ゲレルをやっとの思いで倒したと思ったら、なんとゲレルは“憑依”も使えたらしく、それで紅夜の体を乗っ取って零夜たちを襲撃。
しかし、その瞬間に紅夜の右胸は何者かによって貫かれた。そしてその犯人は――ともに長い時間を過ごした仲間である、シロこと、ヤガミレイヤであった。
「シロ…何の真似だ!?」
理解が、理解が、理解が、出来ない。
何故シロは紅夜の胸を貫いた?あれほど大事にしていた紅夜に、そう易々と傷をつけられる?分からないことが多すぎるこの場面で、零夜はこの一言を絞り出した。
薄いシロコートに白いTシャツ、白いズボンと言う全身白装束の恰好をした、自分に瓜二つの人物へと。
「アレ?さっきも言ったよね?今のコイツは紅夜じゃない。紅夜の体に憑依したゲレルだ」
「だから、お前はいろいろ飛びすぎなんだよッ!そんな急に言われて、分かるわけないだろうが…!!」
「――もう答えを言っているんだから、あとは自力で答えを見出してほしいんだけど…他人に答えを求めてたら、いつまで経っても成長できないよ?」
皮肉交じりで、シロ――レイヤは口を動かす。
今のシロは、零夜の知っている彼ではない。むしろ、誰かが彼の変装をしていると言っている方が納得できる。
「だったら俺の質問に答えろ…ッ。お前はなんでこんなことをしたッ!?お前はそんなヤツじゃなかっただろうがッ!!」
蒼汰が怒りをもってして叫ぶ。
彼と紅夜は分離した。そんなことは、魂を操る【ネメアの獅子】を持つシロにだからこそできる芸当だ。だからこそ、目の前にいる人物がシロ本人であるという確証が深まっていく。
「…蒼汰の言うことなら、答えないわけにはいかないな」
シロは倒れている紅夜――ゲレルの襟を掴み、持ち上げる。そして右手に水色のオーラを纏わせる。そしてそのまま紅夜の体に向かって薙ぎ払うように手を振るうと、その手が紅夜の体を傷つけずに通過する。
そしてシロの右手の動作が止まると、シロの右手には黒い四角い物体が握られていた。
「これはゲレル・ユーベルのコア――まぁ要するに、存在そのものってわけ。どうだ?不意打ちをしようとして、不意打ちを喰らった気分は」
『貴様ァアアアアアアア!!ヨクモ、ヨクモォオオオオ!』
その四角い物体から、濁った野太い男の声が響く。聞くだけでも不快になる声だ。低資質な機械音声に近いその声は今まで聞いたゲレルの声ではない。そもそもゲレルの声は光輝の声であり、ゲレル自身の声ではない。ゆえに、
「今から説明してあげるよ。お前の権能【変化】は文字通りあらゆるものを変化させる権能。それに再現はない。利便性も効くし、応用もできる。だからこそ、魂の移転も可能だと踏んだ。だって、それも変化だから」
魂の移転――。それはその名の通り、魂を移すことだ。しかし、そんなことは簡単にできるはずもない。だが、それが可能になるとしたら?それが、『権能』の恐ろしさだ。
「でも、魂の移転なんてこと、誰も彼もにできる無条件なものだなんて、普通は思えない。なんらかの条件があるはずだ。そこで、普通に考えれば乗り移り先は血の繋がった肉親――。安直な答えで早く辿り着けた」
ゲレルが『憑依』を行えるとしたら、その移転先はどこか?真っ先に思いついたのが肉親である紅夜の体だ。逆に情報が乏しい中、そこまでしか思いつかなかった。
『権能』の埒外の力があれば、赤の他人にも乗り移ることが可能なのではと思ったが、一番可能性のある選択肢に賭けた。そして勝ったのだ。
「そこで乗り移るとしたら全員が油断してるとき。現に蒼汰の意識を強制的に引っ込めただろ?」
『貴様、ソコマデ…!!』
「でも賭けだった。蒼汰の【アレキサンドライト】の権能“魔除け”が発動しなかったのは――いや、それ以前に俺の知ってるレパートリーじゃなかった」
「そうか…なら話は簡単だ。俺は“星座石”で、紅夜は“誕生石”だよ」
「なるほど…納得」
蒼汰は普通に会話しているように見えるが、表情は真逆だ。レイヤに対して激情と困惑を抱いている。分からないのだ。彼の行動心理が。長い時を過ごした親友のはずなのに、蒼汰には目の前の人物が全くの別人に視えた。
「紅夜ッ!!」
