【完結】ナギサシティ。絆のお話。   作:rairaibou(風)

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第十二話

 ジムの入り口から競技場までは回転床による複雑な仕掛けがある。普通に攻略を進めると最善手でも一時間はかかるとデンジは得意げに言っていた。何年もの間、彼が独自に改良を進めた結果だ。

 ロバートに先導され機能の止められた回転床を進む、手作りとは思えないほどにしっかりとしたそれを踏みしめる。

 この仕掛けはデンジと俺達凡人の間にある大きな溝なのだと思った。デンジと俺達の溝が大きくなればなるほどにこの仕掛けは複雑に、より時間がかかるようになる、それが今やたったの五分、もちろん俺とロバートに対する謝罪の意のほうが大きいだろう、だがそれ以外に意味もあるように感じてならなかった。

 回転床が終わった、目の前には扉がある、競技場へとつながる扉だ。

 

「この扉を開ける権利はあなたにしかない、私たちは観戦させてもらいますよ」

 

 ロバートはチマリを連れてその場を去った、俺は一人扉と向き合う。暑い訳ではないのに首筋を汗が伝う、瞬きの回数が多くなり、鳴りもしないのに指の関節を鳴らそうとしてしまう。いつもこうなるのだ、重要な戦いの前にはいつも緊張に押しつぶされそうになる、その度に自分が凡人であることを痛感させられる。扉を開けようとする手が震えていた。

 呼吸を整え、出来るだけ平然と振舞っているように装い扉を開けた。

 床が固められた土で出来ていること以外は体育館とほとんど変わらない競技場、二階の観客席にはロバートとチマリの姿が見えたが、それ以外のギャラリーは少なかった。天井は一部ガラス張りになっており、日が完全に落ちていることがわかる。

 デンジは競技場の中心にいた。レフリーだと思われるトレーナーと共に俺を待っている。

 デンジの表情は柔らかく、穏やかだった。

 

 

 

 

「昨日の話は忘れてくれ」

 

 競技場の中央、公式の審判員が俺達のボールに不正が無いかどうかチェックする。

 本来ならば両者に緊張と気まずさが流れる場であるが、デンジは気さくに話しかけてきた。

 

「センターでの話ですか?」

「そうだ。君の事はここに来る前から知っていた、ホウエンとジョウトのジムを立て続けに突破している男がいると。そして三ヶ月前に初めて君とあった時、僕は八年前のあの挑戦者と君が重なっているように見えた」

 

 少し言葉を切って、

 

「だから俺は期待したんだ。求めていた敗北、それは君がもたらしてくれるのではないかと。だがもう違う、もう俺には負ける理由は無い、今の俺にとってこの戦いは八年前のリベンジマッチであり絶対に負けたくない戦いなんだ、俺が絶対的な、強すぎるトレーナーだということを皆に証明してみせる」

 

 過大評価だと思った、八年前の、すでに伝説の領域に達しているトレーナーと同格に見られても困る。

 将来的に、鍛錬を積んだ結果にそのようなトレーナーになる自信はある、だがまだ今の俺はその境地には達していないだろう。

 

「あなたが俺の事をどれだけ評価しているかはどうでもいい事です。ですが、ですが俺はあなたに勝てると思っているからここに立っている」

 

 審判員が合計十二個のボールを簡易的に置かれた机に並べる、共に不正はなし。当たり前だ。

 お互いにここから三つづつボールを選び、それら全てが戦闘不能になるまで戦う。入れ替えはなし、シンプルだがお互いの力量が浮き彫りになる試合方法だ。

 十二個のボールの内のひとつが強烈な光を放っていた。俺、審判員、目の良い観客全てがそれに目を奪われている。

 先ほどから視界には入っていたが、目の前にするまで信じられなかった。

 マスターボール。俺達一般トレーナーは余程のことが無い限り手にすることが出来ず、もし仮に使用することになっても国の許可証が必要な特殊すぎるボール。

 通常ならばポケモンを保管するボールを入れ替えることは自由なのだがマスターボールはそれが認められていない。したがってこの様な試合形式の場合、真っ先に警戒されてしまう。

 最も、公式の、いや非公式の試合でもマスターボールに入っているポケモンを使うことなんて稀だ。

 そして、もしデンジがそれを使って居たのであればそれは必ず俺の耳に入っているはず、珍しい情報はとにかく早く、広範囲に広がる。

 

「十年ほど前に」

 

 俺達の視線に気づいたのだろう、デンジはそれを手に取り、

 

「国の依頼で使ったんだ、もちろん許可証もある」

「あなたがそれを使う、いや持っているなんて聞いたことが無い」

「そりゃぁそうだろうね、公式戦で使うのは今日が始めて、八年前にも使わなかったんだ」

「それは、光栄ですね」

「負け惜しみに聞こえるかもしれないが、彼を使えば八年前の戦いも勝てていただろう」

 

 デンジはそのままそのボールを腰にセットする、これ以上無い絶望感が降りかかった。

 

「何故使わなかったのですか」

 

 絶望を悟られたくなかった、バレバレであっただろうが。

 

「力に溺れるからさ」

 

 それは、デンジには似つかわしくない言葉だと思った。

 

「あなたほどのトレーナーが力におぼれるとは考えられない」

「俺じゃ無い」

 

 デンジが残り二つを手早く腰の装着する。

 

「ジムトレーナー達、彼らが努力をやめると思ったからだ。覚悟して欲しい、こいつにはそれほどの力がある」




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