東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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92 絶望()(トキ)

 戦況は、絶望的であった。

 シロ――アナザーディケイドの召喚したライダーたち五人は、それぞれが並大抵の力を持っていない。どれも常軌を逸した力を保有しているのだ。

 

 そして、そんな力を持ったライダーたちの相手をすることになった一同は、防戦するしか道がなかった。

 

 まず最初に『彼』の目に映ったのは、ライラと蒼汰だ。彼らは【仮面ライダーオーディン】と【仮面ライダークロノス】を相手にしていた。

 ライラがオーディンを、蒼汰がクロノスを相手にしている図式だ。

 

 オーディンはゴルドセイバーを爽快に、鮮やかに、一種の芸術のように、ライラの攻撃を捌く。

 

 

「遊んでいるのか、貴様ッ!」

 

 

 ライラは激情するが、余裕がない。何度も行った戦闘によって蓄積された疲労は、妖怪と言う身であっても耐えられるものではない。事実、ライラの攻撃は権能による速度で疲労を誤魔化しているに過ぎないのだ。

 

 

『――――』

 

 

 オーディンが、消えた

 なんらかの比喩ではない。黄金の羽とともに、本当にオーディンはその場から姿を消したのだ。その光景に唖然としていたライラだったが、自身の背後にオーディンの気配が現れ、ライラはすぐに反応して――

 

 

「イギッ!」

 

 

 できなかった。疲労が積み重なり、反応が遅れた。背中から、血が噴出するのが見えた。そしてその血の後ろで、オーディンがゴルドセイバーを持ち佇んでいる姿もあった。

 いつの間に背後まで移動を?見えなかった。だからこそ困惑した。ライラの『光操作』の権能はライラが光の速度に対応できるように使用者自身(ライラ)の体を権能取得時に大幅に強化している。つまりライラの眼は光の速度でも対応できるということだ。そんなライラの眼ですら追えなかったオーディンの移動。そのカラクリは一体なにか?

 

 

「ハッ!」

 

 

 ライラは負けずと刀を振るう。しかし、力の入っていない速度だけの攻撃など、受け止めるまでの時間が無駄だ。ゆえにオーディンは再びその場から黄金の羽とともに姿を消した。

 

 しめた。今度は逃がさない。ライラはオーディンが消えた瞬間にいち早く後ろに刀を力いっぱいに振るった。するとガキンッ!と言う金属音とともに、オーディンが後ずさった。

 

 

「やはり…貴様のソレは、瞬間移動か」

 

 

 瞬間移動。この現象は前に何度か見たことがある。それは主にシロだ。キャッスルドランでの攻防で、シロはこの現象を【アリエス・ボテイン】を用いて何度も見せてきた。経験があったゆえに、2度目で対処することができた。もしそれがなかったら、理解するのにあと数回はあちらに行動権を渡す羽目になっていただろう。

 

 

「カラクリは分かった…次も見逃さんz」

 

 

ポーズ

 

 

 ――時が、止まった。

 これも比喩ではない。正真正銘、世界が止まった。そして、ソレを認知できるものは、ごく一部しか存在しない。『彼』はその枠に入っていなかったため、この停止した世界を認識することはできなかった。

 

 そして、その止まった時の世界で、一人、行動する人物がいた。

 ゲームのキャラクターを彷彿とさせるその姿――審判の神、【仮面ライダークロノス】が、ライラの背中から少し離れた場所に現れた。

 ベルト状態のガシャコンバグヴァイザーⅡをチェーンソーモードに設定する。

 

 

『――絶版だ』

 

 

 Aボタンを押して、Bボタンを押す。

 

 

キメワザ

 

クリティカルサクリファイス!!