彼の名を叫んだのは、ライラだ。今にも泣きそうなその表情で、ライラは刀の上辺に妖力を纏い、それをカマイタチとして飛ばし、レイヤに放つ。レイヤは後ろに飛んでその攻撃を回避する。
そのまま、ライラは紅夜の体を抱き抱える。
「紅夜ッ!紅夜ッ!」
「安心しなよ。心臓は貫いちゃいない。妖怪の回復力なら、休ませれば十分回復する」
「何故だ――!!何故こんなことをしたッ!シロ――いや、ヤガミレイヤッ!!」
ライラは大粒の涙を流し、憎悪の籠ったその紅き瞳でレイヤを睨みつける。近くにいた零夜も、まるで自分に言われたかのような錯覚に陥り、胸を握り締める。
その間にもルーミアは残り一つの回復薬を紅夜の傷口に振りかける。少しだが、徐々に傷が癒えていく。これで一安心――できるはずもなく、ライラは再びレイヤを睨む。
「何故って、この
「―――そんなの、ここまでしなくても良かったはずだッ!!お前なら、その程度のこと、造作もなかったはずだッ!!」
「買い被りすぎだって。僕は『権能』持ちではあるが最強じゃない。絶対的な力ってのは、少数だから成り立つんだ。それが複数もあったら、それは絶対的な力じゃない」
「お前は……なにを、言ってるんだ?」
「――あぁ、ごめんごめん。話が逸れちゃってったね。全然関係ない話だったよ。まぁ、ライラの質問に真面目に答えるとすると……有言実行したまでさ」
“有言実行”。その言葉にはかなり力が込められており、強調したいことが伺えた。
そしてその言葉を聞いた途端、ライラのは呆けた表情になった。何か心当たりがあるのか、何か知っているのかと叫びたくなる。
「まさか…」
「そう。その通り。あの日、あの時。キャッスルドランで僕は確約した。そして僕は実行に移した。ただそれだけのことなんだッ!!」
「だがあれは、離脱するとしか…!」
「あぁ。確かにそう言った。でも、離脱する方法を、僕は言っていない」
「―――ッ!!」
ライラの表情が、虚を突かれたように変わった。騙されたときのような、そんな表情だった。
それよりも、離脱とはなんだ?なにも知らない。何も聞いていない。
「だが、【真実の契約】は、何の反応も…!」
「うん。反応しなかったね。だって、
この会話の意味は、零夜たちには分からない。おそらく、シロとライラの間にしか伝わっていない。
しかし、会話から分かることは、ライラはシロに騙されたということだ。
「ほかの人たちが全然ついていけてないから補足するよ。俺の権能とはまた別に保有している俺の能力、【真実の契約】。これを契れば互いに嘘を付けば分かるようになる」
それを聞いて、零夜の脳裏に、ライラと初めて出会ったときのことが思い浮かぶ。
こちらを完全に警戒していたライラが、急にこちらの言葉を信じ始めた。今思えば、あれは契約だった。“許可”なんて言葉が出た時点で候補に入れておくべきだった。あの時は困惑の方が勝っていたので、そんなことを考える余裕などなかったし、すぐに忘れていた。
「初めて契約した時、僕はあえて一つだけライラに嘘をついた。ライラとレイラの関係――俺は始めから知っていた」
「な――ッ」
「俺の権能【ネメアの獅子】は魂を操る権能。魂は情報の塊だ。俺はレイラと戦った時、彼女の全てを閲覧した」
シロは言葉を続ける。
未来でレイラの魂から情報を得て、とっくにライラとその子供の存在は知っていたと。知ったうえで、接触を図ったと。全ては、臘月を殺すために。
「あの時、あの瞬間から、臘月は何としてでも殺さないといけないと俺は決意した。でも、ヤツの権能は強力だった。【猛毒剣毒牙】を使えば訳なかったけど、俺の体への負担も尋常じゃない。実際弱体化してるわけだし。さらにヤツは本気じゃなかったときた。正攻法で行ってたら間違いなく無事じゃすまなかった」
「じゃあ、光輝――ゲレルのことも、最初から知ってたのか!?」
「いや、それは違う。あの時臘月とデンドロンのだけは回収できなかったからね。今思えば、ヤツの介入があったんだろうな…」
「ヤツ?」
「そこで俺は考えた。こちらのなんの欠如もなく、ヤツを倒す方法を。でも実際になって見通しが甘かったことを思い知らされたよ。まさかあの野郎が全力を出し切っていなかったなんてね。龍神が援助してくれなきゃ、最悪【天秤座】を使わなきゃならなかったしね」
