦しめるので精いっぱいだ。ちょっと黙ってろ」

 

『黙ってるわけにはいくかッ!それにテメェ、トパーズの本当の権能(チカラ)すらも使ってんだろッ!それは教えてなかったはずだッ!』

 

「お前の権能でもあり、俺の権能でもあるんだ。どんなものかはすぐ知ろうと思えばすぐに()かる」

 

 

 まだ紅夜が未成熟な権能覚醒に至ったとき、蒼汰(ウォクス)はトパーズの権能を“感情感知”と答えた。だがしかし、それは正確ではない。それはトパーズの権能の一部でしかない。

 トパーズの本当の権能は、“感情支配”である。トパーズの効果、効能は“取捨(しゅしゃ)選択”と“感情抑制”。この二つが合わさることで、冷静、冷徹、冷酷な判断すら下せるようになるという、心が腐敗しかねない危険な権能だ。

 無論、感情に関してできることが増え、感情抑制、感情感知はもちろん、相手の感情にすら干渉可能で、相手の脳に直接作用できる。現に今、ゲレルには“痛い”と言う“感情”を必要以上に送り続けているのだ。そうすることで痛みを数百倍へと昇華することも可能だ。

 今の紅夜には危険すぎると考え、蒼汰は敢えて教えなかったのだが――、

 

 

『お前、この権能がどれほど危険なのか分かってのか!?俺だってルビー(ぼうそう)権能(チカラ)よりも使わねぇんだぞ!?

 

 

 トパーズの権能は、はっきり言って危険だ。それは蒼汰がルビーの暴走よりも使用を躊躇うほどに。当たり前だ。この権能を使えば、心がだんだん死んでいく。自分が自分ではなくなる感覚に襲われる。取捨選択が容易にできてしまうようになるのだ。

 それは恐ろしいことだ。だからこそ、蒼汰もこの能力を好んで使わなかった。

 

 だというのに、紅夜はその能力を自力で理解して、使用している。このままではまずい。

 本来発動していいはずの“感情抑制”も、なぜか発動しない。発動条件は、過剰なまでの感情の高ぶりだ。今の紅夜の状態で、発動しないのはおかしい。

 

 

『クソッ、なんで“感情抑制”が発動しない!?発動してもいいはずだぞ!?』

 

「蒼汰。なにか一つ勘違いしてるけど、俺は別に怒ってなんかない」

 

『……なに?』

 

「コイツには怒りを向ける価値すらない。だったら、コイツを痛めつけるのは復讐心による怒りなんかじゃなく、作業のようにすればいいんだ」

 

 

 そう。本来なら“感情抑制”が発動してもおかしくなかった。だが、紅夜はゲレルへの怒りすらも封殺し、単純作業のようにゲレルを拷問しているのだ。

 

 

『ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!!』

 

「……その懇願を、お前は一度でも聞き入れたことはあるか?ないだろ?もしあったら、あの人(レイラ)が死ぬことも、俺が産まれることもなかったんだからなッ!!」

 

 

 紅夜が攻撃の手をやめると、再びゲレルの巨大な口を無理やり開けて、手を口の中に突っ込む。その際嚙み千切られないように手を『硬化』させておくことも忘れない。

 そこからサファイアの権能、“液体化”を発動し、ゲレルの体内に大量の水を流し込む。それだけではない。サファイアの水質は紅夜の感情によって変化する。それゆえに、今紅夜が出している液体は、熱湯などで片づけていいレベルではない。塩酸、硫酸、濃硫酸を濃く混ぜ込んだような劇物だ。それを直接、ゲレルの体内に流し込んだ。

 

 

『――――――ッ!!!!』

 

 

 ゲレルから言葉にならない悲鳴が上がる。いくら回復、再生するチート級の体を持っているとしても、痛覚までは変えられない。ゲレルであれば痛覚を最大まで麻痺させるまで『変化』できるだろうが、なくなるわけではない。つまり紅夜の出した答えは麻痺していても激痛が走るような痛みを与え続けることだ。

 

 

「苦しいか?苦しいだろ。だがまだ終わらせない。お前に殺された人たちの苦しみは、こんなものじゃなかったはずだ。お前の苦しみはその人たちへの(いまし)めとしての価値すらないが、それでもなにもしないよりはマシだ。さぁ、もっと苦しめッ!!!」