 

 

 丸鋸型のエネルギー刃を形成し、ライラの背中に斜め、直接斬撃を当てた。ライラの背中から血液が噴出し、衣服を赤く染めていき、その状態で静止する。

 

 

リスタート

 

 

 ――時間が動き始める。

 

 

「な゛…ッ?」

 

 

 突如喰らった不意打ち。気付けなかった。後ろに回られていることに。ライラは倒れる最中、後ろを振り向く。絶版者(クロノス)と目が合った。ライダー特有の無機質な目は、何を映しているのか――。それすら分からぬまま、ライラは倒れた。

 血の海が誕生し、その面積をどんどんと広げていく。地面が赤く染まっていく。

 

 

「ライラさんッ!!」

 

 

 蒼汰は、腹の底から力いっぱい叫んだ。

 何が起きた?自分はさっきまで、ライラにトドメを指したライダー、クロノスと戦っていたはずだ。こちらが疲労しているとはいえ、押していると思っていたが、クロノスがベルトのAとBのボタンを押したとき、クロノスは目の前から姿を消していた

 

 

「クソッ。俺は仮面ライダーはあまり知らないんだよッ!」

 

 

 創作物であることは知ってはいたが、知識はその程度だ。子供のころは見てた。そのくらい記憶が朧気だ。

 チートレベルのやつが多いくらいのことは聞いたことはあるが、実際に目の前にすると面倒くさいことこの上ない。

 

 

「それにこいつら、権能の恩恵受けてやがるしよッ!マジでどうなってんだ意味が分からねぇ!!」

 

 

 ライラに傷を与えられる時点で確定はしていたが、仮面ライダー(彼ら)から感じるのは『権能』の力。確実にシロの影響を受けている。実際はそれだけではないのだが。

 黄金の不死鳥のライダーと、審判の神のライダー。どちらを相手にしても絶望でしかないのに、それを一気に相手にしないといけないなんて、分が悪すぎる。権能の壁はない。

 それに蒼汰はオーディンとクロノスの能力を知らない。だからこそ、動けずにいた。

 

 

「ニ対一か…本格的に不利になってきやがったな」

 

『いいや、三対一だよ。蒼汰』

 

「な――ッ」

 

『つ・か・ま・え・た』

 

 

 肩に大きな黒い手が置かれている。後ろを振り向くと、そこにはアナザーディケイド(あくま)が立っていた。一度見たとはいえその悪魔の形相を間近で見て、蒼汰は一瞬膠着した。そして、その一瞬の気の緩みが命取りになった。

 アナザーディケイドが手の平を蒼汰の腹に付けた瞬間、黒い衝撃波が蒼汰の体を貫通した。蒼汰は白目をむき、前のめりに倒れる。その体をアナザーディケイドは支えた。

 

 

『度重なる戦闘に、分離。お前の体はとっくに限界を迎えていた。この程度の攻撃だけで倒れるなんて、まだまだ経過途中と言うことか』

 

 

 ライラ 蒼汰 戦闘不能。

 

 

 

 

―――。

 

 

――――。

 

 

―――――。

 

 

 

 『彼』は見る。

 長年をともに過ごした女性――ルーミアが苦戦を強いられている光景を。

 

 彼女が一人で戦っているのは、仮面ライダーワイズマンと仮面ライダーエボル・フェーズ1。エボルが接近戦を、ワイズマンが遠距離攻撃を担当しており、使役されているがゆえに、統率が取れていた。

 

 

「はぁ!」

 

『フンッ!』

 

 

 ルーミアは闇で生成した双剣を駆使してエボルを攻撃する。しかし、並大抵の攻撃は無効化するエボルには、この戦いは児戯に等しかった。拳にエネルギーを纏い、武器を破壊する。ルーミアは武器が壊されるたびに再び投影して闘いに挑んでいる。これの繰り返しだ。正直言って、遊ばれていた。

 もともとルーミアも度重なる闘いで疲弊している。武器の練度が下がるのも、仕方のないことだった。

 

 

テレポート ナウ

 

 

 ルーミアの立っている地面に、魔法陣が展開された。

 振るった剣の感触がない。ぶつかった感覚がない。その謎の感覚に呆気に取られていると、ルーミアの立っていた場所は変わっていた。

 目の前にはエボルがいたはずだが、いつの間にかワイズマンが目の前にいて、ハーメルケインを振り下ろしている光景が――

 

 

「あがッ…!!」

 

 

 斬られた。血が出てくる。苦しい。痛い。

 だが、ここで倒れるわけにはいかない。妖怪特有の再生能力で止血だけして、能力を使って闇の中に隠れる。この状態でだけ、ルーミアは実態を失う。非実態、つまり霊的状態であるため、陰陽師なんかの力が泣ければ、今の彼女を攻撃することはできない。

 

 しかし、そんな状態でもワイズマンは動く。

 