シロは淡々と語る。自身の復讐計画を。
その瞳に宿る感情を、零夜とルーミアは知っていた。アレは、一度見たことがある。フードの奥から見せた、あの憎悪に染まった瞳を。あの時点から、すでにシロは臘月を殺す算段を模索していたに違いない。
「“天秤座”……お前、そこまでして…」
「そう。すでに消滅した未来とはいえ、圭太を殺した要因をそのまま生かしたくはなかったしね」
「……そこまで、そこまで俺たちのことを想っていたのなら、何故紅夜を、そんな風にッ!!お前が圭太に向ける感情を、俺が紅夜に向けていないとでも想っていたのかッ!?」
「――長話はこれくらいにしよう。“ジェニミ・ライフ”」
「グガッ!」
「零夜ッ!?」
シロ――レイヤは【双子座】の権能“ジェニミ・ライフ”を発動する。それと同時に、零夜は胸を抱えて苦しみ出した。突然の喪失感に襲われたのだ。ルーミアはそんな零夜を支えた。
双子座の権能、ジェニミ・ライフ。
この権能は星座の意味に由来しない数少ない権能の一つ。
権能は「共有」。ちなみに名ばかりのもので、実際は一方的な搾取に近い。譲渡も強奪も、すべて権能保持者が権利を握っている。
この権能は“夜神零夜”と“ヤガミレイヤ”であらゆるものを「共有」できる権能だ。レイヤはかつてこの権能で零夜が【アナザーゴースト】として保有している
「ふぅ…このくらいでいーでしょ」
「お前……俺のストックを、大量に、強奪しやがったな…!!」
「ごめんねー。そうしないと俺の体の構造とかが戻らないからさ。ほんとはもっと早くやりたかったんだけど、ほら。零夜の基礎スペックって、
「てめぇ…!!」
「さて、と。お楽しみの、処刑タイムだ」
シロはぎろりと、
『ま、待てッ!助けてくれッ!俺はあいつらを殺すつもりはなかったんだ!!』
「どー考えても電撃で殺す気満々だったくせに」
『あれはその、あれだ!疲れただろうから、電気マッサージをだな!!』
「――全ッ然笑えないジョークだな。もういいからさっさと死ねよ。過去のお前も、未来のお前も」
シロのもう片方の手に、どす黒い人魂が現れる。間違いない。未来のゲレルの魂だ。今のゲレルのものとは違い、確実に人魂――炎の形をとっている。同じ存在だというのに、その違いは何だというのだろうか。
「お前はとっておいても百害あって一利なしだ。今思えば、コレのせいでレイラと戦うハメになったし散々だったよ」
『よ、よせ、やめろッ!!!』
「死ね」
『グギャァアアアアアアアアアアアア!!!』
両方を空中に投げ飛ばし、それと同時に両手から高エネルギー密度の極太レーザービームを放った。その威力は空間、次元すらも消し飛ばし、ゲレル・ユーベルという存在そのものを、削り取っていく。
「汚い、断末魔だったな。聞くに堪えない」
あっけなく終わった、ゲレル・ユーベルの死。
シロはそれに興味を失くし、ライラに目線を配った。
「さて、これで君の目的であるゲレルの抹殺は完遂したッ!イヤー良かった良かったッ!妹の仇を取れてさッ!」
「仇を取れた、だと…ふざけるなッ!紅夜を殺しかけておいて…!!」
「もー何度も言ってるでしょ?その程度じゃ死なないってさ。まぁ気持ちは分からなくはないからさ、俺も強く言えない立場なわけで…。話を戻すけど、俺はあの時、キャッスルドランで君に真実を話した。そうでしょ?」
「それがどうした!?結局、お前は私を騙しただろ!!」
「騙しただなんて人聞きの悪いッ!あの契約の最中じゃ、互いの嘘が分かるようになってるんだ。嘘をついてもすぐに見破られる。そうやってあなたは俺に脅しをかけてきた。だから俺は正直に答えた。それであなたはあの時納得しただろう?」
「…だが、それは…」
ライラの態度が、急にたどたどしくなる。
ライラにも思うところがあるのだろう。今までの話が本当だとすれば、互いの嘘が分かるという【真実の契約】をキャッスルドランの中で行い、シロはそこで真実を答え、ライラは納得した。
零夜はその内容を知らないため、何とも言えないが、その場では確実に話し合いは締結していたのだろう。――いや、締結していたのか?