 

 

 ゲレルの体から煙が噴出する。体内から溶解されている証拠だ。通常ならすぐにでも回復、再生するが、それをした瞬間にまた溶かされては、なんの意味もない。今この瞬間、ゲレルの再生と回復は完全に無意味と化したのだ。

 

 

『――――――ッ!!!!』

 

「なんて言っているのか分からないなぁ!!もっと分かるように言ってみろよッ!その焼け爛れた喉でッ!ほら、もっと、もっと、もっt――」

 

「もうやめろッ!!」

 

 

 突如、パンッ!と言う乾いた音ともに、紅夜の頬に痛みが走る。その衝撃でゲレルの体から弾かれ、地面を転がる。

 それにより、ゲレルは離脱の隙が生まれ、紅夜たちから距離を取った。アレでは再生に時間を要するだろう。

 

 そして、紅夜を叩いたのは――ライラだった。それに、涙目だった。その瞳から涙が今にも零れそうで、今まで見ることがなかった顔に、紅夜は呆気に取られた。

 

 

「し、師匠…?」

 

「もうやめろッ!これ以上お前が外道に墜ちる必要はない!」

 

「でも、アイツを赦すことなんて、出来ませんッ!」

 

「それは私だって同じだッ!でもそれ以上に、お前がお前じゃなくなるような気がして、心が休まらないッ!それに、私はお前の師匠として―――義親(おや)として!!我が子が深沼に墜ちていく様を見るのは、許容できないッ!!」

 

「―――」

 

 

 頭を鈍器で殴られたような感覚だった。

 今、ライラは自らを義親(おや)と言ったのだ。自分を子として認めたのだ。当初、自分がどれほどそのポジションが欲しいと願ったか。今ではその資格すらないと考えているのに。

 それだというのに、ライラは自分を“我が子”と言った。その衝撃に、紅夜の思考回路はストップした。

 

 

「本当のお前を認めたばかりなんだッ!妖怪でも半人半妖でも関係ない!【紅月紅夜】を、私は受け入れたんだッ!別人になるな。お前は一生、【紅月紅夜】として生きろッ!!」

 

「師匠……ご、ごめん、なさい」

 

「――あぁ。分かればいいんだ」

 

 

 優しい声で、紅夜に近づいて、ハグをする。背中を優しく叩く。紅夜の瞳から、液体が零れる。そして、誰にも見せないが、ライラの瞳からも、雫が零れていた。

 

 

『ヨクモヤッテクレタナ!!』

 

 

 しかし、そんな空気を読まないヤツが一人いた。無論、ゲレルだ。そもそも敵であるためこんな空気を読む必要などなかった。

 回復した口内から発射されたエネルギー弾が、二人を襲う。

 

 

「てめぇ、感動シーンを何度台無しにしたら気が済むんだッ!」

 

 

 即座に紅夜――蒼汰の人格に切り替わり、タンザナイトの権能でエネルギー弾を分散させ、後ろで爆発をする。

 

 

「いやぁ、助かりましたよ、ライラさん。コイツ、俺じゃ聞く耳持たなかったんで。止めてくれてあざます」

 

「感謝はもっと丁寧にやれ…」

 

「まぁそんなことはどうでもいーとして。ハグ、いつまでやってるつもりっすか?巨乳が苦しいんですけど」

 

「あ、あぁ…すまん。…ていうか、貴様には羞恥心と言うのがないのか!?」

 

「それを言うならデリカシーじゃないっすか?」

 

「―――なんだそれは」

 

「あー言葉知らなきゃ使えないか」

 

 

 蒼汰は一人で納得するが、ライラは全然納得できていない。

 

 

『貴様ラ…絶対ニ許サナイカラナ!!』

 

「許さない?ははっ、バカなこと言うなー。許さないのは――『こっちの台詞だよ」』

 

 

 紅夜と蒼汰が、また一つになる。

 一度は紅夜によって接続を拒否されていたが、ライラのファインプレーにより、再び一心同体になった。

 

 

『「行くぞ紅夜。今度は暴走すんなよ?」』

 