 

スパーク ナウ

 

 

 瞬間、ワイズマンの手が光源となり強力な光が辺り一帯を照らしていく。

 この力、この光景、知っている。実際に受けるのはこれが初めてだが、『ルーミア』がそれを覚えていた。ウィザードにやられた技だ。

 光が一面に広がれば、そこに当然影はできない。つまり、闇――影に潜んでいたルーミアは強制的に弾き出される。

 

 だが、この結果を予測していたルーミアは一足先に影から出て、ワイズマンの後ろを取る。闇の弓矢を形成してワイズマンに狙いを定めた。

 

 

『フンッ』

 

「あ゛…ッ!!」

 

 

 しかしその瞬間に腹に強烈な痛みが現れた。目の前にはなぜかエボルがいて、自分の腹に拳をめり込ませていた。

 

 

「なん、で…!」

 

 

 膝を付き、腹を抑える。しかし血液は口から溢れてくる。

 そして、エボルが目の前に現れたことにタネなんてない。ただ、ルーミアが出てくる位置をいち早く察知してそこに高速で移動しただけだ。

 

 そのまま動かないルーミアに、エボルは追い打ちをかける。

 腕で赤い光弾を生成し、放つ技――“エボル滅弾”がルーミアに直撃する。もともと人間が喰らえば一撃で即死レベルのものだ。妖怪である彼女でも、無事では済まない。その場で爆発を起こし、ルーミアの体は宙に舞う。

 

 

エクスプロージョン ナウ

 

 

 ワイズマンの魔法が発動する。

 この魔法は魔力を亜空間に圧縮し、一気に解放することで任意の空間に爆発を起こす魔法だ。魔法陣を重ねての連続発動や複数展開して同時発動も可能で、単純だが非常に自由度が高い魔法である。

 そこに情など一切ない。何回も、何回も、魔法を発動してその威力を一気に開放する。ルーミアの体の空間を起爆地点として、大爆発を起こす。

 

 

 

ドォオオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

 大爆発が起きた煙の中から、ルーミアの体が落ちてきて、地面に激突する。

 その見た目はとても痛々しいものだった。服は破け、血みどろになり、皮膚が焼け爛れ、肉が、骨が、見えている部分だってある。辺り一帯に血の海を作り出し、その瞳からは生気が一切感じられなかった。彼女の体はピクリとも動かない。死んでしまったとしても、おかしくない状況だった。

 

 

 

 ルーミア 戦闘不能。

 

 

―――。

 

 

――――。

 

 

―――――。

 

 

 

 『彼』はこの一連の状況を見て己の無力さに唇を嚙み締める。

 『彼』は呪った。自分の弱さを。

 『彼』は恨んだ。その光景に映った悪魔たちを。

 

 

「う、ぐ…ッ!!」

 

 

 『彼』――夜神零夜は今、純白の体を青い炎で燃やした死神――仮面ライダーエターナルによって一方的に蹂躙されていた。

 彼も度重なる戦闘で極限まで疲労している。それにアナザーライダーの力を奪われて、能力値が大幅に下がった。これらの状況を見ても、これ以上の戦闘は不可能に近かった。

 エターナルがサムズダウンしながら、こちらへ近づいてくる。

 

 

『さぁ。死神のパーティタイムだッ!』

 

「誰がやるか…!」

 

 

 拳を握り締め、零夜はエターナルの顔面目掛けて拳を振るった。しかし、その攻撃はエターナルの拳によって防がれ、逆にもう片方の手にあった“エターナルエッジ”で横腹を指された。大量に、吐血する。

 傷口を握り締め、なんとか止血する。

 

 

『無様だな。目の前で仲間が倒れていくのに、なにもできないというのは』

 

「んなこと…言われなくとも、分かって、る…!」

 

『そうか。なら、己の運命を呪って死ね!!』

 

 

 エターナルの蹴りが零夜の顎に直撃する。後方に吹き飛ばされ、地面に転がされる。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!!」

 

『どうした?俺の力を使ったことがあるんだろう。何故反抗しない?する気力すらもなくなったか?それとも…怖気づいたか!』

 

「誰が…!」

 

『だったらそのまま、二度目の死を迎えろッ!!』

 

 

UNICORN(ユニコーン) MAXIMUM DRIVE!