あの日の次の日、シロとライラはボロボロになって帰ってきた。シロは片腕を失っていた(すぐに再生していたが)。もしあれが、話し合いの破綻が原因の抗争であったとしたら?
互いに訓練だと言っていたが、それすらも嘘だったとすれば?
「あーそれ以上は言わなくていい!分かる。分かるよ。嘘を付かないって言われた矢先に嘘を言われたら、俺だってキレる自信がある。そこに関しては君を責めるつもりは全くない。でもね、ライラ。世の中にはね、人それぞれに優先順位っていうのが存在しているんだ。そしてその価値観は君と俺とじゃ全く違う」
そう。ライラの優先順位は紅夜だろう。レイラはもういないため、除外するが。
シロの優先順位は分からないため省くが、それでも彼の中でもその順位が存在していることは確かだ。
「俺は俺の順位を優先したんだ。ただそれだけのこと」
「――ッ」
「あ、それとだけど。分かってると思うけどさ、あの時君に投げかけられた“当然の疑問”は、俺でも龍神でも月夜見でも“あの方”でも覆すことは不可能だ。また疑問に思うかもしれないから、言っておくよ」
(“当然の疑問”?“あの方”…?アイツは、一体何を言ってるんだ?)
喪失感と魂の消失による弱体化で急激な倦怠感に襲われながらも、零夜は思考する。しかし分からない。シロは、レイヤは、一体何の話をしているんだ?
「何故だ…レイヤ!?お前はそんなやつじゃなかっただろッ!?お前はもっと、思いやりのある、優しいやつだッ!身内にも、友達にも、他人にも、優しかったッ!俺はバカだからよ…分かんねぇことは多いが、これだけは分かる。お前の行動理念は変わってない。だから他人じゃないッ!。――あのあと、お前に、一体なにがあった?」
悲痛な叫びが、蒼汰から発せられた。
あの陽気で愉快な人物像からは考えられない声の低さだった。シロは蒼汰の方へ向き直ると、口を開いた。
「――蒼汰。俺がさ、なんでゲレルが憑依系だっていう結論に、こんなに早く気付けたと思う?」
「何の話を…」
「いたからだよ。前例が。あのヤンデレクソアマのことさ」
「アイツか…。まさか憑依系だったとはな…」
ヤンデレクソアマ。その暴言だけで蒼汰にはそれが誰なのかを理解できたようだ。
「本当に大変だった。いや、大変なんかで済ましていいレベルじゃなかった。ヤツを滅ぼすために大多数の犠牲者を出したし、何よりそれで俺の心は死んだも同然だった」
レイヤはハイライトのない瞳で、答えた。
ここにきて、零夜はヤガミレイヤと言う人物がどのようにして形成されたのか、その一部始終が理解できた気がした。
最初は蒼汰の言う通り、優しい人物だったのだろう。しかし、たった一人を倒すために大多数の犠牲が出て、それで心が死んだ。そんな過去を、彼は持っていたのだ。
しかし、それらを真に受ければ、彼が最初に出会った際に言った自分の正体についても嘘を付いていたということになる。
「アイツの場合は、条件が肉親とかそんな絞られた条件じゃなかった。アイツの条件は――
「キス…?」
「そう。
「まさか、そんな…」
「まぁ他にも倒し辛かった理由はあるけど。でも分かっただろ?俺がここまで変わった理由は」
「――殺したのか。その憑依された奴らを」
「あぁ。そうだよ」
レイヤはさらっと答えた。その顔に曇りなどなく、憑き物が取れたかのように、晴れやかな表情だった。
蒼汰はレイヤのその表情を見て、唇を噛み、血が垂れる。
「俺が死んだあと、そんなことが…!」
「あぁ、気にしないで蒼汰。君には何の責任もないんだ。だから、気に病む必要はない。――さてと。長話は終わりだ。本題に入ろう」
レイヤは歩みを進める。その先にいるのは――零夜だ。隣にいるルーミアはすぐさま零夜の前に立つが、高速でレイヤが腕を振るうと、ルーミアの体はなにかが右腰に直撃し、遠くに吹っ飛ばされ、地面に擦られ、転がる。