『「もちろん。師匠に叩かれて、十分目が覚めたよ」』

 

『「そりゃぁ頼もしい。それじゃ、さっさと決めるぞ」』

 

『「あぁ」』

 

 

 十二個の宝石が、二人を中心に煌びやかに舞い、それが刀に収束されていく。

 これぞ、【宝石の支配者(ジュエルルーラー)】の真骨頂。最終奥義である。

 

 

『「本来、お前単体じゃ未熟だから使えねぇ技だ。俺のアシストのおかげで放てるんだ。感謝しろよ」』

 

『「その減らず口がなければ、感謝してたよ」』

 

『「ははッ。そりゃ残念だッ!!」』

 

 

 宝石の光は、やがて巨大な一本の巨大な刃と化す。その光は神々しく、虹を連想させる。

 そして、紅夜と蒼汰の瞳は、ゲレルの繋がり真実の瞳(ガーネットアイズ)で視認する。もともと、権能を獲得した時点で見えてはいたが、こちらの方がよりはっきり見える。

 

 相変わらず、巨大なエネルギーの塊だ。アレを破壊しない限り、ゲレルが倒れることはない。ならばアレを破壊するだけ。

 零夜の時は破壊しようとして、大爆発が起きたが、問題ない。爆発が起きたとしても、それを集中させればいいだけだ。

 

 

『大技ヲ放ツツモリダナ……サセルカァ…!!』

 

『「ところがどっこいもう遅い!」』

 

『「お前が苦しめた人たちの分の苦しみを噛み締めて、死ねッ!」』

 

 

『「ゲレル・ユーベルッ!!」』

 

 

 ここで、正真正銘、二人の声が、心が、一つになった。――刃の輝きが、増していく。

 二心一体になったことで、二人分の集中力、エネルギーが、より凝固に、強固に、強靭に固められ、高まっていく。

 

 

『死ネネエエエエエエエエェエエエエ!!!!』

 

 

―ガンマ線バースト 一転集中―

 

 

 本来前と後ろに放たれる大爆発が、前方へと一転集中された。そのエネルギー量は、単純計算で、二倍。さらにそれを自爆と言う方法で放つのではなく、砲撃と言う形で放った。そのエネルギー量は、計り知れない。

 

 

『「ウォオオオオオオオオオオオ!!!!」』

 

 

 巨大な刃を、一気に振り下ろす。爆破砲撃と、巨大斬撃。二つのちょうどど真ん中で激突し、衝撃波が辺り一帯を吹き飛ばす。

 戦況は、正直言ってゲレルが有利だ。もともと、紅夜の体はすでに疲労困憊であるのに対し、ゲレルの体は常にエネルギーの供給により、全快まで回復している。そこには圧倒的な差があったのだ。

 

 

『マダダ!モウ一丁オマケダァ!!』

 

 

 さらにゲレルは、この状況でさらにガンマ線バースト・一転集中を連続して放ってきた。ゲレルはこの時点で、月のことなど微塵も考えていなかった。

 これが大爆発を起こせば、考えるまでもなく月は消失する。そこにある生命が全て息絶えるのだ。ゲレルのどこまでも自分本位な思考が、彼をそうさせたのだ。臘月であっても、自らのテリトリーを消滅させるような愚かな真似はしなかった。

 

 

『「アイツマジかッ!?こんなん爆発すれば月消滅確定だぞッ!?」』

 

『「いいから集中しろ!このエネルギーごと、ペリドットで霧散させればいいッ!」』

 

『「どうやって!?ただでさえ爆発しないように抑えるのに精いっぱいだぞ!?」』

 

『「……頑張るッ!!」』

 

『「お前そんな脳筋キャラだったか!?」』

 

 

 しかし、このままではジリ貧だというもの確実。負けてしまうだろう。

 徐々に体が押されて、足で踏ん張るも、地面を盛り上げながら後ろへ引きずられていく。足から少しずつ、何かが、ひび割れるような音が、不快な音が聞こえる。いや、これが何かは分かってる。骨の音だ。足の骨が、耐久力がなくなっていき、徐々にヒビ割れていっている音だ。ダイヤモンドの『硬化』の権能ですら、この攻撃には長くは耐えられないのか――!