 

 

 メモリスロットにユニコーンメモリを装填しマキシマムを発動する。エターナルの右拳にドリル状のエネルギー波を纏わせて放つ技、“コークスクリューパンチ”を零夜の腹へと突き刺した。

 腹を貫通し、そのまま乱暴に引き抜いた。血がドバドバと噴出して、吐血して、血が、血が、血が、足りない。足りない。足りない。足りない足りない足りない。

 意識が、意識が、意識が意識が意識が意識が意識が。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ――。

 

 立て。俺の体。立て、俺の足。

 そう何度も言い聞かせても、体は言うことを聞かない。立て、立ってくれ。頼むから。

 

 

『なんて見苦しいんだ。まぁ、そんな状況は何度もあったから見慣れてるけどさ』

 

「シ、ロ…!!」

 

『――あぁ。まだその名前で呼んでくれるんだ。いや、自分で自分の名前を言うのも変な感じするから、当たり前か』

 

「てめぇ…!!」

 

『まぁそうカッカするなよ。君もすぐに、二人と同じ場所に連れていくからさ

 

 

 アナザーディケイドが後ろを振り向き、地面に倒れている三人――二人を見やる。その二人は、ライラとルーミアだ。蒼汰にはゲレル戦以降から傷が増えていない。

 鮮やかな金髪が見るも無残に赤黒く染まっていて、生気のない体と瞳が、零夜の眼に映った。

 

 

「死んだ、のか…?」

 

『正確には、君は一足先に逝く。彼女たちも一緒だ。寂しくはないだろう』

 

「あ…あ…アァアアアアアアア!!!

 

 

 零夜は叫んだ。力いっぱい。腹から来る痛みすらも無視できるほどに。体よりも、心が痛かった。

 これじゃ前と同じだ。転生前、冤罪をかけられて死刑にされたときと、なんら変わりない。あの時の状況と、同じじゃないか。大切なものに限って、自分の手の平から零れ落ちてしまう

 

 

「レイヤ……ヤガミレイヤァアアアアアアア!!!」

 

『それは俺への怒りの叫びか?それとも自分への怒りの叫びか?分からないから、もっと具体的に言ってくれないかな?』

 

「おま、お前は、お前だけ、は!絶対、ぜった、い、絶対、に、ゆる、許さないッ!!」

 

『――苦しくないのかい?腹を貫かれて、そんな大声。絶対体に悪いだろうに。まぁ…そんな苦しみから、君は解放されるんだ。良かったな』

 

「はぁはぁ、はぁあアアアアアアアアア!!!」

 

 

 零夜は『創造』の能力で【バレットM82】を創造する。既存で存在しているスナイパーライフルの中でも、最強の部類にあるライフルだ。

 それに改造を加えて、火薬の量も人間が耐えられないレベルまでつぎ込み、通常の威力の何十倍のも威力を獲得した。

 

――引き金が引かれる。

 

 弾が発射されたと同時に、アナザーディケイドは両手を突き出して暗黒のバリアを展開した。体が、足が、無理やり押されていき、かかとに土が盛り上がっていく。

 最後には力を少し出して、弾を完全に弾いた。その方向に弾が着弾し、大爆発を起こす。

 

 

『まさかこんな攻撃を仕掛けてくるとは、君のイカレ具合を見誤っていたようだ。だが――』

 

 

 零夜の右側は、悲惨なことになっていた。いや、悲惨と言う言葉で片づけられる次元(レベル)の怪我ではない。弾が発射されたと同時に、ゴキッと嫌な音が右肩から鳴った。関節が完全に外れた。右腕の骨が豪快に割れる音が耳に入ってきた。右耳の鼓膜が破れた。右腕の穴と言う穴から血が噴き出した。

 

 人間では耐えられない攻撃を行ったのだ。こうなるのは必然だった。零夜の右側は、完全に使い物にならなくなっていた。

 左側も、右側ほどではないか反動のせいで大けがをしていた。

 

 

『破れかぶれの攻撃だったか。その攻撃は吉と出るか凶と出るか――この場合は凶だったようだ。見たまえ』

 

「え…あ…」

 

 

 アナザーディケイドが指さしたのは、零夜が放ち、アナザーディケイドが弾いた弾が着弾した場所だった。土煙が立ち込めている。しかし、問題はその中身にあった。

 そこには、片腕を失っている紅夜の姿があった。千切れた腕からドクドクドクドクと、血が、血が、血が――。

 

 

『どうやら、俺が弾いた場所にたまたま紅夜がいたようだ…。完全なとばっちりだ。彼には悪いことをしたよ』

 

「あ、あ、あ…」

 

『さて。そろそろお別れの時間だ。さようなら、零夜』

 

『地獄で、己の弱さを悔いな』

 

 

 

FINAL VENT

 

ETERNAL MAXIMUM DRIVE!

