summer pockets、紬・ヴェンダースの誕生日SSです。
それは、何度目かの夏。
三人で、もったいないくらいの夏を過ごしてから何度目かの夏。
今年もまた、夏は巡る。
巡って、巡るからこそ、必ず訪れる終わり。
8月31日。
それは、紛れもない夏の終わりだった。
しかし、同時に大切な日でもある。
そう、これはそんな日の、ちょっとしたお話。
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夏と言えど、夜が訪れれば暗くなる。当たり前のことだ。
そうして、時刻が七時を迎えたあたりで、俺は灯台に向かった。
明かりのある灯台の重たそうなドアを、コンコンと二度叩く。本当はこんなことをしなくても俺はこの灯台の中に入れる。しかし、今日はそうしない。
そうしないだけの理由が、ここにいる。
「ま、待ってください~!!」
声の主は、まだ用意が出来ていないのか中でドタバタと音を立てる。結局、出てきたのはノックから1分後だった。
「お待たせしました、ハイリさん」
「いや、いいさ。それより、紬...」
「?」
俺の主観的な話であるが、今日の紬の服装は気合が入っていた。特別どこかに行くわけでもないのに、まるで今日が大一番かのように用意をしている。
「いや、可愛いなって」
「はい! 紬さんはかわいいですから!」
胸に手を当てて、えっへんと言わんばかりに威張る。そのしぐさは、はじめて会った、始まりの夏から何も変わってなかった。
紬が帰ってきたのは、あの夏から一年後の夏。
ほんと、ふとした瞬間だった。
もう帰ってこないと言っておきながら、それでいて帰ってくるのだから、さすがに俺と静玖は文句の一つをこぼした。
しかしそれでも、結局三人は、泣いて笑って、ただ、ただいまとお帰りを口にした。
そうして、紬が帰ってきて、本格的に紬が島民としての暮らしが始まった。
俺も、それに乗っかるように、高校を卒業してすぐ、加藤家で暮らし始めた。
静玖は大学があるせいで、島で暮らすとまでは至らなかったが、それでも何度も島に足を運ぶ、いつもの夏休みに変わりはなかった。
そうして、輝く毎日。何かやりたいことを探しては、ただそれに本気になって取り組む。
俺たちは、毎年のように輝いた夏休みを過ごしていた。
...いや、夏休みだけじゃないか。
「ハイリさん?」
「え? ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。それじゃ、行こっか」
「はいっ!」
元気よく返事をする紬の手を取って、俺は紬と灯台の外に出た。
灯台の外は、いつかの日のように、無数のろうそくでライトアップなどされていなかった。ただ、俺が一人で用意した、一本分のろうそくだけが、小さな火を全力でともし、輝いていた。
その光に向かい、二人で手をつないで歩く。
いつかの日のように。
そんな中、紬はふと、途中で足を止めた。そして、口の中で言葉を何度か咀嚼して、紡ぎ紡ぎ言葉を吐き出す。
「ハイリさん、懐かしいですね」
「ああ、全くだ」
実は、数年たってこうして俺が紬を誘ったのは、あの夏ぶりだった。
実のところ、二人とも、あの夏のことを少し忘れかけている気がしたのだ。けれど、あの夏のこの日の事だけは、絶対に忘れたくなかった。
だからこうして、振り返るように手を取って。
「...なあ、紬。なんだかんだ言ってさ、結局、冬の灯台も、年通しての島も、見ることが出来たな」
「そですね」
「灯台前は雪積もって本当に入れなくなるし、おまけにベランダも作ってないし」
島だからと油断していたら、山間部に負けないほど雪が積もったのだから、さすがに驚くしかなかった。この島の恐ろしさを痛感したのもこの日である。
「うっ...材料がなかったんです」
「嘘つけ、その気になればみんなくれたぞ。後は...努力次第だな」
「反省です...」
紬はしゅんとする。俺はそれを横目に少し笑って、言葉をつづけた。
「のみきは攻撃力に0になったな」
「水が氷っちゃいましたからね」
無論、裸になる良一もいなかったのだが。
「しろはは...保護色だったか?」
「はい。時々存在感がなかったです」
笑って紬がそういうが、それはしろはがぼっちなところが少しあるからじゃ...と思ってしまったが、言ってしまったら誰も幸せにならないので言わないことにした。
「蒼は...ま、さすがに冬眠はしなかったか」
「そですね」
そうして、いつか紬が言った、冬の鳥白島を一つ一つ、夏である今に振り返った。
もちろん、その全てが叶った、当たったわけじゃない。
けれど、そうした景色の中に、紬は確かにいた。俺もいた。静玖もいた。
それだけで、よかった。
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一本だけしかないろうそくの灯が揺らめき、終わりを告げようとする。消えれば、どこか夏休みが終わる気がした。
だからこそ、俺は夏が終わる前に言わなければいけないことがある。けれどそれは、俺だけじゃない。
もう一人、ここにいなきゃいけない人がいる。
三人じゃないと、ダメなのだ。
そうして俺は、黙ってただ紬と消えかけの火を眺め続けた。
するとそのうち、遠くから近づいてくる足音が一つ。
俺はほっと一息を突き、「遅い」と文句を笑いながら飛ばした。
静玖はただ「ごめんね」と柔らかくつぶやいて、紬の真正面に立った。
『お誕生日、おめでとう』
あの時、俺が握っていたのは、熊のぬいぐるみ。俺の隣にも、静玖の真正面にも、紬はいなかった。
けれど今は、こうして静玖の目の前で、俺の隣で生きている。そのぬくもりは、確かにここにある。
だからこそ、伝える。あの日を思い出し、あの日から進むために。
「「紬、お誕生日おめでとう」」
「はい、ありがとうございます!」
紬は、心の底から嬉しそうに笑った。
というわけで、このような形で書かさせていただきます。
くっそ~...ルチア誕生日SS、絶対に頑張ってやるからな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。