 

 不味い。不味い。不味い。

 

 再生しなくては、耐えられない。だけど12の宝石全ての力を攻撃へと転換してしまっている。そもそも、ダイヤモンドの権能があるのにここまで脆くなっているのは、全ての力を攻撃に転化しているからだ。攻撃力が上がる代わりに、防御力が疎かになってしまっていたのだ。

 

 どうする?ドウスル?ドうるす?どウする?どうスる?どうすル?ドウする?どウスる?どうスル?ドうすル?ドうスる?どウすル?どうす――

 

 

『周りを頼れ、バカ共ッ!!』

 

「なに一人?二人?だけで全部解決しようとしてんのよ!!」

 

 

 間から、二人の影が入ってきた。その二人が手を前にかざすと、敵の攻撃の抵抗が一切なくなった。驚いた二人は、慌てて攻撃を解除する。それでも、エネルギー刃へ纏うことを忘れない。

 二人は目の前の人物を見る。一人は黒い服の金髪の女性で、もう一人は、見覚えのない、白い鎧を装着している、男の声をしている人物だった。この声には聞き覚えがある。

 

 

『「零夜さん、ルーミアさん…!」』

 

『俺らのこと完全に忘れたんじゃねぇだろうな!?戦力外通告してんじゃねぇぞッ!まだ、やれるっつの!』

 

「そうそう。全部自分たちだけで片づけようだなんて、どんくさいにもほどがあるでしょ!」

 

 

 零夜――【仮面ライダーエボル・ブラックホールフォーム】と、ルーミアの目の前には、ブラックホールにも似た黒いワームホールが、

 ルーミアの闇の力による重力場の生成、ブラックホールフォームのブラックホール生成能力、星間航行と重力操作を合体させることで、ワームホールを形成しているのだ。

 これほどの精度の高い技を即興で行うなど不可能に近いが、何せ彼ら彼女らは千年も同じ時を過ごした間柄。不可能なはずがなかった。

 ちなみに、ワームホールの繋がっている先はどこかの宇宙空間だ。無害な場所へと飛ばしているため、いろんな影響はない。

 

 

『さっさとしろッ!正直言って今の状態でこのフォームになっているだけでもキツいってのに、出来る限り強化してんだッ!負担が半端ないんだよッ!』

 

 

 仮面ライダーエボル・ブラックホールフォームの胸部にある特殊変換炉“カタストロフィリアクター”で、影響範囲内における全存在の生命活動を強制停止させる程の力ブラックホールを利用した特殊攻撃と言う恐ろしい機能に加えて、自身の戦闘能力を最大50倍まで引き上げることができると言うデタラメ染みたブーストを可能にしている。

 

 しかし、ノンリスクでブースト出来る訳では無く、特殊攻撃の威力や能力強化の程度に応じて、装着者への負担もまた爆発的に増大する。

 

 変身条件があるライダーに変身すればデメリットを肉体ダメージに変換する(なお、そのライダーの力が強力だったら、その分身体ダメージ(デメリット)も増す)と言う元々の制約(ふたん)を持っている零夜からすれば、上位クラスで使いたくないライダーだった。

 

 

『「でも、足が…!」』

 

「お前、私がいることを忘れていないか?送ってやる!」

 

 

 ふと、体が持ち上げられる。顔を上げると、そこにはライラが映った。

 

 

「お前ら、元は同一人物なだけあって、やはり性格も似てるな」

 

『「ど、どこがですかッ!」』

 

「ははっ。文句ならあとでたくさん聞いてやる。―――行ってこいッ!!」

 

 

 体が放り投げられ、未だに攻撃中のゲレルが視界に入ってくる。どうやらあの状態だと、この奇襲には完全に気づいていないようだ。まだ、この攻撃の先に自分たちがいると、誤解している。

 再び力を解放して、刃に12の宝石の輝きと力が宿る。

 

 

『ナッ!?イツノ間ニ!?』

 

『「よーやく気づいたか。だがもう遅いッ!!」』

 

『バカナ!?ドウヤッテココマデ…!?』

 

『「お前の敗因を教えてやる。それは――仲間の有無だッ!!」』

 