 

イエス! キックストライク!

 

クリティカルクルセイド!

 

エボルテックフィニッシュッ!!

 

 

 

 それぞれの必殺技が発動する。どれか一つでも喰らったら確実に死ぬだろう。

 そんな時、零夜の脳裏に、過去の記憶が蘇る。

 

 

『零夜。俺は信じてるからな。お前をそんな風に育ててないんだからな』

 

『そうよ。私たちもなんとかするから、零夜もめげないで』

 

 

 あぁ思い出す。自分を励ましてくれた両親の顔を。励ましてくれていたが、あの二人の顔が忘れられない。だって、あんなにも(やつ)れた顔で、自分を心配してくれるのだから。

 

 

『■■■■■■のせいだよ。■■■■■■のせいで、私は…』

 

 

 あぁ違うんだ。俺のせいじゃないんだ。俺はなにもやってない。だからそんな目で、俺を見ないでくれ。そんな蔑んだ目で、俺を見ないでくれ、頼むから。

 

 

「あ…」

 

 

 思わず、左手を空に向かって掲げていた。

 走馬灯と言うやつをみた。死刑寸前でも見ることができなかった光景を、今になって見るなんて。なんて滑稽なんだ。

 

 顔を上げると、5人分のライダーキックと黄金の不死鳥が迫っているのが見えた。

 死ぬのか?まだ、死ねない理由があるのに。やり遂げなければならないことがあるのに。こんなところで、死ぬなんて―――。

 

 

「零夜!!!」

 

 

 聞き覚えのある女性の声とともに、その人物に前から抱きしめられる。赤い血が付着した金髪の彼女は零夜を力強く抱きしめた。

 そして目前には、ライダーたちの攻撃が迫っていて――激突する。

 

 

 衝撃が緩和されながらも、とんでもない威力の攻撃を受けたことにより、その人物と一緒に吹き飛ばされ――目の前が、光に、包まれ、て

 彼女の笑顔が、忘れられない。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 体が、重い。自分の体の大けがも理由のひとつであるが、何より、自分の上に、なにかが乗っている。左手でそれに触ってみると、ネチョ、と言う音が聞こえる。掠れた視界でそれを見てみる。その正体は血液だった。別に不思議なことではなかった。今の自分は瀕死の状態だ。血で腕が濡れようと――そもそも自分が血まみれなのだ。不自然なことではない。

 だが、それではこの重量の理由の説明がつかない。

 

 少しずつ、少しずつ、視界が鮮明になっていく。零夜の視界に映った光景は――ルーミアの顔だった。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 力を振り絞って、上半身だけ起き上がって、左手でルーミアの体を抱えた。

 彼女の服の背中側は、必殺技を喰らったことでほぼないに等しく、肌は焼け爛れ、荒れて、肉が、骨が、見えて、見えて。瞳には光がなくて、まるで死んでいるようで、体温があるのに、それでも死んでいるようにしか見えなくて。美しいその姿も、怪我と出血で穢れてしまった。

 

 

「ル、ミア?おま、なん、で」

 

「良か…た…無j、で…」

 

「な、で、俺、w、かば、た?」

 

「だ、って…好き、なんだ、もん…」

 

「聞こえ、ない。も、と、聞こえる、よに、言っtく、れ…」

 

 

 わからない。彼女が、なんて言ったのか、分からない。聞こえない。先ほどの銃撃で起きた爆音は、零夜の右耳の鼓膜を完全に破壊し、右耳ほどではないとは言え左耳の鼓膜も破壊寸前までのダメージを負っている。今までのような再生力は持っていない。だから、聞こえない。大事ななにかを言っていることは分かる。でも、聞こえない。聞き逃してはいけないであろう言葉が、頭に入ってこない。