「ルーミアッ!!」
「他人の心配ばっかしていいの?」
「なっ、ぐっ!」
レイヤは零夜の胸倉を掴み、少し持ち上げた。レイヤは腰をかがめて零夜の顔に自分の顔を近づける。
「僕はさ、零夜。千年間、ずっと君のことを見続けた。それで確信したよ…。零夜。君には悪は向かないよ。君の役目は、僕が引き継ぐ」
「――はぁ?何言ってんだ、テメェ…!」
急になにを言われたかと思えば、自分には悪が向かない?変わりに自分が引き継ぐ?
「世迷言を、言ってんじゃねぇよ…!」
「言っているつもりはない。零夜。君はただ悪人の真似事をしているだけに過ぎないんだ。君と俺、あらすじが似通っていても、本質は違う。君が
「何の話を…」
「もう君も勘づいているだろうけど、僕と君が初めて出会ったとき。僕は君にミラーワールドのお前だって説明したでしょ?アレ嘘ね」
「あぁ…まんまと騙されたよ」
出会った当初のことだ。
急に自分と同じ容姿(違うのは髪と瞳の色と声。そして服装)の人物が目の前に現れたときは本当に驚いた。しかもその人物は自分のことをミラーワールドの自分だと答えた。当時はあまり疑問に思わなかったが、よく考えれば不自然なことだ。
ミラーワールドの自分であるならば、ここまで協力的なものおかしいし、何より正反対の存在でも
「ま、実際は
「――どういうことだ?」
「それを喋るほど、俺はバカではない」
「さっきはペラペラ喋ってた癖にか?」
「あれは蒼汰からの質問だったからね。
「なるほどな…ちなみに、俺はどんな枠に収まってたんだ?」
「――ごめん。考えてなかった」
少しだけ考える素振りをしてからの、即答だった。
つまり考えるほど、レイヤにとって零夜はその程度の存在だったということだ。
「あぁ勘違いしないで。流石の僕でもこの気持ちを、感情を、言葉でなんて表現したらいいのか分からないんだ。喉元で突っかかってる感じなんだよねー」
「――――」
「さて、話を戻そう。僕がこの評価を下した一番の理由はね、君には足りていないんだ。悪意が。非情が、恐怖が、足りない」
「なんだと…」
「君は根っからの善人だ。正直言って、幼稚園児のヒーローごっこの怪人役のようにしか見えない。君には大役すぎる。身の程に会わない役では、いずれボロが出る」
「この…」
「そもそも悪人ってさ、非道な人物だよね?確かに零夜も今までクズみたいな行動はしてきてさ、悪人っぽいところはあったっちゃあったけど、それでも理由として弱すぎる。結局君は、心から悪人に成り切れないんだ」
「そんなこと――」
「あるよね?君も薄々勘づいていたでしょ?」
「―――ッ!」
レイヤの問いかけに、零夜は何も言えない。
きっかけはゲレルだ。ヤツこそは本物の悪。他人を道具としか見ず、自分の快楽と利益のみを追求する悪徳者。一般的に悪とは、彼のような人物を指すのだ。
そして零夜はそんな
「君はゲレルや臘月のような悪にはなれない。理性がそれを拒んでる。そんなヤツに悪が全うできるとは思えない。だから俺は証明した。残虐非道と言う言葉を実行することで己の悪を証明したんだ」
「――――」
「もうなにも言えないみたいだね。……さて、そろそろ」
レイヤが零夜を掴む手とは逆の手を振り上げた。
「「させるかッ!!」」
そこでライラと蒼汰が動いた。二人は一瞬でレイヤの背中まで急接近して武器である刀を振り上げ――
「それはこっちの台詞」
シロの後ろの空間に、黒い穴が生まれた。その黒い穴に、二人は吸い込まれる。
それと同時に、自分の後ろで二人の悲鳴が聞こえた。
零夜は後ろを振り向いた。そこには――、
「な――ッ」
「ぐぎっ…!!」
互いの刀が互いを傷つけている光景があった。
カラクリはこうだ。あの黒い穴はレイヤが牡羊座の権能“アリエス・ボテイン”――【空間歪曲】の力でワームホールを創り二人を移動。そのまま対面になるようにワープさせた。何もわからない二人はそのまま自滅した。これが全貌だ。