 

『「宝石は星の輝きをも凌駕す(リトス・オブ・カルデアス)!!」』

 

 

『ヤメロ…ヤメロォオオオオオオオオオ!!!』

 

 

 縦に一直線。斬撃は振り下ろされた。ゲレルは対応できる間もなく、自分の供給源(せいめいせん)が破壊されていくのを見るしかなかった。攻撃は、急にはやめられないから。

 12の宝石は星の輝きにすら勝り、凌駕する。星をも超えた力は、天から降り注ぐ光の柱を壊していく。ゆっくりだが、確実に。

 やがてそれはガラスのように確実に砕け散り、光の塵となって消えていく。攻撃対象のなくなった斬撃は、次の標的へと襲い掛かる。

 

 

『グアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 ゲレルは両手をクロスして、攻撃を防いでいるが、ゲレルの立っている地面が陥没を始める。

 

 

『「今度こそ、本当に終わりだッ!」』

 

『「さっさと消滅(きえ)ろッ!」』

 

 

『フザケルナ…!俺ハコンナトコロデ消エテイイハズガナイッ!俺ハッ!俺ハッ!俺ハァアアアアア!!!』

 

 

 ゲレルの体が、二分される。それと同時に、今まで内包され、供給されていたエネルギーが、暴走を始める。

 

 

『今だッ!』

 

「了解ッ!」

 

 

 爆発する瞬間、零夜――エボルとルーミアは再び合体技を発動し、ワームホールがゲレルの体を包み込む。黒い球体がゲレルの体を包み、ただそれだけの時間が、10秒ほど過ぎていく――。

 

 二人がワームホールを解除すると、そこからドサッ、と言う音とともに、ゲレル――光輝の体が落ちてきた。

 この一連の出来事に、紅夜たちは唖然とした。その驚きをよそに、変身を解除し、ふらついた体をルーミアにキャッチしてもらう。

 

 

『「これは…?一体、なにをしたんですか?」』

 

「ゲレルが、死ぬ、瞬間。ヤツの意識とアイツの体を、分離した。本来なら、無理、だった、けど。死ぬ瞬間なら、魂と肉体の繋がりに、綻びが生じるから、それに、賭けた」

 

「もう零夜。無茶しすぎ…」

 

「しぶとさ、には、定評、あるん、で、な」

 

「誰からの定評よ…」

 

 

 ブラックホールフォームともともとのデメリットで、体に結構な負担がかかっており、言葉が途切れ途切れだ。正直言って今意識があるだけでも奇跡と言っても過言ではないだろう。ルーミアはゲレルと蒼汰の戦闘前に渡された三本の内、二本目の回復薬を、ゆっくりと零夜に飲ませる。

 紅夜と蒼汰は融合状態を解除し、紅夜へと戻る。

 

 

「それで、ゲレルの体を残したのは、なんでですか?」

 

「えっ、聞いてなかったの?その訳分かんないヤツに」

 

(『あれッ?そーいや話してなかったような、いや、話したような…?』)

 

「つまりすごく曖昧ってこと?俺もよく覚えてない」

 

「ハァ…仕方ないわね。いい?よく聞きなさい。ゲレル・ユーベルと言う人格は、綿月臘月っていうやつの権能で創られた存在なの。だから零夜は、ゲレルに憑依された人物を助けたってわけよ」

 

「……いろいろと、わけわからな過ぎて、理解まで時間がかかります…」

 

(『えー…俺そこらへんの説明省いたっけ?作者が覚えてないこと俺が分かるわけねぇよ…』)

 

 

 やかましい。

 

 

「とにかく。これで本当に終わりってわけよ」

 

「――そうだな。終わりの勝ち(どき)を上げる気力も湧かないが――この戦い。本当に、終わったんだ」

 

「あぁ。その通りだ」

 

 

 隣から、ライラがそう言う。そしてその肩には、光輝の体が担がれていた。意識は失っているようだ。無理はない。あれだけゲレルとデンドロンに体を酷使され続けていたのだから。

 

 

「私が直接デンドロンをこの手で亡き者にはできなかったが…まぁ、結果オーライ、と言うやつだろう?」

 