 零夜の瞳から、液体が零れる。これは血液じゃない。血液はこんなに透明じゃない。もっと赤黒く濁っているはずだ。だが、零夜は自分の瞳から液体(なみだ)が零れていることに気付いていない。それよりも、目の前の事実の方が、心に重くのしかかってきていたからだ。

 

 

「なんで、私…こう、m、大事、なとk、に限、て伝わ、r、ないnだ、ろ…」

 

「おい、おい、おい…!!」

 

 

 何度も、何度も、何度も、叫ぶ。しかし、彼女の体温は徐々に下がっていく。妖怪の再生能力なんて当てにならない。それくらいのダメージ量だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。

 止血。止血しないと。傷を塞いで、それから体力を回復させないと。そうだ、あれがあった。蒼汰からもらった回復薬が。あれがあれば、ルーミアは助かる。どこだ、どこだ。どこにある。見つかれ、見つかれ、見つかれ。見つかってくれ。アレが、アレが、アレがないと、ルーミアが、ルーミアがルーミアが――!!

 

――彼女の手が、優しく、弱く、儚い手が、零夜の頬に触れた。

 

 

「零夜……悲しまないで。あなた、は…そんなことで、めげる人じゃ、ないでしょ?」

 

「ルーミア…?」

 

「あなたといれて……幸せでした」

 

 

 彼女の手から――力が抜け、地面に落ちる。

 

 

「おい、ルーミア…?ルーミア、ルーミアッ!!」

 

 

 何度も彼女の体を揺さぶり、呼びかけても、返事はない。胸に左耳を当ててみる。セクハラだろうがそんなことはどうでもよかった。――聞こえない。心臓の音が、聞こえない。心臓が止まっているのか、それとも自分の鼓膜が聞き取り不可能なレベルまで落ちているのかすら、今の零夜には分からなかった。

 

 

『あぁ…なんてことだ。まさか庇える気力が残っていたなんて…なんて可哀そうなんだ』

 

「――ッ!!」

 

 

 顔を上げて、憤怒で染まった表情で、目の前に現れた悪魔を全力で睨みつけた。その悪魔の周りに、他の五人のライダーたちが立っていた。中にはかつて自分で使ったこともある戦士もいる。だからこそ、一層憎たらしく見えた。

 

 

「シ、ロ……ッ!!」

 

『やぁ零夜。大事な仲間を失った悲しみはどうだ?辛いだろう。苦しいだろう』

 

「おまえ゛、おm、え、おま゛え゛がァアアアアアアア!!!」

 

 

 なにを言っているのか、それがほとんど聞き取れない。だが、ろくでもないことは確かだ。目の前に、彼女を殺した怨敵がいる。それだけでも、零夜にとって憎み、恨み、(いか)る理由としては十分すぎるほどだった。

 

 

『叫ぶと寿命を縮めるぞ?……さて、俺は今、目の前にいる死にぞこないと話をしようと思っている』

 

「―――」

 

『あぁそうか。今の君は鼓膜がほとんど使いものにならないんだったな。だったら――(これなんてどうかな)』

 

(――ッ!?)

 

 

 頭の中に、直接シロの声が入ってきた。不思議――いや、今となっては気持ち悪い。憎き悪魔の声が、自分を支配しているように思えたからだ。

 おそらくジェニミ・ライフを使ったのだろう。でなければこの状況は作れない。

 

 

(大事な人を失った感想はどうだい?辛いだろう。悲しいだろう)

 

(当たり前だ――ッ!よくも!よくも!よくも!!)

 

(うん。正常な反応だ。だが……君も同じようなものだろう?)

 

(――は?なにを、言って…)

 

(そうだなァ。例を挙げるとするならば、春冬異変のときかな)

 

(それが、どうした?)

 

(あの時君は、チルノと大妖精を無残にも殺しただろう?復活するとはいえ、冷酷に、君は殺した)

 

 

 春冬異変の時、確かにそうした。

 動機はチルノによる“究極の闇”への『復讐』だった。光闇大戦の時、自分の攻撃が大妖精に直撃し、一度死を迎えていた。妖精は復活できるとはいえ、それでも大切な人を殺されたとすれば、誰だって怒りに燃えるだろう。そして、戦う意志のない大妖精ごと、一時的な情報漏洩を防ぐために、殺した。

 全て復活できるからと言う前提があったからこその行動だった。アレが、悪人として、もっとも正しい行動で、尚且つ最善で――

 

 

(だから、それが――!)