「済まない。傷つけるのは正直嫌だったんだけど、邪魔されないためにも必要なことだったんだ」
「ふざ、けるな…!」
「忘れてたぜ…お前のこの手段、
「あ、覚えててくれたんだ。嬉しいな~。まぁでも感動話は後にして――」
レイヤは零夜の頭を掴んだ。その瞬間、零夜の体から急激な力の消耗――喪失感が生まれていく。零夜の体から力がオーラとして視覚できるように表面化し、赤、青、黄色、緑、白、黒などの色となってシロの体に流れていく。
ジェニミ・ライフが発動されたのだ。
「が、ぎ、アガッ…!!!」
「この力は君には不揃い…じゃない。アレ、なんて言うんだったっけ?豚に真珠?……でいっか。まぁそんんな感じで勿体ないからさ」
「なに、を…!」
「もらうよ。ライダーの力をッ!!」
レイヤが零夜から奪うもの――それはライダーの力だ。
ジェニミ・ライフは遠く離れていて【夜神零夜】からの奪取は可能――と言うわけではない。むしろ奪取をするためには直接触れる、接触が必要だ。だが、零夜が保管している魂は別だ。これは【ネメアの獅子】によって可能となっている。
【ネメアの獅子】は魂を操る権能。それゆえに直接触れずとも魂だけは奪取できる。
【ジェニミ・ライフ】と【ネメアの獅子】。この二つの権能が合わさってこそできる芸当なのだ。
転生するときにもらった力が、どんどんどんどん――、
「ハァアアアアア!!」
その時、闇が零夜とレイヤの間を分けた。レイヤは驚いて後ろに下がる。その赤き瞳に映ったその姿には、闇の大剣を振るっているルーミアが映った。
「おや、ちょっと強めに飛ばしたはずなんだけど…流石と言っていいかな。もう戻ってくるなんて」
「お褒めに預かり光栄――なんて言うとでも思った!?」
「いいや、全然。そんなことより、零夜のこと介抱しなくていいの?」
「ッ、そうだった。零夜、大丈夫!?」
胸を押さえ、汗が滲み出て苦しむ零夜にルーミアは声をかける。
「どう、なってる…!力が、入ら、ない…!」
「――当然だよ。俺が奪ったのは【アナザーライダー】の力だからね」
「なん、だと…!」
「もう分かってるでしょ?零夜はアナザーライダーの力で基礎能力の向上を行っていた。でも、その力が全て俺の手中に収まった。つまりアナザーライダーの力で超えてた人間の限界値が、元に戻ったってわけさ。つまりもう零夜は、能力が使えて、不老長寿で、霊力で身体強化できるだけのただの人間に戻った、と言うわけさ」
零夜の人間にしては異常なまでの身体能力。それのタネはアナザーライダーの力にあった。アナザーゴーストの力による魂の吸収での能力向上。アナザー龍騎、アナザーファイズ、アナザーフォーゼなどの生命力吸収などでの強化で、今まで零夜は人間離れした力を有してきた。
しかし、それらが一気になくなったため、零夜は急激な弱体化による倦怠感に襲われたのだ。
つまり、夜神零夜は
「そしてアナザーライダーの力を奪ったということは当然。こんなこともできるってわけ」
瞬間。レイヤの体に漆黒の禍々しい渦が纏わりつく。やがてそれはレイヤの体全体を覆い尽くし、姿が見えなくなっていく。その渦が、はじけ飛ぶ。
――その姿は、一言でいえば『悪魔』であった。
横に張り出す形で大きなツノのような突起が伸びており、そこにバーコード状にプレートが21枚突き刺さっている。顔は歯が剥き出しになった双頭の鷲を思わせる醜悪な人面。
暗いマゼンタの体色に、腰には白色のカメラを連想させる機械的な血走った眼球にも見える生物的な意匠のベルトが。
その周囲にみられるそれぞれ形が異なる爪や牙のような装飾が20本存在している。
胸の翼に、十字部分は真っ黒で三本のラインで構成されている。
そして特に胸部右側にある「DECADE」「2019」と刻まれている文字が強調されていた。