「どこで、覚えたんだよ、その言葉…」

 

「シロの奴が使っているのを聞いてな。真似てみただけだ」

 

 

 この程度の雑談ができるほど、余裕が生まれ、零夜もそこまで回復できている。全て終わったことによる、一種の報酬とも言えるだろう。

 

 

「夜神。ナイスファイト。いやー、正直言って、俺たちだけじゃ危なかったぜ」

 

 

 すると、いつの間にか体の主導権を握った蒼汰が零夜を労う。

 

 

「うっせ。お前が言ったんだろ。この戦い、多分俺たちだけじゃ無理だからって。ていうかなんなんだよその入れ替わりシステム。急にやられると調子狂う」

 

「はははッ。そうだな。だが俺は謝らない」

 

「おい」

 

「だって俺悪くないしー。まぁまぁ。そんなわけで凱旋だよ凱旋ッ!つーわけでレイヤたちのところにさっさと戻るか」

 

 

 「いやー疲れた疲れた」と両手を頭の後ろに重ねながら、蒼汰はフラフラと周りを歩く。

 蒼汰を尻目に零夜たちは帰るために一カ所に集まる。

 

 

「おーい。さっさと帰るぞ。とりあえず、シロがいるであろう月の都に」

 

「はいよー。じゃあそっち行くから待って――」

 

 

 ビクンッと、蒼汰の体が震える。突然のことに零夜たちは首を傾げる。そしてそのまま蒼汰の髪色が金髪へと戻っていく。人格が紅夜になった証だ。

 

 

「おい紅夜ッ!お前もこっちに来――」

 

 

 ライラがそう叫んだ瞬間、紅夜の右手が雷電によって輝く。あれは間違いない。攻撃用の権能【トルマリン】の権能による“電磁波操作”だ。

 その右手を銃の形にして―――零夜たちに向けた。

 

 

「なッ!?何の真似だ、紅夜ッ!」

 

 

 紅夜は何も答えない。ただ、こちらを見る際の顔が、彼らしからぬほど、途轍もなく歪んでいて――

 

 

 

「駄目だよ。もう終わったんだ。脱落者(負け犬)はさっさと墜ちろ」

 

 

 

「ガ…ッ!!」

 

 

 その紅夜の右胸を、血で染まった手が貫いていた。その光景に、全員で顔を青くする。

 紅夜?は吐血し、自分の胸を貫いた人物を睨んだ。

 

 

「おま、え…ッ!!」

 

「あぁそうだ。蒼汰は解放させてもらうよ」

 

 

 その人物が紅夜?の頭を掴み、引っ張る。すると、まるで地面から掘られた野菜のように、蒼汰の体が分離した。紅夜と蒼汰の体が分離したのだ。

 地面に投げ出された蒼汰は、その人物を睨みつけ、怒鳴る。

 

 

「おい!!―――何の真似だ!?」

 

「見て分からないかい?後始末だよ」

 

「なんだと――!?」

 

「そもそもさぁ。ずっと不思議に思ってんだ。なんで今のお前と未来のお前。容姿も能力も違っていたのかって()()()()()()()()()()()

 

「なんの、話を――!?」

 

「お前が俺を行動不能にしてくれたおかげで、考える時間がたくさんできた。そして一つの結論に至れた。やっぱりお前、“憑依系”だったか―――ゲレル・ユーベル」

 

 

 衝撃の名前――先ほど倒したはずの男の名前を、その人物は紅夜に向かって言った。血に濡れた右手を抜き取り、紅夜――ゲレルはは前のめりに倒れる。そして攻撃した人物が露わになる。

 

 

 

「【シロ】…ッ」

 

 

 

 悲痛な声で、零夜はその人物の名を呟いた。シロ――ヤガミレイヤの名を。

 

 

 

*1
巨星が一生の最後に起こす爆発で宇宙で確認される中で最大最強の爆発現象




 ゲレルを撃破――と思った矢先に異常事態!?

 そして、シロの裏切り――。

 ゲレル戦が終わったらタケトリモノガタリと言ったな。アレは嘘だ。後々の展開を考えたら、やっぱ無理だったわ。
 軽率に予告なんてするもんじゃないと学習した。


次回 91 裏切り


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