 

(その時の君と今の俺。一体何が違うと言うんだ?)

 

「――――」

 

(今、君が俺に向けている感情を、あの妖精(チルノ)が抱かなかったとでも?)

 

 

 チルノは、怒っていた。大妖精(ともだち)を殺されたことによって。生きていたとしても、その怒りは消えることはないだろう。だからあの時、彼女は自分に戦いを挑んだ。そして殺した、無残にも。

 今自分が抱えている感情。“怒り”“悲しみ”“憎悪”。これらの感情を、彼女は抱いていたはずだ。そしてそれらの感情が今、自分の中で噴き出している。

 あの時と今の違いは、対象が生きているか、死んでいるかの違いだ。

 

 目の前にいるダークライダーたち。あの時の彼女たちの瞳にも、レンゲル(自分)の姿が悪魔に見えていたのだろうか。そうに違いない。

 だって、感情を持たなければ、こんな考えにはならないから。

 

 

(人間なんて、身勝手な生き物だ。自分かやられたら嫌なことを他人には平気でやれる。そして自分がやられたらギャアギャア(わめ)く。愚か以外の何ものでもないよね)

 

「――――」

 

(そして無論、それは俺にも適応される。――強者は、大抵はこう考える。“強い奴はなにをしても許される”と。これは悪か?違う。これはその人物にとっての理念だ。正義と悪の境界線なんて、あってないようなものだ。自分にとっての正義が、他人にとっての悪だなんてこと、ザラにある)

 

(結局…お前はなにが言いたいんだ)

 

(あぁそうだね。俺の意図は、君の意志の脆弱性を問うこと《b》《big》だ)

 

(脆弱性…)

 

(もっとボロクソに言えば、脆弱(ぜいじゃく)で、惰弱(だじゃく)で、貧弱な君自身を追い詰める)

 

(なんだと…)

 

(――悪でいたい。アイツの正義(すべて)を否定してやりたい。そこはいいよ。君が『悪』を遂行することで、《b》《big》アイツと同類のクズであることを容認したことも、まだいい。でもやってることが稚拙すぎる。そんなものは本当の悪じゃない)

 

(だったら…なんだって、言うんだ!!)

 

(そうだね…偽善者ならぬ、偽悪者(ぎあくしゃ)、かな?)

 

 

 偽悪者。妙にも、それが夜神零夜と言う男を表す一番の言葉でもあった。

 零夜は過去に何度もそんなことを行ってきた。今回のことだってそうだ。悪人なら、自分の利益にならないことにはまず手を貸さない。根っからの悪人は、自己犠牲なんて最初から考えない。悪は、他人の心など尊重しない。

 どれも零夜は該当するか、しないかの回答(こた)えが曖昧なのだ。悪人らしい非道で冷酷な部分を見せながらも、他者のために自分の体など二の次にするという自己犠牲(とうとさ)。心から“悪”になり切れていない何よりの証拠だ。

 

 

(君は…結局“悪者ごっこ”をしていた子供に過ぎないんだ。“ごっこ”だから、行動に綻びが、矛盾が生じる。ここは生きるか死ぬかの世界。“ごっこ遊び”なんて論外なんだよ)

 

(俺は…遊びなんてしていたつもりはないッ!!)

 

(――自覚がないって面倒くさいよね。いや…気づかないふりをしているだけか。再び問おう。夜神零夜。君はどうして“悪”になろうと思ったんだい?