【アナザーディケイド】。それがこの悪魔の名である。
『零夜。教えてやろう。これが、『悪』だッ!』
レイヤ――改め【アナザーディケイド】は両手を広げると、その背後に巨大なオーロラカーテンが出現し、そこから複数のダークライダーたちが召喚された。
仮面ライダーオーディン
仮面ライダーエターナル
仮面ライダーワイズマン
仮面ライダークロノス
仮面ライダーエボル・フェーズ1
この5体のダークライダーたちが召喚され、場は一時騒然と化す。
ライラや蒼汰からすれば一気に戦力が増えてしまったこと。
だがしかし、零夜からすれば違う意味で驚いていた。
「どういう、ことだ…。アナザーディケイドの、ダークライダー召喚のためには、“アナザーワールド”を生成しなければならないはずだ…!」
アナザーワールド。それは失われた可能性の世界。人間をそこへ閉じ込めることで、アナザーワールドは生成でき、そこからダークライダーが勝った世界を創り出して召喚する。それがカラクリだ。
だがしかし、レイヤは今目の前で初めてアナザーディケイドに変身したのだ。アナザーワールドを創り出す時間なんてなかったはずだ。
『疑問に思うのも無理はない。ネタバラシをすれば、俺は零夜から奪った“魂”でアナザーワールドを生成しているんだ』
「なん、だと…!?」
『取り込むのはなにも人間だけじゃなくてもいい。その根幹である魂だって、代用するのには十分だ』
アナザーディケイドは、零夜から奪った魂を代用して、アナザーワールドを生成していたのだ。
アナザーディケイドの能力と、レイヤ自身の権能。その二つが合わさった結果、魂の数だけアナザーワールド創り放題と言う地獄の組み合わせが完成してしまったのだ。
『悪にやりすぎも過剰もない。ただ一方的に、相手を叩きのめす。それが悪の基礎だッ!覚えておくといい』
「んなこと、言われなくとも――」
『そうかそうか。なら今度は体で覚えるといい。――と言いたいところだが、その前に一つだけ聞いておこう』
「―――?」
『零夜。本当に、この役を降りる気はあるか?それだったら、俺はこのまま引くとしよう。だが……この状況でも『悪』を続けるなどと言う世迷言を吐くというのであれば…僕は君を、殺さなければならない』
声のトーンが低くなった。アレは、違う。レイヤとしてではない、シロとしてでの言葉だ。
レイヤは敵。シロは味方。その二つの矛盾が織りなしているからこその言葉だ。
「決まってんだろ…俺の答えはただ一つ。ふざけんな、クソ野郎」
『そうか…残念だ。どうして君はそうも死に急ぐ。死んでは元も子もないだろうに…』
残念そうに、期待外れのように、そんな感情が目に見えていた。
アナザーディケイドは右手を前に突き出し、宣言する。
『俺の名はヤガミレイヤッ!!お前を――殺すものだ。行けッ!』
その一声で、ダークライダーたちが一斉に動き出す。
ついにタケトリモノガタリ最終章突入です。
タケトリモノガタリはゲレルで終わりにしようと思っていたのですが、それだと物語の展開的に不味くて…。
あと、迷ってるんですけど、レイヤ、蒼汰、圭太を主人公に描いた過去編を書こうかな?って迷ってる感じです。
書いた方がいいですかね?まぁその分本編の投稿頻度遅くなりますけど。
アンケート協力お願いします。
評価:感想お願いします。
期間は今月末までです。
過去編を書くべきか?(投稿は3人の過去の全貌が明らかになってから。つまりは未定)
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書くべき
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書かなくてもいい
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正直どちらでも