 

(それは――)

 

 

 ――言葉が、出ない。続けようと思っても、言葉が出てこない。アレ、なんで自分は“悪”になりたいと思ったんだろう。最初は前世の時周りが自分を“悪”だと罵るから、だったらなってやろうという曖昧で稚拙な考えだった。

 それを言っても「バカなの?」と反論されるだけだ。だからこそ、零夜は考える。この1000年間で培った、自分の悪の概念を、言語化するために、脳を使う。

 

 

(――ほら、考えてる。考えてる時点で、まともな理由も、納得できる理由も、共感できる理由もないんだろう)

 

(な――ッ)

 

(君も当時は19歳。まだ精神が未成熟の時だ。特に考えなしの行動をしても、バカなの?程度で済むけどさ、500年だよ?こんな長い時を、ただ鍛錬のためだけにつぎ込んで、自分のことはこれっぽっちも考えてなかったのかい?どんな脳筋だよ)

 

「――――」

 

(結局君は、その程度だったってことだ。もっと思考を働かせて、せめて彼女らを裏でサポートする謎の仮面戦士!みたいなフレーズの方が良かったんじゃないのかな?まぁ今更言ってもあとの祭りだけどさ)

 

 

 アナザーディケイドは言葉を続ける。もっと別の方法があったんじゃないかと。わざわざ敵を作って、バカにもほどがある。付き合ってたこちらの身にもなってくれと。ボロクソに言い続ける。

 零夜の心は、ほとんど折れていた。目の前で大事な仲間の死に、この追い打ちだ。いくら心が千年の間で強靭に育ったといえど、こればかりには慣れないし、慣れたくないものなのだ。

 

 

(俺は…ただ…)

 

(ただ、なに?)

 

(俺はただ…自由に。今度こそ、自由に生きてみたかった)

 

(――捻りだした答えがそれかい?誰でも思いつき、誰でも願う単純な願望だ。君の底が透けて視えるよ)

 

「――――」

 

『もうなにも言えないか…。ならそろそろ終わりのときだ』

 

 

 アナザーディケイド(あくま)がゆっくりと歩みを進める。ゆっくりと、ゆっくりと、悪魔が徒歩で零夜に近づいてくる。“死”が、迫ってくる。

 それでも、零夜は行動(うご)かない。もう、そんな気力なんて、残っていないから。

 

 アナザーディケイドが、零夜を見下せるところまで、目の前で立ち止まった。

 

 

『君たちとの時間…彼女たちとの時間。案外、楽しかったよ』

 

「さい、ごに、ひ、とつ…お前、はな、んで、俺につい、て、きた、んだ?」

 

(―――責任を取りたかったから、かな)

 

「せき、に、ん…?」

 

『話は終わりだ。じゃあね。零夜』

 

 

 エネルギーで右手に巨大な刃を創り、零夜の心臓を突き刺した。

 

 

「あ……」

 

 

 不思議と痛くなかった。当たり前か。体が痛すぎて、もうどこに傷ができても、いちいち反応できないほど、感覚が鈍っているのだから。死ぬのだから、当然か。

 刃が引き抜かれると同時に、零夜の体が前のめりに倒れる。アナザーディケイドが片膝を付いて、倒れ行く零夜の体を支えた。

 最後に、零夜の左耳に、ポツリと。

 

 

 

『我らが女神様への、謝罪は忘れないように』

 

 

 

(女神……って…)

 

 

 

 残り少ない意識の中、零夜が考えた、最後の思考だった。

 

 

――夜神零夜 死亡

――ルーミア 死亡

 

 

 

―――。

 

 

――――。

 

 

―――――。

 

 

 

 寝ている。起きない。二人が、起きない。血を出しながら、二人で眠ったかのように、死んだ。

 アナザーディケイド――シロは二人の死体を寝転がし、顔合わせの状態で置いた。

 

 

『生前、結ばれなかった君たちへ、僕ができる唯一の、おせっかい。是非受け取ってくれ』

 

 

 シロは立ち上がり、二人に背中を向けて歩き出す。

 途中で、一回止まって、振り返る。

 

 

『これからはもう、ただ静かに、死《ねむ》りたまえ』

 

 

 その言葉は、誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 




 主人公、ヒロイン、死亡しました。
 バットエンドって思う方も、これってIFの物語ですか?って思う方もいるかもしれませんが、安心してください。本編です。(いや安心できるかーい!)
 次回これどうなんの?って思う方もいるでしょう。次回の展開は、最後らへんにシロ口にした言葉で予想できますよ。

 今回は、零夜君がシロに痛いところ(核心)を突かれましたね。
 なんで“悪”になろうと思ったのか。それで本当によかったのかと。いろいろと考えられると思います。
 あなたは、どんな選択が正しいと思いますか?


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